黒鉄の破壊者   作:佃煮いなご

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第7話

 

「フレームの亀裂がざっと20箇所、ケーブル断裂、配線ショートがそれぞれ30ばかり。なぜ動けてたのか解明するだけで学会発表ができるな」

 

 ドクターがカルテのホログラムを投射する。素人目にも、内部構造がズタズタになっていることが見て取れた。

 

「回復の見込みはあるのか?」

 

「もう峠は越えたよ。まっこと頑丈な奴だ。それより——」

 

 ドクターはリストリクターの胸部装甲を指で弾く。

 

「いつまで隠し通せると思ってる。こんな大物、当局にバレたら事だぞ」

 

「その時はその時さ。私のコア・リアクターでも何でも持っていけば良い」

 

「呆れるよ全く。ああ、ブリッツアーム君は残って。ドアの修理を済ませよう」

 

「彼の容態に変化があったら教えてくれ」

 

 リストリクターが退出し、ドクターとブリッツアームだけが医務室に残った。

 

 

 

「俺は突き出しちまっても良いと思うがな」

 

「そう言うお前さんも報告してないんだろう?」

 

 図星だ。あの場でリストリクターに押し負けて止めを刺し損ねた。今更になって告げ口できるほど恥知らずでは無い。

 

 "壊し屋"アイアンバスターを捕らえ、この基地に運び込んだことは所属のシルバーグリント兵しか知らない。今の政府軍本部に身柄を渡せば捕虜としてのまともな扱いなど期待出来ないのは分かりきっている。シルバーグリントの兵士はそれを潔しとしない。そう信じたいのは自分も同じだ。だが、パラディストロン側が救出作戦を仕掛けてくる線も有る。飛んだ爆弾を持ち帰ってしまった。あの場で仕留めておいた方が良かったのではないかという不安はずっと付き纏っている。

 

「あいつの通信機能、ちゃんと切れてるよな?」

 

「電圧で壊れてたさね。一応外してあるが」

 

「拘束は万全か?」

 

「あの身体じゃそう暴れたりはできんさ。まだ意識レベルも低い」

 

「なんで動けてたのか分からんと言ったのはあんただぜ? 呑気なもんだ」

 

「些か過敏じゃないか。その手で倒したんだろう?」

 

「ギリギリだったよ。この通りな」

 

 ブリッツアームの頭部装甲は大きく抉れている。バイザーが割れて内側の目が露出した様に、この身体の成り立ちを知らない若兵たちは驚いていた。

 

 頭蓋の二重構造化が無ければ奴の爪が回路を貫いていた。勝利したという感覚は薄い。実際、さんざん施設内を追い立てられ、特攻覚悟の少年部隊とやり合った満身創痍の相手を、リストリクターの援護込みでどうにか鎮圧したに過ぎない。

 

 

 

『てめえじゃ俺には勝てねえよ』

 

 

 

 数万年前に投げかけられた言葉を噛み締める。体格に裏打ちされたパワーとタフネスが物を言った。前回はそう思うこともできた。今回はどうだ。同族相手の肉弾戦では反則級の力を手にしていながら、もし一対一であったなら間違いなくこちらが殺されている。

 

 実戦勘、度胸、機能で説明しきれない底力、そういったものの差を叩きつけられた気がした。再戦を望んでいながら、あの数瞬、自分は間違いなくあいつを恐れていた。そして今もだ。ここと壁1枚隔てたリペアルームに奴はいる。重傷を負い無力化しているにも関わらず、壁をブチ破ってきて今度こそ頭を捻り潰されるのではないかという馬鹿げた想像すら浮かぶ。

 

「……これでよし。しばらく無闇に動かさないでくれたまえよ」

 

「どうも」

 

 医務室を出たところで大きな排気をせずにはいられなかった。恐怖を抱く自分がどこまでも腹立たしい。

 

 

 

「あの……ブリッツアーム、さん」

 

 生き残りの少年兵だ。名前は、かつての自分たち同様識別番号以上のものを持っていない。ここの誰かがいずれ名付けるだろう。

 

 診療という体の徹底的な検査を経て一時保護が決まったが、彼もまた本部からは隠匿されている。むざむざと次の戦場に送らせるわけにはいかない。これについては壊し屋の処遇などより余程基地の人員が一致団結していた。

 

「その、ありがとうございます。助けてくれて……僕はあいつに殺されるところでした」

 

