収穫祭の魔女   作:れいてんし

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Chapter 15 「チワワ」

 カーターが分析した魔術師の現在位置情報と、それを元に使い魔に空から確認させた区画。

 そこから、ヘルハウンドによる被害が出た家や通りなどを省いていくと、候補は10軒に絞られる。

 

 10軒なら総当たりしてもたいした手間はかからないのだが、事前に絞り込みはしておきたい。

 

「10軒の中から、石材職人を容疑者から除く」

「なんで職人を除くんだ?」

 

 カーターの疑問は当然だ。

 ここからは俺の推理を披露しよう。

 

「もし、あの洞窟の祭祀場が、犯人にとって秘密の信仰の場所だったらどうする?」

「いろいろと勘繰られたくない……」

「それどころか、自分にとっては神聖な場所を穢されたと思うかもしれない。そうなると恨みは、山を切り崩して洞窟の存在を(あらわ)にした石材職人へと向かう」

「根拠は薄いな」

「もちろん、それは分かっている。だけど、ここで町長から聞いた情報が役に立つ。ヘルハウンドの被害者の一覧だ」

 

 町長から話を聞いたところ、被害は石材職人が圧倒的に多かった。

 町の主産業であり、人数もかなり多いので当然だと考えるのは自然だ。

 

 だからこそ、町長や町の住民たちは気づかなかった。

 

 部外者であり、空から町の様子を確認できる俺たちだからこそ気づけた。

 

「この町は、山間にあるので、傾斜がある上に意外と入り組んでいるんだ。資材や完成した商品を運ぶためのメイン通り以外は細くて移動しづらい」

 

 俺が最初にこの町に偵察にやって来た時もそうだった。

 

 地元の住人が地の利を生かして狭い路地の角を何度も曲がって、ヘルハウンドの追跡を振り切っていた。

 初見でこの町の路地に入ると、迷路のような構造に延々と迷うことになるだろう。

 

「ヘルハウンドも、移動しやすいメインの道を通るはずだ。なのに、わざわざ狭い路地に入って、しかも3軒目とか5軒目とか中途半端なところを焼きに行っているんだ」

 

 メイン通りにあるアルバートさんの雑貨店が無事な理由がこれだろう。

 石材職人でもなければ、裏路地もなかったので、ヘルハウンドの攻撃対象から外れていた。

 

「そして、ヘルハウンドは迷うことなく、迷路のような路地を抜け出て速やかに石切り場方面へ撤退していく」

「誰かが指示を送っていたから迷わなかったと?」

「そういうことだ。高いところから町を見ながら効率よく動けるように指示を出していたんだ。空から町を見ていた俺が、ヘルハウンドの妙な動きに気づけた理由でもある」

「でも、犯人は飛行能力なんて持ってないだろう」

「だから、塔なんですね!」

 

 モリ君が気づいてくれたようで、町のどこからでも見える高い塔……町役場を指差した。

 

「そうだ。この町は低くて平たい建物ばかりだけど、あの塔だけが例外だ。少し高いところに建っていることも相まって、常に町全体を見渡すことができる」

「その上、町役場の職員ならば、町のどこに誰が住んでいるのか分かるんですね」

「そういうことだ。犯人は町全体の構造を把握して指示を出せる塔にいる人物で、かつ個人情報にアクセスできる町役場の職員の可能性が高い」

 

 そこまで推理ができれば後は簡単だった。

 町長に、魔術の反応が出た区画に住んでいる役場職員が何人いるかを聞けばいい。

 

「役場職員が容疑者である根拠のもう1つは町長に届けられた手紙だ。役場職員ならば、誰にも気づかれずに手紙を届けることは可能だったからだ」

「なんなら、自分で手紙を置いておきながら、何食わぬ顔で町長へ届けた可能性すらある」

「それで、容疑者を1人に絞った。名前はイルソン。28歳。独身。町役場職員だ。近所付き合いは少なく、あまり人柄などは知られていない」

 

 町長から聞いたデータはすべてメモしている。

 読み上げながらイルソンの家を目指す。

 

「28歳独身役場職員とかどこかで聞いた経歴だなオイ」

「カーターの話はしてないから安心しろ」

 

 カーターは近所付き合いが悪いとは到底思えない。

 

 どんな場所でも酒場に飛び込んで、そこで飲んでいる人たちと一瞬で打ち解けるタイプだ。

 実際、こんな怪しいやつだというのに、俺たちと完全に打ち解けている。

 こいつは……いいやつだ。

 

