収穫祭の魔女   作:れいてんし

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第42話 「帰還の日」

 ついに、帰還の日がやってきた。

 

 端島たちは、一ヶ月近く世話になった世田谷の下宿を後にする。

 

 生活用品や着替えなど、生活用に購入したものは、一通り元の世界に持ち帰る予定だ。

 

 荷をまとめて鞄に詰め込み、一応の掃除をしてから最後に施錠する。

 

「掃除なんて初めてやりましたよ。でも、社会勉強だと思えばためになります」

 

 そう言う合田は顔や髪に洗剤の泡を乗せたままだったので、端島はウェットティッシュを取り出して拭った。

 

 いつも細かいところまで仕事が丁寧な合田だが、家事が色々と雑だった。

 人間、苦手なものが色々とあるということだろう。

 

「今までどうしてたんだ? 家の手伝いとか?」

「ハウスキーパーの人がやってくれていたので、家の手伝いはあんまりやったことないですね」

 

 ここに来て合田の言葉に、端島は驚くしかなかった。

 

「ハウスキーパーって……何だ? 何のジョブ? どんなスキルがある?」

 

 全く知らない……否、知らなくはないが、それでもなお知らない世界がすぐ近くにあった。

 

「私の両親は共働きなので、週に何回か入ってもらっていたんですよ。マンションもワンフロアあるので大変ですし」

「マンションが……広い!?」

「どうなってるの、合田チャン」

「何って、普通のマンションですよ。頂上階でもなく25階なので。ベランダもそんなに広くないですし」

「待って、怖い。なんか違う世界の住人がいる」

「端島クンは庶民だもんね」

「梨本もな」

 

 端島と梨本は意気投合。

 だが、合田には、それが仲間はずれにされたようで気に入らなかったようだ。

 

「私だけのけものはやめてください。ずっと仲間でこれまでやってきたじゃないですか」

「それはそうなんだけど」

「自炊ができるところも見せたでしょう」

「味が付いてなくて、管理人のおばちゃんに直してもらったやつな」

「適量としか書いてないレシピが悪いんです」

 

 端島と梨本は笑った。

 

 短い間の下宿生活ではあった。

 初めての一人暮らし、初めての自炊、初めての掃除……わずかな期間ではあるが、思い出はたくさんあった。

 

「待って、もう出るの?」

 

 やや遅れて、後から下宿に住んでいた船木、キクさん、木野、若林たちも荷物をまとめて部屋から出てきた。

 

 東京タワー組も行くところがなく、2週間ほどこの下宿に住んでいた。

 端島にとっては合田、梨本たち以上に短い期間ではあるが、それでも、同じアパートに住んでいた仲間だ。

 

「まだだよ。この後に警察の護送車が迎えに来てくれるらしい」

「警察ぅ?」

 

 船木が眉をしかめた。

 警察の護送車=犯罪者の護送というイメージで、あまり良い気分ではないようだ。

 

「帰る前に横浜の公園で儀式があるだろ。必要な道具や警備の人はみんな警察だから、そのついでに俺たちも乗せていってくれるんだと」

「まあ、バス代わりだし良いんだろうけど」

「というか、バスなんだよ。別に犯罪者だけを運ぶ車ってわけじゃなくて、何かの警護をする時に警察官が移動する時にも使う車なんだし」

 

 下宿の入り口では、管理人のおばちゃんが待っていた。

 一人一人が鍵を返して、それで終わりだ。

 

「じゃああんたたち、達者でな」

 

 下宿の管理人のおばちゃんの挨拶はシンプルだ。

 まるでいつもの日常のように淡々と別れの挨拶をこなす。

 

「今までありがとうございました」

「いやいや、あんた達みたいな短期間は逆に珍しいからね。事情によっては、半年とか1年とか住んでるし、昨日入ってきたのにもう出ていくって感じだ」

 

 下宿の管理人は感情を見せずに淡々と語った。

 そういうところが、実にプロらしい。

 

「というわけだ。多分、あんた達みたいな短期間組はすぐに忘れちまうと思う。悪いけど」

「覚えていてくださいよ」

「嫌だね。あまり愛着を持つと、別れが悲しくなるだけだよ。それに、ここは訳アリの連中しか入らない仮宿だ。もう戻ってくるんじゃないよ」

 

 あくまでも淡々とした態度。

 さすがにこれには端島も苛立ちを隠さなかった。

 

