感想でも言ってましたが、とある生徒にとって今回のこの一件は地獄への片道切符……
まだ原作のほうがマシだったかもしれない悪夢への入り口に過ぎません。
もちろんセイジは曲がりなりにも先生ではあるので、生徒の願いを聞いてそれを叶えるために動いてはくれます。
……しかしそれは本当に彼女が望んだことだったのでしょうか?
というわけで本編をどうぞ
完璧な計画のはずだった。
あの大人がいくら強かろうと、キヴォトスでも屈指のエリート部隊であるFOX小隊であれば制圧が出来ずとも多少の手傷を負わせ、適当な理由をつけてヴァルキューレ主導で逮捕にこじつけることもできたはずだった。
なのに、なのにだ……
「な、なぜ……!?」
今、私は窮地に立たされている。
FOX小隊の向けた銃口の先にいるのはあの大人……連邦生徒会顧問教師のセイジではない。
彼女達が向ける銃口の先に立たされていたのは……私だった。
「何故……か。
その疑問が出る辺り、どうやら全く気がついてなかったみたいだな?」
「い、一体……貴方は何をしたんですか!?」
「なに、簡単な話だ。
歪な形になった権力を修正してあるべき形に直した……
俺がやったことなんぞそれぐらいだ」
彼はソファから立ち上がり、先ほどまで私がやっていたような仕草で語りだした。
「そもそもだ。
SRTのような特殊部隊がたった一人の一存のみで動かせたというのがおかしな話だ。
こういう組織はワンマンで責任云々を抱えるにはリスクもデカい上、例え抱えられたとしてもそいつがいなくなればただの金食い虫だ」
「……だからこそ、俺はそれを書き換えて修整してやった。
責任は一人ではなく特定の数人に。
たとえ責任者の一人が居なくなろうが管理や維持、活用ができるように。
特殊部隊……軍というものが本来あるべき形になるようにしてやったというわけだ」
目の前の男が語るその内容……
それはまさに、私が危惧しつつ利用しようとしていた連邦生徒会とSRT間での責任をめぐった軋轢。
本来SRTは連邦生徒会長直轄の部隊。
あの超人以外の生徒会メンバーでは権限的に動かすことが難しく、動かすにしても誰がその責任を取るのだという厄介事の押し付け合いによって、彼女たちの立場は宙ぶらりんになっていた。
そのままにしておくのは忍びないとヴァルキューレへの統合案こそ出ていたが、防衛室としてはそんな事をされても困るというのが本音。
そもそもSRTとヴァルキューレでは運用方針や使用する装備等が大きく違い、統合するとなるとその分こちら側も手続きやら運用マニュアルの教育やらで余計に人を取られる。
確かに後には人が増えるだろうが、今の不安定なキヴォトスの情勢でヴァルキューレの人手を割いてまでやることかといえばそれは否である。
そういうのはもっと落ち着いている時に時間をかけてやることだ。
つまるところ……私としてはヴァルキューレへの編入自体には反対の立場であった。
しかし、この統合案を進めてるのはリン代行のシンパ。
リン自体は特にSRTの方については意識していないようであり、実態はリン派の議員達が彼女自身の意向を確認することなく進めているのが現状であった。
……だからこそ、私はカイザーと手を組んでまで色々と手を回していた。
ヴァルキューレの装備の拡充、FOX小隊を抱き込んでリン派の一部議員の排除、その他にも表には出せないようなアレやコレや……
全ては少しでもあの超人に追いつき、自分こそが彼女の変わりに相応しいと証明するため。
自分こそが新しい超人と世に知らしめ、キヴォトスを導く。
……そのはずだった。
そんな私の悲願も、これまでの努力も、何もかもをこの男は踏みにじり、皮肉にも自分の目的通りのことを成し遂げてみせたのだ。
「ふ、ふざ……ふざけるんじゃないですよッ!?
