大理石の城門を越えてサルナスの町へ鳥の使い魔を潜入させた。
鳥の視点から眼下に広がる町を見下ろす。
町には、湖から引いたであろう水路が蟻の巣のように張り巡らされている。
水路が上水道と下水道を兼ねているようだ。
その水路から次々と槍を持ったぶよぶよした生物が飛び出してきて、人々を襲っている。
粘膜に覆われた柔らかそうな皮膚が全身を覆い。
手足には吸盤がついた二足歩行するトカゲだ。
特徴が爬虫類よりも両生類寄りなので、純粋なトカゲとは言い難い。
どちらかといえばヤモリ……両生類っぽさが強いのでイモリ人間と言った方が正しいのか?
観光客や住民たちは避難のためか、無秩序に動き回っている。
その結果として城門や、町のあちこちで大渋滞を起こしてしまい、誰もが動けない状態だ。
そうして身動きが取れなくなったところをイモリ人間……固有名詞はボクラグだったか?
そいつらに狙われて次々に負傷者を増やしているというのが今の状況だ。
空からだと詳細は不明だが、この分だと重傷者や死者も出ているだろう。
イモリ人間側には昔に酷い目に遭ったことの報復とか事情があるのかもしれないが、一般人を襲った時点でもうただの害獣だ。
江戸の仇を長崎で討たれても困る。
また、イモリ人間とは関係ないところで押し合いをして転倒や喧嘩などを起こしており、そちらでも負傷者を増やしている。
それでいて、町の全域に人が溢れているかというとそうでもない。
人が集まっている場所は限られている。
裏路地などをうまく使えば、速やかな移動が可能だろう。
ただ、住民や兵士たちにそれはできない。
誰も町のリアルタイムの情報を知る術がないからだ。
俺だけが、空から俯瞰して見ることで、どこの通りが塞がっていて、どこにイモリ人間が現れているかを把握できる。
イモリ人間そのものの数は少なく、戦闘能力もそれほど高くなさそうだ。
なのに、人間側が一方的に好き放題やられているのは、多すぎる観光客によって分断されて連携を取れず、各個撃破されているからだろう。
そんな中、元気が良さそうな人物が、屋根の上をぴょんぴょんと飛び跳ねていた。
町の路地を歩いてはすぐに身動きが取れなくなると判断して、屋根伝いにどこかへ向かっているようだ。
肩からは武器らしきものをぶら下げている。
現地人の冒険者だろうか?
一応は、味方になってくれそうな人がいるということが分かった。
もしも合流できたのならば、一緒に敵を倒すのに協力してくれるかもしれない。
しばらく町の上を旋回させていると、傾斜がかなりついた屋根の上で俺の使い魔に向けて手を振っている人影を見つけた。
よく見ると、それはカーターだった。
どうやってあの入場待ちの行列を突破して町の中に入ったのか?
金を持っていなかったはずなのに、なぜ片手に酒瓶を持っているのか?
なぜこちらに手を振りつつ、定期的に酒をラッパ飲みしているのか?
