高校時代には県大会で優勝。
インターハイでの入賞経験があり、同年代ならば、日本でも上から数えた方が早い実力であると自負している。
そんな七澤に与えられた能力は剣士系の能力。
敵との距離を瞬時に詰める移動系スキルと、刀の速度と威力を上昇させられる強力な剣術系スキル。
そして、物理や魔法など、自分に飛んできた攻撃を迎撃するためのスキル。
矢や銃弾のような物理、魔法によるエネルギー弾など、実体の有無は問わない。
そして、超音速……ライフルの弾丸はもちろん、雷速……飛来する雷ですら迎撃できるほどだ。
能力者としての名前は名刀、菊一文字から付けられたであろうキク……イチモンジ。
レアリティはSSR。
名前の頭のキクの名前のせいで仲間からは「キクさん」という愉快な名前でしか呼ばれない。
キクは無視してイチモンジと呼んでほしいと要望しているが、それはいつも無視されている。
そんな七澤が
侵入者突入の報を受けるとすぐに、待機していた頂上階から瞬歩を使って移動。
複雑な迷宮を駆け抜け、中層階の入り口である階段の踊り場に到着した。
「侵入者は剣士タイプと格闘家タイプ、それに魔法使いタイプが2人か……ならば、まずは前衛からだ」
接近戦に持ち込んでしまえば、魔法使いタイプは味方への誤射を避けるために攻撃は出来ない。
そして、接近戦ならば、自分に勝てる相手はいない。
階段の踊り場全てが剣の間合いだ。
「さあ、来るなら来い、侵入者!」
◆ ◆ ◆
「生きてます?」
「それは大丈夫だろうけど、後で病院で検査してもらった方が良さそうだ」
階段の踊り場でやる気満々で身構えている侍のような能力者を見つけたのは5分ほど前の話。
最初は端島が「剣での一騎打ちならば俺に任せろ」と出ようとしたのだが、こんな勝ってもメリットのない勝負に付き合う義理はないと止めた。
ただ、対処をどうしたものか悩んだ挙句、まずは合田が牽制の意味で遠距離から覚えたばかりの曲がる拡散レーザーを雑に放つことにした。
なんか死んだ(死んでない)
光速で放たれる軌道を読めないレーザーの雨に対しては何も出来ず、ノーガードでもろに直撃をくらったようだった。
失神しているようだったので、意識を取り戻す前にビニール紐と針金を使って後ろ手に拘束。
階段の欄干に縛り付けた。
もちろん、膂力で無理矢理拘束から逃れることは可能だと思うので、決して油断はしない。
手元から転がり落ちた刀は折って無力化させておきたいところだが、後で説得して仲間に引き込むことを考えるとそれは出来ない。
刀はレーザーの直撃をもろに受けて赤熱した後に、変な角度で床に落下したせいで、刃先が少し欠けたようだが、研げば直るだろう。
そこまで支障はないはずだ。
多分。知らんけど。
念のために刀は使い魔たちに命じて近くにあった廃ビルの屋上へ運ばせておいた。
これだけ距離を離しておけば、隙をつかれて、刀を取り戻されるということも起きようがない。
「この人、なんか泣いてますけど」
「意識が戻ったのか。無事で何より」
「でも、油断してると、いきなり襲ってくるかもしれませんよ」
合田が杖の先で男の頬をグリグリと突く。
「ダメですよ、暴力的なことは。捕虜虐待は条約で禁止されています」
「暴力がダメなら、袴を脱がせてみるか。パンツ一丁の状態で襲っては来ないだろう」
端島はそう言うと、剣士が履いていた紺色の袴を引っ張り、無理矢理脱がせるという非人道的な行為を行った。
合田と梨本は、それを見て、まるで感情なく形だけの「キャー」という声をあげた。
「上戸さんも『キャー』と言ってくださいよ。こいつに精神ダメージが入りますよ」
「キャア」
「もっと感情を込めて」
「やめてあげてください。また泣いてるじゃないですか」
正直、もう勘弁してあげてほしい。
あまり精神的に追い込むと、あとで説得しても仲間になってくれないかもしれないのだから。
試合が終わればノーサイド。恨みっこなしの精神でいきたい。
