収穫祭の魔女   作:れいてんし

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第33話 「エビチャーハン」

 船木と松葉を連れて市ヶ谷議員の自宅に帰ってきた。

 

 今は議員宅には合計10人が集まっている。

 端島たち3人、東京タワー護衛の4人、襲撃者の松葉。それに俺とカーターだ。

 

 小森くんは柿原さんと服部さんを送り届けた後に、一度自宅に帰るということだったので、カウントはしない。

 

「これからどう調査を勧めていくべきかの相談をしたいところだが、その前にまずは夕飯だな」

「どうする? ラビ助が調理するのか?」

「借りている家のキッチンをあまり汚したくないんだよな。あとの清掃が面倒だし」

 

 とりあえずキッチン周りをチェックしてから考えることにする。

 

 家主が長期不在しているからか、冷蔵庫は空っぽ。米の備蓄もない上に炊飯器も四号炊きの小さいモデルだ。

 

 元々この家は3人家族で、今は夫婦のみしか住んでいない。

 しかも仕事で家を空けがちなので、鍋やフライパンなどの調理器具も最低限のコンパクトなものばかりだ。

 

 10人分の食事を自炊するには問題が多い。

 

「近所のスーパーに走って弁当と総菜を買ってくるか?」

「後片付けの手間を考えるとそれだな」

 

 近くのスーパーの場所を調べようとスマホを取り出したところ、俺とカーターの会話を聞いていたのか端島が近付いてきた。

 

「そこで見つけたのがこれ」

 

 端島が手渡してきたのはシュリンクされた近所の飲食店のメニューだった。

 

 表面に寿司屋、裏面に中華料理店のメニューが入っている。

 どちらも頻繁に利用している店らしく、寿司屋は電話の短縮番号8番、中華料理店は9番に登録されており、ワンプッシュで注文出来るようだ。

 

「リビングの電話機の横にあったんだ。待ってる間、暇だったので残ったメンバーでメニューを見てた」

「この家には普段から来客が多くて、出前を頼む機会が多かったんだろうけど、現行の衆議院議員が頼む店なら、当然お高いんだろ」

「そうでもない。上に書いてあるメモを見てくれ」

 

 そう言われてメニュー表の上の方を見ると手書きで注意書きが書かれていた。

「注意:1人1千円まで。超えたら交際費で経費は通りません」

 

 この家の家主、市ヶ谷議員の義理の父は、政治と金の問題でグレーを通り越して限りなく黒い報道が飛び交っていた東議員だ。

 

 そのこともあるからか、金の使い方については普段から、かなりうるさくしていたことが分かる。

 

 実際メニューを見るとセットかライス+一品ならば千円以内で収まるリーズナブルな店のようだ。

 

「寿司屋は助六かうどんの二択だから、中華の方が良いという流れになったので、6人分の注文はもうまとめてある」

 

 端島が6人分の注文を書いたメモを渡してきた。

 

 俺たちの確認を取らずに話を進めているのは手際が良いというのか、なんというか。

 各自がうまく千円以内に収まるよう注文をまとめている。

 

 ただ、千円縛りというのは、あくまで議員が経費精算する時に面倒という話だ。

 

 それと無関係の俺たちは、その決まりに縛られる必要など一切ないのだが、誰もその事実に気付いていないようだ。

 まあ、安く済むにこしたことはないので黙っていよう。

 

「餃子とニラレバ。ライスはいらん。これで970円だ」

 

 メニューを横から覗き込んだ松葉がいきなり注文を始めた。

 

「ラーメン小と杏仁豆腐。950円」

 

 船木もそれに続く。

 やはり千円以内も注意書きに騙されている。

 

「仕方ない。オレもこの流れに乗るぞ! ニラレバと餃子。あとはビールがあれば最高なんだが」

 

 カーターもこの流れに抗うのは不可だと割り切ったのか、メニューを見て注文を即決した。

 

「確かにニラレバにはビールが必須だな。メニューにはないのか?」

「メニューにビールは載ってるが割高だし、どのメーカーの何のブランドが来るかわからん。コンビニに買いに行くけど、お前も行くか?」

「ああ、どうせなら好みの味で飲みたいしな」

 

 カーターが松葉と意気投合を始めた。

 いきなり仲良くなるんじゃあない、この酔っ払いどもめ。

 

「他にビール飲むやつはいるか? 近所のコンビニで買ってくるぞ」

「全員未成年でーす!」

 

 端島が代理で答えた。

 

「ビールはいらないので、代わりにお菓子を頼みます」

 

 今度は合田から注文が飛んだ。

 

「そんなわけで、近所のコンビニへ買い出しに行ってくるわ。その間に注文よろしく」

 

 俺は一言も出前で中華を頼むなど言っていないのに、もはや決定事項のように進行している。

 何なんだ、この図々しい異世界人たちは?

