「好きとか! 嫌いとか!」
頭にイソギンチャクを載せた男……寄生体が襲いかかってきたが、箒の先に浮かべた黒い球体を叩きつけて真っ二つに両断する。
「最初に言い出したのは誰なんだよもう!」
さらに居合の要領で空中に吹き飛んだ上半身を薙ぎ払い霧化。
返す刀……もとい箒で倒れた下半身に対して黒い球体を叩きつけて、こちらも霧散消滅させる。
残ったのは、加工品なので、生命と見なされない、探掘家が身に着けていたであろうボロボロの衣服だけだ。
朗報だが、箒を振り回すのも剣術扱いでいけるらしい。
寄生体に対しても比較的有利に戦える。
寄生体を吸収したことでチャージが完了したのか、黒い球体の色が赤熱して真っ赤に染まっていた。
熱線をどこに向けて放てば良いか思案する。
そのタイミングで、天井を這ってきたであろう別の寄生体が2体飛びかかってきたので、熱線を放って跡形も残さず焼き尽くした。
照射時間に若干の余裕があったので、どの方面に撃つか考える。
上方向はダメだ。
遺跡の構造がどうなっているか分からないので、仲間を巻き込む可能性がある。
だからといって下もダメだ。
この先の遺跡がどうなっているか分からない。
つまり横方向だ。
進行方向の壁に向けて照射する。
熱線は一瞬で水平方向に長い横穴を作って終わった。
おそらくこの寄生体たちは、赤い女に誑かされてこの遺跡に招き入れられた探掘家の成れの果てなのだろう。
寄生生物はこの遺跡の中に蔓延している。
もし寄生生物が体内に侵入、侵食されてしまえば、誰がこうなってもおかしくはない危険な状況だ。
だからこそ気を緩めずに遺跡の攻略に徹して欲しい。
徹して欲しいのだが――
「なんでこんな大変な状況で恋愛問題ですか? 思春期ですか? いや俺以外はみんな思春期の若者だったわ!」
俺が蚊帳の外に置かれて拗ねているわけではない。
むしろ蚊帳の中に入れられて「この夏一番の恋の物語」に参加してくださいと言われても困る。
「予告編で流れる、雨の中を走って叫ぶ映画シリーズは誰が観てるんだよ!」
そもそも、別に思春期の甘酸っぱい思い出を作るなとは言っていない。
ただ、せめてもっと平和な環境でやってくれないものだろうか?
「鳥を3羽
今ならば周囲に誰もいない。
巻き込みを気にしないのであれば、使うのは早いうちがいい。
箒の先に黒い球体が出現すると同時に周囲の石畳や壁面のあちこちから黒い霧が立ち上る。
それらは寄生生物なのか、それとも無関係な小動物なのか?
それは分からない。
今は、いちいち区別をしてはいられない。
一度綺麗に掃討した方が安心感は増すだろう。
小動物を媒介に寄生体を送り込んでくる可能性もある以上は、根こそぎ綺麗にするしかない。
寄生生物のリスクを回避するには、俺が生物特攻である「収穫」を発動させて単独行するのが最適解ではある。
《ほらね、魔女は孤独なものでしょう》
《本当にいてあげたい人の側にはいられない》
「別に孤独じゃないだろう。射程外には他の仲間もいるし、何より俺とお前の2人がいる。頼りにしてるぞ相棒!」
《……》
「あと、俺の中に、もう一人いるなら、適当なタイミングで自己紹介してくれと伝えてくれ」
魔女からの返事はない。
こいついつも都合が悪くなると黙るな。
不満があれば、本音を語って周りに危険信号を出さなきゃ他人は気付かないぞ!
