収穫祭の魔女   作:れいてんし

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――Part9 「集結の予感」

「その前に少し荷物を置かせてください」

「どうぞ、ここは貴方の自宅なのですから」

 

 上戸佑(うえとたすく)は、野菜が詰まったエコバッグの置き場を探して少し部屋を見回した。

 

「ここのチェストは狭いか。流し台にでも置こうか。そういや知り……合いでしたっけ?」

「そうですね、この世界の貴方とは初対面になります」

「電話をかける……かけたこともないんでしたっけ。宛先は……」

「そうです、電話でもありません」

「なるほどね。ああ、米5キロも買えば良かったか。まあいいか」

 

 上戸はエコバッグをドカンと音を立てて部屋の隅に置き、通勤鞄をチェストの上にある電話機の横に立てかけた。

 そして、席に着き、逢坂と真っ向から対峙した。

 

「ボクのことを疑うのも当然の話です。ですが、真実です。まずはこちらを見てください」

 

 逢坂が手を掲げると、その上に光る球体が生まれた。

 

 その球体は逢坂のわずかな動きに反応して、右へ左へ動き回る。

 

 さすがの上戸も、これには目を見張った。

 球体の動きを無言で追う。

 

「手品……にしては種は見当たらない」

「これはスキルと呼んでいます。異世界召喚者に与えられる能力です」

「スキル……要するに超能力か。不明な原理ながらも、何らかの法則で動いている。再現性がある」

 

 上戸は眉間に人差し指を当てて少しだけ目を閉じた。

 

「佑……」

「こっちは大丈夫だ。あとは2人で話をしてるから、ベッドルームの方で動画でも見て待っといてくれ」

 

 上戸は妻の優紀に退室するよう促したところ、逢坂が手に浮かべた光の玉を優紀に向けて動かした。

 

「いえいえ、奥さんも一緒に――」

「――その必要はない。こちらが隠れて警察に通報しようしているとか考えているのでしょう」

「はい。私もこの世界に戸籍も自宅もある身です。警察に通報されると、今後の活動に支障がありますしね」

「そういうことならば、いきなり自宅に押し掛けて脅迫まがいの行為をするのではなく、まずは手紙を出すなどして、喫茶店にでも呼び出すのがセオリーだと思いますよ」

「なるほど、それはその通り」

 

 逢坂と同時に上戸も不敵な笑みを浮かべた。

 まるでお前の行動は全てお見通しと言わんばかりの、余裕の微笑みだった。

 

 その上で、逢坂が着ている上着に付いているバッジを指差した。

 

「横浜……いや、横須賀だったかな? そこにある大企業、香住(かすみ)エレクトロニクスの社員バッジだ。そんな社員証を堂々と付けて入ってくるとか、通報してくれと言わんばかりだな」

「いえ、このバッジは入館に必要になると言われて付けているだけです。この会社に籍はありませんので、通報しても無駄です」

「なるほど」

 

 上戸は部屋の隅に立っている優紀に声を掛けた。

 

「大丈夫だ。知り……合いだ。録音はスマホでやらなくてもいい。ただ、何もしていないと、こいつに証明するために、スマホをテーブルの上に置いて、部屋の隅にでも立っといてくれ」

「それで大丈夫なのか?」

「ああ、大丈夫。なんなら飲み物を飲んでいてもいい。あんたもそれでいいだろ。冷蔵庫には今、ビールとお茶が入っているはずだ」

「では、お茶をいただきます」

「ということだ。この客人にお茶を」

 

 優紀が動いて、冷蔵庫からペットボトルのお茶を上戸に投げて渡した。

 上戸はそれを空中でキャッチすると、そのうち1本をテーブルの対面にいる逢坂に渡した。

 

「ヤカンが使えれば、お湯を沸かして温かいお茶を入れるところですが、今はこれが限界です。よろしければどうぞ」

「では遠慮なく」

 

 逢坂は、目の前のペットボトルを、上戸の前に置かれたものと交換した。

 上戸はそのペットボトルを開封して、何口か飲んだ。

 