 

「領収書は探偵事務所宛で出してもらえばいいんだよな」

 

 さすがに市ヶ谷議員の事務所名義で領収書を出すと確実にキレられるなと思いながらも、リビングにあった固定電話の短縮ボタンを押すと、すぐに中華料理店に繋がった。

 

「こちら市ヶ谷ですが、出前をお願いします」

『毎度ありがとうございます。エビチャーハンですよね』

 

 こちらが注文内容を伝える前に店員から先に確認があった。

 

「エビ?」

『ええ、いつもエビチャーハンを注文されておられますので。2人前でよろしいでしょうか?』

 

 どうやらこの店の常連である市ヶ谷議員は、頻繁にエビチャーハンを注文していたようだ。

 

 議員がそれほどこだわってリピート注文しているならば、きっと美味いに違いない。

 俺の注文もエビチャーハンに変更しよう。

 

「本日は来客がありますので、エビチャーハンは1人前で。代わりに他のメニューをお願いします。注文を読み上げますね」

『左様でございますか。それではまとめてお持ちします。領収書は何人分切らせていただきましょう? いつも通り、千円区切りですよね』

「……いつものように、千円区切り10人分でお願いします」

 

 矢継ぎ早に「いつものように」で手続きを進める店員と話をしていると、この場にいない市ヶ谷議員にずっと振り回されている気がする。

 いったい何なんだろう、これは。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 30分ほど経って、注文した中華料理の数々が届いた。

 この人数の食事が1万円札1枚で収まるのは良かったのか悪かったのか。

 

 玄関先に置かれてた料理の数々を全員がおもむろに応接室へ運んでいく。

 

 少しくらい仲が悪い者同士でも、一緒にテーブルを囲んで食事すれば、少しは改善するだろう。

 その雰囲気でこれからの打ち合わせに挑みたいところだ。

 

 ……ところで、俺のエビチャーハンはどこに行った?

 

「さて、食事もいいけど、今後の打ち合わせを始めようか」

「そんなことよりも今はメシの時間だぞ」

 

 俺の仲間だと思っていたカーターがいきなり缶ビールを開封してニラレバを肴に飲み始めた。

 食事が終わるまで、打ち合わせをする気は皆無のようだ。

 

「そんなことよりってなんだよ。だいたい俺のエビチャーハンはどこに行ったんだよ?」

「なんで突然メガトロンになるんだよ」

「エビチャーハンを探しただけでメガトロン扱いするのやめろよ」

「仕事の話は後でやろうぜ。今は食事の時間だ」

 

 端島がエビチャーハンを食べながら俺の肩を叩いた。

 

「待ってください。なんで端島さんがエビチャーハンを食べてるんですか?」

「何がおかしいんだ? これは俺が頼んだラーメンセットのチャーハンだろ」

「違います。端島さんが頼んだラーメンセットはメニューにある通り、ラーメンと餃子と小ライスの組み合わせです」

「そうだっけ? まあ、細かいこと気にするなって」

 

 全く細かくない。

 むしろ雑なのだが。

 

「美味しいですか、そのエビチャーハン?」

「ああ、美味いよ。なんというか美味い。うまく説明できないけど味が濃い。美味い」

 

 美味しいのは見た目だけでも分かる。

 

 適切な温度と油で炒められたと一目で分かる米の色と艶。

 まるで金色に輝いているような卵と調味料の絶妙のバランス。

 そんな中で紅く美しく輝く小海老。

 

 間違いなくこの中華料理店の看板メニューはこのエビチャーハンだ。

 

 端島の貧困すぎるボキャブラリでもそれを証明している。

 市ヶ谷議員が定期的に注文するはずだ。

 

 なのに、俺はそんな美味しそうなエビチャーハンを食べられないんだ?

