収穫祭の魔女   作:れいてんし

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第七話 「終わらないクリスマス3」

 1周目との違いを検証するために、温泉旅館を出てからのルートを少し変えてみた。

 

 玄武洞には行かずに、兵庫県道9号線を道なりに進む。

 

「今の谷の下を通っていたのがJR山陰線。直哉が石を投げてイモリを潰したところ」

「直哉はこんなところまで歩いてきていたのか」

「旅館前を流れていた川の源泉がそこだから……って、直哉の碑がこんなところにもあったのか」

 

 1周目は気付かなかったが、道路脇に志賀直哉の記念碑が設置されていた。

 

 まさか、直哉本人も小説を書いた50年ほど後に、イモリを潰した場所が地域の名所となるとは予想もしなかっただろう。

 

 これが慰霊碑だと考えれば、イモリも少しは報われたかもしれない。

 

 美しい海岸が広がる竹野、蟹と温泉の隠れた名所、佐津や柴山を抜けて、蟹の町、香美町に入る。

 

 迷わずに漁港近くにあるカニの直売店へ直行。

 

 手際よく松葉ガニの小さい子持ちカニ、セコガニを、俺と優紀の実家、自分たちが食べる分の3家族分を購入して、宅配便で送りつける。

 

「さすがに2周目だと手馴れているな」

「手順は分かっているからな。次は古のエロ……アニメ、AIRの聖地を見て回ろう」

 

 もう順路は分かっている。

 

 一度香住駅前まで出てから、産業道路を走って、飛び出し小僧の写真を撮っていく。

 

 ついでに、アニメに登場する診療所や展望台のモデルを撮影する。

 

「AIRの聖地って和歌山の御坊じゃなかったっけ? 線路沿いも海岸沿いの防波堤の上も歩いたぞ」

「海岸の防波堤は美浜町だよ。グリリバが言ってたラーメンセットも一緒に食べただろう」

「AIRは小野Dだろ」

「そうだっけ? グリリバだった記憶があるんだけど……」

 

 昔のことなので記憶が曖昧だ。

 全部片付いて、家に帰ったらゆっくりアニメを見るのもよいだろう。

 

 続いて香住ICから山陰近畿自動車道に乗った。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 順調に行き過ぎて、昼前には鳥取砂丘についてしまうので、適当に時間調整のため、鳥取県岩美町に入ったところでバイパスを降りた。

 

 浦富(うらどめ)海岸で一度降りて、岩と海辺の景色を堪能する。

 その後は、細い旧道を海沿いに進んでいき、田後(たじり)という小さい集落の空きスペースに車を停めた。

 

「ここはなんだっけ?」

「京アニ繋がりのFREE(フリー)の聖地だ。さすがに公式からの供給が止まったから、こっちの聖地巡礼は減ってきたか」

「あれもAIRと同じで年中夏イメージなんだけど」

「劇場版FINALは冬だな。まあ、5割くらいが東京のトレーニング施設で、残り4割は五輪の会場。ここはほとんど映らないんだけど」

 

 時計を確認すると、10時30分。

 

 30分ほど時間を潰せば、丁度1周目と同じくらいに鳥取砂丘に到着出来るだろうと予想を立てる。

 

 神社への階段や展望台からの景色、小学校跡などを見て回った後に、鳥取砂丘へ向かった。

 

 雪はなおも降り続けている。

 

 鳥取砂丘最寄りの砂丘会館とやらに車を停めて、異空間に飲み込まれるのを待つ。

 

 1周目だと、そろそろ異空間に巻き込まれて、洋館が出現する時刻だ。

 

「外で待っているのは寒いだろう。優紀は建物の中でラーメンでも食べて待っていてくれ」

「食べるのは後にするよ。その間に土産物コーナーでも物色しておく。サンドのグッズがたくさんあるんだ」

「知ってる。この後にぬいぐるみを買おうとするけど、諦めて、サンドとアローラサンドのペアフォトスタンドを買うぞ」

「ネタバレやめろ」

 

 複雑そうな表情をしながら優紀は建物の中へ入って行った。

 

 その間も、俺は洋館が出現するであろう場所を見渡せる位置から動くことはない。

 

 洋館が1周目と同じ位置に出現次第、すぐに対処する予定だからだ。

 

 ところが、1周目で異変が起こった時刻を過ぎても全く出現する気配がない。

 10分経ち、20分経ち。

 やはり何も起こらない。

 

 仕方ないので、使い魔を現地に残し、頭や肩の上に積もった雪を払いながら砂丘会館の中に入った。

 

「どうだった?」

 

