アミリオンの視覚データから分かった内容は幾つかある。
・出会いはストリートで赤牙組に追われたニコが路地裏で猫又と遭遇したこと。
・猫又が依頼した内容は家族の形見を取り戻すこと。ただし、形見は赤牙組の拠点内にあり。
・赤牙組とは何度もぶつかっていたため、拠点の位置などは把握している。
・偶然にもその拠点全てがホロウに巻き込まれており、組の人手不足もありモノはあまり運び出されていない。
・ニコは一応調査の件は忘れていなかったこと(形見の価値が大変高価だというところで釣られたわけではなかったと安心)。
・赤牙組はボスがいなくなったことで瓦解しかけていること。
・その赤牙組のボスを邪兎屋が倒したということで猫又にとっては『恩人』という扱いらしいこと。
・最後の拠点が「デッドエンドホロウ」内にあると聞き、ニコは警戒するも結局中に入ったこと。
・ニコとビリーとの仲は良好だが、アンビーとは不仲の様子。
「……とまぁ、こんな感じでござろうな」
「うん、まぁ大体こんな感じだろうね」
「なんというか、入った理由もニコらしくて安心したよね〜」
映像を一通り見た3人はそれぞれの反応を見せ、もう一人猫又はというと……。
「うぅ……猫を被ってる自分を見るのが、こんなに恥ずかしいなんて……!」
「えっ、あの「にゃ」は演技だったのでござるか?」
「えっ!?い、いやいや!?ネコのシリオンはみんなこんな感じだ……にゃあ~」
猫を被っている自分の姿に赤面して恥ずかしがっており、剱がそれに意外そうに聞くと猫又は慌てて取り繕うように誤魔化す。
「うん、まぁ状況は大体分かったよ。あんたは今日、ニコたちと赤牙組の拠点を探しに、「デッドエンドホロウ」に向かったんだね」
「そう!それから色々あって……とにかくニコたちは今、爆破エリアにいる!」
モニターが映像からFairyに変わり、新たな情報を持ってきた。
『マスター。ただいまニュースチャンネルにて、今回の依頼に関連しているとみられる情報が放送されています。お見逃しなく』
『速報です!生中継でお送りいたします。──まもなく、ヴィジョンの最後の輸送列車が出発し、「デッドエンドホロウ」へと入ります!情報によると、この無人列車は自動運転モードで走行し、爆破解体に使う最後の爆薬を目的地まで輸送するとのことです。列車が到着し次第、現場の監視拠点に控えているパールマンさん自らが指示を出し、爆破解体が実施される予定です。パールマンさんは、爆破解体の準備が整ったことを確認してから技術スタッフと共に現場から撤収、市街地の本部に戻るようです……』
Fairyがもたらした情報は、もうすぐ爆破解体が行われるという悪い情報であった。それを聞いた猫又は顔を青ざめていた。
「まずい!最後の列車がもう発車しちゃう!視覚記録の続きを観てる暇はないぞ!何とかして爆発を阻止しないと!ニコが埋立地の灰になっちゃう……!」
「でも、どうやって?みんなの前で列車を止めたりなんかしたら、その場で治安局に捕まるのがオチだよ」
「それなら、事態を通報するのが一番だけど……ニコたちがホロウレイダーをやってることもバレる……」
「……ならばいっそ、目も手も届かない場所で止めるのはどうでござろう?」
「?どういうことにゃ?」
『賛同。助手2号の提案を推奨します』
「Fairy、それはどういうことだい?」
アキラはFairyの言葉に首を傾げる。Fairyは続けて音声を発する。
『解説。助手2号の提案は、一般人や警備のない場所──ホロウの中での列車を止める、といった内容のことです』
「そっか!外から直接ホロウの中の様子は探知できないんだから、捕まる心配もないぞ!」
「うん……今から「デッドエンドホロウ」に潜入して、列車が必ず通る道を阻むことができれば……確かに理論上は可能だね」
「Fairy、列車の位置をリアルタイムで把握できる?」
『可能。目標車までの安全なルートを計算しています』
Fairyの言葉を聞き、4人は顔を見合わせ、今後の行動の計画についてまとめる。
「オッケー、今回は緊急事態だし、「デッドエンドホロウ」の中で列車を止める方法を探そ!」
「んにゃ!」
その後、「デッドエンドホロウ」の中に入った剱たち3人。
『もしもし、剱、リンも猫又も聞こえてる?』
「おぉ、すごい……!直接ホロウの中と通信できるプロキシなんて初めてだぞ。どうりで、ニコが新エリー都最強のプロキシって言うわけだ!」
『褒めてくれてありがとう。今から列車を止めるための計画を始めるよ。行動する前に、まずは要点をおさらいしよう』
「大丈夫、ちゃんと頭に入ってる。あたしたちの目標は、爆薬を積んだヴィジョンの無人列車……自動運転だから、線路を切り替えさえすればトンネルを通るように仕向けられるぞ!」