「決定的な情報はこれ。イルソンの義父は元々祭司だ。10年ほど前までは週に1回、町外れの古い教会で祭儀(ミサ)を行っていた」

「義父? 直接の親じゃないのか」

「イルソンは孤児らしい。要するに、古い教会が孤児院を兼ねていたんだ」

「その孤児院メンバーがもしかして……」

「共犯者の可能性はあるが、それは、今から尋問するイルソンに話を聞いてからだ」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 町長の紹介で、調査と容疑者の拘束のために、守備隊の方に同行してもらうことになった。

 

 守備隊とは、現代で言うところの警察のポジションだ。

 

 ヘルハウンドとの戦闘で、守備隊の大半は負傷なりで人数が足りていない。

 そのため、町に最初に来た時に会った門番のように、腕っぷしのある町民が臨時で働いているのが大半ではある。

 

 だが、今回調査に付き合っていただく中年の男性は、本職の守備隊だ。

 独断での逮捕、捜査権を持つそれなりの役職者らしい。

 

「具体的な証拠は一切なく、まだ疑わしいだけです。ですので、イルソン容疑者がシロならば、他の9人にも聞き込みをします」

 

 守備隊の男に今回の調査について説明を行った。

 

「魔術とやらについてまだ実感がないのだが、危険なものなのかね?」

「イルソンは魔術師としては平均以下です。何者かに最低限の知識を与えられただけでしょう。両腕を拘束すれば何もできなくなります」

 

 カーターは両手首を合わせ、縄で縛られる格好を示しながら説明した。

 

「無論、戦闘が発生した際には、私たちが受け持ちます。無力化後の逮捕をお願いします」

「任された」

 

 それでは聞き込みを始めよう。

 

「まずはエリちゃんだ。こいつが外出中か、それとも家の中にいるのかを聞いておきたい」

 

 早速だが、エリちゃんの優れた聴覚を頼りにすることにする。

 イルソンの自宅に、誰がいるかの確認だ。

 

「中に誰かいるみたい。むしろ、私たちが入って来るのを待っているというか」

 

 聞き耳を立てたエリちゃんが、具体的に家の中にいる人物の行動まで答えてくれた。

 

「そういうことなら俺が行きますよ。最初は普通に呼びかければいいんですね」

 

 モリ君が前に出た。

 

 グレーのマントを付けたモリ君は一見すると騎士風だ。

 少なくとも悪人には見えないし、もし敵が襲い掛かってきても対処できる運動能力と防御スキルがある。

 

 先頭に立つには最適な人物だ。

 

「カーターはイルソンの魔力検知の準備を。エリちゃんは相手が逃走した時に、追いかけて捕縛する役目」

「捕縛って何をすれば?」

「関節技だな。相手の腕か足を取って、関節が曲がる方向と逆方向に押して相手の動きを拘束する」

「分かりにくいんだけど、脇固めとか腕ひしぎ逆十字とか?」

「マニアックだな……まあそれで」

 

 そうしている間に、モリ君が玄関ドアの前に立った。

 ノックをして何度か呼びかけるが、返事はない。

 

 エリちゃんからのジェスチャーでの指示は「ドアを開けてすぐのところにいる」だ。

 

「すみません、町はずれの教会と儀式の件について、少し話を聞かせてください」

 

 反応はない。

 

「入ります」

 

 これは、守備隊の男へと、中にいるイルソン、両方への確認だ。

 

 モリ君がドアノブを掴んでドアを開けると、金属棒を掲げた男が突然飛び出してきた。

 状況から考えてこいつがイルソンだろう。

 

 だが、そんな素人の大ぶりの攻撃がモリ君に当たるわけもない。

 モリ君は半歩動いて体を捻っただけで簡単に避けた。

 

 金属棒は虚しく空を切り、玄関前の三和土(たたき)に叩きつけられるのみだ。

 

「人に武器を振りかざすのは危ないですよ」

 

 モリ君が、イルソンの手にしていた金属棒を取り上げて、そのまま抑え込む。

 

「間違いない! そいつは魔術師だ!」

 

 カーターが警告するや否や、モリ君とイルソンとの間に一瞬火花のようなものが散った。

 

 モリ君が瞬時に距離を取った矢先、イルソンは全力で駆け出す――直後に、エリちゃんがイルソンに飛び掛かり、背中に回り込んだ。

 

 イルソンの両腕を取り、背中側に向けながら、体を前屈させるように押し込む。

 左足と腕でイルソンを拘束しつつ、関節に負荷をかけて痛めつける。

 

 プロレス技の卍固めの変形技だ。

 映画などで警察が犯人を捕縛する時には、この形から地面へ押し付けるのだが、そこまではしていない。

 無理に地面に押し付ければ両腕の骨が折れるだろう。

 

