収穫祭の魔女   作:れいてんし

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――Part7 「誰かが開けた穴」

 横浜チームと東京チームが合流したのは、横浜市磯子区にある小さな公園だった。

 

 時間は17時で、もう日が暮れかけてきている。

 

「今日は皆さんお疲れ様ってことで」

「結局杭の発見は全員で何本になったんだっけ?」

「9本ですね」

 

 杭を発見した場所は、各々が発見した時点でメモアプリに入力している。

 

 そのため、場所は全員に共有されている。

 逐一メモアプリを確認していた合田が答えた。

 

「分布としては、主に南部に偏っていて、東京チームが5、横浜チームが4ですね」

「でも、結局のところ幽霊屋敷の目撃はなしと」

「幽霊屋敷はこれから来るのか、それとも、とっくに通り過ぎたのかの判断はつかないですね」

 

 合田は地図アプリ上に打ったピンの位置を指でなぞりながら軌道をチェックし始めた。

 

 第3海堡付近を起点として、大きく楕円を描いて元の場所へ戻っていくという動きを見せているのは分かる。

 だが、具体的に幽霊屋敷の場所がどこにあるのかは判別出来ない。

 

「ここから先は端島さんの出番です」

「なんで?」

 

 突然名前を出された端島は疑問を口にした。

 東京チーム側は、頭を使う作業は合田に一任している。

 

 体を動かす方が得意で、本人もその方が向いていると感じている端島は困惑しかない。

 

「私はパズル的なのは苦手なんです。直感で動くのは端島さんの方が向いてますよ」

「直感ねぇ」

「直観なら私も自信があるけど」

「綾乃は直感じゃなくて思い込みだと思う」

 

 合田と端島の話を聞いて柿原が会話に参加してきたが、矢上にたしなめられた。

 

「いや、こういうのは一人で考えたらダメだと思う。それこそ思い込みで暴走しかねない。全員で考えよう」

「あんたにしては良いこと言うじゃない」

 

 海側の調査に向かったものの、成果なしだった船木が端島の肩を叩いた。

 

「別に答えが用意されてるわけではないし、全員で考えよう。そうすれば、もし間違っていても恨みっこなしだ」

 

 新坂も、全員で考えるという意見に同意したようだった。

 

 全員で同じようにスマホに表示された地図アプリの点を辿る。

 

 傍から見れば滑稽な光景だっただろう。

 

 それでも全員には楽しくもあり、真剣に打ち込める仕事でもあった。

 

 ただし2名を除いての話だ。

 

「なあ、今の時間って目撃情報が多い時間だろう。全部周るってのはダメなのか?」

 

 端島がボソリと呟いた。

 

「全部周る?」

「町中をグルグル回って調べるなら、時間はどれだけあっても足りないけど、杭が刺さっていたポイントを周るだけなら、2時間もあれば十分だろ」

 

 端島がスマホの画面を使ってやっていたのは、全部を結んで徒歩での移動経路を出すというものだった。

 

 画面に表示されているのは「徒歩2時間19分」の文字。

 

 あまりにもシンプルな帰結だった。

 答えが出ない問題を延々と解くよりも、はるかに分かりやすい。

 

「有りね。ここで答えが出ない分析をやるより、そっちの方が建設的でしょ」

 

 柿原もあまりにも分かりやすい端島の案に乗っかった。

 

「やるじゃない、羽鳥君。それでいきましょ」

「端島です」

「分析は家に帰ってからでもできる。だけど、日が暮れ始めたこの時間に、自宅から離れたこの場所を調べられるのは今しかない!」

 

 柿原は早くもメモアプリを終了させてスマホを上着のポケットに投げ込んだ。

 

「じゃあ、早速動きましょ。新聞部は私の意見を聞くってことでいいよね」

「ほら、また始まった」

「でも、良い案でしょう」

「全部周るってところは良いと思うよ」

 

 矢上も特に否定しているわけではないようだ。

 友瀬、新坂もそれに続く。

 

「どうする? また横浜組と東京組で分かれてチェックしていく?」

「どうせ2時間ちょっとなんだ。全員で歩いて行ってもいいだろう。洋館を見つけたら、どうせ、全員で突入予定なんだし。合田、梨本、船木もそれでいいよな」

 

