収穫祭の魔女   作:れいてんし

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Chapter 24 「馬車」

 カーターは避難民達と一緒に「祝勝会だ!」と酒を飲んで酔い潰れていた。

 

 まあいつもの話なので、ドロシーだけを連れていくことにした。

 

 全員を司令官に用意していただいた兵舎のベッドへ投げ込むと、やはり疲れていたのかレフティさん以外みんなすぐに眠ってしまった。

 

「レフティさんは休まれなくても大丈夫ですか?」

「私はまだ仕事がありますので」

 

 そう言うと俺に向けてかざした手から白い光が発せられた。

 

 暖かいその光を浴びると、少し元気になった気がする。

 

「回復魔法です。傷の回復だけではなく疲労回復にも若干ですが効果があります。これを全員にかけていきます」

「ありがとうございます。私達の仲間までお世話をおかけいたします」

「いえいえ、一緒に戦った仲間ですから」

 

 本当に感謝しかない。

 本当にこの旅は良い人達の出会いに恵まれていて助かる。

 

「あなたも無理はしないように」

「レフティさんも早めに休んでくださいね」

 

 頭を下げて礼を言った後に箒を抱えて建物を出ると、空がわずかに明るんできていた。

 もう夜明けが近いようだ。

 

 ただ、これでイモリ人間どもの動きを追いやすくなる。

 

 鳥の使い魔を呼び出して空から再度町中を舐め回すように見る。

 

 兵士達はまだ捜索を続けているが、やはり見当たらないようだ。

 

 湖の方を見ると、水中にそれらしき魚影が泳いでいるのは見える。

 追いかけてみると、町とは対岸方向にある何十ヘクタールもありそうな広大な葦の群生地に消えていったので、その周辺に拠点はあるのだろう。

 

「追いかけて魔女の呪いを叩き込むかは悩みどころだな」

 

 ヒュドラの時は水面へ熱線を撃ち込むと湖底まで余裕で貫通したので、水に潜ろうが倒せることに間違いはない。

 ただ、それで倒せるイモリは数匹だけで全滅にはほど遠い。

 

 何発も撃ち続ければ全滅は出来るだろうが、明らかに自然破壊の方が大きい。

 

「まあ、町中から消えただけでも良しとするか」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 翌日昼。

 全員がのろのろと起き出してきたので、開いているレストランに飛び込んで祝勝会を行うことになった。

 

 俺達7人。

 フォルテ達4人。

 

 合計14人のささやかながらの打ち上げパーティーだ。

 ……あれ?

 

「お姉ちゃん、お邪魔してまーす!」

「すみません、エヴァが来るって言いだして」

 

 いつの間にか朝食の席にアデレイト、エヴァニア、ジュウベイの3人も混じっていた。

 

「トカゲの討伐成功に乾杯!」

「かんぱーい!」

 

 本当にみんな突発的な事態だというのによく頑張った。

 額面は分からないが、イモリ人間討伐の一応報酬も出るらしいし結果オーライだ。

 

「それでこの後、みんなはどうするんだ?」

 

 フォルテがそう尋ねてきた。

 

「一応ボクラグ達の再襲撃に備えて2、3日は町に滞在予定です。モリ君もそれで良いよな」

「俺は異論ないです」

「私達も今更あのオジサンのところに戻る気ないし、それでいいよ」

 

 モリ君やアデレイド達もしばらくは滞在ということで良いようだ。

 いつまでも滞在は無理だが、少なくとも2日くらいは様子を見ておきたい。

 

「僕達も何日かはこの町で小銭を稼いでいくことにするよ。久々にまとまった額の報酬を貰えそうだし、当分は生きていけそうだ」

 

 フォルテから妙に生々しい話が聞こえてきた。

 

「久々? そんなに依頼がなかったんですか?」

「この2年ほどモンスターがとことん出なくなっただろう。討伐依頼を受けてみたは良いものの、砂漠の暑さで勝手に干からびていたとかそんなのばっかり。おかげで貯金は減る一方」

「この2年か……」

「地元でモンスター狩りをしているだけだと、さすがに生活が厳しくなってきたので、それで仕事が有りそうな町へ移動してきたんだ」

 

 そういえばタラリオンが突然メキシコの砂漠に出現したのも3年ほど前という話だった。

 

 やはりその時期に何かがあって、このアメリカ大陸に色々な町や人が強制的に集められたのだろう。

 

 モンスターが少ないというのは、気候変動の影響をもろに受けたからか?

