After La+ ジュピトリス・コンフリクト   作:放置アフロ

21 / 33
飲茶攻略戦

 そこでフラストとルナンは軽く食事を取り、仕事の話はしばしお預けとなった。

 

「フラストさん、叉焼酥(チャーシューソ)(※中華風ミートパイ)だけでいいのかい?ここの排骨(パイクワ)(※骨付き豚肉)も絶品だよ」

「いや結構」

「あんたぐらいおごらせてくれよ。向こうのお連れさんはちょっと勘弁だけど」

 

 と言って、ルナンはモニターを指し示した。

 マリアたちの円卓は豪華絢爛ともいうべき、数々の料理が所狭しと並べられていた。

 

「あいつら・・・」

 

 思わず、呻くフラストの口の端からパイ生地のカスがこぼれ落ちた。

 

 

「そういえば、《ジュピトリス》のクルーがこのタイガーバウムにいるってことはあの船も入港しているのか?」

 

 食後の茶をすすりながら言うフラストの言葉に、ルナンは呆れ顔となった。

 

「あのなぁ、・・・全長2kmの馬鹿長い船が、コロニーの港に入るかよ」

「あ・・・」

 

 肝心なことを忘れていて、フラストは苦笑いの口元を湯飲みで隠した。

 

「だが、今のはハーフ・コレクトってとこだな。近くには来ている。うちのジャンク回収をやらしてる奴等が、ここからそう遠くないデブリ帯の端でそれらしい艦影を見たそうだ。

 しかも、そのでかい船は今日で丸1週間もそこに留まっているそうだ。リンが来たのが10日前だから、実際にはもっと前からいたのかもしれん」

「デブリ帯の端ってのが、いやらしいな」

「ああ。もしも隠れるなら、中に隠れたいんだろうが、あの図体だ。どだい無理な話だ」

 

 会話を止め、ルナンは空けた湯飲みに新たな茶を注いだ。

 

「フラストさん、おかわりは?」

「いや結構。それより」

 

 フラストは自分の湯飲みを卓に戻しつつ続けた。

 

「無駄になるかも知れないが、カール・アスベルのこと一応調べといてくれ」

「わかった」

「結果はメールで『リバコーナ貨物』のギルボア・サントのアドレス宛てに送ってくれ。

 パスワードは『ウサギのソテー』で頼む」

「旨いのか、それ?」

 

 からかうように、ルナンが尋ねた。

 ふっ、と顔を逸らしたフラストに、モニターに映るマリアが目に入った。彼女は皿からはみ出そうなほど巨大な肉団子を前にして、目を白黒させ戸惑っている様子だった。

 

「ここの山竹牛肉球(サンジュッガウヨッカウ)には負けるよ。さて・・・」

 

 膝を叩いたフラストは立ち上がり、少し迷うような顔つきになったが、思い切って訊いた。

 

「最後にいいか?」

「なんだ?俺に答えられることなら・・・」

 

 一際真剣なフラストの表情が、ルナンの口調を尻すぼみのものにする。

 

「あんたはネオ・ジオンを嫌っているようだが、そのあんたがなぜここまでしてくれる?」

「そいつは誤解だ。俺が嫌っているのは、社会のシステム根本やこのコロニーのヒエラルキーそのものだ。

 もっとも、その中にネオ・ジオンの一部が含まれている、ということはあるがな」

「一部?つまり、そこに俺たちは含まれていないってことか?」

「・・・・・・」

 

 ルナンはそのフラストの問いかけには答えなかった。

 

「ルナン。あんたは金次第で、右でも左でも転ぶタイプだ。リンって奴から、それこそ結構な額の依頼金を提示されたんじゃないか?

 それでも、あんたは『俺たちの側』に立っていられるのか?」

「俺には果たさなきゃならない義理ってのがあるのさ」

 

 フラストは沈黙を守り、ただ目を細めて先を促した。

 

「あんたらの連れのマリア・アーシタ。あいつの義理の兄貴は俺たちの命の恩人だ。

 理由はそれで十分だろ?」

「わかった」

「フラストさん。だけどそのことを彼女には言わないでおいてくれ。こんなことを恩に着られても、こっちが困るんでね」

「ふっ。素直じゃないね」

「ヒネのあんたに言われたくないね」

 

 二人とも意味深な笑みを浮かべていた。

 いよいよ、出口に向かおうとするフラストは振り返り、しかし、立ち止まった。

 

「ヒネくれた俺にもう一つ答えてくれねーか?」

「しつこいな。なんだ?」

 

