収穫祭の魔女   作:れいてんし

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第三話 「謎の洋館」

 朝食とは思えないほど豪華な料理を食べた後に城崎の温泉旅館を後にした。

 

 最初に値段を見た時には軽く死にかけたが、こうやって過ぎ去ると良い思い出だ。

 

 車のエンジンを掛けて、しばらくアイドリング。

 エンジンが程よく温まったところでゆっくりと出発する。

 

 古い車なのでエアコンの性能は低いが、その分、空冷エンジンからの排熱はもろに室内へと上がってくるので、冬場はただエンジンが動いているだけで意外と温まる。

 

 夏の話はするな。

 

「この後はどうするんだ?」

 

 優紀が金具に引っかかってなかなか引き出せないシートベルトを締めながら尋ねてきた。

 

「まっすぐ目的地を目指したいところだが、玄武洞スルーはありえない。巨大なカニバサミのオブジェクトがある土産物屋を見てから、今晩の宿に向かう」

「宿って遠いんだっけ?」

「鳥取県の真ん中くらいだから、寄り道しなけりゃ、午前中には着くと思う。まあ、寄り道するんだけど」

「今から行こうとしている玄武洞がもう寄り道なんだけど」

「もちろん、何か所も寄り道する。それが旅ってものだ」

「それは楽しみだ」

 

 まずは玄武洞だ。

 

 洞窟巡りと、近くに建てられた、洞窟の成り立ちや恐竜などが展示されているミュージアムの2つの施設があるようなので順に巡ることにした。

 

「なんでもいいけど寒いな」

「吹きさらしの洞窟だしなぁ……多分、冬に来るところじゃないんだと思う」

「城崎に来てからずっとそれを言ってるな」

 

 この寒さで誰も訪れる者はいないのだろう。

 

 誰も踏み固めていない降り積もった新雪に足跡をつけて、順路に沿って歩いていく。

 白いコートの裾は、この2日間の行軍ですっかりドロドロだ。

 

 凍てつく空気の中、辿り着いた先には、規則正しい六角形の石柱が天を突く、圧倒的な造形美が待ち構えていた。

 

 観光名所として有名になるのもわかる。

 だが、寒い。とにかく寒い。

 

 ただ立っているだけで、日本海に近い冬の厳しい寒波が吹き抜ける。

 

 あまりの寒さに5つの洞窟のうち3つで切り上げることにした。

 

 だが、残り2つを行かないままというのは、今後の人生でふとした瞬間、後悔することになるかもしれない。

 

 併設のミュージアムで暖を取りながら、展示されているパネルを見て「行ったこと」にすることにした。

 

 館内では、地殻変動による洞窟の成り立ちなどが解説されていたが、さすがに専門用語が多く、素人にはわかりにくい。

 

 専門知識があれば、もう少し理解できることも多いのだろうなと思いつつ、やはり視覚的に分かりやすい恐竜の化石の方に目が向かう。

 

「なんたらサウルスはどこに行ってもいるな」

「化石の採取地はアメリカって書いてあるんだけど」

「なんだ……ここはアメリカだったのか」

 

 いつの間にか海外旅行に来ていたらしい。

 ちょっとお得だと感じながら、玄武洞を後にした。

 

「次はどっちだ?」

香美(かみ)町で土産の蟹を買ってから、餘部(あまるべ)連絡道路から鳥取方面に抜ける」

 

 宣言通りに兵庫県道9号線を道なりに進む。

 

「今の橋の下、谷間を通ってるのが、JR山陰線。直哉が石を投げてイモリを潰したところだな」

「直哉はこんなところまで歩いてきたのか」

「旅館前の川の源泉がそこらだから、道沿いに登って来たんだと思う。まあ2キロくらいだし、すぐと言えばすぐか」

 

 そこから美しい海岸が広がる竹野、蟹と温泉の隠れた名所の佐津、柴山を抜けて、蟹の町である香美町に入る。

 

「ここが第一の寄り道ポイントだ。俺の家とお前の家の土産用の蟹を買っていく」

「まさか、松葉を?」

「松葉ガニだけど、安いセコガニな。卵持ちの小さいやつ。福井の越前からこの先の鳥取までずっと蟹街道であちこちで松葉ガニが買えるけど、ここで買うのが一番安いと思うんだ。2人の実家の土産を買っても1万でお釣りが来る」