疑問は次々と湧いてくる。
無視しようと思ったが、カーターのすぐ近くには、数名の住人が避難しているのが見えた。
屋根の上までイモリ人間が上がってくることはないという判断なのだろう。
カーターが保護したのならば、よくやったと褒めざるを得ない。
町への出入り口が城門以外にないかを探すと、湖から水を取り入れている水門を見つけた。
どうやら水を引き込むだけではなく、貨物船などを通す関係なのだろう。
城壁にそれなりの大きさの扉が付けられていた。
そこからならば、町の中に出入りできそうだ。
鳥を一度カーターの近くに移動させた。
肩の上へ乗せた後に、嘴で額を軽く小突かせた。
こちらが今から助けに行くという意図も伝わっただろう。
「以上が現在の状況だ。イモリ人間は何かの命令を受けて動いているんじゃなく、無秩序に人間を襲っているように見えた」
「誰かが指示を出しているということはなさそうですね」
「人の意思があるとしたら、この祭りの混乱に乗じての作戦ってところだな」
とにかく、町の中に人が多すぎる。
本来なら避難誘導と戦闘をするはずの兵士たちが、人の壁に分断されて、まともに動けていない。
そのせいで、余計に収拾がつかなくなっている。
必死で応戦している兵士がいると思えば、少し離れた場所に手持ち無沙汰で何もしていない兵士もいる。
決め手は、町外れにある兵士詰め所だ。
武装した兵士が何人も待機しているのだが、全く動く気配がない。
どうやら、指揮系統が全く機能していないようだ。
この世界には無線機のようなものがない。
なので兵士たちに情報を伝達する手段が、誰かを走らせる以外に存在しないのだ。
この祭りの混乱に乗じて事を起こしたというのであれば、敵もそれなりに頭が切れるやつがいる。
「作戦を立てよう。まずは、町にあふれかえっている観光客の避難だ」
「どうやってそれをやるんです?」
「この混乱を収めるには、機能不全を起こしている兵士たちに動いてもらうしかないだろう」
行動の指針をいくつか考えた。
異論がなければ、それを方針として動いていきたい。
「考えたのは、俺の鳥をリアルタイムの情報連携に使ってもらうことだ」
「確かに、今どうなっているのかが分かれば、動きやすいわけですしね」
「空から確認した住民や敵の位置を、兵士の指揮権を持つ人物に伝えれば、スムーズに兵士を動かせる。避難誘導も進むはずだ」
「町のあちこちにいる兵士にはどうやって伝えるんですか?」
「今はそこを細かく考えても仕方がない。まずは指揮権を持つ人に会って交渉した上で、それから使える手札を見て考える」
これを基本方針としたい。
その上で、この案をどう達成していくかを考える必要がある。
「それが大目標ということでいいですね。ではそれを達成するための中目標ですが」
モリ君はすぐに俺の言いたいことを分かってくれたようだ。
話が早くて助かる。
「指揮権を持つ人に接触する。これは領主的な人がいるのか、それとも兵士の詰め所にいる軍の偉い人なのかは分からない。これは町の人に聞いて確認したい」
「町の人ってどうやって聞くんですか?」
「カーターが屋根の上に何人かを避難させていた。なので、まずカーターに合流しつつ、その人たちを助けるついでに情報源としたい」
「中目標はそれで異論はありません。では、どうやってカーターさんに接触するかですが」
「そこで、町への城門以外の入り口、水門を使う」
俺は箒の柄で地面に簡単にサルナスの地図を描く。
現在地、城門、水門、カーターたちが避難している建物。
この4か所の位置関係を示した簡単なものだ。
「水門周辺にはイモリ人間の姿が何体か確認できる。もしかすると、既に水門は占領されているかもしれない」
「水門を解放しろということですか?」
「そういうことだ。単に進入路として使うだけじゃなくて、負傷者の避難ルートとして活用することも考えられる」
水門は町の裏側、湖畔に面した側にある。
城壁伝いに歩いていけば、迷うことはないはずだ。
「みんなには、この水門の解放に向かってもらいたい」
「ということはラビさんは合流しないんですか?」
「俺は空から先にカーターに接触して、建物の周囲の安全確保を済ませようと思う」
水門攻略にはどれくらい時間がかかるか分からない。