「そして、列車がトンネルに入って減速し始めたら、拙者がその隙にボンプを列車の上に投げる……」
『それから、列車を故障させるんだよね?』
上から順に、猫又、剱、リンで行動のおさらいをする。
『あぁ。リンは列車のメンテナンスハッチから内部に潜入して、運転室で列車を止めるんだ。僕とFairyがサポートするから、安心していっておいで。それと、デッドエンドブッチャーの具体的な位置は不明のままだ。くれぐれも身長に行動するんだよ』
「りょーかい!」
「分かったでござる」
『さて、行動開始だ。グッドラック!』
行動を開始し、小型のエーテリアスの群れに遭遇するも、猫又の俊敏な動きと剱の巧みな刀捌きで難なく突破し、一行は既に廃棄され奇妙な角度で横たわった車両の前にたどり着いた。
「ん?この電車は一体……プロキシ、あたしたち道を間違えてない?」
「猫又殿、それはないと思うでござる。この車両、見たところ外側からの力で破壊されている。おおかた、ファールバウティあたりが投げたのでござろう」
『それか……デッドエンドブッチャー、か』
「うにゃっ!?恐ろしい馬鹿力だ……」
剱とアキラの推測に、猫又は戦慄した。
『次の目的地は、車両の向こう側だ。何とかして行けそうかい?』
「あたしだけなら、全然よじ登っていけるけど……ボンプを連れて来るとなると、ちょっと大変だぞ」
「ならば、拙者がボンプを連れて行くのはどうでござる?ついでに猫又殿も」
「えぇ?あんたが?……確かに力はありそうだけど、ボンプとあたしを担いでいけるのかにゃ?」
「まぁ、なんとかなるでござるよ」
そう言ってイアスを抱えて猫又を背負おうとした時だった。
「あ、あの、えっと……」
「んにゃ!?今、誰か喋った!?まさか、電車が!?しかも可愛い女の子の声だったぞ!」
「えぇっ?」
「確かに車両の方から聞こえてきたでござるな……」
「電車さん!あたしたち急いでいるの。ちょっとだけでいいから、そこをどいてくれない?」
『お願い、電車さん!』
「リン殿までノる必要はないのでは……?」
冗談を言う二人に剱は苦笑しながらツッコむ。
『まったくだね。向こう側のお嬢さんを怖がらせてないといいけど』
「あの……皆様は、ホロウ調査協会の調査員様ですか?」
『どうしたの?わたしたちに何か手伝えることある?』
「待って。あたし達が協会の人間かどうかより、まずは電車さんから名乗るのが業界のルールだぞ」
「それは……正しいのでござるが、電車さんというのは……」
「えっ?そ、そうなんですか?ごめんなさい、そのようなルールを……存じ上げておりませんでした。えっと、私はカリン、家事代行会社の従業員です」
猫又の指摘に電車の向こう側の少女──カリンは自己紹介を始める。
「(家事代行……家政婦のようなものでござるか?……家政婦がホロウに?)」
「星座は双子座、血液型はRh-、好きなことはお掃除です。市民ナンバーは……」
「そ、そんなに細かく紹介してくれなくても……それで、カリンちゃんはどうしてこんなとこに?」
猫又の質問にカリンは少しオドオドしている様子で答える。
「つ、ついさっき、危険なエーテリアスを避けて通ろうとしましたら、同行していた皆さんとはぐれてしまったんです!私は『キャロット』データを所持していなくて……調査員のお二人なら、きっとホロウから脱出するルートをご存知ですよね?ど、どうか私も連れて行っていただけませんか?」
カリンの事情を聴き、3人は固まって相談を始める。
「ホロウで道に迷った一般人、か。それにしても、家事代行の人なんかがどうして危険なホロウになんかに?……どうする?あの子を助けてあげる?」
『助けたくとも、それは向こう側に行けたらの話だからな……それが無理なら、今すぐ引き返して、他のルートを行くべきだ。さもないと、計画の時間に間に合わない』
「ならば、拙者が……」
剱がさっきの提案をもう一度しようとすると、カリンがまた声を掛ける。
「あ、あの!勝手に聞き耳を立てちゃってすみません!も、もし私が、お二人を車両のこちら側までお招きできれば……そのまま調査員様について行ってもよろしい、ということでしょうか?」
「にゃ?あたし達がそっち側に行く方法があるの?」
「だ、大体そんな感じです。ちょっとだけお待ち下さい!すぐに済みますので!」
カリンに言われた通り、少し待つことにした3人。カリンが何をするのか気になった猫又は車両に近づく。
「下から来るのか?」
猫又が車両の下を覗き込んでいると、突然頭上──車両の中から何か大きな駆動音が聞こえ、猫又は驚いて耳を塞ぐ。
「にょわあ!ヤな音だ……!」
やがて駆動音が小さくなり、猫又が車両に聞き耳を立てようとしたその瞬間、
────ギュィィィイイイイインッ!ガガガガガガッ!!
