「これは侍ちゃんが倒したワイバーンから出てきた銅メダル」
俺は3枚のメダルを取り出す。
「そして俺たちがワイバーンを倒して手に入れた1枚。絵柄などに違いはない。混ぜてもいいだろう」
これで4枚目。
問題はこれからだ。
「侍少女のオウカちゃんが亡くなった場所にあった銅メダルが1枚」
他のモンスターが倒されて出たメダルがたまたまそこにあった。
もしくは侍少女が別のモンスターを倒して手に入れたメダルがそこに落ちただけ。
その可能性は否定しきれないが、逃げずに現実を見るならば、侍少女が亡くなったことでメダルが出現した可能性が高いだろう。
「このメダルはモンスターだけではなく俺たちのようなガチャ人間を倒しても出てくると考えられる。この場合の倒すとは相手を殺害するという意味だ」
殺害という言葉を聞いた2人がビクンと震える。
「問題はなぜこれがメダルという形なのかだ。これは分かりやすく
「貨幣……何かを買えるということですか?」
モリ君はさすが頭が切れる。
俺の説明で今から言いたいことを理解したようだ。
「俺たちは見つけていないが、これで何かを買えるメダルショップ的なものがあるのかもしれない」
「つまり、他人と競ってメダルを集めろ……そういうことですか?」
「そういうことだ。買えるものには、チート能力、金、権力……そして元の世界への帰還。いくらでも釣り餌は考えられる」
俺がたまたまクッキーを出せるので食料には苦労していないが、この何もない遺跡だ。
水や食料などもメダルの景品として存在していてもおかしくはないだろう。
たとえば自分たちが餓死するかもしれないという状況だったとする。
そんな時、目の前にいる相手を殺害して手に入るメダルで食料が買えると分かればどうなるか?
俺やモリ君、エリちゃんは旅立ってまだ半日だが、3日間ずっと飲まず食わずで動いていた召喚者はどういう心境なのか。
「でも、超越者とやらはゴールを目指せとしか」
「その『ゴール』の定義が分からないんだ。俺たちは遺跡の麓の出口と認識して動いているけど、違うかもしれない」
「でも人間同士で争う意味なんて……」
「もちろん、人間同士で戦い合うなんてやりたくないが、敵が一方的に襲ってくる可能性もある。覚悟だけは決めておいた方がいい」
こうは言っているものの、人間同士で殺し合いなんて決してやりたくはない。
忌避感があるので精神的に相当辛いだろう。
相手がスキルをフル活用して反撃してくるとなれば、戦闘力もワイバーンの比ではないはずだ。
もし敵対することがあっても口八丁手八丁でどうにかならないものか?
俺は口が回るタイプではないのだが、それでもなんとかやってみるしかない。
相手も現代の日本で育った日本人ならば、まともな倫理観を持っていると信じるしかない。
頭の中で問答を少し想定してみるが、無理そうだ。
何をどうしても俺が売り言葉に買い言葉で突っかかる、もしくはその逆で拗れる予想しか出来ない。
だが、可能な限り戦いは避けたい。
エリちゃんも直情型ですぐにバレるその場しのぎの嘘を吐くタイプで対人交渉は苦手そうだ。
ここはモリ君を頼るしかないだろう。
「あとオウカちゃんが持っていた短刀。これは遺品として有効活用させてもらおうと思う。今は武器を持っていないモリ君が持つということで良いかな?」
侍少女は懐に短刀を持っていた。
メイン武器として使っていたであろう日本刀はワイバーンに刺さって折れていたので再利用不可だったが、こちらの短刀は傷1つ入っていなかった。
「追い剥ぎみたいでなんかスッキリしないんですけど」
「ヒールと埋葬のお礼で遺品分けしてもらったと思おう。オウカちゃんと同じチームの仲間が他に生きていたら形見として渡しても良い」
モリ君は納得していないようだったが、無理矢理持たせた。
今は手ぶら状態でウロウロされる方が危険だ。
割り切れないものもあるだろうが、今は飲み込んでもらいたい。
「そろそろ行こう。夜になったら暗くて動けなくなりそうだし、それまでに安全に休める場所を探したい」
時計がないので現在時刻は分からないが、だんだんと薄暗くなってきた。
明るいうちに俺たちの思うゴール=麓にあるであろう遺跡の出口にたどり着くのは無理だろう。
どこか安全地帯を確保して夜を明かし、明日の明るいうちにゴールにたどり着きたい。
少なくともワイバーンが現れたという実績があるここに居続けるのは危険すぎる。
「ラビさんは魔法で灯りとか出せないんですか?」
「ちょっとやってみるか。ライト! 光れ! 輝け!