通路をそうやってしばらく進むと、遺跡を下っていく石段が現れた。
道は階段で途切れており、降りていく他の選択肢はない。
「これは嫌でも降りろってことだよな」
腰にぶら下げている儀式用の短剣で念のために目印を付けて、ひんやりとした空気が流れる暗い石段を慎重に降りていく。
1分ほど長い階段を降りると、やがて視界が広がり、円筒形の広場が現れた。
天井は高くホールのような構造になっていた。
壁には星座をかたどるように、丸い石が一定の間隔で埋め込まれている。
それらはどういう仕組みなのか、微かに光を放っている。
部屋の中央には祭壇があり、それを取り囲むように8体の寄生体の姿があった。
触手を閉じたイソギンチャク状の球体を乗せているのは5体。
残り3体は皮膚が樹木のように変貌しており、靴やブーツを突き破って伸びた新たな足の先には蹄のようなものが付いている。
そいつらの腹にある亀裂が繊維のようなものを引き延ばしながらゆっくりと開いていき、ケケケケと蛙の鳴き声のような音を発する。
まさか、亀裂が口の役目なのだろうか?
人間の形が失われてほぼ怪物と化しているが、「あれ」が寄生体の完成型か?
そして――
「また会ったわね、お嬢ちゃん。随分とお早いお着きで」
――寄生体の中心、祭壇の真横にはパナマで出会った「赤い女」が立っていた。
深紅のドレスに帽子を顔が隠れるほど深々と被った姿は以前と全く同じだ。
周囲の石造りのモノトーンの遺跡の景観の中に、鮮血のような色彩がより強調され、まるで今からパーティーでも始まるかのような衣装も相まって、さらに異質さを強調している。
「お前も大変だな。街中での工作が専門分野だろうに、こんなカビ臭くて薄暗い場所に駆り出されて」
「仰る通りだけど、白鳥は水面下では必死で脚を動かしているものよ」
「慣用句なんだろうけど、水鳥って全然脚を動かさないぞ。スイーっスイーっと最低限の動きで最大限の効率で水を掻くだけだ。その点ではお前と完全に逆だ」
赤い女が口を噤んだ。
水鳥も種類によってはバタバタさせるのだが、今はそんなうんちくはどうでもいい。
赤い女も、わざわざ遺跡の奥で工作をする今の作戦は効率が悪く、無駄だらけで面倒だと思っていたのだろう。
誰に命令されたのか分からないが、ご愁傷様だ。
「頭にマリモを乗せた8体のキノコ軍団を率いて直接戦闘とか、それは本当のお前の適職か? それに、そのうちの3体は人間の原形がなくなりかけているみたいだが、失敗作か?」
後ろに控えている仲間に状況を伝える意味も込めて、なるべく大声かつ説明的な内容で女に皮肉を飛ばす。
この声が少しでも届けば、今の状況をある程度把握した上で援軍に来てくれるだろう。
「確かにそうね。もう熟れて収穫には良い頃合いかしら」
赤い女はそう言うと、変異が進行した寄生体の頭部の球体を軽々ともぎ取った。
赤い女の手の上で球体はみるみると萎んでいき、やがて手のひらに収まるような小さい赤い宝石へと姿を変えた。
女は同じように残り2体の頭部をもぎ取り、宝石へ変えていく。
頭をもがれた寄生体は、特に倒れたりすることはないようだ。
相変わらず、腹に開いた口で蛙の鳴き声を上げる。
もう人間の尊厳などどこにもない。
「これで『収穫』完了。綺麗な実でしょう」
「まさか、パナマでお前が受け取ろうとしていた荷物とやらはその宝石もどきなのか?」
「その通り。前に発注したものは輸送中のトラブルで失われてしまったようだけど」
ようやく赤い女の一連の行動について理解できた。
赤い宝石は寄生生物の実……いや、種だ。
