新訳 そして伝説へ・・・   作:久慈川 京

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レーベの村③

 

 

 

「サラ、もう大丈夫だ」

 

 リーシャが掛ける声で、サラは自分が目を瞑っていた事に気が付き、慌てて周囲を確認する。そこは、つい先程までの見渡す限り海がある小島ではなく、周辺が平原の<レーベの村>の入口付近であった。

 <ルーラ>は、魔力により術者を運ぶが、時間までを超える事は出来ない。遠くへ行こうとすれば、それなりの時間を要してしまうのだ。

 実際、塔の外で潮風に当たっていた時は、陽が半分ほど沈んだ夕暮れ時であったが、今は、サラの近くにいるリーシャの顔すらも、はっきりとは確認出来ない程、周辺には夜の帳が広がっていた。

 

 一行が<レーベの村>に入ると、外に出ている人間はほとんどいなかった。

 それぞれの家には明かりが灯され、煙突からは暖かな煙が立ち上っている。入口にある番所にも明かりが点けられ、入口の門にも篝火が焚かれていた。

 門に立つ兵士に身分を伝え、村に入る事を許されたカミュ達は、店仕舞いが終わり、どこか物悲しい雰囲気を漂わせる通りを歩いて、宿屋へと足を向けて行く。

 

「……カミュ様、一つお伺いしてもよろしいですか?」

 

 小走りでカミュへと追いついたサラが遠慮がちに問いかける言葉に、カミュは無造作に振り返る。

 サラの顔色は塔内部にいた頃よりも良くはなっていたが、それでも心の奥に残る暗い物を隠しきれてはいなかった。

 返事はしないが振り返った事で、質問を許されたと考えたサラは、そのまま<レーベの村>に着いてから考えていた事を口にする。

 

「……カミュ様は以前に<レーベの村>に来た事はなかったのですか?……地下道の入口のあった小屋の場所に行った時に、<レーベ>に寄る事はなかったのですか?」

 

「……そう言われれば、そうだな……<ルーラ>が使えるのなら、アリアハンを出てすぐに、<レーベ>に来る事が出来たのではないか?」

 

 サラの発した疑問の内容に、リーシャも思いついた疑問を口にする。

 確かに二人が言うように、カミュに<レーベの村>の記憶があれば、<ルーラ>という魔法によって、瞬時に移動する事が可能であっただろう。

 サラの出身地である<レーベの村>ではあるが、幼かったサラには、その村の記憶など微塵も残ってはいない。幼き頃に教会に引き取られ、その後は、つい先日までアリアハンを出た事はなかったのだ。

 

「……<レーベの村>に来た事があるならば、そうしている。討伐隊に同道した時でも、俺には村の中に入る資格はない。周辺警備か、夜通し魔物と戦っているかのどちらかだ。そんな人間に、村の記憶などある訳がないだろう」

 

「!!」

 

 カミュが受けて来た物がどういった事かを知っているリーシャにとっては、そのカミュの言葉に、更に驚く結果となった。

 傷つき戻れば、回復魔法で癒され、再度戦場に送り込まれる。村の中で眠る事も許されず、村周辺で夜通し魔物と戦わされていたと言うのだ。

 自分が所属していた討伐隊がして来た事の苛烈さに、リーシャは聞いた事を後悔する。逆に、カミュの話している内容を理解できないサラは、首を傾げながら、一気に意気消沈してしまったリーシャを不思議そうに見ていた。

 

 

 

「こんばんは、旅人の宿屋にようこそ……おっ、この前のお客さんかい。また、うちに寄ってくれて嬉しいよ。この前と同じ部屋で良いかい?」

 

 宿屋の戸を開けると、先日と同じようにカウンターの中で帳簿と睨めっこしていた主人が、一行を見て嬉しそうに声を上げた。

 この宿屋を出てからあった様々な出来事に参り気味であったサラとリーシャは、そんな宿屋の主人の優しい微笑みに自分達の心が癒されていくのを感じていた。

 