「でも、車で持って帰るには向いてないだろ」

「郵送だよ。ここで買ったカニを宅配便で送る」

 

 少し探すと、漁港近くにカニの直売店が見つかった。

 俺と優紀の実家、それに自分たちが食べる分の3家族分を購入。宅配便で送った。

 

 我が家の分は、配送倉庫止めにしておいた。

 旅行帰りに直接回収すれば大丈夫だろう。

 

「次は古のエ……アニメAIR(エア)の聖地を見て回ろう」

「AIRの聖地って和歌山の御坊じゃなかったっけ?」

「展望台なんかは、こっちだよ。両方が混じってるんだ。御坊は年が経ちすぎて何も残ってないけど、この町はまだ新規でパネルが作られるくらい現役だ」

 

 一度香住(かすみ)駅まで移動。そこから産業道路沿いに車を走らせていくと、道路脇にAIRのキャラの飛び出し小僧看板がいくつも並んでいるのが見えた。

 令和だぞ。

 

「今でも残ってるのは驚きなんだけど、AIRは夏のイメージだから何か違うな」

「景色自体は綺麗なんだけど、冬の日本海はちょっと寒々しいかな。夏にもう一度来たいところだけど、来年の夏は東京だし難しいかな」

 

 これは昨晩、優紀に誓ったばかりだ。

 今年の春から東京に行くと。

 

 一度行ったからには、ある程度、生活が落ち着くまでは関西圏に帰ってくるのは難しいだろう。

 そう考えると、次にここに来るのは何年後になるのか。

 

「来年じゃなくてもいいじゃないか。またそのうち来よう」

 

 優紀の返事がありがたかった。

 これは、来年も、その先も俺と一緒にいてくれるということだ。

 

「そうだな。またそのうち」

 

 軽い約束とは思わない。

 必ず、終わらない夏を見るために、またここへ帰ってくる。

 

 次の目的地に向かうため、香住ICから山陰近畿自動車道に入った。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 経路途中にある餘部(あまるべ)橋梁も一度は見たかったのだが、トンネルだらけのバイパスを走っていたら、餘部はいつの間にか通り過ぎていた。だが、今更戻るほどではない。

 

 新温泉町のバイパス分断区間で一度町の中に入った後、再度、山陰近畿自動車道に乗って移動を再開する。

 

 鳥取県に入ってすぐのところ、岩美ICで降りて、浦富海岸やFree(フリー)の聖地を見るというのも少しだけ考えたが、やはりAIRと同じで夏イメージだ。

 

 冬の殺風景な中で降りてもありがたみはなさそうなので、予定通り通過した。

 

 福部ICで一度バイパスを降りて、鳥取市内へ。

 もちろん、鳥取砂丘を見るためだ。

 

 ちょうど雪も降っているため、貴重な雪に埋もれた鳥取砂丘を見ることが出来るはずだと信じて車を進める。

 

 砂丘会館とやらの駐車場に車を停めて、少し歩いて砂丘を目指した。

 

 日本海から吹き付ける寒風が、砂混じりの雪を容赦なく顔面に叩きつけてくる。

 

 見渡す限りの雪に覆われた白い世界。

 

 確かに美しい。

 美しいのだが、吹き付ける寒風は玄武洞の比ではない。

 

 悠長に感動を味わう余裕はなく、スマホのカメラを向けてシャッターボタンを押すのが限界だった。

 そのまま砂丘の奥へと踏み込めるかと聞かれると絶対に否だ。

 

 逃げるように愛車へと引き返した。

 冬の砂丘は、生身の人間が観光気分で立ち入る場所ではない。

 

「ずっと同じことを言ってる気がするんだけど、なんでこんな真冬に山陰に来ようと思ったんだっけ?」

「蟹と温泉」

「2日目に入ってから、蟹も温泉もなく、ただ、ひたすら寒々しい冬の荒れた日本海を見ている気がする」

 