箒を浮遊させる時と同じく、適当な単語を叫んでみるが何も起こらない。
「ダメでした。俺に出せるのはクッキーだけです」
箒は奇跡のようなものだ。
俺は強制的に魔女にされただけで、別に魔法を学んだ魔法使いではない。
そのため、魔法の原理だの使い方だの、そういう知識については何も持っていない。
そういう意味でもコスプレ魔女の域を出ない。
「できるとしたらこれくらい」
スキル1の群鳥を使用して、5羽の鳥を喚び出した。
「これも箒と同じでいいか。
4羽の鳥を消して、1羽だけを箒の先に乗せる。
青い光の粒子で構成された鳥は、淡くだが照明代わりになる。
頼りない明かりではあるが、ないよりはマシだろう。
「ラビさんはあちこち旅行していたって言ってましたけど、こんな感じで暗くなったらどうしてました?」
「あちこち旅をしていたと言っても現代日本だからな。暗い時はコンビニに駆け込んで電池を買ってきて懐中電灯を点けたよ」
高校3年の時に「就職するから免許が必要だ」と嘘をついて在学中に車の免許を取りに行った。
それがきっかけで、友人とあちこち車で貧乏旅するのが趣味になっていた。
その時に、なるべく金を使わなくて済むようにサバイバルに近い知識と経験は身についたと自負はしていたのだが、現状はこれである。
現代日本ならば、ある程度はなんとかなっただろう。
だが、今のようなよく分からない環境に手ぶらに近い状態で投げ込まれて、さあサバイバルだと突然要求されても、出来ることなど何もない。
「火の起こし方とか調べておけば良かったな。いざこんな道具もない状況で出来るのかどうかは知らないけど」
「他のチームの人達はどうしてるんでしょうね」
「俺のクッキーやモリ君の
「どちらにしても水は必要ですね。交渉に使うにしろ、俺たちが飲む分にしろ」
「その通りだ。広場には花が咲いていたから、水源は近くにあるはずなんだ」
ワイバーンがいた広場から少し進むと、またも開けた場所に出た。
どうやら昔の人間の住居らしい建物が並んでいる。
真上を見上げると、空がかなり狭い。
建物が密集して建っているためだが、そのおかげで、ワイバーンの巨体が入ってくることはないだろう。
もし仮に襲ってきたとしても、近くの建物内に避難すれば、攻撃は届かない。
そして、何よりも大きいのは、中心に水が湧き出る人工の泉があったことだ。
泉にはどういう原理なのか、水が絶え間なくこんこんと湧き出して溢れている。
さすがに泉の中の石には水垢などが大量に付着しているが、流水なので水まで腐っているということはなさそうだ。
念のために煮沸はしたいところではあるが、そのための道具はない。
今はそのまま飲むしかないだろう。
「毒は大丈夫ですかね?」
「寄生虫までは分からないけど、毒や重金属が含まれていれば、コケは枯れるだろうし、虫もいない」
水中にいるミミズのような謎の虫を指差すと、モリ君が一瞬で俺の近くから消えた。
「俺は絶対にその水は飲みませんよ」
やや遠巻きからモリ君の声が飛んでくる。
「濾過はするから飲んでね。今はこれしかないんだから」
なにはともあれ、安全地帯として利用できそうだ。
山をかなり降りてきたおかげなのか、それとも建物で冷たい風が遮断されているからか。
この場所はそこまで温度は低くないようで寒くない。
近くには比較的状態の良い廃屋が残っている。
巨大蜘蛛のような虫がいないことさえ確認できれば、休憩場所として利用するには理想的ではないだろうか。
泉の中心には女神像が安置されていた。
基部にはデッサンのおかしな牛と山羊と何かの穀物の彫刻が彫られている。
美術や考古学にそれほど詳しいわけではないが、牛、山羊、穀物……全て食べ物に関連するもので統一されている。
地母神だの豊穣の神だの、そういう類いのものだろう。
「いや、よく見たら牛じゃないぞ」
角が二本生えている動物なので見間違えたが牛ではない。
どちらかと言えば恐竜のトリケラトプスに似ている。
女神像の方も何かがおかしい。
トーガのような服の先から出たつま先には蹄が付いており、台座だけではなく女神の方も山羊が混じっているように見える。
