収穫祭の魔女   作:れいてんし

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Chapter 17 「洋館」

 リプリィさんは入り口の扉の前に。

 その両側に銃を構えたサンクさんとサティンクさんこと、ランボーとコマンドーが待機する。

 

 モリ君は玄関や1階の窓からは死角になる洋館の角に陣取る。

 いつでもプロテクションで3人を守ることができる上に、一足飛びで戦闘に参加できる位置だ。

 

 エリちゃんはモリ君と同じように、洋館の角で待機。

 やはり何かがあれば、いつでも飛び込めるように今も準備体操であろう膝の屈伸をしている。

 

 俺は少し離れた位置で遠距離からの支援だ。

 

 もちろんそれだけではない。

 かなり胡散臭いカーターを離れた位置に置いた上で、俺が監視しておけということだ。

 

 リプリィさんが入り口の扉に付いた呼び鈴を何度か鳴らした。

 だが、何の反応もない。

 しばらく呼び鈴を鳴らし続けるが、やはり物音一つなかった。

 

「陸軍少佐リプリィと申します。少し話を伺ってもよろしいでしょうか?」

 

 リプリィさんが屋敷の中へ大きな声を出して呼びかけるが、返答はなかった。

 

 エリちゃんが無言で首を横に振った後に、右手の人差し指と親指で輪を作った。

 0……つまり、中から人の気配はしないということだ。

 

 リプリィさんが扉の開閉レバーに手をかけて少しだけ下げた。

 

「扉は施錠されていないようです……開けます」

 

 まず最初にリプリィさんが右手を上げた。

 今から突入準備という合図だ。

 

 ランボーとコマンドーの2人が扉の左右に回り込んだ。

 

 リプリィさんがレバーを一気に引き下げ、ドアの陰に隠れるようにして一気に開いた。

 

 ギィと軋んだような音を立てて片開きの扉が開いたと同時に、屋敷の奥から白い波のようなものが粘液を垂らしながら猛烈な勢いで押し寄せてきた。

 巨人の眷属である蛆虫……ユッグだ。

 

「プロテクション!」

 

 モリ君が間髪入れずに発生させた青白い光り輝く壁、プロテクションを出現させた。

 光る壁は、開けた扉の代わりに屋敷の中と外とを分断する。

 

 光の壁の向こう側で、何匹ものユッグの群れが光の壁にぶつかる音が聞こえてきた。

 

 だが、光の壁はビクともしない。

 モリ君がランクアップをしたことにより、プロテクションの強度も上がっているのだろう。

 

 しかし、その壁も永遠に維持し続けるわけではない。

 

 ユッグの群れは、今のところは律儀に扉から飛び出そうとしているが、そこから出られないとなれば、窓やバルコニーを破って外に出てくる可能性が十分考えられる。

 まだ奴らが出てきていないここで何らかの対策を講じる必要がある。

 

「ラヴィさん!」

 

 リプリィさんから俺に攻撃の要請が飛んだ。

 

 それと同時にリプリィさん、ランボー、コマンドーの3人が退避を始めている。さすが軍人、判断が速い。

 

「極光でいいよな!」

「魔女の呪い3羽で頼みます! 撃ち漏らしたのをチマチマ倒すよりも、一掃が早い!」

 

 モリ君から具体的な指示が飛んできた。

 

「人間がいる可能性は?」

「触れただけで皮膚が焼かれる毒蛆虫だらけの中で生きていられる人間はいません」

 

 実にもっともな意見だ。

 

「音からして最低20はいる! まとめて倒して!」

 

 エリちゃんは耳で聴きとったであろう音から、洋館内にいるであろうユッグの数を出してきた。

 

 それと同時に、1階のガラス窓がぐらぐらと揺れる。

 予想していた通り、扉から出ることができないからか、窓を破壊して外へ出ようとしているようだ。

 

「カーター、俺から少し離れていろ!」

「離れるってなんで?」

「俺の能力は周辺の生命体を分解する無差別攻撃だ。お前も巻き込まれたくなきゃ逃げろ! そこの桟橋の端っこまでだ」

 

 あまり情報を出したくないのだが、仕方がない。

 3羽の「収穫」の範囲も分かっている。桟橋の端に立てば影響を受けない。

 

 もちろん屋敷までも届かない。

 

 怒鳴りつけるように警告を出すと、カーターは俺から走って距離を取った。

 

「鳥3羽を解放(リリース)! 全員退避! 余熱でも近いと大火傷になる。なるべく洋館から距離を取れ!」

 

