収穫祭の魔女   作:れいてんし

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―Part16 「タワーマンション攻防戦」

 

 和泉たちの連絡を受けた端島、合田、梨本、そして船木と松葉の5人は港区のタワーマンション……ジェームス・ジョンソンを名乗る人物の拠点前に集まっていた。

 

 和泉の術が効いていたこともあるだろうが、ジェームスが騒ぎを大きくしたくないという事情もあるのだろう。

 高層マンションの一室の窓ガラスが割られたというのに何の騒ぎも起きていない。

 

 だからこそ、あまり騒がれず、静かにマンションの高層階へ潜入するには都合が良い。

 

 端島はマンション前の小公園から目当ての部屋を見上げた。

 

「端島クン、ちゃんと部屋の場所は分かってる?」

「暗くて見えないので、どれが目的の部屋なのか全然わからない」

「正直でよろしい。ビルには白い縦のラインが2本あるけど、その右側の方のラインを上から辿ってみて」

 

 端島は梨本の説明通りに指を動かし、マンションの屋上へ向けた。

 そこから白いラインに沿って1フロアずつ下ろしていき、特定の階で指を止める。

 

「あの部屋か」

「残念。その右側でした。窓が割れてる」

 

 梨本の指摘通りに指の位置を修正する。

 

 マンションの高層階の窓ガラスは夜の闇に紛れて黒く染まっていて分かりにくいが、梨本に説明されてから改めて見ると、その部屋だけ窓ガラスの反射がなく、深く沈んだようになっている。

 

 時折シルエットが膨らんで見えるのは、内側のカーテンが風に煽られているからだろう。

 

「合田、作戦頼む」

「リーダーは端島さんですよ」

「それでもだ。さすがに現代のマンションに殴り込みをかけるのは初めての体験だし、これで警察に捕まったりしたくない」

 

 合田はわざとらしくため息をついた後に、眼鏡を上げ下げしながら端島の隣に立った。

 

「では、今の状況から整理しますね。40階の部屋にはジェームス・ジョンソンを名乗る人物がいます。また、室内には第三世界の公園にあった塔の小型バージョンが置いてあります。それを他人に見せたくないジェームスは、警察に通報なんかはしないはずです」

「ジェームスは普通に倒して良いんだな」

「簡単には倒せないだろう」

 

 話に割り込んできたのは松葉だった。

 

「勢いを付けたムカデの体当たりを食らわせて壁に吹き飛ばしたのにノーダメージだった。それどころか、一瞬でムカデの体が分解された」

「分解能力があると?」

「いや、どちらかといえば召喚モンスターを送還できるんだろう。オレたちと同系統の能力だと考えられる」

 

 松葉は船木の方へ顔を向けた。

 

「オレたちは召喚モンスターの制御権を奪ったりできる能力があるが、自分の手駒として使う以外にも、召喚をすぐにキャンセルして消し去ることもできる。直接対決したオレからの感想だ」

「私は直接対決したわけじゃないけど、召喚したモンスターが倒された時とキャンセルした時は挙動が違うのが分かるから、そいつの話に嘘はないと思う」

 

 船木も松葉と同じ意見のようだ。

 塔の回収という共通目的がある今の状況だと、松葉が騙したり話を誇張する理由はない。

 ジェームスという障害を排除する上で、端島との共闘は必須だからだ。

 

「話を続けます。ジェームスもやましいことをしている自覚があるので、警察に頼ることはできません。なので、それを逆手に取ります。ここでジェームスを倒して、小型の塔……というか、装置を奪うことが、今回の作戦目的です」

「奪うって……動かせるものなのか?」

「私たちがジェームスを倒せば、そこにいる須磨さんが……」

 

 合田は近くに停まっている大型のワゴン車の前にいた須磨の方を見た。

 その前には負傷した和泉と元片倉が座り込んでいる。

 

 2人とも上着を脱いでおり、シャツのあちこちに血がにじんでいた。

 ジェームスとの戦闘で負傷したために、今回の戦闘には加われないとのことだ。

 応急手当を受けているが、病院での治療が必要だろう。

 

「普通のエレベーターとは別に、資材搬入用のエレベーターがあるらしいです。それに積んで、装置をマンションの外へ運び出します」

「第三世界の塔みたいに、見ているだけで不安になるとかはないのか?」

「そこは元片倉さんに策があるらしいです」

 