放置しておくと端島が何をするか分からないので一度下がらせた。
「もっさりブリーフマンさんに、いくつか質問したいのですが、よろしいでしょうか?」
俺が尋ねると同時に合田と梨本の2人がブフォッと吹き出した。
君たち、精神的に追い打ちをかけるのをやめたまえ。
「この塔なんですけど、何をやっている場所なんですか? とりあえず怪しいから調べるために来たんですけど」
「待て、何も知らないのに来たのか!?」
ブリーフマンが驚いたように答えた。
それほど予想外だったのか。
「知らないから来たんですよ。あからさまに怪しい塔があったので、あれは何だろう? と」
「本当に何も知らないのか? 侵入者じゃないのか?」
「侵入者なのは本当ですよ。ただ、入口付近に『元人間』の異形が大量に集められていて、これは怪しすぎる。絶対に悪いことを企んでいるはずだと思いまして」
「元……人間?」
ブリーフマンは目を見開いた後に、表情がこわばっていく。
「まさか、本当に人間……なのか?」
ブリーフマンの顔はどんどんと青ざめ、全身が小刻みに震えだした。
小声で「殺した? 人間を?」と呟き始める。
俺たちは初対面でかつ敵同士である。
何を話したところで、どうせデマだろうし、聞く必要などないと切って捨てて終わりになっても仕方ない。
だが、ブリーフマンは俺が何気なく出した「元人間」というワードに過剰反応した。
さすがにおかしい。
もしかすると、このブリーフマンも、以前から人型の異形は元人間だと考えていたのではないだろうか?
だが、それを認めたくなくて、自分の中でその説を否定していた。
それが、ここに来て同じ考えを持った相手が突然現れて、説は間違っていないと言ってきた。
この動揺はそんな動きに見える。
「……元人間だという根拠は何だ?」
ブリーフマンが若干声を震わせながら聞いてきた。
「倒した異形の中に結婚指輪を付けていた……元人間の痕跡が見られる個体がいました」
「おれは半分人間の顔が残ったままの敵の首を落としたことがある。でも、それは証拠だとは思えない」
言っていることが無茶苦茶だ。
自分で「人間の顔が残ったまま」と元人間説が正しいと信じているとハッキリ言ってしまっている。
何より全身の震えが、答え合わせが完了したと訴えている。
「それは確定である証拠なのでは?」
「やめろ!」
「誰かに言われたんですか? 気のせいだって」
「おれは信じないぞ! あいつも何も言わなかった!」
あいつとは逢坂のことだろう。
逢坂の意図は俺の知ったことではない。
隠している情報など何もなく、誠実に知っている全てを伝えているかもしれない。
ただ、重要な情報を聞かされていない……情報を伝えられていなかったかもしれないという事実は、他にも何か隠していることがあるのではないか? という疑心暗鬼を生む。
「あえて言わなかったんじゃないですか? この分だと、他にもまだまだあなた達に隠している情報がありそうですよ」
「そんなバカな。だいたい、元人間だなんて……おれは何匹あいつらを始末したと……」
ブリーフマンはそこで言葉を一度切った。
やはり思っていた通りのようだ。
その癖、人を斬るのが怖いかというと、そんなことはなく、俺たちに刃を向けて斬る気満々だった。
心の中ではただのゲーム感覚だったのだろう。
元人間を斬ったのも気のせいと信じ込んでゲーム意識に戻ろうとしたところ、遠距離から理不尽な攻撃で自慢の能力を披露も出来ずあっさりと潰された。
生命の危機を感じたことで、これはゲームではなく現実の命の取り合いだと思い知らされたと。
「逢坂さんと仲間数人は、周防という政治家の付き人的な仕事をやっているようですが、なぜあなたはこんなところで、こんなよく分からない塔を護らされているんですか?」
「誰が答えるものか!」
「パンツも脱がせますよ」
「俺たちのような見た目十代の能力者が政治家の付き人に混じっているのは不自然だろうとこっちに回された」
