収穫祭の魔女   作:れいてんし

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Chapter 7 「想い出写真」

 運河の建設現場から更に3時間かけて、ようやく北の港に到着した。

 

 出発した時はまだ朝だったというのに、カーターの腕時計を参考にするならば、もう15時だ。

 この時間から南港までは戻れない。

 今日は北側の港町で宿を取るしかないだろう。

 

 ただ、その前に事前の聞き込みなどは済ませておかないといけない。

 

 北と南の港の移動にほぼ1日かかると分かれば、あまり悠長にはしていられない。

 

 次のホンジュラス……チョカン行きの船は5日後には出航する予定だ。

 

 実際には出航の手続きなどがあるので、あと3日以内には戻らないと、このパナマから身動きが取れなくなってしまう。

 

「私はこちらの軍港の方へ説明に行ってきます。2時間後、日暮れ前に、またここで合流しましょう」

 

 リプリィさんと2人の部下は軍に報告などがあるようなので、竜車の待合所で一時別れた。

 

「その間に俺たちは情報収集だな」

「またまたオレの出番ってわけか」

 

 カーターが得意気に腕組みをしながらうんうんと呟いている。

 

「そうだな。頼りにしてるぞ」

「おい、なんか悪いもんでも食べたのか? いつもならもっと突っかかってくるだろ」

「既に結果を出している相手を否定はしないよ。ただ、信ぴょう性も不明の情報を持ってくるかは分からないから、内容は吟味させてもらうが」

「デレ期かと思ったら、そういうところはしっかりしてるな」

 

 当然の話だ。

 能力的には頼りにはできるかもしれないが、カーターの場合は出自について信用できる要素がなさすぎる。

 

「調査内容としては、遅れていた交易船がいつ到着しそうなのか、と遅れている理由だな」

「赤い女の聞き込みはどうします?」

「それももちろん調べる。聞き込み内容としてはこの3つかな。他に何かあれば誰でもいいから補足を」

「特にありませーん」

 

 エリちゃんが何も考えずにそう言うのは想定済みだ。

 

「美味い酒」

「却下」

「ゲームマスターや、眼鏡の魔術師たちについてはどうなんでしょう。ラビさんが会った佃煮屋さんでしたっけ? 外国人が何人も来たと言っていましたよね」

 

 赤い女は大物の雰囲気を醸し出していたが、実際は「荷物を受け取る」という受け身かつ下っ端の行動しかしていない。

 それならば、別に赤い女が1人で動かなくてもいい。

 ゲームマスターはもちろん、眼鏡マンやタイツマン、それ以外の別人が動いている可能性もある。

 

「さすがリーダー。良いところに目を付けてくれた。これなら俺も全部モリ君に任せっきりで楽ができそうだ」

「ラビさんも頑張ってくださいよ。魔法使いは常に一番クールでいて戦況を見る役目なんでしょ? 頼りにしてますよ」

 

 この発言は流石の俺も驚嘆した。男子三日会わざるは刮目して見よというやつだろう。

 

 いつの間にかリーダーとしても立派に成長しつつある。

 

 これで同年代女子が傷付いた時にユイユイ言うのさえ何とかしてくれると安心なのだが。

 

 とりあえず頭を撫でてやろうと、手をモリ君の頭に伸ばしたところで素早く逃げられた。

 両手を振って全力で俺が近付くのを拒否してくる。

 

「止めてくださいラビさん、恥ずかしいですって。そこまで子供じゃないですよ」

「まだまだ子供だよ」

「そうは言ってもそんなに年齢は変わらないですよね。5歳差しかないですよね」

「5歳も差があるじゃないか。俺が小学校の時は近所の高校のお姉さんがどれだけ年上に見えたことやら。ここは年上のお姉さんが甘やかしてあげよう」

「なんでもいいけどさ、お嫁さんを差し置いて夫と姑でイチャイチャするの止めてくれるかな。主にオレが怖いので」

 

 カーターの後ろを見ると、エリちゃんが笑顔で俺の方を見て何やら手招きをしていた。

 

「ラビちゃん、ちょっといいかな」

「エリちゃんも甘やかして欲しいって話? それは別に良いけど」

「いや、それはちょっと違っていて……」

 

 仕方ないのでエリちゃんを追い回すと面白いように逃げ出した。

 楽しくなってきたのでそのまま追いかけっこを始める。

 

「あのさ、仲良し3人組で楽しくやるのは良いんだけど、それはもっと暇な時にやってくれねぇかな」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 カーターを含めて4人で聞き込みをしたのだが、運営の仲間らしき人物についての情報は何もなかった。