 合田の話を聞いていたのか、目を閉じていた元片倉が右手を無言で頭上へ上げた。

 

「2人ともかなりの負傷ですが、塔の能力を封じるため、そして世間の目に触れないよう隠形術を維持するために、ここに残ってもらっています」

「それなら、なおさら急いで解決して早く病院に行ってもらわないとな」

「急ぎたいところですが、無策で突撃すれば、逆に時間のロスになりかねません。きちんと作戦を立てていくことが、結果として時短になります」

「分かってるよ。だから、お前に作戦を頼んでいる」

「では、作戦です。セキュリティだらけのビルの中は通らず、端島さんにビアーキーを出してもらって、40階へ空から直接向かいます。これが最短ルートです」

 

 合田は先ほどの端島と同じようにマンションの40階、窓ガラスが割れた部屋を指さした。

 

「もちろん、ジェームスからすると、つい先程襲撃を受けたばかりです。窓から再度攻めてくることを警戒しているでしょう。何らかの罠を仕掛けている可能性も高いです」

「ならどうする?」

「壁を破って潜入してください」

 

 合田は真顔で言った。

 冗談などではないとその表情が物語っている。

 

「向こうの注意は割れた窓と、玄関の2か所へ向いているはずです。なので、その意表をつくには別方向から攻めるのが確実です」

「できるのか? マンションの壁って分厚いコンクリートだろ」

「いや、破れるポイントがある」

 

 元片倉が苦痛に顔をしかめながらも立ち上がり、フラフラとした足取りで近づいてきた。

 

「オッサン、無理をするなよ」

「ここはオレが説明しないと話にならないだろう」

 

 元片倉がやはりマンションの部屋を指しながらスマホを起動させた。

 一部ひび割れたスマホの画面には、建物の設計図が映し出されていた。

 

「このマンションの南側、海に面した方向は建築時には全面ガラス張りにできるよう強度計算がされて建設されている。実際、工事直前までは全面ガラス窓を入れる予定だったようだ」

 

 端島は図面と実際のマンションを見比べると、実物の方は、全面ガラス張りではなく、一部は目隠しのような素材で覆われている。

 

「なんのためにこんな構造に?」

「そこまではわからん。夏場は日当たりが良すぎて暑すぎるとかそんなのかもしれない。ただ、その構造変更のおかげで、南側の壁面には分厚いコンクリート壁が使われていない。壁材と断熱材の薄い板だけだ」

「つまり、簡単にぶち破れると」

「台風や災害にも耐えるし、普通の人間が殴る蹴るで壊れるようなやわじゃないがな。それでも、お前らの攻撃力なら余裕だろう」

「なんでもいい。壊せるというなら、壊して中に入るだけだ」

「OK、合格だ」

 

 何が合格なのかは分からないが、元片倉はサムズアップを端島に向けた。

 

「俺のビアーキーは4人までならば一気に運べる」

「そういうことならば、オレはまた裏口から入らせてもらう。お前らの戦闘が終わったタイミングで合流するさ」

 

 松葉が自主的に抜けたことで、残りは端島と合田、梨本、船木。

 定員4人全員が突入できることになる。

 

「では作戦……といっても、敵の能力が分からないので簡単なものですが、端島さん、梨本さんが接近戦です。私は後方でサポート。船木さんは、その間に塔の確保をお願いします」

「了解。戦闘はあんたたちに任せるわ」

「接近戦といっても、どこまでやっていいんだ? 殺さない程度か?」

「今のところ、敵の能力は召喚系かもしれないので、召喚能力をキャンセルできるということだけです。なので、細かいことは後回しで、全力で接近戦を仕掛けてください」

「相手が攻撃能力を隠していたら?」

「私がスキルで見破ります。気付いたらすぐに大声で叫びますので、臨機応変にお願いします」

「細かいところは後回しという、まあ、いつものやつだな」

 

 端島は鞄から剣を取り出して構えた。

 

「今から殴り込むぞ。目立たないように、最大速度で一気に40階まで向かう。全員準備はできてるな?」

 

 異論の声は上がらなかった。

 各自、いつでも突入できるとばかりに装備品を掲げた。

 

