「今はどういう状況なんですか?」
『変な怪物が多数出てきたらしい。今は結界を張って堪えてるけど、あまり長くは持たないらしい。なので、急いで保土ヶ谷の公園へ向かう必要がある』
ラビさんから俺……
電話で手短に聞いただけなので敵の詳細などは分からないが、とにかく数が多いという話だ。
「どうして、そんな重要な話を今まで――」
なぜ自分に黙って事件の調査を進めていたのか?
受験が近い俺の事情を理解した上で、なるべく負担がかからないように配慮してくれている彼女の気持ちは分かるが、これが何度目だか分からない。
そこはちゃんと話した上で、調整してほしかった。
だけど、今はかなり切羽詰まっており、それを問いただすような状況ではないことは分かるので、言葉を飲み込んだ。
「――この件は後でゆっくり話をしましょう」
『分かってもらえると助かる。俺たちは今はJRの新橋駅前で時刻表を見ているけど、電車で行くとやっぱり1時間以上はかかりそうだ』
腕時計で現在時刻を確認する。
新橋から横浜まではJR東海道線一本で30分程度だとしても、更にそこから電車の待ち時間、乗り換え、最寄駅から公園への移動と更に30分以上はかかる。
トータルだと1時間以上かかるのは仕方ない。
『なので、俺たちは今から裏東京に入ろうと思う。裏の世界は電波が通じないので、しばらくは連絡が取れなくなるけど、あしからず』
「今の世界の裏側にある変な世界のことですよね。まだ残っていたんですか?」
『もう消えるはずだけど、まだ残っている。今回は人の目を避けるための移動ルートとして使わせてもらう。俺たちが本気で移動すれば、30分もあれば到着できる』
「それでも……30分ですか」
保土ヶ谷の公園で儀式を行っているという京都の組織の方々は、さすがに30分も耐えられないだろう。
俺が少しでも早く駆け付ける必要がありそうだ。
『なので、小森くんには先行して公園へ向かってもらいたい。俺たちも全力で急行する』
「分かりました。急ぎみたいなので切りますね」
『ああ。もう暗いから急ぎだけど、車には気を付けて』
通話が切れたので、早速、戦闘準備を始める。
通学用のバッグをひっくり返して中身を全部出した後に、机に立てかけていた槍、簡易医療キット、LEDライトを雑に詰め込んだ。
押し入れから防具のポンチョを引っ張り出して羽織りながら自室を出る。
この防具は寒さから身を護る効力もあるようで、下にセーターを着ていれば、冬はそれだけでも意外に暖かい。
空気の流れも遮断してしまうので、夏場は少し暑いことだけが欠点だ。
「こんな時間からどこに行くの?」
「ちょっと気分転換がてら、夜の散歩に行ってくる」
母親に呼び止められたので、適当に返す。
この1年ほど、予備校通いで帰宅が夜遅かったのと、受験勉強の合間に、深夜の散歩に何度か出掛けていたことが、そのまま言い訳に繋がる。
「どこまで?」
「
「また深夜のラーメン? 変な時間に食べると太るわよ?」
「頭を使う分だけ、栄養も必要なんだよ」
「暗いから車には気を付けなさい」
「さっきラビさんから同じ言葉を言われたばかりだ」と思いながら玄関を出て、ガレージに停めていたクロスバイクを引っ張り出した。
急ぎではあるが、途中でパンクすれば逆に時間のロスになる。
タイヤに空気を補充して、ブレーキなどのチェックをすませる。
ランクアップと限界超越。
2度のパワーアップをした俺は、自転車に乗るよりも、自分の足で走った方が速い。
だが、車より速い速度で駆け抜けると、何をどうしても目立ちまくってしまう。
なので、車くらいの速度が出ても、まああり得るかなと思われる自転車に乗って移動する。
イオンの自転車売り場で買った安物のクロスバイクなので、時速60キロを超える速度なんて出るわけないのだが、みんな自転車の車種なんて見ないだろうし、少しくらい早い自転車がいてもわざわざ見たりしないので良しとしたい。
それを考慮に入れた上での約20キロの移動……20分だ。
「保土ヶ谷……保土ヶ谷と」
