モリ君達がフォルテなる現地人冒険者を連れて合流してくれた。
現地人冒険者達と簡単な自己紹介を済ませた後に作戦会議を開始する。
「疲れているところ悪いんだけど、早速みんなにはやって欲しいことがある」
適当に通りにあった看板から引っ剥がしてきた町の地図を机の上に広げた。
地図が有ると作戦が立てやすいので助かった。
まずは城門からだ。
「一番の問題は城門。町から逃げ出そうとした観光客と住民が出るに出られなくて大渋滞を起こして2時間近く。この行列は全く動いていない」
「かなりの時間が経ってるはずですけど、まだ渋滞してるって何が有ったんです?」
「事故の瞬間を見た訳じゃないけど、馬車2台が玉突き事故を起こした挙げ句、横倒しになって出入り口を完全に塞いでる」
まさか異世界に来てまでお盆の高速道路でたまに発生する事故渋滞を見るとは思わなかった。
ただ、そのせいで完全に出入り口が塞がれて混乱に拍車をかけているのは確かだ。
「何が有ったんですかそれ?」
「分からない。もしかしたら故意に事故を起こして、あえて出入口を塞いだ奴がいるのかもしれない」
「兵士達は何をやってるんですか?」
「イモリ人間が住民を盾に暴れ回っているので何も出来ないようだ。ただ、それを差し引いても妙な行動の遅さみたいなのはある」
混乱の原因はこの町の行政がほとんど動いていないことが原因の気がする。
警備や誘導を適切に行っていれば、ここまで事態は悪化していなかったはずだ。
「なので、モリ君、エリちゃん、タルタロスさんの3人は城門を塞いでいる馬車の撤去と怪我人の治療に当たって欲しい。逃げようとしている人達を町の外へ出せば、事態は少しマシになるはずだ」
「怪我人がいるならば私も赴きましょう。私の治癒能力があれば、助けになれると思います」
レフティという名の法衣を着た男が言った。
治癒能力というのは、回復魔法的なものを使えるのだろうか?
もしそうならば、是非とも支援を頼みたいところだ。
「助かります。うちのモーリスも
これで城門の方は良いだろう。
モリ君達も大変だろうが頑張ってもらいたい。
「次の問題。町の端に兵士詰所みたいな建物が在るんだけど、そこには武装した兵士が集まっているのに、何もせず待機させられている」
「何やってんだそいつら! 町が大変な時に?」
マルスという直情型らしい大柄な男が興奮しながら大声を上げた。
「上からの出撃の命令が来なくて動けないのでは?」
「指示待ちでないと動けねぇのかよ。クソだな」
「兵士達が上の命令を無視して好き勝手に動くようになったら、組織としては終わりなんだよ」
フォルテというリーダーらしい男がマルスを諭している。
直情型と冷静なリーダー。
この二人はセットで動いてもらうのが良さそうだ。
「城門のところのグダグダさといい、指揮命令系統がどこかで潰されているのかもしれない。なので詰所のすぐ近くにある領主の屋敷へ行って状況確認したい。もし屋敷がイモリ人間に占拠されているならば、倒して領主の解放を」
「領主が既に死んでいたら?」
フォルテが真剣な顔で聞いてきた。
最悪の可能性だが、それも考慮に入れて動く必要が有るだろう。
「領主が動かないのではなく、動けないということであれば、最悪の場合、既に命を失っているのかもしれない」
「その場合は、ありのままの事実を詰所の一番偉い人に伝えます。緊急時の指揮権移行の規定はあるはずなので、とにかく兵士達が動けるようにしないと」
「救出もしくは制圧。そして軍関係者との交渉……難しい仕事だが、やりがいはありそうだ」
「偉い奴を助けられたなら、報酬もたっぷり出るだろうな」
こちらはフォルテ、マルス、スーリアの三人が向かうようだ。
よく知らない人達で実力も不明だが、彼らだけに頼って良いのだろうか?
