仮暮らしの成田さん   作:ぽぽんぽん

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58.異変

 逃げよう。

 いうて俺はレベル4、本来なら6層にいるレベル帯ではない。5層以降は5レベルからっていうしね!

 

 そろそろと前方を気にしつつ、来た道を戻る…、

 

「!」

 

 今度は右側からチリチリとした感覚が押し寄せる。先にわかっていたので今度は避けることが出来た。

 

 不可視の熱の塊が行き過ぎ、壁に着弾してジュワッと消える。

 「魔法:ファイア」は火の玉が見えるはずなので、これは違う。

 

 なんだこれ。

 間違いなくゴブリンメイジじゃない。

 

 なんだっけ。なんか聞いてた。

 まだ情報が集まらなくて未確認だけど出るかもって。

 

 ワンダリングモンスター。

 

 西坂ダンジョンでは、5層をライオンのワンダリングモンスターが彷徨ってるって聞いてたじゃないか。

 それなら、まだなにもわかってない迷宮鳴動したての在原でも出てもおかしくない。

 

 失敗した。

 どうせ同じエリアしかいかないからと情報収集を怠ってた。

 

 ジリジリと気配の感じる方を向きながら、少しずつ下がって逃げる。

 他に人はいるのか? かち合ったら逆に不味いよな。その人がヤマモトみたいにレベルが高ければいいが、もしこの前の中学生みたいなのがいたら。

 

 たぶん1匹。しかし移動速度がそこそこはやい。そして、なんだか妙な移動のしかたをしている。ふらふらと、行く方向が定まらない。

 ワンダリングモンスターってそういうものなのか? 誰かを追うわけじゃなく、ただふらふらと彷徨うってことか?

 

 曲がり角に立つと、今度は前方から飛んできた。

 あわてて角へ引っ込む。おい危険察知仕事しろ!!

 

 そろっと角から覗くと、やつの姿が見えた。

 巨人のように高く、幅の広い体。丸まった背中。大きな杖。

 オークメイジじゃねーかよ。こないだ調べたとこだよ。

 こんな下層に出ていい魔物じゃねえだろ!

 だいたいどのダンジョンでも15層から出現って情報サイトで見たぞ!!

 

 まあワンダリングモンスターとは、えてして出現層のレベル帯を無視して現れる理不尽なモンスターのことをそう呼ぶわけではあるが。

 

 マッピングしててよかった。曲がり角を戻って別の道から階段を目指す。

 ところどころ負傷してる人がおどおどしながら階段を目指しているのと、合流しつつ向かう。さすがにみなポーションを飲んだようで、怪我を放置している人はいない。今日はみんな散財デーだな! 笑い事じゃないが。

 

 辿り着いたのは下へ向かう階段だった。

 上へ向かう方が遠かったので仕方ない。下の階へ向かいひとまずの安全を得るもの、上を目指すためにここで止まるもの、もう動けないとばかりに座り込むもの、階段前は混雑している。

 

 下へ行くのは得策じゃない。下も迷路の階層だ、もしかしたら同時にワンダリングモンスターが出ている可能性もある。

 

 ここで止まるのもいいが、他の魔物と違ってワンダリングモンスターに安全圏はないとも聞く。他の魔物ならば階段付近には近づかないが、やつらは近くまで来るらしい。ここまで来られたら一網打尽の地獄絵図になってしまう。

 

 ならやはり、上の階層を目指すべきだ。

 危険察知先生、頼むぞ!!

 

 緊張で震える手で防御アップをかけ直し、そろそろと再び迷路を進み始める。

 最短の道は覚えている。ヤマモトたちと通ったときが早かったから、後で自分のマップにも書き込んでおいたのだ。

 やつとかち合いさえしなければ10分ほどで迷路を抜けられる。

 

 こういうときに限ってスライムの床湧き!

 踏み潰して走り抜けることも考えたが、もしブーツに穴があいたりしたら、悪手が過ぎる。とりあえず放り投げて道を作ることにする。

 

 首筋がチリッとしてあわてて道の脇へ避ける。あっつ!! ちょっとかすっただろこれ!

 

 真正面から杖を掲げているオークメイジを見つけてしまった。連発は出来ないようで一度杖を下ろす。

 こっち方向へ来る気ってことか?

 

 こっちは分かれ道などなく階段直通ルートだ。そこには多くの人が休んでる。

 

 どうにかして下がらせたいが、メイジとはいえこの巨体を相手に戦えるとは思えない。今も足がふるえている。

 オークメイジがゆっくりとした動作で杖を掲げた。

 

 やるしかない。

 

 いちかばちか、弱化をかけるとオークメイジがたたらを踏んだ。魔法は掻き消されたようだ。

 弱化をかけると魔法キャンセル出来るという情報はサイトで見た。問題は俺のMPではそれほど連発できないということだ。すでに付与でも消費している。出来てあと3回。こんなことなら10フィート棒にMP軽減さっさと刻んでおけばよかった!

 

 オークメイジは何が起きたかわからないといった様子でキョロキョロしている。

 

 何が出来る。

 どうしたらいい?

 

 倒すなんて到底不可能だからさっさと逃げるべきだ。

 走って逃げて、階段で止まってる人を逃がす。それが最適解だろう。

 そう思うんだけど、足が動かない。

 ふるえて動けないのだ。恐怖で固まるってこんな感じなんだな。

 

 またオークメイジが杖を掲げる。

 俺は咄嗟に弱化を使おうとして、ふと目に入った。

 

 スライム。

 

 10フィート棒で掬いあげたそれを、オークメイジの顔めがけてぶん投げる。

 

 食らえ酸爆弾!!

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