「じゃあ、せっかくなので記念写真でも撮ろう。そのくらいは良いでしょう」

「記念写真?」

「そうだ。俺たちがここにいたって記録くらいは残しておこう。このまま家に帰るのもちょっとアレだよアレ」

 

 端島は、まずは誰もいなくなった下宿にスマホを向けて1枚撮影した。

 次に荷物を抱えた仲間たちに連射撮影。

 

「端島さん、その撮り方は頭が悪すぎます」

「普通はみんなで下宿の前に立って一枚でしょ」

 

 合田と梨本がダメ出しをする。

 これもいつもの日常だ。

 

「じゃあ下宿組全員で撮るってことか? でも、データはどうするんだ?」

「支給のスマホ……は返さなくちゃいけないんだよね」

「撮った写真をSDカードにコピーして、そのカードを持って帰りましょう。そして、元の世界に戻ったら、クラウドで全員共有すれば完璧です」

 

 合田の提案に端島は膝を打った。

 

「それで行こう。カードとリーダーはどこかで買えるのか?」

「コンビニに売ってると思うし、集合場所に行く途中に電気屋に寄ってもらえばいいでしょ」

「どうせならプリントもしますか? 確か、電気屋に印刷機があったりしますよね」

 

 合田の提案も全員異論なしだった。

 データで持つのも良いが、実物の写真で持つと、また気分も変わってくる。

 

 手早く方針をまとめたところで、管理人のおばちゃんも引っ張り、下宿の入り口の前に全員が並ぶ。

 

「それで、この状態で誰が撮るんだよ?」

「お猿さんに任せましょ」

 

 船木がそう言うと、ピョンと召喚された猿が飛び出した。

 

 猿は端島の手からスマホを受け取ると、素早く距離を離してスマホのカメラレンズを向ける。

 

「じゃあ、いちたすいちは?」

「にっ!」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 端島たちが帰還する前に、まだ最後の仕事が残っている。

 

 それは、横浜市の保土ヶ谷の公園に仕込まれた「尖塔」を制御する儀式だ。

 

 前回は東京タワー頂上から届いた機器をカーターが持参した私物の魔力結晶で強引に起動。

 増幅魔法陣の出力アップで無理矢理制御するという力業だったが、さすがにそんな無茶は何度も出来ない。

 

「本日はよろしくお願いします」

「はい、今日は事前に仕上げてきましたので、まずは準備をいたします」

 

 儀式の準備のために、予定時刻よりも若干早く集まったのは、俺……上戸佑(うえとたすく)

 

 京都の魔術組織の桂さんと、同組織所属の方々。

 探偵事務所所属の須磨(すま)さんだ。

 

 まずは、本日の主役である京都の魔術組織の桂さんと握手をした。

 今回の儀式を行うために、わざわざ京都から来ていただいたのだ。

 

 魔術と儀式の知識についてならば、この京都の組織の方々が、今の日本ではトップだ。

 彼らの知恵と技術を借りない理由がない。

 

 桂さんと、同行してきた京都の組織のメンバーたち。

 巫女さんや禰宜(ねぎ)権禰宜(げんねぎ)

 着物に袴という神職のような服装の面々が、持参した道具を次々に並べていく。

 

「上戸さん、お久しぶりです。こちらの現場では、私がサポートに入ります」

「よろしくお願いします。戦闘は発生しない見込みですが、その際は私たちに任せてください」

 

 作業の補佐にあたっていただくのは探偵の須磨さん。

 

 魔術師ではなく、八頭(やず)さん直属の警察に近い部下という形で、今回の事件では裏方に回っていただいていた。

 

 今回は警察との折衝や、トラックの運転、特殊車両の操縦などでのサポートにあたっていただく。

 

 前回、フォークリフトの操縦などを担当したカーターは東京の方で伊原さんと一緒に帰還の準備を進めている。

 

 なので、こちらの横浜の方には来ていない。

 

 その分、須磨さんには色々とサポート面で協力いただくことになる。

 

 まずは、京都の魔術組織の方々による下準備だ。

 

 尖塔を囲むように周囲に榊を立て、御幣を振り回し、香を炊き、様々な楽器を流しながら練り歩く。

 これは、以前に宇宙人の円盤の動きを止めた時とよく似ている。

 