 呼ばれた3人も首を縦に振った。

 

「じゃあ、杭の場所を和泉さんに報告して、次の調査に移ろう」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 調査を開始して1時間ほど。

 

 港南区の高校の近く、繁華街から離れた住宅地にある空き地に、明らかに場違いな洋館を発見した。

 

 かつてイングリッシュガーデンが広がっていたであろう、今は枯れた草と花壇、支柱しかない庭。

 建物はヨーロッパの中でも近世イギリスの影響を受けたであろう、木造二階建て建築。

 

 スレート屋根や外壁の木材にはあちこちに劣化が見られる。

 

 窓ガラスもくすんでおり、デザインと同じように、建てられたのは相当古いということがわかる。

 

 対して、周辺は平成中期くらいに開発された比較的新しい住宅地だ。

 

 明治時代頃に建てられたであろう洋館が、そんな新しい住宅地に建っていることが既におかしいと分かる。

 

 それまでは夕食前の住宅地を歩いているからなのか、あちこちから生活音や聞こえたり、料理の匂いが漂ったりしていた。

 

 それが、この洋館の周りには一切存在していない。

 

 代わりに漂ってきたのは、湿った木材と古い埃の臭いだった。

 

 風は吹いている。

 なのに、庭の枯れ草だけが周囲より半拍遅れて揺れた。

 

 端島が門柱の前で足を止める。

 吐いた息が、わずかに白い。

 

「ここだけ季節を先取りしすぎだろ」

 

 以前に洋館を見た横浜チームはもちろん、写真だけしか見ていない東京チームも、明らかに異質なこの建物が、さまよう幽霊屋敷であると一目で判断出来た。

 

 ただ、明確に以前と異なる点がある。

 

 玄関に取り付けられている両開きのドアには半径30センチほどの大きな穴が空いていた。

 

 その穴に風が吹き込むことで、まるで館が泣いているような音が常に鳴り響いている。

 

 庭には、時期的には早い雪があちこちに積もっているなどの違和感も多い。

 

「友瀬さん、写真撮影をお願い」

「もう撮ってます」

 

 柿原が言うまででもなく、友瀬はスマホのカメラで洋館の撮影を早くも始めていた。

 

 全体像はもちろん、扉に空いた穴や雪が積もった庭などを次々に撮影していく。

 

「合田は分析能力でこの幽霊屋敷の分析を」

「それももう始めてますが……正体不明って出るんですよね」

「正体不明って?」

「多分、私の能力を超えているか、それともこの建物自体に魔法的な要素はないのか……」

 

 合田も困惑しているようだった。

 あからさまに怪しい洋館ではあるが、それを能力で分析できていない。

 

「合田さんの能力でもわからないとなると、次は友瀬さんの方かな」

「あと10枚ほど撮ったら、やりますので、もうちょっと待ってもらえますか?」

 

 友瀬はそのまま撮影を継続した。

 

 その後に、ライターを点火すると、友瀬の背後に巨大な赤い孔雀、そして手前に複数のコンソールが出現した。

 

「建物自体は合田さんと同じく、何も見つけられません。ですが、その幽霊屋敷の中には『誰か』がいるみたいです」

「誰か?」

「それはわかりません。ですが……前に見た仮面の男で間違いないと思います」

 

 友瀬のコンソールの中には、白いスーツを着て、顔に仮面を付けた男が両手を腰の後ろに回して立っている姿が映し出されていた。

 

 まるで、友瀬の能力によってその映像をコンソール上に映し出されていることを分かっているようだ。

 

「端島さん、どうします? 和泉に連絡をして来てもらうのを待ちますか?」

「連絡はする。だけど、この幽霊屋敷がいつまで残っているか分からないし、俺たちだけで先に突入するのが正解だと思う」

 

 端島はカモフラージュのために剣に巻き付けていた布を解きながら言った。

 

「戦闘はあると見ていますか?」

「分からない。明確に人っぽいものがいるなら、話して解決できるかもしれない。だけど、最悪には備える」

「それで、東京チームと横浜チーム合わせた8人全員が中に入るのか?」

 

 横浜チームの新坂も、戦闘準備のつもりなのか、担いでいた布袋の中から木刀を取り出した。

 