 少しイラついた口調でルナンが言う。

 

「あんたがただの守銭奴なら、まとまった金を手に入れた時点で、こんなコロニー見限って出て行ってるさ。

 だが、なぜ残っている?なにがそうさせるんだ?」

「はっはっはっ!なんだそんなことか。

 俺はこの店の飲茶が好きなんだよ。点心も旨いしな」

 

 声を立てて笑うルナンを見たフラストの顔は『ハトが豆鉄砲でも喰った』かのようなひょうきんなものだった。

 

「あんた、やっぱり『喰えない』男だよ、ルナン」

 

 

 

 フラストが去った部屋で独りルナンは冷めた茶を飲み干した。

 おもむろに、卓に伏せておいた写真立てを起こす。

 そこには10年前、スタンパ・ハロイの圧政で苦しむ生活の中で、微かな希望を信じて生きていた5人の少年少女たちが写し出されていた。

 その中で今も生きている者は、写真を手にするルナンただ一人しかいない。

 

(ヤン、アルビン、テラ、・・・それにミレアム)

 

 ルナンはそれぞれの顔を指でなぞり、想いを馳せる。

 ひとりは、路上屋台で食事をしているときに後ろから撃たれて死んだ。別のひとりは、歩道に乗り上げてきたトラックに轢かれて死んだ。3人目は、仲間を裏切った報復にルナン自身が手を下した。

 そして、最後の少女。彼女はある日、突然ルナンの前から姿を消し、3日後、・・・。

 

(もうやめだ)

 

 ルナンは嫌なことを振り払うかのように首を振った。汚い思い出はもう十分だった。

 せめて、彼女だけは綺麗な思い出を取り出そうと、ルナンは思う。

 ピッグテールの栗毛のミレアムを見ると、ルナンの胸中には昔の甘酸っぱい記憶が去来する。

 

(やっとここまで来た・・・)

 

 彼が組織に上り詰めるには、『それほど』の血を流す必要はなかった。

 だが、流した血は確実に古傷となって、彼の心の奥に残っていた。まるで、湯飲みの底にたまった茶葉のように。

 

(だが、まだまだだよ。俺は古いタイガーバウムをぶっ壊してやる。

 そして、お前たちみたいな子供が二度と泣かないようなコロニーにしてみせる)

 

 ルナンは写真立てを握る手の指先が、白くなるほどに力を込めた。

 

 

 

「お前ら、俺を破産させる気か?」

 

 マリアたちが食事する円卓に戻ると、その惨状にフラストは天を仰ぎたい気分になった。

 

「フラスト、すまん」

 

 アレクがサングラスを外し、象のような小さな目をますます小さくさせたようだった。

 『凶行』を止められなかった男の、後悔と懺悔の目だった。

 

「ユーリア、お前、どこにこんだけ詰め込められるんだ、・・・・・・?」

 

 と、言いかけたところでフラストは自分の間違いに気付いた。

 ユーリアはその細い体を、すっ、と伸ばし、口元に湯飲みを寄せ、化粧品にも似た濃厚な香りをたてる茉莉花茶(モウレイファチャ)(※ジャスミンテイー)を楽しんでいた。

 目を閉じ、すました表情の彼女の前には、確かに空の皿も蒸篭も多くなかった。

 しかし、隣に腰かける栗毛の前に置かれた蒸篭はうずたかく積まれ、立ったフラストの腰高に迫る勢いであり、さらにその『蒸篭塔』の横、大小様々な皿が重ね合わされた複合体は、押せば崩れる絶妙なバランスを保つ不気味なオブジェと化していた。

 見れば、マリアはまるで悪戯を見つけられた少女のように顔を赤くし、はにかんで俯いていた。

 目は小動物のようにあちこちを泳ぎ、握った両手はきちんと並べた両膝の上に並べられていた。

 それは演技の匂いのない自然な表情と仕草だった。

 

(小食じゃないのかよ。まったく、こいつはマリーダとは大違いだな)

 

 苦笑しながら、しかし、フラストは思う。マリーダ・クルスがこんな表情をできただろうか、と。

 

(いや、あいつだって・・・)

 

 

『お父さん・・・わがままを・・・許してくれますか?』

 

 

 2年前、死ぬ前に聞いた彼女の言葉をフラストは思い出した。

 きっと彼女もマリアと同じように、共依存とマスターというくびきを自ら断ち切ることができたのだ。

 

(あいつだって、もし生きていれば・・・)

 

「フラスト?」

 