 線香のような香りと厳粛な音楽が静かな公園に鳴り響く。

 

 一般人向けのカモフラージュのために「地鎮祭」という嘘っぽい張り紙は張っているが、どれだけ効果があるのかは不明だ。

 

 宇宙人の時と、今回で異なるのは、前回は神に捧げる祝詞だったが、今回は仏教系のお教っぽいものをナムナムナムと唱え始めたことだ。

 

 どうも、京都の組織に宗教的なこだわりは全くなく、使えるものはなんでも使うノンポリのようだ。

 

 勝手に京都の山中に住み着いたペンギンを御本尊扱いしてうまく使ったり、明治時代の神仏分離令や廃仏毀釈なんぼのもんやとまぜこぜで活用し続けたり、科学技術を取り入れたりと、アカデミックに傾倒してるだけあって、技術面は本当に強い。

 

 この人たちに出来ないのは戦闘だけだ。

 

 もちろん、俺もただ傍観してはいられない。

 

 儀式をしている京都の方々の邪魔にならないように気を付けながら、地面全体にバルザイの偃月刀で魔法陣を描いていく。

 刻み込むのはもちろん、増幅魔法陣。

 

 俺のスキルで作成した増幅魔法陣は、時間制限で自然消滅する。

 だが、こうやって地面に直接彫り込んで描いた魔法陣は出力は落ちるものの、少々のことでは消えない。

 

 最低でも、地面に描いた図形が風化して消えるまで、半年以上は魔力供給を続けるだろう。

 

「終わりました。次は機器を設置します」

 

 須磨さんがミニクレーンを操縦して、機器をトラックから降ろしては、所定の位置へと配置していく。

 

 今回は、尖塔が沈黙していて邪魔をしてこないので、機器の設置はスムーズに進んだ。

 

 一通り下準備が済んだ頃に、やや遅れて端島たちを乗せた護送車。

 そして、松葉を乗せたパトカーが到着した。

 

 最初に警官が降りてきて、万が一のために一般人が近付かないよう警備につく。

 だが、そのせいで、後から降りてきた松葉が逮捕されて護送されてきた犯人にしか見えなかった。

 

「あんた、まるで逮捕されたみたいに見えるんだけど」

「こいつらが運ぶと言ったから乗せてもらっただけだ。逮捕じゃない」

 

 松葉は不満そうに言うが、悪役顔の松葉は、やはり連行された犯罪者に見えてしまう。

 一応「敵」ではあるのだが、さすがに同情する。

 

「準備はどうだ?」

「ほぼ終わりですよ。今から、端島さんたちが見つけてきたエネルギー供給ユニットを取り付けるところです」

「エネルギー? ……ああ、蜘蛛ね」

 

 端島たちが見付けてきた蜘蛛のような魔道具……これは周囲から魔力を集めて、エネルギーの形で供給することが出来るものだ。

 

 八王子の異空間では、この魔道具があちこちに家屋の配電盤に付いており、電力などを供給していたのだ。

 エネルギーの供給性能はなかなかのものらしく、制御装置を動作させるには十分な出力が確保できそうだとか。

 

 増幅魔法陣との相性も良さそうだ。

 

 京都の方々が、エネルギー供給装置の横に隠されていたカバーを器用に外した。

 

 中にはカラフルな配線や電子機器の基盤のようなものが取り付けられていた。

 そこに、桂さんが指示を出しながら、蜘蛛のような魔道具を取り付けている。

 

「これは結局どこで見付けてきたんですか?」

 

 作業完了には若干時間がかかりそうなので、その間に魔道具の発見者である端島に尋ねた。

 

「八王子の山だよ。結界が壊れた後に、中にいた人や影が外の空間に放り出されただろ」

「ええ、覚えています」

「合田が、もしかしたらあの時に、ニュータウンに設置されていた機械もこっちの世界に放り出されたんじゃないかと言ってさ」

「拾いに行ってきたんですよ。もちろん、発見には私のスキルが役に立ちました」

 

 合田が眼鏡のブリッジを指で押し上げて、自信ありげに言った。

 

「やっぱり俺たちのチームには合田が必要だよ」

「ホメたって何も出ませんよ」

 

 合田は口では淡々としているが、やはり評価されたことが嬉しいようだ。

 さりげなく口調が若干柔らかい。

 

