収穫祭の魔女   作:れいてんし

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―Part13 「リンクする世界」

 相鉄本線の星川駅を降りた端島、合田、梨本の3人を出迎えたのは、電話で連絡をした船木ではなく、松葉健(まつばたける)だった。

 

「なんでお前がここにいるんだよ」

「ごめん、私が付けられてたわ」

 

 コンビニの袋を片手にぶら下げた船木が、全く申し訳なさそうもなく端島に答えた。

 

「それってストーカーですよ。訴えた方がいいですよ」

「それはマジ。オッサンが付きまとうとか怖すぎなんですけど」

 

 合田の言葉に船木がどこまで本音なのか分からない口調で答えた。

 

「もしかして、松葉が来ることを予想していたのか?」

「私1人だと、もし塔が見つかっても制御はできないのは分かってるからね。それなら、適当なところで合流してもらうのが正解だとは思ってた。まあ、先に駅まで待っていたのは予想外だったんだけど」

 

 船木は今度は松葉を睨むように見ると、松葉はわざとらしいオーバーアクションで肩をすくめた。

 

「やっぱり付きまとい怖いんですけど」

「別に付きまとっていない。お前らもこの公園に来ると推測したから、ここらで張り込んでいただけだ」

「まあ、来てしまったものは仕方ない。とりあえず裏の世界に入っていくか」

 

 端島は合田の顔を見た。

 

「入り口は分かるか?」

「多分、発想としては裏東京と同じだと思うんです。建物の隙間とかそういうところに出入り口があるというパターンで」

 

 合田の目が眼鏡越しに淡く光る。

 スキルを使用して周囲の調査を始めたからだ。

 

 駅前の道路を見回した後に、道路をまっすぐ歩き始めた。

 

「そっちに入り口があるのか?」

「いえ。近くにはないようなので、こうやって移動しながら探します。どこかにはあると思います」

「まあ、そりゃどこかにはあるんだろうけど」

 

 合田を先頭に端島たちは西方向に向けて道を歩き始めた。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 裏の世界の入り口は、小さい神社の裏手にあった。

 そこから目には見えないドアを開けて、裏の世界に入る。

 

 黒い空と白い大地。

 現実世界にある建物などをベースに作られた近代アートのような無茶苦茶なオブジェクトと、地面から突き出た巨大な水晶が並ぶ不思議な世界。

 

「相変わらず気持ちのいいもんじゃないな」

「この世界の謎も解かないといけないんですよね」

「とりあえず塔を目指すか……もう半分見えてるけど」

 

 端島が遠くの小高い丘から突き出た白い尖塔に向けて剣を向けた。

 

 周囲に立ち並ぶオブジェクトが邪魔で全体像こそ見えないが、塔の頂点近くは既に視界に入っている。

 そして、塔の表面に浮かんだ「眼」が端島の方を向いたことも見えた。

 

 直後に、塔の表面から、何かが剥離し、高速で飛翔するのが見えた。

 高速で回転する、手裏剣のような形状をした、巨大なヒトデにも見える「何か」だ。

 

 数は3つ。

 ヘリコプターのような、豪快に風を切る音を立てながら一気に距離を詰めてくる。

 

「なんだあれ? 前の塔にそんな機能なんてあったか?」

「防衛機能があったとかなんとか言ってたのを聞いた覚えが」

 

 合田が曖昧に答えた。

 

「梨本! 俺たち2人で迎撃するぞ!」

「はいよ」

 

 梨本が身構えると同時に腕に付けた手甲に青白い光が灯った。

 スキルによる攻撃力の強化だ。

 

「私も手伝おうか?」

「いや、船木と松葉は、この後であの塔の制御があるんだろう。力は温存しといてくれ」

「じゃあ、お言葉に甘えて」

「高みの見物といくか」

 

 船木と松葉が一歩下がった。

 逆に端島と梨本はそれぞれ武器を構えて一歩前に出た。

 

「俺達2人に追加の強化を!」

「もう掛けました!」

 

 合田が言うと同時に端島の剣と梨本の手甲から青い光が放たれる。

 武器の威力を強化するエンチャントのスキルだ。

 

