収穫祭の魔女   作:れいてんし

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第29話 「殴り込み空」

「リーダーの推奨ルートをお願いします」

「少し遠回りになるけど、首都高跡は避けて明治通りを通って六本木まで出る。道幅も広くて歩きやすい上に……敵……が近寄ってくる前に気付きやすいので奇襲を受けにくい」

 

 端島から「敵」という言葉が出てくるまで若干のラグがあった。

 

 やはり、裏東京を徘徊している異形は元人間であると説明したのが影響しているようだ。

 

 俺のそんな視線に気付いたのか、端島は顔を逸らして愚痴るように呟いた。

 

「悪いことをしたとは思ってない。俺たちはモンスターを倒しただけだ」

「その認識で大丈夫です。敵は人間の遺体を弄んでいるだけの冒涜的な存在です」

「……本当に余計な話を聞かされたもんだ。やりにくくて仕方ない」

 

 実際にその通りだ。

 

 頭で理解していても、決して気分が良いものでもないし、割り切れと言われても難しいものがある。

 

 それでも、この事態を解決するために戦うと誓ったからには、飲み込まないといけない。

 

「ルートについては私は異議なしです」

「同じく異議なーし!」

「もちろん私も異議なしです。全会一致ですね」

 

 梨本、合田からも賛成の意見が出た。

 

 数日とはいえ、裏東京に一番詳しいのはこの3人なので、俺はむしろ意見を聞く側だ。

 異論など出るわけもない。

 

「それで、戦闘の訓練って何をすればいいんだ?」

「端島さんの3つのスキルは、剣の威力強化、ドラゴンの強化、ドラゴンの召喚ですよね」

「その通りだけど、それが何か?」

「第2スキルをドラゴンの強化ではなく、剣の威力強化に使えないですか?」

「えっ?」

 

 端島の驚いた顔を見れば分かる。

 やはり能力の応用については試しもしていなかったようだ。

 

「能力の使い方は私が調べましたが、端島さんの第2スキルの効果は第3スキル専用の強化みたいなんですけど」

 

 合田がそう説明したことで、能力について詳しく調べなかった理由の1つが分かった。

 分析能力は確かに便利ではあるが、逆にそれを過信しすぎて、その能力で分かる以上の内容の追求をしなかった。

 

 更に、早々と安全地帯を確保して引きこもったことで、仲間と会わなかったことも理由だろう。

 安全の確保をしたのは良いが、引き換えに、他者との情報交換の機会を失ってしまったのは痛い。

 

 俺たちがハセベさんに早い段階で会って意見交換ができたこととは対照的だ。

 

「では、合田さんの分析能力で私のスキルについても調べてみてください。どんな結果が出ますか?」

 

 納得いかない様子の合田が俺に向けて分析能力を使用した。

 

 何らかの分析結果が出たようではあるが、その表情が固い。

 

「使い魔の召喚、クッキーの召喚、レーザーの3つ……あの熱線のことも、盾や魔法陣のことも出てこないし、一部の表示が文字化けして読めないんですけど」

「ならば、これはどう見えますか?」

 

 使い魔を召喚し、三角形に並べた3羽の間に発生する力場……(シールド)を形成する。

 更に盾の能力を解除。使い魔を昇華させて増幅魔法陣に作り変える。

 その魔法陣を解除すると、後には何も残らない。

 

「バリアと魔法陣……最初には出なかったスキルが追加で出てきた……」

「私たちのスキルは、使用者のイメージで応用が利くんです。2つの能力を組み合わせるとか、解釈の幅を広げて、スキルの本来の機能と別のことをさせるとか」

「2つのスキルを組み合わせる……か」

 

 端島もまだ納得していない様子ながらも、剣を正眼に構えた。

 

 その剣に青白い光が灯る。第1の能力である剣の威力強化だ。

 更に光球が2つ浮かび上がり、剣の周りを回転し始める。

 本来はドラゴンの強化にしか使えないはずの第2の能力。

 

「できたけど……ここからどうなるんだ……ってうわっ!」

 