「じゃあ行くぞ! 来い、ビアーキー!」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 マンションの外壁が圧力に負けて内側へ大きく吹き飛んだ。

 ここまでならば、松葉が大ムカデで襲撃をかけたときの再放送だが、違っていたのは、窓ではなく壁を破ってきたことだった。

 

「なっ!?」

 

 割れた窓の方を向いていたジェームスの対応が一瞬遅れた。

 間が抜けたように、あんぐりと口を開けて硬直している。

 

 その隙に、梨本が、両手に付けた巨大な手甲を体の前で交差させた防御姿勢で、冷たい冬の夜風と共に室内へ飛び込んだ。

 

 室内にジェームス以外の敵がいないと見るや、梨本は突入の勢いのまま、体勢を整える前のジェームスに体当たりを仕掛けた。

 手甲の甲の部分を前面に突き出した、防御姿勢を兼ねた体当たりだ。

 

 ジェームスは直撃を受け、大きくつんのめった。

 片足立ちでトントンとスキップのように飛び跳ねて何とかバランスを確保して、転倒こそ避けたものの、そこに大きな隙が生まれた。

 

「今がチャンス! 他に敵はいないよ!」

「2番手入ります!」

「同じく3番手!」

 

 ジェームスが怯んだその隙に梨本が叫んだ。

 その合図を切っ掛けに合田、船木が室内へと飛び込んでいく。

 

 最後に端島が剣を構えながら飛び込んだ。

 

「ビアーキーは消した方がいいか?」

「外で制限時間まで待機させておいてください。どうせ消しても、次の召喚が早くなったりはしないでしょう」

「その通りだ。このまましばらく維持させる」

 

 端島は剣を片手にジェームスへ向かっていく。

 

 ただし狭い室内だ。

 剣を大きくは振り回せないので、鍔に近い部分を握って短く構えて、突きと牽制を主体に攻撃を仕掛ける。

 

 ジェームスはボクサーのように軽いステップでその剣先を避けた。

 

「バカな……援軍が早すぎる」

 

 攻撃を避けたものの、その表情には焦りがあった。

 

 端島の剣筋が予想より鋭かったのか、ジェームスの口元がわずかに引きつった。。

 予想外の奇襲に対応できなかったことが、表情の硬さに出ていた。

 

「俺はサポートに回る。梨本、お前に任せた!」

「任されたよ!」

 

 ジェームスが端島の攻撃を避けて移動したポイントに梨本が手甲を大きく振り回した。

 手甲の先に付いた鉄の爪がジェームスの服を掠める。

 

「いつも自分が一番って言ってたのに、どういう風の吹き回し?」

「俺だって成長している。大事なのはチームで目的を達成することだというくらい分かっている!」

「さすが男の子!」

 

 端島の剣がジェームスを追い込み、その隙に梨本が蹴りや爪で攻撃を仕掛けていく。

 

 クリーンヒットはないものの、ジェームスは2人の連携攻撃にどんどんと部屋の端の方へ追いつめられていった。

 家具も調度品も何もない、がらんどうの部屋だからこそ、2人の攻撃を避けられたが、そうでなければ、もっと早く勝敗は決していただろう。

 

「これで勝ちか」

「何か召喚しようとしています! 油断するのはまだ早い!」

「了解!」

 

 端島がすかさず剣を大きく振り回した。

 剣先が天井を擦るのも気にせず、風音を立てながら剣を一気に振り下ろした。

 

 今まで牽制で放っていた小ぶりの攻撃とは異なり、速度は倍以上だ。

 それでも、あまりにも読みやすい攻撃だ。端島も当たるとは思っていない。

 

 だが、ジェームスは今までのように紙一重では避けなかった。

 万が一でも当たれば致命傷に繋がる……そう悟ったのか、細かいステップではなく、大げさなほどのサイドステップで大きく横方向へ跳んだ。

 

 回避運動に気を使いすぎたためか、ジェームスの腕の先に青白い光が灯っていたのがすぐに消えた。

 

「そのまま連続攻撃で! もう逃げ場はありません」

 

 2人の攻勢に、後退を続けていたジェームスの足がついに止まった。

 すぐ背後には壁があり、もう回避運動で避けることはできない。

 

