収穫祭の魔女   作:れいてんし

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Chapter 9 「魔女の呪い」

 俺が全く違う手法で喚ばれたことだけは分かった。

 

 だが話はそこで終わりだ。

 

 4人でいくつか推論を上げてはみたが、それを証明する方法もなければ情報も圧倒的に足りていない。

 

 話を続けても、仮説に仮説を積み上げる不毛な作業にしかならない。

 

「そう考えると(ハロウィン)も怪しいよな。他に限定キャラとかいないだろう」

 

 俺の疑問を聞いたモリくんとハセベさんは同じように目を閉じて何やら悩み始める。

 

「あんまり話したくないんですけど、ラビさんはハロウィンですよね」

 

 ハロウィンに嘘偽り誇張はないのだが、言葉だけ見ると意味不明すぎる。

 まるで俺が年中「ハロウィン」と言っている変な人にしか聞こえなくなってくる。

 

(水着)(かっこみずぎ)の人がいたんですよ。ビキニ水着にパーカー、麦藁帽に浮き輪というリゾート4点セットの人が観光地近くの住宅地に迷い込んできたような空気を全く読めていなさそうな感じで」

「うわぁ……」

 

 いたたまれなさすぎて思わず声が出た。

 

 俺は(ハロウィン)を見た時には何かのギャグかと思ったが、(水着)はそれとは比べものにならないほどかなりキツい。

 想像するだけで辛い。

 

 水着を着せられて「夏休みだよ!クッキーをどうぞ」とやらせられるとか羞恥プレイにも程がある。

 

 いや水着だとクッキーじゃないな。夏っぽいイメージだと――

 

 胸に「らび」と書かれたゼッケンを付けたスクール水着を着て

 

「海です夏です。ミルクバーをどうぞ?」

 

 と何かある度にアイスを渡してくるラヴィの姿が脳内再生された。

 

 オイオイ死ぬわ。

 羞恥心が炸裂して死ぬわ。

 

 そう考えると、そこまで恥ずかしくないスタンダード魔女スタイルで喚んでくれたことにはついては感謝しかない。

 

 いや感謝などなかった。

 

 人の体を女に変えて喚ぶな。

 そもそも同意なく異世界へ喚ぶなという話だ。

 

「その水着の人は『見ないでください』と言って恥ずかしがって困っていそうだったので、俺が助けに入ろうとしたら」

 

 モリ君は本当に困っている人を見ると助けに入らないと気が済まないんだな。

 そういうところは本当に好感が持てる。

 

「上半身は軍服のような服を着ているのに、下はパンツ丸出しという変な人が『水着の何が悪い!』と水着の人を庇うように出てきて――」

「そんなことがあったの!?」

 

 だが、その痴女……もとい、軍人さんの言いたいことは分かる。

 

 パンツじゃないから恥ずかしくないとかどんな理屈だ。

 下半身露出の変態に比べたら水着の何が悪い。

 

「いや違うぞ少年君」

 

 ハセベさんが会話に割り込んできた。

 

「下半身はレオタード丸出しだ。レオタードの上に軍服の上着だけを着込んでいたんだ。エグい食い込みだった。あと軍服の胸元もボタンも閉じずあえて広げたままで谷間が見えるデザインだったのもすごい。本当にすごい。すごかった。良いものを観られた」

 

 想定以上にヤバい女だった。

 

 そして、真顔でとんでもないことを早口で熱く語るハセベさんにも驚きだ。

 

 胸元の説明に至っては語彙が完全に喪失してしまい「すごい」しか言っていない。

 

 ハセベさんは真面目な武人さんのイメージがあったが、もしや中身は実は面白いオッサンなのかもしれない。

 

 更には軍服の隙間から見えるパンツとレオタードの違いやら、食い込みやら、どれだけガン見していたのかというくらいに語り始めて、何故かモリ君もそれに興味を示している。

 

 君も所詮は男か。

 

 エリちゃんはハセベさんの説明に完全にドン引きしている。

 俺もドン引きである。

 

 なぜそこまで細かく他人の胸を観る必要があるのか?