「それはなんとも……灯台下暗しというか」

「そうだろ。で、仲間を集めてローラー作戦で探しまくったら、いっぱい出てきたんだ」

「半分くらいは壊れていましたけどね。それでも10個ほどは無事なものがありました。それだけあれば十分だと思います」

 

 合田の口から予想以上の成果報告が飛び出した。

 

 理屈を聞くと、人間と一緒に外の空間に投げ出されたというのは納得なのだが、裏東京に隠れていると思っていただけに、少し騙された気分だ。

 

「裏東京の調査の方は?」

「こっちは2個」

「はいはーい。こっちは私が見つけました」

 

 今度は船木が自信満々に主張した。

 

「あの塔って、エレベーターや頂上階の照明があったでしょ。よく考えたら、エネルギー供給してるやつがないと動かないよねって」

 

 やはり、この理由も納得だ。

 

 外部エネルギーなどない地域で照明やエレベーターなどの機器を動かしているシステムがあるのだから、動力源に何かが用意されているのは当然の話だ。

 

「松葉は探しまくったんだけど、見つけられなかったんだよね」

「いちいち煽るな。それぞれには得意分野があるってことだ」

 

 松葉が悔しそうに捨て台詞を放った。

 

 だが、実際問題として何も見つけられていないのだから、それ以上何も言い返せないようだった。

 

「これなら儀式もやり放題だろ」

「そうですね。1個で足りる見込みですが、途中壊れることも考えて2個取り付けました」

 

 桂さんの指示で2個の蜘蛛のような機械が機器のエネルギー部に取り付けられた。

 

「かなり余ったな」

「残りは持って帰って、私たちの世界で使えばいいんです。多分、この塔みたいなやつも出てくるんでしょ」

「それもそうか」

 

 儀式では特にやることはない端島たちは邪魔にならないよう、若干離れた位置に移動する。

 

「それでオレたちは何をすればいい?」

「チョークで丸を書いた場所があります。そこに船木さんと松葉さんが立ってください。魔法陣からのエネルギー供給が得られます」

「なるほど」

「制御自体はこのシステムで行います。ですので、お二人方はスキルで命令を与えるだけで大丈夫です。むしろ、スキルを使う本人は魔力を出さないでください。ノイズになります」

「前回とは逆で極端だな」

「元々制御機械があるんだから、私たちがこうやってスキルを使ってるのがおかしいんだとは分かるんだけど」

 

 船木と松葉が何か納得仕切れない顔をしながら、桂さんの指示通りに、所定の位置に待機する。

 

 桂さんが、またも機器のコンソールの上で教を唱えながら、指で印を切った。

 モニタに画面が一瞬表示された後に、すぐに暗転する。

 

「お二人方、ここでスキルを使用ください」

「えっと? こう?」

「これでいいのか?」

 

 船木と松葉の手が一瞬だけ光ると、尖塔の方もそれに合わせて、一瞬だけ赤い光を放った。

 

「オン!」

 

 桂さんの大きな声が響いた。

 

 しばしの静寂。

 

 そこから何が始まるのかなと思ったが、むしろ逆だ。

 

 桂さんは深く頭を下げて礼をした。

 それで儀式は終了のようだった。

 

「儀式は以上です。これで制御は完了しました」

「待って」

 

 傍から見ている分にはいつ何が始まって、いつ終わったのかが全く分からない。

 

 それで終わりといわれても納得できないので、さすがに突っ込んだ。

 

「何が起こったのか分からないんだけど」

「ですから、制御です。尖塔の機能を反転させて、世界の修復を始めさせました」

「いや、そうではなくて」

「そこの機器に耳を当てて音を聞いてみてください」

 

 桂さんの言うとおり、機器に近付いて耳を当てると、中から定期的にカチカチカチと、時計の歯車が回っているような音が小さく鳴っているのが聞こえた。

 

「動いていますね」

「私たちは大したことはやっていません。本来の機能を動作させるために、十分なエネルギー源を供給して、動作させてやった。それだけです」

「なるほど」

「ただし、そのままだと世界が壊されていくだけです。なので、今回は、お二方の助力をいただき、この機器を反転させました。それにより、この尖塔は、世界を破壊しているつもりで、実は修復しているのです」

「なるほど」

「陰と陽、相生と相克。世界を騙して逆のことを指せるのが陰陽道なわけです。我々はそういうのは専門外なのですが、便利ですので術のエッセンスのみ使わせていただきました」