 光球の1つが弾けたと同時に端島が突然に剣の端を両手で掴んだポーズのまま、その場でグルグルと高速回転を始めた。

 

 回転する度に強い風が吹き抜け、ゴウと空気が震えて唸る。

 

「どういう状況!?」

「って、止め方教えてくれ! 少し剣を振ったら勢いが付きすぎて止まらないんだ!」

 

 端島の動きをじっくりと観察すると、剣が動くのと反対方向の空気が微妙にではあるが、(ひず)んでいる。

 

 どうやら、剣の峰部分から風が吹き出して加速するような効果を発揮しているのだろう。

 

「第2の能力はあらゆる物に追い風を吹かせて加速させる効果です。風を制御できるのは当然だと思ってください」

「思ってくださいって……」

「端島クン、何か漫画やアニメで剣に風をまとったキャラの動きを思い浮かべてみて」

 

 直感型の梨本から分かりやすいんだか分かりにくいんだか微妙なアドバイスが飛んだ。

 

 だが、何かビジュアルイメージがある方が理解しやすいのは事実だろう。

 

「風使い? 全然わからん」

「この際、風の能力じゃなくてもいいや。なんでもいいから剣から何かを吹き出すイメージで」

「わからんけど、こういうことか?」

 

 端島は素早く剣を右上から斜め方向に振り下ろし、振りかぶって今度は左上から右下へ振り下ろしたところで動きを止めた。

 

 相変わらず剣の周りを旋風のような風が舞うと共に光球が1つ回転しているが、もう剣の動きに体が振り回されることはないようだ。

 

「行ける……扱いは難しいが、使いこなせば、ドラゴンを喚び出せない狭い場所でも戦えそうだ」

 

 端島が剣を振りかざすと、まとわりついていた風と光球が消えた。

 剣を鞘に収めて、汗を拭った。

 

「コツは掴んだ。今日中には物にしてみせる」

「続いて梨本さんと合田さんですが」

「わたしは能力を2つ合わせて使うだけなら、もうできてるから大丈夫。でも、合田チャンは」

「私は強化、分析とレーザーで全然被ってないですからね。どう鍛えたら良いものやら」

 

 梨本のスキルは攻撃強化、脚力強化、自己回復の3種。

 脚力強化は移動速度アップだけでなく、キック力強化にも使える。

 

 攻撃強化と組み合わせて蹴りの威力を上げる、という発想や感覚派なところも、エリちゃんと同じパターンだ。

 理屈で説明するより感覚で使い分けを覚えてもらえばいいだろう。

 

 問題は、本人の言う通り、スキルの効果が単体で完結しているだけ、他に応用が利かなさそうな合田だ。

 

「合田さんの場合ですけど……これできますか?」

 

 見せるのは俺の第3スキルの極光……熱と衝撃を伴ったレーザー光線。

 その放出をしながら、少しずつ持続時間と効果範囲を収束させていき、最後は一気に爆発させる。

 

 持続時間と範囲を引き換えにした分だけ威力は上がるものの、命中率は確実に下がるので使い勝手は悪くなる。

 更に、再使用するには3分待たないといけないことは変わらないので、即強化というわけではないが、状況によって使い分けができれば戦術の幅は広がるだろう。

 

 俺の実例を見た合田が早くも瓦礫に杖を向け、その先端から赤色のレーザーを放つ。

 

 もちろん一発目からうまく行かないようだ。

 既存のスキルの効果通りに、直線のレーザー光が放たれているだけだ。

 

「何かコツみたいなのはあります?」

 

 レーザーの照射時間は意外と長いようで、瓦礫を赤熱させながら視線だけを俺に向けて質問してきた。

 

「ホースで水を撒く時に、先端を指で潰すと水の勢いが強くなると思います。それをイメージしてください」

「水撒き用のホースにはノズルが付いているのでは?」

「えっ……ああ、そうですね」

 

 生活環境が異なれば、ノズルが付いていないホースを触る機会がないだろう。

 ホースの先を指で潰すという経験がなければ、当然イメージも出来ないのは仕方ない。

 