頭には冠のような装飾品を付けているように見えたが、よく見ると山羊の角だ。
黒山羊というよりも悪魔寄りのデザインだ。
ギリシャ神話のサテュロスにしても、その像を女神像としてわざわざ飾るのは何かちょっとおかしい。
「どういう文化なんだこれ? 山羊を崇める文化?」
近付いて女神像を調べようとした時、突然、低い男の声が響き渡った。
「……誰かそこにいるのか?」
声の主は泉の近く、石を削って作られた円柱にもたれかかるようにして片膝で座っていた。
体格が良い男だ。
オウカちゃんと同じような着物姿で、どこからどう見ても日本の侍だ。
長い髪をオールバックにして、余った部分を首の後ろでポニーテールのようにくくっている。
全身には切り傷があり、着物の袖などは破れてボロボロになっていた。
外見のイメージから、織田信長という単語が自然と浮かんでくる。
「あんた1人か? 3人でチームを組んでいるはずだが」
敵である可能性も捨てきれない。
一定の距離は保ったままで声をかけると、男は顔を上げることなく俯いたまま、掠れた声で応えた。
「1人はムカデにやられた。もう1人は薬を探しに行くと飛び出したまま丸一日戻ってこない」
「それは金髪の着物を着た少女で間違いないか? オウカとかいう名前の?」
オウカちゃんの名前を出すと、男は顔を上げて反応した。
「知っているのか?」
「遺品なら回収している」
オウカちゃんの遺体から回収したカードを見せると、男は全てを察したようだった。
「……なんで私はあの時に全力で止めなかったんだ」
男は右手で目頭を押さえたまま再度動きを止めた。
事情はだいたい分かった。
オウカちゃんが何故ワイバーン3体を相手に死闘を演じたのか。
負傷して動けなくなったこの男を護るためだ。
オウカちゃんのカードを握りしめた。
この男は敵ではない。
「ヒールをかけます。良いですよね」
モリ君が男に駆け寄っていった。
もちろん止める理由はない。
◆ ◆ ◆
男はハセベと名乗った。
日本名だったので本名かと思ったが、ハセベさんが出したカードには[ハセベ SR]と記載されていた。
外見のイメージから推測するに、信長が持っていた刀の『
オウカちゃんといい、侍タイプのキャラクターは日本人っぽい名が付いているのだろうか?
お互いに自己紹介とこれまでの経緯を簡単に説明して情報交換を行った。
ハセベさんたち第11チームは最初の部屋を出てしばらく歩いたところ、ムカデの巣の中に紛れ込んでしまったらしい。
あの最初の分岐を左に向かった先の話だろうか?
幸いにも、侍3人で結成されたチームは全員が戦闘能力に長けていた。
ムカデを切って切って切りまくって、なんとか巣からの脱出には成功した。
ただ、無傷というわけにはいかず、1人はムカデから受けた毒が元で亡くなった。
ハセベさんも、毒こそ受けなかったものの、傷が悪化してこの泉がある休憩場所から一歩も動けなくなった。
傷は俺も確認したが、かなり酷かった。
モリ君の
唯一動くことが出来た侍少女のオウカちゃんは、昨日の昼頃に
「傷を治すための薬草を探しに行きます。すぐに戻るので心配しないで」
と告げて単身、遺跡の奥へと走って行き――戻ることはなかった。
オウカちゃんがその後どうなったかは俺たちも知るところだ。
「彼女の遺品は君達が持っていてくれ。私には持つ資格はない」
どうやらハセベさんはオウカちゃんが亡くなった責任を感じているらしい。
ハセベさんも故意に見捨てたわけではない。
仕方なかった部分もあるのだろうが、それでも自分を許せないのだろう。
「いくつか確認したいのですが、他のチームの方の所在をご存じないですか?」
「私は見ていない。この遺跡が広いのは確かだが、それでも50人が歩き回っている。直接会えなくても痕跡くらいは見つけてもおかしくはないのだが」
確かにそこは不自然すぎる。
俺たちが歩いてきた遺跡の通路もあちこちに蜘蛛の巣が張られていたことから、山の頂上から先程の広場までは誰も通っていなかったと考えられる。
ならば他のチームはどこに行ったというのだろうか?