「毒は入っていません。そのための未開封ペットボトルです」

「それはどうも」

「では、話を聞かせてもらえますか、なぜ貴方がどのような理由があって、我が家を訪れたのかを」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 上戸は芝居がかった逢坂の話を淡々と聞いていた。

 

 ある日突然異世界に召喚されたこと。

 そこで生き残るためにチームを結成して活動していたが、敵対グループに負けて拘束されたこと。

 つい最近に異世界から、元いた世界に帰還を果たしたが、この世界は近いうちに崩壊すること。

 それを阻止するために、能力を持つ仲間を集めているというところまでだ。

 

 上戸を勧誘に来たのも、その第3世界と呼ばれるパラレルワールドの異世界での活躍を知っていたからだ。

 

 長い心理描写や、大げさな表現を全て省けばそういう内容になる。

 3分もあれば終わる話を30分近く聞かされた上戸はうんざりしたように逢坂の顔を見た。

 

 逢坂の瞳には狂気的な熱が宿っている。

 

 大げさに両手を広げる逢坂の姿は、まるで舞台役者のようだった。

 印象に残る声と大げさな語りは、聞く者の耳に残響を刻むだろう。

 

 だが、上戸の顔は完全に冷めていた。

 

 中身のない会話は響かない。

 うんざりとしたような表情が、そう訴えている。

 

「ええと、すみません。独演会はそれで終わりですか?」

 

 上戸はあえて礼儀をわきまえず、テーブルに肩ひじを付いた状態で逢坂に言った。

 完全に話を聞くのに飽きたというのが見て取れる。

 

「確認なんですけど、逢坂さんの出身地はどこですか? 名前の通り大阪ですか?」

「貴方にその質問をされるのは二度目です。埼玉ですよ」

「なるほど。ちくわぶという、ちくわでも麩でもない――」

「――やめてもらえませんか? その質問も二度目です」

 

 今までずっと笑顔を装っていた逢坂の顔に皺がよった。

 

 またも上戸が人差し指を眉間に当てた。

 

「なるほど、だいたいわかった」

「何が……」

「えー、あなたの話し方は、自己主張が強すぎるんです。独演会と言ったのも、それが理由です。話の装飾と前置きと自慢話が長すぎていつまで経っても本題が出てこない。これは大きなマイナスです。僭越ながらー、スピーチの本を読まれて勉強された方が良いかと思います」

 

 上戸が眉間に当てた指を逢坂に向けると、眉がピクリと動いた。

 

「えー続けます」

 

 上戸がわざとじらすように言った。

 

「敵対グループと対立して敗れたとおっしゃりましたが、わざわざ私のところに来た理由と繋がりません。ですが、こう仮定すると分かりやすいです。多分、私が所属するチームに、貴方は、負けた。しかもボロ負けだった。だから、それが悔しくて、江戸の敵を長崎で討ちに来た。いや、ここは江戸なので逆か」

 

 逢坂は黙った。

 だが、椅子の肘あての上で、人差し指でトントンとリズムを刻み始めた。

 

「えー。怒らないでくださいね。ただの、憶測(・・・・)です」

 

 上戸がニヤケながら言うと、逢坂は指の動きを止めた。

 

「えー、おそらく、そのパラレルワールドの私も、貴方のながーい話にうんざりして、脳内で違うことを考えていたと思います。そして、多分、全然脈略のない話をしたんだと思います」

「いいえ、そんな事実はありません」

「あります。何故なら、先ほどちくわぶの話は二度目だとおっしゃった。普通、親しくもない相手とちくわぶの調理法の話なんてしません」

 

 逢坂の演劇的な笑みが、ピクリと凍り付いた。

 

「だから、貴方はこういうべきだった。『それって今の話に関係あるんですか?』。でも違った。あなたは二度目だと会話を打ち切らせた。理由は一つ。貴方は私に舌戦で負けた。その話の起点はちくわぶの話題だったので、また敗北の流れが来ることを無意識に恐れた」

「だから何だと言うのですか?」

「いえ別に。ただ、あなたが独演会をしたので、私も独演会をしているだけです。別に聞かなくとも良いですし、会話終わりにちくわぶの話をしてもらっても構いません」

「また、探偵ごっこですか?」

「探偵」

 