カーターがとりあえず住民数人を屋根の上に避難させてはいるが、あまり長時間居座れるような場所ではなかった。
安全確保には早い方がいい。
「空を飛べるのはラビさんだけですし、お願いします」
「ラビちゃんの攻撃で敵を一気にまとめて倒すとかはできないの?」
エリちゃんからは脳筋な質問が飛んできたが、首を横に振って否定した。
「俺の攻撃だと町ごと吹き飛ばして終わるから大惨事だよ。敵だけをピンポイントで攻撃できる器用なスキル持ちなんて俺たちの仲間には――」
俺たちは顔を見合わせた後に、レルム君を見た。
自由に曲げられる誘導ビームならば、人間を避けて、イモリ人間だけを倒してまわることも可能だろう。
特訓の成果が生きる時だ。
だが、さすがに経験が少なすぎる。
レルム君の技術はまだ70%と言ったところだ。
個人の判断に任せると、一般人を誤爆する可能性もある。
誰かが常にそばについて、細かく指示を出してやらないと安定はしない。
レルム君の体力もそれほど高いわけではないので、負荷が大きすぎる。
「僕ならできるんですか?」
レルム君が俺たちの考えていることを察したのかそう言った。
「できる。だけど、途中で倒れられたり、やっぱり無理でしたと言われたら、全員でフォローをしなくちゃいけないから今度はそれがみんなの負荷になる」
「ラビちゃんは過保護すぎるんや」
「そういう話じゃない。ドロシーちゃんだってスキルを1回使うだけならともかく、敵がいなくなるまで何時間も使い続けるなんてできないだろう」
茶々を入れてきたドロシーちゃんを諭しておく。
これは単純な根性論の話ではないからだ。
「話で言うだけなら簡単だろうけど、実際にやるとなると疲労はかなりのものになる。だから嫌なら嫌と言って欲しい」
「でも、僕なら何とかできるんですよね」
「本当に良いのかどうかを考えるんだ。他人に強要されるんじゃなく、自分の意思で考えて決めるんだ」
急に難しいことを要求しているのはこちらも分かっている。
悩むのは仕方がない。
むしろ、これで何も考えずに「やります」と即答されてしまったら、逆にこちらが身構えてしまう。
レルム君は目を閉じて何やら考えている様子だった。
少し経ったところで、決意が固まったようで目を開いた。
「やります。僕にやらせてください」
レルム君は淀みなく言い切った。
迷いは見られない。熟考した上での決断ならば、こちらも反対する理由はない。
「そういうことならば、俺も精いっぱいサポートはする。なるべく負荷はかけないようにしていこう」
「よろしくお願いします」
では決まりだ。
俺はレルム君の手を引いて箒にまたがった。
同時に1羽の鳥をモリ君の肩の上へ乗せる。
「水門を抜けて町に入ったら、その鳥に人がいない路地を案内させる。水門突入作戦の細かな内容は、リーダーのモリ君に任せる」
「任されました」
「町の中に怪我人は大勢いるだろうけど、生命の危機に瀕している重傷者以外へは
モリ君は困ってる人を見ると自分の限界を無視して無理をしがちなので念を押しておく。
もし怪我人続出のこの状況下でモリ君が回復能力が使い放題だと気付かれたら、次々と怪我人が押し寄せてくるだろう。
そうなれば身動きが取れないどころか過労で倒れるまで酷使される。
下手をすると「すぐに治療しなかったので死人が出たのは俺たちのせい」というヘビークレーマーまで出てくるかもしれない。
「それはわかっています。ラビさんもレルムも無理はしないでください」
ならば安心だ。
今のモリ君は以前と違ってちゃんと周りが見えているし、経験も積んで冷静な判断ができるようになっている。
無謀なことはしないはずだ。
「ちゃんとせなあかんよ。ラビちゃんの足を引っ張らんように」
「そのくらい僕だって分かってる」
「……ちゃんと頑張ったら、うちも褒めたるから」
ドロシーちゃんはレルム君にそれだけ言うとプイと顔を背けた。
普段はひねくれ者で何を考えているのか分からない部分も多いが、素直に言葉を伝えられないというわけではないようだ。
「じゃあ行ってくる」
箒を急上昇、急加速して町へ飛び出した。
◆ ◆ ◆
城門を越えて、まずはカーターたちが避難している建物の屋根へと向かう。