 

 ホテルなどの宿や商店などで聞き込みをしてみたのだが、目立つ赤い女はもちろん、眼鏡マンやタイツマンらしき人物も来ていない。

 宿泊はしていないとなると、転移でどこからか飛んでくるということになる。

 そうなると、いつどこからどのタイミングで出てくるのか予想ができない。

 

「じゃあ、オレからの情報だ。なんでも、北の島で船に荷物を積み込む作業員が多数殺害される事件が起こったらしい。船が遅れている理由はそれだ」

「殺人事件? このタイミングというのは怪しいな」

 

 やはりカーターは情報収集については頼りになる。

 俺たちが求めている情報を引き出してきてくれた。

 

「その犯人がどうなったとかは? 原因は?」

「どれもこれも不明。ただし、妙な噂を聞いた」

「妙というのは?」

「神の戦士……何か特殊能力を使う連中が、つい最近まで島を守るために戦っていたらしい」

「つまり、俺たちの仲間が、その島にいると?」

「多分な。噂だけで具体的にどんなやつがいるのかは分からないんだが」

 

 俺の後ろでモリ君とエリちゃんが手を組んで飛び上がって喜んだ。

 

 これは朗報だ。

 

 状況から考えて、タウンティンの地母神の遺跡から、誰かがその島に飛ばされたのだ。

 何人か分からないが、生きてくれていた。

 そして、島の平和のために戦ってくれていた。

 

 可能ならば合流したいところではあるが、俺たちがホンジュラスを目指しているのでタイムリミットがあるとかそれ以前の問題だ。

 

「その話は置いておこう。船が何日遅れているかも知りたい」

「どうも大勢の港湾作業員が死んだことから、生き残ったやつもみんなビビっちまってるみたいだからな。落ち着くまでは船は出ない。最低10日、最大で1か月」

 

 カーターはそれだけ言うと無言で手を出してきた。

 多くは語るまい。

 

「モリ君、カーターに必要経費を」

「ラビさん、今度は文句を言わないんですね」

「ちゃんと成果を上げてるからな。情報を聞き出すのに必要経費を使ったんだろう」

「酒を一杯奢ってな。もちろん2人分な」

「じゃあ、日本円千円分くらいでいいですよね」

「まあ、そんなもんだ」

 

 モリ君が袋から硬貨を渡すと、カーターが満面の笑みを浮かべた。

 おそらく差分が結構ありそうなのだが、多くは言うまい。

 

「でも、次の便がいつ来るか分からないって、下手をすると、宝石で起こすつもりだった事件以上に、経済的なダメージが出てないか?」

「経済? ああ、仕事がなくなるんですよね」

「港湾労働者だけじゃなくて、この港で輸出入をやってる商人や施設、労働者目当ての食堂……全部に影響が出るな」

 

 カーターが具体的な被害の例を挙げると、モリ君も事態の深刻さを理解したようだ。

 

 経済の悪影響がどれくらい出るかは考えたくもない。

 赤い女の計画は、これはこれで成功しているのかもしれない。

 

「キューバまでは何日くらいで移動できるんだろう。それ次第ではちょっと様子を見に行ってもいいかもしれないな」

「往復2日なら行けそうですね」

 

 そんな話をして待っていると、軍の用事を済ませたリプリィさんが戻ってきた。

 

「軍港の責任者に報告をしてきました。しばらくは怪しい荷物がないか、検問を強化すると約束を取り付けました」

「そのことなんですが、北の島からの定期船が来ないという話を耳にしたのですが」

「私も聞いています。北の島は他国ですので、情報は入手できませんが、何か事件が起こったことは間違いないようです」

「ならば、やはりこれから北の島の調査ですか?」

「いえ、それはできません。北の島は他国なので、少なくとも私たちのような軍籍の人間が勝手に踏み入れば国際問題になります」

 

 これはこれで厄介な問題だ。

 もう少し時間に余裕が有れば軍とは関係ない俺たちが行って調査するのだが、生憎と船が出る時間は決まっているのでその余裕はない。

 

「ちなみにその北の島までの距離は? 200キロくらいの距離ならば、最悪、私一人だけでも見に行きます」

「船で片道10日ほどかかるようです。距離だと、おそらく1500キロはありますね」

「1500……」

 

 さすがにその距離は無理だ。

 箒が時速60キロで巡行したとしても、休憩なしで25時間はかかる計算になる。

 途中で体力が尽きて墜落。

 カリブ海の藻屑かサメの餌になるのが関の山だ。

 