 それでもなおも避けようとしたジェームスの靴の踵が壁を打つのと、梨本の蹴りがジェームスの腹にもろに食い込むのはほぼ同時だった。

 

 ジェームスが体をくの字に折り曲げ、嗚咽と共に倒れこんだ。

 

「これで勝負は決まりか」

「まだです! 何か術を使っています。早く阻止を!」

「……遅い」

 

 身をかがめたままのジェームスが低い声で呟くように言った直後に、光が弾けた。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 ジェームスを中心に猛烈な光が瞬いたかと思った直後に足場が突然に消失。

 端島たちは気付くと、高さ百数十メートル近い空中に投げ出されていた。

 

 端島はすかさず窓際に待機させていたビアーキーに命令を出して、なんとか落下する全員を拾い上げた。

 

「消さずに良かった……全員無事か?」

「無傷じゃないけど、なんとか」

 

 咄嗟のことだったので、ビアーキーの背に乗せられたのは端島の近くにいた梨本だけだった。

 合田と船木は、足の爪で掴ませている。いわば宙づり状態だ。

 

「下の2人も無事か?」

「無事に見える?」

「この体勢で長時間は無理です……」

「言われなくてもそうする。ビアーキーの効果時間が切れて、もうすぐ消えるからな」

 

 端島がそう言うと、2人の表情が青くなった。

 体感だと効果は残り30秒ほどだ。

 それでも、着陸するには十分間に合う。

 

「それにしても……」

 

 端島は空を見上げた。

 

 夜の闇とは異なる漆黒の空に地面から無数に突き出した巨大な水晶と、前衛芸術のような不自然なオブジェクトが広がる世界。

 何度か調査のために訪れた裏の世界だ。

 

「さっきの光は攻撃じゃなかったのか? テレポート系?」

「考えるのは後にしてもらっていい?」

 

 下の方から苦情が飛んできたので、端島はビアーキーに命令を出して、ゆっくりと地上へ近付かせた。

 それぞれが地面に降りたタイミングで、丁度効果時間が切れて、ビアーキーが姿を消した。

 

「でも、一体何のために裏の世界へ送ったんだ」

「攻撃ではあると思います。端島さんがいなければ、私たちは地面に激突して、とっくに死んでいたわけですから」

「でも、それだけじゃないような。あの場から俺たちを離すこともあるとしても」

「別の目的が出てくるみたいだよ」

 

 梨本が手甲を構え直した。

 

 現実世界でタワーマンションが建っていた場所に、瓦礫の山があった。

 その中から巨大な爬虫類が頭を覗かせた。

 そいつはコンクリ塊を弾き飛ばして全身を現した。

 

 全長は20メートル近い。

 紡錘形の胴体から伸びた長い首の先には巨大な爬虫類の頭が付いている。

 

 腕はない代わりに蛾のような4枚の翼が生えており、太い2本の足で大地を踏みしめている。

 皮膚の色は血のような暗い赤色。

 

 蛾の翼を持った翼竜……真っ当な生物だとは到底思えない。

 

「このデカブツを出すにはあの部屋では狭すぎるということか」

「気を付けてください。口から火炎弾を吐き出すようです。あと外見でわかると思いますが……飛びます」

 

 合田の眼鏡が光っていた。

 スキルを使って目の前の敵の能力を解析したのだろう。

 

「つまり、飛ばれて空から火炎弾をバラ撒かれると……」

「詰みます。攻撃手段がほぼなくなるので」

 

 そういう合田は火炎弾を警戒しているのか、じわじわと後ずさりで怪物から遠ざかっている。

 

「梨本、2人で羽根へ集中攻撃だ! やつを飛ばせるな!」

「相手は大きすぎて面倒だけど……なんとかやってみる」

「合田と船木もサポート頼む」

「まあ、なんとかやってみるわ」

「じゃあ、私がまず先制攻撃を食らわせます。乱戦になると誤射の危険もあって使えないので」

「任せた」

 

 巨大な翼竜が体を低く沈めた後に、翼を大きく開いた。

 生態など分からないが、それが飛翔のための予備動作だということは端島にも分かった。

 

「当たれーっ!」

 

 そこに合田が構えた杖の先から幾条ものレーザー光線が放たれた。

 

