仮暮らしの成田さん   作:ぽぽんぽん

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2.10フィート棒

 放課後の暇な中学生はダンジョンで『10フィート棒』を買い、友人と爆笑しながらダンジョンへ入り、スライムと対峙した。

 まず酸攻撃は避けたものの、地面を伝う酸でスニーカーがあっという間に溶けたので、ビビって『丈夫なブーツ』をみんな買った。

 ついでに仲間内でもっともビビリだった俺はさりげなく『丈夫なワーキングベスト』も買った。初期1000Dはこれで消えた。

 中学生たちはスライムをつつき回し、どうにか3匹だけ倒してバカ笑いしながらダンジョンを後にした。

 

 地元にまだ冒険者ギルドが出来る前の話だ。野良ダンジョンがそこらに生えまくってて、ダンジョンに入るのに許可なんて取ってられなかった頃の笑い話。

 あの頃、俺は自分が将来冒険者になるなんて思ってもみなかった。ただダンジョンでちょっと遊んで、まあ友人とこれからしばらく遊ぶかもしれないな、くらいには思ってたけど、それだけ。

 

 実際それから3年、冒険者のことなんて頭の片隅にもなかった。

 そうして色々あってもはや冒険者する以外に道がないぞ、となったとき、俺はどっと冷や汗をかいた。

 

 まず、俺のステータスが問題だった。

 ダンジョンの贈り物と呼ばれるステータス決定は、そのときの肉体の状態ではなくあくまで肉体の資質を見て決定される。

 つまりその時点でまったく運動していなかろうと、鍛えたら速くなるやつは素早さが高めの傾向になる。これがダンジョンに入ったとたん俊敏になるデブがいる理由である。

 そう、ダンジョンの贈り物とはすなわち『才能』だ。

 

 中肉中背、特に秀でたもののない俺に与えられたステータスは器用魔力型、DEX-MAG二極タイプ。

 一見、魔術師型に見えるが、器用が平均より高め、魔力は平均より下。

 平均以下なのに器用魔力型といっていいのかって? MAG――魔法資質は0の人も多いから、魔力あるだけで魔力型ってことになる。

 

 器用魔力型は一般的には、冒険者に向いてない。どのくらい向いてないって、現役冒険者にほぼいないくらい向いてない。

 現状、運用できる型がないからである。

 

 もしこれが器用精神>魔力型ならクラフターになれた。ダンジョン装備や消耗品作るなら魔力とMP(精神依存)が必要不可欠なもんだから。

 

 …精神?やつなら死んだよ。

 魔力はあるといっても1、体力も素早さも筋力も平均以下。ハハッ。……ハハッ。

 器用もそうずば抜けて高いわけではなかった。ただ平均よりは上、というだけ。全部が平均以下で、器用だけ上。

 うん、俺ってば雑魚だったのだ。

 

 それでも俺にとって幸いだったのは、中学生の頃にスキルまでは取っていなかったことだ。手付かずのスキルポイントが50まるまる残されていた。

 これがなければ、俺は冒険者なんてすっぱりあきらめただろう。

 

 ダンジョンの贈り物であるスキルポイントとは、やはり『才能』の種である。

 いうなれば好きな才能を50ポイントまでの範囲でプレゼントだ。

 

 ダンジョンにおけるスキルとは2種類ある。

 ひとつは先に上げた通り、ダンジョン内でスキルポイントを消費して獲得するもの。

 そしてもうひとつは、ダンジョン内で行動を起こして獲得するもの。

 

 後者の行動獲得をすると、ステータス内のスキルメモリと呼ばれる数値が減少する。これはその人がどれだけのスキルを肉体に刻みこめるか、という数値らしく、人によって数値が異なる。

 この数値が高いほど「伸び代がある」などと言われたりもする。これは現在の肉体のポテンシャルが高い――つまり()()()()()人ほど高くなる。

 なお俺はこの値も平均以下だった。うるせーどうせ雑魚だよ。

 

 さておき、ダンジョンで仕事をしようと思ったらスキルは必須だ。

 まずはスキルポイントを消費して獲得することになる。

 スキルポイントは平等に誰でも初期値50。取れるスキルは人によって違う、というか要求ステータスがあるらしくて、一覧にはあるけど取れない灰色に表示されてるスキルが多い。

 

 これから冒険者になる俺は考えた。

 

 器用は平均以上にある。これをどうにかして生かせないか?