 そうしている間に、巨大な手裏剣は風を切りながら目の前に接近していた。

 

「ドラゴンウイング!」

 

 手裏剣が巻き起こす風が、肌に直接ビリビリと伝わってくる。

 だが、端島は慌てず、ビアーキーの翼だけを剣の先に召喚した。

 

 薄く透明な昆虫のような羽は高速で振動を始め、空気を震わせてつむじ風のような強い突風を起こす。

 

 真下から突き上げられるような風をもろに受けた飛来する3つの手裏剣は、軌道が大きく斜め方向にぶれた。

 

 その隙に、端島は1つの手裏剣の中心に狙いを定めた。

 エンチャントで強化された剣は手裏剣に、何の抵抗も感じさせないほど深々と突き刺さった。

 

 端島は剣を力任せに振るい、手裏剣をそのまま一刀両断……真っ二つに切断する。

 

 梨本も同じように1つの手裏剣を、両腕の手甲に付いた爪で引き裂いていた。

 自己スキル+合田のエンチャントの二重強化により、こちらも空中で瞬く間に四分割された。

 

「残り1!」

「問題なし!」

 

 端島が剣を振り下ろすと、その切っ先から風が吹き荒れた。

 

 ビアーキーの翼が起こした風と合わさり生まれた暴風によって、直進していた手裏剣は木の葉のように複雑な回転をしながら舞い上がった。

 

「トドメを!」

「任されました!」

 

 そこへ合田が杖の先からレーザー光線を放ち、手裏剣の中央を正確に射抜く。

 

 瞬く間に倒された3つの手裏剣は、粉々に砕けて塵のようになり、宙に溶けていった。

 

「手慣れたもんだ」

「それなりに経験を積んできてるからな。連携もやっと息が合ってきた」

 

 腕組みをして成り行きを見守っていた松葉に端島は答えた。

 

「よし、先を急ごう」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 何度も続く塔からの攻撃を撃ち破った端島たちはようやく塔の前にたどり着いた。

 

 第三世界で見たような制御機器は置かれていない。

 何もない真っ白な空間の中心に、白く不気味な塔が立っているのみだ。

 

 塔の表面は生物の皮膚のようであり、血管のようなラインが無数に通っているのが見える。

 ただの白さではなく、病的なイメージを感じさえる青白さがあり、微妙に脈動しているのが更に嫌悪感を増す。

 

「なんだろう、見ているだけで何か気分が悪くなってきた」

 

 塔はまっすぐ立っているようで、微妙に歪んで曲がりくねっているようだった。

 その微妙な歪みは、ただ見ているだけで不安を掻きたていく。

 

 平衡感覚が揺れる。

 塔の方が正しくて、自分の方が実は歪んでいるのではないかという錯覚に陥る。

 

「すみません、ちょっと気持ち悪いのでそこに座ります」

 

 合田はそう宣言すると、塔から少し離れた場所に座り込んだ。

 

「大丈夫、合田ちゃん?」

「ええ……梨本さんは平気ですか?」

「大丈夫じゃないけど、体力で堪えてるってだけかな」

「前からこんなだっけ? 実は別物だったりしない?」

 

 船木も気分が悪いのか、口を手で押さえており、塔を直視していない。

 

「いや、本物だ。制御装置なしで見るとこうなるんだろう」

 

 松葉が冷や汗を拭いながら塔に浮かんでいる「眼」を睨みつけて、口角を上げた。

 

「あんたは平気なのか?」

「いや……精神的に来るものはあるが、あえて言わせてもらおう。だからどうした」

「気合で耐えているだけか」

「それの何が悪い? この塔にはそれだけ強大な力が秘められているということだ。ますます興味が湧いてきた」

 

 松葉がそう言うと上着のポケットから手帳を取り出した。

 中には隙間なく手書きでメモが書き記されている。

 

「制御のための手順は全部ここにまとめてある。お前らが脱落ということなら、オレが一人でも作業をする」

 

 松葉はそう言いながら塔へ近づこうと歩みを進めるが、バランスを崩し、片膝を付いた。

 