「礼には及ばねえよ。リストリクターが先行してなきゃ俺は間に合いもしなかったからな」

 

 1つ、引っかかっていることがあった。

 

「もう聞かれたかもしれんが、お前、リストリクターが来るまでどうやって生き残った?」

 

 沈黙があった。リストリクターが本当に偶然、乱戦の末に最後の1人を手にかける直前で駆け付けたというのも有り得なくはないだろう。

 

「話したくないならいい。悪かったな」

 

「……あいつが、あのパラディストロンが、逃げてもいいと言いました」

 

 不可解だった。あの場では20人以上の少年兵が殺されていた。ブリッツアームの知る壊し屋なら、そのまま全滅させるまで手を緩めなどしない。事実、つい最近の養成所ではそうだった。狂人のいっときの気まぐれか、それともリストリクターが期するように、奴には話し合いの余地とやらがあるのか。

 

 だとしたら、喜ばしいことのはずだ。リストリクターが望んでいたことでもあるし、ともすれば奴とシルバーグリントが殺し合う必要は無くなるかもしれない。それを何処かで受け入れ難く感じる自分がいた。くだらない、劣等感混じりの私怨だ。自覚するほどに惨めさが回路を蝕んだ。

 

 

 

「今なら誰にもバレやしないと……僕は兵士なのに。仲間を殺した奴に、見逃されて生き延びるなんて……っ」

 

 悶々と巡る思考を遮るように、少年から言葉が溢れた。思わず、俯く少年の肩に手を置き、屈んで下から目を合わせる。

 

「死んじまった方が良かったと思うか?」

 

「……他のみんなは、立派に戦って死にました。僕には、できなかった。恥ずべきことでしょう?」

 

 湧き立った感情が思考を上塗りした。同じ量産型としての同情もあったのかもしれない。元来子供を諭すような柄ではないが、つい口が回ってしまう。

 

「もしみんな一緒くたに突っ込んで死ぬのが立派だ、名誉だなんて教えた奴がいるなら、そいつはお前らのことをちょっと高級な弾丸としか思っちゃいねえ。口先で誇りある兵士だと言っておいた方が都合が良いだけだな」

 

「でも、貴方たちだって悪党と戦うのに命懸けだ。違いますか?」

 

「そりゃ命懸けだが、捨て石になりに行くのとは別だ。まだ分からなくても仕方ないが、分からないうちは本当は戦うべきじゃあない。俺はそう思う」

 

「なら、僕は一体、どうすれば」

 

 当然の反応だ。ひたすら一つの役割だけ叩き込まれて、突然それを取り上げられれば途方に暮れる他にない。今の彼は遥か昔の自分や壊し屋と同じ状態だ。だが、この後まで自分たちの轍を踏ませることはない。そのための手は打ってやりたかった。

 

「ここの誰もお前を戦場に急き立てたりはしない。ただ、残念ながらお前を街に返せる日は当面来そうにない。ここには医者もいればオペレーターもいる。そういう人たちにも目を向けて、しばらく考えてみろ。考えた上で、兵士になりたいのなら止めはしない。鍛えてやる」

 

 饒舌になり過ぎだ。ただ、世辞のつもりは一切無い。本当に彼がその気になるなら全力は尽くすだろう。恩も恨みも無い相手に、僅か数分でここまで肩入れしていることは自分でも意外だった。

 

 少年はしばし言われた内容を咀嚼しているようだったが、やがて静かに頷いた。

 

「よし。飯でも食うか? ……」

 

「いっそお前さんが名前を付けてやったらどうだ」

 

 背後の医務室からドクターの声が響く。どうやら先程から丸聞こえだったようだ。2度目の排気を吐いた。少年は期待したようにこちらを見上げている。大方、武勲を挙げなければ名前も貰えないとでも吹き込まれてきたのだろう。

 

「…………リキャスト、というのはどうだ」

 

 再構築という意味だ。思うところは込めたが言葉選びのセンスには自信が無い。こういう瞬間は苦手だ。リストリクターや若い兵士たちの方が適任だったはずだ。むず痒さとドクターへの微かな恨みを覚えながら、少年の反応を待った。

 

「……そのお名前、一生大事にします」

 

 少年、リキャストが笑顔を見せた。表情パーツが一気に緩むのが自分で分かる。目元以外はちゃんと隠れていることを祈った。

 

