収穫祭の魔女   作:れいてんし

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第34話 「3つの選択」

 飯倉交差点まではカーターが運転する車で移動した。

 

 時間は22時。

 作戦決行の予想時間は午前1時以降見込みなので、まだまだ余裕だ。

 

「探偵事務所の方は頼むぞ」

「事務所の方は多分大丈夫だ。それよりも、確実に戦闘が発生するそっちこそ気を付けろよ」

「もちろん分かってるって」

 

 全員がファンタジーゲーム風の装備を身に着けたフル武装状態だ。

 

 そのままだと目立ちまくるので、カーターの車が走り去るのを待たずに、速やかに近くの出入り口から裏東京に入ることにする。

 

 裏東京には街灯や街の明かりはなく、空は不気味な雲に覆われているために視界不良だ。

 数メートル先にいる人の顔さえ判別出来ない。

 

 静まり返った町に加えてこの暗闇だ。

 そして11月末の寒さも相まって、まるで地獄最下層の氷結地獄(ジュデッカ)に戻ってきた気分にさせられる。

 

 カーターから、暗闇でも昼間のように照らせる夜釣り用のスポットライトを借りてはいるものの、いきなり点けると、周囲に潜んでいる夜行性の「敵」を集める結果になる。

 

 性能が低く、暗闇では頼りにならないが、あまり広範囲を照らさず目立ちにくい手持ちのLEDライトのみを使用する。

 

「それで、どうやって調査をするんですか?」

「――それは私が」

「――それはオレが」

 

 船木と松葉が同時に挙手し、お互いに睨み合う。

 

「この調査が終わるまでは仲良くお願いしますよ」

「足を引っ張るなよ」

「そっちこそ」

 

 2人はお互いに視線を逸らした後に能力を使用した。

 

「来なさい、オオカミたち!」

「夜ならばこいつだ。現れろ、夜蛾の群れ」

 

 船木の足元に6頭の狼が。

 松葉の周りに数えきれないほどの蛾が音もなく出現した。

 

「どこかに変な機械が隠されていないか探しなさい!」

「犬が数匹で探しきれるものか。広範囲の調査で物を言うのは数だ」

 

 狼と蛾の群れがそれぞれ主の命令に従って四方へと散っていく。

 すぐにライトの照射範囲外に出たので、狼たちが路面を蹴る足音でしかその存在を確認出来ない。

 

「俺たちは何をすればいい?」

「今の私はリソースを全部オオカミに持っていかれて何もできないから、あんたが護衛」

 

 船木はそう言うと端島の後ろに回り込み、松葉と距離を取った。

 

「では、私が松葉さんの護衛をすれば良いですか?」

「お前も魔法使いタイプだろう。前衛担当はそっちの格闘女だ」

「わたしかな?」

 

 梨本がスキップで松葉の近くに移動した。

 

「上戸さんは私と一緒に索敵をお願いします」

「時間になるまで襲ってはこないとは思いますけどね」

 

 俺と合田は哨戒と索敵担当だ。

 

 暗闇で視界が利かず、周囲の瓦礫や廃ビルに音が反響して聴覚もあてにならない、この漆黒の裏東京では、スキルから得られる情報だけが頼りだ。

 

「そうでもないな。何の護衛も置かずに大事な機器を放置するわけがない」

「そうみたいね。早くも2頭やられたわ」

 

 船木が眉をしかめた後に、再度足元に狼を2頭出現させた。

 新たに出現した狼は、暗闇の先に何かが見えているのか姿勢を低くして低い唸り声をあげた。

 

 船木はその狼の頭に撫でるようそっと手を置いた。

 

「あんたも知らんぷりしてるけど、虫が現在進行形で倒されてるんでしょ。何かいるわよ」

「オレの虫は少々倒されたところでパフォーマンスの低下はない」

「それは倒されてる宣言なんですけど」

 

 虫が倒されているというのは図星だったようで、松葉が顔をしかめた。

 

「この狼たちはスキュラの下半身を構成してる、一匹だけでも強力な怪物よ。それが鳴き声をあげる間もなくあっさり仕留められた」

「何が起こってるんだ? 状況を説明してくれ」

「私がスキルで召喚したモンスターは手元に戻すまで情報確認できない。だから何が起こっているのかまでは分からない。ただ、オオカミたちが倒されたということが分かるだけ」

 

 船木が背を曲げて端島の背に手を付け、身を隠すようにした。

 

「ちょっと、さすがにそれは端島クンにくっつきすぎじゃない」

「そうですよ、それはさすがに近付きすぎです」

 