「ただ、言いたいことは分かります。ストレートとシャワーヘッドの違いですね。先のアタッチメントで効果が変わる」

「……うん? うん!?」

 

 流石にそれは何かが違う。

 ホースという出口ではなく、その先端に何か別のものを付けて制御しているのだから。

 

「つまりこう!」

 

 合田が持った杖の先から放たれていたレーザー光線が突然に数十本の光の線に分かれて、広範囲に照射された。

 しかもレーザー光線……光であるはずなのに、ある程度の距離を進んだところで水のように放物線を描いて地面に落ちる。

 

 そうはならんやろ。

 

 むしろ、どうやって光をレンズもなしに曲げているのか?

 使われている技術が高度すぎて全く原理がわからない。

 

 ……いや、原理は分かる。

 合田のイメージ通りにスキルの性能が変化したのだ。

 

「精密射撃と広範囲攻撃。まだ最初ですけど、これは使い分けができれば便利そうです」

「やはり天才か」

 

 端島も合田も少しヒントを与えただけで、いきなりスキルの応用をマスターしつつある。

 これはもうずっと後方腕組み状態で楽できるのでは?

 

 そう思いながら、明治通り経由で東京タワー方面へ歩みを進めた。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 明治通りを進み、麻布に差し掛かったあたりで、先頭を歩いていた端島が突然に進路を変えた。

 

 建物の間を抜けて細い路地へと入っていく。

 

「この先は首都高と合流してるんだが、そこが瓦礫だらけで歩きにくいんだよ。裏を抜けた方が進みやすい」

 

 東京の地理はいまいち知らないのでスマホの地図に目線を移す。

 

 もちろん、GPSは捕捉出来ず現在位置は不明。

 

 多くの建物が崩れて瓦礫で道が変わっている裏東京の正確な地図にはなりえないが、それでもだいたいの進路は分かる。

 

「仙台坂というところまで行きますか?」

「当たり。そこから東方向、日向坂、綱の手引坂を越えて芝公園に入る。公園内を少し歩けば東京タワーだ」

 

 地図をみる限りは江戸時代からある古い道のようだ。

 昔は文字通り仙台の藩邸が有ったとかそういうことなのだろう。

 

 同じ理屈でその先の坂も日向の国、今の宮崎県藩邸が有ったのだろうか?

 

 麻布の丘の上からそのまま港区の海へ向かって下っていく道だ。

 

 道幅は意外に広く、確かに歩きやすい道だというのも分かる。

 

 静まり返った廃墟の町を歩く。

 

 他の地域では、どこからか何かの鳴き声や何かが動く音などが聞こえてきたが、麻布に入ったあたりからは不気味なほどに何も聞こえてこない。

 

 俺たちの足音が反響するくらい静かなのが不気味だ。

 

「流石におかしいな? 一度痛い目に合わせたら、ザコは次から警戒して近寄ってこないということはあるが」

 

 端島が周囲に立つ廃ビルを見回しながら首を捻った。

 

「町の中に敵が全然いません。隠れているだけなら、どこかから様子を見ていたり、音がするはずです」

 

 合田も妙だと感じたのか、スキルを使いながら視線を巡らせた。

 

「いくらなんでも静かすぎませんか?」

「俺たちの計画が漏れてるって話だ。ここらの戦力は軒並み東京タワーに回されているのかもな」

 

 どこか既視感のある会話から「次回は17時から放映します」というテロップが紫色の空に浮かんで見えた気がした。

 

「まっ、そんなの関係ないですけどね。タカキも頑張ってたし、俺も頑張らないと」

「タカキって誰だ?」

 

 そこでネタにマジレスされても困る。

 

「ここから東京タワーまでは使い魔の射程内なので、一度偵察を出します」

 

 鳥の使い魔を喚び出して、2羽にそれぞれモバイルバッテリーで動作するWi-fi中継器を持たせて飛び立たせた。

 

 Wi-fiの電波は遮蔽物がなければ500メートル弱なら届くはずだ。

 2基を適度な距離に配置すれば、1キロ弱は中継でカバーできる。

 