「だけど、オレたちが動く分には悪い話じゃない。少なくとも、船が動かなければ、どこかの国から荷物を動かす作戦はチャラだ」

 

 カーターは悪びれもせずに言った。

 

「思っていても、それを言うなよ」

「いや、こんなところで良い子ちゃんをしたって始まらないぞ。ハッキリと言うべきだ。これは好機だと」

 

 俺はカーターの顔を見た。

 

 不謹慎なので口には出さなかったが、船が当分動かないと聞いて、俺も少しだけ安堵していた。

 キューバからの船が止まっている間に、俺たちが(ヒキガエル)の遺跡やらで赤い女を倒せば、当面の脅威は去る。

 赤い女たちがいくら工作をしても、キューバで足止めされる今が最大のチャンスだ。

 

 もしかして、こいつは俺がその話をすると嫌われると思って、あえて口に出したのか?

 自分が嫌われ者だと自覚しているからこそ、俺に代わって嫌われ役は全部自分が被ろうとしているのか。

 

 モリ君とエリちゃんはそこが分からなかったのか「そんな言い方はないでしょう」とカーターを批判し始めた。

 

 さすがにこいつだけに負担を掛けられない。

 

「カーターの言うとおりだ。この港が止まっている間は、宝石とやらの被害は出ない。だから、俺たちはその間に赤い女を叩く。もちろん、ここの対策だけは万全にしていく」

「ちょっ、お前」

「リプリィさん、他国と協力するのは難しいと思いますが、北の島の殺人事件の情報を少しでも集めるよう、軍の偉い方に伝えてください」

 

 焦るカーターを尻目に、俺はリプリィさんに頭を下げて頼み込んだ。

 

 

「ですが、しかし……」

「ここで動かなければ、この島や、タウンティン本国でも同じ事件が起こる可能性はあり得ます」

「それは軍も分かっていると思います。それでも」

「軍の人間を動かすのが難しければ、民間の商人に話を持ち掛けていただきたいです。商人も、1日でも早く事件を解明して、仕事を……港を再開したいと考えていると思います」

 

 今のところ、俺たちと軍の接点はリプリィさんだけだ。

 彼女に頼むしか、この状況は動かせない。

 

 改めて頭を下げた。

 その俺の横でモリ君も同じように頭を下げる。

 

 やや遅れてエリちゃんとカーターも頭を下げた。

 

「司令官は難しい人ですが、話してみます」

「ありがとうございます」

 

 今のところは、軍に検問を強化してもらうしか対策はない。

 なので、この事件の早期解決が求められる。

 

「それはそれとして、北の島にいる仲間との連絡はどうします?」

「船が動かないんじゃ、島にいる仲間との合流は難しいな」

 

 もちろん、ここで足止めを食らうわけにはいかない。

 

 パナマ南港に停泊している交易船が出てしまえば、俺たちはパナマに取り残される。

 キューバにいる仲間と合流したとしても、そこからどうやってサンディエゴに向かえばいいのか分からなくなる。

 

 極端な話、パナマからならば時間をかけても歩けばそのうちに地続きのサンディエゴには着ける。

 だけど、島であるキューバからは、船に乗らないとどこにも行けないのだから。

 

 それに、ホンジュラスの事件を完全に放置することになる。

 

 ホンジュラスにはリプリィさんとランボー&コマンドーだけで向かうことになるが、ゲームマスター相手にどこまで戦えるのかは不明だ。

 なので、ここに残る選択肢は取れない。

 

「島の仲間ってハセベさんたちですかね?」

「それは分からない。モリ君が最初に言っていた第4チームや子供たちかもしれないし、全く知らない人の可能性もある。会いに行くための根拠としては弱い」

「でも、もしハセベさんたちなら、俺たちがここにいたってのと、日本に帰るためにサンディエゴに行くという情報は残しておいた方が良いですよね」

 

 確かにその通りだ。

 

 ここに何か俺たちがいたという痕跡を残しておこう。

 人づてでハセベさんたちに話が伝わり、最終的にはサンディエゴで合流できるかもしれない。

 

「でもどうやって記録を残すかだな。手書きのメモで分かるだろうか」

「それなら良い物がありますよ。確実に記録として残せる上で残るものが」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 リプリィさんが持ってきたのは1台のカメラだった。

 

 現代のものと違い炊飯器くらいの大きな木製の四角い箱だ。

 

「これは軍でも最近採用されたカメラという機械で――」

「――それは知ってる」

 

 現代日本人である俺たち4人の声がハモった。

 リプリィさんだけが悔しそうな顔をしている。

 