 アメリカ大陸中央部の砂漠地帯は生物が生きていくには過酷すぎるのだろう。

 

「俺達は北西にあるサンディエゴという町を目指しているんだけど」

「サンディエゴ? いや、僕達は北から来たんだけど、そんな町の名前は聞いたことないな」

「もしかしたら別の名前が使われているかも。サンディエゴはあくまで地球……ローカルの呼び名なので」

 

 俺がモリ君のフォローへ入ることにした。

 

「大陸の西にある割と大きな港町です。ご存知ないですか?」

「何か特徴みたいなのは? それだけだと絞り込みが難しい」

「魔女と呼ばれる女性が町を管理しているらしいです」

 

 今のところ俺達が知っているサンディエゴの情報は度会(わたらい)知事の昔の知り合いの魔女が住んでいるということくらいだ。

 ただ、単に固有名称を言うだけよりも話は通じやすいと思う。

 

「それならば噂は聞いたことがあるよ。あれだろう、西の魔女」

「悪い西の魔女が町を支配しているって噂だろ。それなら俺も聞いたことあるぜ」

 

 フォルテの話にマルスも乗ってきた。

 

 悪い魔女なのはともかく、魔女が支配している町という状況としては合っている。

 

 いや、今の「悪い西の魔女」という言い方は何かが引っかかる。

 

「同じ魔法使いとしては、魔女と呼ばれる人がどんな魔法使いなのかは気になるところ」

 

 スーリアがボソリと呟いた。

 

「まあ、僕も噂以上のことは知らないんだけどね。西方面は小さな集落がポツポツとあるくらいで街道も延びていないから人の往来もなくて全然情報が入ってこないし」

 

 つまり、ここからはまた道なき道を進む砂漠旅が再開なのか。

 さらば、楽だった街道沿いの旅。

 

「もし良かったら一緒にセレファイスまで旅をと思ったんだけど、そんなに重要なのかい? サンディエゴへの用事ってのは?」

「セレファイスまで!?」

 

 確かに前にパタムンカさんが言っていた記憶がある。

 メリダの町から交易船が繋がったとかそういう話だった。

 

「ああ、そうだ。セレファイス。最大の町と言う話を聞いて向かっているんだが」

「セレファイスなら私達が最近までいたけど、ここからは無茶苦茶遠いんじゃないかな?」

 

 アデレイトがフォルテに言った。

 

「どこにあるんですか、セレファイスって」

「地球で言うとあれじゃない……ニューヨーク」

「ニューヨーク!?」

 

 またとんでもなく遠い場所だ。

 

 ニューヨークのあるマンハッタン島があるのはアメリカ東海岸でもかなり北の方だ。

 

 アメリカ西海岸近くのメキシコからだと雑に見積もっても5000kmはあるだろう。

 

「でもよくそんなところから来たな」

「あたしらはワープで飛んできたからね」

 

 なるほど、それは何の参考にもならない。

 

「一応、この街道の先にフラニスという港町があるので、そこで船賃と時間について聞くつもりなんだが」

「船賃って結構高いからな」

「分かります。私達も結構船賃を取られるのが嫌で、トウモロコシ粉の貨物船に乗り合いとかさせてもらったので」

 

 気持ちは分かる。

 

 金儲けのために大きな町へ行こうとしているのに、その町への交通費で金を使い果たすならば意味はないだろう。

 

 参考になればと1ヶ月の船旅で1人あたり12万円、食事代は別という金額を提示された話をすると、マルスが悩ましそうな顔で唸り始めた。

 どこの世界でもお金の問題は色々と難しい話のようだ。

 

「私達もサンディエゴへ行くこと自体が用事ですので」

「そういう事情があるなら仕方ないな。でも、そちらは小さい子供もいるだろう。長距離の旅は大変じゃないか」

 

 フォルテはピザをムシャムシャと無言で食べているレルム君とドロシーを見ながら言った。

 

 「何か良い方法はないですかね」

 

 実際、徒歩の旅だとレルム君とドロシーの子供二人がネックになる。

 俺は最悪は箒で飛べるが、子供達の体力を考えるとどうしても移動速度は落ちる。

 

 実際問題として、この子供2人が加入してからは1日あたりの移動距離が10kmは減っている。

 以前のように海路があれば楽にはなるのだが。

 