念のために、保土ヶ谷の公園までのルートをスマホで確認した。
指差しでルートを確認する。
「鎌倉街道を北上して、道路標識に『保土ヶ谷、国道1号』の表示が見えたら左折。あとは道なりで、公園の案内を参照……と」
3つほどルート候補が表示されたが、住宅地の狭い道を抜けるルートは迷う可能性がある。
一番道がわかりやすい太い道路を繋いでいくルートを選んだ。
ライトをハンドルに取り付けて、自転車に飛び乗ってペダルを踏み込み、一気に加速する。
走行性能ではなく、丈夫さだけが売りのクロスバイクだというのに、ペダルやチェーンが悲鳴をあげる。
耐久性を考えると、全力では漕げない。
だが、それでも急がなくてはならない。
そんなジレンマを抱えながらも、自転車を漕ぎ進める。
高台にある自宅前の坂を一気に下り、鎌倉街道に入った。
経路には少しだけ谷の区間で上り下りがあるが、その後は基本的に下りか平坦な道が続くのと、信号が少ないので減速が必要な区間はない。
下り坂ならば、それほど自転車を強い力で漕がなくとも、慣性の法則のおかげで、ある程度は走ってくれる。
あとは道なりにひたすら進むだけだ。
「なんとか間に合ってくれ……」
◆ ◆ ◆
一方、保土ヶ谷の公園では、桂たちが突如出現した怪物たちを相手に防衛戦を続けていた。
「システム書き換えは後回しです。塔の出力を結界に回してください」
「バイパスできました」
桂の助手がノートPCのキーボードを叩くと同時に、塔と制御機器を接続していたケーブルの一本から焦げ臭い煙が立ち上る。
過剰な出力が流れたことで、ケーブルの耐久限界を超えたようだ。
それでも、ケーブルを犠牲にした甲斐あってか、桂たちを取り囲むように地面から立ち上る白い霧が濃さを増した。
腕を振り上げて迫って来ていた全身が漆黒の人型が霧に押しのけられるようにして、後方へと下がっていく。
公園でシステム書き換えを行っていた桂たちの前にその怪物たちが突如出現したのは30分ほど前の話だ。
夜の暗闇の中ですら、はっきり判別できるほど、一切の光を通さない「黒」だった。
厚みのないCGを合成したようにも見えるその人型は、塔がある広場へどこともなく現れ、作業をしている桂たちに襲い掛かってきた。
サポートに当たっていた須磨と警官2人が特殊警棒と拳銃で応戦し、3体ほど倒すことには成功した。
だが、敵の増援は次々に現れて、やがて多勢に無勢で押されることになった。
拳銃の弾が尽きて、接近戦を仕掛けていた須磨も負傷して、桂が展開した結界内に引きこもり、現在に至る。
桂が展開した結界は、バリアのようなものではなく、相手の方向感覚を狂わせて、目標へ到達させないという人払いの結界の応用だ。
相手を阻むのではなくて、到着までの時間を引き延ばすだけなので、そのうちに敵は到達してしまう。
だからこそ、定期的に新しい結界を張り直して、到着までの時間をリセットする必要があるのだが、その結界の発動はノーリスクで行えるわけではない。
塔が溜め込んでいたエネルギーを逆流させて、魔法陣に流すという、システム的に無理がある奇策での対応のため、逆流するエネルギーの負荷でケーブルが焼けてしまうようだ。
予備のケーブルは残り3本。
ケーブル1本につき、結界を5分ほど維持できる。
3本なので、約15分。
それがタイムリミットだ。
「何かできることは?」
「ケーブルの交換をお願いします。それが私たちの生命線です」
須磨がスパナを片手に、制御用の機械に繋がったケーブルを外し始めた。
利き腕は負傷しているが、それでも左手で器用にケーブルを固定する全てのボルトを外した後に、警官2人が力を合わせてケーブルを掴んで引き抜く。
同様に今度は塔の方からケーブルを取り外す。
両方から引き抜けたタイミングで、ケーブルの半ばから炎が上がった。
高温のためにケーブルの被膜が溶けており、それが何かの弾みで引火したようだ。
須磨は慌てず、分厚い靴底のミリタリーブーツで踏みつけて火を消した後に、焦げたケーブルを蹴飛ばした。
