収穫祭の魔女   作:れいてんし

62 / 349
Chapter 19 「それぞれの別れ」

 俺たちのこの遺跡での最後の仕事だ。

 

 まずは、祭壇の下の地下通路の再チェック。

 これは「魔女の呪い」による「収穫」を使えば簡単な話だ。

 

 ついでに誰かが寄生体に寄生されていないかの再チェックを行う。

 

 地下で石像などの破壊を行っていたウィリーさんとガーネットちゃんに寄生の痕跡が見られた。

 こちらは、駆除しておいたので、安心だ。

 

 蛙の神の死骸もまとめて霧化して消滅させておいた。

 

 巨人(イソグサ)と同じパターンならば、魔女の呪いで霧化させてしまえば、二度と復活できなくなるはずだ。

 

 ついでに遺跡内の分岐を一通り歩き回り、残っていた寄生生物を全て駆除しておいた。

 取りこぼしは……多分、ないはずだ。

 

 これで、この遺跡をゲームマスターが悪用してタウンティンを攻撃することはもうできないだろう。

 

 赤い女のミイラは遺跡の近くに穴を掘って埋葬することにした。

 

 色々とあったが、死んでしまえばただの仏というのは日本人的な価値観なのだろうか?

 

 どこの誰なのか、出身地がどこなのかは知らないが、遺体は土に埋めた。

 適当な石を墓石代わりに置いておいた。

 穴は深めに掘ったので、獣に荒らされることはないだろう。

 

 例の祭壇、蛙の神が座っていた玉座からは、緑や黄色の巨大な宝石がいくつか発見された。

 おそらく太古の昔は紐が通されて首飾りだったのだろうが、現在は紐の部分が朽ちてしまっており、ただの宝石とその台座が残るのみだ。

 

 念のために「収穫」で確認してみたのだが、寄生体とは無関係の、純粋な宝石だ。

 

 かなりの価値があることは素人でも分かる。

 現代の地球ならば大英博物館などの世界有数の有名な博物館送りになりそうな品だ。

 

「これは私がもらっても良いんだな? 売ればとんでもない金になるぞ」

 

 パタムンカさんが若干声を震わせながら言った。

 

 教授は手帳を取り出して、何やら計算を始めた。

 

 教授はその宝石も調べたいようだったが、パタムンカさんとの契約上は遺跡内で見つかった宝は渡して、それをタウンティンが買い取るという契約だ。

 

 そういう契約なのだが、どの宝石も見るからに高価な品だ。

 さすがにタウンティンが用意した資金での買取りは難しそうだ。

 

「予算の限度を越えすぎている……」

 

 話を聞いていたクロウさんとハセベさんが無言で顔を見合わせた後に、頷いた。

 

「では、私たちの取り分を貰うとしよう」

 

 ハセベさんはそう言うと、パタムンカさんから宝石を奪い取った。

 

「何をするんだ? 遺跡の調査分については私が取っていいはずだが」

「命を賭けて戦ったのは私たちなのだから、この宝石は、報酬としていただきたい」

「そうだな。タダ働きというのも問題だ。これはオレたちの報酬としてもらっていく」

 

 クロウさんとハセベさんはパタムンカさんに意地悪そうな目を向けた。

 

 実際のところ、タウンティンとパタムンカさんとの契約には、別ルートでやってきたハセベさんたちには無関係だ。

 

「メリダの町で探掘家同士で宝を取り合いになった時のルールは聞いている。所有権は、実際に遺跡の謎や仕掛けを解いて宝を見つけた者に与えられる」

「……その通りだ。遺跡に入った順番や、契約は関係ない」

 

 パタムンカさんも、さすがにもう何も言えなくなったようで、大きくため息を吐いた。

 

「もういいよ。他の石像なんかで帳尻を合わせるから」

「では決まりだな。この宝石は私たちがいただく。そして、教授に買い取ってもらうことにする。我々6人の昼食代くらいは払ってほしい」

 

 ハセベさんは台座が付いたままの宝石一式を教授に手渡した。

 最初からそのつもりだったらしい。

 

 酷い茶番ではあるが、一応はこれで決着だ。

 