「おい、無理するな」

「お前は元気だな? 何かコツみたいなものがあるのか?」

「いや、全然大丈夫じゃない。お前たちと違って俺や梨本は体力があるからな」

 

 端島は片膝をついて座り込んでいる松葉に肩を貸して立ち上がった。

 

「今日のところは一度撤退だ。準備を整えてから、また来よう」

「それがいいかもね。わたしも賛成」

 

 梨本が同じように合田に肩を貸して立ち上がっていた。

 

「オレはいい。それよりも、そっちの娘を助けてやれ」

 

 松葉が端島を突き放した。

 フラフラしながらも、なんとか一人で立って塔から離れていく。

 

 松葉に言われたからではないが、端島は足元がおぼつかない船木に近寄り、腕を取って肩に回した。

 

 その時だった。

 

 どこからか、「おーい」と呼びかけるような声が聞こえてきた。

 最初は獣の鳴き声か、何かのノイズかと思ったのだが、再度「おーい」という声が聞こえてきた。

 

 はっきりとしたイントネーションの人間の声だ。

 

「誰? こんな変な世界に人間がいるの!?」

「さすがに、こんな世界に住んでる人間はいないと思う……俺たちと同じ侵入者だろうけど、横浜組の誰かか?」

 

 端島は横浜組には連絡を取っていない。

 なので、端島たちがこの保土ヶ谷の公園に来ていることは誰も知らないはずだ。

 

 裏世界を調査していたら偶然鉢合わせたという可能性はなくはないが、それでも横浜組の拠点と公園は距離がありすぎる。

 偶然に迷い込むには無理がある。

 

「逢坂の仲間の可能性が高いんじゃないかな」

「逢坂ならいい。香住の連中だと厄介なことになるぞ」

 

 端島は同行した仲間の顔を見た。

 合田と船木が戦闘に参加するのは無理だろう。

 

 松葉は自力で立ってはいるものの、完調には程遠い。

 戦えるのは端島と梨本の2人だけだ。

 

 それも仲間を庇いながらだと、実力を出し切れるかどうかは怪しい。

 

「おーい、端島さーん、聞こえますかー?」

 

 今までと違い、今度はハッキリと聞こえた。

 しかも端島の名前を呼んでいる。

 

「誰だ? なんで俺の名前を知っているんだ?」

「いえ、この声って聞き覚えありますよ。上戸さんじゃないですか?」

 

 合田が梨本に寄りかかりながら端島に言った。

 

「上戸さん? 第四世界の上戸さんとは面識がないだろう」

「そうじゃなくて、第三世界から来たんじゃないですか?」

「来たって……どうやって?」

 

 そう言っていると、またも「おーい」と聞こえてきた。

 段々と声が近づいているのが分かる。

 

「本物と考えていいのか?」

「成り済ます意味が分かりません。敵が私たちを油断させるつもりならば、和泉さんたちの声を使うと思います」

「じゃあ、一応本物と考えて返事をするぞ」

 

 端島は全員の顔を見回しながら確認を取った。

 反論は出ないようなので「おーい!」と返す。

 

「もっと他の返事はなかったんですか? やまびこじゃないんですから」

「あと、耳元でうるさい」

「そんなことを言われても」

 

 合田と船木に詰められて言葉に窮している間に「今から行きまーす」という声が聞こえた後に、テンポ良く地面を蹴る音が聞こえてきた。

 

 ややあって、道の先から2人の少女が姿を現した。

 1人は第三世界で会った上戸。

 もう1人は洒落たコートを着た初見の少女だ。

 

「お久しぶりです。端島さん」

「上戸さん、なんでこっちの世界に? 第三世界にいたはずでしょう」

「それについては今から説明します……ただ、今はこの塔から離れた方がいいでしょう」

 

 上戸の視線は端島たちではなく、その後ろに立つ塔の方を向いていた。

 

「あまり見ない方がいいですよ。気分が悪くなるので」

「私たちはこういうのは大丈夫です。慣れてるので。それよりも、皆さん大丈夫ですか?」

「体調が悪いのが3人いるので、移動するのを手伝ってもらえると助かる」

「オレは大丈夫だぞ」

 