 鈍色の空に降りしきる雪。

 オールドカーである愛車の外気温計は、そこまで高性能ではないため、0度を下回った時点でボイコットを始めている。

 

「とりあえず予定変更だ。この砂丘会館で何か温かいものを食べて、温まってから移動しよう」

「それがいい。やっぱり蟹か?」

「うどんでいいだろう。寒い時は温かいうどんに限る」

 

 海沿いだろうが、蟹が名産の地域だろうが、やはり頼れるのはうどんだ。

 俺たちはずっと、うどんを生きがいにしてきたのだから。

 

 併設の食堂に入り、食券自販機の前でメニューを一通り眺める。

 

「俺はしっぽくうどん」

「なんだよ、その謎のメニューは」

「炊いた野菜や揚げが入ってるうどんだよ。温まるならこれだ」

「なるほど、それは美味そうだな。じゃあ、私は牛骨ラーメンで」

「うどんじゃない……だと!?」

「日本中どこでもうどんを食おうとするのは、恵理ちゃんや小森君に悪い影響を受けすぎだろう。それに、鳥取の牛骨ラーメンって食べてみたかったんだ」

 

 そう言われてみると、牛骨ラーメンの味も気にならないわけではない。

 

 だが、やはり寒い時にはうどんだ。

 体の芯から温まるにはそれが必要なんだ。

 

「安心しろ。後で一口食わせてやろう」

「なんで偉そうなんだよ。まあ、貰うけど」

 

 自販機が食券を吐き出した音が会館内に妙に高らかに響き渡った。

 ジャラジャラとお釣りが吐き出される音も妙に大きく聞こえる。

 

 いつの間にか館内BGMも、人の声も……建物の外を吹き抜ける風以外の全ての音が消えていた。

 

「なんだこれ? 急に音が……」

 

 違和感があったので、辺りを見回した。

 

 いくら冬季で客が少ないとはいえ、有名観光地だ。

 館内にはそれなりの人間が歩いていた。

 

 だが、いつの間にかその姿が1人も見当たらない。

 

 食堂の厨房の中で働いていた従業員も、土産物コーナーで土産を物色していた観光客も、レジ打ちしていた店員も全てが消えていた。

 

 それだけではなく、天井の照明や、地域のアナウンスを流していたモニタの電源まで消えていた。

 

 目の前の食券自販機も、完全に応答が消えていた。

 よくお釣りを吐き出すところまでは持ってくれたものである。

 

(たすく)、何が起こっているんだ?」

 

 優紀は不安そうな声を掛けてきたが、無事のようだ。

 俺と優紀以外が攻撃された……というより、俺と優紀だけが、いつの間にか歪んだ空間に飲み込まれたと考えるべきか?

 

「分からない。だが、何かが起こっていることは間違いない」

 

 食堂を歩くと水のピッチャーを見付けた。

 コップを押し当てると、元気に水を吐き出して、コップの中を水で満たした。

 

「その機械は動くんだな」

「単純な機械式だからな。コップを押し当てるとレバーが動いてコックを動かすので水が流れる」

 

 まずは水を口に含む。

 水が特に腐ってはいないことから、裏東京のように、現実の世界と似ているだけの全く別の空間に迷い込んだのではないと分かる。

 

 そのままごくごくと水を飲み干す。

 冷たい水が流れてきたことで、思考が冴えてきた。

 

 続いてスマホを取り出し、カメラで撮影する。

 数枚周辺を撮影するが、特に人の姿は写っていない。

 

「今度は何を始めたんだ?」

「俺たちの認識が幻術的なもので歪められたせいで、無人の空間に見えるだけという可能性を考えた。その検証だ」

「カメラで撮ることに何の意味が?」

「スマホのカメラはあくまで機械だ。幻術で認識を変えようが、カメラで撮影すれば、画像データというデジタルデータは作られる。そこに幻術が関与する要素はない」

「私たちの認識がずらされて、スマホの画像も認識できなくなっているとしたら?」

「それはない。カメラアプリには顔認識機能が付いている。それが無反応だということは、カメラの撮影範囲内に人はいないということだ」

 

 同時に、カメラ機能を阻害する霧のようなものは発生していないと分かる。

 撮影された館内の画像はクリアだからだ。

 

