収穫祭の魔女   作:れいてんし

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第25話 「悪魔の尖塔」

 服部さんと私で公園の案内図を見ながらゴミ拾いルートを考えていく。

 

「運営」とやらが何かを建設しているらしい運動広場を直接通るのは避けた方が良いだろう。

 いくらカメラを通した大衆の目という盾があったとしても、危険は避けるに越したことはない。

 

「まずは毎年掃除をやっている地元高校に通う彼の話を聞いてみよう」

「彼?」

「あそこで火箸をカチカチと鳴らしている彼だよ」

 

 そこには手入れしていないボサボサの髪を長く伸ばしただらしなさそうな男子高校生が一人立っていた。

 

 服部さんの言う通り、ゴミを拾うために用意した火箸を使い古して汚れた軍手で握り、パン屋で使うトングのようにカチカチと威嚇するように打ち鳴らしている。

 

 姿勢や目つきの悪さも相まって不良のようにも見えるが、よく考えたら、わざわざ休日に地元の奉仕活動に出てくる人は不良ではない。

 

「名前は杉坂(すぎさか)君。同じ地元高校からは6人が参加している」

「今日集まったのは11人。その中の6人が地元高校からなら、それ以外の参加者は私たちを含めて5人だけか。もう少し集まって欲しかったですけどね」

「受験前な上に連休初日だからな。夏休み中でもないので、出席率が低いのは仕方ない」

「でも、動画は結構見てくれているみたいですよ」

「それはありがたいな。誰も見ていなければ、盾としての効果に意味がなくなっていたところだ」

 

 スマホを確認すると、配信を20人ほどが見ているようだった。

 

 まだ活動は始まっていないが、アクションカメラを付けた辻橋(つじはし)さんの視点での公園の動画に対して、いくつか「いいね」マークが付いている。

 

 各学校の教師も活動内容をチェックするために見ているらしいとはいえ、高校生のゴミ拾い動画という地味な内容に20人は、まあ上出来だろう。

 もう少し人が集まってほしいところだが、贅沢は言えない。

 

 何しろ、この配信を見てくれている20人と、公園を散歩している一般人の目が私たちを敵から守ってくれるのだ。

 

 さすがに公衆の面前で何かを仕掛けてくるとは思えない。

 

 杉坂さんに聞くために近付いていくと、彼がペコリと頭を下げた。

 同じように礼をするが、杉坂さんの猫背でただでさえ低い頭は更に下にあった。

 

「運動広場で工事をやっているので、そこを避けてくれって話だったんだが、去年はどういうルートを通ったのか教えてほしいんだ」

「去年のは参考にならないっスよ。公園全部掃除するつもりで朝9時から日が暮れる18時近くまで頑張りましたけど、結局半分くらいしか回り切れなかったんで」

「そんなに時間がかかるのか?」

「意外と広いんスよ、この公園。欲張らずにゴミが多いエリアだけに絞った方が良いですよ」

 

 改めて案内図を見ると確かに広い。

 

 野球場、サッカー場、ラグビー場にテニスコートにプール。

 色々な施設が揃っているだけあって、うちの区にある公園とは根本的に広さが違う。

 

 山が大半のうちの区が勝つには、自然公園という名の山も公園の一部だと主張して足さないといけない。

 

 スポーツ施設はないものの、夏になればホタルも出てくるし、マンションの裏の山を狸がミャーミャー鳴きながら横切ったりするアトラクション要素ならある。

 

 勝ってどうするという話もある。

 自分で考えていて空しくなってきた。

 

「ゴミが多い場所は、やっぱり野球場やサッカー場あたりが多いのか?」

「そっちは意外とゴミがないんスよ。普段から利用しているチームが練習や試合後に球場の掃除をしているみたいで」

「そうなると、他は子供の利用が多そうな遊具広場の方か?」

「勘がいいっスね。あとはピクニック広場とそこまでの道の周りの茂み。去年は弁当ゴミや空のペットボトル、吸い殻なんかが沢山拾えましたよ」

 

 地図で確認すると、遊具広場とピクニック広場は公園の北側。

 途中に各種イベントにも使われる体育館がある。

 

