収穫祭の魔女   作:れいてんし

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Chapter 15 「勉強会」

 目の前には切り立った岩肌がそびえ立っていた。

 

 雨が少ないこの地方特有の赤黒い岩が太陽の光を照らして、くっきりと影を作っている。

 

 住民達はわずか300m先にある隣の集落へ行くために、この大きな岩山を半日近くかけて迂回せざるを得なかった。

 この山に隧道(トンネル)さえあれば……。

 

 昔から村人は何度も岩山に隧道を穿つことに挑戦したが、分厚くて固い岩盤を小さいタガネだけで掘りぬくには、あまりにも金も道具も人手も足りなかった――

 

「――という曰くつきの場所に、隣の集落までの隧道を掘ります」

 

 仲間達、そして住民は俺から50m程の距離を取らせている。

 山肌の反対側にも誰もおらず、何の施設もないことは鳥の偵察により確認済だ。

 

「鳥を3羽解放(リリース)。そして発射!」

 

 超高熱の熱線が構えた箒の先から発せられた。

 

 熱線は、今まで多くの村人が振るうタガネを跳ね返してきた硬い岩盤を容易く貫き、隣の集落までの300mを越えてはるか先まで飛んでいった。

 

 照射時間に余裕があったので、湧き出てきた地下水を蒸発。

 穴の縁の岩を溶解させて均していると、ようやく熱線の発生が止まった。

 

 照射が完全に終了したのを確認した仲間達、そして住民が駆け寄ってきた。

 

「岩を溶かして固めてあるので、そう簡単には崩れてこないと思います。ただ、それでも地下水を排出するための仕組と、トンネルの補強工事は必要です。内容を説明しますのでこちらへ」

 

 何故俺達がこんなトンネル工事を行っているのかを説明する必要があるだろう。

 

 サルナスの町へ向かう道中にあった村で、隧道がなくて隣の村までの移動が不便という話を聞いたので、一晩の宿と食事の提供を約束に隧道を掘ることになった。

 

 この隧道は村の住民だけではなく、俺達がサルナスの町へ行くためのショートカットルートとしても使えるので、俺達にも村の住民達にもメリットがある作業だ。

 やらない理由がない。

 

 住民達には本の受け売りでしかないが、村長にトンネル工事をすると地下水が湧き出てくること、補強工事をしないと落盤の危険性があることなどを簡単に説明する。

 

 実際問題として、俺は土木工事に関しては完全に素人。

 本当に簡単に聞きかじりの浅い話しか出来ないので、あとは専門家を呼んでなんとかしてもらう、ということでまとまった。

 

 専門家とやらがどの程度の知識を持っているのかは不明だが、一番時間と手間がかかる山に穴を開けるという工程が済んでいるのだから、あとは何とかでもなるだろう。知らんけど。

 

「ラビさんお疲れ様です」

「まあ全然疲れてないけどな」

 

 モリ君が手を掲げていたのでハイタッチで応える。

 

「終わったなら飯にしよう。とっておきの酒を出してくれるって話だし、早く行こうぜ!」

 

 何もしていないカーターはそう言うと真っ先に村の方へと駆け出していった。

 

「何もしてないやつが、率先して飯を食いに行こうとするな!」

 

 相変わらず普段は何の仕事もしないくせに、こういう時だけは元気だから困る。

 本当にあいつは何なんだ。

 

「ワシも何もしとらんのだが、酒をよばれて良いのかの」

 

 タルタロスさんが申し訳なさそうに俺に声をかけてきた。

 

「いえ、そこは気にしないでください。俺達は未成年だから酒を飲めませんが、村の方の好意を断るのも失礼ですので、成人のカーターとタルタロスさんで飲んでください」

「すまんの、何から何まで」

 

 カーターもタルタロスさんのように何か言ってくれたら、こちらも気にしないというのに。

 

「ラビさんも成人ですよね」

「23歳ですけど……と言いたいところだけど、身体は中学生だからな。酒は飲めないよ」

 