その間に、警官2人が新しいケーブルを取り付けていく。
接続が完了すると、制御機器に緑色のランプが点灯した。
このケーブルも、今の霧の結界が突破されたタイミングで焼き切らないといけない。
立てこもれる時間は残り少ない。
「今すぐにでも援軍に来てほしいところですが……」
「和泉も上戸さんも、先ほど現地を出たところだが、ここまでかなりの距離がある。急いでもここまで1時間近くかかるだろう」
「危険手当と追加料金をいただきたいところですね」
「上とは話してみる」
「それも生き残れたらの話ですが……」
桂は白い霧の向こうを睨んだ。
人の姿をした漆黒の影がうろついているのが見えるが、結界で隔離する前よりも明らかに数が増えている。
少数ならば、全力で立ち向かえば何とか公園を脱出できるかもと考えたが、それも無理そうだ。
ただ倒すだけではダメだ。
発生源を潰さないと、キリがない。
「何故、攻撃のタイミングが今だったと思いますか?」
「塔のシステム書き換えを阻止したかったんだろう」
「だけどシステムは壊したくない。塔の方もそうです。いつでも攻撃できたのに、今の今まで放置されていた」
桂は制御装置の上に手を置いた。
今はそのエネルギーを塔の制御ではなく、結界の維持に使っている。
そのため、システムの修復は止まっているというのが現状だ。
「霧の外側にいる敵の動きはかなりシンプルです。知能を持たせた魔法生物や、近くで術者がコントロールする使い魔的なものではなく、何かの条件が満たされた時に自動で起動する防犯ロボットのような構造だと」
「つまり、その条件が崩れると止まる可能性が高い……と」
「敵に与えられた命令は、おそらく私たちの排除と、塔のシステムの奪還です。もちろん、私たちの命をくれてやるわけにはいきません。別の方法を考えます」
そう言うと桂は制御機械とノートパソコンを接続していたケーブルを雑に引き抜いた。
「手伝ってください。結界を維持するよりも、生き延びられる可能性は高いと思います」
◆ ◆ ◆
静まり返った夜の公園に酷い金切り音が鳴り響いた。
ブレーキが摩擦で焼ける焦げた臭いが上がって来るも、それでも自転車は止まる気配がない。
仕方なく足を地面について無理矢理自転車を止めた。
保土ヶ谷の公園は異常なまでの濃い霧に包まれていた。
街灯の真下だけは、ほんのりと周辺の様子が見えるが、それ以外は数メートル先すらまともに見えない状態が続いている。
気温の差で、早朝に霧が立ち込めることはたまにあるが、こんな夜更けに濃霧が出るのは自然現象だとは思えない。
公園で儀式をやっていた魔術師の誰か、もしくは、攻撃を仕掛けてきた敵が何かをやったのだろう。
「急がなきゃいけないのに、これじゃあどうしようもないな」
どこに自転車駐輪場があるのか分からないので、とりあえず自転車を持ち上げ、車止めを越えて公園の中に入った。
そのまま乗っていくわけにもいかず、近くにあった建物……おそらくトイレの壁に自転車を立てかけた。
街灯がかなり多い公園なので、普段ならば夜でもスポーツや散歩などでも困ることがないだろうが、今は明かりがぼんやりと霧の中に霞んで見えるだけだ。
視界はかなり悪い。
「前に霧に飲まれた時は……カーターさんが火を出したんだっけ」
霧は水蒸気なので、火のスキルを使って温度を上げてやれば、その周りだけでも霧が晴れる。
以前はそれで突破できたが、現代の町中にある公園で同じことを再現するわけにはいかない。
スマホをポケットから取り出して、地図アプリを起動させた。
公園の周辺図が出たので、現在位置と、塔の場所を確認する。
「オーラウエポン!」
叫びと共に、バトンサイズの槍の穂先に青白い光が灯る。
武器の強化スキルで、いつどこから現れるか分からない敵に備えているのもあるが、今回は照明の確保の意味もある。
霧で視界が悪いので、自分がどちらを向いてどこを目指しているのかチェックするためのスマホは片手に持っておきたい。
そうなると、ライトか武器のどちらか片方しか持つことができない。