 

「……でも、端島さんがチャーハンを食べたなら、代わりに小ライスが余っているはずですが」

「ライスってこれか?」

 

 キクさんが掲げた手には麻婆豆腐がかかった茶碗……小ライスがあった。

 お前もか。

 

「麻婆豆腐を頼んだのにご飯が付いていなくて困っていたら、丁度余っていたので」

「キクさんが頼んだのは麻婆豆腐と餃子だけなのでご飯が付いていないのは当然ですよ」

「ご飯もなしに麻婆豆腐を食べろって言うのか!?」

 

 突然の逆ギレ。

 キクさんの気持ちも分かるが、ライスを注文しなかったのだから諦めて欲しい。

 

 返せと言いたいところではあるが、さすがに既に麻婆豆腐がかかったご飯は今更いらない。

 

「すみませーん、私の分の食事がないんですけど」

「杏仁豆腐はあげないけど」

 

 船木には何も聞いてない。

 

「上戸さんが食べる分がないんですか? なら、お裾分けできますよ」

 

 そんな状況で合田が声をかけてくれた。

 本当に助かる。

 こういう時に普段からの付き合いが利いてくるのだ。

 

 喜んで向かうと、合田は俺に小さいキュウリの漬物が二切れ乗った小皿を差し出してきた。

 

「これ余ってるからどうぞ」

「アッハイ」

「わたしからも、酢豚に入ってたパイナップルをどうぞ」

「僕たちのも良ければどうぞ」

「千切りキャベツです」

 

 梨本は、甘酸っぱいあんがかかったパイナップルを。

 木野と若林は添え合わせのパセリとキャベツを乗せてくれた。

 

「キャラ名はパインなのにパイナップルは苦手なんですか?」

「火を入れる食べ物に甘い果物が入ってるのはおかしいと思う。パインはサラダかデザートで食べるべき」

 

 なるほど。

 

「仕方ないな。オレが餃子を分けてやろう」

「ありがとうカーター、愛してる」

「そのセリフは半年前に言え。今更言われてももう遅い」

「そういう意味じゃないからな」

 

 カーターから餃子が2つ供給されたことで、ようやく食事らしくなった。

 本当に助かる。

 

 これでようやく全員に飯が行き渡ったようだ。

 

「では、食べ終わったら今後の打ち合わせをしますからね」

 

   ◆ ◆ ◆

 

「まずはチューナー……塔の頂上階から持ち去られた機器がどこに運ばれたかです」

 

 今の保管場所を知っていそうな松葉に全員の視線が集中する。

 

「言っておくがオレは知らんぞ。逢坂(おうさか)は漏洩を恐れて最低限の情報しか伝えない」

「役に立たないわね」

「処分されるところだったお前が言うな」

「そんな私たちに容赦なく襲いかかったくせに返り討ちにあった無能がなんだって?」

 

 松葉と船木がお互いに睨みあう。

 

 お互いに殺し合いにまで発展した関係がそう簡単に解消するわけもないので仕方ない。

 今も和解したわけではなく、一時的に休戦しているだけなのだから。

 

「では、木野さん、若林さん、キクさんに質問します。機器が運ばれた時はどういう状況でしたか?」

「俺はキクさんではない。一文字と呼べ」

「頂上階に機器は4つあった。武藤(むとう)高野(たかの)の2人が台車に載せてエレベーターで運んだんだ。台車には1個しか乗らなかったので、何度も汗まみれになって往復してた」

 

 木野の方から具体的な話が出てきた。

 

 機器が重いというのは、頂上階の床の樹脂製マットに四角い凹みが出来ていたことから、ある程度の想像は出来る。

 30キロ以上はないと、あのような凹みは出来ないだろう。

 

 もし1階に下ろしたところで、そこから移動させるのは相当大変なはずだ。

 

「次に船木さんに質問します。1階部分を護っていたからご存じだと思いますが、あの塔の周りって瓦礫や石ころだらけでしたよね」

「そうよね。私が操った連中は知能がないから、そこらの石でコケて大変だったんだから」

「その状況で重い機器を載せた台車を延々と押し続けられますか?」

「難しいんじゃないかな? こっちの現実世界の方に出たら綺麗な舗装があるからマシだと思うけど」

 

 船木の情報も間違いないだろう。

 

 裏東京の地形はお世辞にも良くない。

 

 徒歩で歩くだけでも困難なのに、重い荷物を台車に乗せて長距離を運ぶのは尚更難しいだろう。

 

「ちなみに東京タワー最寄りの裏東京への出入り口はどこにありますか?」

「少し離れたところに飯倉って交差点近く。コンビニが入っているビルの陰に出入り口があるので、よく買い物に行ったりしてる」

「たまに姿が見えないのは、そんなところから表の世界に移動してサボってたのか」

 

 キクさんが船木の顔へ責めるような視線を向けた。

 船木が罰が悪そうに答える。

 

「何もない場所で待つのは暇だから仕方ないでしょ」

「キクさんは出入り口のことをご存じなかったんですか?」

「俺はJRの浜松町駅から移動してたんだが。そこしか出入り口がないと聞いていた」

「オレはJRの新橋駅しかないと聞いていたが……また逢坂が何か仕組んでいるのか」

 