 気付けば、少し考え込んだ顔付きをしていたフラストを気遣うように、マリアが上目遣いで見上げていた。

 

(哀しき幻影・・・、かな。俺も年取ったな)

 

 鼻が、つん、としてきたフラストは指でそれを擦り、誤魔化すようにそのままの動作で財布を取り出した。

 

「最近、過食症にでもなったのか、おっ?」

 

 引きつった笑いを頬に貼り付けながら、フラストが言う。

 

「え、えぇと、なんかここのところ異常食欲で、・・・この程度の量なら赤子も同然だね」

 

 マリアは目をフラストから逸らしながら、右手の人差し指はひたすらにくるくると栗毛の横髪を巻きつけていた。

 

「お前自分で何言ってるか分かってないだろ・・・。

 まぁいい。こき使ってやるから、覚悟しろよ」

「ああ・・・」

 

 何事か察したらしい、マリアはばつが悪そうに俯いたが、次には口を、きっ、と一文字に引き結び顔を上げた。

 

「私、洗濯頑張るよっ!」

「「「それはやめろ!!!」」」

 

 期せずして、フラスト、ユーリア、そして無口なアレク、3人の声が重なり、一同は笑いの渦に包まれた。

 

 

 

 そのころ、港の《ダイニ・ガランシェール》では。

 割り当てられたベッドでアンジェロは身の回りのものを整理し、必要なものだけズタ袋に入れていた。

 といっても、元々身一つでこの船に乗り込んだため、入るものもたかが知れている。

 この場は多人数用の大部屋だったが、今はコロニーに下船した者もおり、アンジェロ一人だけであった。

 準備は簡単に済み、アンジェロはズタ袋を肩に担いで立ち上がった。

 やけにスペースの多いそれは無重力下ということも相まって軽かったが、それに反して彼の気持ちは重かった。

 すでに、アンジェロは《ダイニ・ガランシェール》をここタイガーバウムで降り、いずこかに向かおうと決意していた。

 パラオに行くつもりはない。

 それはフラストらネオ・ジオンから逃れるためではない。

 マリアから離れるためである。

 

(彼女にもうこれ以上・・・)

 

 廊下を泳ぎながら、アンジェロの眉根には深くシワが刻まれていた。

 彼女と肉体と精神を重ねた今、アンジェロははっきりと感じていた。

 

(マリアは、・・・私の心を癒そうとしている)

 

 彼女は単に自分の寂しさを紛らわしてほしいだけでも、傷の舐め合いをしようというのでもなく、はっきりと自分の心身をアンジェロのためにさし出そうとしていた。

 それがアンジェロにはたまらなく辛かった。

 

(落ちてゆくのは、汚れていくのは、・・・私だけで十分だ。

 きっと彼女は私と肌を合わせる度に、私の哀しみ、寂しさ、孤独を感じ取るだろう。

 そんなことをマリアに、・・・私は強いれない)

 

 肉を合わせた瞬間に、マリアの体の下から入り込んだアンジェロの負の記憶が、彼女を悶えさせた、胸を締め付けさせた。

 その行為の最中にマリアの小さな眉根に刻まれたシワ、そして、彼女の気持ちがアンジェロの心にも相互に入り込み辛かった。

 かつて、アンジェロの心の中に無遠慮に入ってきた少年がいた。腹立たしかった。恥ずかしかった。

 

『人は分かり合えるんだ!』

 

 勝手に自分の価値観を押し付けてきながら、その少年とアンジェロでは背負ってきた人生の(おり)が全く違っていた。

 違いすぎる。分かり合えるはずがなかった。

 しかし、『人間兵器』という数奇な生を受け、なお幸せを目前までちらつかされながらそれを取り上げられた少女プルツー、そして空虚になってしまったマリアに、

 

(寂しさを埋めてあげたい。あなたを支えたい)

 

 と思われたとき、アンジェロはうれしかった。

 そして、同時に哀しくもあり、恐れを抱いた。

 

(この娘にこれ以上、寂しさを共有させたくない。

 私はもうこれ以上、大切な人を失いたくない)

 

 フル・フロンタルの顔貌がアンジェロの脳裏をよぎる。

 今思い返せば、その関係に愛は無かったのかもしれない。

 しかし、一方的であったにせよ、アンジェロがフロンタルに対して強い想いを抱いていたのは確かである。

 マリアの想いとアンジェロの想い。強い二つが重なる今、大きな誤解とわだかまりが生じていた。

 

 

 

 飲茶店・帝園酒家を出た後、フラストら一行は大通りに戻るように歩いていた。

 