ならば、当然選ぶのは武器だ。
槍から発せられる光は決して明るくはないが、公園内には街灯もあるので、完全な暗闇というわけではない。
この程度でも十分だろう。
松明の感覚で槍を片手に歩いていくと、霧の中から黒い影が飛び出してきた。
数は2体。
そいつらは立体感のない人の形をした影のように見える。
似たような敵は以前に出雲で戦ったことがある。
術者の記憶を元に作り出された、人間の複製品だった。
出雲で出会った影は、銃器で武装していたり、ファンタジー世界風の武装や能力を使いこなしていたが、眼前の敵は単に腕を振り回すだけのシンプルな攻撃だ。
動きも直線的で単純。速度もそれほどではないので、冷静に対応すればどうということはない。
「伸びろっ!」
バトンサイズの槍が一瞬で1.5メートルほどの長さに伸びた。
リーチの差を生かして、槍を薙ぎ払い、影の脇腹へと大きくめり込ませた。
光り輝く槍の穂先は、そのままさしたる抵抗もなく影を両断した。
上下にあっさりと分断された影は、そのまま粒子となって散り、白い霧の中へ溶けて消えていった。
「まずは一体!」
一体目が目の前であっさり倒されたというのに、二体目の影は全く怯むことなく俺の方へ向かってきた。
慌てず、槍を大きく引き戻し、穂先の手前の部分を掴みなおした。
そのまま内向きに腕を曲げると、槍の柄の部分が二体目の影に突き出される形になる。
柄の部分にはオーラウエポンは掛かっていないので、威力自体はほとんどないが、二体目の影は虚を突かれたからか、防御も回避もせずにもろに喉元に柄の直撃を受けた。
痛みを感じているのかは、表情など見えない黒い頭部からうかがいしることはできないが、それでもカウンター気味に槍の柄の直撃を受けて、大きくバランスを崩した。
のけぞった状態のまま、影は足を止めた。
「プロテクション!」
その隙を逃す手はない。
間髪入れずに青白い光の粒子で構成された壁を作り出すスキル――プロテクションを影に向かって放った。
ひたすらに頑丈なエネルギーで構成された壁は、俺の腕の動きに合わせて高速で飛び出すことで、巨大なハンマーが激突するような衝撃を発生させる。
影の頭部はその衝撃に耐えきれず、粉微塵に砕けた。
槍を元の長さに戻し、プロテクションの壁を消す。
出雲の時と同じで、単体の強さはそれほどではない。
だけど、数が増えてきて囲まれると厄介になる。
一網打尽にできる攻撃スキルか、仲間が必要だ。
俺一人の力押しで解決できる問題ではなさそうだ。
オーラウエポンを掛け直して広場への道を進むと、どこからか囁くような声が聞こえてきた。
最初は空耳かと思ったが、人間の声のように聞こえる。
「……ここです」
罠の可能性は十分ある。
だが、誰かが助けを求めている可能性がある限りは見捨てるわけにはいかない。
耳を澄まして、声がかき消されないように忍び足で声の出所へ向かう。
声が聞こえてきたのは、数台の自動販売機が並ぶスペースだった。
シャッターは閉まっているが、屋根のテント部分には「売店」の文字がある。
「……上戸さんのお知り合いの方ですか?」
霧の向こう側から、ラビさんの名前が出た。
よく見ると、数人がブルーシートを頭から被って、自動販売機横にあるゴミ箱の後ろに隠れているようだった。
罠の可能性は低そうだが、周囲にいる敵に気付かれてはまずい。
音を立てないように近づいて小声で話しかける。
「小森です。上戸さんや和泉さんが遅れるということで助けに来ました」
「桂です。以前にも一度お会いしましたか?」
ゴミ箱の後ろから、中年の男が顔を出した。
やや遅れて、他のブルーシートの下から数人が顔を覗かせた。
シートの下に隠れている五人にも見覚えがある。
名前までは憶えていないが、春先に、この公園から宇宙船へ突入する時に変な踊りや楽器の演奏で儀式を行っていた、京都の組織の人たちだ。
どうやら無事だったようだ。
「負傷している方はいませんか? 俺は回復能力が使えるので、軽い傷ならばこの場で治療ができます。簡易の医療キットも持ってきています」