「それで、この後どうすればいい?」

「えっ?」

「えっ?」

 

 俺たち全員の動きが止まった。

 よく考えると、普通の一般人相手に攻撃を仕掛けるのは初めてだ。

 

 ついうっかり普通に攻撃を仕掛けると、簡単に腕や足の骨くらいは折ってしまうだろう。

 

「どうしよう、ちょっと力を込めたら腕ごともげそうなんだけど」

 

 エリちゃんが何気なくもらした言葉を聞いたのか、男の顔色が真っ青になった。

 一見すると簡単に逃れられそうなエリちゃんの関節技だが、圧倒的なフィジカルの差があるため、男は全く身動きが取れないようだ。

 

 プロレスならばギブアップが入れば勝負は終わりなのだが、男がそれで終わってくれるわけがない。

 

「ギブアップせい」

「は……放せ……」

 

 男はまだ諦めてはいないようだ。

 エリちゃんが拘束を解けば、先ほどの火花のような魔術を行使して、また逃げようとするだろう。

 

 すると、守備隊の男が縄を手にイルソンに近づいた。

 器用にイルソンの両手首に縄を括り付ける。

 

「じゃあ、深い話は詰め所で聞かせてもらおう」

「家の中に証拠がないか探させていただいてもよろしいでしょうか?」

「私には魔術のことなど分からないので任せる」

 

 守備隊の男の許可をもらったので、鳥を喚びだして、家の中に歩いて向かわせる。

 効率が悪いのは承知の上だ。

 飛ばさないのは、まだ狭い家の中を飛行させるような精密コントロールができないからだ。

 

 しばらく待っていると、鳥たちが数羽がかりで必死になって、家の中から禍々しい石像を運び出してきた。

 洞窟内の祭壇に置かれていた石像と同タイプのものだ。

 

「この石像について話してもらえますか? 同じものを、ケルベロスがいた洞窟内で見かけたのですが」

 

 それでもなお男は口を開かない。

 

「この石像を使うことでケルベロス召喚の儀式が可能です。証言を引き出した後は、イルソンの手の届かないところに保管いただけますか?」

「承知した。預かろう」

 

 守備隊の男に石像とイルソンを引き渡した。

 イルソンはようやく観念したのか、守備隊の詰め所へと連れられて行った。

 

「なんかあっさりですけど、これで終わりですかね」

「俺たちは所詮は通りすがりの旅人だからな。容疑者をおまわりさん的な組織に引き渡したら、それで仕事は終わりだ」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 町長に容疑者を確保したことを報告した。

 これで、事件は一件落着だ。

 ケルベロスとヘルハウンド討伐の報酬を貰うことができた。

 

 イルソンの事情聴取などはこれから行われて、具体的な動機や、共犯者の有無などが明らかになっていくだろう。

 だけど、それは俺たちの仕事ではない。

 

 さすがに、取り調べが終わるまで、この町に何日もとどまり続けるわけにはいかない。

 その間も滞在費が掛かり続けるし、何よりも先を急ぐ旅の途中だ。

 

「というわけで、ケルベロスとヘルハウンド討伐お疲れさまでした!」

 

 そんなわけで打ち上げの食事会だ。

 

 何日かぶりに食堂できちんと調理された食事を取ることができた。

 

 久々の人のいる町。

 そして、入ってきた討伐報酬のおかげである。

 

 もちろん未成年だらけなのでカーターとタルタロスがビール。

 俺たちはノンアルコールの麦茶っぽい何かで乾杯をする。

 

 店員に聞いてみると、どうやら麦が原料のノンアルコールエールらしい。

 

 出てきた食事は軽く炙った羊肉のソーセージにザワークラウト……キャベツの酢漬けだ。

 全体的にドイツ風味だ。

 

 美味いのは美味い。

 

 ただ、ソーセージは塩分とハーブの風味は効いているが、もう少し胡椒のパンチが欲しいところだ。

 対してキャベツは爽やかな酸味が良い。

 

 それでも、ずっと南米の唐辛子中心の辛い食事が続いていただけに、酸味のあるキャベツとソーセージの組み合わせは新鮮に感じる。

 

 そして、一番のメインディッシュは、この世界にやってきてから初めての小麦のパンだ。

 

 ずっとトウモロコシや芋が原料の料理ばかりだったので、小麦のパンに懐かしさを覚える。

 