 サンドのぬいぐるみを持った優紀が尋ねてきたが、首を横に振った。

 

「ダメだ。何も起こらない。1周目と行動を変えたからか?」

「そうか。とりあえず昼でも食べながら気長に待とう」

「それしかないか」

 

 とりあえずサンドとアローラサンドのペアぬいぐるみを購入した。

 その後に、食券の自動販売機の前で、少し悩んだ後に牛骨ラーメンを頼んだ。

 

 やはり美味い。

 だしと脂の味がどこか洋風なのはテールスープなどと共通点があるからだろうか。

 この普通のドライブインのような場所でこの美味さならば、本格的なラーメン屋に行けば更に美味いのかもしれない。

 

 そんなことを考えながら、食事を終えた。

 

 結局のところ洋館は出現しない。

 

 さすがに痺れを切らしてWeb会議を招集した。

 

   ◆ ◆ ◆

 

「結局洋館は現れないまま。今も出現場所に使い魔を待機させているが、動きはなしだ」

 

 雪が降り続いている駐車場近くには出歩いている人もほとんどいない。

 縄張りが脅かされたと勘違いしたトンビが上空を飛び回り、たまに威嚇のつもりなのか、すぐ近くに滑空してくるくらいだ。

 

「私の方も何もなし。少しゆっくり目に道路を走って、道の周りを見たんだけど、いつもの光景で何もなかったよ。今は岡山駅近くのイオンにいる」

 

 エリちゃんからは何もなし。

 岡山駅周辺は意外と人が多いので、そこに洋館が出現する可能性は低いだろう。

 後は帰宅ルート途中に出現するか否かだ。

 

「オレの方は望美(のぞみ)と一緒に魔力探知しながら探してみたんだが、成果はなしだ」

 

 カーターの方も成果は上がっていないようだ。

 カメラの端の方に麻沼(あぬま)さんの姿も微妙に見切れている。

 

 カーターと一緒に調査を行ってくれているというのは本当のようだ。

 

「役所の仕事の方は大丈夫なのか?」

「オレが、ちょっと用事があると言ったら、もう帰っていいよと言われたよ。どうも、昨日婚約した話と紐付けられて、なんか勘違いされてるらしい」

「勘違いというか、なんというか、それって職場全体から祝福されているんだよ。おめでとう」

「ありがとう……念のために確認するけど、これ何度目の話題だ?」

「1度目かな? 俺も認識していないループが有ったら知らないけど」

 

 これだから時間ループはややこしい。

 誰がその周回で何をやったのかをチェックしないと、本当にわからなくなってくる。

 

 その時、カーターを押しぬけてスーツ姿の女性がカメラ前に割り込んできた。

 久々に見る麻沼さんだ。

 

「お久しぶりです上戸さん。麻沼……じゃない、片倉の嫁です」

「この度はおめでとうございます」

「おめでとうございます」

 

 俺とエリちゃんも思わず祝福の言葉を贈る。

 麻沼さんも、それに答えるように薬指の指輪を見せてくれた。

 

「今は仕事の話に戻りますね。まず、洋館は一度切り離して考えるべきだと思っています」

「洋館とは関係ない?」

「それについて、元同僚から説明があります」

 

 麻沼さんがカメラの視界から消えると、今度は派手なスーツの金髪男、和泉さんがひょっこりとカメラにフレームインしてきた。

 

「和泉です。こいつに呼ばれて合流しています」

「こいつ言うな。これからは義理の従兄弟だろ」

「それが嫌なんですけど! なんであなたが従兄弟なんですか!」

 

 和泉さんがカメラの外側にいるカーターと何やらもめ始めた。

 そういうのは後で暇な時に他所でやって欲しい。

 

 和泉さんも、こちらの困惑に気付いたのか、咳払いした後に話を続けた。

 

「時間逆行という現象を、人間の力だけで為すのは不可能です。人外の『何か』が関係しているとしか思えません。また、それだけの異変に一瞬で現れては消える『洋館』に接触したところで、対抗できるものでもないと思います」

「洋館はまた別の現象ということですか?」

「伊原さんがよくおっしゃっている言葉に『時間と空間には密接な関係がある』というものがあります」

 

 それは確かに俺も知っている。

 アインシュタインも相対性理論でそう言っている。

 

「関東で大規模な空間の変異現象が起こりましたが、それによって大規模な時間の変異現象が起こることも考えられます」

「時間逆行が起こったことで、空間変動の洋館も出現した……と?」

「何が卵で何が鶏なのか分かりませんが」

 