 梨本と合田の2人がそう言いながら端島に近付いていく。

 

「これはもしかして、知らないうちに異世界ハーレムが始まっていたのか?」

「始まってないけどバカなの?」

「思い込みが激しいんじゃないかな?」

「端島さん、バカなことを言うのは止めてください。私たちまでバカと思われます」

 

 女子勢が次々に端島へ罵声を浴びせていく。

 特に合田が酷かった気がする。

 

「……上戸さんもこっちに来ていいんだぞ」

 

 あまりに辛い当たり方をされた端島が訳のわからないことを言い出した。

 だが、一か所に集まるということ自体に理はある。

 

「もちろんです。松葉さんも同じ場所に集まってください。散らばっていると支障があります」

「集まる? なんでだ?」

「散らばっていると、全員をカバーできないからです」

 

 俺の説明で松葉も状況を理解したようだ。

 

 端島以外のメンバーは気付いていたからこそ、一番身体が大きい端島の後ろに隠れ始めたのだ。

 

 松葉も端島の後ろへ駆け寄り、頭を押さえて身をかがめた。

 

「全員なるべく詰めて! それほど広範囲は守れませんよ! (シールド)形成!」

 

 俺の使い魔が光の膜を展開した瞬間、前方から灼熱の奔流が叩きつけられた。

 空気そのものが焼かれ、皮膚がひりつく感覚が走る。

 地面に転がっていた木片が一瞬で炭化して灰となって消えていった。

 

 だが、その熱風は青白い光の膜……(シールド)に阻まれて俺たちには届かない。

 

 夜の闇を暴力的なまでのオレンジ色で照らし上げて、空気が歪み、焦げと金属が焼けたようなオゾンの化学(ケミカル)臭も流れてくるがそれだけだ。

 

 誰かがゴクリと生唾を飲み込む音がした。

 直撃を受ければ全員が酷い火傷を負っていただろう。

 

「合田さんは敵の正体の解析を! 盾の持続時間は無限ではありません」

「は、はい!」

 

 合田が熱風が吹いてきた前方、暗闇に向かって分析能力を使用した。

 

「炎の息を持ったモンスターです。誰かの能力で召喚されたのかも。物理耐性も高いみたいです」

「そこらの雑魚とは違うのはわかる」

 

 松葉が前方に手を掲げたが、一瞬赤く光っただけで何も起こらなかった。

 

「まさか制御権を奪えない?」

 

 船木も同様に試みたようだが、やはり瞬間だけ光るのみだ。

 だが、その制御権を奪うスキルが発動する際のカメラのフラッシュのような閃光のおかげで、敵の姿が浮かんだ。

 

 丸く肥え太った胴体。

 異様に大きな頭部と、耳元まで裂けた口。頭頂部から生えた牛のような角。

 全身を覆う苔色の皮膚から、粘液が垂れている。

 

「こいつ、フンババでは?」

「フンババって何ですか?」

「メソポタミアの神話に出てくる魔物です。いくつものゲームや漫画で……」

「うんちくは後で聞きます。弱点を教えてください?」

 

 合田がどんどん薄くなっている光の膜に焦ったのか結論を急かした。

 実際に時間がないのは事実なんで、急いで記憶を辿る。

 

 伝承だとフンババは太陽神シャマシュが風で動きを封じ込めた後にギルガメッシュとエンキドゥという2人の英雄が取り囲んでボコボコにした後に最終的には斧で撲殺している。つまり――

 

「物理で殴れば死にます」

「物理耐性があるんですが」

「それ以上の破壊力で殴り倒す」

「なるほど、脳筋戦法ですね」

 

 どの道、今のメンツでは物理以外の攻撃などない。

 相手が倒れるまで殴り続けるしかないのだ。

 

 やはり暴力。

 物理による暴力は全てを解決する。

 

 そのタイミングで熱風の噴出が止まった。

 こちらの盾に限度があるのと同じで、フンババも無限に炎の息を吐き続けることは出来ないようだ。

 

「わたしと端島クンで接近戦を仕掛ける?」

「近寄るには炎の息が鬱陶しい。俺がドラゴンで遠距離から攻撃するから、2人……船木と松葉は支援を頼む」

「オレよりもお前の方が火力があると?」

「俺の能力はできることが少ないが、その分だけ火力は高い!」

「おっ、おう」

 

 松葉の反論を端島が勢いでねじ伏せた後に、頭上に「ドラゴン」を喚び出した。

 