 今度は松葉が眉をしかめた。

 

「木野さんと若林さんは?」

「僕らも浜松町駅しか聞いていません。4人全員そうじゃないですか?」

「私が近くの交差点に別の出入り口を見つけたのは偶然で別に何も聞いてないわよ」

「待ってください。少し整理させてください」

 

 俺は東京の地理は東京駅と会社の往復間しか知らない関西民だ。

 次々に地名を言われても全く位置関係が分からないので、一度スマホの地図アプリを表示して確認する。

 

 JR新橋駅は東京タワーの北東。築地や汐留などに近いエリアにある駅。

 JR浜松町は南東方面で、より海に近いエリア。

 

 駅にすると1駅分なのだが、駅から東京タワーに向かって歩くと、一切動線は交わらない。

 

 逢坂がタワー警護の4人と襲撃者である松葉が移動中に顔を合わせないための配置だと考えるのが自然だ。

 

 飯倉交差点の出入り口は東京タワーの西側。

 やはり他の出入り口から来ると動線はない。

 

「飯倉の交差点って私がトンネルを掘れないか尋ねた場所ですよね」

 

 合田がスマホの地図を覗き込みながら言った。

 

 そういえばそうだ。

 

 現実の飯倉交差点の地下には、地下鉄東京メトロの路線が通っている。

 そこからトンネルを掘って一気に地上へ出ることができれば、東京タワーへ奇襲出来ると考えたのだった。

 

 様々な問題があり実行には至らなかったが、そこに裏東京への出入り口があるとなると話は変わってくる。

 

 表の世界から一気に裏東京へ入って東京タワーへ攻め入るルートが確保出来る。

 

 逆に言うと、何故逢坂は防衛上不利な出入り口があることをタワー警護の4人に伝えなかったのか?

 

「出入り口があるのを教えなかった理由は、もしタワーを襲撃された時に重要な機器を退避させるためでしょうか」

 

 合田の言うとおり、塔から交差点間での道は真っ直ぐだし距離も短い。

 

「出入り口は道路に近いので、トラックを横付けしておけば、荷物を積み込んで運びやすそうです」

「地下鉄の路線は使えないんですか?」

「前に説明した通りですよ。ここは地下鉄の路線はあるものの、駅も地下道もありません。だから地下に荷物を下ろす方法がありません」

「専用の貨物列車みたいなのがあれば良いんですけどね」

「そんなものがあるわけが……」

 

 ここまで言って、何かが引っかかった。

 地下鉄の路線を使って何かを運ぶ話を最近に聞いた気がする。

 

「地下鉄の路線で荷物を運ぶって探偵事務所の火事の片付けのことだろ」

 

 カーターの口から思わぬ内容が漏れた。

 

「探偵事務所地下の倉庫がダメになったので、そこに保管されていた曰く付きの品を別の倉庫に移すって話があっただろ」

「なんでカーターがそんな話を知ってるんだよ」

望美(のぞみ)から聞いたんだよ。なんでも事務所が大変なことになったって」

「望美って誰だよ……って麻沼さんか」

 

 麻沼さんとはサマーキャンプにも一緒に行ったし、なんなら同じ部屋で寝泊まりしていたのだが、名前の方をあまり呼ぶことがなかったのでイメージと結びつかない。

 

「その作業が今晩の深夜予定で、今日はそのヘルプに出掛けたからここに来てないんだが」

「待ってくれ、それは聞いてない」

 

 計画を妨害されてはいけないので、日程などは秘密で極秘理に運ぶという話までは聞いている。

 なので和泉さんもその話を俺にはしていなかった。

 

 ただ、情報は予想外のところから漏れていたようだ。

 

 カーターが知っているということは、報告書を通じて敵にも漏れているだろう。

 

「認識合わせだ。話をどこまでは知ってる?」

「探偵事務所の地下は地下鉄の路線のすぐ近くなので、終電後に地下鉄路線に貨物列車を走らせて荷物を運ぶということまで」

「オレの認識通りだ。望美の作業は倉庫から荷物を貨物列車に積むだけって話だ」

「その貨物列車は誰が運転してどこに行くんだ?」

「列車は鉄道会社が運転だ。ただ、どこに行くかまでは教えてくれなかった。望美はもう退社するから、そこまで詳しく教えてもらっていないんだろうが」

「話は繋がりますね」

 

 合田の言う通りだ。

 

 探偵事務所の地下倉庫から積まれた荷を満載した貨物列車は、この飯倉交差点近くで、塔の頂上階から運ばれた機器もまとめて積んで、秘密の倉庫へ運ぶ。

 