種に寄生された人間は変異して寄生体となり、そこからミミズのような幼体をばらまき、寄生対象を増やしながら仲間を増やす。
寄生体は成熟すると実を作り、そこから赤い宝石という種を残す。
一度寄生体が現れると、そこからネズミ算的に数を増やしていくだろう。
こんな誰も訪れる者はいない遺跡の中では、生息範囲の拡大は難しいはずだ。
だが、赤い宝石という形を取れば、宝と勘違いした人間が勝手にあちこちに運んでくれるので、そこからまた生息範囲を拡大できる。
悪意の塊のような植物兵器だ。
「あなたがこんなに早く来なければ、もう少し種を増やせたというのに、どんな魔法を使ったの?」
「お前だって転移を使っただろう。だから、こっちも
時間を稼ぐために喋りながらゆっくりと階段を降りる。
まずは寄生体の駆除が優先だ。
寄生のリスクがある状態では、仲間が全力で戦えない。
逆に寄生体さえ全滅させてしまえば、あとは全員で赤い女を叩くことができる。
効率を考えると、俺が寄生体を先に全滅させる方法が良さそうだ。
「あなたほどの力があるならば、もっと好きに生きられるでしょうに、なぜあの国の犬のような真似を? 欲しいのはお金? それとも名誉? それとも地位と権力?」
赤い女が見当違いのことを言い始めたので、時間稼ぎも兼ねて俺の活動指針を教えてやろう。
スーパー説教タイムだ。
「この世界で必死に生きている人たちを、ゲーム的に邪魔だとか盛り上がるとか勝手な理由で人生を無茶苦茶にしようとしている連中がいる。そんな鼻持ちならない奴らを1発殴ってやりたい。ただそれだけの個人的な感情だ」
「ただの八つ当たりで命をかけるような真似を? 何の利益にもならないのに? あなたは英雄にでもなったつもり?」
「違うな。俺は英雄でも、聖女でも、勇者でも、救世主でも、もちろんゲームの駒でもない」
先端に黒い球体を携えた箒を構えて女に見得を切る。
「俺は通りすがりの魔女だ。覚えておけ!」
階段を飛び降りて、挨拶がてらに一番手前の寄生体1体を箒で袈裟切りにする。
オウカちゃんから受け継いだ剣術を応用した一撃。
簡単に避けられはしない。
黒い球体の直撃を受けた変異体、そして床に這っていたミミズのようなものはそれで霧散消滅した。
接近戦が得意ではないし、体力や持久力もない俺は、真正面から戦ったら負ける。
このまま奇襲と奇策で押し切るしかない。
避けられる前提で小刀を抜いて左手で構え、雑な横薙ぎをわざと空振り。
相手に反撃のチャンスがあると勘違いさせる。
もちろんこれはカウンターのための布石だ。
2体目が見事に釣られて突っ込んできたところ、右手に持った箒でカウンター気味の兜割りを叩き込み、真っ二つに引き裂く。
力はいらない。
命中さえさせれば、破壊は黒い球体がやってくれる。
そして、2体目の霧化が始まる前に箒を前に突き出して、真後ろにいた寄生体を串刺しにした。
まさか味方の体を貫通して攻撃が来るとは想像もできなかっただろう。
これで3体が霧化により消滅した。
残り5体。
3体を屠ったことにより「魔女の呪い」のチャージが完了した。
箒につかまり、全速力でバックする。
その分かりやすい動きに対して、寄生体たちは馬鹿正直にまっすぐ最短距離を一直線に並んで追いかけてきた。
「お前たち、そんなわざとらしい罠に飛びつくな!」
赤い女が怒鳴り声を飛ばすが、寄生体はそんなことを気にせず俺にしか注意を向けていなう¥い。
寄生体の身体能力はかなりのものだが、所詮は操り人形だ。
脳が破壊されているからなのか、与えられた命令をこなすだけの単純な行動しか取れないようだ。
俺の誘いになどのらずに、普通に高い身体能力と、数で勝っているという利点を生かして連携攻撃を仕掛けられればひとたまりもなかっただろう。