 洋館の消滅は、確かに時間逆転という、とんでもない現象に対して呆気なさすぎたというのはある。

 何か別口の異常現象が発生しており、それに釣られた可能性もあるという考えは分かる。

 

「洋館については今のところ上戸さんの証言しかなく、手掛かりなしです。ですので、無理に洋館を追って時間を使うよりも、この時間逆行現象の解明に努めるべきです」

「つまり、この2周目の周回は捨てて、3周目にかけろということでしょうか?」

「歯に衣着せぬ言い方だとその通りです」

 

 さすがにそれは抵抗がある。

 

 俺たち3人だけは覚えているとはいえ、それも大切な人生の一部だ。

 安易に切り捨てろと言われても抵抗はある。

 

 だが、情報が少なすぎて行き詰っているのも事実だ。

 

「楽観的に考えると、時間逆行が発生したのはたまたま(・・・・)という考え方もありますが」

「まあ、ないでしょうね」

「残された時間で再調査を行い、そこで原因を見つけるのがベストではあります。何のヒントもない以上は雲を掴むような話ではありますが、よろしくお願いします」

 

 以上で特に進展はなく、Web会議は終了した。

 

 会議のログはスマホにダウンロードして、内部データに保存しておく。

 

 そうしておけば、今の会議ログを和泉さんに送り付けるだけで、速やかに情報共有を行える。

 

(たすく)、それでどうするんだ?」

「今のところ何の手がかりも情報もないからな。とりあえず1周目と同じく普通に過ごしながら、移動途中に何かあるかを調べるくらいだ」

 

 せめて探知系の能力があれば話は違っていただろう。

 

 協力者があと何人かいたら……自宅にずっといたら……いくらでもIFは思い浮かぶが、そんなことを考えても仕方がない。

 

 手持ちのカードでなんとかしてきたのが俺たちだ。

 

「とりあえず旅を続けるか」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 コナンミュージアムに行って優紀と一緒に楽しみ、大山の温泉旅館に着いたところまでの動きは1周目と同じだ。

 今のところ何か異変のトリガーらしきものは見付かっていない。

 

 時間は22時。

 俺は一人、フル武装を身に着けた上で旅館を出ることにした。

 

「何もなければこのまま帰ってくる。なければ、また25日の朝に会おう」

「ああ。出来ればこのまま帰ってきてくれることを祈ってる。もし無理なら、昨日の私によろしく」

「分かってるよ。何もないのが一番だ」

 

 優紀に別れの挨拶をして、単身で最寄り駅の大山口駅へ向かう。

 

 車はおそらく次の周回には持ち込めないだろうとの判断で、JR山陰線に乗って少しでも城崎に近付くためだ。

 

 だが、山陰線の終電は早いのと雪のためにダイヤが乱れているようだった。

 本来だと25日中に鳥取駅まではたどり着けたはずだが、どうも、宝木(ほうぎ)という少し手前の駅で0時……つまりタイムアップになるようだ。

 

 宝木駅の予想到着時刻は23時54分。

 それが終電のため、鳥取駅まではたどり着けない。

 

 しかたないので、宝木駅で駅を下車して、駅前で25日0時に戻る案で行くしかない。

 

 ただ、そこから城崎までは空路で60キロメートルほどだ。

 一時間で到着できるので、3周目の準備はすぐに整う。

 

「全く、とんだクリスマスだよ。ジョン・マクレーンかよ」

 

 ぶつくさとぼやきながら、他に乗客などいない寂しい夜の山陰線に飛び乗る。

 

 しばらくディーゼル車特有のエンジン音と微妙な振動に揺られてうちに、列車はダイヤを大幅に遅れて宝木駅に到着した。

 

 周りにはこれと言って特にない寂しい駅だ。

 

 せめて鳥取市内に近い鳥取大学前か湖山(こやま)まで着いて欲しかったが、こればかりは仕方がない。

 

 時刻は23時54分。

 

 駅を降りながら、カーターとエリちゃんに電話して、ストップウォッチのタイマーを合わせる。

 

 腕時計を見ながら時間を確認する。

 23時59分58秒、59秒――00秒。

 

 重力が一瞬だけ消失したような強烈な浮遊感。

 

 視界の端で、降っていた雪が空へ向かって逆流したように見え――直後、世界はノイズが走ったかのように明滅し、再び元の静寂を取り戻した。

 そして世界は変動した。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 12月25日。クリスマス3日目。

 

「ボーボボみたいになってきたな」

 

 駅と駅前の街灯を頼りにスマホの画面を見る。

 

 ホーム画面には12月26日0時と表示されていたが、自動同期が実行されて、12月25日に自動的に更新された。

 