 それを逢坂たちが強奪。

 計画はとっくに漏れているのだから、貨物列車に最初から逢坂たちが乗っている可能性すら考えられる。

 

「この説が正しければ……」

「飯倉交差点近くに塔から運ばれた機器は置かれたままだ」

「そして、探偵事務所の倉庫にあった魔術関係の品と、塔の頂上階にあった機器は逢坂の手に収まると」

 

 まだ仮説の段階ではあるが、もしこれが真実ならばとんでもないことになる。

 

「カーター、作業の時間は何時からか分かるか?」

「深夜というだけしか聞いてない。帰りは朝だと」

「冷静に考えましょう。地下鉄の終電後ならば、深夜1時以降で、早朝5時までの4時間以内です」

 

 時計を見ると時間は21時。

 

 移動に1時間かけたとしても、逢坂たちが動くであろう時間までにはまだ余裕はある。

 

「もちろん探偵事務所には伝えるんだろうな」

「それは伝えない。探偵事務所に連絡すると、そこを通じて逢坂まで情報が漏れる」

「どういうことだよ? 望美たちが情報を漏らすと?」

「そうじゃない。敵は警察内部にいるんだ。だから、警察と関係が深い探偵事務所に電話やメールで連絡を取ると、その情報は警察内の敵を通じて逢坂に漏れる」

「なんてこった」

 

 カーターが握りこぶしを作って、テーブルを強く叩いた。

 

「情報が伝わっている俺は、探偵事務所絡みで動くことが出来ない。行けば、俺たちがこの襲撃計画に気付いたと敵にバレてしまう」

「なら、傍観しろってことか? 望美が危険かもしれないのに?」

「だから、お前と小森くんが動くんだよ。カーターは麻沼さんの婚約者という以上の情報を敵は持っていない。小森くんに関しては0で何の情報もない」

「まだ婚約はしていないんだが。婚約はクリスマスの晩の予定だから、お前も暇なら見に来いよ」

「クリスマスはもう旅行の予定を入れてるんだよ……いや、今はその話はいい。麻沼さんの身内が過酷な肉体労働の手助けに来たとしても、敵はそれ以上の情報を知りようがない」

「その場合、オレの方が過剰戦力にならないか? 探偵連中にオレに小森だぞ」

「いや、こっちはこっちで頼もしい仲間が大勢居る」

「悪いが俺は保留させてくれ」

 

 キクさんが静かに言った。

 

「自分たちの世界を護るために戦う覚悟はある。だけど、逢坂にも恩があるので、仇で返したくはない」

「同じく僕らも逢坂さんとは戦えません。あなた達もそこまで悪い人ではないと思いますが」

「ごめんなさい。私もです」  

 

 キクさん、木野、若林の3人は参加の拒否を示した。

 

 無理もない。

 

 逢坂との戦いになるならば、そこで発生するのは間違いなく対人戦。

 

 しかも知っている顔の相手と戦うとなると、精神的なハードルは相当高いだろう。

 

 逢坂は何故か人を集める魅力のようなものがあり。自然にリーダーポジションになったという話を以前に聞いた。

 

 それはたとえ敵対した今も変わらないのだろう。

 

 船木や松葉の場合は、逢坂に恩義はあるが、それ以上に裏切られた怒りが上回ると言ったところか。

 

「この戦闘を強要するつもりはありません。参加は自分の判断でお願いします」

「勝手なお願いかもしれませんけど」

 

 木野が頭を下げた。

 

「確かに僕たちは命を狙われましたが、それでも逢坂さんには助けてもらった恩があります。だから」

 

 殺すな。もしくは酷く痛めつけるなということか。

 

「分かっています。なるべく無力化して捕縛するようにします」

「もちろん、一発ぶん殴らせてもらうけどね」

「一発で済ませる気はないがな。死なない程度には痛めつけさせてもらう」

 

 船木と松葉が頼もしいんだか怖いんだか分からない表明を伝えると、木野は頭を下げた。

  

「じゃあ、この6人で戦うってことでいいんだな」

 

 端島たち3人もやる気満々のようだ。

 

 奇しくも逢坂たちの仲間は6人。こちらも6人。

 同数の対決となる。

 戦力的には十分だ。 

 

「魔術関係の品と機器を奪われたら私たちの負け。ここで逢坂たちを返り討ちにすれば私たちの勝ち。分かりやすい勝負です」

 

 勝利条件も分かりやすい。

 

「では、まず飯倉交差点に向かいましょう。この説が正しいかどうかを確認しないと」

 

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