 俺は元々それほど酒を飲む方ではなかったので酒を飲めないことについて特に問題はない。

 

 ただ、調理に使用出来る料理用の酒が手に入るとなると話は別だ。

 調味料代わりに何種類かは確保しておきたい。

 

 それはそれとしてだ。

 

「それよりも、このお子様達は何事なの?」

 

 少年レルム君と少女ドロシーの2人が、何故か俺の両手を握ったまま解放してくれない。

 それどころか何かを期待する目で俺を見つめてくる。

 

「ラヴィさんすごいです。僕にも魔法を教えてください」

「うちも必殺技使いたい。カッコいい」

「本当にカッコいい」

 

 カッコいいというのは何なのか最初分からなかったが、少し考えてから、俺が隧道を穿つために使用した「魔女の呪い」の熱線放射のことだと気付いた。

 

 あれを見て自分達も同じようなスキルを使いたいと思ったのだろう。

 

 しかし、俺達が使用しているスキルは他人に教えられるものではなくて、天……ではなく運営から突然に降ってきたものなので、教えられることなど何もない。

 

 どうしたものかと、モリ君とエリちゃんに「助けて」と懇願の視線を送ってみるが、笑って誤魔化されてしまった。

 

 ここは前向きに考えよう。

 逃げずに向き合えば、子供達を成長させるチャンスでもある。

 

 現状、子供達はただの庇護対象。

 悪い言い方をするならば、足手纏いでしかない。

 

 だが、魔法……スキルを使いこなすことが出来れば、自分自身を護るだけではなく、俺達の後方支援の役目を担ってくれるはずだ。

 

 危険がないよう配慮は引き続き行う予定ではあるが、戦闘力の底上げが為されるならば、全員の負荷が減って色々と楽にはなる。

 

 出来れば、運営に何か仕込まれているであろうドロシーの戦力強化はあまりしたくない。

 

 だが、ここでレルム君だけを教えるのも、それはそれで人間関係に歪を生みそうだ。

 両方を指導するしかない。

 

「全く同じことは出来ないけど、ある程度スキルを使いこなせるようなコツなんかは教えられるけどそれで良いかな?」

 

 2人の子供は顔を見合わせた後に、

 

「やったー!」

 

 と、諸手を挙げて万歳三唱した後に村の方へと駆けていった。

 

 ドロシーの記憶は戻っていないが、同じ年代の子供ということや元々仲間だったということもあり、既にレルム君とは打ち解けているようだ。

 

 同年代の友達が出来ることで、モリパパ、エリママへの依存度がその分下がるのは良いことかもしれない。

 

 ただ、あまり仲の良い人物が増えると、ドロシーが操られた時の対応が面倒になるのだが、俺は一体どうしたら良いのだろう。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 食事を終えて少し休憩を取った後に子供達へスキルの使用方法についての指導を行うことにした。

 

 村から少し離れた、なるべく周りに民家などがない空き地に移動して、スキルの指導開始だ。

 

「はい、ではまず2人のスキルを確認します。スキルの名前を教えてください」

「はい!」

 

 レルム君が勢い良く手を挙げた。

 

「でんきショック、エレキボール、エレクトロビームです!」

「いのちのしずく、水鉄砲、ハイドロカノン!」

 

 嬉しそうにスキルの名前を言う2人に俺は頭を抱えた。

 

「……えっと、ゲームの話?」

「スキルですけど」

 

 確かに、スキルの正式名称など分からないのだから、自分の好きに呼んで良いので何も間違っていることなどない。

 間違っていないのだが、釈然としないものはある。

 

 何故そうなった。

 小学生か?

