――クックック、中々興味深い拾い物をしました。
――ホロテープ……。それも、私たちの知る物の規格とはまた違う形式のもの。
――クックック、どのようなデータがあるか気になりますね。
――幸いにも、これの挿入に対応しているコンピューターは同じく拾えました。
――さて、鬼と出るか蛇と出るか……
――暴かせていただきましょう、その正体を
この記録は私が独断で制作したものよ。
というのも、彼は私たちのなかでも一際異彩な立ち位置にいる故に研究対象として観察しやすいの。
興味深いことに彼の噂の半分以上は事実であり、周りからは眉唾に見えるような話が真実だったということも往々にしてあった。
だから、その記録を本人にさりげなく確認を取りつつこうしてまとめてみたの。
生憎私が求めるようなそそる話はなかったけど……
でも、それなりに興味深い話を纏められたわ。
今アナタが私のこの記録を見つけて読んでいるなら、彼には内緒にしておいてね?
せっかくホロテープの容量ギリギリになる程度の情報量でコレを残しているんですもの。
じゃあ、後のことは頼んだわよ
•釜茹でT-60事件 2102/○/○
当時の状況についての詳細な情報資料は残っていないが、現場を目撃したという彼の部下による証言によってある程度は認識することができた。
事の発端はレジデントの中でも悪名の高かった二人組が彼にちょっかいをかけたのが事の始まりだった。
当時の彼はそれはもうみずみずしい果実……いや、子供だったために舐められて下に見られていたのだろう。
部下のミュータント達が食料を取りに離れた隙を狙い、バカ二人はどっからか拾ってきたらしいT-60に乗り込んで彼に襲いかかったらしい。
どうやって制圧されたのかはミュータント達も見てないそうだが、彼らが帰った頃にはバカ二人はどっからか持ち込んだらしい大釜にアーマーを身に着けた状態で詰め込まれ、延々と彼らのスティムパックを注入しながら釜茹でにされていたのだそうだ。
当時を思い出したジェイソンによると、よくよくアーマーを見たら拳の形で凹んでる箇所が幾つもあったらしい。
つまり、このバカ二人はパワーアーマーを着ていながら身一つのセイジにブチのめされたのだ。
単純に彼が強かったのか、はたまたバカ二人が弱かったのか。
その後どっかの戦場で野垂れ死んだと聞いているため、その真偽は定かではない。
•積灰の山の惨劇 2103/○/○
彼に「
当時積灰の山には大量のモールマイナーが湧いていた。
コレを掃討するために私たちレジデントも駆り出された一方、その発生源を潰す依頼を受けたのは彼と部下のミュータント4体のみだった。
私も医療担当として現場で活動していたが、何人ものレジデントや依頼主のレスポンダーが運ばれてくる一方でその頻度は普通では考えられないほどに少なかった。
あの規模の作戦で負傷者を余裕でカルテ付きの診療ができたのは奇跡のようなものであった。
何があったらそうなるのかと当時の私は気になって直接見に行った。
……結論から言えば、私たちレジデントの所へと流れてきたモールマイナーの数がかなり少なかったのが理由であった。
というのも後の記録では私たちが相手をしたモールマイナーの数は約300程度。
しかし、事前の想定では積灰の山に陣取っているモールマイナーの数はおよそ6200体という見積もりが出されていた。
では、なぜこんなにも数が減ったのか?