「いやぁぁぁぁああ!!?」
突如、猫又の頭の少し前の方から丸鋸の刃が車両から突き破ってきた。当然驚いた猫又は悲鳴を上げる。
「猫又殿!」
『危ないよ!』
剱は猫又を引っ掴み、自身の後ろに下がらせ突然の事態に警戒する。
────ガガガガガガッ!!ガガガガガガッ!!ガガガガガガガガガッ!!
「い、いったい何なんだにゃ!?」
『何が起きてるの!?』
「……二人とも、拙者の後ろにいるでござる……」
次々と車両が丸鋸に切り刻まれ、剱の体にしがみついて体を震わす二人。車両を睨みつけ、刀を構える剱。
やがて扉が倒れ、丸鋸の正体が明らかに──。
「……おろ?」「……ん?」『……へ?』
「んしょ……!うん、破れてない……あっ!お、お待たせいたしました!はじめまして!」
車両の中から出てきた、丸鋸の正体は……くすんだ緑色のツインテールにダウナーな印象を受けるメイド服を着た小柄な少女だった。しかし、そこだけではない。彼女の横には先ほどまで車両を切り刻んだであろう自身の身の丈を超える大きな丸鋸チェーンソーが立てかけてあったのだ。
彼女はこちらの存在に気づくと腰を90度に綺麗に曲げて3人にお辞儀をした。
「は、初めまして、調査員様方!カリン、ただ今電車をくぐり抜けてまいりました!」
「……くぐり抜けたというより……」
「ち、チェーンソーでぶち破ったような……」
彼女自身の見た目と、丸鋸チェーンソーによるさっきの車両刻みシーンを目撃した側としては、色々とツッコみたかったが、武器が武器なだけに弱々しいツッコミが精一杯だった。
「……え?先ほどからお話させていただいていたのは、こちらのボンプ様だったのですか……?あわわ、すみません!ボンプ様のご身分を疑っているわけではなくて……!」
『ボンプってことでいいよ。あんたも、ただの一般人には見えないけどね……』
イアスはカリンの武器を見上げながら呟く。
「すみません、その……弊社は幅広い分野でビジネスを展開していまして、中にはホロウ関連の業務もあるんです……そうだ!調査員様は、先をお急ぎなんですよね?き、きっと道中お役に立ちますので、どうか私をホロウから連れ出してください!お、お願いします!」
「あんたたちはどう思う?このコが電車を壊してくれたから、もう迂回する必要もないよね?」
「そうでござるな……こちらの件のルートを探す片手間で、脱出ルートを割り出すのは可能でござるか、"調査員"殿」
剱はあえてカリンの前では『調査員』という体で話を進める。
『うん。まぁ、無理なお願いでもないしね』
『僕も妹の意見に賛成だ。彼女を出口に連れて行くのは構わないけど、一応見ず知らずの人だからね。お互い、隠したい事情もあるだろう』
「なら、決まりでござるな」
「カリンちゃん、あたしたちについて来てもいいぞ!その代わり、余計なお喋りはナシ。それでいい?」
「はっ、はい!」
「よし、それじゃあ先を急ごう!」
『肯定。この空間の裂け目はホロウの外へと通じています。旅のお供、家事代行会社の従業員:カリンの依頼を達成可能』
カリンとの合流から少しして、エーテリアスの群れに遭遇したり、遠目だがデッドエンドブッチャーの姿を見て戦慄したり、車両の路線を変えることに成功したりと、色々あったが、カリンの目的地である外への裂け目まで連れてきた。
「ん?パエトーン、何か言ったか?」
『うん、出口はこっちだよって言ったの。カリン、出口の近くに着いたよ。そっから出れば大丈夫』
「ほ、本当ですか?出口が見つかったんですね?よ、よかった……!」
イアスからの知らせにカリンはほっと胸を撫で下ろした。
「あの……本当に、ありがとうございました!調査員様のお力がなければ、カリンはきっとこのホロウを永遠に彷徨っていました!」
「それはお互い様だぞ。カリンちゃんのチェーンソーのおかげで、時間をずっと短縮できたんだから!」
「あぁ、あの得物を振るうほどの膂力、ファールバウティの一撃を凌いだ時は、思わず二度見したくらいでござる」
「い、いえそんな……!」
互いに褒めあってカリンが謙遜しているときに、剱はふと思ったことを口にした。
「そういえば、猫又殿にエーテリアスが攻撃しようとした時、既にカリン殿は間に入っていたでござるな」