「ああ、この前と同じで頼む。確か、8ゴールドで良かったか?」

 

 カウンターに向かって、腰の革袋からゴールドを取り出したカミュは、そのまま階段の方に向かって行く。旅の疲れと精神的な疲れから、疲労困憊となっていたサラは、部屋に戻る前に、以前と同じようなソファーへと腰掛けていた。

 

「ありがとう。今日は夕食もあるから、出来上がるまでは部屋で一休みしていてくれ」

 

 宿屋の主人の言葉に、リーシャとサラの二人もカミュに続いて階段を上り部屋へと入って行く。主人は妻に来客を告げ、三人分の食事の用意を頼むと、湯を沸かすために風呂場へと向かった。

 

 サラが、主人の沸かしてくれた湯で身を清めた後に食堂に入ると、既にカミュと主人が席に着いていた。

 自分が遅れてしまったのかと思い、慌てて席に着くサラに、柔らかな微笑みを湛えながら主人は口を開く。

 

「普通は、お客さんと一緒に食事をする事はあり得ない事なのだけれど、家内も貴方方がすっかり気に入ってしまって……あの戦士様のお言葉に甘えて、ご一緒させてもらうことになったんだ」

 

「えっ!?……ああ……リーシャさんでしたら、きっとそう言うでしょうね。私は全く構いません。大勢で食べた方が楽しいでしょうし」

 

 宿の経営者が客人と食事を共にするなど聞いた事はない。

 だが、厨房の方から聞こえてくる声の主は、そんなことを気にはしないだろう。自分の身分に誇りを持ってはいるが、それを押しつける事も振りかざす事もしない女性だ。

 サラは日を追うごとに、そんなリーシャという人間を『人』として好きになって行く自分を実感していた。

 

「本当に人が悪いな。こんなに料理が上手なのに、私のような者に『教えて欲しい』など、厭味以外の何物でもないですよ」

 

 両手に皿を持ち、隣にいる女性とにこやかに会話をしていたリーシャが厨房から出て来た。

 両手に持つ皿からは、湯気と共に食欲を誘う匂いも立ち上っている。リーシャの言葉の内容を聞くと、そのほとんどは、宿屋の奥方が作った物なのだろう。

 

「ふふふ。うちの主人が余りにも貴方の料理を褒めるものだから、悔しくなってしまってね。少し、意地悪をしてみたの」

 

 宿屋の妻が持つ大皿からもリーシャが持つ皿と同じように良い香りがしている。サラの隣に座っているカミュもその匂いに唾を飲み込んでいた。

 二人が何往復かして、次々と食卓に料理を並べて行く。数々の料理が放つ匂いにサラの食欲も制限が出来ない状況に陥った頃に、ようやく全ての料理が出揃った。

 

「こら、カミュ!まだ手をつけるな!」

 

 料理が出揃ったことを確認し、料理に伸ばそうとした手をリーシャに叩かれたカミュは明らかに不満そうに眉を顰めた。

 それでも、戦闘時などとは違い、食卓という場所では、カミュよりもリーシャが上である。

 カミュの不満そうな瞳を真っ直ぐと見詰めるリーシャの視線を、カミュの方が先に逸らしてしまった。

 

「ふふふ。ごめんなさいね。もう一人、まだ来ていない子がいるから呼んで来ますね」

 

 そんな二人のやり取りに微笑みながら、宿屋の妻は厨房とは反対側にある戸の中に入っていった。

 その扉の先は、この夫婦の居住区なのだろう。

 

「他にお客様がいらっしゃったのですか?」

 

「……いや……お客じゃないんだ。私達には子供が出来なくてね。つい最近に、養子を貰ったんだ。少し辛い目にあった子なんだが……その影響でなかなか心を開いてくれなくてね……」

 

 サラの問いかけに、宿屋の主人は珍しく俯きながら、哀しそうに言葉を紡いで行く。

 カミュは全く関心を示していなかったが、サラはそんな主人の言葉に何か引っかかる物を感じていた。

 