 日本の一般的なパンと違い、粗めの全粒粉を日持ちするように水分を飛ばして焼いている。

 なので、ボソボソとしている上に固く、口の中の水分を全部持っていかれてしまう。

 毎日続くと厳しいが、たまに食べる分にはこれはこれで美味い。

 

「ラビさん、ここってメキシコなんですよね。この町はヨーロッパっぽい雰囲気ですけど」

「マサトランから北に180から200キロってところだから、まだメキシコだな。海岸線からかなり外れちゃったから正確な位置は分からないけど、多分チワワ砂漠の入り口あたり」

 

 頭の中で地図を思い浮かべて位置関係を整理する。

 

 マサトランから北に約100キロの位置にあったのがタラリオン。

 さらに北へ100キロ来たのがこのテロスの町なのでメキシコのチワワ州南端くらいのはずだ。

 

「チワワって犬のチワワ?」

 

 エリちゃんは「チワワ」の名前が気になるようだ。

 

「チワワは元々砂漠の犬で、メキシコ原産の種類を品種改良したものだから、あのチワワで合ってる」

「チワワってチクワと関係なかったんだ……チワワだから、ヘルハウンドとケルベロスがいたのかな?」

 

 少し考えてから答える。

 

「さすがにこじつけだろう」

 

 考えられるのは、ダンテの神曲だ。

 タラリオンにはダンテの神曲にある、地獄の第一圏、辺獄(リンボ)のプレートが貼り付けられていた。

 そして、ダンテの神曲では、第三圏に地獄の番犬、ケルベロスが登場する。

 

 関係あるとしたらこちらだ。

 第三圏になぞらえて、ケルベロスを用意したのだろう。

 

 少なくとも、チワワ砂漠なので犬のモンスターが出てきますと言われるよりは説得力がある。

 ……多分。

 

「随分とルートを外れちゃいましたけど、これからどうします?」

 

 モリ君からこれからのルートの相談の話が出てきた。

 これは方針にもかかわってくるので、全員で情報を共有しておきたい。

 

「前にも言ったとおりだよ。このテロスみたいに、地球には実在しない町を数珠つなぎで進んでいきたい。時間と距離と金は余分にかかるけど、水や食料の調達で困ることもなくなるしね」

「路銀も稼げますしね」

「それだよ。どうせ旅をするなら楽しく行きたい」

 

 正直なところ、ドロシーのスキルによる水の補給と俺のスキルによるクッキーがあれば、飢えはしないのだ。

 ただあまりに食生活が寂しくなりすぎるだけだ。

 

 それでも、食べ物や寝るところをケチると、疲労が翌日まで残ったままになる。

 なるべくならば、ここはケチりたくはない。

 

「地元の人に聞いたんだが、ここから西方向、ムナール地方の街道を、だいたい200キロほど歩くと、サルナスって大きな町があるらしい」

「途中に町はないんですか?」

「道中には1日おきに町や村があるらしいから、そこで聞き込みしながら進路修正かな」

「町があるのは助かりますね」

「その分、お金もかかるから、今回みたいな感じで依頼を受けながら、旅の資金を稼いでいかないとな」

 

 タウンティンを出発してから2か月。

 ここに来てようやくファンタジー世界の冒険者らしくなってきた。

 

 できれば、このまままったりと旅をしていきたいものだ。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 旅立ち前にアルバートさんへ挨拶をしていくことにした。

 

 義理を通すという理由もあるのだが、ケルベロス&ヘルハウンド騒ぎで商店が軒並み閉まっている。

 そのため、買い物ができるのが、アルバートさんのところくらいしかないという理由もある。

 

 ケルベロス騒ぎも解決したので、逃げ出した町の住民も戻ってきて欲しいところだ。

 

 店に到着すると、早速レルムとドロシーが、ケビン君と3人で遊びに行った。

 子供同士は仲が良くてよろしい。

 

「商店の方は再開できそうですか?」

「そうですね。幸いにも店は無事でしたので。ただ、店の在庫は一度全部処分したので、あまり品数は豊富とは言えないですが」

 

 アルバートさんはそう言うと棚を指した。

 実際、お世辞にも品ぞろえが多いとは言えない。

 

 ただ、せっかくつながった縁だ。

 

 何か旅に使えそうなものでもあれば買っておいて、アルバートさんが再起するための支援になれば幸いだ。

 店に並んだ品の中から旅に役立ちそうなものをピックアップしていく。

 

 新たに加入した3人の下着とタオル。それにちょっとした布の鞄や水筒といった旅の必需品だ。

 

 あとは、ベリー類と常温保存ができそうなソーセージとハム。それに乾燥大麦の小袋を購入する。

 

 大麦があれば麦茶を作れるし、茶粥のように炊いて食べてもいい。

 

 ベリー類はドライになる前に食べても良し。砂漠の熱気で一気にドライにするも良し。

 

 残念ながら毛布や砂漠を歩くための必需品であるマントや帽子は入手できなかった。

 

 なんとか次の町で入手できるとありがたいのだが。

 

 俺は他に何かないか店内を見回す。

 

 そうやって見ていると、赤やら黄色やらガラス瓶に入った粉末があることに気づいた。

 もしかして香辛料だろうか?