 昆虫のような羽根や胴体、手足に爬虫類のような頭部が付いた不思議な生物。

 形状からして、絶対にドラゴンではないと思うのだが、本人がそう言うのだから仕方ない。

 

「ねえ、なんでそいつをドラゴンって呼んでるの? 違うでしょ」

 

 空気を読まない船木からツッコミが入った。

 

「じゃあ何なんだよ?」

「バイアクヘー」

「何なんだよ、それ」

「知らないわよ。私の能力の関係で名前だけは分かるってだけで」

「ともかく、このバイ……バイオドラゴンは攻撃に溜めが必要だ。時間稼ぎを頼む」

 

「ドラゴン」……もとい、バイアクヘーの周囲に2つの光る球体が浮かんだ。

 そのうちの1つが弾けるとバイアクヘーの周囲に風がまとわりつく。

 

「時間を稼げばいいってわけね。ピークス!」

 

 船木の手の上にキツツキが現れ、熱風を避けて矢のように飛び出す。

 鋭いクチバシが腹部を突いたが、分厚い皮膚に阻まれ、致命傷にはならない。

 

「それで時間稼ぎになるのか?」

「なるわよ」

 

 キツツキは一度フンババの周囲を高速で旋回し、執拗に威嚇を続ける。

 

 致命傷には繋がらないものの、その傷は決して無視は出来ない。

 故に構わざるを得ない。

 

「ならばオレはこいつだ。来い、スカラベ!」

 

 松葉の足元に、サッカーボールほどのコガネムシが五匹現れた。

 

 虫たちは節足を細かく動かしてフンババへ近付いていく。

 その速度では炎の息を避けられず、ただ焼かれるのみ。

 

 そう思いきや、コガネムシはその硬い外殻で炎を弾き、歩みを止めることはない。

 それどころか炎を受けてもなお力強く歩みを進める。

 

「砂漠の昆虫がそんな熱で止まってたまるか」

 

 虫たちはやがてフンババの足元にたどり着くと、そのまま足をよじ登って膝のあたりにしがみついた。

 フンババは振り落とそうとするも、虫は微動たりとしない。

 

 更に、足が止まったところに船木が操るキツツキが翻弄を続ける。

 

「時間は稼いだぞ!」

「さっさと決めなさい!」

「もちろんだ! バイ……言いづらいんだよ! とにかく飛翔しろ、ビアーキー!」

 

 端島の命令を受けたビアーキーは空中で大きく宙返り。フンババと大きく距離を取った。

 

 圧縮された風が渦を巻き加速。

 音の壁を突き破り、フンババへ一直線に突進。

 

 急停止と同時に鼓膜を震わせる轟音。

 衝撃波が地面を抉り、砂嵐が視界を塗り潰す。

 

 超音速の速度で圧縮された空気の塊……ソニックブームがフンババを正面から叩き潰した。

 

 だが、それでもフンババは倒れなかった。

 膝を大きく曲げて前のめりの姿勢でビアーキーが生み出した空気のハンマーに耐えた。

 

 顔面と胴体は大きく陥没し、どす黒く濁った血を流しながら、なおも前へと進んでくる。

 

 鈍重だが止まらない。

 その異様な執念が逆に不気味だった。

 

「強化お願い! 何もしてないわたしがトドメを刺すから!」

「強化入ります!」

 

 合田のスキルが発動すると、梨本の手甲から伸びた鉄の爪に、青白い光が走る。

 それと同時に梨本は足元から青白い光……脚力強化スキルを発動させた。

 

 暗闇に青い残光を残しながら梨本が猫科肉食獣のようなしなやかな動きで飛び出す。

 

 フンババがそれを迎撃しようと潰れた顔から熱風を吐き出すが、その動きは明らかに鈍っている。

 

 口も歪んでいるからか、真っ直ぐ進まずに横方向に漏れ出している。

 そんなものが加速している梨本に当たるわけがない。

 

 梨本は一歩踏み込み、陸上選手のように身体を捻って高く跳ぶ。

 吹き付ける熱風を紙一重でかわし、そのままフンババの頭上を越えた。

 

 すれ違いざまに青い閃光が走る。

 梨本が強化された鉄の爪を大きく振り抜き、頭部を深く穿ったのだ。

 

 更に背後に回り込んで着地。

 振り向きざまに背中から両手の爪を突き立てる。

 

 合田のスキルによって強化された爪は分厚い皮膚と脂肪を抉り、深く沈み込む。

 

