収穫祭の魔女   作:れいてんし

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Chapter 3 「夢の魔女ヨランダ」

 ネイティブアメリカン達の砂漠の村から2日。

 

 ずっと乾燥した砂と短い草とサボテンばかりの殺風景な地形が続いていたが、ここに来てようやく湿気を含んだ土の場所が現れ始めた。

 

 遠くには黄色い屋根の民家が立ち並んでいるのが見えた。

 そして、民家の間から、時折巨大な塔が伸びており、遠目にはまるで現代の高層ビルが立ち並ぶ大都市のようにも見える。

 

 あれが地球で言うところのサンディエゴ……ウィンキーの町か。

 

 オズの魔法使いでは、黄色い服を着たウィンキー族という民族が暮らす国だったはずだが、今のところ、黄色い要素は屋根の色くらいだろうか。

 

「ラビさん、地球のサンディエゴってどんな町なんですか?」

「別に俺は人間辞書じゃないから、元メキシコ領でアメリカ西海岸の大きな町というくらいしか知らないよ。それに、もしもアメリカ西海岸に行ける旅券が手に入ってもロス、サンフランシスコ、ラスベガスを周るコースの方に行ってこっちには来ないだろうし」

「ええ……」

 

 そうは言っても興味がないものは仕方がない。

 

 今回も日本に戻る情報を持っている人物が住んでいるという話がなければ来ることはなかっただろう。

 

「まあ、地球のサンディエゴと位置は同じでも全然違う町みたいだし、良いんじゃないかな」

 

 城門をくぐって町の中へ中へと入っていく。

 

 町はタラリオンと似たような感じだった。

 

 欧州、アジア、中東、世界あちこちの街並みの一部をランダムに切り取って適当に並べたような、まるで統一感のない建物が無秩序に立ち並んでいる。

 

 道も曲がりくねっており、まともな都市計画もなく、各々が好き放題に建てたように見える。

 

 歩いている民族も、どこからやって来たのか分からないほど多種多様だ。

 白人、黒人、南米系、アジア系、アラブ系……。

 

 地元民で純アメリカ人であるナイックさんの方が浮いているくらいだ。

 

 むしろ現在のアメリカらしいと言えなくもないのか。

 

「魔女がおられるのはあの塔です」

 

 ナイックさんが指差す先には、他の建物と比べてもひときわ高い尖塔が建っていた。

 やはりこういうところもタラリオンにそっくりだ。

 

「東京タワーよりは高そうなので、500mくらいでしょうか」

「なんでこんな高い塔を建てたんだろうな。土地は余りまくってるし電波塔が必要ってわけでもなさそうだし」

「タウンティンと通信しているのでは? 知事とやり取りしてるって言ってましたよね」

「さすがにペルーとアメリカは衛星で電波を中継しないと無理じゃないかな。地球は丸いから直進する電波じゃそのままだと届かない」

 

 何にせよ、ようやく魔女に会うことが出来る。

 

 これで日本に戻るための情報が手に入るはずなのだ。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 まずはナイックさんが定期報告を行うということなので、その際に度会(わたらい)知事からの紹介状を渡してもらうように頼んだ。

 

 待つこと30分。

 ナイックさんが塔から出てきた。

 

「魔女がお会いになるとのことです。ただし、会うのは紹介状に記載されている3名だけと」

「つまり、俺、モリ君、エリちゃんの3人」

 

 さすがにそれは仕方ない。

 

 後から加入したレルム君、タルタロスさん、ドロシーの名前が書かれていたら驚きだし、運営サイドということが伝わっているカーターの名前が漏れているのも当然といえば当然だ。

 

「空白の部分にあぶり出しで名前が浮かび上がってくるとかもなし?」

「あったらびっくりするな。そんなことをやる意味が分からなくて」

 

 流石にあの捻くれ者の知事でもそんな愉快なことはやらないだろう。

 

「それで、塔の上に行くにはエレベーター的なものが?」

「いえ、魔女は一階の執務室におられます」

 

 ナイックさんが指差した先には、塔の入口部分に後付けで付けたであろう簡素な木造の小屋のようなものがあった。

 

 暑いからなのか、小屋の窓が全開されており、たまにチラチラと女性らしき影が室内を動いているのが見える。

 あれが魔女なのだろうか?

