収穫祭の魔女   作:れいてんし

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第11話 「クリスマス2日目」

 洋館の調査を終えた段階で、速やかにカーターに連絡した。

 

 館の中で起きたことと、得た情報を全て伝える

 

 車の暖房のスイッチを入れるが、案の定全く利かない。

 だが、エンジンが回っている限りは、ある程度はその熱で車内は温まる。

 

「赤い宝石はどう評価する?」

『オレの見立てだと、洋館の錨だ。そのエシュとかいう仮面の男が第四世界でルートを固定していると言っていたんだろう』

「つまり、この赤い宝石と同じようなものが第四世界にもあるのか」

『多分逆だ。赤い宝石が向こうにないから、代用品を作って何か事件を起こしている。まあ、別の世界の話だ。向こうは向こうで何とかするだろう』

「そうだな。ここは俺たちの世界を優先しよう」

 

 まずは時間逆行現象の解消。

 そして、その他もろもろの事件の解消だ。

 他の世界のことを考えるのは後だ。

 

「問題は、第三世界と第四世界のリンクが完全に切れていないってことだよな」

 

 曇ってきた車内のガラスに指でメモを書いていく。

 

 あまり考えたくはなかった話だが、第四世界にあった洋館が俺たちの世界に流れてきたというのは、お互いの世界がつながったままで、混線してきた可能性が高い。

 

 二つの世界をつないで、両方の世界を崩壊に導いたのは「運営」の陰謀だ。

 

 そして、その要になっていたのが、保土ヶ谷の公園に置いたままになっている謎の尖塔だ。

 

「尖塔のシステムは掌握して命令を上書きした。それで、二つの世界のリンクは分断されて、修復されるはずだった」

『だけど、第三と第四、二つの世界がリンクされたままならば話が変わってくる』

「第三世界で事件が起きれば、第四世界にも波及する。逆も同じだ。リンクを断たない限り、両方の世界で連鎖が続く」

 

 秋に起こった事件は解決したが、それは「手足を潰して身動きを封じた」であって「組織の壊滅」ではない。

 

 そして、そいつらを取り仕切っていたであろう周防大臣自体は健在だ。

 

 俺たちも気づかないような工作員がまだ動いており、その結果、リンクが復活した可能性はある。

 

「ところで、尖塔のシステムは今はどうなっているんだ? チェックはしたんだろう」

『昨日……ああ、カレンダー上の話な。12月24日には伊原も日本に来て、無事にシステムが動いていることを確認しているんだ。さすがに昨日の今日で変わらないとは思うが』

「ということは、25日になってからは確認していないと」

 

 電話の向こう側でカーターと和泉さんが何やら話し始めた。

 しばらくした後にカーターが電話口に戻ってきた。

 

『今から行ってみる。嫌な予感がする』

「ああ、頼む。時間逆行は岡山由来かもしれないが、第四世界との連携が切れていない問題は、尖塔の方で不具合が起こっている可能性が濃厚だ」

 

 一度方針を決めた後に電話を切った。

 

「エリちゃんごめん。もう少しだけ付き合ってもらうことになるかもしれない」

「私は大丈夫だよ。今日の分の勉強は済んだから」

「そう言ってもらえると助かるよ」

 

 エリちゃんもだが、優紀にもかなりの迷惑がかかっている。

 

 せっかくののんびり年末旅行が台無しになってしまった。

 優紀には本当に申し訳ない。

 

 それに他にも問題が発生している。

 

 この周回では、実家と自分たちの土産の松葉ガニを買った記憶がない。

 

 さすがに記憶だけでなんとか乗り切るのには支障が出てきた。

 メモを取っていかないと、今後何か取りこぼす気がする。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 同じ場所では待っていられないので1時間ほど車を走らせた。

 カーターから電話が掛かってきたので、近くに見つけた店の駐車場に車を入れて電話に出た。

 

『和泉と一緒に尖塔を見に来たが、やっぱり命令が上書きされている』

「具体的にはどのように?」

『専門家がいないので、全然違うパターンの術が上書きされていることしか分からない。京都の連中がマニュアルを残していってくれたが、専門的な話が多くて、何をどうすればいいのか、さっぱり分からん』

「京都の組織への連絡はしたのか?」

『それはもちろん。ただ、今から再儀式のための人員を集めて、京都駅から新幹線……となると、早くても修復作業は明日の昼くらいになるそうだ』

「明日は……来るのか?」

 

 今のところ逆行現象の謎は解けていない。

 

 赤い宝石を回収したので、おそらく収まった……とは思うが、確証はない。

 