 ここは運動広場より少し高い場所にあり、しかもイベント用に2階席が用意されている。

 2階部分に登れば、工事現場の中を覗けそうだ。

 

「ありがとう、参考になった。掃除はそういった場所を重点的に清掃していこう」

「じゃあルート決まったら教えてくださーい」

 

 杉坂さんが離れていったタイミングで服部さんとの打ち合わせを再開する。

 

「体育館まで行けば、私の持ってるビデオカメラのズーム機能で工事現場を撮影できると思います」

「間に木が沢山茂っているようだが、大丈夫だろうか?」

「ダメなら他の方法を試せばいいんですよ。失敗を恐れるなって友達も言ってたので。もちろん考えなしに突っ込むのはダメだと思いますけど」

 

 ビデオカメラは近くを撮ってもズームしてもカメラの外観は何も変わらない。

 傍からだと、普通に近くでゴミ掃除している様子を撮影しているようにしか見えないはずだ。

 

「だが、その動画をアップロードすれば、私たちが危険なことに変わりないのでは?」

「このビデオカメラは古い機種で、リアルタイムアップロード非対応なんですよ。だから、配信だけ見ている相手は何を撮ってるのかは気付けません。マズい部分だけは別の場所に上げます」

 

 一応準備は整った。後は実際に体育館に行ってみるだけだ。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 体育館の前を横切り、ピクニック広場まで到着した。

 

 ただ、体育館からは木が茂りすぎていて工事現場の方は見えなかった。

 

 体育館の2階席へ上がるための非常階段を登れば見えそうだったが、さすがに集団行動から離れてそんなことをすれば悪目立ちすぎる。

 

 さりげなく試す時間はなかった。

 

 もちろん、敵が私たちに何かを仕掛けてくる様子もない。

 こちらから何も見えないということは、敵からも何も見えない、お互い認識できていないということだ。

 

「それにしても、意外とゴミが多いな」

「缶とペットボトルが多いっスね。ゴミ袋の予備ってありますか?」

 

 杉坂さんが拾ってきた潰れたビールの空き缶は半ば土に埋まった状態だった。

 汚れや錆の状況からして、半年以上は埋まっていそうだった。

 

 用意したゴミ袋3つがあっという間にゴミの山に埋めつくされていく。

 

「持っては来ているが、適度に捨てに行かないと、後で大変になるぞ」

 

 服部さんが事前に準備した新しいビニール袋を渡しながら杉坂さんに答えた。

 

 ゴミの種類ごとに袋を分けているが、缶、ペットボトル、不燃ゴミの袋が既に満杯だ。

 適当なタイミングで捨てに行かないと、延々と大量のゴミ袋を持ち歩かないといけなくなる。

 

「大物ゴミが出たぞ!」

 

 突然、大きな声が聞こえたと思ったら、地元高校の男子生徒が藪の中から2人がかりで何か大きい物を運び出してきた。

 

 絡みついた枝や草を払いながら出てきたのは車輪や他のパーツがなくて、パイプだけになった自転車のヌケガラだった。

 

 原型を留めていないのでわかりにくいものの、元々は高価そうなロードバイクだったようだ。

 

「自転車の乗り捨てか?」

「高く売れる車輪や変速パーツなんかが丁寧に外されてるし、盗難車の残骸だよ」

 

 藪の中からヌケガラを運び出した男子の1人が丁寧に降ろしながら言った。

 

「木が雨除けになっていたからか、泥汚れも少ないし状態は悪くない。新しい部品を付ければすぐ直るかもしれない」

「修理より先に盗難車なら警察に通報だろ」

「それはそうだ。持ち主も困っているかもしれない」

 

 ヌケガラの状態を丁寧にチェックしていく。

 おそらく、自転車が趣味で、状態や修理方法が分かるような知識を持っているのだろう。

 

「でも、こんな残骸状態で持ち主なんて分かるのか?」

「フレームにはシリアルナンバーが刻印されてるから、防犯登録と付き合わせりゃ分かるだろ」

「ボロに対して随分と親切だな」

「ここに捨ててあるってことは、盗まれたのは近所に住んでる自転車仲間だろうからな。明日は我が身ってやつよ」

「情けは人のためならずってやつか」

「それだと俺がバイト代貯めて買った自転車も盗まれて部品だけ見つかるみたいだろ、やめてくれよ」

 