「こちらは道中が観光客で溢れている道を回避しないと現地への到達が困難であるため、私が道案内をします」
この安全地帯の確保も重要だが、流石にこれは俺が行くしかない。
「なら、うちらは?」
「ドロシーはここでカーターと一緒に拠点を守る仕事だよ。みんなが疲れて休憩したり、怪我した人達が避難できる場所を護るのも重要な仕事」
「分かった」
どうやら納得してもらえたようだ。
子供達はあまり危険な場所へ出したくはない。
なるべく安全圏に居てもらおうと思う。
「レルム君はカーターの指示をしっかり聞いて頑張るように。引き続き屋上から敵を狙撃だ。出来るね」
「……はい」
相方がカーターなのは色々と不服なようだが、この任務に関してはレルム君を全面信頼している。
頑張って欲しい。
「では皆さん、作戦を開始してください」
◆ ◆ ◆
フォルテ達と領主の館へ向かうことになった。
なるべく人が少ない道を選んで先へと進む。
これならば移動を阻害されることはない。
時には大通りを堂々と。
時には建物と建物間にある狭い通路を抜けて進路を塞がれることなく進んでいく。
「ところで、君はどうやって詳しく町の状況の把握を?」
「私は使い魔を使って空から町全体を監視をしているんです。こうやって話している今もなお、空から俯瞰した町の映像を送ってくれています。ドローン兼カメラですね」
俺は上空を旋回させている青く光る鳥を指差した。
「ドローン?」
「あ、いえ……ようは偵察能力です」
そうだった。
日本人ばかりを相手にしていて感覚が狂ってくるが現地人には現代地球の話は通じないのだ。
「なるほど、それは頼もしい。出来れば僕達の仲間にスカウトしたいところだが」
「それはちょっと無理ですね」
流石に受ける理由は皆無なので即断る。
フォルテの方もダメ元で言ってみたようで、笑顔で返してきた。
ただの社交辞令で、本気でスカウトするつもりなどないのだろう。
「スーリアも、あんな感じの鳥の使い魔を使えるようになってくれないか? 色々と使い道がありそうだ」
「でも、先週は新しい攻撃魔法を覚えてくれって」
「攻撃は僕達がなんとかするから、魔法でしか出来ないこと覚えて欲しいんだ」
「フォルテがそう言うなら」
フォルテとスーリアが使い魔についてやり取りをしているが、俺に使い方を聞くのだけは止めて欲しい。
俺はスキルの使い方や原理など知らないので、適当な話をして誤魔化さざるを得ないのだから。
「それでここが領主の館だけど」
そうやってようやくたどり着いた領主の館だが中を確認するまでもない。
立派な門は破壊されて、その断面には例のイモリ人間の体表に付いている白濁した臭い液体がこびりついている。
これは既にイモリ人間達の強襲を受けたと解釈して間違いないだろう。
気になるのは屋敷の中から定期的に響いてくる銃の乱射音だ。
ガラガラとリールドラムが回転する音もする。
最初に連想されたのは、あの遺跡のゴール地点にいたSFロボが使用してた機関砲だった。
イモリ人間が特殊な武装を所持しているのか、それとも俺達のような日本人が暴れているのか。
何にせよ警戒だけは怠らない方が良いだろう。
「間違いなく敵の襲撃を受けている。いつ僕達も襲撃を受けるか分からない。十分注意を」
まずは鳥を追加召喚。
1羽を先行して敷地内へと侵入させる。
美しく剪定されたであろう庭は激しく荒らされていた。
メイドらしい中年女性が無残な姿で倒れていたが、首はあらぬ方向を向いており、胴体は今にも千切れそうなくらい執拗に滅多刺しされていた。
これは流石に手の施しようがない。
他にも庭には数名の遺体があった。
どれも服装からしておそらく使用人だろう。
全てが無残な姿を晒していた。
相手が非戦闘員であろうがお構いなし。
知能が低く残虐なのか、それとも人間などただの障害物としか見なしていないのか。
そして、館の玄関口には右手に剣を持った男が両膝をついたままの状態で事切れていた。
先程のメイドと同じで滅多突きにされた上に、首から上は切断して何処かへと持ち去られている。
服装などの身なりはかなり良いので、もしかしたらこの男が領主なのかもしれない。
周辺には4体のイモリ人間が倒れていた。
状況からして、扉の前にいる男がある程度は倒したものの、そこで力尽きたのだろう。
屋敷の扉は門と同じように破壊されていた。
館の外には今のところ動いているイモリ人間はいない。
使い魔を手元に戻す時間が勿体ないので、遠隔