 精一杯に声を張り上げて警告を発すると、リプリィさんたち軍人、モリ君とエリちゃんも洋館から離れた。

 

「プロテクションの壁ごとぶち抜くぞ!」

「やってください!」

 

 モリ君からのOKが出たので、射線上に誰もいないことを再確認して魔女の呪いを発動させた。

 前にかざした右手の先に黒い球体が出現する。

 そして、後ろの入り江の海の中から次々と黒い霧が立ち上って球体に吸い込まれていく。

 

 海藻や魚などが分解されているのだろう。

 

 そして黒い球体は一瞬膨らみ、収束して熱線へと変わった。

 

 熱線は屋敷の扉へと突き刺さり――

 

 ――モリ君が張ったプロテクションの青い光の壁で弾かれ、周囲に高熱の火の粉を撒き散らし始めた。

 石が一瞬で黒く焼け焦げ、木材が黒く炭化したかと思うと白い粉になって燃え尽きて消える。

 

「ええっ!?」

「ちょっ、この熱線を防ぐのかよ!」

 

 完全に予想外だ。

 まさかモリ君のプロテクションがランクアップによる強化で、これほど防御力を上げているとは予想できなかった。

 

「壁が頑丈すぎるだろう! 解除はできる?」

「でも、迂闊に解除するとユッグがあふれ出すので……」

 

 だが、杞憂だったようだ。

 

 熱線の照射時間は10秒ほど続く。

 青く光る壁は粉砕され、粒子と化して散っていった。

 

 熱線は、光の壁の後ろにいたユッグ、そしてその奥にあった洋館の階段やら調度品やらを消し飛ばし、建物を貫通して後ろにあった岩壁の一部に半径5メートル、奥行き50メートルほどの穴を抉り取って止まった。

 

 洋館を貫通した時、建物内に熱線から発生した高温の空気が流れ込んだのか、あちこちからボンボンと破裂するような音が連続して聞こえてくる。

 熱に弱いユッグの体内にあるガス袋が熱線の余熱で膨張、炸裂しているのだろう。

 結果オーライだ。多分。

 

「全員無事ですか?」

 

 リプリィさんの呼びかけにランボーとコマンドー、そしてモリ君、エリちゃんが手を挙げて応じた。

 カーターは口を開けてぽかんとしたまま固まっていたが、やや遅れて手を上げた。

 

「屋敷の中にユッグは?」

「待ってくれ、今すぐ確認する」

 

 残していた鳥の使い魔の1体を使い魔モードに切り替えて屋敷の中へ突入させた。

 

 梁や天井の板であっただろう材木があちこちに落下してきている。

 熱線によって開けられた穴の淵が黒くくすぶっていた。

 

 動いているユッグはもういないようだ。

 床にはユッグがまき散らした粘液がたまっていたが、それも泡立って蒸発していく。

 

「それにしてもコントロールが難しいな」

 

 鳥にこまめに命令を出すが、うまく動かせない。

 今まではこの使い魔はずっと屋外で使ってきたので気にしたことはなかったが、屋内で使うと操作がかなり難しい。

 移動速度が思ったよりも速く、すぐにどこかにぶつかりそうになる。

 

 そうしているうちに、鳥を壁にぶつけてしまった。

 鳥はそれで役目を終えたようで、霧散消滅した。

 

「屋内でも使えるようにトレーニングが必要だな」

 

 鳥はもう1羽待機させているが、突入させるのはやめた。

 今の状態だと、残っているユッグはもういないだろう。

 

「俺のプロテクションはかなり強化されたから、もしかしたらラビさんのビームもちょっとは防げるかとは思ったんですけどね」

 

 モリ君が頭を掻き、苦笑いを浮かべながら俺に近寄ってきた。

 

「そうは言っても何秒かは止めただろ。もし俺がトチ狂ったり操られたりしても、仲間が逃げる時間が稼げるんだから凄いよ。それに、ユッグの群れを外に出させなかったのも凄い活躍だと思うよ」

 

 これは本心だ。

 

 実際、先程ユッグの群れが一気に外へ飛び出してきて乱戦になれば、かなりの苦戦を強いられただろう。

 モリ君とエリちゃんはともかく、俺やカーター、リプリィさんたち軍人が物理無効の蛆虫と戦うのはさすがに難しい。

 それを阻止できたのは大きい。

 

「本当に助かりました。数匹が飛び出してくる覚悟はしていたのですが、あんなに沢山いたとは」

 