 聞いてもいないのに松葉が答えた。

 端島は船木を上戸に同行していた少女に預けて、松葉の肩を背負った。

 

「まずは公園を出よう。あの塔の対策はそれからだ」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 公園から少し離れて塔が見えなくなったところで、ようやく合田たちも体調が戻ってきたようだった。

 

 端島は今までの経緯を上戸に説明した上で、第三世界で何が起こっていたのかを聞いた。

 

「というわけです。私たちのいる第三世界の方で次元の歪みを修復中ですので、それが完了すれば、この空間ごと消えます」

 

 上戸は黒い空を見上げて言った。

 ただ黒いだけではなく、上空では何か得体のしれないものが蠢いている。

 

 上戸の話が正しければ、それは空ではなく2つの異なる次元がぶつかりあって発生している次元の歪みなのだろう。

 

「結論から言うと、この世界には入らない方がいいです」

「そうは言っても、世界崩壊の原因がこの世界の中にあるかもしれないんだ」

「世界崩壊の原因が、2つの世界が繋がっていることによるものならば、もしかしたら解決するかもしれません」

「いや、それだと香住が裏でやっている何かは解決しないだろ」

「香住?」

 

 上戸が不思議そうな顔をした。

 

「第四世界だと、香住はまだ残っているんですか?」

「残っているもなにも、香住エレクトロニクスは世界的な大企業だろ」

「えっ?」

「えっ?」

 

 お互いに顔を見合わせた。

 

「知らないのか? 横須賀の追浜に大きな工場があるだろ」

「追浜にあるのは日産の工場……いや、そこはなくなったのか。ともかく、香住ってもう倒産してますよ」

「香住が潰れるとか想像できないんだけど……それよりも日産ってなんだ?」

「えっ?」

「待ってください。お互いの世界の違いの話をしていたらキリがないですよ。もっと論旨をまとめましょう」

 

 端島と上戸の話に合田が割り込んだ。

 上戸が頷き、やや遅れて端島も頷いた。

 

「第三世界で最近、大きな事件が起こったりしないですか?」

「時間逆行現象というのが起こりました。何回も12月25日……クリスマスが繰り返すんです。調査の結果、12月25日に何らかの術が使用された痕跡が見つかりました」

「ということは、私たちの世界でも12月25日に何かが起こる可能性が高い」

「それが世界崩壊の原因か」

「その可能性で話を進めましょう」

 

 お互いの世界にどれだけ相関関係があるのか分からないが、ヒントにはなる。

 合田は眼鏡を上げ下げした後に、続けて上戸に質問をする。

 

「第三世界の香住はどうなっていますか? 倒産したと聞きましたが何があったんですか?」

「太平洋戦争の軍事需要で伸びた会社ですが、戦後は低迷して、逆転のために、岡山の古代遺跡で何か実験しようとしたところ、宇宙人が暴れ出して集落ごと滅ぼされたんです。そこから上がり目もなく倒産しました。逆に第四世界だとどうなったんですか?」

「呉での仕事がなくなったところまでは同じだと思います。そこから横須賀に出てきて米軍相手の商売に切り替えて成功するんです」

「米軍が関係するところまでは同じ……ただ、岡山の実験には失敗していない」

「岡山と米軍に何の関係が?」

「戦後すぐの日本政府は弱っていて、宇宙人に対して有効な手を打てなかったので、当時日本に在留していたGHQ……米軍の力を借りたようです。その対価として宇宙人の遺産の大半をアメリカ本国に持っていかれたようですが」

「もしかすると、第四世界でも、香住はアメリカに宇宙人の遺産を売り渡したかもしれないですね」

「第三世界と第四世界がリンクしているならば、十分考えられますね。宇宙人の遺産と引き換えに、米軍基地近くの工場敷地を手に入れて、米軍相手の商売を始めた。途中の過程は全然違いますが、アメリカが宇宙人の遺産を手に入れたという結果は同じになる……と」

 

 上戸と合田がお互いに持っている情報を出し合う。

 端島はそれをただ口を開けて唖然としながら見ていた。

 

「なんとか言ったら?」

「なんとか」

 

 端島を煽る船木の方も、いまいち話に付いていけていそうにない。

 