「分かったよ。もちろん、実際の働きで所有権が決まるならば、君たち6人だけではなく、ラヴィさんたちも含めた10人に対してだ。それでいいだろう」

「むろん問題ない。ああ、それでいい」

「クロウさんたちは、これからどうされますか?」

「船は北側の港に停めているので、戻らないといけないが、少し距離がある。一度は南側の港町に向かおう」

 

 そういうわけで、ひとまず全員で南側の港町、チョカンに戻ることになった。

 

「じゃあこれで終わり。家に帰るまでが遠足です」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 遺跡からチョカンの町に戻った。

 

 リプリィさんが、まずは軍部に今回の遺跡対策と赤い女についての報告を行うということで、一時離脱していった。

 夜までには戻ってくるらしい。

 

 ハセベさんやクロウさんたちの宿を手配するために町を歩いていると、教授が革袋を抱えてやってきた。

 

 開いてみると、日本円換算で約60万円相当の金貨や銀貨が入っていた。

 

 元々は、ゲームマスター絡みの調査だった。

 船の出航まで時間があるので、それまでの時間つぶし、タダ働きのつもりだったので、それで報酬が得られるのならば十分な成果だ。

 

「これは10人分だ。少ないかもしれないが、さすがに国から渡された資金にも限度があるので勘弁して欲しい」

「いえ、助かります」

「割り前は、ラヴィ君たちが半分、我々が半分で良いよな」

 

 ハセベさんが妙な提案をしてきた。

 

「頭割りに決まってるじゃないですか。1人あたり6万円相当です。うちは4人なので、24万円分だけもらいます」

「それだと、君たちが割に合わないだろう」

「計算は合っています」

 

 ハセベさんがなおも拒否しようとするが、それは無視だ。

 24万円分だけもらい、残りは全てハセベさんに押し付けた。

 

 ハセベさんはなおも難しい顔をしていたが、横からクロウさんが袋を受け取った。

 

「助かる。ここへ来るまでに、無理な航海で借りている船をあちこち壊してしまったので、その修理代をどうしようか考えていたところだ」

「クロウさん、だが、それでは……」

「こういうのは公平さと納得が大切なんだ。ラヴィさんたちは頭割りが良いという。オレたちは船の修理代が必要。それで問題なしだ」

 

 クロウさんがそういうと、ハセベさんも納得せざるをえなかったようだ。

 

「カッコいいでしょう、クロウさん」

 

 マリアさんが俺の肩に手を置いて、まるで自分のことのようにクロウさんを褒め称え始めた。

 

「私って(水着)じゃないですか。そんな恰好だからみんなに見られていたところを『それの何が悪い』って言ってくれて」

「ああ、そういえばマリアさんは(水着)なんですね。俺は(ハロウィン)です」

「えっ? 名前の後ろにカッコ付きの人って私の他にいたんですか?」

「うん、まあ。多分、俺たち2人だけだと思うんだけど」

 

 俺は改めて、肌の大半を露出しているマリアさんの姿を見て思った。

 

 (ハロウィン)で良かったと。

 (水着)でなくて良かったと。

 

「はい、ハロウィンですよ。クッキーをどうぞ」

 

 (ハロウィン)であることを証明するために俺はクッキーを取り出してマリアに差し出す。

 

 本当はカードも見せられれば良かったのだが、残念なことに俺のカードはランクアップ時に全てが文字化けして全く読めないものになっている。

 それを見せたところで何がどうなるものでもないだろう。

 

 マリアさんは俺が出したクッキーを喜んで受け取ってくれた。

 

「凄いですね、このスキルって」

「まあ、戦闘では全く使えないので万能ってわけにはいきませんけど」

「私もお菓子を出すスキルが欲しかったな……私なんて出るのは水なんですよ、水!」

 

 (水着)だから水が出るのだろうか?