「ちょっと値は張るけど、いっそ馬車を買ってみるというのは? 僕達は手持ちが怪しいので手は出せそうにないんだけど」

「馬車か」

 

 このサルナスの町に来る以前はトリケラトプスが引いていたり、蒸気エンジンで勝手に走り回っていたりと変則球ばかり見ていたので「馬」が考慮から抜けていたのは事実だ。

 

「でもお高いんでしょう?」

「うん、高い。僕達も荷物置き場兼寝床になるので前から欲しいとは思っているんだけど、懐具合がね」

 

 フォルテは服のポケットを持ち上げてそう言った。

 

 かくいう俺達も今のところは若干余裕があるとはいえ、それほど裕福なわけではない。

 

 それほど長く使うわけではない(予定)なので、安い中古品でも有れば良いのだが。

 

「エリス、あの城門のところに有った馬車ってどうなったんだっけ? もしあれを捨てるのならば、俺達が貰えないかなって?」

 

 それを聞いていたモリ君が手で堤を叩くようにして言った。

 

「あれなら、私とタルタロスさんで起こして門の脇のところへ寄せておいたんだけど、その後どうなったかは知らない。あっ、馬はもういなかったよ」

「いやいや、流石にもう馬車の持ち主が取りに来ているだろう。ボクラグ騒ぎも一段落したんだし」

「なら、一応見に行ってみます?」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 俺達は朝食を終えて城門へ見に行くと、兵士達がハンマーやノコギリを持って馬車を解体しようとしていたところだった。

 

 怪我人の治療をしていたモリ君の顔は覚えられていたようで、兵士達がすぐに駆け寄ってきた。

 

「復旧状況を見に寄ってみたいんですけど、その馬車って壊すんですか?」

「その予定です。どうも馬車の持ち主は馬に乗って町の外へ逃げちゃったみたいで連絡が取れないんです。なので、もう邪魔なので撤去せよと命令が出て」

 

 撤去して解体ということは、もしかして俺達が貰っても良いのではないだろうか?

 

 今まで乗り気ではなかったが、タダで手に入るとなれば急に気になってきた。

 

「その馬車を俺達が欲しいと言ったら譲っていただけたりしないでしょうか?」

「それは自分達ではなく、上に確認して欲しいです。流石に現場の人間だけでは判断できないので。それに、こんなの欲しいんですか? 壊れてますよ」

「もう馬車として使えないと?」

「馬車としてはまだまだ使えると思いますけど、これって金持ち用の馬車なんですよ。だから、装飾とか窓みたいな高い部品が壊れると価値も激減するし修理費用も高額になるので」

 

 地面へに貼り付くようにして馬車の下を覗き込むと、素人目には2台とも車軸や車輪などの動力系は無事に見える。

 

 外装は兵士達が言うように派手に転倒したせいでボロボロではあるが、俺達のような旅人からすれば装飾品が壊れて少々見た目が悪くなったから何だという話だ。

 

「こちらで許可を取りに行ってきますので、解体はもう少し待っていただけませんか?」

「日没までには片付けるように言われてるので、早めに頼みますよ」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 結局馬車を買ってしまった。

 

 俺達が町の防衛に助力したと認められたので、比較的簡単に申請は通った。

 

 ただ、無料で引き渡しというのは問題があるということだったので、馬車を解体して処分したという想定でその撤去費用という形で金を渡すことになった。

 

 要するに解体業者である俺達に資材として売り払ったという形だ。

 そうすれば、後で馬車の持ち主が現れて「やっぱり返せ」と言ってきたとしても「もう解体して薪にしましたが何か?」で返すことが出来る。

 あと腐れがないのでこれが良いだろう。

 

「中古の馬車が日本円換算で5万。これまた軍用馬から引退した馬を1頭30万のところ、2頭50万に値引きして貰った。これに補修費用と馬具やら各種器具を付けて68万!」

「思い切った買い物でしたね」

「交通費って人数が増えるとバカにならないから、馬車ならずっと使える分だけ、必要経費みたいなものだよ」

 

 値段といいサイズといい、日本で中古の軽ワゴン車を買った感覚だ。

 だが、これから移動距離を延ばせて日々の食事代を削れるならばトレードオフというところだ。

 

 今は一応、馬車の職人に本当に車軸やブレーキなどの動力系に異常がないかどうかを見てもらっている。

 大きな問題はなさそうだが、これからまだ何百キロと旅をするのだから、これは必要経費だ。

 