 続いてSNSの更新。

 こちらも問題なし。

 

 最新の情報が流れてくる。

 最後は地図アプリ。現在位置に変わりはなし。

 

 以上の情報を総合すると、俺たちだけが現実と少しズレた空間の中に閉じ込められていると考えていい。

 スマホの電波やGPSが入るということは、完全に現実空間と隔離はされていない。

 

 問題は、これは攻撃なのか? それとも現象なのかということだ。

 

 攻撃ならば、仕掛けてきた能力者を倒せばおそらく解除される。

 現象ならば、解除するためには、何らかの手段を用いる必要がある。

 

 こういう時は、まずは状況確認だ。

 

 鳥の使い魔5羽を喚び出し、1羽を建物の外へ、1羽を館内に放った。

 

「私はどうすればいい?」

「そこのテーブルに座って待機。目の届く範囲内なら絶対に何があっても護ってやる」

「はい」

 

 素直でよろしい。

 優紀がテーブルに付いたところで、食堂の茶碗を拝借。

 ポットの中のお茶はまだ温かかったので、注いでテーブルの上に置いた。

 

 更に、ティッシュを鞄から取り出し、一枚をテーブルの上に敷き、その上にクッキーを置いた。

 

「ラーメンの代わりにクッキーでも食べて待っていてくれ」

「どこかに行くのか?」

「まだ行かない。敵の位置の特定が出来てからだ」

 

 屋外に放った使い魔の視点を確認する。

 

 雪は相変わらずしんしんと降り続けているが、出歩けないほどの天候ではない。

 車に乗れば、十分逃走は可能だ。

 

 ただし、どこにも人の姿が見当たらない。

 

 射程範囲内の確認しか出来てはいないが、全く人がいない世界になっている。

 

 もし逃走したとして、能力の射程外に出てもこの空間が解除されない場合は、脱出方法が喪われる可能性が出て来る。

 

 なので、逃走は却下だ。

 この現象を解明するまで、ここから移動は出来ない。

 

 建物内の方も、くまなく捜索したが、敵対能力者どころか人っ子一人見当たらない。

 

 続いて架電。電話を掛ける先は和泉さんだ。

 

『何がありましたか?』

 

 コールするとすぐに出てくれた。

 もう年末だというのに、この人は全然休む気配がない。

 本当に体調が心配になってくる。

 

 仕事が大変なのは分かるが、少しは休んで欲しい。

 

「電話はかかるみたいで安心しました。現在は鳥取砂丘の前にいます。つい先ほどから、空間の歪みのようなものに囚われています」

 

 ここから、現在の状況を簡単に説明をする。

 

 これは別に助けを求めているわけではない。

 同様の現象が他で起きていないかどうかの確認だ。

 

 何かあれば報告してくださいと和泉さんに散々言われてきたこともあるので、そこをないがしろにしたくないというのはある。

 

「和泉さんの周りや、他の地域で同様の現象が発生しているなどの報告はありますか?」

『いえ……』

「ありがとうございます。とりあえず、空間からの脱出を試みます。戻りましたら、再度報告いたします」

『わかりました。脱出方法も含めての報告をお待ちしています』

 

 スマホのバッテリーを温存しておきたいので、通話は用件のみで切った。

 

「手際が良すぎだろう。普段からこんなことをしてるのか?」

「もう年末なのでオフに入ったつもりだったんだけどな。好きでやってるんじゃない」

 

 まずは思考を巡らせる。

 脳に糖分を送るために、クッキーを取り出してかじる。

 

 噛んでいるうちに、考えが少しずつまとまってきた。

 

 まず、これは攻撃の類ではない。

 能力者による攻撃ならば、何らかの動きがあるはずだが、何も起こっていない。

 

 結界でもない。

 電波も遮断されておらず、外と通信出来ているし、移動制限もない。視界などの妨害もない。

 

 認識障害ではない。

 これは先程スマホの動作で証明済だ。

 

 では、どういうことか?