 

 塔の一番上に住んでいるというイメージがあっただけに、何か拍子抜けするものがある。

 

「うん……まあ……上の方まで移動するの面倒だもんな」

「タワマンのエレベーターが止まって、高層階に住んでる人が必死で階段を昇り降りしてるニュースを見ましたけど、危機回避という点ではありなのでは?」

「偉い人がそれでいいのかな?」

 

 なんというか、質実剛健にした結果こうなったのだろうが、何か騙されている気がする。

 

「ちょっと時間は分からないので、適当に食事でも摂って待っていてください。終わったら合流します」

 

 俺はタルタロスさんに金貨と銀貨を渡すとカーターが手を伸ばしてきた。

 

「オレにもお小遣いください」

「お前に渡すと全部酒に変えるだろ。普通のレストランに行け」

「でも、この暑い中で冷たい酒をグッと行きたいだろ」

「それは夕食の後にしろ。まだ昼だ」

 

 カーターはまだごね続けていたが、空気を読んだタルタロスさんが服の襟を掴んで引っ張って行ってくれた。

 

 子供達がタルタロスさんの後を追いかける。

 

「ペルーを旅立ってから3ヶ月。ようやく長かった旅の終着点だ」

「終着点って割りにはあっさりしていますけどね」

「見た目は終着点というか、田舎の電車の終着駅というか」

 

 見た目がプレハブ小屋なのでいまいち達成感は薄いが、仕方がない。

 

 俺は帽子を脱いでローブの汚れを払った後に事務所の扉をノックした。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 事務所の奥には書類の山を持って立っている妙齢の女性がいた。

 

 黒いレディースのフォーマルスーツに眼鏡。

 黒髪をアシンメトリーに分けている。

 

 仕事が出来る会社員といった風体であり、魔女のイメージは皆無だ。

 

 知事と同じ年齢なら60代後半から70代のはずだが、目の前にいるのは20代。

 多めに見積もったとしても、せいぜい30代前半。

 本人ではなく、魔女の娘なのだろうか?

 

 俺達がどう反応して良いのか困っていると、女性から声をかけてきた。

 

「お前達か、瑞穂(みずほ)の知り合いの日本人というのは? まあそこに立っていても落ち着かないし、適当に座ってくれ」

「はい、失礼いたします」

「いや、余計なビジネスマナーとかいいから適当に座ってくれ。ここは日本じゃないんだ」

 

 女性はそう言うと部屋の隅に置かれていた粗末な木の椅子を2脚抱えて俺達の前に置いた。

 

 元々椅子は1脚あったので3人が座るスペースは確保された。

 

「はい、ここに座る!」

「は、はい」

 

 俺達は女性の指示通りに椅子へ腰かけた。

 

「高校生が2人に中学生が1人。よくまあこんなところまでよく来たな。タウンティンでじっとしている方が楽だっただろうに。連絡してくれりゃ迎えに行ったんだけどな。まあ5年後くらいだが」

「5年は流石に……」

「そうか、まあゆっくりしてくれ。ただ、この事務所に来客用のお茶は用意してないから、いつまで経っても出てこないのでそのつもりで。飲み物が欲しいなら、ここを出てちょっと行ったところにコーヒー店があるからそこで買ってきてくれ」

 

 女性はそう言うと机の上に置いていたタンブラーを手にとって見せた。

 

 デザインは日本にもある有名コーヒーチェーン店のものにそっくりだ。

 

「私のお勧めはキャラメルラテだ。甘みと香ばしさのバランスが良い」

「そんなメニューを出す店があるんですかこの世界に?」

「チェーンではなくこの町のオリジナルコーヒー店。地球の味を再現させようと思ったけど、こういうのは(しげる)とか瑞穂とかの得意分野で私には向いてなかった。そもそも、コーヒー豆が手に入らなかったから、コーヒーと言ってるのは全部麦茶。なので実はコーヒー店じゃないんだけどな」

 

 女性は妙に早口でまくし立てた後にハハハと豪快に笑い始めた。

 

 コーヒーのような麦茶ということは、イタリアのオルヅォに近いものなのだろうか?