「ねーねー、デザートも食べたいなー」

 

 ユーリアの甘える声がフラストにかかる。

 

「あのなぁ、俺は尻の毛まで抜かれて鼻血も出ねぇの」

 

 ふてくされたようにズボンのポケットに両手を突っ込んで歩くフラストに、フードの内、サングラスの下でマリアは申し訳なさそうな顔をする。

 

「大体、お前あの店で食べなかったの?杏仁豆腐とかマンゴープリンとか」

「ちょっと、思い出しちゃったじゃない。フラストが急にお会計済ませるから、食べれなかったんだよぉ。

 マリィ、何食べよっか?」

「えぇぇ・・・そんなこと言われても・・・」

 

 尻すぼみに声が小さくなるマリアである。

 

「そもそも、スポンサーは誰なんだ、スポンサーは?」

 

 飽きれたように、フラストが言う。

 

「アレクさぁぁん♪」

 

 アレクはその大きな太い腕がユーリアに寄りかかられ、柄にもなく顔を赤らめた。

 

「や、屋台ぐらいなら・・・」

「やったー!マリィ、アレクさんがおごってくれるってー。何か甘いもの食べよー。何がいい?」

 

 マリアがアレクを気遣うように巨躯を見上げると、彼は口を閉じた貝にし、腹を決めたように頷いた。

 

「やっぱりここは中華の伝統スイーツかなぁ。タピオカもいいなぁ。それとも、・・・」

 

 ユーリアが通りに居並ぶ屋台に目移りしながら、つぶやく。マリアも釣られて彼女に倣うが、店の多さに決められない。

 小豆をトッピングした牛乳プリン、ココナッツミルクと小豆が入ったドリンク、蜜やシロップをかけまわした豆腐花、色とりどりのカキ氷。

 正直なところ、

 

(全部食べたい!)

 

 とも思うが、さすがにそれほどのスペースはマリアの胃袋にもなく、また先ほどの飲茶店でやらかした失態を思い返すと、自重せざるを得ない。

 店と人の酔狂なさざめきに少し酔ったようなマリアは、ふと、コロニーの『ソラ』を見上げてみる。

 

(アンジェロもいれば良かったのに・・・)

 

「ねー、マリィー」

 

 気が付けば、マリアはユーリアたちから少し離れてところに立ち止まっていた。

 だから、その少し寂しげな表情はユーリアたちには気が付かれなかった。

 見れば、フラストは

 

(早くしてくれよ)

 

 という表情をしていた。

 その時、彼の頭上、雑居ビルの屋上に設置された球形の給水タンクがマリアの瞳に映った。

 その丸い形がある食べ物を彼女に連想させた。

 

「ユーリア、いいかな?」

「何かおいしそうなのあった?」

 

 上目遣いで再度その丸いタンクを見やったマリアは、視線を戻しながらたどたどしい口調で言った。

 

「アイスクリーム、・・・・・・かな」

 

 

 

 しかし、ただのアイスクリームでは面白くなかろうと4人は、ー最も張り切っていたのはユーリアであるが、-伝統と新しさが調和したフュージョン系スイーツ屋台を訪れた。

 フラストはシンプルにバニラアイスがのった豆腐花を、意外とユーリアも早く注文が決まり、キウイアイスのバナナと白玉添えをパクついていた。

 彼女の幸せそうな顔を眺めながら、

 

(なんでこう、女って甘いもの好きなんだろうねぇ)

 

 フラストがスイーツ屋台の方へ目を移すと、慎重な足取りでこちらの卓へ近付くマリアの姿を捉え思わず、ぎょっ、となった。

 正確には彼女が持つパフェにである。

 ゴトッ、と重量感をたたえながら、マリアがそれを折畳み卓の上に載せる。路上に置かれた屋台客用の粗末な卓は重さに揺れ、一心にパクついていたユーリアもそのパフェに気付き、次の瞬間唖然とする。

 巨大なガラス容器の最下層には中華伝統の涼粉ゼリーとマンゴーフルーツが黒とオレンジの鮮やかなコントラストを演出し、その上ではチョコレートとストロベリーのアイスクリームがさながら惑星の激突する様子を再現していた。

 隙間を作ってなるものかと空いたスペースには白玉とココナッツミルクが、さらには、トドメとばかりに頂上に生クリームが盛られスティックチョコが突き刺さったそれは、もはや何と表現してよいのか分からない正体不明のパフェであった。