 

 空間の歪みだと仮説を立てる。

 そこに俺たちが偶然踏み込んでしまったために、巻き込まれた。

 

 空間の歪みは過去の経験から、中心点から同心円状に広がる場合が多い。

 

 スマホの地図アプリで現在地点を表示させて、現在の食券券売機がギリギリ含まれるような円を描くならば、どこが中心点にふさわしいかを考える。

 

 そして、予想された中心点に使い魔を飛ばして、何があるかをチェックする。

 ビンゴだ。

 現在の建物の奥の方は、ちょっとした丘のようになっているが、そのど真ん中に、不自然な洋館が建っている。

 

 周りに道もないのに、そんな場所に洋館などが建っているわけがない。

 空間の歪みの起点はそこだ。

 

「優紀、ちょっとだけ外に出る用事ができた。付いてきてくれるか? 目の見える範囲にいて欲しい」

「分かった。お前の近くの方が安心だからな」

 

 優紀はそう言うと腕にしがみついてきた。誰もそこまでしろとは言っていない。

 

 建物を出て駐車場に停めてある車の中から、バルザイの偃月刀を回収した。

 

 短剣を片手に駐車場の奥の方へと歩いていくと、茂みの奥に不自然な洋館が建っているのが肉眼でも確認出来た。

 

 イギリス風の建物だろうか?

 

 異世界で洋館に化けていた人食いモンスターを見たことはあるが、それともまた形状は異なる。

 

 ただ、そいつの亜種の可能性はありうるので、油断はしない。

 敵の領域である屋内ではなく、外から勝負を決める。

 

 まずはスマホを取り出して、カメラで数枚撮影する。

 

 続いて、使い魔にスマホを持たせて空からの撮影を試みる。

 真上からの空撮と前後左右360度からの撮影が済んだところで、対処開始だ。

 

「なんなんだ、この変なところに建ってる館は?」

 

 優紀にも俺にも見えているということは、明らかに実体化している。

 魔力がなければ見ることも出来ないという、魔術的な物ではない。

 

「全然分からない。ただ、空間の歪みの拠点は間違いなくそこだ。とりあえず物理で軽くジャブをかけてみる」

「物理?」

増幅(ブースト)!」

 

 3羽の使い魔を増幅魔法陣に作り変えると共に、バルザイの偃月刀を空高く投げた。

 使い魔の1羽に空中で咥えさせて、そのまま魔法陣へと突入させる。

 

 空間に鳥の軌跡、そしてバルザイの偃月刀による魔法陣の描画により、青白いラインが走った。

 

「ぶち抜け!」

 

 増幅魔法陣で強化、超高速、高回転する弾丸と化した鳥は怪しげな洋館の玄関ドアを貫き、反対側の壁を突き破って外へと飛び出した。

 

 異世界で見た人喰い屋敷の同類ならばこれで終わりだが果たして……

 

 第2射の用意をして様子を見守っていると、洋館の外観が色褪せ、半透明になった後に宙に溶けるように消えた。

 

 同時に駐車場内に急に人々の喧騒が戻ってきた。

 これほどまでに寒いというのに、街からは蟹を求めた観光客を乗せた観光バスはひっきりなしにやってくる。

 

 みんな、この寒々しい鳥取砂丘を見て満足するのだろうか?

 

 洋館は陰も形もなく消失しており、空には使い魔とバルザイの偃月刀が宙に描いたラインだけが残るのみだ。

 

「終わった? 敵を倒したのか?」

「いや、全然倒した感触はないので、単に逃げただけかもしれない」

 

 洋館があった場所を使い魔に探させるが、特に何も見当たらない。

 あまり捜索に時間をかけても、使い魔を一般人に見られても事態はややこしくなるだけだ。

 

 使い魔を呼び戻した。

 バルザイの偃月刀は再攻撃を警戒して、コートの内側に隠して持っておくことにする。

 

「和泉さんに報告だな」

「どうする? まだ旅行を続けるのか?」

「それはもちろん。まだ何も分かっていないし、どの道、ここから家まで結構あるから、車で走らなきゃいけないのは同じだ」

 

 ひとまずの危険は去った。

 

 だが、何も解決していないどころか、むしろ何かが始まる気配すらある。

 

「何が起こってるって言うんだ」

 

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