 レーザーは放物線を描いて一斉に翼竜から生えた羽根へと降り注ぐ。

 相変わらず物理を越えた謎の軌道だ。

 

 ただ、一瞬赤熱しただけで、それで羽根が焼かれるようなことはなかった。

 

「ダメです。熱は効果が薄いです」

「それなら物理だ!」

「最初から物理メインだけどね!」

「まあ、物理ならこんな感じでしょう!」

 

 船木が手を掲げると、一羽の鳥が虚空から現れた。

 嘴が異様に長く尖っている、異形のキツツキだ。

 

「これを回転させて高速で飛ばせば!」

 

 船木の合図で、キツツキが風を切る音と共に高速で射出された。

 槍のように研ぎ澄まされたキツツキは翼竜の羽根の根元に突き刺さった。

 

 翼竜は首を持ち上げて悲鳴を上げた。

 

「この調子でどんどん投げるから、あんたたちはその間の牽制と――」

「――分かってる。攻撃を仕掛ける!」

 

 スキルで脚力強化をした梨本が翼竜の足元を駆け回り始めた。

 それに反応して、翼竜も巨大な体を揺るがして梨本の動きを追った。

 

 ただ歩くだけで大地を踏みしめる大きな音が鳴り、地面に振動が響く。

 

 梨本がいくら身体強化をしているとはいえ、翼竜は巨大だ。

 その首で薙ぎ払われたり、太い足で蹴飛ばされると無事では済まないだろう。

 

 今は脚力強化のスキルにより、速度差で捕まることはないが、スキルの持続時間は無限ではない。

 どこかスキルが切れて減速したタイミングで捕まえられる。

 

 もちろん、合田が分析した通り、火炎弾は翼竜の足の速さとは関係ない。

 どれくらいの速度で飛んでくるか不明だからだ。

 

「火炎弾来ます!」

 

 合田が翼竜のわずかな攻撃の予兆を読み取った。

 

「足を止めるな! 火炎弾は俺が止める!」

「任せた!」

「任せろ! ドラゴンテイル!」

 

 端島が剣の先からビアーキーの尾だけを召喚した。

 鞭のように長く伸びた尾は翼竜の首へと絡みつき、方向を横にずらした。

 

 梨本に向けて口から吐き出された血のように赤い炎の塊は、明後日の方向へと飛んで行った。

 はるか先の方で火炎弾が着弾した爆発と黒煙が上げる。

 だが、命中しなければ関係ない話だ。

 

「アシストありがとっ!」

「どういたしましてっ!」

 

 端島は答えつつ、まだ絡みついたままのドラゴンテイルを掴んでロープのように大きく引っ張った。

 端島の力とビアーキー自体の力が合わさり、長い翼竜の首が地面に叩きつけられた。

 

 ただ、相手の首が長かったからこそ首が地面に付いただけだ。

 巨大な体や足はビクともせず、立ったままの体勢を保っている。

 どこまでダメージが入ったか怪しい。

 

「追い打ち頼む!」

 

 船木と梨本が目だけで無言で答えた。

 

 船木が放った2羽目のキツツキは今度は翼竜の片目に大きく突き刺さった。

 更に間髪開けずに梨本が翼竜の頭に飛び乗り、逆の目に両手の手甲に付いた爪を叩きつけるように振り下ろした。

 

 だが、翼竜はまだ絶命しない。

 

「なら、こいつでどうだ!」

 

 端島がスキルで剣に風をまとわせて駆け出した。

 翼竜の首の手前で跳躍し、全体重を込めて剣を翼竜の眉間へ振り下ろし、深々と食い込ませた。

 

「風よ!」

 

 端島が叫んだ直後に剣から猛烈な風が吹き荒れた。

 

 風の勢いを受けた剣は更に翼竜の頭部へとめり込んでいく。

 翼竜の頭蓋骨が砕ける、陶器を割るような音が鳴り響く。

 

「2人ともどいて! トドメを撃ち込む!」

 

 端島と梨本が飛び退くと同時に、船木が放った3羽目のキツツキが翼竜の眉間へ突き刺さった。

 頭蓋骨が砕かれたからか、キツツキは表面では止まらず、翼竜の頭部深く潜り込んでいく。

 

「やったか?」

 