 

「もしかしてオルヅォ?」

「なんだよオルヅォって? 麦茶だよ麦茶! 大麦を炒って水で炊きだしたやつ。わずか1年で日本のトレンドって変わった? 日本の学生は、もうお婆ちゃんが大量生産した麦茶を飲まないのか?」

 

 女性はそう言うとタンブラーに口を付けて中のコーヒー(?)を飲んだが、眉をしかめた。

 

「ぬるいな。出てこい氷」

 

 女性がそう言うと、何もない空中からタンブラーへと氷が降り注いで中を満たした。

 

 満たすだけではなく氷はタンブラーから盛大に溢れ出して床へゴロゴロと転がっていく。

 

「量の調整は何度やってもうまくいかんな」

 

 あらゆる意味でおかしい。

 

 この女性は何者なのか?

 

 もし50年前の人間だとして、何故当然のようにコーヒーチェーン店を知っているのか?

 

 そして「わずか1年で日本のトレンドが変わった」とはどういう意味なのか?

 

「そうそう、申し遅れたな。私は伊原周子(いはらしゅうこ)。キャラクターネームはヨランダ R。西の魔女ってやつだ。そちらは上戸(うえと)小森(こもり)赤土(あかつち)の3人で間違いないかい?」

「はい。私が上戸で、こちらが小森と赤土です」

「よろしい。メンバーに過不足なし。それでは本題に入ろう」

 

 伊原は急に真面目な表情になった。

 

「まず私が何者かについてだ。私は過去に5回のランクアップを行っている。その度に召喚時の年齢に巻き戻るので、見た目は若いが実年齢は67歳。子供でも孫でもなく本人であることを伝えておく」

「ランクアップは1回だけでは?」

「誰がそんなことを決めた? ランクアップは既定のメダリオンさえ集めれば何回でも行える。もしかしたら回数の上限はあるかもしれないが、勿体ないので確認は出来ていない」

 

 もしその話が本当ならば、伊原が知事の旧友ということで間違いはないのだろう。

 

 ただ、そのランクアップシステムだとおかしいことになる。

 

「もしランクアップを何回も出来て、その都度強化されるのならば、高レアリティよりランクアップしやすい低レアリティの方が強い……強くなるということになりませんか?」

「そうだよ。おそらく運営は私達同士の殺し合いを進めるために、わざと穴のある設定にしてある。モンスターを狩るよりも、人間同士で殺し合った方が強くなれるシステムだ」

 

 伊原は露骨に顔をしかめた。

 

 気持ちは分かる。

 俺も運営の露悪的なところには怒りを隠せない。

 

 モンスターを倒した時のドロップがショボいことや、人間同士で殺し合った方がメダルが入手しやすいこと、ランクアップ時の能力向上が流石に高すぎるという点には以前から気付いていた。

 

 流石に複数回ランクアップには気付かなかったが。

 

 伊原の話が全て真実ならば、本当にモンスターなど無視して人間を狩りまくった方が効率は良くなる。

 

 特にSRのメダルはランクアップに必須なのに人数が少ないので、必然的に奪い合いになるだろう。

 

「続いて、私が召喚された年代についてだ。私がこの世界にやって来てから50年が経つが、日本に居た頃の元号は令和だ」

「えっ?」

「君達のおそらく同じ年、もしくは半年前になるのか? 君達は何月に召喚された?」

「俺……私は10月30日。こちらの2人は10月27日です」

 

 召喚されたのはハロウィンの日。それは間違いない。

 

 何しろ俺の存在、ラヴィ(ハロウィン)そのものがハロウィンであると証明している。

 

「え? 何故、召喚日が違う? 一斉に喚ばれるはずじゃないのか?」

「それは説明すると長くなりますが……」

「いやいい。それは後でじっくり聞こう。私達は4月。新学期が始まってすぐなので、同じ年のほぼ半年前に召喚されている」

 

 違和感は知事と話していた時にもあったので、予感はあった。

 

 バイオエタノールやら、LEDやら、50年前の人間にしては流石に詳しすぎるとは思っていたが、現在の人間だったのか。

 

 俺達の元になっているキャラがソシャゲなことについても説明できた。

 

 召喚されたのが50年前ではなく半年前ならば、ソシャゲのキャラを再現することも出来るだろう。

 

「このことに気付いたのはこの300年間の召喚者について調べていた時だ。残っている記録のほぼ全ての召喚者が、生まれは平成と語っていた。まあ、平成が300年くらい続いているパラレルワールドの日本が存在していれば、この推論は崩壊するのだが」

 

 さすがにそんなオーマジオウが支配していそうなデコボコした平成世界など実在しないだろう。多分。

 

「ここまでは全て前提の話だ。それでは本題、日本へ戻るための話をしよう」

 

 ついに来た。

 

 俺達はこの話を聞くために3か月かけてここまでやって来たのだ。

 

 伊原が口を開いたその時、事務所を激しい衝撃が襲った。

 

(シールド)!」

「プロテクション!」

 

 間髪入れずに放った俺とモリ君の防御系スキルが外から襲い来る破壊された壁の残骸と水流を受け止めた。

 

 水流……やはりこの攻撃はドロシーなのか?