 リプリィさんもモリ君に謝辞を告げている。

 俺とリプリィさんの言葉を聞いて、ようやくモリ君も苦笑いから普通の笑顔に変わった。

 

「これからも守っていただけるとありがたいです」

「もちろん。俺はみんなを守りますよ」

「それでどうするよ? この状態で洋館の捜索を続けるのか?」

 

 カーターの言う通り、館全体がミシミシと軋む音を立てている。

 

 この破壊状況は決して良い状態とは思えない。

 迂闊に屋敷内に入って探索を行うと、いつ屋敷ごと崩壊してきて生き埋めになってもおかしくはない。

 危険が多すぎる。

 

 どうするべきかと思案していると、突然に館全体から眩い光が発せられた。

 また何かの攻撃なのか!?

 

「みんな、俺の後ろに!」

 

 モリ君がすかさずプロテクションを展開した。

 

 その後ろにモリ君自身とリプリィさん、エリちゃん、カーターの4人が隠れる。

 

 だが、さすがにプロテクションの範囲では守れる人数に限度がある。

 

 その時、サティンクさん……コマンドーが洋館から剥がれた大きめの板を担いで駆け寄ってきた。

 その板を盾にしようということだろう。

 俺とランボー、コマンドーの3人はその板の陰に身を潜める。

 

 館が破壊された時に何か発動するようなトラップでも仕掛けてあったのか?

 まさか爆発か?

 

 俺も再度鳥を呼び出して、コマンドーが持っている板の前に(シールド)を形成して防御力を強化する。

 

 光は10秒ほど放たれただろうか。

 

 特に爆発などが起こることはなく、光は音もなく、何の破壊ももたらさずに消えていった。

 

 ――チャリン。

 

 光が消えたと同時に、何かの金属音が館の方から聞こえた。

 

 俺は盾を前面に展開したまま、その物音がした方に近付いてみる。

 館の前には1枚の銀色のメダルが落ちていた。

 

 先程の金属音は、このメダルが排出された音なのだろう。

 持ち上げるとSRの文字。

 間違いなくモンスターを倒した時に現れるメダルと同じものだ。

 

「これはユッグの群れを倒したから出現したのか?」

「いや、これはこの『洋館』自体が召喚オブジェクトだったんだろう。ようするに、この洋館もモンスターだったってことだ。人食い屋敷とかそういう類の敵だ」

 

 俺の後ろにいつの間にかカーターが立っていた。

 

「召喚オブジェクト? お前、何を知っている?」

 

 俺はカーターを睨みつける。

 

 やはり俺の直感は正しかった。

 こいつは何かを隠して、俺たちに近付いてきているスパイ的な人物だ。

 

 召喚されたというのも、やはり嘘だろう。

 俺も超越者Bから召喚された別枠疑惑はあるが、こいつに関しては超越者Bともまた違うようだ。

 

「疑う気持ちは分かるが、これだけは言っておく。俺は敵じゃない。ただ、今は言えないことがあるだけだ。そのうちに機会があれば全部話す」

「言えないこととは?」

「有名な漫画のセリフで有るだろう。これ以上は言ったも同然。だから今は言えない」

「……なるほど」

 

 確かにその漫画は俺も大好きだし、そのセリフも当然知っている。

 だけど、今のカーターの使い方はおかしい。

 

「それは、噓つきのキャラが自分の嘘と真実をどちらも隠してミスリードを誘うために使ったセリフだぞ。釈明には相応しくはない」

 

 カーターが口をつぐんだ。

 やはりこいつは嘘をついている。

 問題は、全てが嘘なのか、それとも一部に嘘が含まれているのかだ。

 

 それを見極めないと、嘘の情報をどんどん出されて、聞き取りをしている俺たちの方が不利になってしまう可能性もある。

 

「そうは言っても、言えないものは言えないんだ。分かってくれよ。オレは別に敵対するつもりはない」

「お互いに妥協できない点があるのは分かった。だけど、このまま話していても平行線のままだ」

「建設的だな。それはオレも同じ意見だ」

 

 こんな時だけ意見があっても仕方がないのだが、今話した通りだ。

 俺たちがここに来た目的は、召喚者をどうにかして、ユッグの被害を食い止めることだ。

 

 あまりこいつばかりに時間を掛けていられない。

 