 梨本は渾身の蹴りを背中に叩き込み、強引に爪を引き抜くと、巨体は前のめりに崩れ落ち、断末魔もなく沈んだ。

 

 俺たちの勝利だ。

 

 そう思った時におかしな動きがあった。

 

 倒れたフンババが一瞬だけだが強く輝いた。

 

「まさか復活?」

「トドメを刺し切れなかったのか?」

 

 近くにいた梨本はもちろん、端島もまだフンババを倒しきれない可能性を考えて、剣を構えて駆け寄っていく。

 

 だが、完全にフンババは事切れている。

 

 俺は敵が倒れた時にこうなる現象についての心当たりがある。

 

 予想通り、倒れ伏したフンババの近くから、何か金属片が落ちる音が鳴り響いた。

 

 地面に転がったのは、銀色のメダルだった。

 梨本と端島が怪訝そうに覗き込む。

 

「触って大丈夫なものか?」

「大丈夫ですよ。端島さんも知っているでしょう、生命活動が失われる際に出現するメダルを」

「銀色のメダルなんて初めて見たぞ」

 

 端島は警戒しながら剣の先で何度か突く。

 

 それでも何も起こらないことを確認してから拾い上げた。

 

「メダルを落とすということは、やっぱりこいつは変異した人間なのか?」

「いえ、メダルは能力者以外でも、あなた達の言うところの『黒幕』。私たちが言う『運営』が用意したモンスターを倒した時にも出現することがあるんです」

「つまり、これは逢坂が『黒幕』と組んでいるという証明みたいなものか」

「はい。逢坂が機器を守るための番犬を要求したのでしょう。そして『黒幕』がそれに応えた」

「逢坂の味方には政治家以外におかしなやつが付いていると」

「この場合、厄介なのは、能力者6人以外に今のようなモンスターが援軍として登場する可能性が高いということです」

 

 さすがに「運営」がここまで露骨に逢坂側のフォローに回ってくるとは思わなかった。

 

 援軍が今のフンババで打ち止めならばそれで良い。

 だが、この後に同様の戦力が無尽蔵に投入されたのならば、戦いは一気に不利になる。

 

「ただし、朗報もあります。こんな番犬を用意するということは、間違いなくこの近くに大切なものが隠れているということです」

 

 それを聞いた船木と松葉が早速、狼と蛾を放った。

 

「推測は当たりね。見つけたわよ、塔の頂上階に置いてあった機械を」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 半ば崩れた廃ビルの中に懐中電灯を向けると、船木が喚び出した狼の目が反射して金色に輝いた。

 その狼が伏せているすぐ横に黒い箱のようなものが4基置かれている。

 

 近寄ると、狼がスッと立ち上がり、俺に向けて威嚇の唸り声をあげたが、船木の命令に従ってすぐに移動。暗闇の中へ消えていった。

 やや遅れて黒い機械の上から大量の黒い紙片のようなものが動いて闇に消えていった。

 少し考えて、それが松葉が喚び出した蛾であることに気付いた。

 

「確認しますが、本物で間違いないですね」

「そう言われると自信はないけど、状況から考えてここに偽物があるとは考えにくいと思う」

「ああ、ダミーを用意するのも大変だろうしな」

 

 黒い機械の埃を払いながらライトを向ける。

 3基は何も凹凸のないただの四角い箱だが、そのうちの1基にはモニタとパソコンのキーボードのような部品が付いている。

 

 キーボードのキー配列はUSキーボードでも日本語キーボードでもなく変則的。

 

 キーは何も刻印されておらず、スペースキーやエンターキー、カーソルキーもどこにあるのか不明。

 どう操作すれば良いのかも分からない。

 

 電源が入っていないのでモニタ部分に何も表示されないために、尚更、効果は不明だ。

 

 後ろに回り込んで見てみるが、電源ケーブルらしい部品は見当たらない。

 

「分かったでしょ。何の機械かさっぱり分からなかった理由ってのが」

「合田さん」

「はい、分かっています」

 

 合田の分析能力は対象を生物に限定しない。

 装置に向けて能力を発動。何かを読み取っていく。

 

麻美(あさみ)の能力と似てるようでそこは違うんだ」

「探知能力と言っても色々あるんでしょうね」

「その機械の能力を読み取れたならば、逢坂は捨て駒になどするはずがないからな」

 

 俺の知っている中だと、眼鏡マンの解析は、スキルや能力だけでなく、世界の法則すら読み取る最高の性能だったはずだ。

 