 自転車を運び出した2人がヌケガラを前にワイワイやり取りを始めた。

 ただ、この嵩張るヌケガラを放置したまま掃除を続けるわけにはいかない。

 

「どうします?」

「どうしますも何も、彼の言った通りだ。公園の管理事務所へ届けた上で警察に通報するしかない。事務所に行くついでだ。溜まってきたゴミも、一度集積所へ捨てに行こう」

 

 服部さんが頭上で手を叩いて掃除中のメンバーを集め始めた。

 全員が藪の中から見つかった珍品に興味津々だ。

 

「こいつは、そこの自転車に詳しそうな君と私の2人で運ぼうと思う」

「そりゃ助かる。いくら軽量のフレームとはいえ、こいつを抱えて管理事務所まで歩くのは辛い」

「ついでに溜まったゴミを一度捨てに行くので2人ほど手伝って欲しい。それとカメラ係が1人。活動報告の動画素材にするから、自転車を運ぶのと警察に通報する場面をカメラで撮影してほしい」

 

 服部さんが手際良くゴミ袋や自転車を運ぶ係を決めていくと同時に私に目配せをした。

 

 カメラで撮影しろ……つまり、ゴミを捨てに行く場面を撮るフリで体育館の非常階段を登ったところから撮影しろということだ。

 

「活動報告ってSNSのやつ?」

「それだ。せっかくの美味しいハプニングイベントだから、動画素材として撮っておきたい」

「じゃあ、私がカメラ係?」

 

 アクションカメラを付けた辻橋さんが服部さんに尋ねた。

 

「よろしく頼む。あと『ついでに』柿原さんも、そこの不燃ゴミが入った袋を運ぶついでに、その手に持ったビデオカメラで別アングルの撮影をしてほしい。6人でゴミ集積所に向かう」

「カメラ係は私一人で大丈夫じゃないですか?」

「そっちの不燃ゴミを運びたいのと、画質はそっちのビデオカメラの方が綺麗だからだよ。活動報告を出すのも仕事の一部なので、分かってほしい」

「そういうことなら。じゃあ、カメラ係は2人ってことで」

 

 辻橋さんが握手を求めてきたのでそれに応じる。

 

 手にゴミを持たずにカメラで撮っているだけならば、何もせずに手柄だけ取っていくやつと揶揄されるかもしれないが、ゴミが入った袋を運んでいけば、何も言わないだろう。

 

「残り5人はここで掃除を続けていて欲しい。とはいっても、粗方は片付いたので、それほど時間がかからないだろうし、適当に休憩をとっていてくれないか? あとで配る予定だったジュースはそこのナップサックに入っている」

 

 適当に休憩という言葉を聞いた残り5人から快哉が飛んだ。

 早速、服部さんが運んできた袋の中から缶ジュースを各々取り出し始めている。

 

「また大物ゴミが出たらどうします?」

「出て欲しくないなぁ」

 

 服部さんからもさすがに本音が出てきた。

 今回は軽い自転車だったので運べるが、ここで重い冷蔵庫やテレビなどが出てきたら手に負えない。

 

「じゃあここ、フレームのシリアルナンバーを映してくれ。その次に全体が映るように。このロゴも映るように。学割利くアンカーだからオーナーも多分高校生だと思うけど」

 

 自転車好きの男子が指さす方へビデオカメラを向けた。

 言われる通りにまずはシリアルナンバー。そしてロゴ、続いて自転車全体を撮影する。

 

 自転車だと分かってから改めて見ると、私が乗っているママチャリとは全く別物だ。

 恵太や小森はクロスバイクを持っているけど、それともまた形が違う。

 

「アンカーってどこの国のメーカー? スマホの充電器と関係ある? ロイヤルかコーナンで売ってる?」

「ブリヂストンで日本メーカーで台湾製。ホムセンじゃ多分売ってない」

「タイヤ屋のブリジストン? なんで会社の名前をそのまま使わないの? 友達の自転車にはそのままハマーと書いてあるけど」

「……まあとにかく、ブリヂストンの自転車なんだよ」

 

 なるほど。

 たまたま私が知らないだけで、自転車の世界は奥深いものなんだろう。

 