 鞄からタブレット端末を取り出して、エリちゃんとカーターを招集する。

 

「3人とも25日に戻ったという認識でOK?」

「念のため確認したいんだが、この会話は――」

「――この会話は2度目だ。認識違いがあれば挙手!」

 

 反応はなかったので、会議を継続する。

 

「まずはスマホに入れた各種アプリのログデータを、このクラウドストレージにアップロードしてくれ」

「今はいいけど、クラウドに上げたデータは4周目に消えるんじゃないか?」

「あまり考えたくはないけど、そうなる前にスマホにダウンロードしておくよ。ダウンロードフォルダの中身にあるファイルまでは消えないだろう」

「それもそうか」

 

 全員のデータが揃ったところで分析を開始する。

 

「でも、これで何が分かるの?」

「変動幅だよ。もし時間逆行現象が世界同時ならば手の施しようがないけど、それは考えない」

 

 そもそも時間逆行の原理など分かっていない。

 ここからは仮定で進めるしかない。

 

「どこかを起点として、放射状に広がっていくと仮定する。そうなると、起点近くと、そこから離れた場所だと、たとえマイクロ秒でも変動が開始されるまでに微妙に誤差が出るはずだ。幸い……なのか運が悪いのか分からないが、丁度俺たち3人の場所は日本全国に散っている」

「なるほど」

 

 ただし、地磁気のデータなどは人間が見ても簡単に理解出来るものではない。

 2周目の夜にコツコツ作っていたスクリプトと一緒にAIに投げてログの解析をさせる。

 

 26日から25日に24時間の変動があるのだ。

 データもそれなりに変動があったに違いない。

 

 そして、3人の変動幅は基本的に同じになるはずだ。

 1人だけ多い、もしくは少ない場合には、その人物が異変の発生場所に近いということになる。

 

 もし、この3周目で分からなければ、全員が別の場所に移動して同じことを繰り返す。

 

 何度か繰り返せば、蓄積されたデータで時間逆行現象の中心点を割り出すことが出来るというわけだ。

 

 しばらく待つと、AIがログの分析結果を出力した。

 

・人物A:位置歪み:小  地磁気測定:X軸大 Y軸大

・人物B:位置歪み:最小 地磁気測定:X軸大 Y軸中

・人物C:位置歪み:大  地磁気測定:X軸小 Y軸小

 

「人物Aのデータが明らかにおかしいな。これは誰なんだ?」

「エリちゃんだよ。俺がBでカーターがC」

「私が原因ってこと?」

 

 エリちゃんが驚くが、もちろんそれは違うと否定しておく。

 

「まず説明するぞ。俺は時間逆行現象は、発生地点に近い人ほど異常な値が出ると想定した。まずは地磁気……地球にどれだけ影響を与えているかの値の違いを見てほしい」

「X軸とY軸があるのか」

「それがないと位置の特定ができないからな」

 

 タブレットを操作して、位置関係をわかりやすくさせるために地図アプリを表示させた。

 

「カーターは今どこにいる? 東京? 山梨?」

「東京だ。どうせ戻されるならばと東京のホテルに帰ってきたからな」

「なるほど、良い判断だ」

 

 まずは東京にピンを打つ。

 

「2人が中国地方にいるので、分かりやすく東京の緯度にピンを打つぞ。位置的にはこのあたり」

「東京ってこんなに北か?」

 

 日本海に刺すとカーターから間髪入れずに疑問の声が上がった。

 

「日本列島って微妙に斜めに傾いてるからな。緯度だけを見るとこうなる。メルカトル図法を信じるな」

「そんなに北だったとは……道理で西日本より寒いはずだ」

「ラビちゃんの今いる場所は?」

「電車で移動して、今は鳥取県の宝木って駅なんだけど、運良くというか、なんというか、ここはエリちゃんのいる岡山県和気(わけ)町のほぼ真北だ」

 

 エリちゃんに尋ねられたので、現在位置を伝えた後に鳥取県気高町、宝木駅へピンを打つ。

 最後にエリちゃんの自宅がある岡山県和気町にピンを打った。

 

「これで見ると、地磁気データだと和気町は爆発点に限りなく近い。俺がいる鳥取もY軸の違いで、ほぼ真南……と言いたいんだけど、ここでストップウォッチの結果が生きてくる」