話が早くて助かる。
「本当に見た目だけの話ですか? 直接政治家の近くにいるわけではなく、離れた場所にいる支援団体で動いているだけなのに?」
「それは……」
「こんな電気も何もない埃臭い場所であなた達が必死で戦っている間に、逢坂さんとその仲間たちは東京都心のど真ん中のビルで快適に過ごしていますよ」
返事はない。
本人も薄々は気付いていたのだろう。
自分たちはこんな場末に置いてけぼりにされた、いわば使い捨てのコマでしかないと。
ただ、揺さぶるのはこのくらいで良いだろう。
あまり追い込むと、逆に反発される可能性が高い。
「この塔には何人います?」
「4人だ。入り口を護っているやつとおれの他に頂上に2人いる」
「ここで何をやっているんですか?」
「お前たちも知っているんだろう! おれたちの世界は滅んだ。だけど、この塔のシステムがあれば、それを再生できる!」
「滅んでないだろ」
端島がゆっくりと歩いてきて俺の隣に座った。
ブリーフマンの目を見て、冷静かつ静かに語り掛ける。
「俺たちの世界はいつ滅んだんだ? 本当に滅びた瞬間を見たのか?」
「だって見てみろよ! この塔から見える世界を! 自分の家も……近所の知り合いの家も、みんな焼けて燃えカスになっているところを見せられた気持ちが分かるか?」
「それならわたしも見たよ。見慣れたいつもの光景が……みんな壊れてた」
梨本もやってきた。
顔は逸らしたままで強い口調でブリーフマンに言う。
「でも、わたしは壊れ始めるところなんて見ていない。今ならまだ間に合う」
「おれたちがこんなところに召喚された間に壊れたんだよ! 世界を元に戻すにはあいつのプランに乗るしかないんだよ!」
「そんな話を誰が決めた。この塔の外は確かに世界崩壊から何年か経った光景かもしれない。だけど、俺たちが召喚されてから、まだ一か月も経っていないんだ。その短い期間でここまで壊れるわけないだろ」
端島があくまで冷静にブリーフマンに返す。
「だからなんだ? 元の世界に戻れるわけが――」
「――戻すんじゃない。帰るんだ。世界が壊れる前、世界を救うために。俺たちはそのために戦っている」
「……帰る?」
あとはもう端島に任せて良いだろう。
さすがに男のパンツがチラチラ見える見苦しい光景は精神的によろしくない。
むさ苦しいものを見せるなと。
しばらく話し合いが続いた後に端島が立ち上がった。
俺たちに親指を立ててサムズアップのジェスチャーを示した。一通りの解決はしたようだ。
「こいつとの話はついた。上の階にいる2人にも話を付けに行こう」
◆ ◆ ◆
頂上階にいた2人。
高校生くらいの少年と少女は非戦闘要員だったようだった。
俺たちが殴り込みをかけた時点で何の抵抗もせず、すぐに両手を挙げて降参をした。
こちらも事を荒立てたいわけではない。
念のため武装解除をしてもらうが、拘束など、それ以上のことをするつもりはない。
とりあえず立ち話も何なので椅子に座って貰う。
頂上階は東京タワーの展望台のようなガラス張りの構造になっており、塔の周りの裏東京の景色を見ることが出来た。
現実の東京タワーの展望台は150メートルほどの位置にあるが、この頂上階は頂上近く、地上から300メートルほどの高さにあるようだ。
外を見ると、東西南北、はるか彼方まで景色を見回すことが出来る。
ただ、東の千葉側、北の埼玉側には霧がかかったように霞んでおり、何も見ることが出来ない。
逆に南や西ははるか遠くまで見渡せる。
これからの探索の指標にはなるだろう。
頂上階の室内に目を戻す。
室内には簡易的な折り畳みテーブルとパイプ椅子が数脚持ち込まれているが、それ以外には何もない。
部屋の隅に小さい非常用バッテリーと小型の無線機が置いてあるくらいだ。
重要そうな設備の類は何もない。
ただ、部屋の隅のほうには、樹脂のような素材でコーティングされた床の一部が四角く凹んでいる。