俺たちが屋根の上に降りると、カーターが近寄ってきた。
「すまん、遅くなった」
「いや、意外と早く来てくれて助かる」
鞄の中に購入したホットドッグが入ったままになっていたのを思い出したので、カーターに渡した。
あとで他の避難者たちに配ってもらおう。
「今の状況は?」
「かなり悪い。この屋根の上へ避難させた連中は無傷だが、町中が負傷者だらけだ。兵士は何とかしようと動いているみたいだが、観光客に道を分断されてうまく動けていない」
カーターはそう言うとライフル銃を構えて、屋根によじ登ってこようとしていたイモリ人間の頭を吹き飛ばした。
頭を射抜かれたイモリ人間はそのまま地面へと落下していき、べちゃりと音を出して潰れて動かなくなった。
「こんな感じで、屋根の上も完全に安全地帯ってわけじゃない。単体だと弱くても、数が増えてきてオレの処理能力を超えるとどうなるかは分からん」
「状況は把握した。ただ、ここの屋根の上はさすがにバランスが悪すぎるだろう。隣の建物は屋上が平たくて広いスペースになっているから、立て籠もるならそっちに移動したい」
俺は隣の建物の屋上を指差した。
屋上はそれなりに広いスペースで、植木鉢に入った観葉植物や荷物が置かれている。
そこに至る経路はハシゴしかないようなので、全員が避難した後にハシゴを外せば、イモリ人間は壁をよじ登る以外に攻めてくる術がなくなる。
屋根の上に貼り付いているよりは安心だろう。
「それはオレも考えたが、敵が下にウロウロしているからな」
俺は鳥を1羽、空に飛ばして、上空から敵の位置を確認した。
「前の通りに3匹、裏の路地に2匹。他に出歩いている人間はいない。近くにいるこの5匹さえ潰せば隣の建物に避難できそうだ。レルム君、やれるか?」
「はい師匠。やってみます。5匹ですね……僕は直接場所を見ることはできないので、曲げる位置は教えてください」
「ああ、任せろ」
レルム君は大きく深呼吸をした後に、両手を揃えてその先から青白く光る光線を放った。
光線は通りに立っていた1匹のイモリ人間の全身を貫き、更に突き進む。
「そのままだと地面に当たって消える。90度左折した後に直進」
指示通りに光線は曲がり、2匹目のイモリ人間を貫く。
俺の指示通り……いや、俺のナビを聞いたレルム君は、指示通りに光線を曲げる。
最終的に、建物に迫っていた5匹のイモリ人間を貫いた。
光線の直撃を食らったイモリ人間は全身が焼け焦げて絶命していた。
たまに手足がぴくぴくと痙攣しているが、これは強い電気ショックで筋肉が伸縮しているだけだ。
もう起き上がることはないだろう。
「……やった……やりましたよ師匠!」
「よくやった! それでこそ自慢の弟子だ」
弟子と師匠と言うほど特に何も教えてはいないが、まあ良い。
こういうのは雰囲気だ。
見事なお手前にカーターもヒューと口笛を吹いた。
「俺とレルム君はもうしばらくこの屋根の上から攻撃を続けるから、カーターは全員を隣の建物の屋上へ移動するよう誘導を頼む」
「いや、その前にひと仕事ありそうだぞ」
カーターが酒瓶で湖の方を指差すと、湖の真ん中あたりが泡立って、何か巨大なものが出現しようとしているのが見えた。
イモリ軍団の援軍か? それともボス的な巨大な敵か?
「すみません、湖の中から何か大きなものが出てきてるようなんですが、あれは何かご存じですか?」
一応、避難していた町の住民たちに尋ねてみる。
だが、全員何も知らないようだった。
少なくとも町の守護者的なものではないようだが。
「現状のイモリ人間だけでも苦戦しているというのに、あんなデカブツまで追加で暴れられたらもうこの町は終わりだろう」
「もしも守護者的なものなら、倒すのはまずいけど……もしも敵の援軍ならシャレにならないし、先制して仕留めておくべきか」
「どっちに転んでも困るのは分かったけど、どうする?」
少し考えた後に、俺は再度箒に跨り、レルム君に言った。
「あのデカブツを仕留めてすぐに戻ってくる。その間は、カーターの指示を聞いて、隣の建物に避難するんだ。いいな」
「えっ!?
カーターの指示を聞くように言っただけだというのに、レルム君が露骨に嫌な顔をした。
なんでそんなに嫌われているんだ?
何をしたんだよカーターは?