 上戸が人差し指を伸ばしたまま手首を返した。

 

「また」

「だから何なんですか?」

「えー、貴方が昔のドラマの再放送を見るタイプかどうかは分かりませんが、これは警察ドラマの警部補のモノマネです。ちなみに私の世代で一番メジャーな探偵のモノマネだとこうなります。おそらく貴方も同世代です……しかしですなぁ、あなたがたった今『また』と言ったことはしっかり聞かせていただいているんですよ」

 

 上戸が途中で話し方を突然に変えた。

 

 今までは早口でまくしたてるようだったのに、今度は抑揚を付けて、語尾で声を裏返したり、ドスを利かせたり強調する話し方だ。

 

「警察ではなく探偵。しかも『また』。探偵という職業に酷い目に遭わされましたかな?」

「貴方は恐怖心というものがないのですか? こうして見知らぬ男が自宅の部屋に入り込んで、しかも怪しげな能力を使用している。にもかかわらず、貴方はボクを挑発するような行為ばかりしている」

「いやぁ、違いますよ。挑発なんてしちゃいません……これはただの時間稼ぎ。優紀、目を閉じろ!」

 

 上戸が固定電話の方にわざとらしく視線を向ける。

 逢坂はここで初めて気付いた。

 

 立てかけられた通勤鞄に隠されるようにして、固定電話のランプが点灯していることに。

 

「いつ電話を掛けた!」

「うちのマンションの家電は全て音声操作が出来るんですよ。もちろん、固定電話を含めて! ヘイSiri! マンションのライトを全て消して」

 

 上戸がそう言った直後、室内のライトが突然に消灯した。

 更にテーブルを蹴飛ばして逢坂の方へ倒す。

 

 逢坂は突然に暗闇に目が慣れずに、動きが一歩遅れた。

 もろにテーブルと椅子が体の上にのしかかったのを払いのける。

 椅子の足に踏まれた上着を無理矢理引っ張ると、ポケットから財布やメモが飛び出した。

 

「ならば、米が5キロと言っていたのは……」

「うちの短縮※5番は、友人の家への電話だよ。会話内容を全部伝えて、通報してもらった」

「会話を引き延ばしたのも、警察が来るまでの時間稼ぎか!」

「当たりですよ、真犯人の逢坂さん!」

 

 上戸がドスを利かせると同時に、バタバタという駆け足の音の後に、玄関ドアを叩く音が室内に響いた。

 

「上戸さん、警察です!」

「助けてください! 部屋の中に不審者が入ってきて、意味不明なことを連呼しているんです!」

 

 いつの間にか玄関先まで移動してた優紀がドアを開けると、制服を着た警察官が入ってきた。

 

「クソっ、なんてやつだ!」

 

 逢坂はマンションのベランダのドアを開けると、そこからベランダに躍り出た。

 

 警察官が逢坂を追ってベランダに飛び出すが、そこには人がいた気配はなかった。

 

 上戸は逢坂が座っていた椅子の上から、メモ帳を拾い上げた。

 先ほど、逢坂の上着の上に椅子が転げ落ちた時に、ポケットから飛び出したもののようだ。

 

 そこには何人もの名前と連絡先が載っている。

 

 逢坂の話が正しければ、これが仲間の連絡先だろう。

 

 その中に、幸徳井探偵事務所というものがあった。

 

「これが話にあった探偵か……調べてみるか」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 国道沿いのファミレスは、平日の夜にしてはそこそこ混んでいた。

 

 奥のテーブル席を3つ繋げて、端島たち8人と和泉が向かい合う形で座っている。

 テーブルの上には食べかけのハンバーグやドリンクバーのグラスが散乱していた。

 

「まずは話を始める前に……」

「なんでこいつがいるのよ」

 

 端島と船木はテーブルに付いた松葉を一斉に指さした。

 

「言いましたよね、こいつは危険人物だって」

「誰が危険人物だよ。それに、こっちも組むつもりはなかった。成り行きだよ成り行き」

 

 松葉がファミレスの椅子にふんぞり返ってコーヒーを飲みながら答えた。

 