「ありがとうございます。私たちは大きな負傷はありませんが、途中で別れた警官が負傷しています」
「警官はいまどこに?」
「広場の近くに体育館があります。そこに身を潜めているようです。スマホで連絡を取り合って、お互いの状況はある程度把握できています」
「体育館ですか……」
スマホで公園の地図を確認すると、塔を挟んでこの売店の反対側に体育館があった。
体育館には倉庫など、隠れられそうな場所が複数あるので、そこらに身を潜めているのだろう。
「警官と合流はできそうですか?」
「体育館までの間にある塔の周辺には多数の敵がうろついています。それに加えてこの霧です。視界が確保できないので、どこから敵が襲ってくるかわかりません」
警官に負傷者がいるというのは気にはなるが、この場には男女5人の方が身を潜めている。
見るからに戦闘能力はなさそうなので、この人たちを放置して行くわけにはいかない。
「儀式の最中に突然に影のような敵が大量に襲って来たんです。しばらく結界を張ってたてこもっていたんですが、長くは持たないと判断して、その拠点を捨てました」
「ということは、塔は敵の手に落ちたと」
「いえ、敵も塔の奪還はできていません。そのように仕掛けてきましたので」
そう言うと桂さんと、他の4人がそれぞれ電子回路の基板のようなものを取り出した。
サイズはそれほど大きくない。
端の方には更に大きな基板に接続するための端子が付いており、パソコンのグラフィックボードのようにも見える。
「これは、塔の制御装置の一部です。敵の狙いは、私たちが書き換えしようとしていた塔の制御システムを奪還することだと予想して、それを阻止するために制御装置の部品を取り外して、各々が持つことにしました」
「それって元に戻せるんですか?」
「もちろん、一つでも部品が壊れたら戻せなくなります。敵もそれは分かっているんでしょう。だから、この部品を盾にすることで、大量の敵が押し寄せてきた広場から逃げ出せたんです」
「敵は追ってこなかったんですか?」
「追っては来ましたが、一部だけです。敵は魔術師から与えられた単純な命令を実行するだけの自動型です。与えられていたのは、おそらく装置を奪還しろという単純な命令です」
「つまり、制御装置の本体と部品のどちらを確保して良いか分からずに、大半は部品を外された装置を確保するために塔の前に残ったということでしょうか?」
「状況から考えるとそうなりますね」
話を聞いてみると無茶苦茶な話だった。
もし予想が外れていたり、敵が部品の破損など気にせず襲い掛かってきたら、ひとたまりもなかっただろう。
分が悪すぎる賭けだ。
だけど、桂さんたちはその賭けに勝った。
「ただし、塔の周辺から逃げ出す際に、私が展開していた『敵を近づけない霧』の魔法陣を逆に利用されてしまいました。そのせいで、この霧は『私たちが公園から出られなくなる霧』になっています」
「出られない?」
「正しくは、目的地に到達できなくする霧です。公園から出ようとすると、空間が歪んで出口に到達するまで時間がかかるようになるんです。出口だけではなく、塔や体育館へ向かうにしても、この霧のせいで何倍もの時間がかかるでしょう」
公園から脱出できずに、こんなところに身を潜めている理由が分かった。
敵が霧に潜んでいるだけではなく、霧の結界のせいで簡単に公園から脱出して避難することができないからだ。
「ただ、それで分かったこともあります。私の魔法陣を上書きして乗っ取ることができる魔術師が、塔の近くにいます。影の化け物を出したのもその魔術師でしょう」
「つまり、その魔術師を倒せば……」
「この霧も晴れるし敵もいなくなる」
「全部片付くんですね。分かりやすい」
腕時計を見ると、俺が公園に到着してから10分が経過しようとしていた。
時間的にはそろそろ到着するはずだ。
「もうすぐ仲間がこの公園に駆けつけるはずです。揃ったところで、その魔術師を倒しに向かいます」