「ストップウォッチってボタンを押してから何秒ってアプリだろ。そんなに役にたつのか?」

「役にたつんだよ。このストップウォッチアプリは、参考用にGPSから拾ったデータで正確な時刻をログに残すんだ。当然、衛星の位置データがログ上にしっかり残る」

「もしかして、それって」

「前に言っただろ。本当に前の時間に取り残されているなら、地球の自転と公転に置いて行かれて宇宙の彼方に置き去りになるって。だけど、そうはなっていない」

 

 時間と空間の関係は同じというのは2周目で和泉さんもそう言っていた。

 

 時間と空間は対等に扱われるべきであるというのがアインシュタインの特殊相対性理論だ。

 時間が動かないのであれば、その分だけ空間が動く。

 

 つまり、俺たち3人は時間逆行現象に何の影響も受けていない代わりに、空間変異の影響を受けていたということだ。

 

 ヒントはあった。

 伊原さんが多次元の説明のために書こうとしていた11次元方程式。

 つまり、時間と空間は特定の法則で存在しており、方程式で書き記すことが出来る……科学だ。

 

 科学ならば、時間と空間の情報を取得して4次元方程式に投げ込んで、AI様に解析してもらえば解は出る。

 解けない理屈はない。

 

「もしかして、それを逆手に取ったのか」

「そうだよ。地球は逆戻り、GPS衛星も逆戻り。だけど、俺たち3人は逆補正がかかって、同じ位置に居続けようとする……その歪みはGPSログ上に歪みとなって浮き出る」

 

 世界で初めての時間と空間の観測による数値化。

 これでノーベル賞は俺のもんだぜ!

 

「なので、データを見ると、西側にいる俺の方がエリちゃんよりも、ちょっとだけ影響が少ないんだ。これらのデータを総合的に考えると、この時間逆行の起点は、岡山の津山から和気の間で発生している可能性が高い」

 

 ようやく現象の尻尾を掴めた。

 あとは、ここから更に詰めていくだけだ。

 

 まだ深夜0時30分だ。

 和泉さんも起きているだろうと信じて、電話をかけて2周目と同じように事情を説明した。

 

 更に2周目のWeb会議のログファイルを送り付けて、事情を把握してもらう。

 

『すみません、突然にすごい話が一気に流れてきたせいで、頭がクラクラしてきました』

「お気持ちは分かります。ですが、この現象が進んで私たちも記憶保持をできなくなったら終わりです。私たちは全員12月26日を迎えられずに永遠にクリスマスを繰り返すことになります」

「永遠のクリスマス……なんかちょっとだけ良い話みたいに聞こえるな」

「自分が巻き込まれなければ良い話かも」

 

 エリちゃんとカーターが語呂の良さだけに騙されようとしている。

 俺は、そんなダイハードみたいな戦場のメリークリスマスなんてこりごりだ。

 

「明日は私も岡山の山中に行って原因を調べてみるつもりですが、何かその周辺で魔法絡みの事件など心当たりはありませんか?」

 

 和泉さんはしばらく唸った後に、何か思い出したのか「あれがあった」と話を始めた。

 

『以前に探偵事務所で蘆名(あしな)八頭(やず)から聞いた話を覚えておられますか? 市ヶ谷議員のところへ行く前の話です』

 

 記憶を遡り、最初に蘆名さんに会った時に聞いた話を思い出した。

 

 戦後すぐ、岡山の山中で「いにしえのもの」が古代から復活するという事件が発生した。

 

 警官隊では歯が立たず、対処が遅れたために集落は全滅。

 

 当時はまだGHQ……ようは米軍が日本に滞在していたので、協力を仰ぎ、日米の合同部隊により「いにしえのもの」は鎮圧された。

 

 対外的には村の消滅は「ダム建設のため」と報道されたが、もちろんダムなど建設されていない。

 

 日本の古代には、大和、出雲と並んで岡山県に「吉備」という王国があったと伝えられている。

 

 この「いにしえのもの」はその「吉備」の勢力によって封印された個体であると予想はしていた。

 能力に関しても同等と考えて良いだろう。

 

 単体では単に強い生物でしかないが、他の宇宙人(仮)のテクノロジーを使うことで、空間に影響を与えることが出来る。

 今回のエンドレスクリスマス事件だと、時間に影響があるのか。

 

『蘆名はあの時に「津山事件が二度も起きたとは説明できない」と言っていました。つまり、その事件の場所は津山周辺にあります』

「位置はほぼ一致していますね。事件の詳細は分かりませんか?」

『蘆名に確認してみます。私たちはさすがに岡山山中まで移動するとタイムアップになりますが……』

「分かっています。私と赤土の2人で解決します」

 

 クリスマス3周目にしてようやく光明が見えた。

 あとは時間逆行現象の起点に赴くだけだ。

 

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