 おっぱいなどただの脂肪ではないのか?

 

 サイズの大小がなんだというのだ。

 貧乳はステータスだ。希少価値だという故事成語もあるだろうに。

 

「その人に続いて、今度はファーの付いた黒いレザーコートを着たビジュアル系ロックバンドっぽい服装の男がシルバーのアクセサリーをジャラジャラ鳴らしながら出てきて『そうだ水着の何が悪い』と同調を始めて」

 

 何それ無茶苦茶見たかった。

 

 誰か録画撮ってないの?

 なんで俺はその時に喚ばれてないの?

 

「その三人は何か分かり合うものがあったのか、グッと握手をした後に手を取り合って扉の向こうへ消えていきました。第二チームです」

「何の罰ゲームなの?」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 気になることは山ほどあるが、翌日からの散策を行うために早めの休憩を取ることにした。

 

 近くの廃屋は比較的良い状態で残っていたので、ここを掃除して夜明けを待つのが良さそうだということになった。

 

 中は広く、荒れてはいないものの、人がいなくなって放置されていた期間が長いのかほぼ全てのものが朽ちて使えそうなものはなかった。

 

「水とそれを入れる水筒。あとモリ君の武器も探さないとな」

 

 食料は最悪の場合、俺の無限クッキーがあるから良いとしてもだ。

 これからゴールまでどれくらいかかるか分からない以上は、水の補給は必須になる。

 

 ちょうど水が湧く泉があるのだから、ここで補給はしていきたいところだ。

 

「カバンも欲しいかな」

 

 アニメやゲームだと持ち物はアイテムボックスなり無限カバンなりで重さやサイズの制限なく物を持ち運び完全に手ぶら状態で歩いているが、この世界にそんな便利なものはない。

 

「俺達が呼ばれてすぐの最初の30分くらいは凄かったですよ。大勢の人がステータスオープン! とかメニューオープン! とかアイテムボックス出ろ! とか叫んでいて」

 

 確かに俺達は、何かのゲームが元ネタであろうキャラクターの姿に変えられてゲームっぽい世界に連れてこられて、ゲームの再現のようなことをさせられているが、システム周りに関しては全くゲームのシステムは再現されていない。

 

 ヘルプも出なければ説明アナウンスも流れない。

 

 ガチャの結果に関しては、カードという形で支給されてはいるものの、カード自体には何の効果もなく名刺以上の役割を持っていない。

 

 おそらくレベルや経験値といったものもないのだろう。

 

 それにしても第二チーム結成といい、なんでそんな楽しそうなイベントに呼んでくれなかったんだと憤慨する。

 

 俺も「ステータスオープン」と叫んでみたいものだ。

 まあ何も出ないのだが、もしかしたらということもある。

 

「そんなアホなことやってたの?」

 

 小声で「ステータスオープン!」と言いかけたところ、エリちゃんが呆れたような表情で「アホなこと」と言ったのを聞いてしまったので止めた。

 出ないと分かっていてやるのは確かに馬鹿馬鹿しい。

 

「俺はやってない。少しでも情報収集しないといけないと思って他の人達と話し合っていたから」

 

 モリ君は本当に真面目だ。

 本当に君が仲間になってくれて良かったよ。

 

「こちらにはまだ使えそうな物が残っていたぞ」

 

 ハセベさんの声がする方に行くと、どうやらその部屋は元々倉庫として使用されていたようだった。

 

 山の上の小屋や先ほどの部屋とは違い、廃屋の倉庫は比較的保存状態が良かったようだ。

 かなりの品が原型を留めているので、まだまだ使えるものがありそうだ。

 

 ハセベさんが早速、木箱だった残骸の中から、まだ使えそうな鉄鍋や皿を何枚か取り出していた。

 

 水筒代わりに使えそうな水差しもある。

 

 水差しはくすんではいるが色や艶からして銀製だろう。磨けば綺麗になりそうだ。

 銀は鉄よりも錆や劣化に強いからこそ、今まで放置されても朽ちずに残っていたのだろう。

 

「栓は木を削って今から作る。全く漏れないということはないだろうが、ないよりはマシなはずだ」

「この鉄の棒はモリ君の武器に使えそうじゃないですか?」

 

 エリちゃんが倉庫の奥に立てかけられた棒状の何かを引っ張り出してきた。

 

 布のようなものが巻き付いていた痕跡が残っているので、元は旗の軸だったのだろうか?