「……辛い目に?」

 

 サラの呟くような問いかけに、主人は軽く目を伏せ、言い難そうに口を開く。

 これから楽しく食事をしようとする時には合わない話題なのだろう。ぽつりぽつりと語り出した内容は、サラの心を抉って行った。

 

「……ああ……あの子は、両親と共にアリアハンからこの村に向かう途中で魔物に襲われてね。母親が傷だらけになりながら、あの子をこの村まで連れて来たんだ」

 

「……では、ご両親は……」

 

 何か思う所のあったサラは、続け様に問いかけを投げかける。一つ息を吐き出した主人は、サラの方に顔を向ける事なく、テーブルの端を見つめながら、その痛ましい過去を語り出した。

 

「父親は、妻と子を逃がすために死んだようだ。母親の方も、番所の兵士にあの子を預けると、そのまま息を引き取ったそうだ……」

 

「……」

 

 自分と全く同じような過去を持つ子供がいる事に、サラは言葉を失う。

 サラはその子供とは逆に、<レーベの村>からアリアハンに向かう途中で魔物に襲われた。

 三者三様の想いを感じていると、先ほど閉まった戸が再び開く音が食堂に響いた。

 そこから、先ほど入っていった宿屋の妻と一緒に四、五歳の少年が食卓に向かって歩いて来る。主人が言った通り、その姿は暗く物思いに沈んだ表情をし、心を閉ざしている様子だった。

 

「さあさあ、こっちに座って。今日はお客様と一緒に食べさせて頂くから、いつもより賑やかよ。ごめんなさいね、お待たせしてしまって」

 

 宿屋の妻に導かれるまま席に着いた少年は、食卓に並ぶ料理を見る訳でもなく、自分の手元を見詰めたまま動かない。

 宿屋夫婦はそんな少年の姿を沈痛な面持ちで見ていた。

 

「……もういいか?」

 

 食卓に着く全員が言葉を発することさえもできない空気が広がる中、唯一人関心を示していなかったカミュが、その場の空気にすら何の関心も示さずに、食事をとる許可を求めた。

 

「え、ええ、そうですね。いただきましょう」

 

 その言葉を皮切りに食事が始まった。

 例の如く、スープから口にしたカミュは、おそらく、リーシャやサラにしか気がつかない程の満足そうな、小さな小さな表情の変化を起こし、他の料理へと移って行く。

 

「カミュ、前から言おうと思っていたが、食事の前の祈りをお前に言うのは無駄だろうが、食事を作ってくれた人に対しての礼儀はしっかりとしろ」

 

 料理を、掻き込むように口に入れるカミュを見て、ため息交じりにリーシャがその姿を窘める。サラは、そのリーシャの言葉に少なからず驚いた。

 カミュが、『精霊ルビス』への祈りを行わない事を容認したような発言をしたのだ。

 サラにとって、『今日の糧が自分にあるのも、ルビス様の加護の賜物』という教えを受け、それを本心から信じている。カミュが祈りを行わない事を本当は快く思ってはいないが、それを言い出す事は出来なかったのだ。

 

「……ん?……ああ、そうだったな……すまない。頂いています」

 

「ぷっ!」

 

 リーシャの言葉に素直に従ったカミュが発した言葉はどこか間の抜けたような言葉で、リーシャとサラは唖然としてしまったが、カミュの普段を知らない宿屋一家は総じて吹き出してしまった。

 意図的ではない趣向により、食堂が和やかな雰囲気に包まれる。

 その証拠に、先程まで料理の美味しさに多少表情が緩んでいたように見えたカミュの顔が、憮然とした物に変わっていた。

 

『何故、カミュはリーシャの言葉は比較的素直に聞くのか?』

 

 和やかな笑いの中、サラはふと疑問に思った。

 カミュはリーシャの前だと、表情の変化を見せることが多い。

 皮肉気な笑みや、怒り表情に、からかいの笑みや不機嫌な顔。

 日常的な事でのリーシャの注意には、素直に従う事も多々ある。

 