 端島と梨本が翼竜からわずかに離れた位置で様子を伺っていると、それまで自立していた胴体が力を失ったように横倒しになっていく。

 

「まさかこっちに倒れてこないよな」

「倒れてきたらダメだから、早く逃げよう」

「そうしよう」

 

 翼竜に向けて端島と梨本は背中を向けて駆けだした。

 

 やや遅れて、翼竜の巨体が地響きと共に地面へと倒れこんだ。

 もうもうと土埃が舞い上がる。

 

 4羽目の準備をしていた船木と、眼鏡を光らせた合田が息を飲んで様子を伺う。

 

「勝った?」

「勝ったかも?」

 

 合田と船木の2人がそろそろと近づいていく時に動きが起こった。

 

 翼竜が先ほどはい出てきた瓦礫の山が盛り上がり、新たな翼竜が2匹、もぞもぞと這い出してきたからだ。

 

「増援? 聞いてない!」

「一匹だけじゃなかったのかよ!」

 

 これには端島と梨本も慌てて走って逃げだした。

 

 一匹を倒すのにそれなりの力を使っている。

 そこへさらに二匹が追加された。

 しかも、それで終わりという保証はなしとなると、とてもまともに戦っていられない。

 

「どうする?」

「どうするったって……倒さなきゃダメだと思うけど」

「召喚者を倒さなきゃキリがないと思うけど」

 

 船木が汗をぬぐいながら端島に言った。

 

「召喚者? ジェームスもここに来ているのか?」

「ジェームスかどうかはともかく、召喚者は間違いなくいるわよ。そこの瓦礫って平たいでしょ。こんなデカブツが何体も隠れられるスペースがあると思えないし」

「ただ、召喚者を探すにしても、この2匹は倒さないと先に進めないってわけか」

「倒しても、召喚者が無事ならば、また新手が来るけどね」

「それでも、都合よく援軍が来るわけない。さっきの要領で片付けるぞ!」

 

 端島と梨本が武器を構えた直後、上空を何かが高速で駆け抜けた。

 

「なんだ!?」

「援軍?」

 

 それを確認する間もなく、虹色のレーザー光線が翼竜2匹を横切った。

 直後に、翼竜の首が切断され、ゴロンと落ちた。

 

「まだ裏の世界にいたんですか? 入らないでって言ったじゃないですか」

 

 上空から聞こえてきた声は、第三世界にいたはずの上戸のものだった。

 

 上戸は箒に乗って、端島たちの上を飛んでいた。

 そのままゆっくりと地面に降りてくる。

 

「上戸さんこそなぜここに?」

「新橋から保土ヶ谷の公園へ行かなきゃ……って時間がないんだ。色々と話をしたいところですが、色々と話をしたいところですが、急ぎの用事があります。すぐに行きます。何度も言いますが、裏の世界にはもう入らないでくださいね」

「いや、ちょっと待ってくれ。合田、どこかに召喚者が隠れているか分かるか?」

「そこの瓦礫の陰です!」

「何がいるんですか?」

「さっきの翼竜を呼び出した召喚者です。多分、ジェームス・ジョンソン本人がいるはず……」

「ジェームスが? なら、ちょっとくらい寄り道しても結果はプラスになるか」

 

 上戸は端島、梨本と一緒に、ジェームスがいるという瓦礫の陰へ向かった。すると、背を向けて遠ざかる人影が見えた。

 ジェームス本人かどうかは分からないが、裏の世界にいるという時点でまともな人間ではない。

 

 その時、上戸がしゃがみ込んで、野球のボールくらいの石を拾い上げた。

 

「これを」

「これ? ただの石だよな」

「うちのチームで、遠距離攻撃といえばこれです」

「ひどいチームだな」

 

 端島は石を受け取ると、横にいた梨本に渡した。

 

「行けるか?」

「キャッチボールは苦手なんだけどね」

 

 梨本は石を受け取ると、大きく振りかぶって勢いよく人影に向かって投げつけた。

 後頭部に見事に命中し、人影がバタリと倒れた。

 

「死んでないだろうな……」

「まあ、大丈夫みたいですよ。死んだら分かりますから」

「それならいいけど」

 

 端島たちは倒れた人影に向かって駆け出した。

 

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