私が……私が何のためにここまでやったと……ッ!!!」
「ふむ?カイザーの駒として働いて、奴らの思い通りの世界にしてやる事がそんなに上等なことなのか?」
「………は?貴方、一体何を言って………」
「まだ気づかんのか………
奴らは別に連邦生徒会のトップがどうなろうが知ったことじゃない。
結局その全てを奪ってしまえば大して変わりはないんだからな?」
……この男は、一体何を言っている?
それじゃあまるで……
「……私がカイザーの手のひらで踊ってるとでも言うんですか?」
「そう聞こえなかったのか?
むしろ今まで気が付かなかった辺り、お前が鈍いのかあいつらの服芸が上手かったのか分かったもんじゃないな」
そう言いつつ、彼はどこからともなく書類の束を取り出して机に叩きつけるように置いた。
その書類には見慣れたカイザーのものと思われる報告書が……は?
「……なんですか……何なんですかこれは……!?」
私は思わず書類の束へとかじりつくかのごとく目を走らせ、その内容に絶句した。
その内容は……今の私には到底受け入れられないものだった。
――連邦生徒会制圧作戦草案
――シャーレビル内部のオーパーツの確保について
――防衛室長不知火カヤへの対応と作戦後の処遇
捲くれば捲くるほどカイザーの闇が噴き出し、自身も計画のための捨て駒として利用されているという真実に頭を殴られる。
「そんな……!こんな……こんなはずでは……!」
「下手な野心を持った奴はみんなそう言う」
私が呆然とする中、彼は……セイジ先生は私へと一歩歩み寄る。
「ヒッ……!?」
思わず、私は小さく悲鳴を上げながら後ろに下がり……
何かに引っかかって床に尻もちをつくように倒れる。
「野心とその心意気は随分と立派だったが……
最後は全員、社会という名の怪物に喰われた」
「こ、来ないで……来ないでください……!?」
私は腰を抜かしたまま後ろへと下がるが……下がったすぐそこには逃げ道はなく、無情にも壁しかなかった。
「「自分はこうならない」「同じミスは犯さない」
……そいつらはそんな事を言っていたが、身の丈に合わん事に首を突っ込んで身を滅ぼした」
逃げ道を無くした私に一歩で大きく近づき、彼は目の前でしゃがみ込むと私の目にその恐ろしい双眸を映し込んだ。
「だが、お前は運が良い。
代償を払う事にはなるが……お前のその望み、叶えてやろうか」
そう言って差し出された右手。
恐怖と絶望に支配された私にとって、その手はまるで仏の御手のようにも見えた。
……しかし、私の本能は理解している。
その手は仏の手などという慈悲に満ちたものではない。
それを掴むということ……それは悪魔に魂を売るも同然の行為であると。
目の前の男は神などという神聖なものではなく、地獄から這い寄ってきた悪魔のような人間なのだと。
だが、だが………
私は、自身の欲と我が身の可愛さに負けてしまった。
この場に立っておきながら、今更私は後悔した。
確かに私は望みを叶えた。
………しかし、それは偽りで塗り固められたもの。
風に煽られて化けの皮が剥がれかねない、ハリボテの栄光だった。
……結局、私は超人にはなれなかった。
カイザーに踊らされ、嵌めたつもりになっていた男に救われ……
そして、その男によって神輿として担がれる人形へと成り果てた。
ならば……ならばせめて私は全うしなければならない。
欺瞞と虚構で塗り固められた、偽りの超人としての私を。
「この度はキヴォトスの皆様に多大なるご迷惑と安全保障上の不安を与えてしまい、誠に申し訳ございませんでした」
……しかし、この時だけは私は心から謝るしかない。
全ては私が蒔いてしまった種なのだから。
いかがでしたか?
私なりの見解ではあるんですが、多分カヤは色々と迂闊だったり言葉に乗せられやすいだけでそれなりに頭自体は回ると思うんですよね。
故に悪くはない線を行く策を講じて実行し、半ばぐらいまでは成功させたりもできるとは思います。
……が、想定もしてなかったような事態が起きてしまったことによって地獄を見るぐらいには不憫な星がついてるんだろうなぁとも思っております。
ま、半分自業自得みたいなものなので仕方ありませんね。
というわけで、また次の話をお楽しみに