それなりの大きさ、重みのある、何か四角い物体が置かれていたようだが、割と最近に持ち出されたようだ。
「ここに何が置かれていたか、ご存じないですか?」
「使い方が分からない機械が置いてありました。でも、昨日に逢坂さんが、襲撃者の手には絶対に渡せないとどこかに持っていきました」
少年の方が挙手して言った。
頂上階に置いてあった機械の移動の話だけではない。
1階に大量の人型異形を集めることや、ブリーフマンのような強い能力者の配置。
俺たちの調査計画は事前に敵組織に漏れており、準備万端で待ち構えられたとしか思えない。
「どこへ運ばれたかご存じないですか?」
「それは分かりません。多分、総理大臣の……いえ、ぼくらの世界じゃ総理だった人のところだと思いますが」
「そこのエレベーターを使って地上に運ばれていきました」
少女の方が展望台の中央にあるエレベーターホールを指さすと、ちょうどそのタイミングで自動ドアが開き、中から魔法使い風の服を着た少女が現れた。
1階入口周辺で人型の異形を操り、俺たちの侵入を拒んでいた魔法使いだ。
「3人とも無事? ……ってええっ!?」
魔法使いはオーバーアクション気味に、口をパクパク開閉させながら、椅子に座っている少年少女と俺たち4人へ代わる代わる人差し指で指していく。
「キクさんがいない……というか、襲撃者がもう来てる」
「どうも、お邪魔しています。侵入者です」
「どうも、
お互いに頭を下げて挨拶。礼儀として大事だ。
なければスゴイ失礼。古事記にもそう書いてある。
「もしかして、キクさんも君らもあっさり突破された?」
「されました。僕らじゃ勝てません」
「抵抗は無意味。阻止に向かったキクさんは下の階でパンツ一丁になって死んでる」
少年少女がかわるがわる状況を船木に説明した。
こちらの手間が省けて助かる。
「キクさんは結構強いよね。でも、何もできずにこの4人に倒されたってことか」
「女子3人の前でパンツ一丁になるのは実際変態だと思う」
「キクさんにそんな性癖があったとは……人は見た目によらないもんだね」
船木はそう言うと渋々ながらも両手を挙げた。
「降参降参! 今更抵抗しても、この距離だと先に私の首が飛ぶだろうし、私までパンツ一丁はお断り」
「パンツ一丁!?」
端島が何を勘違いしたのかパンツ一丁という言葉に過剰に反応した。
船木が露骨に嫌な表情を見せてスカートの裾を抑える。
「端島クン、今は真面目な話をしてるので、少し黙っていて欲しい」
「はい」
端島が梨本にたしなめられた。
そういうとこだぞ。
「危害を加えるつもりはありません。この塔も既に機能停止しており、お互いにこれ以上の戦闘行為は無用だと思いますので」
背後に立っている端島と梨本にも聞こえるように大きめの声で呼びかけるように言った。
端島と梨本もそれは分かっているとばかりに、端島は剣を鞘へ納刀。梨本も手甲を腕に固定しているベルトを外した。
船木が改めて室内を見回し、ため息をついた。
部屋の隅から重要そうな機械がなくなっていることから、状況を把握したようだった。
既にこの東京タワー内には重要な設備などない。
もぬけの殻であり、侵入者を罠にかけるためのものでしかなかったということに。
「昨日まではもう少し色々な機械が置いてあったよね。誰が持ち出したの?」
「船木さんは知らなかったんですか? 昨日に逢坂さんの指示で全部運んだんですよ」
「じゃあ何? 私はこの空っぽな塔を護るためにあんなひま……無駄な時間を過ごしたってわけ?」
船木は上げていた手を下ろして、壁際まで歩いて行った。
隅に立てかけてあった折り畳み式のパイプ椅子を開いて、わざとらしくドカンと音を立ててふてくされるように腰かけた。
「キモ男は、私たちが全員負けて捕まる前提で動いてたってこと?」
「さすがにそこまで悪質じゃないと信じたい……けど……」
「いや待って。
船木が何かに気付いたのか、慌てた様子で椅子を倒しながら立ち上がり、麻美を指差した。
何かに気付いたのか?