何も考えていない力任せの突進だけならば、対応策はいくらでもある。
「鳥を3羽
盾を突撃してくる寄生体たちの目の前に形成した。
案の定、勢いがつきすぎた寄生体は急に目の前に出現した盾を避けることに失敗した。
盾に体当たりしては跳ね返され、後続がまたそこにぶつかる……さらに後続がぶつかるという玉突き事故を起こした。
横に避ける知恵以前に、こいつらは頭部がないから眼もないので、急に出現した光の盾に対して反応できない。
ホラー映画に出てくるゾンビの方がまだ頭を使ってくるレベルだ。
「一網打尽だ!」
5体がひとかたまりになったところ目掛けて熱線を放ち、全てを塵一つ残さず焼き払う。
これで見える範囲の寄生体は全て倒した。
「なぜだ! なぜもっと頭を使って戦わない……」
「使うための頭はお前がもぎ取ったんだろ! 寄生体はもうこの場所にはいないぞ! 残るはお前1人だけだ。無駄な抵抗はせず諦めろ!」
今の状況が伝わるように、単語を強調して精一杯の大声を張り上げる。
「いちいち大声を上げないと何もできないの?」
「だって大声を上げないと伝わらないだろう……俺の仲間たちに」
厄介な寄生体を掃討した以上は俺の役目は終わりだ。
先程と同じように箒を掴んで引きずられるように階段近くまで後退する。
「後は任せた。ここから先は――」
「――俺たち」
「――私たちが!」
現場に到着したモリ君とエリちゃんの2人が階段から飛び降り、俺と入れ替わりに赤い女の方向へ駆け出していった。
やや遅れてマリアさんとクロウさんが顔を出した。
クロウさんがここにいるということは、回復と寄生体への対策にある程度の目途がついたようだ。
「カエルの呼び声の対策はわかった! この遺跡を吹き抜ける風の音が人の感覚を狂わせるんだ! 耳が良いほど引っかかる!」
クロウさんが耳に手を当てながら叫んだ。
赤い女が歯を食いしばるのが見えた。
どうやら当たりだったらしい。
遺跡から噴き出してきた風はそういうことか。
吹き抜ける風が作った音に人間の思考を狂わせる効果がある。
もちろん、自然にそうなったのではなく、遺跡を作った誰かが、生贄になる人間を誘い込むように設計したのだろう。
実際に遺跡内に入った人間を捕食するのは寄生生物だ。カエルの声じゃない。
「風ということは、つまり対策方法は」
「私が対策しました!」
クロウさんとマリアさんの後ろからガーネットちゃんが現れた。
「私は風の専門家ですよ。空気の流れから、ここの構造を調べました」
「構造が分かったということは、対策ができたんだな」
「はい。急場しのぎですけど、風の向きを無茶苦茶にしてやりました。しばらくはカエルの呼び声は聞こえないはずです!」
親指を立てて俺の方へ向けてきたので「GOOD!」と同じポーズで返す。
「今は教授とパタムンカさんが、遺跡の構造を調べて対策を練っている。だから、今はそいつに集中だ!」
当面の危機が去った。
クロウさんの言うとおり、今は赤い女対策に全力を費やしたい。
モリ君が放った鋭い槍の突きが女の帽子を貫く。
本体を狙ったのであろうが、残念ながら帽子しか捉えることができなかったようだ。
だが、赤い女が回避運動でバランスを崩した隙を見逃すエリちゃんではなかった。
すかさず懐に飛び込み、赤い女の腕を取って柔道の一本背負いで豪快に投げ飛ばす。
「派手なアクションは、いちいち隙が大きすぎるんだって!」
動作の終わり際の隙を狙われてカウンターを入れられるのは、パナマに続いて2度目のはずだが、こいつには反省という言葉はないのだろうか?