 

 小学生だったわ。

 

「じゃあ、とりあえずあの岩に向けて使えるスキルを順番に使ってもらえないかな?」

「分かった」

 

 まずは適当な岩に向けてスキルを使用させて、どのような効果があるかを把握しておきたい。

 

 2人は俺が言った通りにスキルを使用した。

 

 レルム君は手からの電撃放射、球状の電気の塊を手の平の上に発生させてから投げる技、手から発せられるビーム。

 確かにスキル名の通りの効果だ。

 

 ドロシーは回復効果のある水、ホースのように高圧の水を飛ばす技……このスキルで出す水のおかげで色々と助かっている。

 そして、岩を粉々に砕くほどの水圧で水の塊を発射する技だ。

 こちらも名前の通り。

 

 実際、2人とも自己申告の名称通りの効果が発揮されている。

 何一つ間違っていない。

 

 間違っていないだけに、スキルの名前だけには納得できるというか、出来ないというか……そんな気持ちが消えない。

 

「どうしたら凄い必殺技を出せますか?」

「必殺技の前に、まずは基礎から始めていこう」

 

 必殺技の前にまずは基礎からの特訓が必要のようだ。

 

 2人のスキルは普通に使う分には問題なさそうだが、手前の岩を狙ったはずなのに、後ろにある木や近くの地面に着弾しているあたり命中率の低さが気になる。

 

 カッコつけようとしているのか、無駄な予備動作が多すぎて発動が遅いのも気になる。

 

 俺達の能力は予備動作も詠唱も不要で発動できるのだから、それを生かして、先手を取って相手の技の出始めを潰しつつ一方的に攻撃出来るか否かに全てがかかっている。

 

 まずはレルム君から矯正していこう。

 

「エレキボールを出した後に野球のボールみたいに手で掴んで投げていたけど、あれってなんで?」

「……ボールだから」

「俺……私達のスキルは別にそんなことをしなくても勝手に飛んでいくし、別に手から出す必要もないから、わざわざ投げなくても大丈夫だよ」

 

 俺は両手を左右へ伸ばし、両足を揃えて立つT字ポーズを取り、その状態から鳥を出現させた。

 

 そこから手を動かすことなく、一羽を適当に旋回させながら岩へぶつける。

 

「こんな感じで、手を動かさなくても誘導弾みたいにある程度操れるはずだから、使い方次第ではかなりカッコよくなると思う」

「なるほど」

「あと、ビームの方も片手で出したせいで、反動を手で支え切れずに若干ブレていたから、慣れるまでは両手で撃とう」

「両手って?」

 

 説明が面倒なので、レルム君の背中に身体を押し付け、後ろから両手を取って両手首を付ける形のポーズを取らせた。

 

「あ……あの……」

「こんな感じで、自分の手でブレないようにしつつ、カッコいいポーズを考えてみよう」

「顔が近くて……その……」

 

 レルム君へポーズを指導していると、何故かドロシーが急に俺の腰に蹴りを入れてきた。

 一発だけではなく、連続して何発も蹴りを入れてきた。

 

 相変わらずこの子の行動原理だけはさっぱり分からない。

 

「ラビちゃん、うちにも教えて!」

「そうだな。2番目のスキルで水を出すのはモリ君達の特訓のおかげで完璧だけど」

 

「モリ君達の特訓で完璧」と言うと、途端にドロシーは得意気な表情になった。

 そして、レルム君へ自分の方が良く出来ると言わんばかりの視線を向けていた。

 

 ドロシーは言動がいちいちクソガキ様すぎて困る。

 

「2番目は良いけど、3番目のスキルで出せる水の砲弾が、やっぱりレルム君と同じでぶれてまっすぐ飛んでいってない。やっぱり慣れるまではこうやって両手で出すようにしよう」

 

 ドロシーの前で俺がポーズを取ると、またも俺を蹴飛ばしてきた。

 

「うちもちゃんと密着指導して」

「はいはい」

「『はい』は1回!」

 

 本当に面倒くさい。

 

 レルム君の時と同じように身体を密着させて背後から手取り足取り。

 

 こう! こう! とポーズの指導をするとようやく満足したようだった。

 

 ドロシーは真面目な顔をして俺に言った。

 

「ラビちゃん、ママと違っておっぱいないね」

 

 ドロシーは今すぐ殺した方が良いだろうか?