「えっ、でも?」
「早く! 私の気のせいならいいけど、もし、この状況がキモ男の狙った状況ならば、私たちも攻撃されているかもしれない」
展望台にいた、麻美と呼ばれた少女も椅子から立ち上がり、両手を大きく広げた。
今の会話の内容からして、麻美という少女は探知系の能力を持っている。
しかも対象が身体ということは、何かを仕掛けられているということだ。
身体に仕掛ける?
この状況で考えられる理由は一つ。侵入者である俺たちを狙ったトラップだ。
そして、罠の対象は俺たちだけではない。
この塔にいた4人から情報が漏洩することを防ぐための口封じも同時に進行している。
爆弾的なものを爆発させて塔ごとドカンや、強ボスキャラを配置して俺たちを迎え撃つことは考えていたが、このパターンは想定外だった。
「合田さん、こちらも分析を!」
「分かりました。私も分析を使います。対象は4人」
合田も今の船木の言葉から状況を理解したようだ。
理解が早くて助かる。
「ちょっと待て、どういうことだ?」
「端島さんは少し黙って!」
合田も同じように能力を使用した。
対象が4人ということは、俺と端島たち3人だ。
「上戸さんは大丈夫ですが、端島さん、梨本さん、それに私にバッドステータスを確認。寄生虫が付いています!」
「寄生虫?」
「60体の人型の制御権を解除! 制御対象をこの部屋の中にいる寄生虫へ変更!」
端島の疑問に答えるように、船木の右腕が一瞬輝いた。
少年、麻美、船木。
そして端島、梨本、合田の身体から赤い光が放たれた。
光は6人の身体だけではない。
展望台の床のあちこちから赤い光が立ち上っている。
「見つけた!」
梨本が赤く光っている床をブーツで強く踏みつけると、床から光が消えた。
「本当だ、何かナメクジみたいな気持ち悪い虫がいるね。よく見なきゃ見逃すけど」
「状況を説明してくれ!」
「私たちの仲間に虫使いがいる。そいつは寄生虫を使って、人間を操ることが出来るんだ。そいつがこの塔に罠を仕掛けていきやがった!」
端島に対して船木が説明してくれた。
今は敵も味方もないということだろう。
「駆除方法は?」
「まだ体内に侵入してないやつなら、今みたいに踏み潰すか、火で焼いてもいい。体内に入った分は、私が制御すれば、それ以上の動きはできなくなるはずだけど……」
「上戸さんが無事な理由は?」
「わからない。何か特殊な防御系の能力があるの?」
俺だけ除外されているということならば、考えられるのは戦闘能力の違いだ。
俺はランクアップと限界超越の2段パワーアップをした結果、割と人間を辞めている。
蚊にもたかられても皮膚を傷つけられないからか血を吸われることはない。
同じ理屈で寄生虫も食いつけないのだろう。
「私が平気な理由は、人間を少し辞めてるからです」
「それはどういう?」
「説明は後です。それよりも寄生虫の対処が優先です。確認しますが、寄生虫は魔法的なものではなくて生物なんですね?」
「私の能力で制御できる以上は生物のカテゴリだよ。天然物か養殖物かまでは知らないけど」
「わかりました。それならば、私の能力で駆除ができます」
寄生虫の対処ならば既に経験済みだ。
5羽の鳥の使い魔を喚び出し、そのうち3羽を
「ちょ……なんなの、その邪悪そうな塊は?」
「触らないでくださいね。生物はこれに触れると塵に分解されて消滅しますよ」