「今はここの調査が優先だ。だから、事件解決後に、後でじっくり話してもらう」

「どうせじっくり話すなら大人の女性と話したかったんだが、なんでオレの相手はこんなのかねぇ」

「こんなのとはなんだ」

「いや、お前の中身はオッサンだし、ガワの方も胸もくびれも尻もないドラム缶じゃないか」

 

 やはりこいつとは何一つ話は合わない。

 後でじっくりと絞める必要がありそうだ。

 

 特にドラム缶呼ばわりについては小一時間ほど問い詰める必要がある。

 絶対に許せない。絶対にだ。

 

 それはそれとして、俺は銀色のメダルをモリ君とエリちゃんに見せた。

 

「この館自体がモンスターだったみたいだ。多分、洋館のフリをして犠牲者を誘い出して、館の中に入った相手を捕食する巨大なミミックみたいなものだったんだろう」

「ということは、ラビさんのビームで倒したのは正解だったと」

「おそらくは」

 

 2人には今はこの説明で良いだろう。

 カーターが何か知っていて怪しいとか「召喚オブジェクト」なる謎の言葉やらを今出しても混乱の元にしかならない。

 

「はい皆さん、当初の目的をお忘れですか?」

 

 リプリィさんがここで手を叩いた。

 

「私たちの目的はこの屋敷ではありません。おそらく事件に関係しているであろう不審人物と、この裏にある遺跡です」

 

 俺が館に開けた大穴の奥には、先程空から見えた石柱や、洞窟の入り口のようなものが見える。

 

「この屋敷の先に在る遺跡の調査です。不審人物もこの先の遺跡にいるかもしれません」

 

 崩れそうな洋館を迂回して、裏手に回り込んでみる。

 

 先程、空から見えた2本の石柱は、いくつもの石を綺麗に切り出して積み上げて作られている。

 石の加工技術は、俺たちが最初に投げ込まれた地母神の遺跡と共通するものがある。

 

 洞窟は入ってすぐのところに地下へと降りていく階段があった。

 階段の奥にまでは灯りが届かないので、降りた先に何があるのかまでを見通すことはできない。

 

「この家が崩れて、入り口が埋まったりしないよね」

 

 エリちゃんの心配ももっともだ。

 内部を探索中に家の残骸によって入り口が塞がって出られないという事態が発生すれば目も当てられない。

 

「では、サンクとサティンク。2人はここで入り口の番をしていて欲しい。もし入り口が塞がって、2人だけではどうしようもない場合は、軍部に救助要請を出して欲しい」

「了解。隊長も御注意を」

 

 ランボーとコマンドーが敬礼をした後に早速入口周辺の崩れてきそうな瓦礫を撤去し始めた。

 なんと頼りになる人たちだろう。

 

「ならオレも外で留守番ということで」

「お前はこっちだ」

 

 俺は地上に残ろうとしたカーターの服をグイっと引っ張って止める。

 

 カーターには信用できない部分が多い。

 地下に連れて行くのも不安はあるが、俺の目が届かない地上に置いておくことも一抹の不安が残る。

 

「リプリィさんも地上に残留で良いんですよ」

「ですが、軍の関係者が1人も行かないというのも問題でしょう。私は行きますよ」

 

 こちらも難しい問題だ。

 

 リプリィさんは、ランボーとコマンドーよりも階級は上かもしれないが、2人に比べると戦力が不足している。

 地上と地下を比較するならば、明らかに地下の方が危険だろう。

 

 なので、できれば、ここはリプリィさんも地上に残しておきたい。

 軍関係者を1人は同行させてほしいというお役所事情があるならば、ランボーかコマンドーのどちらかに来てもらう方が安心感はある。

 

「リーダーはどう思う?」

 

 ここは現在のリーダーであるモリ君にも意見を聞こう。

 どの道、俺だけで判断して良い内容ではない。

 

「それでもリプリィさんを危険な目には遭わせたくはありません。これは理屈ではなく、俺の個人的な感情です」

「モーリスさん、私は軍人ですよ。危険は承知の上です」

「それは分かっています。その上で聞いてください。軍への協力要請は、役職者のリプリィさんが出すべきだと思いますので、俺としてもリプリィさんは地上に残って欲しいです」

 

 まあそうだろう。

 

 モリ君は同年代の若い女性が傷付くと何かしらのトラウマが刺激されて耐えられないタイプだ。

 リプリィさんを連れて地下に入るという選択肢は基本的に避けるだろう。

 

 ならエリちゃんは良いのかという話になるが、そこはモリ君の中でまた別の基準があるようなので、どうもややこしい。

 