 やはり、こいつは何かを仕込まれている。

 仲間へ危機をもたらす前に始末した方がよいかもしれない……

 

 一瞬だけ物騒な考えが頭を過ったが、すぐに頭から消し去った。

 

 Koolだ。Koolになれ。

 

 たかだか子供の言うことでいちいち怒るのは大人気がなさすぎるというものだ。

 

「そんなことない! お姉ちゃん……師匠もちゃんと柔らかいから!」

 

 レルム君、お前は何を言っているんだ。

 

「あんたはママを知らないからそんなことを言えるだけ! ママと違って、ラビちゃんはマニアックなの」

「そんなことないだろ!」

「寝てから言えば! ママは本当に柔らかいんだから」

「分かったよ! そういうわけだから、僕と一緒に寝てください、師匠!」

「てい!」

 

 さすがに流れが酷すぎるので、2人の脳天にチョップを炸裂させた。

 

 お前らはヒートアップして何を言っているんだ……。

 

 子供のお守りはもう嫌だ。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 1時間ほど稽古をつけると、子供たちは飲み込みが早いのか、それなりの形でスキルを使用できるようになってきた。

 

 後半はスキルの使用方法よりも完全にカッコいいポーズの練習だった気がするが、気にしたら負けだ。

 

 時間も遅くなってきたこともあり、翌日に疲れが残らないように稽古は終了。

 村人達に用意していただいたベッドへ連れて行くと、稽古で体力を使い果たしたのか、電池が切れたようにすぐ眠りへとついた。

 

「子供のお守りご苦労様」

 

 子供たちへ毛布を掛けて部屋から出てきたところ、カーターに声を掛けられた。

 

「モーリスもエリスも……あのタロスってオッサンも子供に甘すぎるところがあるから、指導にはお前が向いていると思うよ」

「どっちも違うベクトルでクソガキ様すぎて辛いんだけど」

「小学生はそんなものだよ。ところで、お前って性癖の破壊者なの?」

 

 唐突にカーターが訳のわからないことを言い出した。

 

「年上の姉ちゃんがいきなり身体を密着させてきた上に両手を取ってあの指導とか、あのレルムってガキ、確実に性癖が破壊されたぞ」

「そんなまさか。まだ小さな子供だぞ」

「あのくらいの年齢の子供は、近所のお姉さんに弱いんだよ。たとえそれがお前みたいなのでも」

「エリちゃんならともかく、俺に影響されるようなマニアックな子供はいないだろう」

「そういう無自覚さがマニアック路線を拡大しているんだよ! だから、もう年齢関係なく異性に身体を密着させたりするのは禁止な」

「何人目もなにも、別にあの子供だけだろう」

「えっ?」

「えっ?」

 

 だが、カーターの言うことにも一理ある。

 

 俺のようなマニアック女子に性癖を歪められてしまっては、レルム君は一生後悔することになる。

 これからは適度な距離感を心がけよう。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 翌朝。俺達はサルナスの町へと旅立つ前に、村長へ挨拶をすることにした。

 

「宿と食事、助かりました」

「いえいえ、こちらこそ感謝をしてもしきれず……ところでこれからどちらの方へ行かれるのですか? 王都の方でしょうか?」

「とりあえずサルナスの町……この街道の終点までです」

 

 サルナスの町という名前を聞いた途端に村長の表情が突然変わった。

 明らかに何か町の良くない噂を聞いているが、それを伝えるべきか否かを悩んでいるようだ。

 

「サルナスの町に何かあるのですか?」

「おそらく貴方がたならば大丈夫だと思いますが、サルナスの町の周辺にはトカゲ人間が徘徊しているという話です」

「トカゲ人間?」

「はい。詳しいことは分かりかねますが、旅の商人達が何人も襲われたとか」

 

 ここに来てまたトラブル発生の予感である。

 サルナスの町まではまだ5日ほどかかる。

 

 それまでに子供達のスキル教育を終わらせる必要がありそうだ。

 

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