「師匠は付き合う男をもっと考えた方が良いと思います。こいつは悪い奴ですよ。ヒモになりますよ」
「付き合うって何だ? 確かにこいつの生活態度は最悪だし、だらしないし、不潔だし、既にヒモみたいなものだけど、一応仲間だよ」
「全然褒められていないんだけど、なんでオレはこんなにボロクソに言われてんの?」
さすがに言い過ぎだったかもしれない。
だけど、主に普段の素行不良が原因なので、そこまでフォローはできない。
「うん、まあ……敵だと困るし、一応仕留めて戻ってくる」
◆ ◆ ◆
鳥を追加で5羽召喚する。
そのうちの3羽を
箒の先に黒い球体が出現し、レルム君が先ほど仕留めたばかりのイモリ人間の死体が溶けて黒い霧に変わる。
黒い球体を携えたまま湖の縁まで飛んでくると、湖が再度大きく泡立った後に、巨大な蛇の首が鎌首をもたげて湖上に姿を現した。
首だけでも5メートルほどのサイズがある。
「巨大蛇、シーサーペント……いや、湖だからレイクサーペントか」
急にクソ映画のタイトルっぽくなったのは気にしないことにした。
だが、巨大蛇が1匹だけにしては、泡の量が多すぎる。
もっと巨大な何かが出現すると構えていると、すぐ横から2匹目の蛇の頭が出現した。
「2匹……いや、もっとか?」
そうしているうちに、湖の底から鎌首を出してくる蛇はその数をどんどんと増やしていく。
首の本数が5本を超えた時に、ようやくその全貌が明らかになった。
複数の蛇がいたのではない。
蛇の頭の付け根は全て1つの丸く膨れた巨大な胴体に繋がっていた。
蛇の頭は全部で9本……股が8つあるので、これは正真正銘のやまたのおろち……ではない、ヒュドラだ。
「ヒュドラは伝説だと血液に毒があって、凄まじい再生能力もあるんだっけか? つまり、中途半端な攻撃で血を流させるとそれだけでも害があるかもしれない」
出現したヒュドラは湖の中心から町へ向かって泳いで移動している。
その移動途中で何匹ものイモリ人間がヒュドラにスナック感覚で捕食されていた。
ヒュドラはイモリ人間の味方というわけではないのだろうか?
ヒュドラは町の守護神だという説が補強されてしまった。
だからと言って、町へ上陸された後に「実は敵でした」と分かり、被害が出てしまえば後の祭りである。
俺はこいつを……どうすれば良い?
◆ ◆ ◆
カーターは俺が留守中にちゃんと仕事をしてくれていたらしい。
他の住民も含めて、平たい屋根のある建物の屋上に避難を済ませていた。
落ち着くまではここで待っていてもらおう。
「ただいま」
「師匠お帰りなさい、本当に早かったですね」
「10分とか早すぎだろ」
屋根の上の避難先に戻った俺をレルム君とカーターが出迎えてくれた。
「それであの巨大な影の正体は何だった?」
「そんなものはいなかった。いいね」
「いなかったってなんだよ」
「いや、あれが町の守護神的なもので、あとになって何で倒した? とか言われても困るだろ。だからそんなものはいなかった」
「熱線が2回飛んだのは見えたんだけど」
「目の錯覚だ」
ヒュドラなどいなかったのだ。
初撃で跡形もなく吹き飛ばした。
だが、
燃えカスを全て「収穫」で黒い霧に変えて消滅させた。
余った熱線は空に放った。
一片の肉も残していないので、完全に証拠隠滅はできている。
あの場所にはもう何の痕跡も残っていない。
そもそも、ヒュドラなんて通常の方法では瞬殺なんてできない。
なので、現状ヒュドラの姿がない以上、そんなものは最初からいなかったと解釈すべきだ。
俺が何度も「ヒュドラなどいない」と主張すると、レルム君もカーターも何も言わなくなった。
わかってもらえると嬉しい。
「それで戦況は?」
「10分程度じゃ何も動きは変わらん。さっきの屋根の上から、この建物の屋上に移動しただけだよ」
「じゃあ、まずは、水門に向かったモリ君たちを待とう。作戦はそれからだ」