 

「あの、もしかして香辛料も取り扱われていたりします?」

「ここに置いてあるものが全てですけどね。あまり売れないので、半ば不良在庫ですよ。もう2年近いと思います」

 

 アルバートさんが棚からいくつか香辛料をおろしてカウンターの上へ並べ始めた。

 

 赤いのは唐辛子パウダーだが、こちらはまだ手元に十分な在庫がある。

 胡椒は少し惹かれたが、さすがに値段がお高くて手が出ない。

 

 そうやって見ていくうちに黄色の粉末が入った瓶が気になった。

 

「もしかして、これってターメリックですか?」

「ウコンです。お茶にすると体に良いと聞いたので煎じて飲んでみましたが、癖が強くて私や家族、地元の方にはイマイチ評判が良くなくて……」

 

 思わぬところで、思わぬ収穫だ。

 

「おいラビ助、なんなんだよそれ?」

 

 カーターがそのウコンの瓶を覗き込んできた。

 

「インドの香辛料だよ。カレーの色の素と言えば分かるか?」

「カレーだって!?」

 

 カーターがそう言って瓶の蓋を開けて臭いを嗅ぐ。

 その後に顔を引きつらせてなんとも言えない微妙な顔をした。

 

「全然カレーじゃないし、なんか薬臭いな」

「だからカレーの色の素だって言っただろ。匂いの素は主にクミンだ。ここにはない」

 

 ただ、まさかこんなところでカレーの材料が手に入るとは思わなかった。

 この機会を逃せば入手は困難かもしれない。

 

「もしよろしければ、それを譲っていただけないでしょうか? 料金はきちんと支払いますので」

 

   ◆ ◆ ◆

 

「それじゃあ出発するぞ」

 

 旅立ちには少し遅い時間ではあるが、昼過ぎにテロスの町を後にした。

 

 太陽は真上から若干西へ傾きかけている。

 この太陽を追いかけるように街道沿いを歩いていけばサルナスの町へ辿り着けるはずだ。

 

「こんな時間で大丈夫なのか?」

「隣の集落までの距離が歩いて半日らしいのでこれでいいんだよ。日が暮れる直前に着けば、そこで宿を取ることができる。むしろ朝に出発すると、午前中にはその集落を通過してしまうので自動的に野宿になる」

「なるほど、ちゃんと考えているな。角度とか」

 

 見送りにアルバートさん一家が出て来てくれた。

 これからも元気にやってほしいものだ。

 

 レルムとケビン君も抱き合って別れの挨拶をしている。

 やはりドロシーはどこ吹く風で、2人の別れをつまらなさそうに見ているだけだ。

 

「エリちゃんも子供の頃はあんな感じだった?」

「いや、子供の頃は親の仕事の関係で引っ越し続きだったので、幼馴染って呼べる人は全然いなくて」

「それで今は神戸住まいなのか」

 

 エリちゃんがたまに方言を出すのは、昔に住んでいた地域の影響が大きいのだろう。

 

「じゃあモリ……」

 

 そう言おうとして口を噤んだ。

 

 ユイの件はモリ君の中で一段落したのだろうが、それでもまだ幼馴染の話題をしない方が良いだろう。

 完全に吹っ切れたとは思えない。

 

「ラビちゃんはどうなの?」

「幼馴染はいたんだけど、大学進学の時にちりじりになっちゃってそれっきり。今はどこでどうしているのやら」

 

 まあ絶縁したわけではない。

 同窓会やら何かの偶然で再会したら、その時は昔話に花を咲かせたいところだ。

 

 友人関係ってのはそんなものだ。

 

「私たちは日本へ帰ったら、みんなバラバラの地方だけど友達でいたいよね」

「そうだな。なるべく連絡を取り合える方法は考えよう」

 

 これはドロシー、レルム、タルタロスも同じだ。

 

 それにカーターも。

 

 この7人はなるべく末永く付き合っていけるようにしたい。

 

「じゃあ、次の目的地、サルナスに向けて出発しよう。ゴーウエストだ!」

 

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