「第四世界の香住の事情もなんとなく分かりました。もしかして、香住はここ数年、業績が一気に下がっていないですか? 電気自動車……じゃない、何かの事業に失敗したことが原因で」

「そこは調べてないですけど……何か関係あるんですか?」

「第三世界では既に済んだけど、第四世界ではまだという事件が起こるはずです。大きくは2つ。世界的な大企業の横須賀、追浜工場が閉鎖に追い込まれること。もう1つは、香住が業績悪化を逆転するために、古代遺跡で実験をするも失敗という2つのイベントが」

「それは12月25日に起こると」

「おそらくは。第四世界で発動した術が、第三世界にも影響したんです」

 

 上戸は振り返り、遠くに見える塔を見た。

 距離が離れたので、地面から突き出た巨大な水晶の陰に、若干頭の部分だけが見えるだけではあるが、確実にその存在を主張している。

 

「まずは世界を分断して、このリンクを断つこと。それで、12月25日に香住が実験に失敗するという運命を回避できるはずです」

「でも、それだけだと香住は止まらない……と」

「それについては、既に香住が滅んでいる私たちにはできることはないです。皆さんにお願いするしか」

「もちろん、それは俺たちがやるさ」

 

 端島が自信満々に答えた。

 

「でも、リンクを断つには、結局そこの塔を何とかするしかないんだろう」

「そこに見えている塔は第三世界の塔の影のようなものです。第四世界の塔ではないんです」

「他に別の塔があると?」

 

 「塔」という単語に松葉が露骨に反応した。

 

「第三世界の塔に、第四世界の塔のシステムがコピーされるという事件が起こったので、その調査中に端島さんたちを見つけたんです。逆に言うと、第四世界にも確実に別の塔があるはずです」

「それはどこに?」

 

 端島は尋ねるが、上戸は首を横に振った。

 

「関東の地理の話を私に聞いてはいけない。そもそも世界が違うので見当もつきません」

「それもそうか……あとは横浜組の調査がどこまで行っているかだな」

「横浜組?」

「変な能力を使える横浜の高校生に知り合ったんだ。そっちはそっちで調査をしてくれてる」

「なるほど」

 

 そう話していると、上戸と一緒に現れた少女が腕時計を見ながら言った。

 

「そろそろ戻らないとマズくない? すぐに戻ると言っちゃってるから、カーターさんが怒りそうだけど」

「もうそんな時間か……すみません、こちらはこちらで別の事件の調査中ですので戻ります」

 

 上戸が大きく頭を下げた。

 端島もそれに釣られて礼をする。

 

「そっちも大変だな」

「それはお互いに。今は大変な時期ですが、頑張りましょう」

「じゃあ、最後のもう一つだけ。ジェームス・ジョンソンって名前を知らないか?」

「ジョン・スミスくらいありがちな名前な上にイニシャルがJJとか偽名くさいんですけど……何者なんですか?」

「香住のコンサルとしてやってきたという謎の外国人らしいけど、最近の香住の方針はそいつと経営陣が決めてるとか」

「そもそもこっちの世界の香住は消えてなくなっているので……」

「それもそうか」

「ただ、『運営』……端島さんたちの言う、異世界からやってきた『黒幕』が何か関与していることは間違いないと思います。注意はしてください」

「『黒幕』か」

 

 詳細不明の外国人ということで、ある程度予想はしていたが、当たりの可能性は高いだろう。

 異世界人ならば、普通の調査で情報が手に入るわけがない。

 

「ありがとう。色々と助かった。次にどう連絡を取ればいい?」

「連絡事項があれば、エシュの屋敷経由でお願いします。あそこならば、連絡が取れると思いますので」

「エシュの? 上戸さんも会ったんですか?」

「どういう理屈だか、私の世界にも来ていましたよ。そこに手紙を置けばお互い連絡は取れると思います」

「分かった。何かあればそこ経由で連絡するよ」

 

 上戸と少女は再度礼をして、端島たちに背を向けて歩き始めた。

 

「とりあえず俺達も元の世界に戻ろう。塔のことはもう一度仕切り直しだ」

 

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