 

「大丈夫ですか?」

「無論」

 

 伊原が腕を払うと、プロテクションの壁が防いでいた水流が一瞬のうちに消滅した。

 

「さて、私を襲うような命知らずはどこのどいつだ?」

「危ないです。ここは一度下がってください」

「私に命令するな」

 

 伊原が歩みを進めていく先には、ドロシーが両手を構えてスキルを放ったポーズのまま立っていた。

 

 やはりドロシーは何者か……おそらく運営に操られて、西の魔女を倒すために送り込まれた刺客だったのか。

 

「そんな、ドロシーちゃん……なんで?」

「何をやってるんだドロシー!」

 

 モリ君とエリちゃんが声をかけるが、ドロシーは無反応だ。

 何やら奇妙な言葉をブツブツと呟いている。

 

 レルム君やタルタロスさんが初めて俺達の前に姿を現した時のことが脳裏に浮かんだ。

 

「ドロシー? なるほど、それは私に対する嫌味か嫌がらせか……運営も酷いことをする」

 

 伊原が両手を絡ませるように組んで、指をポキポキと鳴らしながらドロシーに近付いていく。

 

「待ってくれ、その子は俺達の仲間なんだ!」

「今は操られているだけだから、待って!」

「いや待たない。私は自分に危害を加えてきた相手は誰であろうと容赦はしない」

 

 モリ君とエリちゃんの2人は伊原に向けて叫ぶが、伊原は全く歩みを止める様子はなくドロシーへ近付いていく。

 

 俺はすかさず鳥を召喚し、伊原の足を止めるために最大速度で飛行させて目の前に落とした。

 

「君も私に敵対するつもりか?」

「そうじゃない! 周りを見ろ!」

 

 右側には見知らぬ4人の男女。

 

 そして左側には……全身鎧を付けた剣を持った戦士と弓を持った男が立っていた。

 

 弓を持った方は見覚えがないが、戦士の方は忘れるわけもない。

 

 あの最初の地母神の遺跡で俺達を襲ってきた襲撃者の一人、エリちゃんを行動不能にして致命傷を負う原因になったあの戦士。

 

 俺が塵一つ残さず焼き払ったはずの奴が、そこに立っていた。

 

「こいつはまた……私1人を殺すために随分と大盤振る舞いじゃないか」

 

 何がなんだか分からない。

 

 何故死人が生き返ってきて、こんなところで武装して現れたのか?

 

 だが、ドロシーが操られているのならば、何とか元に戻さないといけない。

 

「多勢に無勢です。ここは一度撤退を!」

 

 まずは伊原を何とか引かせないといけない。

 

 どのくらいの力を持っているのかは不明だが、まだ日本に戻るための方法を聞けていない。

 

 だから、ここで傷つけられるわけにも、傷つけさせるわけにもいかない。

 

「多勢? 違うね、こういうのは烏合の衆と言うんだ」

 

 伊原はそういうと、右側に立っていた4人の方へと凄まじい速度で跳躍した。

 

 それを迎え撃とうとしたのか、1人の男が剣を抜いて身構えるが、伊原は素手でその剣と掴むと、割りばしを折るかのように簡単にへし折った。

 

「オイオイ、私はただの魔法使いだぞ。それに剣士が負けてどうする」

 

 男は叫んで背を向けて逃げ出そうとしたところ、伊原が手を振るうと、男は瞬く間に消え去った。

 

 どういうスキルを使用しているのか見当もつかない。

 

 ただ、間違いないのは、伊原が途轍もない力を持っているという事実だけだ。

 

「君達も、どうやらこのゲームを開催している運営も勘違いしているようだが、今の世界最強は5回のランクアップを繰り返したこの私……夢の魔女ヨランダだ」

 

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