「行こうか。腹ごしらえが済んだらここのことを教えていく。今後は色々と手伝ってもらうからな」

 

「はい!」

 

 リキャストを伴って廊下を歩きだす。どの道量産兵が向かう先は地獄だと、壊し屋は言っていた。実戦では一生敵わないかもしれない。だが、その台詞くらいは覆してやりたかった。

 

 

 

 

 

 奴の意識が回復したという報せは、その数日後だった。リキャストはすっかり基地に馴染んで、今はブリッツアームから離れて倉庫番の手伝いをしている。

 

「私は面会に行くが、どうする?」

 

「……付き合おう。万一のことが起きたら制圧の目があるのは俺だけだ」

 

「杞憂だと思うがな」

 

「用心に越したことはないさ。それに、もう1つの万が一がある。本部に知れた時に2人っきりで密会してたとなるより幾らかマシ、だろう?」

 

「それは一理ある、が、君まで不利を被るのがオチだと思うぞ」

 

「皆まで言うな。俺もあいつが何を考えてるのか少々興味が出てきた」

 

「……君も少々変わったな」

 

「俺は現金なんだ。向こうが弱ってる今なら話を聞いてやってもいいと思ったまでだよ」

 

「いや、いい変化だと思うよ。私は」

 

 

 

 アイアンバスターは兵舎の空室に移されていた。手枷と足枷で拘束されているが戦場での暴れぶりを知っている者からすれば少々心許ない。とはいえそこまでの力は戻っていないのか、物憂そうな視線をこちらに投げただけだ。

 

「具合はどうだ? 痛みはもう無いのか?」

 

「白々しい。貴様の講釈なら聞く耳は持たんぞ。さっさと殺せ」

 

「私が一方的に喋りに来たわけじゃない。君と話をしたいんだ」

 

 アイアンバスターは鼻で笑った。

 

「言ったはずだ。話すことなんかねえ。どうしても気になるなら頭脳回路でも切り出して分析かけてみろ。その方が手っ取り早い」

 

「君を傷つけるような手は取らない。それに、情報収集のために頭蓋内回路を抜き取るのは両軍合意の元で禁止されていることだ。知らないわけでもないだろう?」

 

「ああ。ついでに、末端の戦場じゃ意味のない合意だったことも知らないわけじゃねえ。だから提案したんだよ」

 

 奴の態度は挑発的だが、事実ではある。夥しい犠牲者が生じる中で、どこの誰が捕虜になって、誰が頭の中身を奪られたかを監視することなど不可能だった。抜け駆けは両側で発生していることだ。

 

「偉そうに。その件は貴様らとてシロでは無いだろう」

 

 俯くリストリクターの傍らで反論を挟む。

 

「俺は自分の方が身綺麗だなんて思っちゃいねえよ、電池野郎。ただ、お前らのお上はここで少々汚ねえ真似しても見過ごしてくれるだろうって話だ」

 

 口ぶりからして、こちらの前身には気付いていないらしい。そもそも、相手の戦歴からすれば記憶に残っているかどうかも怪しかった。

 

「……すまない。君が憤るのは無理もない」

 

 リストリクターが頭を下げた。こんな奴にそこまでする価値はないと言いたい衝動を抑える。機嫌を損ねて相手が口を閉ざしてしまっては殺さずにおいた意味がない。実際、喧嘩腰ながら奴は少しずつ自我を曝け出している。

 

「我々は上層部の横暴に対し手を打てずに数万年を経てしまった。君たちからすれば、我々も同類だろう」

 

 見間違いでなければ、一瞬リストリクターに向けられた眼差しが和らいだ。

 

「俺はお前のことは評価してるぜ? このクソッタレたご時世じゃあ間違いなくマシな野郎だ」

 

 リストリクターが顔を上げた時には、その眼光は剣呑とした赤に戻っていた。

 

「……だからこそ、俺とお前らの道は交わりやしねえんだ」

 

「虫が良すぎる、今更遅い、確か君はそう言っていたな」

 

「そういうことだ。話は終わりだ」

 

 やはり相当に体力が落ちているらしい。会話に疲れた様子でアイアンバスターは深く排気をつき、宙を仰いだ。が、リストリクターは彼の返答の後ろ半分を無視した。

 

「ということは、君自身今の在り方は好ましくない、それは間違いないのだな?」

 