「ひでぇことをしやがる」
直情型のマルスが拳を手に打ち付けて怒りを露わにした。
「屋敷の外にはイモリも生存者もいないので警戒は不要です。ただ、屋内までは確認していません」
「では急ごう。時間が遅れたらそれだけで助けられない人が増えるかもしれない」
フォルテを先頭に俺達は破壊された門から中へと侵入する。
無残に殺害された遺体の横を通りすぎて屋内の中へと向かう。
今は弔う時間的の余裕などない。
「外の連中は衝動のまま暴れてるだけなのに、ここだけは計画的に狙われているんだな」
「戦力を集中させた上での一斉攻撃……明らかに傾向が違う」
フォルテに俺の考えを伝える。
「外で暴れている連中はわざと目立つ暴れ方で陽動でもしているのかと邪推するな」
「もしかしたら途中ルートに観光客が溢れかえって道を塞いでいるのも計画のうちかもしれません」
「だとしたら、ヤツらの中に余程頭の良い奴がいるんだろうな」
マルスはイモリ人間の中に頭の良いリーダーがいると考えているようだ。
ただ俺はそれとは違っていると思っている。
馬車を横転させて城門を潰したり、わざわざ人が増える祭りの日を狙って仕掛けたりと、町の事情に通じている奴の犯行……人間が関与していると思った方が自然だ。
まあ、犯人探しは後だ。
屋内はやはり酷く荒らされていた。
ただ、2Fへ上がるための階段の踊り場には高価そうな机や椅子、クローゼットなどが積み上げられている。
それで時間を稼ぐことが出来たおかげだろう。
2Fからはまだ足音や、何か金属で木を叩いているような音がする。
襲撃は継続中だが、この状況だとまだ助けられる見込みはある。
もちろん、あまり悠長にしていられる時間はないだろうが。
「僕達は2階へ上がる。ラヴィさんはその間に1階の調査を使い魔で」
「もうやっています」
フォルテの指示を待つまでもなく使い魔を飛ばした。
その間にフォルテ達は踊り場に積み上げられたバリケードを乗り越えて2Fへと進んでいく。
間に合ってくれると良いのだが。
調理室……不在。
使用人の控室……生存者なし。
トイレ……人は不在。
おそらくここの館の主人の部屋……不在。
応接室らしき場所……生存者なし。
広いホールのような場所……そこには1人の少女がいた。
薄手のオリーブ色のシャツとズボン、アサルトジャケットにアサルトブーツというミリタリーファッション。
手元には巨大なガトリングガン。
こんな近代的な装備の人間が異世界人だとは思えない。
完全に日本人……俺達の仲間だろう。
その少女が虚ろな目をして項垂れて力なく座り込んでいる。
俺は少女がいたホールへと向かうことにする。
壁面に巨大な穴がいくつも開いており、激しい戦闘があったことが一目で分かった。
少女が持っているガトリングガンで蜂の巣にされたであろうイモリ人間の死体……もはや残骸の数は6体。
状況からして彼女が1人で倒したのだろう。
相当強力な能力持ちだ。
「大丈夫ですか、しっかりしてください」
俺は呆然とした顔で座り込んでいる彼女に近づくが、放心していて何の反応も示さない。
「日本人の方ですよね」
「間に合わなかった……私がもっと早く動けていれば……」
彼女の視線の先には幼い子供と母親の遺体があった。
どちらも虚ろな目をしたままピクリとも動かない。
母親が子供を庇ったが一緒に刺殺されたのだろう。
身なりは良いので、ここの領主の夫人かもしれない。
恐らくこの少女は敵を追ってこの館の中へ侵入したが、この母子の遺体を見てしまい心が折れたようだ。
このショックの受け方からすると、丁度母子の殺害現場に
哀れみの気持ちは有るが母子の遺体を弔うのは後だ。
「あなたが奮戦したお陰で二階の部屋へはまだ敵が到達していません。今ならばまだ助けられる人がいるかもしれません」
俺は少女に手を差し伸べた。
ここで必要なのは慰めではなく、再度立ち上がるための強い動機だ。
「手伝ってください。2階を解放して、要救助者を確保します」
「2階?」
少女は力なく答えた。
「そうです。あなたがイモリ人間をここへ引き付けて倒したからこそ、おそらく2階はまだ無事です」
「そっちにまだ助けられる人がいるかも?」
「はい。だから立って。あなたの力が頼りです」
俺がそう説明すると目に少しだが光が戻ってきた。
敵が侵入している可能性は0ではないが、いまは希望が必要だ。
「そういうことなら」
少女はよろよろと力なく立ち上がった。