『何故?』

『カミュは、リーシャに一目惚れでもしたのか?』

『自分が知らない間に、二人の中で何か進展があったのか?』

 

 サラは、自分の考えがただの勘違いではないように感じ始める。いつの間にか、カミュの事を考えていた筈が、リーシャまでをも巻き込み、二人の間の在らぬ関係まで想像を膨らませていた。

 たった、一週間やそこらで、あれだけいがみ合っていた者同士が、恋仲になどなる訳がない。

 サラの盛大な勘違いは、後々二人の逆鱗に触れる事になるが、それはまた別の話。

 

 食堂に来た時は、料理に手をつけようとしなかった少年でさえ、ゆっくりではあるが、料理を口に運び始めている。 

 そんな様子を、宿屋夫婦が優しい眼差しで見ている。

 その家族の優しさを、サラは若干羨ましく見ていた。

 

「そう言えば、お客様の事をお聞きするなどは大変失礼なのですが、お客様方の旅の目的は何なのですか?……商団の護衛という訳でもなさそうですし……」

 

 主人は、いつものような砕けた調子の言葉ではなく、宿屋と客という部分に遠慮をした様子で、カミュとリーシャのどちらともつかない方へ問いかけた。

 これには妻の方も同じ疑問を持っていたのか、子供へと向けていた視線を上げ、興味を示す。

 リーシャは、一度カミュとサラを見てみるが、カミュは食事を続けていて、リーシャの視線に気が付いていない様子であり、リーシャはサラに一つ頷くと、主人の問いに答えるため咳払いをした。

 その様子が若干滑稽であった事が、サラの顔に笑みを浮かばせた。

 

「私達は、魔王討伐の命を国王様から受けて旅を始めた。こっちは、英雄オルテガ殿の息子のカミュ。こっちはアリアハン教会に属する僧侶のサラ。そして、私は宮廷騎士のリーシャという」

 

 リーシャが語る言葉が進めば進む程、宿屋夫婦の表情から笑顔が消えて行き、その顔色が青を通り越して土色に変わって行った。

 少し自慢気に語るリーシャに微笑んでいたサラも、夫婦の変化に気付き、首を傾げてしまう。

 

「も、申し訳ございません! 貴族様とは知らずにとんだご無礼を! ましてや、食事の席に同席してしまうなど…………お許しください!」

 

 リーシャの言葉が終わった途端、夫婦揃って、椅子を立ち、その場で膝を折り平伏してしまった。

 サラは宿屋夫婦の変貌ぶりに驚いたが、カミュはその様子を冷ややかに見た後、リーシャへと批難の視線を向ける。当のリーシャはその状況が理解できず、ましてや何故自分が批難の視線を受けるのかも理解出来ていなかった。

 

「い、いや、顔を上げてくれ。そんな気はないんだ。それに、共に食事をする事を提案したのは私なんだ。許す許さないの問題ではない」

 

 何とか絞り出したリーシャの言葉は本心であったろうが、宿屋夫婦は床に平伏したきり動こうとしない。

 サラも呆然とした状態からは立ち直りはしたが、今の状況に戸惑い、何をすれば良いのか答えが出せず、おろおろとするのみであった。

 そんな中、口に入れた物を飲み込み、溜息を吐きながら無関心を通していたカミュが口を開いた。

 

「貴族とは言っても、貴方方を罰する程の権力を有さない没落貴族だ。俺に至っては、貴方方と同じ様な、アリアハン城下町の外れに住む平民の出。こっちの僧侶に関しては、元を辿れば孤児でしかない。貴方方が恐れるような存在ではない。席に戻ってくれ。今、話した通り、貴方方と共に食事をする事を望んだのはこちら。できれば、前の時のように食事を続けたいのだが……」

 

 没落貴族と言われた時、リーシャの額に筋が立ったようにサラには見えたが、カミュの口調の中に、本当にこの宿屋夫婦を気遣う物を感じたのであろう。リーシャはカミュの話に口を挟まず、黙って聞いていた。

