収穫祭の魔女   作:れいてんし

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Episode 4. Dream Lands
Chapter 1 「異国に来たらクッキー職人だった件」


前回までのあらすじ

 

 僕の名前はラヴィ。14歳の魔女だよ。

 

 ひょんなことから日本でサラリーマンをやっていた23歳の男の人の脳内オプションとして異世界を旅することになったんだ。

 

 なんでもゲームマスターという変なやつがこの世界で対戦ゲーム的な物をやっており、そのゲームの駒としてこの世界に喚ばれたらしい。

 

 だけど、そんなゲームに付き合ってられないので僕達は日本に帰る旅に出発した。

 

 頼りになる仲間は

 

 元高校生のイケメン戦士であるモーリスことモリ君。

 

 やはり元高校生でモリ君のことが好きな武闘家エリスことエリちゃん。

 

 ゲームマスターと敵対しているという、この世界の裏事情を知っている謎のサラリーマン風の男、カーター。

 

 以上!

 

 僕たちは南米を脱出してメキシコのアカプルコという港町に辿り着いた。

 

 日本に帰るためのヒントをアメリカのカリフォルニア州サンディエゴに住んでいる魔女が持っているらしいんだけど、僕達の乗ってきた船はこの港町が終点なんだ。

 

 なので、残り1000kmをどうやって移動しようか考える必要がある。

 

 というわけで僕は、そういうのを考えるのは苦手なので俺さんよろしく。

 

(だからなんでキラーパスを急に渡すんだよ)

 

   ◆ ◆ ◆

 

 俺達は長い船旅を終えてメキシコの港町、アカプルコに降り立った。

 

 まずは狭い船内でじっとしていた身体を慣らすために腹筋、背筋逸らしとラジオ体操もどきの運動で身体を伸ばす。

 

 とにかく船の旅は虚無だった。

 

 人間とは恐ろしいもので、リプリィさんがいなくなった悲しみで寝てばかりなのは2日目の朝にはもうなくなった。

 

 それからはやることも雑談も尽きてただ寝るか食べるかだけの日々。

 

 そんな長かった船旅もついに終わりだ。

 

 タウンティン……インカ帝国の領土を離れ、ここから先はメキシコ……いや、タラスカ王国という別の国になる。

 

 地球と同じ歴史ならば、タラスカ王国が滅んだ後にアステカなどの有名な文明が産まれ、更にその後にスペイン直轄地からのメキシコ誕生という流れを取っているはずだ。

 

 本来ならば新しい国に降り立ったという感動のようなものが有っても良いのだが、俺達の足取りは重い。

 

 まず最初に物理的な重さの話。

 

 今までは船室に荷物の大半を置いたまま動き回っていたので身軽だったが、これからは全ての荷物を背負って歩く必要がある。

 

 箒を浮かべてそこに荷物を吊るすことは出来るが、さすがに町中で空飛ぶ箒を見せると、またホンジュラスの酒場のようにククルカンの祟りがどうのと騒がれそうなので自重する。

 

 次に精神的な話。

 

 俺達が乗ってきた交易船はこの町が終点だ。

 

 ここから北に向かうには、別の船を探すか、船以外の交通手段を探す必要がある。

 

 もし何も見つからなければ、サンディエゴまで約1000Kmの歩き旅だ。

 

 江戸時代に江戸から伊勢神宮まで歩くというお伊勢参りが約500km。

 これは道中での観光込みではあるが、片道約1ヶ月ほどかかったと言われている。

 

 お伊勢参りの後に、和歌山県の熊野古道を通って熊野三山と高野山を巡り、最後は京都観光で締めるというロングコースが約1000kmで片道2ヶ月。

 

 山有り海有りの1000Km旅としてはイメージに一番近いのはこちらの熊野詣セットの方だろう。

 

 江戸時代の人は歩いていたわけだし、今でも熊野古道はバスツアーでやってきた観光客がテクテクと歩いている場所だ。

 日本は初めてという外国人だって歩いている。

 俺達に歩けない理屈はない。

 

 だが、やはり別の交通機関を探して体力と時間を効率良く使いたいところだ。

 

 しかし、ここで大きな問題が立ち上がる。

 

 金がない。

 

 手持ちの所持金は日本円換算で残り130万円。

 

 多いように感じるが、4人で割ると約40万。

 

 今はまだ常夏の熱帯エリアに居るので支障はないが、暦の上では12月である。

 