 舌打ちの後、暫しの沈黙があった。流石に踏み込みすぎたか、傍目には気が気ではない。

 

「既に死に体のつもりでいるのなら、いっそ話してはくれないか」

 

 逆上することも予想し、全身の機構が張り詰める。しかし、それは起きなかった。代わりに、更に長い沈黙が両者の間に横たわる。

 

「リストリクター、今日はこの辺に——」

 

「君の言葉で聞かせてほしい。これまでの戦いに後悔があるんだろう?」

 

 居た堪れなかった。問い詰められる壊し屋の側に自分の心があるような気さえした。

 

「…………当たり前だ」

 

 しばし目を伏せたのち、観念したように彼は口を開いた。

 

「……大将の理想は俺なんぞには見通しきれねえ。今よりかはマシな世になると信じたいがな。だが、俺にとっては量産機を造るだけ造って棄てた街、企業、国、それを何とも思わなかった奴ら、時代……そういうのをぶち壊すために始めた戦いだ」

 

 訥々と語る彼の聴覚アンテナは後ろ向きに倒れている。自分と同じ量産機の特性で、アンテナの角度は身心の状態と連動する。後ろに下がったそれは憔悴だ。少なくとも、今語っている内容は本心ではあるのだろう。

 

「その結果がどうだ。政府軍も企業のお抱え傭兵どもも随分と殺したが、未だにてっぺんの連中はぬくぬくとしてやがる。前線にいるのは俺たちと大差ない奴ばかりだ。挙句の果てには廃れたはずの量産技術が引っ張り出されて、今度はそれを殺さなきゃならん。ガキの兵隊だけじゃねえ。まだ培養槽に浸かってるような赤ん坊まで潰して回ったんだ。馬鹿げてるよな」

 

「それなら、何故」

 

「俺は戦前からどうしようもなく踏み外しちまってるんでな。やっぱり嫌になったから正道ぶろうなんて、今まで殺してきた連中の誰が許すかよ」

 

 ブリッツアームは認識を改めることにした。地下都市で見せていた煮え滾ったような怒りと、それに直結した暴力性は鳴りを潜めつつある。本人は当初のままでいることを望んでいるようだが、数万年の戦いは間違いなく彼の精神に影響を齎していた。独白はまだ続いている。

 

「それに、ここで止めればまた昔に逆戻りだ。お前らシルバーグリントは善人だが、だからこそ組織だって上に逆らえやしねえ。俺が見る限りじゃな」

 

 リストリクターは黙って頷いた。

 

「だったら、俺みたいなクズがすべきは嫌気が差そうが反吐が出ようが向こうが倒れるまで徹底的に戦うことだ。何万年先か、俺よりマシな奴らが世直しに取り掛かれるようにな」

 

 アイアンバスターがヒビ割れたマスクの下で歯を見せた。挑発も威圧も感じられない、静かな笑みだった。

 

「そういうつもりでいたが、いよいよ悪運尽きたってわけだ。殺すなり、本部に引き渡すなりするがいいさ」

 

 捨て鉢にも見えるが、その底には意志がある。戦争に疲弊し、摩耗してもまだ自己の変容を拒もうとする頑なさは認めざるを得なかった。果たして、リストリクターはそれを剥がすことができるのだろうか。

 

 

 

「……確かに君の言う通り、手遅れかもしれない」

 

 コアが飛び出そうになった。ブリッツアーム自身、殺してやった方が奴のためだと考えこそした。だが、それでもリストリクターがその結論に至るとは信じ難い。慌てて隣を見やるが、翠色のアイセンサーはただ沈痛な光を湛えているのみだ。アイアンバスターの方はといえば、入室時と同じく無感動にこちらの出方を待っている。

 

「どういう意味だ、リストリクター」

 

 耐えられずに、ブリッツアームから口を開いた。

 

「それだけの悔悟がありながら、過ちと分かっていながら積み重ねてきたのなら、今後どういう選択をしたとて辛苦の道に変わりはない。そういう意味ではな」

 

「選択も何も、捕まった以上俺はここまでだ。そうだろ」

 

「いいや、終わらない」

 

 リストリクターの語気が強まった。

 

「私たちが命を奪うことは無いし、虐待の疑いがある本部にも渡さない。待っていれば楽になれるなどと思わないことだ」

 

