仮暮らしの成田さん 作:ぽぽんぽん
材料は無水エタノール、それからミツロウだ。
蒸留酒でもいいが、飲まないのでエタノールで構わない。探してみると公式ダンジョンショップで扱いがあった。あるのかよ。エタノールで倒せる敵とかいるらしい。へえ~~。
最小単位の100mlだと50Dとなかなか高かったが、ばあちゃんの薬の懐かしさが勝り、買っちゃった。
ミツロウは魔物の蜂からのドロップらしくいろいろあるようだ。お試しだしそんな高いやつじゃなくていい。安すぎるのも気になるので、中間の価格帯で購入。50gで20Dほど。なかなか高い。
まずはヨモギを刻んだものをエタノールにつける。密封瓶が調合キットに入っていたので、清掃を掛けてから付与も掛けて使用した。もちろん使う道具は全部付与だ。
軽く振って収納へ。1日1度振って様子見たら、1週間ほどで緑のドロドロが出来上がる。虫刺されに効くとばあちゃんが愛用していた。
名前はあった気がしたが、緑のドロドロで通じていたので忘れてしまった。懐かしいな。
この緑のドロドロに油とミツロウを混ぜてネトネトにしたのが緑のネトネトだ。ばあちゃんはなんにでも効くと愛用していた。俺もよく火傷痕とかに塗られたものだった。
今思うと謎のアイテムだが、当時は本当に効いてたので気にしてなかったな。
まあ、これが何らかのアイテムとしてダンジョンに認知されたらラッキー、くらいのもんである。
さて…。
さて、だよ。
嫌な予感について考えねばなるまいよ。
浅倉に続いての在原ダンジョン貸切、俺のせいじゃないよな!?
俺が砂売ったからとか言わないよな!?
はい、自意識過剰乙。
うん、気のせいだよ。たまたまなんか見つけたんだろうて。
ほんと偶然。偶然って怖いな……。
俺なんか小物だから戦々恐々としちゃうよ。幸い、砂は全部売れている。
いや~一儲けしちゃったけどきっと無関係。
……こええ。
なんだろ、やはり名称未設定1番てとこがあれだった?
いや気のせい! 無関係だって!
うん。明日は久しぶりに島京を出て、千枝の東丘ダンジョンに行こう、そうしよう。
いやいや、気のせいだけどね? うん。君子危うきに近寄らずってやつだよ。
「えっ、閉鎖?」
「そぉなのよ! ほんとびっくり。まさかあんなことになるなんてねえ~!」
翌朝ホテルを出たところで顔馴染みのおばちゃんに遭遇した。在原ダンジョンの受付のおばちゃんだ。
おばちゃんがいうには、在原ダンジョン、今閉鎖しているらしい。マ?
なんでも貸切で潜っていた連中がダンジョン破壊をやらかしたらしい。マ!?
「結構いいクランって聞いたっすけど」
「そぉなのよお! まっさかそんな基本的なことやらかすなんて、信じられないじゃない?」
ダンジョン破壊とは文字通り、ダンジョンを破壊する行為を指す。たとえば壁に爆発物を仕掛けるとかだ。
それ以外にも壁を指定して大魔法を放つとか、壁に武技と呼ばれる必殺技みたいなものを放つのも数えられる。
後者については戦闘中ミスや敵に回避されたことで結果的にそうなってしまう場合もあるが、それについてはダンジョンルールなのか、壁は傷つかない仕様となっている。
戦闘以外の状況で壁、天井、床などを攻撃すること。これがダンジョン破壊である。
唯一の例外が、採掘可能地区だ。ここはダンジョンがダンジョンへの攻撃を許可している。「採掘」所持者にはわかるらしく、これが採掘持ちしかダンジョンを採掘してはいけない理由にもなっている。
「てことは迷宮鳴動すか」
「そぉなのよお~!」
迷宮鳴動。
ダンジョン破壊するともれなくついてくるのが、これである。
つまりダンジョンの防御反応であり、威嚇行動でもある、らしい。
迷宮鳴動が起きると、マップが変わる。それはもう、変わる。全とっかえである。
つまり、これまでの攻略がおじゃん。すべてパア。
これがダンジョン破壊しちゃいけない理由だ。厳罰に処される。といっても、結構いいクランって聞くし、冒険者ランク高いだろうし、たぶん罰金刑だろう。高ランク冒険者をムショで遊ばせておくなんてもったいない、きっと上の人だってそう考えるはず。
この前最下層アタック終わったところで不幸中の幸いだった、とはおばちゃん談。まさしく。
迷宮鳴動は一週間かかり、その間、ダンジョンは冒険者を拒む。幸いにして貸切になっていたので、ダンジョンに取り残された人はいなかったようだ。よかったよかった。
「しかしほんとなんだってそんな、基本的なことをやらかしちゃったんだろうねえ。理由も明かさないらしくってさあ」
「へえ~」
「たしかにダンジョン攻略については、スキルやらアイテム、攻略の秘匿は認められてるよ?それにしたってさあ、やらかしちゃったんだから、そこは白状してくれないと」
「っすね」
「鳴動が収まってもしばらくは政府の人とかが出入りするって言うし、あたしらは強制的に他のダンジョンへ行かなきゃなんないんだよ。やんなっちゃう!」
「……」
おばちゃんの愚痴に相づちを打ちつつ、俺は冷や汗をだらだらかいていた。
誰か気のせいだって言ってくれ!
ちょっと自信なくなってきた!