 いくらなんでも安直すぎると思うのだが、今更それを言っても仕方ないだろう。

 

 ただ、旅をする上で水が出し放題というのは、それはそれで役に立ちそうだ。

 

 攻撃にも使える上に、飲料水としてもOK。

 風呂も入り放題。

 洗濯もやり放題は羨ましい。

 

「もう少し早く知り合えれば友達になれたと思うんですけどね」

「いや、今からでも大丈夫。同じ日本人同士なんだから仲間でしょう」

「なら、私たちは友達ってことで」

「ああ、よろしくマリアちゃん」

「そうだねラヴィ……ラビちゃん」

 

 俺を「ラビちゃん」と呼ぶ仲間が増えてしまったが、まあいい。

 ラビ助よりはマシな呼び方だと信じたい。

 

 それに仲間……友達が増えるのは良いことだ。

 

   ◆ ◆ ◆

 

「というわけで、これから私たち日本へ帰る方法を得るため、アメリカのサンディエゴを目指すつもりです」

「日本に戻るための情報があるという話は実に興味深いな」

 

 赤い女や遺跡対策を優先したため、後回しにしていた説明を、クロウさんとハセベさんにした。

 

 まだ確定ではないが、日本に帰ることができるかもしれない。

 

 そのために、知事の昔の知り合い……50年前にこの世界に召喚された日本人が住んでいるアメリカ、サンディエゴに向かっていること。

 その帰還方法で、1人が日本に帰った実績があるという話だ。

 

「確かにその話は興味深い。だからその旅には同行したい……と言いたいところだが、残念ながら船を返しに行かないといけなくてな」

「船?」

「オレたちはキューバの漁師に個人所有の帆船を借りて、北の港町までやってきたんだ。だから、当然ながら、その船を持ち主のところへ返しに行かないといけない」

「私が風の力で船を押したんです」

 

 ガーネットちゃんが得意げに言った。

 

「私としてはこのままヨットを頂戴しても良いかと思うのだが」

「レオナ、それはダメだ。借りたものは必ず返さないといけないと決まっている」

「だが」

「まあそういうわけだ。船を返したら、オレたちも別ルートからサンディエゴに向かおうと思う。君たちに同行はできないが、約束しよう。近いうちに再会すると」

「はい、よろしくお願いします」

 

 クロウさんと握手をする。

 別ルートでサンディエゴに向かうということなので、そのうち現地で会えるだろう。

 

「では、ハセベさんたちもお元気で」

「そうだな。船を返したら、私たちもすぐに追いつくようにする。だから、サンディエゴで会おう」

 

 ハセベさんには遺跡の頃から世話になっている。

 

 一緒に行けないのは名残惜しいが、今回の別れは以前のようにお互いの安否すら分からないものではない。

 同じ目的地を目指す。

 いずれ再会することを約束した、一時的な離脱だ。

 

「短い付き合いだったけど、オレは仲間だと思ってるからな」

「皆さん、また会いましょう」

 

 そしてクロウさん、ハセベさんたちとは一時的に別れることになった。

 

 もちろん、すぐに再会できる。

 再会場所はアメリカのサンディエゴだ。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 翌日、朝一で遺跡の情報提供者であるシカップ爺さんに事件解決の報告に向かった。

 

「おい、まだ5日だぞ! 途中で諦めて帰って来たんじゃないだろうな」

「いえ、遺跡は全部攻略してきました。あの寄生体も駆除してきましたので、もう存在しません」

「でもどうやって……」

「魔法の力です」

 

 厳密には魔法ではないのだが、説明を省くには、こう答えておくのが良いだろう。

 

 一応、教授に許可をもらって、遺跡から持ち出した小さい石像を渡した。

 

 経年劣化で自然に破損し、床に転がっていたものだ。

 パタムンカさんも、さすがに価値はないと言ったので、俺たちが報酬としてもらった。

 

 お高い品はパタムンカさんに渡すということになっていたので、俺たちが渡せるのは、せいぜい値段がつかないこれくらいだ。

 

「今はパタムンカさん……女性の探掘家の方が調査を行っています。もうしばらくするとこの町へ人足を雇いに戻ってきます」

「そうなれば遺跡の所在は明らかになると」

「はい。シカップさんの話に嘘はなかったと証明されます」

 

 シカップ爺さんはそれを聞くと眉に深いしわを寄せたまま無言で壁の方を向いて「そうか」と呟いて酒を飲み始めた。

 

「全く、余計な真似を……今日は酒を飲んで寝るからもう帰ってくれ」

 

 どうやらもう帰れということらしい。

 俺たちはシカップ爺さんのいた小屋を後にすることにする。

 

 ドアを閉めて小屋を出ていく直前に声がかかった。

 

「ありがとうな」

 

 これで俺たちの長かった遺跡探索は終わりだ。

 

 明日はいよいよ出航日。

 

 リプリィさんとの別れが近付いていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。