「あぁ、あの時の……カリンちゃんの声がしたと思ったら、あたしの背後にいたエーテリアスを既に倒していたにゃ」
『私、後ろで見てたんだけど、カリンが急に猫又に向かって走り出したから、猫又の方を見たら猫又の背後からエーテリアスが攻撃しようとしてたんだよね』
「あ、アレですか。あれは、その……声が聞こえたというか……」
「声?あたしには聞こえなかったけど……」
「い、いえ……その、なんというか……わ、私にはそう言う声が聞こえるというか……聞こえるようになったというか……」
カリンの言葉にイアスは驚いたように言う。
『なにそれすごい!超能力ってやつ?!』
「い、いえ!そんな大したものじゃ……教えてくれた方が言うには、誰にでも備わっているらしく……」
「それ本当!?なら、あたしもいつかは……」
カリンの言葉を聞き、期待に目を輝かす猫又。そんな彼女を尻目に、剱はカリンに問いかける。
「カリン殿、その教えてくれた方というのは?」
「あ、はい……えっと、同業者の方の一人なんですが……」
「……その方は、男性でござるか?」
「へ?……いえ、女性ですけど……」
「……そうか」
剱はそう言うと少し考えるような仕草をした。
「それにしても、ボンプの調査員様には初めてお会いしました!よ、よろしければ、お二人のお名前を教えていただけませんか?今度、従業員一同でお礼に伺いたいんです!」
『気にしないで!ホロウでは持ちつ持たれつ、でしょ?機会があったらまた会おう。元気でね、カリン!』
「バイバイ、カリンちゃん!」
『ほら剱も!』
「え?……あ、あぁ……またでござる」
カリンは去っていく3人の背中に向かって、深々とお辞儀をした。
「それにしても……剱、さっきの質問は何だったんだにゃ?」
『あ、そうそう!カリンに同業者のこと聞いてたけど……男性なのかとか、性別に何か関係あるの?』
「あ、いや、そういうわけでは……ただ、拙者の知り合いに、同じようなことができる者がいてな」
「本当か!?そいつ、今どこにいるにゃ!?」
まさかの交友関係を聞いた猫又は目を輝かせて剱に詰め寄るが、剱は苦笑して首を横に振った。
「それが、今の居場所は拙者も知らないのでござるよ……だから、もしかしたらと思い聞いたのでござるが……」
『あぁ、だからあんなこと聞いてたんだね』
「……今頃、あやつは何をしているのでござろうな……」
カリンを出口まで送り届け、当初の目的である列車の停止を目指し、計画が実行される予定のトンネル内で剱たちは列車と並走していた。
『マスター、まもなく列車が予定地点を通過します。依頼人共々、行動できるよう準備してください』
「プロキシ殿、今でござる!」
そう言って剱は列車の上にイアスを投げた。
「うまくいったにゃ!」
「あとはプロキシ殿が止めてくれれば……む?」
ふと、剱が列車の窓を見ると中に、
「剱、どうしたのにゃ?」
「……猫又殿、突入した方が良いでござるよ」
「へ?……あっちょっ!?」
──バリーンッ!
剱が突如列車の窓を割り、列車の中に突入した。突然のことに猫又は驚きながらも割った窓から列車に入った。そこで見たものは────。
「な、なにごとだ!?」
治安局独特の対ホロウ装備を着込んだ者たちが、イアスを囲んで銃を突きつけていた。
「疾ッ!」
「がぁっ!?」「ぐふっ!?」「ぐぉぉっ!?」
「(うわぁ……一振りで2、3人吹っ飛ばしてるぞ……こんな狭い列車の中で、よくあんな大立ち回りができるにゃ……)」
「猫又殿、プロキシ殿を!」
「うぇっ!?わ、わかったにゃ!」
既に治安官(のような装備を着た者)と戦闘を繰り広げていた剱を見て猫又は慄き、剱にイアスを頼まれた猫又は治安官の間をするりするりと抜け、イアスを割った窓から投げて脱出させた。
「こっちだ!ここはあたしらに任せて、先に戻って!キャロットがあるから大丈夫、後でお店に行く!」
『うわぁ!』
『もしもし、聞こえるかい?いったい何があったんだ?』
『何かがおかしい……今から店に戻るから、それまで待ってて!』
列車が通り過ぎた後、静かな線路をイアスは出口に向かって歩き始めたのだった。