「ごめん……助けられなくて」
少女は母子の遺体へ頭を下げた。
出来ればすぐに二階へ駆けつけたいのだが、流石に母子の遺体をそのままで行くのは躊躇われた。
「きちんと弔っている時間はないんだけど、これくらいのタイムロスは良いだろう」
俺は親子の遺体へ近づき、2人の目を閉じさせて、両手を胸の前で合掌させた。
この世界の宗教はよく分からないが、手を合わせて拝んでおく。
「この世界の宗教的にそれで良いの?」
「哀悼の気持ちに宗教の違いはないでしょう」
「なるほど」
少女の方は十字を切った後に指を組んで祈りを捧げていた。
「では行きましょう。2Fにまだ助けられる人がいるかもしれません」
◆ ◆ ◆
階段に積まれたバリケードの前まで来ると2Fから剣戟の音が響いてきた。
どうやらフォルテ達が戦闘を始めたのだろう。
ガトリングガンを抱えた少女はいとも簡単にバリケードを乗り越えて2Fへ上がっていった。
こちらはまともに身体能力で乗り越えることは無理なので少しだけ箒に捕まって乗り越える。
2Fは廊下が左右に延びていた。
廊下の左側ではスーリアの援護を受けながらフォルテがイモリ人間と交戦していた。
数は3体。
フォルテは剣で3体からの攻撃を流れるような動きで受け流しながしつつ、牽制を入れて敵をその場に足止め。
その隙にスーリアが杖の先から放つ光の矢でイモリ人間を攻撃という戦法を取っている。
フォルテの表情には余裕があり、危なげなところが一切ない。
こちらは助太刀に入らなくても大丈夫そうだ。
そして廊下の右側。
こちらはマルスが1人で4体のイモリ人間相手に奮戦していた。
フォルテ達と違ってこちらの状況はかなり悪い。
マルスの斧は大きすぎて屋内で振り回すには邪魔なようだ。
勢い良く振り回して慣性で威力を上乗せするスタイルと狭い廊下の相性が悪すぎる。
その上でイモリの数も多く、マルスもかすっただけだろうが何発か小傷を受けている。
助けに入るならばこちらだ。
「大きな人どいて! 射線を通せない!」
「そうは言ってもよ!」
少女がガトリングガンを構えるが、そのままではマルスが邪魔で攻撃を行えないようだった。
「ならば
マルスの前に盾を形成して、イモリ人間の突撃を防いだ。
この廊下の幅と天井の高さでは盾を乗り越えてこちらへ来ることは出来ないはずだ。
「一度下がってください。範囲攻撃で掃討します」
「助かる」
こちらの意図を察したのかマルスが下がり入れ替わりに少女が前に出たので攻撃タイミングを合わせることにする。
「3秒カウントで盾を解除するのでそのタイミングで攻撃を」
「了」
声に出してカウントダウンを始める。
3、2、1
「オペレーション1」
少女が静かに言うと、ガトリングガンから伸びるように青白く光りを放つ半透明の弾帯が出現した。
俺が盾を解除して鳥が散開したと同時にガトリングガン先端の砲塔が自動で高速回転。
無数の光の弾が前方へ5秒ほど連射され、真正面に居たイモリ人間3体をただの肉片へと変えた。
かなり強力なスキルだ。
5秒で全弾を撃ち尽くすので、スキル再使用が可能になるまでは隙だらけになりそうだが、そこはスキル2やスキル3を駆使して乗り切る、もしくは仲間と連携するのだろう。
少女が息をついたと同時に地面に伏せて弾丸の雨を避けたイモリ人間の1体が少女へ飛びかかった……が、すかさず飛び込んだマルスが斧を縦に振るい一撃で仕留めた。
面目躍如というところだろう。
「ありがと」
「いいってことよ」
通路の反対側を見ると、フォルテ達の方も敵を全て倒したようだ。
敵を全て倒して室内に呼びかけると、中から数人が顔を出した。
剣を持った高校生くらいの少年。あり合わせなのか燭台を抱えた年配の使用人が2人。そして10歳くらいの男女の子供。
合計5人。
急に屋内へ俺達のような見知らぬ人間が押しかけてきたので警戒をしているようだ。
だが、廊下に倒れているイモリ人間の死骸を見て、少なくとも敵ではないとは理解してもらえたようだ。
「良かった……無事な人もいたんだね」
「あなたが階下でイモリ人間と戦ったお陰で助かった生命です」
そう励ますと少女は初めて微笑んだ。
俺達が解放した右側の通路に面した部屋の中も確認してみたが、こちらはどの部屋にも誰もいなかった。
遺体もなしだ。
「生存者はどうする?」
「近くの兵士詰所へ連れて行って保護してもらいましょう。領主が既に亡くなっているという事情を伝えれば待機中の兵士も動くはずです」