 東京チームと横浜チームは合計8人集まっている。

 柿原は集まっている面々の顔を見回した。

 

「探偵さんへ連絡する役と、万が一、私たちがこの幽霊屋敷ごと、どこか違う場所に連れ去られた場合に外部から救助にあたる要員は欲しいかな」

「それだと私ですね。外に残っても能力を使えるので、中に入る意味はないと思います」

 

 友瀬が能力で出現させたコンソールの画面を操作しながら言った。

 

「内部は異空間、ちょっとした迷宮みたいになっています。なので、玄関を入ったらすぐに仮面の男に会えるってことはなさそうです」

「了解。じゃあ友瀬さんは外で待機してもらって。もちろん、友瀬さん一人をこんな何もない場所に置いとけないから、恵太は護衛兼探偵への連絡役をお願い」

「分かったよ。綾乃も気を付けて」

「もちろん」

 

 横浜チームの友瀬、矢上の2人が外で待機することに決まったようだ。

 

「他の6人で中に入るってことでいいか?」

「あまり外に待機要員を残しても仕方ないでしょ。お互いにそれなりの能力持ちだってことは分かってるけど、どれくらい戦えるのかは未知数なわけで」

「人数は多い方が有利ってことか」

「そういうこと。本当は全員で入った方が間違いないだろうし」

 

 端島も東京チームのメンバーを見て考える。

 

 分析能力持ちの合田、能力の応用幅が広い船木は外せないし、単純な近接戦闘では端島以上の梨本も外せない。

 

 無理に誰かを置いていく必要はないと判断した。

 

「それで、そっちの新顔2人の能力はどんな感じなんだ?」

「俺の能力は前にも一度見せた通りだ。ホルス。エジプト神話に登場する鳥の頭を持った鳥人」

 

 新坂が手元に持ったオイルライターを片手で点火すると、背後に隼の頭を持った怪人が姿を現した。

 

「バラバラにして鳥の使い魔として使うこともできるけど、得意なのは杖での近接戦闘だ」

「得意なのは近接戦闘ってことか。そっちの部長さんの能力は?」

「私の方はこれ」

 

 柿原も同じようにオイルライターを点火すると、その炎は横方向に長く広がり、一つの形を取った。

 

 一見すると長い銃身を持つライフル銃。

 だが、近くで見ると印象はかなり違う。

 

 黒鉄にも見える銃身の表面には、鋭角的なジグザグ模様が何本も刻まれていた。

 

 ただの装飾ではない。

 凍り付いた稲妻を、そのまま金属の中に閉じ込めたような彫り方だった。

 

 普通のライフル銃なら引き金やトリガーガードがある位置には、何もない。

 そのくせ、薬莢を排莢するためのレバーに似た部品だけは付いている。

 

 武器の形をしているが、人間が作った銃の理屈では出来ていない。

 

「名前は甕速日神(ミカハヤヒノカミ)。日本神話だと、火の神が死んだ後に産まれた雷の神だって。見た目の通りで遠距離攻撃主体」

「神というか銃なんだけど」

「私たちの能力は、みんな神話に出てくる神の名前が付いているんだけど、見た目は全然神話通りじゃないから、似た属性の神の名前を分かりやすさのために使っているだけなんだと思う」

「私の能力がキルケーみたいなもんか。分かりやすさ重視かな」

 

 船木も納得したのか、腕組みしながらウンウンと頷いた。

 

「なら、俺と梨本、それに新坂……先輩? が前衛に立つから、女子3人は後ろから支援を頼む」

「もしもーし。わたしも女子で先輩なんですけど」

「はいはいごめんなさい」

 

 端島、梨本、新坂の前衛3人が門柱を超えて屋敷の敷地内に入った。

 

 すると、靴底にザリっという妙な砂の感触があった。

 

 どうやら雪だけではなく、粒子の細かい砂粒が庭の前に大量に撒かれているようだ。

 

 地面にはレンガが埋め込まれているようだが、その上に雪と混じって黄色い砂粒が多量に敷き詰められていた。

 

「以前に来た時にもこんな砂粒が有ったのか?」

「いや、初めてだ。前は普通の土だった。完全に富士山の火山灰由来だから、関東のものだという疑いもなかった」

 

 以前にも幽霊屋敷の内部に潜入した経験もあるという新坂が答えた。

 