警告の意味も込めて簡単に説明すると、船木は勢い良く後ろ方向へ飛び退いた。
「寄生虫が食いつかないとか、その邪悪な塊とか、もしかして邪悪な何かだったりする?」
「私のカテゴリとしては邪神の巫女らしいです。うちの神さんは別に邪神ではないと思うんですが」
「ええ……」
そこで、能力発動時にはいきなり熱線が発射されるわけではなく、まずはこの黒い球体が出現し、周囲の生物を分解し、黒い霧=エネルギーへと変換。
それを吸収することで、発動に足りないエネルギーを補填するという動きが発生する。
ただ、その分解能力はうちの神さん由来のものだけあって、かなり強力だ。
時間と空間を無視して分身から本体を破壊出来るこの能力は、下手をすると本来の効果である魔女の呪いより強い。
そして、この攻撃は生物に対しては無差別ではあるが、優先順位というものがある。
弱い生物……小動物や植物などが優先される。
生命力が高い生物も衰弱などはするが、体力が尽きるまでは分解はされない。
その法則に従い、この場では最も弱い……他人の身体の中に入らないと生きていけない寄生虫から分解されて黒い霧となって消滅していくという理屈だ。
6人の身体の中と床から分解された寄生虫が次々と黒い霧となって噴出していく。
「まさか、この黒い霧が全部寄生虫ってこと?」
「その通りです。この能力は生命力が弱い生物を分解して黒い霧に変えることができます。霧が消えるまで動かず待っていてください」
幸いにも早期対処したからか、体内に侵入した寄生虫は少なかったようで、数秒で駆除が完了した。
ただ駆除できたのはこの部屋の中だけだ。
下の階段に取り残されたままになっているブリーフマンも同じように寄生虫に襲われている可能性が高い。
早く合流して虫を取り除かないといけない。
戦う意味がなくなった以上は、いつまでも階段の欄干に縛り付けておくわけにもいかないだろう。
移動しようとしたところ、船木が声をかけてきた。
「待って。この虫の能力は本体との距離が離れすぎたら、効果を継続できないはず。だから、本体はどこか近くに潜んで、私たちを攻撃している可能性が高い」
船木が顎に親指を当てて何やら考え込む姿勢を取った。
「どこかに潜んでいる本体を叩かないと、何度でも攻撃が繰り返されると?」
「ええ。襲撃者Aの言う通り。虫の能力者は
「つまり、協力して、どこかに潜んでいるその松葉を叩けと」
船木は肯定の意味で首を縦に振った。
「なんでこんなことを私たちに仕掛けてきたのか? キモ男……逢坂の意思なのかも確認しなくちゃ」
「話は分かりました。ですが、あなたと私の2人だけでは前衛が足りないのでは?」
「そこはキクさんが……って怪我してるのか。かと言って、そこの戦えない2人は連れていけないし……そっちの殴る系の2人のうちどちらか、付いてきなさい」
船木が何故か場をしきり始めた。
俺たちの会話を聞いていた端島と梨本に呼び掛ける。
「わたしが行こうか? 目はいいから虫を見つけたら踏み潰せるし」
「いや、俺が行くよ。あのブリーフマンとは少し話して分かりあえたと思う。虫は上戸さんの能力で倒してもらう」
端島の方が指名に応えて、デモンストレーションのつもりなのか剣を素振りしながら近付いてきた。
「じゃあ即席パーティーだけどよろしく、襲撃者AさんBさん」