 

「……は、はい……」

 

 ようやく顔を上げた夫婦の表情は、食事を始める前の自然の笑顔とは似ても似つかない、堅く引き攣った物であった。

 その表情にリーシャは遣る瀬無い思いになり、サラは改めて貴族と平民との垣根の高さを実感した。ただ、この場にいた者の中で、一人だけは違っていたのだ。

 

「お兄ちゃん達は、『魔王』を倒しに行くの?……これから、魔物とたくさん戦うの?」

 

「こ、これ!」

 

 今まで口を開く事が全くなかった少年が不意に言葉を発した事に、食堂にいる全ての人間の視線が少年に集まった。

 主人は、今までのやり取りで一息ついた途端の義息子の一言に、大いに慌てる事となる。しかし、少年の視線は、三人の中心にいる『勇者』だけに向けられていた。

 

「ああ、そうだな。『魔王』を倒す為には、ここから先、数多くの魔物と戦う事になるだろうな」

 

 少年を見つめながらも口を開こうとしないカミュに代わって、リーシャが少年へ返答する。そのリーシャの答えに、今まで心痛な面持ちで食事をしていた少年の顔に変化が現れた。

 手に持っていたスプーンをテーブルに置いた少年は、答えたリーシャに対してではなく、黙って自分を見つめる一人の青年に向かって口を開く。

 

「じゃあ……いっぱい、いっぱい魔物を倒してね! あいつらは……僕のパパとママを……うっ…うっ……」

 

 少年の胸の内を明かされ、先程の余韻が残る食堂内は、更に重苦しい雰囲気に飲まれて行く。

 両親が自分の目の前で死んで逝くのを見て、心に傷がつかない人間などいない。

 同じような境遇を持つサラには、その心が痛い程わかった。

 幼い少年の悔しさと歯痒さをぶつけられ、リーシャも決意を新たにする。唯一人、カミュだけは食事の手を止め、表情を失くしたまま、少年を見ていた。

 

「約束します。貴方に代わって、魔物達に正義の鉄槌を下す事を……そして、『魔王』を倒して、平和な日々を取り戻す事を……」

 

 最初に口を開いたのはサラであった。

 少年を真っ直ぐに見詰め、胸に手を置き、少年の願いを受け止めるように頷く。チラリと視線をサラへと動かした少年は、表情を変化させずに頷きを返す。

 流れる涙を腕で拭い、顔を上げた少年の顔を、リーシャは優しく眺めるが、ふと隣に座るカミュの手が止まっている事に嫌な予感が発動し、視線を向け、頭を抱えたくなった。

 そこには、あの表情を失くしたカミュが、サラと少年のやり取りを見ていたのだ。

 

 『まさか、ここで以前の宿営地でのような話をするつもりなのか!?』

 

 リーシャは、『少年に向かって、あのような事は言わないだろう』という思いはあるが、自信がない。

 少年の返事に、先程まで土色だった宿屋夫婦の顔色もようやく戻って来たというのに、再び重苦しい雰囲気になる事を望む者はいないのだ。

 リーシャは僅かな望みをカミュに託すしかなかった。

 『余計なことは言うな』と。

 そんな、リーシャの懇願を余所に、満を持してカミュの口が開かれた。

 

「……確かに、魔物を倒して行くのは俺の役目だ……だが、お前にはお前の役目がある。お前には、幸いにも引き取ってくれた夫婦がいる筈だ。産みの親を忘れろとは言わない。だが、これからは、今お前の両隣で、お前を心から心配している二人を護るために強くなれ。それは、魔物に対してだけではなく、貴族等にも対抗できる力もだ」

 

 リーシャはカミュが発する言葉が頭に入ってきたが、あまりにも予想外な為、理解が追い付かない。

 必然的に呆然とカミュを見つめる事になる。

 それはサラに至っても同様であった。

 

「……ち…から……?」

 