 もしも解決していないならば、また0時にループして25日0時に戻ってしまう。

 

 そうなれば、京都の組織はいつまで経っても準備中のままで、塔まではたどり着けない。

 

「それで誰が上書きしたんだ?」

 

 そう尋ねると、電話の向こう側で何やらざわめきが聞こえた。

 しばらく経った後に、今度は和泉さんの声が聞こえた。

 

『和泉です。監視カメラの映像を確認したところ、25日の朝五時頃に塔に近づく人物を確認できました。これから、警察とも連携して、この人物を追跡します』

「朝五時か……今の時期じゃ真っ暗だよ」

『ですが、それだけに、公園を歩いている人物はほとんどいません。これならば、絞り込めます』

 

 和泉さんが話している後ろでカーターが何か騒いでいるのが聞こえた。

 電話を替わるようだ。

 

『塔の修復と犯人の追跡はこっちで進めておくから安心してくれ。ただ、赤い宝石と、時間逆行の発生原因については、早いうちに解明して、対処しておきたい。このまま放置すると何が起こるか分からない』

「ああ、分かっている。ただ、俺がいるのは山陰地方の鳥取県だ。さすがに、この距離はどうしようもない。明後日、27日にはそちらに行く予定だ」

『分かった。準備をしておく。来るのはラビ助一人でいいのか?』

 

 俺はエリちゃんの顔を見た。

 受験勉強があるならば、無理強いはできない。

 

「私ももちろん行くよ。クリスマスが繰り返していた理由も分からないまま終わるのは納得できないし」

「ということだ、二人でそちらに行く」

 

   ◆ ◆ ◆

 

「じゃあ、また明後日に。途中まで電車で移動しておくから」

「なら、岡山駅まで来といて。そこまで迎えに行くから」

「了解!」

 

 エリちゃんを自宅に送り届けた後に、27日の約束をして別れた。

 その後、大山の旅館で、先に電車で着いて待っていた優紀と合流した。

 

 鳥取砂丘での話、コナンミュージアムでの話。

 どの周回でどこまで話したのかもう判然としないが、優紀は気を使ってくれていた。

 

「なんか疲れてる顔してるな。大丈夫か」

「お前こそ大丈夫か? せっかくの旅行が台無しだろう」

 

 俺がそう言うと、優紀は無言で首を横に振った。

 

「そこは仕事だと割り切ってる。社会人だから、そういうこともあるさ。でも、早めに解決してくれるとありがたい」

「本当に悪いと思っている。埋め合わせはちゃんとする」

 

 この周回では、実家と自分たちの土産用の松葉ガニを買ったのかすら、定かではない。

 

 さすがに何度も繰り返しているうちに、どの周回で何をやって、何をしていないのかが分からなくなってきた。

 

 早いうちに対処する必要がある。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 深夜に山陰道を車で走り続けて、23時40分になったところで一般道に下りた。

 

 場所は鳥取市内の東部。もう少しで兵庫県の地点だ。

 

 適当なコンビニの駐車場に車を停めて、カーターに電話を掛ける。

 

「ハロー、メリークリスマス。作戦に失敗していると、あと数分で4周目のクリスマスが始まるぞ」

『手元に赤い宝石は?』

「しっかり持ってる。今度こそ、時間逆行現象が終了していることを祈ろう」

『苦労を掛けるが、頼むぞ。こっちはこっちで準備をしておく。まずは和泉を捕まえるところからだ』

 

 一度電話を切った後に、コンビニの中に入り、温かいコーヒーを買って駐車場に戻ってきた。

 

 スマホの時計を見ると23時59分。

 雪が降る寒空の中、薄暗い外灯だけに照らされた中でカウントダウンを始める。

 

 10、9、8……

 

 まるで数十分も待たされたような、長い10秒だった。

 

 世界は……何も変わらない。

 

 降り続ける雪が頭や、駐車場に停めた車の上に積もっていくのも気にせずに、ただスマホの画面を見つめ続けていた。

 

 スマホの時計が12月26日0時4分に変わった。

 

 そのタイミングでカーターから着信が入った。

 即座に電話を受ける。

 

『クリスマス終了おめでとう!』

 

 一発目の挨拶の言葉だけ見ると酷すぎた。

 だが、俺たちには何よりもの祝福の言葉だった。

 

 思わず頬が緩む。

 安心して、頭の上に積もった雪を払いのけた。

 

「一応は解決……でいいのか?」

『とりあえずはな。今は異常がないか、和泉を急かして色々と調べさせてるところだ』

「たまには休ませてやってくれ、多分、和泉さんは死ぬほど疲れてる」

 