 北上して北アメリカ大陸に入ると確実に気温は下がるはずだ。

 

 事前に防寒着や冬用の肌着、そしてメキシコ北部にあるはずの砂漠を越えるためのマントや帽子などを購入しないといけない。

 

 これで一人あたり2万くらい使うとして、その上に船賃がかかってくると「破産」という言葉が見えてくる。

 

 旅の資金をどこかで調達する方法について、何か考えた方が良いだろう。

 

「北に向かう船か、他の交通手段がないかの聞き込みだな。ただ、交通費は高すぎると諦める必要が出てくるかもしれない」

「そんなに路銀は少ないのか?」

「交通費が1人10万を超えると、到着した場所次第では、そこから路銀が足りずに身動きが取れなくなる。そこで金を稼ぐ手段がなければ終わりだ」

「金がないのは厳しいねぇ。なんとか金を稼ぐ手段はないのか?」

「冒険者ギルドがあればなんとか……」

 

 全員で顔を見合わせた後に「そんなものがあるわけない」と結論に至る。

 

 冒険者という職業がないのに、冒険者ギルドなる組織があるわけない。

 

 そもそもスペイン、イギリス、フランスと言った西洋の国家が来ていない南北アメリカ大陸には「ギルド」という概念自体が存在していない。

 

 この世界に持ち込まれているのは200年前から召喚し続けられた日本人達が持ち込んだ近代的な政治形態だけだ。

 

「ホンジュラスでパタムンカさんともう少し一緒に遺跡探索をして小銭稼ぎをしておくべきだったか……」

 

 今更後悔するが、既に後の祭りだ。

 

「なるべく節約して北に行ける手段を探すぞ!」

「おう!」

 

   ◆ ◆ ◆

 

「マサトランというところまで船は出ていることは確認出来た。運賃は食事付きで1人あたり12万円。期間は1ケ月」

 

 カーターが早速情報を仕入れてきてくれた。

 

「蒸気エンジンの船に比べるとやっぱり遅いな。それに予算オーバーだ」

 

 地図で確認すると、マサトランはアカプルコから北へ約500kmほどの場所にある。

 サンディエゴまでは約1000kmなので丁度中間地点である。

 

 パナマで入手した地図はその町で途切れているので、おそらくそこがタラスカ王国の最北端なのだろう。

 

 北はソノラ砂漠やチワワ砂漠という砂漠地帯なので、北へ領土を伸ばす意味を感じなかったのだろう。

 

 1日20km歩くと仮定すると、500km踏破には単純計算で25日かかる計算になる。

 

 船と徒歩で時間的な差はほとんどない。

 メリットは歩かなくて良いことくらいだ。

 

 ただ、そのために4人で48万払うのは、懐的に厳しい。

 

「それ以外だと100Kmほど北にあるシワタネホという小さい町と往復してトウモロコシ粉を運んでる貨物船がある。船長に交渉したら酒瓶6本と荷降ろしの手伝いを条件に船の隅っこに乗せてくれるらしい。飯は出ないが3日で着く」

 

 コストパフォーマンスは圧倒的に高い。

 

 酒一瓶を5000円と仮定しても、3万円で全員乗船出来るなら文句はない。

 

「問題はそのシワタネホから次の街へ繋がる便があるかだな。行った先で身動きが取れなければ結局歩き旅が始まる」

「それってローカル路線バス乗り継ぎ旅ですよね。私は楽しそうで良いんじゃないかな」

 

 エリちゃんの発言でそういうTV番組があったなと思いだした。

 

 その番組では、路線バスを細かく乗り継いで目的地を目指すが、大手交通会社のバスが走っていない地域は、地元を走っているコミュニティバスなどを探して乗っていた。

 今からやろうとしていることも同じかもしれない。

 

「あんまり時間をかけすぎると船が行っちまうぞ」

 

 カーターはそのトウモロコシ粉の貨物船に乗りたいようで、結論を急かしてくる。

 

「俺は賛成。安いのは正義だし、どの道、多少は歩かないといけないのは同じならば、少しでも距離を稼げる方が良い」

「ならば、全員賛成で良いですね。俺も予算は節約すべきだと思います」

 

 モリ君が、全員賛成ということで話を閉めた。

 

 大急ぎで近くの雑貨屋に駆け込み、機能最優先でオシャレの欠片もない防寒着を購入。

 

 ついでに砂漠を歩く時には必須になるであろう帽子とマントを全員分揃える。

 砂漠に入ると水の補給ポイントは限られると思い、水筒の予備も全員分買った。

 