案の定、受け身も防御姿勢も取れず、赤い女はもろに背中から床へと叩きつけられた。
衝撃で石畳が割れてめり込んだようになって動きを止めている。
「おのれ……」
「また隙だらけ!」
立ち上がろうとしたタイミングでモリ君がプロテクションの壁を作り出した。
赤い女は起き上がる途中で自ら頭をぶつけにいった形だ。
怯んだところへ、エリちゃんが身体を浴びせながらの肘打ち……エルボードロップを顔面に打ち込んだ。
最後はトドメとばかりに悶絶する赤い女の両足を掴んで力任せに回転しながら振り回すという大技、ジャイアントスイングを仕掛けた。
プロレスのジャイアントスイングと決定的に違うのは、エリちゃんの脚力強化のスキルにより、竜巻を起こすような高速回転をしていることだ。
たまに、風を切り裂く音だけではない衝撃音と振動が響き渡る。
エリちゃんは、回転による遠心力を生かして、数回転に一度、赤い女の頭部を硬い石畳へ叩きつけているからだ。
赤い女は地面への叩きつけを防御しようとしているのか、たまに魔法陣の光が一瞬だけ浮かぶ。
だが、地面への力任せの叩きつけというシンプルすぎる物理攻撃には何の役にもたたないようだった。
エリちゃんは30秒ほどジャイアントスイングで振り回し、最後はまるで砲丸投げのような山なりの軌道で赤い女を遠くへ投げ捨てた。
赤い女は何回か地面にバウンドした後、うつ伏せに倒れたまま動かなくなった。
そして、バウンドした時にこぼれ落ちたのであろう。
どこかに隠し持っていたであろう赤い宝石が3つ、大理石の床の上へと転がり落ちた。
「その宝石が寄生生物を増やすための種だ! 破壊を!」
「承知!」
今度はコマンドーが現れて、ライフル銃を発砲した。
1発……そして装填。2発……そして装填、3発目。
コマンドーの撃った銃弾は正確に宝石を射抜き、粉々に破砕させた。
赤い女は首だけを上げ、目も鼻もない卵のような顔面で、赤い宝石が砕ける様を見つめていた。
無貌である故にその表情についてはうかがい知れないが、今までの努力と苦労が水の泡と消えたことを嘆き、呆然としていたのではないだろうか?
最後の締めはタウンティンの軍人。
これで軍のえらい人にも、作戦成功の報告ができるだろう。
「もはやこれまでか……」
赤い女が呟くと、足下に淡く光る魔法陣が現れる。
パナマの時と同じ展開だ。
またも転移でこの場から逃走するつもりだろうか?
「モードチェンジ!
しかし、それを阻止せんがために、モリ君が槍の穂先にプロテクションの壁をまとわせた。
剣や槍の時のように形状変化はなく、槍の先に長方形の光のブロックがそのまま張り付いた形だ。
……おい、チェンジさせろよ。
「なんだその武器は!」
「ハンマーだよ!」
モリ君が足と腰の捻りで体を一回転させた。
そして、遠心力で勢いを付けた後にハンマーを横薙ぎに振るった。
赤い女は傷ついて弱った体では、そのハンマーの横薙ぎの攻撃を避けることはもはやできなかった。
魔法陣が成立する前に、赤い女はハンマーの直撃を食らい、広場に立っている石柱の一本に叩きつけられた。
魔法陣の光は誰もいない空間で少しの間だけ虚しく光り続けていたが、やがて何の現象を起こすこともなく消滅した。
赤い女の逃走は失敗した。
ダメ押しとばかりに階段上にいたコマンドーが、壁際で倒れ伏している赤い女に対して、ライフル銃で追撃。
赤い女はその体を痙攣させた。
「やったか?」
銃声が止んだのを確認して、俺とモリ君、エリちゃんの3人でそろそろと赤い女に近寄った。
赤い女はよろよろと遅い動きで転がり、仰向けの体勢になった。
「私は……ただ……生きたかっただけなのに……」
赤い女は右手を真上に高く掲げた。
一瞬、何かの攻撃が始まるのかと身構えたが、女は右手を掲げた姿勢から動くことはなかった。
今まで瑞々しかった体はどんどん乾燥していき、全身が茶色く乾燥したミイラと化し、完全に硬直して動かなくなった。
女の胸の上にいつの間にか出現していた銀色のメダルを拾い上げる。
「こいつも敵ユニットという役割が与えられただけの、ただのゲームの駒だったということか」
赤い女はミイラ化したままその場に留まっている。
もしかすると、このミイラの姿こそが本来の姿であり、それを無理矢理蘇生させられて駒として使われていたのかもしれない。
そう考えると、ある意味、犠牲者なのかもしれない。
「これで終わったんでしょうか?」
「これで一段落のはずだ。あとは、赤い宝石が残っていないかとカエルの呼び声の謎を解いたら、今度こそ終わりだ」
赤い女の企みは潰した。
これで赤い宝石を使ったテロはもう起こらないだろう。
もしかしたら、ゲームマスターがまた何か別の計画を企むかもしれないが、今度は州知事たち……この世界の住人たちが、自分たちの世界を守ってくれる。
所詮は通りすがりである俺たちは立ち去るのみだ。