「ただ、事態が落ち着くまでは、もう少し協力を続けた方が良いというのは分かってほしい」

「分かっていますよ。分かってるから納得できないんです」

「本当に、こいつの能力が別の人間に付いていたらもっと良かったのに」

 

 端島と船木が同時にドリンクバーでコーラとサイダーを混ぜて錬成した謎のミックスジュースを飲んだ。

 

「それって美味しい?」

 

 梨本が尋ねたが、端島は「色が違うだけで味は同じ」と答えた。

 

「今は飲み込んでくれ」

「ジュースなら今、飲んでますよ」

 

 和泉は端島に答えず、が頭を抱えながら手帳を開いた。

 

 そして、お互いに得た成果を報告する。

 

 端島と柿原が交互に、エシュから聞き出した内容を報告する。

 能力の起源、エデンの正体、杭による洋館の誘導。

 合田がその都度、補足を入れた。

 

 和泉はペンを走らせながら聞いていたが、途中で何度か眉をしかめた。

 

「精霊の縁が別の次元から流れてきた、か。その話が本当なら、柿原たちの能力は副産物ということになる」

「おこぼれ、と本人は言っていました」

「ずいぶん端的な表現だな」

 

 和泉が手帳を閉じた。

 

 続けて杭の出所の話だ。

 

 和泉たちの調査の結果、杭は香住エレクトロニクスの地下にある「何か」と関係している可能性が高い。

 そこまでは分かった。

 

 だが、そこまでだ。

 カスエレの地下に何があるのかを調べる術がない。

 

「あのカスエレって、結局何の会社なんですか?」

「元々は香住通信工業という、元々岡山でラジオを作っていた会社だった。それが、戦時中に駆逐艦に積むためのレーダーを作って、一気に大きくなったんだ」

 

 和泉が待ち時間の間に調べた会社情報を読み上げた。

 

「戦後に大手顧客の海軍が消えたことで、業績は低迷。創業者の(かすみ)は、新製品開発か、それとも細々と事業を継続するかの選択を迫られ、大手の下請け会社になる道を選んで、本社を横浜に移転した」

「工場は横須賀ですよね」

「コネであのあたりの土地が安く手に入ったらしい。ただ、ここからの動きが謎だ。突然に軍事関連の事業から民間相手に転換して、大成功を収めた。君たちの情報通りならば、海底遺跡から得た『何か』から、技術を手に入れて、製品に反映された疑惑が上がってくる」

「杭の調査の方はどうなんですか?」

「あれだ、京都の団体ってところに送ればいいんじゃないのか?」

「なんでそんな話まで知っているんだ……」

 

 端島が何気なく言った言葉に、和泉がまたも頭を抱えた。

 

「京都の団体って秘密なんですか? 第3世界だと協力してくれていたみたいですけど」

 

 メモを取っていた合田が尋ねると、和泉は嫌そうな顔をして答えた。

 

「京都もうちも、元は同じ組織、検非違使(けびいし)だったんだよ。明治時代に遷都した際に京都から東京に引っ越した魔術師が、今の探偵……私たちの祖先だ。なので、京都側は未だに我々を裏切り者扱いしている」

「ああ、そういう……」

「だから、余程のことがなければ協力はしない」

「余程のことなので協力してください」

「そうだぜ、過去のしがらみなんて気にすんな」

 

 合田に言われて困り顔だった元片倉が、気軽にスマホのダイヤルボタンをポチポチと押し始めた。

 

「こっちはこっちで軽いですね」

「オレは魔術師としては初代で、しかも日本古来のタイプじゃなくて西洋式だからな。しがらみなんてないってわけだ」

「婿入りしたんでしょ。麻沼(あぬま)のしきたりに従ってください」

「令和の時代に明治の風習がどうしたってんだ。どうせ当時の世代はもういないんだ」

 

 元片倉は電話で発見した杭の特徴などを伝え始めた。

 意外と会話が弾んでいるようだ。

 

 杭の分析は、元片倉に任せておいて大丈夫だろう。

 