 更にアクションカメラを持たせた3羽目を放つ。

 

 アクションカメラは1キロほど電波を飛ばしてスマホにリアルタイムの映像を表示させることが出来る。

 

 中継器と組み合わせることで、たとえ携帯の電波が届かない地域でも、使い魔の射程距離の限界である2キロまでの映像を複数人で共有出来る。

 

 横浜の異空間は常に深い霧に包まれていたので、カメラが全く役に立たなかった。

 だが、この裏東京ではそのような制限はない。

 電波問題さえ解決できれば、ある程度は現代文明の恩恵をあずかれるということだ。

 

 鞄からタブレット端末を取り出してアプリを起動すると、早速アクションカメラで撮影されたリアルタイムの映像が中継されてきた。

 

 適当な瓦礫の上に石を積み上げてスタンドを作り、4人で観られるようにする。

 

「映像がちょっとカクカクしてるな」

「中継器が家庭用で性能が足りないんですよ。ちゃんとやるなら発電機を持ち込んで、もっと高性能の中継アンテナを立てないとダメですね」

 

 それでもタブレット端末の電波を拾いやすい向きを見つけて調整すると、少しはマシになった。

 

「じゃあなんで発電機を使わないんだ?」

「発電機も、それを動かすためのガソリンも重くて運ぶのが大変なんですよ」

 

 理由を説明すると納得してもらえたようだ。

 

 それに、遅延により映像が若干カクカクしたとしても特に支障はない。

 見たいのは丁寧に編集された映像作品ではなく、リアルタイムの偵察映像なのだから。

 

 東京タワー周辺に潜伏しているであろう敵に見つからないように。

 そして、映像の遅延のせいであまり早く動かすと見づらい。

 

 2つの理由から、使い魔をゆっくりと、かつ慎重に物陰に姿を隠しながら距離を詰めていく。

 

 数分後、アプリのモニタ画面に芝公園の向こうにある広場、巨大な鉄塔の麓の映像が映し出された。

 

 使い魔が潜んでいる位置から広場までは400メートルの距離。

 もう少し近づきたいところだが、芝公園内には身を隠せる遮蔽物がない。

 

 ここから距離を詰めるのは難しいだろう。

 アクションカメラにズーム機能はない。

 

 少々見づらいが、雰囲気だけでも掴めた。

 それだけでも良しとしよう。

 

 広場には、いくつもの白い塊が規則正しく並んでいるのが見える。

 数は多く、50は下らない。

 

 更に、その一番奥には、椅子に座った人物が見える。

 状況からして、司令官ポジションだろうか?

 

「多いな。このカメラはもっと拡大できないのか?」

「これが限界です。代わりに使い魔の眼で確認します。もちろん、カメラとは無関係なのでこのタブレットには映せませんが」

「詳細な情報を知っておきたい。頼む」

 

 頼まれた通り、カメラでは撮影しきれなかった白い塊と人物の詳細を使い魔の眼でチェックする。

 そうやって「視えた」内容は端島たちにも分かるように実況する。

 

 まず白い塊。

 これは両腕が剣のような形状に変化した人型の異形だ。

 

 頭部にあたる部分には巨大な眼が1つで鼻も口もなし。

 

 全身は不健康な青白い肌で覆われており、防具はもちろん、衣服の類も着用していない。

 

 極端な猫背で丸まったような体勢で待機している。

 動き出したら背筋を伸ばすのか、そのまま向かってくるのかは不明。

 

 奥の「能力者」、もしくは見えない場所にいる別の人物に命令を受けて待機しているのだろう。

 

 整然と並んでいるので数のカウントはやりやすい。ぴったり60体だ。

 

「能力者」は10代後半の少女。

 金髪に魔法使いのようなローブ。魔法使い系の能力の可能性が高い。

 

 椅子の肘掛けに片肘をつき、そこに置かれている黒い箱のようなもの……無線機か? に向かって何やら呟いているようだが、さすがにその会話の内容までは分からない。

 

 暇を持て余しているのか、表情はかなり怠そうに見える。

 

「どんな感じですか?」

 