 その上での「役職者が残った方がよい」は正論だ。

 この正論に対してリプリィさんがどう反論してくるかだけだ。

 

「俺たちはあくまで外部の人間なので、軍の人へ指示はできません。ですので止めることはできません。もちろん危険な時は俺が全力で守ります」

「モーリスさんの話は分かりました。ですが、地上で入り口が塞がらないよう守る役目は重要です。だからこそ、信頼できるサンクとサティンクに任せたいと考えています」

「考えは変わりませんか?」

「私は守られているだけの姫ではありません。自分の身くらいは自分で守ってみせます」

 

 モリ君の正論パンチでもリプリィさんの意志は変えられないようだ。

 意外と頑固な性格だった。

 

 こうなると、所詮は外部の人間である俺たちでは、正式に命令を受けて行動しているリプリィさんを止める権利はない。

 

「でも軍人という立場ではなく、私個人の意見だと、モーリスさんに守っていただけると言っていただいたのは、嬉しく思います」

 

 ダメだった。

 リプリィさんがモリ君へ向けている視線が完全に恋する乙女だ。

 

「ほら、勘違いしちゃう人が出た」

 

 エリちゃんが俺の肩に手をかけてボソっと愚痴るように言った。

 

「リプリィさん、あれ軍人としての使命感だけじゃないでしょ」

「……うん、それはまあ何となく俺もわかる。困ったことに」

 

 モリ君はパーソナルスペースが狭いので、グイグイ来るように見えるところがある。

 

 野戦病院のテントで「治療のために働く、真面目で誰にでも優しい有能なイケメン」というモリ君を間近で見ていたあたりから、かなり意識はしていたのだろう。

 その後のモリ君の自覚ない「守る」攻勢により完全に落ちてしまっている。

 

 あの娘もかなりのチョロインのようだ。

 

 知事がモリ君をリプリィさんと結婚させてこの国に留まらせようかと考えていたという話を思い出した。

 

 もしかしたら、リプリィさんもその話を聞いて意識しまくった結果が現状なのかもしれない。

 

 ただ、良いのか悪いのかは分からないが、モリ君からの矢印はリプリィさんには全く向いていない。

 だからと言ってエリちゃんに向いているかと言えばそうでもない。

 

 モリ君からの矢印はエリちゃんを通して、ユイなる謎の人物に向いているのは明白だ。

 

 今のままだと誰も幸せになれない。

 

 ただでさえ問題山積みなのに、人間関係という更にややこしい問題を積み上げないで欲しいのだが。

 

 他に頭を使うことならば足りない俺の頭で必死で考えて対策を練ることができるが、恋愛という俺の経験値が0の分野で殴りかかって来るのだけは止めて欲しい。

 

「モリ君がはっきりしないから、もう信頼できるのラビちゃんだけなんだけど」

「それは嬉しい発言なんだけど、俺は何をすればいいの?」

「とりあえず女子トーク」

 

 いや本当にどうすれば良いんだよと頭を抱える。

 

 今から地下に巨人とユッグを呼んだ奴についての調査に赴くのだから、俺の弱点のジャンルで突き進むのは止めて欲しい。

 

「では、隊列は今まで通りで行きましょう。防御スキルを使える俺が先頭に出ます。ハセベさんが不在なので、最後尾はエリス。中衛はラビさん、リプリィさん、カーターさんの3人で固めてください」

「私が一番後ろで大丈夫?」

「エリスの実力を信じている。後ろは任せた」

 

 エリちゃんは複雑そうな顔で頷いた。

 

「それでカーター、お前に1つ聞きたいことがある」

「話は全部終わったからって言っただろ」

「いや、これは今でないと意味がない話だ……今は何時?」

「14時20分」

 

 カーターが腕時計で時間を確認してくれた。

 そういうところは素直で助かる。

 

「というわけだ。日没が17時と仮定。今から準備に10分かけると、あと2時間30分だ。帰りも行きと同じ時間だと考えると、調査に使える時間は片道1時間15分ってところだ。日没までに調査が終わらなければ今日は一度撤収したい」

「そうですね。真っ暗になったら身動きが取れなくなりますし、それで良いと思います」

 

 モリ君も賛成のようだ。

 実際、日没少し前でかなり暗くなるので、タイムリミットはもう少し短いだろう。

 

 残り1時間弱でどこまで調査が行えるかは分からないが、できる限りは調べておきたい。

 

「では、サティンクさん、オイルトーチへの給油をお願いします。今からこの地下遺跡の調査を開始します」

 

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