「問題はそこからだ。香住の本社は横須賀にある。日本有数の大企業の敷地に、高校生が正面から乗り込むわけにはいかない」

「警察は動かせないんですか」

「証拠が足りない。杭の成分が似ているだけでは令状は取れん。それに、香住には政治家との繋がりがあると噂されている。下手に動けば、こちらの調査自体が潰される」

 

 矢上がストローでドリンクをずるずると吸いながら口を挟んだ。

 

「要するに、表から行くのは無理ってことですよね」

「表がダメなら裏がある」

 

 全員の視線が柿原に集まった。

 

 柿原はテーブルに肘をついて、人差し指でこめかみを叩いている。

 

「洋館の中でエシュが見せた映像を覚えてる? 並行世界の映像が空間に浮かんでいた。あの空間自体が次元の交差点だって言っていたよね」

「それがどうした」

「杭が次元を固定する道具なら、杭が大量に埋められている場所は、次元の境界が薄くなっているはず。香住が実験をしている場所なら尚更ね」

 

 合田が眼鏡を押し上げた。

 

「つまり、次元の薄い地点から、通常とは別の経路で香住の施設内部に入れるかもしれないと」

「可能性の話だけどね。でも、杭の分布図を見返してみて」

 

 柿原がスマホの画面をテーブルの上に置いた。

 地図アプリ上に、今まで発見した杭の位置がピンで記録されている。

 

「横須賀方面に向かって密度が上がっている。しかも、この辺り――」

 

 柿原の指が地図上の一点を示した。

 

「ここだけ、杭のピンが不自然に途切れている。周囲にはあるのに、この一帯だけ空白。避けているように見えない?」

「何かを囲んでいるように見えるな」

 

 端島が身を乗り出した。

 位置的には金沢区の住宅街の奥だ。

 

「栄区と金沢区の区界か。そりゃこんなところに人なんて住んでないよ」

 

 地元民の矢上が地図を見て切って捨てた。

 

「どういうところなんだ、ここは?」

「山だよ。自然公園があるだけ。鎌倉時代には何かあったらしいけど……」

「それですよ、先輩」

 

 ここで友瀬が地図を指した。

 

「明治すぐの頃に、外国人が移住して集落を作ったって話があったでしょ。この辺りから、小森先輩の家の方に向けての方向ですよ」

 

 土地勘のない端島にはいまいち分からないが、横浜組が騒いでいるので、そうだと納得するしかない。

 

「となると、ここにも裏の入り口があるかもしれないか」

「裏から入るって……もしかして、裏側の世界から物理的に侵入するってことか?」

 

 端島の脳裏に浮かんだのは、第3世界で見た裏東京の光景だった。

 現実の東京と重なるように存在する、歪んだもう一つの都市。

 

「柿原、お前が言っているのは、この世界にもああいう裏の空間があるって話か」

「ああいう、って何よ。あんたが何を想像しているか知らないけど、私が案内したいのはもっと別のもの」

「別?」

「新坂くん。例の場所、今から行ける?」

 

 柿原が新坂に声を掛けると、新坂はスマホで時間を確認してから頷いた。

 

「明日に改めよう。今日は夕方までのつもりだったから、親にも言っていない」

「それもそうか。じゃあ明日ね」

「オレは夜でも構わんが」

 

 話を聞いていた松葉が会話に割り込んできた。

 

「なにこのオッサン」

 

 柿原が一言で切って捨てた。

 

「危険人物だ。近付かない方がいい」

「なんでここに危険人物が?」

 

 松葉は顔を歪めるが、唯一話が通じる元片倉は電話中。

 他は高校生ばかりのこの集団の中では味方になりそうな人物などいない。

 

「一度、小森先輩のレポートを聞きましょう。その上で、ここから裏側の調査です。もしかすれば、ここからならば、最短で入っていくルートがあるかもしれません」

 

 一応話はまとまったようだ。

 

 まずは、裏方で調査中の小森に連絡して、現地の歴史情報を調べる。

 その上で、裏の世界に入ることが出来る出入口がないかを探す。

 

「明日は土曜日でしょう。なら、朝から動けるわよね」

 

 翌日の予定は決まった。

 裏の世界の調査。

 そして、可能ならば、カスエレの地下に何があるのかの調査だ。

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