「合田!」

「ごく普通の砂です。そこに積もっている雪も含めて罠ではありません」

 

 合田が間髪入れずに端島に答えた。

 更に屋敷の外側では、友瀬も首を横に振っていた。

 

 分析系の能力者2人が否定するならば罠の可能性は低いだろう。

 

 端島と梨本の2人は、砂と雪のミルフィーユに足を取られないよう注意しながら、一気に屋敷の入り口に近づいた。

 

 入口の扉は、中央に大きな穴が開けられた際にドアノブやストッパーなども完全に破壊されたようだった。

 

 何も固定するものがないからか、吹く風の動きに合わせて扉は微妙に前後に動いていた。

 

 扉に開いた穴から屋内を覗き込むと、中にいた仮面の男と目が合った。

 

 仮面の男はにこやかに微笑むと、右手を前に出して手招きを始めた。

 

 男をとりあえず無視して、穴がどこまで続いているか見ると、どうやら屋敷を突き抜けて反対側に穴が開いているようだ。

 

「誰がやったんだ、こんな大穴を開けるようなことを」

「破壊の痕は上戸さんの攻撃に似てるかな?」

 

 梨本の言う通りで、扉に開いた穴は、第3世界で上戸が開けた穴に似ていた。

 

 扉から一気に館の反対側の壁まで穿つ貫通力や、穴の淵がドリルで削ったような螺旋の傷が付いているのもそれらしい。

 

「やっぱりこの世界にも上戸さんがいるんじゃないかな。それで、この屋敷を見つけて攻撃を仕掛けた」

「もしそうなら、この幽霊屋敷の近くで同じような捜査をしている可能性があるってことか。どこかで合流できないかな?」

「手掛かりもないし会えたらラッキーくらいで行こう」

 

 端島は思い切って扉を力任せに開くと、蝶番部分にもそれなりにダメージを受けていたからか、扉はミシミシと音を立てて垂れ下がって動きを止めた。

 

 玄関付近の壁も、少なからずその影響を受けたからか、パラパラと粉が降ってきた。

 

 奥にいた仮面の人物も、呆気に取られたのか口をぽかんと開けたまま、微動だにしない。

 

「こーわした、こーわした」

「俺のせいじゃない。最初にこんな大きな穴を開けたやつが悪い」

 

 梨本の煽りはさすがに冗談と分かっているが、端島は否定せざるを得なかった。

 

「もちろん、それは分かってるけどね」

「分かっているなら言うなよ」

 

 端島はそのまま歩みを進めようとしたところ、新坂が肩を掴んで止めた。

 

「見た目は正常だが、おそらくこの屋敷に足を踏み入れると、どこか異空間に連れ込まれるんだと思う」

「だからと言っても入らないわけにはいかないだろう」

「だからこそだよ。とりあえず手をつないでさえいれば、内部で分断される可能性は減る」

「そういうことか」

 

 端島は新坂の手を握った。

 

「今の話を聞いていただろう。全員手を繋いで内部に入るぞ」

「ほらね」

「こういうところなんだよなー」

「だから3年って言ったでしょ」

「異世界ハーレムパーティーと思ったけど、勘違いだったわ」

 

 次々と端島へダメ出しの声が飛んできた。

 

「俺が何したって言うんだよ。いいからみんな手を繋いでくれよ」

「そうだよ。柿原さんも東京のみんなも、今は協力してくれ」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 建物内に一歩入った直後に、端島たちは屋敷のどこかであろう長い通路の中へ投げ込まれていた。

 

 通路には窓はなく、天井からぶら下がる薄暗いランプの灯りのみが唯一の光源だ。

 

 前に進んでも後ろに下がっても通路が続いており、更に少し歩くと分岐路が表れて、左右にどちらかに進む決断を強いられる。

 

 薄暗い通路と、どこまでも続く長い迷路で消耗させようという、この屋敷……迷宮の主のいやらしい意思が伝わってくる。

 

「なんで目と鼻の先にいた仮面の男のところに行けないんだよ」

「これが空間の歪みなんでしょ。なんでもない場所がダンジョンみたいになる」

「裏東京とは別の意味で厄介だな!」

 