「いいな。他の町で買うよりも圧倒的に安いし僕達も欲しかった」

「諦めるなよ。これからドカンと稼いで買えば済む話じゃねえか」

「そうだな……そうだよな」

 

 フォルテ達も馬車を買いたかったようだが、船賃との兼ね合いもあって予算の折り合いがつかなかったようだ。

 

 流石に俺達もポンと貸せるほど資金に余裕があるわけではないので、ここは諦めて貰うしかない。

 

「ラビちゃん、ドアとか壊れたままなんだけど。窓も歪んじゃってるせいで開け閉め出来ないし」

「この飾りも壊れてる」

 

 エリちゃんとドロシーの2人は外装がボロボロの馬車に若干不満なようだ。

 

 流石にシンデレラの馬車というわけにはいかない。

 

 俺は魔女と言ってもただのコスプレ魔女だ。

 魔法の杖をひとふりでカボチャの馬車が現れるというわけにはいかないのだ。

 

「全部直すにはお金と時間がね……」

「それは分かってるんだけど、ちょっとボロくて恥ずかしいかなって」

 

 2人から次々と要求が飛んでくる。

 走る機能には影響しない部分なので別に良いだろうと判断したが、やはり修理しないといけないようだ。

 

 いっそ幌馬車にしようかとも思ったが、今度はその幌やそれを支える支柱がお高い。

 流石に予算的に厳しい。

 

「予算の関係で動力周りしか直してないから、外装は暇を見て補修していこう。モリ君、DIYの経験は?」

「中学の時に授業で卓上の本棚は作ったことあるんですけど、電動ドリルなんかの工具は当然ないんですよね」

「道具は金槌、ノコギリ、釘しかないな」

 

 授業で作ったとなると工作セットを組み上げただけの可能性が高い。

 流石にそれはプラモくらいの難易度なので参考にならない。

 

 まあ、モリ君は横浜出身のハマっ子なので生活の中で触れる機会も少なかったのだろう。仕方がない。

 

「タルタロスさんはどうですか? やっていそうな雰囲気は有りますけど」

「残念ながら」

「オレは将来、ログハウスの別荘を欲しいと思っている!」

 

 別に聞いてもいないのカーターがドヤ顔でどうでもいい話を始めた。

 

 将来の話など聞いていない。

 現在の経験の話を聞いているのだ。

 

「それで現状作ったものは?」

「昼飯を食べた後に割り箸を捨てずに取っておいてログハウスの模型を組んだ」

「うんうん、そういう工作は好きだぞ。それでDIYの経験は?」

「……やったことはない」

 

 正直でよろしい。

 

 わかったことは男性陣の経験は0ということだけだ。

 

「男連中の誰かが、本棚とか犬小屋なんかを作った経験があると思ってたんだけど、誰も経験者はいないのか」

「ラビちゃんはどうなの?」

「俺も友人の自宅で植木鉢を置く棚を廃材で作ったくらいなので、ないよりマシかなってくらい」

 

 まあホムセンで電動工具を借りてくれば誰でも普通に出来る作業だ。大したことはない。

 同じことをノコギリとトンカチでやれと言われたら到底無理だが。

 

「その友人さんってあの友人さん? ラビちゃんが会ったら親に殺されるとか言ってなかった?」

「去年の話だけど話してみたら普通に良い人だったよ。寿司も出してくれたしあいつが誇張しすぎなんだよ」

「……何を話したの?」

「今の勤め先とか年収とか」

 

 それを聞いたエリちゃんは腕組みをしながら言った。

 

「それって娘の嫁ぎ先として値踏みされてただけだよ。親に囲まれてるんだから、もう諦めて早く結婚して」

 

 だから友人とはそういう関係ではないというのに。

 

「それでエリちゃんはどう?」

「私も犬小屋なら作ったことが有るんだけど、すぐにわんちゃんに振り回されてバラバラにされたし馬車の修理は流石に無理かな」

 

 エリちゃんが犬小屋を作ったと言ったときは頼れそうだと思ったが、流石にすぐにバラバラになる耐久度ならばダメだ。

 これは全員素人と考えた方が良いだろう。

 

「ところでそのわんちゃんってチワワか何か?」

「土佐犬」

「それ少々頑丈に作っても壊されるやつじゃ」

 

 もしかしたらエリちゃんは意外と大工仕事が出来るのかもしれない。

 

「女子2人が経験者と」

「その言い方止めろ」

 

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