その理由の証拠は、積灰の山の頂上付近……バケットホイールエクスカベーターの周辺にあった。
今回の件で発生したモールマイナーは古い坑道から出現していたとの記録がある。
今はあいつらの発生原因も含めて色々と分かってるけど、情報が無い中で依頼を受けた彼らはとにかくマイナー達が湧いてる方向へと進撃し続けたらしい。
結果として坑道に大量の核爆弾をぶち撒けて制圧したらしいが、その道中で相当な数をシバいたためにか坑道があったらしい頂上付近は大量の肉塊と血で真っ赤に染まっていた。
もはやモールマイナーだったのかもわからないほどにぐちゃぐちゃだったが、少なくともレジデントやレスポンダーで死人は出ていなかったので多分モールマイナーだったのだろう、たぶん……
•ヤオグアイ乱入事件 2103/○/○
なんともうらやまけしからないが、彼が入浴していた風呂場にヤオグアイが乱入してきたのだ。
どうやら近くでレジデント達に群れごと殺されかけたらしいボス個体が逃げてきた末、空腹と渇きに飢えながらたどり着いたらしい。
近くで入浴していたクレーターのトレーダー達は真っ先に逃げたが、彼はそのままヤオグアイと殴り合いになったらしい。
まぁ結果はお察しの通り、ミンチよりも酷い状態になったヤオグアイの死体が転がることになった。
彼も彼で爪に何回も引っかかれたり吹き飛ばされたりしたみたいだが、スティムパックで傷跡は残りつつもほとんど治してしまったらしい。とても残念だ。
そのヤオグアイだが、群れのボスだったこともあってダスキーの王冠級……その上、3等級の伝説級個体でもあった。
正直、並のレジデントであろうとも武装していても死にかねない化け物を素手かつ裸で仕留めたのは中々に恐ろしい。
……これではお風呂に入ってる彼を味見しに行くことは困難だろう。
とにかく、その事件以降逃げたトレーダー経由で彼の実力についてアパラチア中に噂が広まったのは確かだ。
傭兵としてはこれ以上ないほどの宣伝になったのは言うまでもないだろう。
•ニューリバーの吊るし上げ 2103/○/○
彼の有名な逸話といえばこの話は欠かせない。
ある時、モスマン教団とブラッドイーグル達が身包み全部剥がれてニューリバー渓谷橋に吊るされるという珍事が起きた。
犯人はもちろんだがセイジであり、なんでも一日に小隊規模で襲撃された腹いせでやったとのことだ。
特にモスマン教団についてはほとんど女ばかりであり、狙いは彼の種だったそうだ。
まぁ奴らに狙われる原因と言えば、この数日前に青紫の目のモスマンにめちゃくちゃ粉をかけられていたあの件だろう。
あの日以来彼のもとにはひっきりなしにカルトの連中が襲来してきており、中には子供を産ませろとかいうふざけたことを抜かすババアまでいた。
いつかは起こると思ったが、よりにもよってブラッドイーグル共の襲撃と重なって纏めて殲滅されたようだ。
吊るされていたのはその際の生き残りであり、素っ裸の状態で一列に吊るされている奴らの姿はお笑いだった。
因みにそいつらは誰が助けるでもなく、通りがかった変異生物やデスクローの餌になった。
まぁあいつらは別に死んでも誰も悲しまないので気にすることでもない。
•デビルファイト事件 2104/○/○
連続して書くことになるが、またしても彼は風呂に入っているときに襲われた。
これまででも相当やばかったが、この件は格別にインパクトとパンチの効いた事件だった。
というのも、この時彼を襲撃したのはまさかのブルーデビルだったのだ。
この頃、ブルーデビルという未確認生物の名前が知られていたのはごく一握りのレジデントの間でのみだった。
というのも、奴らは人が全く寄り付かない場所に小規模ながらも生息域を持っており、この時の個体も含めて我々人類の前に現れる奴らはいわゆるはぐれ者の個体なのだ。
まだこの頃はそこまで多くのはぐれ者が流れ着いていなかったために知られていなかったのだが、よりにもよってそんな時期に彼は襲撃を受けたのだ。
まぁ例によって武器を手に取る暇もなく、結局素手での殴り合いになったらしい。
結果として、彼はブルーデビルとの殴り合いに勝利した。