 最後に、船長所望の酒を6本買って船に飛び乗った。

 

 カーターが約束の酒を5本渡したことで、船長は快く俺達を船に乗せてくれた。

 

 酒瓶のうち1本カーターが背負うバッグの中に消えたのは見なかったことにした。

 

 必要経費とはこういうものだ。

 

 アカプルコの滞在時間はわずか2時間程だった。

 もう少し観光などをしたかったが、仕方がない。

 

 俺達はアカプルコの街を後にした。

 

   ◆ ◆ ◆

 

「いかがでしょう」

 

 浅黒い肌の中年の男がクッキーを頬張る様を俺は見つめていた。

 

「美味いな。これなら良い値段で売れそうだ。約束通り街に運んでやろう」

「ありがとうございます」

 

 貨物船がシワタネホの港に着いた時に、割りと大きめの帆船が港の隣にドライフルーツを輸出入している商人の船が隣に停泊していた。

 

 その船は、たまたまマサトランへ向かう途中に真水の補給のために一時停泊しているところだった。

 

「何か販売できるものを持っていれば船に乗せても良い」という話だったので、とりあえずクッキーを差し出したところ、OKが降りたというのが今の状況である。

 

 まさに渡りに船だ。

 

 砂糖も小麦粉もない南米では、小麦粉、卵、バターと砂糖がほど良く入って焼き上げられたクッキーの価値は意外と大きいようだ。

 

「では、これと同じものを2000枚ほど用意していただきたい」

「はい承知しまし……2000!?」

 

 しれっと要求を出してきた商人の言葉に対して、思わず大きな声が出た。

 

「こっちも商売なんだ。珍しい菓子には違いないが、販売するとなれば、まとまった数が欲しい。最低で2000枚。出来れば5000枚」

 

 あまりの数に気が遠くなる。

 

 俺のスキルは1分30秒で1枚のクッキーを出せる。

 理論最高値で1時間に40枚。

 

 ただし、1時間に40枚というのは「100m走の金メダリストにフルマラソンを走らせれば1時間を切る」と同レベルの理論最高値だ。

 

 俗にそれを「机上の空論」と呼ぶ。

 

 ただ、船は15日かけてマサトランまで400kmの航海らしい。

 

 1日3時間……いや、5時間で150枚出し続けるのを15日続ければ単純計算で1800枚だ。

 どこかで8時間くらい頑張れば、2000枚ならば何とかなるかもしれない。

 

「ラビさん、俺達も手伝うのでやりましょう、お菓子屋さん」

「手伝うって言われてもクッキーは俺しか出せないんだけど……」

「なら俺は……箱に詰める手伝いとか?」

「私は……肩でも揉んであげる」

 

 モリ君とエリちゃんが何とも頼りにならない助力を申し出てくれた。

 

 二人の申し出は気持ちだけ受け取っておく。

 

 クッキーを出し続けるのは大変だが、それを乗り越えれば実質無料で船に乗れるのだ。こんなに美味しい話はない。

 

「俺は……洋菓子職人になる!」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 それからは黙々とクッキーを作る仕事が始まった。

 

 三角巾とエプロンを付けて、まるで写経を書く如く、無心でクッキーを取り出しては20枚ずつ小さい木箱に詰めていく。

 

 1枚出すと、その後1分半は何も出来ない待機時間だ。

 

 その間の暇潰しと効率化を図る。

 

 クッキーを出現させる。

 

 箱の位置を整え、拝み、祈り、構えて、箱に入れる。

 

 一連の無駄だらけの動作を1回こなすのに当初は20秒。

 

 まだまだ無駄が足りない。

 

 5時間ぶっ通しでクッキーを箱に詰められるだけ詰めたら、その日は船室に戻って倒れる様に寝る。

 

  起きてはまたクッキーを出現させては入れる作業を繰り返す。

 1時間30個の感謝の軽作業 。

 

 3日が過ぎた頃に異変に気付く。

 

 1日4時間がノルマだったはずなのに、昨日は8時間も詰めていた。

 4日目には10時間を越えても、まだ仕事が出来る。

 

 無駄な動作での時間稼ぎをするために――

 

 ――祈る時間が増えた。

 

 当初の目標の数、2000枚を大きく越える4000枚の納品を完了したとき、マサトランの街は目前に近付いていた。

 

「感謝するぜ。これまでの全てに」

「早くブラック企業体質から戻ってきて」

 

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