 

 棒を受け取ったモリ君は持ち上げたりバトンのようにクルクルと回し始める。

 

 モリ君の武器だという槍は、最初の部屋から脱出しようと無茶に使いすぎたせいで、曲がっていて使い物にならなくなっていた。

 

 

 そのために実際に槍を振り回しているのは初めて見るが、なかなか堂にいったものである。

 

「槍として使うにはちょっと長すぎるし重すぎるかな」

「なら斬るか。希望の長さを教えて欲しい」

 

 ハセベさんが鞘に入ったままの刀を腰のあたりで構える。

 

「半分くらいに出来ますか?」

「了解した……斬るぞ」

 

 刀の鍔から青白い光が立ち上っている。何かのスキルだろうか。

 

 ハセベさんは淀みない動作で抜刀して金属棒に刀を叩き付ける。

 

 金属同士がぶつかり合ったというのに、どういう原理かは分からないが、何の音や振動も発生しなかった。

 

 ハセベさんが刀を鞘に収めるキンという鍔鳴りの音が響いた。。

 

「切れ目をつけておいたからあとは少し力を入れたら折れる」

 

 それを聞いたモリ君が棒を掴んで両手で捻ると、刀が当たったところを境に綺麗に真っ二つになった。

 

 見事な切れ味だ。

 スキルは刀で何かを切断するためのものなのだろうか?

 

「同じ効果スキルを同時に重ねることで威力を増すことが出来る。相乗効果で二連続で使った時以上に格段に増すようだ」

 

 ハセベさんの口から全く知らない情報が出てきた。

 

 俺は確認のためにモリ君とエリちゃんの方を見るが無言で頭をブンブンと横に振っていた。

 

 このスキルの重ね合わせは二人にとっても完全に初耳の情報らしい。

 

「おそらく同系統の能力があるならば重ね掛けが可能。君達の中だとエリス君」

「は、はい」

 

 ハセベさんが急にエリちゃんの名前を出す。

 

「2つのスキルを『同じ場所』『同じタイミング』で発動できないだろうか」

「右手と左手の同時に出したりは出来ますけど同じ場所に出したことないですね。ちょっと練習してみます」

「俺は能力が被っていないから無理かな」

 

 確かにモリ君は槍の強化、壁、回復である。

 

 効果や発動範囲も全てが被っていないので重ねがけを出来そうなところがない。

 

「スキルが頼りにならない分は努力でカバーしますよ」

「いや、君の回復や防御のスキルは今のままでも十分仲間の助けになる。その力を使って仲間を守ってやってくれ」

「ハセベさんも今は仲間ですよ」

「そうか」

 

 ハセベさんはそれを聞いて黙ってしまった。

 

 ただ、NGワードというわけではなさそうだ。

 モリ君が仲間と言ったことを喜んでくれているように見える。

 

 モリ君のこういうまっすぐなところについては信頼できる。本当に性根が良いのだろう。

 そういうところはひねくれ者の俺と全然違うので頼りにしたい。

 

 それはそうとスキルの重ね合わせについては気になる。

 

 俺のスキルは

 

 自由に操れる鳥。

 どこからともなく出てくるクッキー。

 ビーム。

 

 何かが引っかかる。

 

 鳥とビームは同じ攻撃魔法という特徴が被っているので、効果については被せられそうなイメージはある。

 

 自由に操ることを出来るオプションが、ビーム砲の先に集まってバレルの形になって巨大なビーム砲を発射するというのはアニメなどでは定番の演出である。

 

 同じことが出来ないかダメ元で試してみる価値はあるかもしれない。

 

「俺もちょっとスキルの練習をしてきて良いかな」

「あまり離れるとモンスターが出るかもしれないからなるべく近くでやってくださいよ。あと何かあればすぐに声を出すようにしてください」

「わかった」

 