「なるほど」

 

 なるほど。

 

 技術や細かい理屈については何も分からない俺には、もう「なるほど」としか言いようがない。

 

 呆気なさすぎるがこれで解決らしい。

 

「おい、待て! オレはこの強力なモンスターを制御して能力者の頂点に立つはずだったんだぞ。なんで権限が消えて自動実行に切り替わってるんだ!」

 

 松葉が怒りを露わに桂さんに近づいていく。

 だが、桂さんは動じない。

 

 一切表情を変えることなく、松葉に一冊のノートを手渡した。

 松葉はその動きに見事に飲まれて、ごく自然な動きでノートを受取り、ページをめくり始めた。

 

「これは?」

「今回の儀式で使用した魔法陣の作成方法や儀式の手順などを記載しています。あなたにはこれが必要なのでは?」

「いらん! オレはあくまでも自分の力だけで制御を……あれ?」

「お気づきになりましたか? 別にスキルに頼らなくとも、道具さえ揃えれば、この方法で楽して制御できると」

 

 松葉はノートを持っていない左腕を振り上げたが、その下ろしどころがなくなったようで、仕方なく自分の太ももを打った。

 

 松葉も気付いたのだろう。

 本来の目的は強力なモンスターを制御することだ。

 

 別に自分が苦労せずとも、全部機械が制御してくれるならば、その分だけ楽が出来ると。

 

 そして、ここのモンスターを無理に制御して持ち帰らずとも、自分の世界に戻れば、同じモンスターが出現することに。

 そちらを操れば、連れ回す手間が省けることに。

 

「これは、元の世界でオレが機器を集めればそれで解決ということか」

「はい」

「待ってくれ、そいつ一人のそんな強い力を与えたりしたら!」

 

 端島が慌てて言うと、桂さんは淡々と、松葉に対してそうしたように同じ動きでノートを取り出し、船木と端島の2人に渡した。

 

「技術の独占はいけませんからね。こちらをどうぞ」

「あっはい」

「……ありがとうございます」

 

 端島と船木が同じようにノートを受け取った。

 

「オイちょっと待て。なんでその2人にも同じものを渡す!」

「これはただの技術ですよ。機器と動力源がなければ、同じことはできません」

 

 くってかかる松葉を桂さんは変わらないマイペースで軽く返した。

 

「要するに、俺たちの世界で、この機器を先に見つけたら松葉は好きにできないと」

「どの道、私と2人で制御しなきゃいけないから、独占なんてできないんだけどね」

 

 たとえ技術が手に入っても、現状だと松葉1人では制御は出来ない。

 

 必ず船木と手を組むか、桂さんが渡した技術を研究、ブラッシュアップして一人でも起動できるように改良しないといけない。

 

 その場合も、端島が先に機器を確保してしまえば、好きに動かすことは出来ない。

 

 松葉が独占することは不可能ではないが、かなりの困難を伴う。

 

「こうなることを狙っていたのか?」

 

 松葉の怒りは、最初に「強力なモンスターがいる」という情報を渡した俺に向いた。

 

 ただ、矛先をこちらに向けられても困る。

 

「いえ。私は松葉さんの実力を知りませんでした。あくまでも、強力なモンスターがいて、それを制御すれば力が手に入るという情報提供をしたまでです」

 

 これも言葉通り。

 

 俺も最悪の場合、松葉が1人で制御した場合はどうしようと思っていたので、今のような形に落ち着いたのは結果論ではある。

 

 ただ、松葉の協力のおかげで、なんとか俺たちの世界は助かったのだから、結果オーライだ。

 

「何も手に入っていないのと同じだ! 何も手に入れられていない。これじゃあタダ働き……」

 

 松葉はそこで言葉を止めた。

 

 手にしたノートと機器を交互に見ながら、何やら独り言を呟きながら、思案を始めた。

 

「多分ろくでもないことを考えてるんだろな」

「まあいいさ。何か悪いことをしようとしても、潰せる種は手に入ったんだから。後で合田に教えてもらうさ」

「そこは私に聞きなさいよ!」

 

 端島は少し頼りないし、船木も少し怪しいところもあるが、まあ、合田もいるし多分なんとかしてくれるだろう。

 

「では、移動しましょう。皆さんが元の世界に戻る時がやってきました」

 

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