いくら遺跡はかなり大きく広いとはいえ、ここまで人に会わないというのは流石におかしいのではないだろうか?
「この泉を中心に道は4方向に分かれている。1つは私達が通ったムカデの巣に通じる道、1つはオウカ君が走って行って……君達が現れた道だ」
「残る2つはまだ未チェックということですね」
「ああ……残る2つの道を進めば他のチームに合流出来る可能性はある」
薄暗くてわからなかったが、確かに泉を中心に道は4つに分かれていた。
ムカデの巣の方はハズレとしても、それでもまだ選択肢は2つ残っている。
ゴールがあるのも、どちらか片方だ。
明日はそちらから攻めていきたい。
「あと水や食料はどのように調達されていましたか?」
「水は、ムカデの巣を抜けてすぐの場所に、ここと同じような泉があった。他にも同じような場所はあるのだろう」
「食料は?」
「子犬くらいの大きさのトカゲがウロウロしているのを見つけたので捕まえて食べた。一部は干し肉にしてまだ持っている」
ムカデといい俺たちが遭遇した蜘蛛といい、どちらも肉食の動物である。
ということは餌になる生き物はどこかにいるはずだとは考えていた。
トカゲ以外にも何か生物はいるのだろう。
目をこらすと壁の隅には掌に乗るくらいの小さいトカゲが歩いているのが見えた。
そんな小さいトカゲは捕まえたところでどうしようもないが、一応、サバイバルはできる環境ではあるようだ。
「俺たちはゴールを目指していますが、今は頼れる仲間は1人でも欲しいです。同行していただけませんか?」
「誘いは嬉しいが、私は仲間を助けられなかった男だぞ。それでも良いのか? それに若者ばかりの君達に私のような中年が混じっても困るだろう」
「大丈夫です。ラビちゃんも見た目は可愛い女の子ですけど中身はオッサンなんで」
エリちゃんの言葉にハセベさんが目を丸くした。
視線が何度かエリちゃんと俺との間を往復する。
まあ仕方がない。
俺は見た目だけならただの中学生の少女なのだから。
「23歳なんですけど」
「オッサンです」
エリちゃんは親しくなってくれたのは良いんだけど、さすがに親しき仲にも礼儀ありという言葉もある。
そこはお兄さんでお願いします。
高校生からすれば年長者は全部オッサンなのかもしれないが、俺はまだまだ若造だ。
自分で名乗るのはともかくオッサンと連呼されるのは辛い。
「スタート地点で何人かに話をしたが、性別が変わったというのは初めて聞いたな」
そう言われて違和感がある。
50人もいれば性別を変えられた同士が何人かいてもおかしくはないと思うが、本当に俺だけなのだろうか?
隠しているだけではないのだろうか?
ハセベさんは顎に手を当ててハロウィンがどうのと呟きながら、何やら思案している様子だった。
「念のため確認したいのだが、ここへ喚ばれる前に魔法陣の中から今の姿のキャラクターが現れたんだね」
それは間違いない。モリ君とエリちゃんもそう言っていた。
俺も夢? の中でその演出はハッキリと見ている。
「その直前の話についても確認したい。魔法陣からキャラクターが出る前に宝石のようなものが割れるような映像が流れたと思うのだが」
「そうですね。虹色の宝石のようなものがガシャーンと割れてましたね」
モリ君が突然に分からない話を始める。
俺はそんなものは見ていない。
俺が見たのはあくまで暗闇の中で光る魔法陣だけだ。
「神殿みたいなところに呼び出されましたよね。あれってどこだったんだろう」
エリちゃんまで分からない話を始めた。
少なくとも俺は神殿など全く見ていない。
「ラヴィ君はどうだった?」
「何もない暗闇で虹色に光る球体が浮かんでいたと思ったら、急に魔法陣の周りに光が灯って、それが中心に収束して――」
「ラビさん、それはおかしいですよ。魔法陣は光ったりしませんし、虹色の球体も出ません。宝石が割れたらその後に光を出しながら散らばって収まったらキャラが登場でしょ」
やはりおかしい。
ソシャゲのガチャ風演出という点は共通しているのに俺とモリ君達とで何1つ話がかみ合わない。
「やはりそういうことか。君は私たちとは違う『何か』に別の手段で喚ばれている」