 そう言って俺は遺跡の奥の方まで駆けだしていく。

 

 危険なのは分かっているが、せっかくの安全地帯で使うには抵抗がある。

 全力で能力を使うには、あのワイバーンの遺体が放置されている広場が良いだろう。

 

   ◆ ◆ ◆

 

「それでラビちゃんはどこに?」

「ごめん、わからない」

「ちょっと探してくる」

 

 エリスは駆けだそうとするが、その手をハセベが掴んだ。

 

「君一人で行かせると二重遭難になる可能性がある。行くならば三人一緒だ」

 

 ハセベがオウカを一人で行かせてしまった結果を知っているだけに、エリスにはハセベの手を振りほどくことは出来なかった。

 

「変なところがあるとは言え、あの人は意外と良識のある人です。たった一人で無謀なことはしないはずです」

 

 モーリスも口では平静さを装っているが、顔はその不安を隠すことが出来ずに青ざめていた。

 

 その時、遺跡の奥の方から低く響く轟音と振動が伝わってきた。

 やや遅れて何かが焼け焦げたような異臭を含む熱風がモーリスのいる廃屋にまで流れ込んできた。

 

「この風、例のワイバーンがいた広場の方から吹いてきてますよ」

「ラヴィさんのこともある。三人で様子を見に行こう」

 

   ◆ ◆ ◆

 

 結論から言おう。

 スキルは俺の予想をはるかに超える形で発動した。

 

 射線上にあった岩を削って作られた柱、遺跡の岸壁、石畳は綺麗に円形に抉られていた。

 抉られた岩やレンガは赤熱、一部が融解してガラス状に変質していた。

 

 溶解どころではない。岩が蒸発していた。

 最低でも核反応級の高温が発生したことになる。

 

 草が生えていたはずの空間は黒い土がむき出しになっていた。

 近くに生えていた木は跡形もなく消滅している。

 

 ――誰もここまでやれとは言っていない。

 

 スキルを途中で止めようとしたが、それは敵わなかった。

 

 ペタンと力なく座り込む。

 

「ああ、女の子座りって女にしか出来ないんだっけ?」

 

 箒を投げ出して大の字に寝転がり、右手を見る。

 

 俺の全身には入れ墨のような紋様が浮かび上がっていた。

 

 幾何学的な紋様にはSFに出てくる電子回路のような光の線が走り、紋様全体が虹色の淡い光を放っている。

 

 月明かりと俺の体から放たれた光が反射して、ガラス化した岩が虹色に不気味に輝いていた。

 

「男がどうの、女がどうのじゃないだろ……俺は一体何に変えられたんだよ」

 

 決まっている。

 魔女だ。

 悪魔と契約して魔法と呪いを撒き散らす災いの象徴。

 

「魔女が撒き散らす呪い……必殺技の名前としてはちょうど良いな」

 

「《魔女の呪い》」

 

 自嘲するように言う。

 しばらく手の甲に浮かぶ紋様から放たれている光を見ていると、やがて紋様は光と共に薄れ、消えていった。

 元通り、少女の小さな手があるだけである。

 

 いや、元通りって何だよ。

 何もかも「元」じゃねえよ。

 ちゃんと「元」に戻せよ。

 

 光が消えたことで、逆光のために今までは見えなかった満天の星空が指の隙間から見える。

 地球とは全く違う星の配列――

 

 ああ、やっぱりここは別の世界なんだな。

 涙が流れる。

 

 これはスキルだの、合成での、強化とかだの、同時発動だの、強力すぎるだの――

 そんな簡単な言葉で片付けて良いレベルじゃない。

 

 明らかに異常な何かが起こっている。

 俺は一体何なんだ?

 

 日が落ちた遺跡のこんなところで寝ているのは危険だと分かっているが、起きる気力が湧いてこない。

 

「ちょっと凄い必殺技を思いつきましたくらいで済ませてくれよ。呪われてんのかよ」

 

 《やっとわかったの? 魔女は存在そのものが呪いなんだよ》

 

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