「……それで俺を罰せられると思ってるなら少々傲慢だぜ、お前」

 

 俄かに、部屋の空気が張り詰める。

 

「俺は心変わりなんかしねえ。生かしておいたこと、お前こそ後悔する結果になるかもな」

 

「その選択自体は否定しない。市民を巻き込むやり方には抵抗するまでだ」

 

 気圧される様子もなくリストリクターは応え、部屋を出て行った。思わずして、アイアンバスターと2人きりになる。

 

「次はお前の説教か?」

 

「いや、俺は柄じゃない」

 

「……あの野郎、存外言うことは言うな」

 

 不意のぼやきについ吹き出してしまった。

 

「ああ、敵に回したくはないものだ。お前も気の毒にな」

 

「うるせえ。お前もさっさと失せろ」

 

 壊し屋が脅すように足枷を鳴らした。目の前にいるのは、自分の本来の身体を奪った宿敵だ。内面を曝け出した後も、脅威であることには変わりない。しかし、感じていた得体の知れない重圧は随分と薄れた。親しみとまではいかないが、少なくともこいつも1人のメタモーファーであることに変わりはない。

 

「——いや、ちょっと待て」

 

 退室の直前で呼び止められた。

 

「失せろだの待てだの忙しい奴だな」

 

「……俺を捕まえた日に、同じくらいの体格のパラディストロンを仕留めたとか捕獲したとか、そういう話は無いか?」

 

「俺が知ってたところで、教えてもらえると思ってか?」

 

「ああすまなかった。お前みたいな三下に聞くのが間違いだったな」

 

「……知る範囲では聞いていない。信じるかどうかはお前次第だが」

 

 舌打ちを背中で聞きつつ、扉をくぐってロックを掛け直す。奴の言うような人物を知らないというのは本当だった。

 

 

 

 廊下ではリストリクターとリキャストが待っていた。

 

「聞いてたのか?」

 

「私が事前に声をかけた。黙っていてすまない。彼らもただ倒すべき敵じゃなく、意思や考えがあるということを知ってもらいたかった」

 

「そう言ってくれれば反対はしなかったがな。で、リキャストは平気か?」

 

 頷きながらも、少年はアイアンバスターが収容された部屋をじっと見つめている。

 

「あいつが憎いか」

 

「殺してやりたいとはもう思えません……あいつが僕にチャンスをくれたのも事実ですから」

 

「冷静だな」

 

「分からないんです。誰を信じて、何に立ち向かえばいいのか。施設では、パラディストロンが全ての元凶だと教わりました。でもあいつの話を聞いた今は違うような気がして。自分はどうするべきなのか」

 

「お前には考える時間があるし、俺たちはできるだけその時間を守る。それに、"べき"とか何とか、あまり強固に身の振り方を決めつけるのも考えものだぞ。間違ったと思ったときに切り替えることは悪じゃない。向こうの部屋のボンクラは頭が固過ぎてあんな具合だ」

 

 リキャストの表情が心持ち明るくなった。意味の無い先延ばし、とは思いたくない。元来、このくらいの年頃で立場を決定付けるのは間違っているはずだ。

 

 次の手伝いがあると歩き去るリキャストを見送る。リストリクターが肩の装甲を小突いた。

 

「我々にもそういう素直な物言いをして欲しいものだな、ブリッツ」

 

「よせよ……あんたこそ、言葉に遊びが無さ過ぎるんじゃないか? 逆恨みされててもおかしくないぜ」

 

「優しい言葉で誘導しても彼を救うことにはならないだろう。こちら側こそが正道だとも思っていない。ただ、自分の発言が不穏当だったことは反省しているよ」

 

「分かってるならいい」

 

「しかし、あの有様では組織としては拘束を解くわけにもいかない。勿論、私は彼に変わって欲しいと願っている。時間を空けてまた話をしてみる。私の方もきちんと考えをまとめて……」

 

「それまでに本部に嗅ぎつけられなきゃいいがね——」

 

 

 

 基地全体に警報が鳴り響いた。交代で見回りに出ていた仲間がパラディストロンの活動を確認したのだ。非常灯の赤は既に戦闘が始まっていることを示していた。

 

「行くぞ」

 

「ああ……!」

 

 背後の扉を一瞥した。休息を取っていた兵士たちが次々と飛び出す中で、その一室だけが静寂を保っていた。

 

 

 

ー続ー

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