仮暮らしの成田さん 作:ぽぽんぽん
そろそろ帰ろうかなあ、と思っていたときに見つける天井スライム湧きポイント。
と、なにやらもがいているゴブリン。
ゴブリンにも酸って効くんだ!?
同士討ちというか、なんというか。
天然の罠だなこいつら。
まずゴブリンをどついて収納し、更にスライムをプチプチ潰す。
道の先に人が倒れているのが見えた。
げ。もしかして怪我人がいる?
ダンジョンで怪我人を見つけたときのパターンは何種類かある。
まずひとつめ、関わらない。ダンジョンは自己責任なのでこれが普通。
ふたつめ、自分の責任において救助する。助けられなくても文句はいえない代わりに、助けた場合の謝礼金も受け取れない。ヒール持ちはこれを選択することが多い。
みっつめ、契約して助ける。ダンジョン組合の推奨はこれ。ポーションなどを使用した場合には、使用された側が後で払う。事前に「救助します」と申請し、「お願いします」と了承するパターン。
これは勝手に治療された、絶対に払わないと揉めるケースが後をたたないため、事前契約推奨ってことになってる。
もちろん一刻を争う事態というのもあるのでなんともいえないんだけど、悲しいことに、結局助けるだけ損する、というのがダンジョンなのである。
300D(救助申請の場合はポーション代にプラスして救助費用が上乗せされる)って、持ってる人少ないのよ。特に背伸びして怪我するような冒険者はまず持ってない。
そもそも200Dあればダンジョンショップでポーション買えるんだから、買ってない時点でお察しなのである。昔の俺のことです。うぇーい。
例外として、傷を負った状態でダンジョン受付ロビーまで戻ると、格安で治療が受けられる。
ポーションは20mlで効果が出るので、50HP以内の回復でいい人員が10人集まると、ポーションを一口分で販売してくれるのだ。20Dになるとなれば、そりゃみんな10人来るまで待つ。
そんなわけでロビーが怪我人でごった返してることはよくある。
どうするかなあ、と悩みつつも湧きが収まったので道を進む。
はたして怪我人はいた。
スライム頭から被っちゃったのか、背中が広範囲に焼けただれて倒れている。あーあー。
呼吸は荒く、ゼイゼイ聞こえるので生きてはいるな。
とりあえず確認。
「通りすがりっす。救助必要っすか」
「……お願いします……」
おや。
声からするとかなり若い、というかもしかして背の感じからして中学生くらいじゃないか?
「HPいまいくつ?」
「いま…、20です…」
20かー…。次にスライム出たら死ぬな。
LV1のHP70、一撃食らって倒して、どうにか隙間に逃げ込んでギリギリ助かってた感じか? これだからスライムって油断ならない。
「念のため聞くけど、救助承認すると300Dかかる。払える?」
「あ……。無理、です…」
ですよねーー。
どうしよう。ここで放置も寝覚めが悪いが、無料で助けるのは双方にとってよろしくない。
「…起きられる?」
「なんとか……」
どうにかゆっくりと体を起こす。体格からして少年。こんなダンジョンの中で、おいしい展開にはそうそうならない、知ってた。
あー。顔にもかかっちゃってるか。かなり広範囲。失明してないといいが。いや、しててもポーション飲んだら治るんだが。逆にいうと、ポーション飲まないと治らない。
「200D……」
「ないです……」
だろうねーー。
いや、今までは助ける手段がなかったので、1層でスライムやられてる人を見てもあーあって感じだったのよ。1層だしすぐ戻れるから、別に手を貸したりする必要もなかったしね。
「あー…。とりあえず上までは送るわ」
「え……いいんですか」
よくない。救助不要っていってるんだし。
しかしこうして助ける手段を持っていると、見捨てる覚悟を決めるのってなかなかしんどいもんだ。
あれこれ考えてはみたけど、やはり男とはいえ、年下を捨て置くことはできなかった。
「ロビーまで行って待てば20Dで回復できるかもだし。20Dくらいならあるっしょ」
「は、はい…!」
ほんとはポーションを渡したっていい。俺、今金持ちだし。
いいんだけど、一人で6層まで来ちゃってる時点でかなり無謀なやつだ。下手に「俺は運がいい」なんて調子に乗せてやったらダメだろ、これ。
自家製ジンジャエールを飲ませることも考えたが、それはまあ最終手段としておこう。
ヒール? MPは俺の生命線なので使うわけにはいかない。こういうとき、MP少ないって厄介だよな!
少年をおんぶして、来た道を戻ることにする。
レベルってすごいね。人間一人背負ってもあんまり重くない。少年にしっかりしがみついててもらうことさえ気をつければ、棒もちゃんと振れる。
さくさくと道を戻っていると、さっきうずくまってた人を見つけた。
これなれば1人増えても一緒だ。
「5層戻ります」
「あっ、一緒に行きます! うわ、怪我大丈夫ですか」
「救助不要だそうっす」
「あー……、私もヒール持ちではなくて」
「いえ……」
蚊の鳴くような声で少年が答える。
ちなみにうずくまってた人はおっさんである。お姉さんなんてダンジョンでは絶滅危惧種だよちくしょう。
いうまでもなくスライムとドブネズミのせいである。
「私が代わりに背負いましょう」
おっさんは職業冒険者ではなく週末冒険者だが、ちょっと羽目を外して遊びに来てしまったタイプらしい。俺が天井のスライムを落としていると代わりを申し出てくれた。
ありがたく交代してもらう。
地図みつつスライム落とすの大変だったからね。
無手ゴブリンは弱化からの棒打ちで近づく前に倒す。
「いや、やはり職業冒険者の方は鮮やかですね」
「…あざっす」
今日初めてのゴブ退治ですけどね!