 このヌケガラもちゃんと直れば、きっと速いに違いない。

 無事に元の持ち主のところに戻ると信じよう。

 

   ◆ ◆ ◆

 

「じゃあ、私はそこの非常階段の上から撮るので、自転車を運んで行ってください」

「そして柿原さんが階段を登っていくところを私が撮ると」

「後で動画にする時の素材にするのでお願いします」

 

 辻橋さんに声をかけた上で体育館横にある非常階段を登っていく。

 

 幅も狭く段差も段数も結構ある上に金属製で滑りやすいので、一段一段確実にトントンと歩みを進める。

 

 2階踊り場に着いたところで右手で手すりを掴んだ状態で半回転。

 左手に構えたビデオカメラをさりげなく工事現場の方へ向けて……そこから見えた光景に思わず息を飲んだ。

 

「安全第一」と書かれた壁の向こうに立っていたのは、何か異様な彫刻が彫り込まれた真っ白い石の塔だった。

 

 まっすぐ立っているはずが、彫刻のせいで歪んで曲がりくねっているようにも見える。

 その頂点部分には薄くて丸い皿のようなものが何枚も付いていて、それが微妙に振動して、紫色のもやのようなものを放出している。

 

 皿ではない。

 あれはサンゴのような動物とも植物とも区別がつかない「生物」の口だ。

 

 振動ではなく、呼吸によって紫色の何かを吐き出しているのだ。

 

 その「生物」の先端に付いている「眼」が私の方を視た。

 

 その視線は(いびつ)でありながら、まるで光線のように強烈で、目が合っただけで心の中にある全てを吸い尽くされて空っぽにされるようだ——

 

「——柿原さん、大丈夫?」

 

 ふと気づくと、目の前に辻橋さんの顔があった。

 

「大丈夫って何が?」

「階段を登り切ったところで急にフラフラして、そのまま落ちそうになったから」

「えっ?」

 

 踊り場から工事現場の方を見ると、まだ生物の眼が見えたので慌てて目を背けた。

 吐き気が込み上げてきたので口を手で押さえる。

 

 なんとなく理解できた。

 あれ(・・)は人間が見てはいけない。

 理解してもいけないものだ。

 

 せいぜいアンテナが一本立っているくらいのものとしか思っていなかった。

 上戸さんや探偵もその認識だっただろう。

 

 まさか、ここまでのものが町の真ん中の公園に作られているとは思わなかった。

 

 そして不思議なことに、辻橋さんにはその塔が見えないようだ。

 

 手に持ったままのビデオカメラの液晶画面を見ると、そちらにはどこにでもあるような鉄のポールが一本立っているだけ。

 

 あれ(・・)が見えるのは、魔力を持った一部の人間だけ。

 魔力を持たない人や機械にはその正体は見えない。

 

 だから、カメラで証拠は掴めない。

 

「敵」がこんな利用者の多い公園に堂々と設備を作って、調査をしようとした私たちに対して何もしなかったはずだ。

 普通の人間は見ることすらできないし、もし見えてしまう人間がいても今の私のようになるからだ。

 

「大丈夫、階段を急に登ったせいで貧血になったみたいだから」

「すまない、私のミスだ。早く下に降りよう」

 

 気が付くと下の方で自転車を運んでいたはずの服部さんもやってきていた。

 

 ただ、私に手を伸ばしてる顔は真っ青だ。

 よく見ると全身が小刻みに震えている。

 

 彼もあれ(・・)が見えるし、その恐怖を感じているようだ。

 

 だけど、その恐怖に負けるまいと階段を駆け上って、私を助けに来てくれた。

 少し頼りないと思っていた人だけど、見直した。

 

「服部さんも大丈夫ですか? 顔色が悪いですよ」

「自転車を運んで疲れたところで階段を駆け上がったから膝に来ただけだ。問題ない」

「それ最高にカッコ悪いですよ。カノジョにいいところ見せたいと思って来たんでしょうけど」

「カノジョではない……柿原さんには他に想う人がいるみたいだから」

 

 ただ、からかう辻橋さんも、私と服部さん、どちらも体調不良だけではない何かが起こっていると気づいたようだった。

 