 合田から質問された。

 

 誰かにここを見張れと命じられたはいいものの、誰も来ないので退屈しており、無線機の通信相手に愚痴っているというところだろう。

 

 使い魔の視覚から把握出来た情報は以上だ。

 

「以上です。では、作戦を立てましょう」

「俺のドラゴンで正面から突撃! そして粉砕!」

 

 端島が言うと同時に、梨本が両手の握り拳を端島のこめかみに当ててぐりぐりとねじり始めた。

 

「端島クンはもっとリーダーの自覚を」

「いててて」

「梨本さん、GJ(グッジョブ)です。反省がないみたいなので、そのまま締め上げて」

 

 合田は梨本に答えると、何事もなかったかのようにタブレットの映像に目を戻した。

 

「小学校の頃に東京タワーへ遠足に行った時は、地下鉄でどこかの駅まで行って歩きました。駅からすぐ着いた記憶だったんですけど、もしかして地下から行けないですか?」

 

 合田が尋ねてきたが、俺に東京の地理の話をしてはいけない。

 

 スマホで地図アプリを開いて距離を確認する。

 

「地下鉄だと日比谷線、神谷町が最寄り駅ですけど、そこから500メートルほどありますね。芝公園を真っ直ぐ抜けた方がマシです」

「そんなにありましたっけ?」

 

 実際に地図を見て確認してもらった方が早そうなのでスマホを渡すと「まあ、小学生の頃の記憶なので」と納得してくれた。

 

「地下鉄の線路で、一番タワーに近いのは、途中の飯倉交差点ってところにあるカーブですけど、ここから地上への入り口を作れませんか?」

「どれどれ?」

 

 スマホの地図で確認すると、地上には大きな交差点があり、地下鉄の方もその道に合わせてほぼ90度大きくカーブしている。

 

 ここに地上への入り口を作ればタワーまでは300メートル。

 一気に近づけるが、それには問題がある。

 

「地下から地上へ穴を開けるのは落盤による生き埋めが怖いですし、ド派手に地下から空の彼方までビームが飛ぶので、そこから出てくるってバレバレになりますよ」

「ダメですか」

 

 目の付け所は悪くなかったが、さすがに作戦に無理がある。

 そもそも、俺の能力に頼り切りなところがダメだ。

 

 今回は端島たちの訓練も兼ねているのだから、自分たちだけで作戦を考えてほしい。

 

「今の合田の作戦はヒントになったぞ。俺の新しい作戦を聞いてくれ」

 

 ようやく梨本から解放された端島が頭を押さえながら言った。

 

「お願いします」

「ドラゴンで真正面から突撃」

 

 ダメだこいつ。早く何とかしないと。

 

 合田、梨本も同じことを思ったようで、握り拳を作りながら近付いていこうとしたところ、端島が慌てて手を大きく振って止めた。

 

「違う、聞いてくれ。正面は正面でも、さっきの合田の作戦みたいに縦軸をずらすって話だ」

「縦軸?」

「そう、地上の戦力なんて相手にしない。空から攻める」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 召喚系能力を持つ船木小百合(ふなきさゆり)が任されたのは、襲撃者から塔の入り口を護るという任務だった。

 

 悪魔のような黒幕に騙された連中が、世界再生の邪魔をするために攻めてくる。

 その襲撃を食い止め、侵入者を捕縛することが命令内容。

 

 逢坂(おうさか)が事前に入手した情報の通りならば、朝の10時から昼までの間に攻めてくるという話だったが、時間は11時30分を過ぎた。

 

 あまりに暇だが、いつ襲撃が来るか分からないので、寝るわけにもいかない。

 

 塔の上層階にいる仲間に10分間隔で定期的に世間話をしたり、愚痴をこぼしていたが、10時30分を過ぎたあたりで、通信機の電源を切られたのか、ついに何の返信もなくなった。

 

「ただでさえ、黒幕に簡単に騙される頭の悪さなのに、約束の時間も護れないいい加減さってどういうこと!? そんなに人に迷惑をかけるのが好き!?」

 