 迂闊なことをしてしまったか。

 自慢したかったんだろうが、そもそも巨人(イソグサ)退治の前に知事から写真を見せられている。

 なので、この世界にカメラがあることは既知の事実だ。

 

「それでは皆さん4人を撮りますのでそこに並んでください」

 

 リプリィさんが俺たちに横一列に並ぶようにカメラを構えながら指示を出してきた。

 

「待ってください。それだとリプリィさんが入らないですよね」

 

 モリ君が一歩前に出た。

 そのままリプリィさんに歩み寄っていく。

 

「いえ、私は別に」

「それじゃあダメです。リプリィさんや、サンクさん、サティンクさん、みんな俺たちの仲間です。みんなで写るべきです」

「それでも」

「こういうのは全員で撮るから意味があるんですよ」

 

 彼女たちが入っていない記念写真など何の意味があるというのか。

 

 リプリィさんが何やら断るための言い訳を始めたので、俺はリプリィさんから半ば強引にカメラを奪い取った。

 

「撮影は私に任せてくださいよ。リプリィさんもラン……サンクさんとサティンクさんもそこに並んで」

 

 鞄からロープを取り出して、カメラを箒に括り付けた。

 そして――浮遊(フロート)

 

 箒に括り付けたカメラが宙に浮かび上がった。

 

 続いて鳥を呼び出した。

 1羽はシャッター担当。

 もう1羽はファインダーを覗いて画角の確認をさせる用に配置する。

 

「並び順はどうします?」

「身長順で。俺とエリちゃんは一番前。中段はモリ君とリプリィさん。軍人さん2人とカーターは一番後ろで」

 

 使い魔モードにした鳥の視覚でカメラの画角を確認しながら全員に指示を出していく。

 

「後ろの3人はもうちょっと寄って! 肩を組むのでちょうど良いくらい」

「なんかオレが確保されたみたいになってるんだけど」

 

 巨漢のランボーとコマンドーに両側を挟まれて肩を組まれているせいで、長身だが細身のカーターが若干可哀そうなことになっているが泣き言は無視だ。

 

 構図としてはその体勢が一番綺麗にまとまる。

 

「モリ君はリプリィさんの肩を抱き寄せるくらいで。はい、もうちょっとくっ付いて。あとエリちゃん、今くらいは笑顔で」

「写真を撮る間だけですよ」

 

 エリちゃんが視線をモリ君とリプリィさんに向けた。

 

「あと一番前のドヤ顔の小娘は全身黒ずくめで画面が暗くなるし、顔が半分帽子の陰に隠れて見えないのを何とかしろ」

「それラビさん本人ですよ」

 

 そう言われたので俺がカメラに手を振ると、カメラ越しの少女も手を振る。

 

 自分で自分を見ることはあまりないが、このドヤ顔娘は俺だったのかと納得する。

 

 もう2週間が経とうというのに、未だに少女=自分だと結び付かないのは問題かもしれない。

 

 写真映えするように帽子を取って精一杯の笑顔を作ったつもりだが、それでもカメラのファインダー越しには偉そうな態度のクソガキ様というイメージに変化はなかった。

 

 おかしい。

 

 魔女(ラヴィ)のイメージとしてはもっとダウナー系で気弱そうな少女というイメージだったのだが。

 

《誰のせいだと思ってるの》

 

 久々に魔女の声が聞こえた。

 だが、そういう点も含めて俺という人間なので、ここは諦めて欲しい。

 

「じゃあ撮るぞ。みんな笑って」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 写真はすぐに現像。

 3枚を焼き増ししてもらった。

 

 1枚は北の港の待合室に貼って、日本へ帰還するためにサンディエゴへ向かうとコメントを書き込んだ。

 下には日付とルートと簡単なコメントだ。

 

 1枚はリプリィさんに渡した。

 

 俺たちとリプリィさんは次のホンジュラスで別れることになる。

 

 俺たちが日本に戻れば以降はもう二度と会うことはないだろう。

 短い付き合いではあったが、俺たちとの思い出として残してもらえるとありがたい。

 

 最後の1枚は俺たちの分だ。

 

 写真はモリ君に預けた。

 

 俺が持っていても、また無謀に敵に突っ込んで汚したり傷付けたりしてしまうだろうから、ここはリーダーに任せたい。

 

 北の港ではレイナ=ロハの新情報を手に入れることはできなかったが、他に仲間の情報などが手に入った。

 

 成果としては十分だろう。

 

 一度パナマ南港に戻ろう。

 

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