 通路の先から現れては、次々と襲ってくる醜悪な小鬼のような生き物を端島の剣と梨本の爪が切り裂く。

 

 撃ち漏らしも、新坂が操る鳥の頭を持つ怪人、ホルスが杖を槍のように振り回してなぎ倒していく。

 

 裏東京の異形とは異なり、倒すとそのまま粒子のようになって消えるので、精神的な負荷が減って戦いやすい。

 

「前衛が増えると後衛は楽なもんだね」

「これ以上数が増えると、すり抜けてくる敵もいそうだから、注意するに越したことはないですけどね」

「まあ、そんな感じ」

 

 柿原が片手で構えた銃の先端から、落雷のような音と共に白い閃光がほとばしった。

 

 次の瞬間には、背後から奇襲を仕掛けてきたであろう敵が一瞬で黒焦げになり、そのまま消滅していく。

 

 柿原は間髪入れずに銃側面のレバーを引いて構えなおした。

 

 レバーを引いたところで物理的な効果はないが、それでも引かないことには次弾が発射出来ない構造のようだ。

 

 発射、再装填(リロード)発射……柿原は同様の手順で後方から近寄ってきた敵を手際良く仕留めていく。

 

「それにしても、長いな、この迷宮は。何か裏技はないのか?」

「ご希望にお応えして、隠し通路を見つけましたよ」

 

 合田がそう言うと、一見すると何もなさそうな通路の途中で突然立ち止まった。

 

 そして、壁に手を当てて、手探りで何かを探し始めた。

 

「そこに何かあるのか?」

「ちょっと見ていてもらえますか? あと、少し距離を取っていただけるとありがたいです」

 

 一同は合田から少し離れて、その様子を見守った。

 

 合田はしばらく通路の壁をまさぐり続け、その動きを突然止めた。

 

「ここですね」

 

 合田は杖を壁に押し当てた。

 杖の先から強い光がほとばしり、暗い通路を照らし上げていく。

 

 光が止まった時に、合田は息をついて、杖の先で壁を叩いた。

 

 壁には先ほどまでは存在しなかった蜘蛛の巣のような亀裂が入っており、その先から光が漏れ出していた。

 

「扉に大穴を開けてくれた人は、いい仕事を残してくれましたよ。ここの主は応急修理をしたようですけど、こんな感じであちこちに亀裂が残ったままです」

「じゃあ、今の光は?」

「私のスキルでその穴を広げました。壊すまではいきませんでしたが、それでも、隠ぺいした補修痕くらいは取り除けました。まあ、この通りです」

「じゃあ、今のところ何もしてない私の番か」

 

 船木は座り込んで床に手を付いた。

 立ち上がると共に、手を持ち上げると床から巨大なイノシシが競り上がってきた。

 

「私が出せる中で一番パワーがあるイノシシちゃん」

「そいつで、この亀裂を広げるんだな」

「その通り!」

 

 船木が壁を指さすと、巨大イノシシは頭を低く下げて、壁に向かって体当たりをした。

 

 数百キロはありそうな巨大イノシシが体当たりをすると、壁の亀裂は広がり、天井から大量の埃が降ってきた。

 

 イノシシが何度か体当たりを繰り返すと、ついに壁は亀裂から完全に崩壊し、人が潜り抜けられる巨大な穴が開いた。

 

 穴の先には、入り口から見えたホール。そして、仮面の男の姿が見えた。

 

「なんか回り道をさせられたけど、この通り」

「埃がたたないようにやってくれたら助かったんだけどね」

 

 柿原が頭や服についた埃を払いながら言った。

 合田や梨本も同様に、むせながら埃を払い落とした。

 

「あの仮面の男と話をつける時が来たんだな」

「逃げられませんか?」

「大丈夫だ。ここからあの男を拘束する! ドラゴンテール!」

 

 端島が号令を発すると、腕の先から先端に昆虫の羽のようなものが付いた細長い尾が伸びた。

 

 それは部屋の中心に立っていた仮面の男に絡みついて、身動きを封じた。

 

「この尾に沿って進めば一直線だ。また飛ばされるならば、この尾で、逆にこっちに引き寄せてやる」

 

 仮面の男の正体は不明だ。

 だが、何かしら幽霊屋敷の謎に繋がる話を聞けるだろう。

 

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