 あいつはそれで「運営」のシステムを読み取り、盗み出したタウンティンの無線機を魔改造して「運営」に自分から連絡を取るという離れ業を見せている。

 

 若林麻美(わかばやしあさみ)とはろくに会話もしていないので詳細は不明だが、合田の能力は情報の分析よりもレーダー機能に重きを置いているので、そこまでではないと言った感じだ。

 

 それでも、ある程度の機能は読み取れるだろう。

 

「一番左がエネルギーの変換器。そこに動力源を繋ぐと、この装置が起動するようです。その横2つはアンテナ的なもの。そして、このキーボードが付いた機械は制御装置です」

「何の制御装置か分かりますか?」

「そこまでは読み取れませんでした」

「解説はいらん。どうせあの『尖塔』の制御用だ」

 

 松葉がキーボードが付いた機器の上に手を置いた。

 

「それで、動力というのは何のことだ? 電気か? それとも魔力か?」

「私の能力ではそこまで分かりません。残念ですが」

「ある程度推測は出来ますけどね。八王子の異空間からの同じ流れが続いていると考えれば一目瞭然です」

「配電盤に張り付いていた蜘蛛みたいな機械だな」

 

 端島がまだ八王子の各所に配置されていた配電盤のことを覚えていたようだ。

 各家庭や学校の配電盤には金属製の蜘蛛のような機械が張り付き、不明な手段で電力を供給する役目を果たしていた。

 

 この機械の動力もそれと同じならば、どこかから、あの機械の蜘蛛を見つけてくれば起動するだろう。

 

 ただ、この機械を動かすための動力源についてもう1つ候補が考えられる。

 

 探偵事務所の地下倉庫に保管されている輝く(シャイニング)トラベゾヘドロン。

 異次元から供給されるエネルギーを蓄えておいて様々な効果を発揮する赤い宝石。

 

 赤い宝石を含む様々な魔術関連の品はこれから地下鉄の貨物列車でここへ運ばれてきて、この機械を積み込んで、またどこかの倉庫へと運ばれていく。

 

 おそらく、逢坂はその到着を待っている。

 

「私たちのこれからの行動について、選択肢は3つあります」

 

 ここからの選択は重要だ。

 選択をミスると、逢坂とその仲間6人を一網打尽という計画は崩れる。

 

 また1から調査活動を行わないといけなくなり、後手後手に回ると最悪の場合、関東圏は壊滅する。

 

「まずは、ここで待ち構えて機器を回収に来た連中を迎え討つ。機器は確実に護れますが、倒せるのは頂上階から機器をここまで運んだ武藤(むとう)高野(たかの)の2人プラスアルファです」

「それについてはオレも同意見だ。逢坂本人は動く気もなければ、前線で戦える能力はない。その上で自分の護衛も出さないだろう」

 

 逢坂の性格については今までの情報からの分析だが、本人を知っている松葉が言うならそうなのだろう。

 

「2つ目。機器を回収部隊に回収させた後、列車を尾行。敵の拠点を突き止めた後にそこへ殴り込みをかけます」

「貨物列車はかなり速いんでしょう? どうやって追跡するんです?」

 

 合田の疑問はもっともだ。

 鞄から盗難防止タグを取り出す。

 

「先日に盗まれたメダルの場所を追跡するために使用したのと同じもので、効果と精度は合田さんもご存知だと思います」

「でも、ずっと地下鉄の路線ばかりを移動されると、電波を拾えず見失う可能性もあるのでは?」

「それもありますし、周防大臣の自宅や別荘など、法律で守られた場所に持っていかれると手を出せなくなる危険(リスク)もあります」

 

 尾行作戦の欠点はそれだ。

 手元にあるタグだけに全てを託すのは少し不安だ。

 

「最後の選択肢は?」

「この機器を持って保土ヶ谷の公園にいる『尖塔』の制御権を奪って、逆に逢坂たちを呼び寄せます。お前たちの計画の要は全てここにある。返してほしくば攻めて来いと」

 

 この案のデメリットは、こちらが守勢になることだ。

 いつどうやって攻めてくるか分からない相手を24時間体制で守らないといけないのはハードルが高い。

 

 俺から提示できる案はこの3つだ。

 

 もしかしたら、他にもっと良い手があるかもしれないので、それは意見を出してくれたら良い。

 

「これらの案にはどれもメリット、デメリットがあります。どれが正しいのか、私には断言できません。なので、皆さんの意見を聞かせてください」

 

 一同で意見を出し合う。

 その上で俺たちが出した結論は――

 

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