 その手のスイーツに弱いフラストは、見ただけで吐き気を催す凄まじい破壊力であった。

 マリアの横にいる亀ゼリーを手にしたアレクも『同感』といった顔をしていた。

 

「おまえなぁ、・・・」

 

 フラストは中々、その先の二の句が継げなかったが、

 

「この後《キュベレイ》に乗るようなことになったら、ヘルメット被らない方がいいぞ。

 溺れ死ぬぞ!」

 

 ユーリアがその言葉でようやく復活し、クスリ、と笑った。

 

「あと、コクピットの掃除をトムラたちにやらせるなよ」

「大丈夫だよっ」

 

 スプーンをブラブラとマリアの方へ指し向けるフラストに、マリアは赤面しながらも少し憤慨した口調となった。

 気を取り直して、マリアはスプーンを手にしストロベリーのアイスをすくって口にすると、幸せそうな顔をユーリアと合わせて頷いた。

 一方の野郎2人は眉を『ハ』の字にし、うんざりした顔をしていた。

 

 

 

 さすがに、点心を食べ過ぎたマリアはスプーンを口に運ぶペースが落ちた。

 しかしそれでも、いやむしろ遅くなったからこそ、その一口一口をまるで人生の喜びをかみ締めるように咀嚼していた。

 3分の2ほど平らげたマリアは、今はほろ苦い涼粉とマンゴーとココナッツの濃厚な香りと甘みの絶妙なハーモニーを楽しんでいた。

 

(なんだか本当にこのところ食べてばっかりだ・・・)

 

 2、3日前からマリアの食欲は『吸引力が変わらない掃除機』と形容してもいいほどの超絶ぶりだった。

 自身でもその原因はよく分かってなかったが、今まででもかなり安定した精神状態にある彼女は、あまり深くそのことを考えずにいた。

 先に食べ終わったフラストたち3人はちょうど食器を屋台に戻しに行き、そのまま

 

「通りを見て歩きたい!」

 

 というユーリアについていった。男人街の屋台は服や雑貨小物を扱っている屋台も多くあった。

 時間帯からいって、今は準備中のところが多かろうが、それでも女子にとっては見て歩くだけでも楽しみなのだろう。

 

「私は平気だ。行って来な」

 

 マリアも快く送り出した。

 

 

「ふーぅ」

 

 ひとつため息をついたマリアは、さすがに満腹という感じだが、あと2口3口でパフェの容器の底が見えてきそうで、同時に残念そうでもある。

 しかし唐突に、手にしたスプーンの動きが止まる。

 マリアの栗毛の付け根が熱を持ったようにジリジリとなってきた。背の真ん中に熱線が浴びせられているような感じもする。

 背骨に沿った溝を汗が流れ落ちるが、それはまるで熱を冷やすような気配が無い。

 マリアは今更ながらに、フードを脱ぎ卓にサングラスを置いたことを後悔した。スプーンの右手を離し、そろそろとパーカーのポケットに手を入れ、中に隠し持った無線機型の拳銃を握り締めた。

 彼女のすぐ隣、アレクが座っていた椅子と、斜向かい、フラストが座っていた椅子に何者かが腰掛ける気配がする。

 卓上のパフェから視線を移し、にらむようにそちらを見ると、葬儀に出席するかのような黒服スーツにサングラスの体格が良い男たちであった。

 胸板がやけに厚いのは彼らが純粋に鍛えているだけでなく、

 

(下にボディ・アーマーを着込んでいるな)

 

 と、マリアは予測した。手にした変装拳銃の9mm弾薬がひどく心許なく思えた。

 そして、正面からひときわ粘性を持った視線が彼女の体をなめ回した。雑踏の中でも聞き取れる硬いヒールの足音を響かせて、ダークグレー、細身のパンツスーツの女がマリアの目前に迫った。

 

「お久しぶりねぇ。お尋ね者のマリア・アーシタ【元】士長」

 

 邪眼があれば、

 

(お前を呪い殺す)

 

 という感じでマリアがその女をにらみ見上げる。

 

「それともこう呼んだほうがいいかしらぁ?被験体名プルツー」

 

 リンはまるで路上の汚いものでも見るような目付きでマリアを見下ろした。

 

 




(作中より)
『気を取り直して、マリアはスプーンを手にしストロベリーのアイスをすくって口にすると、幸せそうな顔をユーリアと合わせて頷いた。』

 話はこの先も続きますが、結局、この一文を書きたいために頑張っていたのかもしれない。
 アイスクリームを食べられなかったマリーダ・クルスに合掌。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。