 彼女の目には何も見えないようだが、それでもあれ(・・)の視線を無意識に感じているのか、違和感があるようだ。

 その正体を確かめようと落ち着きなくキョロキョロと首を振って見回している。

 

 ダメだ。あれ(・・)に対して注意を惹きすぎている。

 帽子につけたカメラであれ(・・)を撮影しようとしているようにしか見えないのもなお悪い。

 

「やめてくださいよ、もう降りますよ」

「そうだな、降りよう」

 

 3人でよろめきながらも不安定な非常階段を降りていく。

 

 急いで降りると足を踏み外して転落してしまうかもしれない。

 そうなれば、一番下まで真っ逆さまだろう。

 

 だけど、急いでここから逃げ出さないとあれ(・・)が何をしてくるかわからない。

 

 一段一段、丁寧に、しかし最速で歩みを進めていくうちに、木の茂みが私たちの姿を隠してくれたおかげか、あれ(・・)の気配はなくなった。

 視界から消えたことで、締め付けられるような頭痛と吐き気が嘘のように引いていく。

 

 体調が戻ってきたのを確認し、残りの階段を一気に駆け降りて地面に足をつけた。

 

 だが、安堵する間もなかった。

 工事現場の方から、ガサリ、ガサリ、と草木を無理やり踏み荒らすような音が聞こえてきた。

 

 風や人の音ではない。

 明らかに質量を持った「何か」が、こちらへ向かってきている。

 

「2人とも大丈夫?」

「ああ。少し休憩したらすぐに行くから、辻橋さんは構わず先に行ってくれ」

「でもカメラが」

「大丈夫だ。すぐ追いつく」

 

 服部さんはそう言って辻橋さんへゴミ捨てに戻るよう促した。

 彼女は少し戸惑っていたものの、服部さんの迫力に押されたのか、小走りで元のルートに戻っていった。

 

「さて、2人とも戦力なんてないわけだが、あの音は味方と思うかい?」

「全然。どう聞いても、お礼参りに来たヤバい連中の足音ですよ」

 

 不気味な音が近付く音は更に大きくなっている。

 

 スマホを見ると、配信に大きな影響はないようだ。

 

 私たちのことよりも、見つかった謎の自転車フレームに興味が移っている。

 視聴者は30人に増えていた。

 画面の向こうの彼らは、私たちの背後に迫る危機には気づいておらず、自転車の所持者についての推理が飛び交っていた。

 

「辻橋さんのカメラの盾がいた方が良かったと思うかい?」

「いえ、何も関係ない辻橋さんを危険に巻き込むわけにはいかない」

 

 周りを見回すと、体育館の壁にあちこち凹んだ金属バットが立てかけられていた。

 誰かの忘れ物だろうか? それともこれはゴミ寄りだろうか?

 

 武器と呼ぶにはあまりに頼りないが、何もないよりはマシだろう。

 

 大事なカメラが破損しないように鞄に入れて、バットを構える。

 

 服部さんは右手を頭上に挙げて「来い!」と何かに呼び掛けていた。

 おそらく使い魔を喚び出そうとしているのだろうが、その能力はもう封印されている。

 

 私に至っては使い魔と呼ぶべき存在は元の世界に戻っていった。

 元々の使い魔も別にいたらしいが、そちらは倒されたのだろう。

 

 今更、都合良く出てきてくれたりはしない。

 

 この状況で助けてくれる超能力のようなものはもうない。

 

「上戸さんを追い返すんじゃなかった」

「何か手はないかね?」

「方法は3つ。1は上戸さんか小森が危機を察知してヒーローみたいに現れる。選びたいのはこれだけど、2人も来ないことは分かってる」

 

 小森は受検勉強中。

 上戸さんは追い返した。

 

 他に頼れそうなのは赤土さんや片倉さんだけど、横浜どころか関東圏にすらいないので、たまたま通りかかることもない。

 

「3は諦めるだけど、それは選びたくない。2の選択肢で行きましょう」

「2というのは?」

「人通りの多い国道まで逃げる。車がバンバン通る国道で襲っては来ないでしょう」

「なら決まりだ」

 

 謎の敵からなんとか逃げ出す。

 

 私たちでやると言ったのだから、この問題は私たちで解決する。

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