 

 器用というのは手先の器用さ以外に、体の使い方だったり、命中率だったりに影響している数値らしい。あまり器用に生きられた人生だったとは思わんけどまあ、ダンジョンにとってはそうなんだろう。

 つまり、攻撃は当たる。

 

 だがここで思い出してほしい。

 俺の武器になりそうなものが『10フィート棒』しかなかったことを。

 現実は無情だったよ。

 

 棒、しかも長いだけの取り回し大変な棒でスライムをつつくお仕事ですよ。

 スライムは斬撃は有効だが、打撃にはとことん強い。まったく無効ってわけでもないけど、有効打にはなりにくい。

 唯一よかったのはスライムって酸を吐くので、近距離で戦うとしんどい魔物だったこと。だから距離取れて助かったなあ、てね。ハハッ。

 有効打となる突攻撃が決まるまで延々と長い棒でつつき回す……この空しさ、わかる?

 

 そしてスライムの魔石は概ね3D。

 剣は3000D。短剣でも600D。

 スライムつつき回して倒すのに30分かかって、3D。いつ買えるの? むしろ俺、生活できなくない?

 

 そこで、まだスキル取ってなかった俺は心底悩んだわけ。掲示板とか考察ブログとかSNSとかあれこれ見て、現状どうするかかなり悩んだ。

 

 必要なのは攻撃力。

 魔法スキルは取れるものの、魔力も精神もともに平均以下、攻撃魔法の類いは無謀。

 魔攻増加・物攻増加などのパッシブスキルは%増加らしいので基礎が低い俺には無意味。

 戦闘スキルは武器と合ったものを取らなきゃいけない。つまり『10フィート棒』用のものを。それ、いつまで使うの? ずっと愛用する気なの?

 

 この時点で、俺が取れる選択肢は3つ。

 

 ひとつは、「棒術」を取る。30SP。

 いつまで『10フィートの棒』でいる気なの問題は見え隠れするが、まあ現実的ではある。しかしビミョーさもある。

 

 ひとつは、「魔法:エンチャント」を取る。50SP。

 精神(MP)が低いのに魔法取るの?正気?てことでこれも結構、かなりビミョー。

 

 ひとつは、「採取」や「採掘」なんかを取る。それぞれ20SP。

 採取生活で金を稼いでちゃんとした武器を買い、それから武器スキルをとる。うん。

 

 うん、ラストが現実的だと思うじゃん?

 トーキョーダンジョンでは「採取」「採掘」がメインで行える場所はない、という点を除けばね。

 

 俺はめちゃくちゃ悩んだ。

 

 そして、これは一番()()よな、と思った。

 思ったのよ。

 でも俺は取ってしまった。

 

 「魔法:エンチャント」。

 魔法スキル。魔法系統とかじゃない、「エンチャント」という魔法が使えるだけのスキルだ。

 効果は10分間攻撃力+10。これだけ。消費SPは魔法なので当然50。

 

 悩んで考えて迷いすぎて、まあ、なんていうか、ほら、ロマンを取ってしまったんだな。

 だって魔法、使いたいじゃん!?

 

 そんなわけで『10フィート棒』装備の付与魔術師(エンチャンター)という雑魚俺誕生に至ったというわけだ!

 ロマン職を現実でやるなという見本のような話である。

 

 しかしどういうわけか結果的に、俺は約2年、1層専門とはいえ、なんとか冒険者をやれている。

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