 電話なので映像は見えないが、連日の過酷な労働で死に体の和泉さんの姿が容易に想像できた。

 

 調べなくてはいけないことが多数あるとはいえ、少しは休ませてあげてほしい。

 

『公園の塔に工作していた人物も特定が進みそうだ。早朝に運動に来た地元民のフリをしていたが、近くでタクシーに乗る姿が防犯カメラに映っていたらしい』

「そのタクシーは追跡できたのか?」

『信頼できる筋の警察ルートで追跡中らしい。明後日までには結果が出る』

「信頼できる……か」

 

 警察内部に入り込んでいた「運営」の関係者は、ある程度公安が対応したはずだ。

 だけど、全滅してはいない。

 

 そこから情報が洩れていれば、逃げられてしまう可能性はそれなりにある。

 

『……ただ、そこで一つだけ気になる話がある』

 

 カーターが勿体ぶった言いまわしをした。

 

『前に一度話をしただろう。第四世界から来た連中が、オレたちの世界の同一存在と入れ替わっている可能性を』

「ああ、そういえばあったな」

 

 第三世界と第四世界はパラレルワールドなので、当然ながら似ているようで少し違う同一人物がいる。

 バーのマスターに成りすまして、そこを拠点に使っていた能生(のう)(ゆたか)というやつもいた。

 

「でも、それがどうしたんだ?」

『今回の工作は、ある程度の魔術の知識がなければ出来ない犯行だ。だから、今回の容疑者は、そうやって第三世界人に成りすました、帰還してない第四世界人の可能性がある』

「でも、第四世界人一斉帰還の時に、人数は全員揃っていただろう」

『人数はな……でも、あの場でやったのは顔チェックくらいで、それぞれがどんな能力を持ってるなんて見ちゃいないから、そこで第三世界人にすり替わっていてもおかしくない』

「だとしたら面倒な話になるな」

 

 魔法的な能力を持っている人間が工作に動き回っているとなると、少々面倒なことになる。

 使い方次第では、現場に証拠を一切残さずに犯行を成し遂げることも可能だろう。

 

 不可能犯罪を証拠なしでされると、さすがの警察も捕まえようがない。

 

「それは容疑者が確定してから考えよう。塔の修復の方は?」

『明日というか、もう日が変わったから今日だな。26日の14時から調査を始めると連絡をもらった。念のために、三日ほど待機してもらう』

「俺も見といた方がいいな。裏東京が今はどうなっているかの確認も含めて」

 

 せっかくの無限ループクリスマスが終わったというのに、相変わらずやることが多すぎる。

 全部片づけてゆっくりしたいところだ。

 いつになったら俺の周りは平和になるのか。

 

 電話を切って車に乗り込んだ。

 

 せっかく鳥取東部まで移動したが、旅館があるのは大山のある鳥取西部だ。

 そこまで戻って朝までは寝ないと体力が持たない。

 

「結局なんだったんだよ、時間逆行!」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 翌朝になった。

 

 朝風呂で体力を回復させた後に、優紀と共に旅館を後にする。

 クリスマスイブから降り続いていた雪はすっかり止んで、久々の青空が広がっていた。

 

 道路に積もっていた雪も溶け始めて、泥まみれになっている。

 

「やっとクリスマスが終わったという感じだな」

「これから年末か。今日はどうする?」

「本当は、美保関(みほのせき)に行きたかったけど、本来の25日の予定が何も出来ていない。鳥取の東に行くぞ」

 

 俺がそう言うと、優紀が目をぱちくりさせた。

 

「佑はもう何度も行ったんだろ。コナンミュージアムも、松葉カニの店も」

「ああ行ったよ。でも、お前はまだ行っていないんだろう。もちろん付き合うぞ」

「本当に、そういうところだよ」

 

 優紀が嬉しそうに助手席に乗り込んだ。

 

 シートベルトを締めるのを確認して、俺も車に乗り込んでエンジンを掛けた。

 

 割と無理のあるスケジュールで組んでいるので、全部こなすのは大変だが、まあなんとかなるだろう。

 

「それじゃあ行くぞ。まずはコナンミュージアム。その次は土産のカニだ!」

羽合(はわい)に行ってハワイに行ってきましたと写真を撮るのは?」

「それもやろう。全部やるぞ!」

 

 25日はなんだかよくわからないままに終わった分、今度こそはちゃんとやり直したい。

 本当の意味でのクリスマス2日目だ。

 

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