騒ぎを聞きつけて私たちが駆けつけたその時には、ブルーデビルは彼の目の前でヘソ天をかまして降伏していた。
何を言ってるのか分からないと思うが、これは事実だ。
まさかの彼はブルーデビルを殴り合いで制し、そのまま調伏してしまったのである。
この一件はそこまで広くは知られていない話にはなるが、それでも一部では尊敬と畏怖を込めてこの一件を「デビルファイト」と呼んでいる。
多分だが、こんなものと比べられることは悪魔にとってたまったものじゃないだろう。
•子供に敗北 2104/○/○
彼の噂のなかでも最も荒唐無稽でありつつ、しかし背景を知れば納得のできる実話。
それがこの話だ。
発端は私達の組織に入った依頼の関係で彼がとある居住地に派遣された時のこと。
この居住地は子供を多く抱えている場所であり、レジデント含め様々な組織によって手厚く守られ支援されている集落であった。
彼とアポカリプス隊は集落近くで大量のスコーチが目撃された関係で、臨時の護衛として派遣されることになった。
このスコーチ達については一部のレジデントとニュー•カットスローツ、つい最近再結成されたレスポンダーの派生部隊ファイヤーブリーザーによって殲滅された。
その間特に襲撃があるわけでもなく彼らは居住地を護衛してたのだが……
この時、とある珍事件が起きた。
防衛線の整備等が終わって手が大きく空いた彼は子供たちにせがまれて遊んであげていたのだが、とある子供に持ちかけられた勝負であっさりと負けてしまったのだ。
勝負内容は単純なもので、規定時間内に題材となる共通のモデルの木像を制作するというものだった。
もちろん、彼はそれなりに手先は器用ゆえにそれなりには作れるはずだった。
しかし、そのモデルが問題で彼は彫ることができなかったのだ。
この時の題材になったのは一人の少女。
中々可愛い子ではあったけど、そこまで物珍しいような顔立ちでもない至って普通の娘だった。
……だが、彼の目には何か違って映っていたのだろう。
その試合を観戦していたチェリーボ……少年の話によると、何故かは不明だが突然彼の彫る手が遅くなったらしい。
もちろん手は止めずに完成はさせていたものの、その速度はかなり下がっていた。
結果としてクオリティはわずかに彼が勝っていたが、反面重要だった時間の点では子供に負けてしまったのだ。
誓って言うが、彼は勝負となれば真剣になるため八百長などは絶対にしない。
なので、彼は普通に子供に敗北してしまったのだ。
この件については「子どもに負けた」という点だけが一人歩きしていたものの、私達セブンシンズのメンツや集落の人達子達はその詳細込みでよく知っている。
特に私は、その任務から帰ってきた後の彼が時折上の空になるようにその時の像を見返している姿を見かけていた。
……彼の経歴上、仕事の関係で何かが起こっていてもおかしくはない。
側近の部下である4体のミュータント達もまた、何かを思い出すように共にうなだれているときがあったので間違いなく何かがあったと見て良いだろう。
しかし、何が起きたのかについて……私はあえて聞かない。
理由は簡単なことで、彼らのデリケートな部分に土足で踏み込むのは憚られたのだ。
少なくとも彼らは一人で悩んでいるわけではない。
共有し、共に思い合いつつ悩みあっているのだ。
さすがにあの空気をブチ壊して彼らを怒らせてしまうのは私としても流儀に反した故、放っておきつつ見守るだけに留めた。
珍しい光景ではあるものの、彼らもまた「人間」なのだから。
――ほう?
――これはこれは……クックック…!
――まさかこのような形で先生について知る機会があるとは……!
――なるほど、これは彼の仲間が執筆したらしいですね?
――ですが……うまく観測できませんね。もしや既に故人なのでしょうか…?
――……ふむ、これもまた貴重な資料と言えるでしょうか?
――とりあえず、これについてはデカルコマニーとゴルコンダに相談して共有するとしましょう。
――ベアトリーチェは……彼女には教えないほうが良いかもしれませんね。
――クックック……実に興味深い。
――セイジ先生……貴方という大人は私たちと何が違うのでしょうかね?