 大声で喚きたてるも、誰も聞いていない。

 

 眼前に並んでいる異形の野良モンスターも一切何の反応も示さない。

 

 船木の能力はモンスターの創造、召喚、そして制御だ。

 野良を含むモンスターに対して強制的に命令を与え、自由に操ることが出来る。

 

 ただし、モンスターの知能、数、命令の複雑さ。

 これらについてコストが設定されており、総コストの範囲内でしかモンスターを操ることは出来ない。

 

 複雑な命令を与えるには、数や知能に制限がかかる。

 知能が高く自主的に動くモンスターには数や命令内容が極端に制限される。

 

 今回操った野良モンスターである人型の異形に対しては、数を優先させた。

 

 60匹という数を制御するために、知能を基本スペック以上に落とし、命令もシンプルなもの3つに抑えた。

「目標に攻撃しろ」「止まれ」「並べ」

 

 命令は30秒に1度変更できる。

 

 船木のこの能力がある限り、この異空間で仲間が野良モンスターに襲われることはない。

 云わば作戦の要。重要人物だ。

 

 船木自身も、自分の能力に自信を持っていた。

 組織は自分がいるからこそ成り立っていると。

 

 なのに、本日与えられた任務は来るか来ないかわからない相手に対しての門番だ。

 不本意と言わざるを得ない。

 

「もう昼だし、おなか減ったし帰ろうかな。今日はもう来ないでしょ」

 

 椅子から立ち上がり、塔の中へ戻ろうとした時、何か巨大な影が近づいてくるのが見えた。

 

 100メートルくらいの高さで巨大な昆虫のようなものが飛翔し、塔へと近付いてきている。

 

「空から? 襲撃者に飛行能力が!?」

 

 だが、それも想定内だ。

 

 船木の能力ならば、他人が召喚したモンスターの指揮権を強制的に奪うことも可能。

 

 船木は爬虫類のような形状の頭を持つ虫に向かって能力を使おうとして……出来ないことに気づいた。

 敵の指揮権を奪うことは出来ない。

 

 もしも能力を使えば、その瞬間、人型の異形に使用している制御が解除されて、船木は60匹の野良モンスターに襲われることになる。

 

「止められないなら、塔の中で迎え撃つまで! お前たち、エレベーターに乗りなさい!」

 

 船木の命令で60匹の人型の異形が「一斉に」塔のエレベーターホールに押し掛ける。

 

「ちょ、待ちなさい! 順番! そんな一斉に押し掛けたって乗れるわけないでしょ!」

 

 船木は新しい命令を飛ばすが、人型の異形はその命令を受け付けない。

「効率よくエレベーターに乗るために順番に並べ」という高度な命令内容を理解出来る知能がないからだ。

 

「階段! 階段に……ああ、ダメだ。こいつらの塔の中の迷宮を抜けられる知能がない」

 

 船木が何の手も打てず、まごまごしている間に、巨大な虫は塔の中腹部に激突し、大きな穴を開けた。

 

 その背に乗っていた数人がそこから内部へと侵入していく。

 

「ちょ、侵入者! 侵入者来た!」

 

 慌てて無線機を掴んで塔の上層階にいる仲間に呼びかけるが、応答はない。

 

 理由は知っている。

 自分がくだらない雑談で何度も呼んだために、ついに呆れられて無線を切られたからだ。

 

「一体どうすればいいわけ? もう全部投げ出して帰りたい」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 端島が喚び出したドラゴンで塔に体当たりして、中腹部に穴を開けて内部に潜入する。

 確かにこれならば地上部分にどれだけ敵がいようが関係ない。

 

 ベストは頂上に直行だったのだが、端島のドラゴンの持続時間は3分な上に、人を乗せることに向いていないのか、バランスもかなり悪い。

 長時間飛行させるには向いていない。

 

「わったしが1番乗り!」

「2番です!」

「では、私が3番と」

 

 梨本、合田、俺の順番に塔へ飛び込み、最後に端島が塔の中に入り、ドラゴンを消した。

 

「さて、頂上部までこのまま一気に駆け上がりますか」

 

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