 ただ、少年一人だけは、カミュの言葉をしっかりと聞いていた。

 彼のような年の子供にとって、剣を取り、魔物へと向かっていくカミュのような青年は、憧れの対象となり得る者なのだ。

 

「……ああ……この世の中、俺の隣で呆けた顔をしているような、抜けた貴族ばかりではない。そういう者達から、お前の周りの人間を護る力だ」

 

「なっ!!」

 

 突然自分に振られた事に驚いたリーシャであるが、カミュが自分に向けて発した言葉は、明らかな侮辱とは取り辛い物であった。

 カミュは、貴族が平民を虐げている事実を言っているのだ。

 その貴族達の中に、リーシャを含めてはいない事を暗に示しているとも言える。

 『抜けた貴族』という部分に怒りが込み上げるが、それが発散できない歯痒さをリーシャは噛み締める事となった。

 

「お前という個人を、そして自分という存在を、しっかりと見てくれる人間がいるという事は、本当に幸せな事だ」

 

「……うん……」

 

 サラに返した頷きとは違い、少年は自らで思考しながらカミュへと頷きを返している。

 それは、カミュの語る内容を理解できなくとも、聞き洩らすまいとする心の表れ。 

 カミュも少年に向かって一つ頷いた後、もう一度口を開いた。

 

「お前には、二人の父と二人の母がいる。すぐにその幸せを感じろとも言わない。何れそれが理解できる時が来る。その時に、自分の周りの人間を護れる力を持て」

 

「……うん……」

 

 静寂が支配する食堂にカミュの言葉だけが静かに響く。

 大きな声でもない、強い声でもない、どちらかと言えば呟くような声で淡々と話すカミュの言葉が、食堂にいる全ての人間の心を飲み込んでいた。

 

「……カミュ……」

 

「……カミュ様……」

 

 カミュが、少年を労わるように、そして導くように話す姿を見て、サラは呆然としていた。

 『これは、暗に自分の魔物への復讐という考えを否定しているのでは』とも考えたが、カミュの瞳は純粋に少年だけを映している事が、そうではない事を示している。

 サラは益々、この『勇者』という存在が解らなくなって行く。

 教会の教えを無視し、『精霊ルビス』を侮辱し、意にも解さないと思えば、哀しみと苦しみに苛まれている少年を導くような言葉を発する。

 どれが彼の本性なのか。

 彼の考えの根底にある物は何なのか。

 それが、サラには解らない。

 

「……お前が持つ、周りの人間を護る力がどのような物なのかは分からない。それはおそらく、お前がこれから先、生きて行く中で見つけるのだろう。お前には、数多くの選択肢が残っている筈だ」

 

「……せん…たく…し……?」

 

 カミュと少年以外の人間を置き去りにして、二人の会話は進んで行く。

 この食堂は、今は二人だけの世界となっていた。

 そこに他者が入り込む余地などはなく、ましてやその権利もあり得ない。カミュの言葉に異論を唱える事は許されず、少年の思考を止める事も許されはしないのだ。

 

「……ああ……今のように塞ぎ込んだまま、横にいる二人を悲しませ続ける事を選ぶのも、お前を護る為に死んで逝った両親の為にも、前を向いて生きる事を選ぶのもお前だ。そして、前を向くと決めたお前の目指す先を決めるのもな。その目指す先は、何も一つだけではない。ゆっくりと考えて、見つけて行けば良いさ」

 

「……うん……」

 

 少年はカミュに引き寄せられるように、一言一句を聞いている。その隣にいる宿屋夫婦は何時の間にか涙していた。

 リーシャは、そんなカミュを眩しく見上げる。彼の過去の一部しか知らないリーシャは、自分が思っている以上に過酷で哀しい過去を、この『勇者』が持っている事を改めて感じる事となった。

 

「……ご馳走さま……」

 

 言う事はもうないとばかりに、少年から視線を外し、スープの残りを飲み干した後、カミュは席を立った。

 残された人間がカミュを呆然と見守る中、少年の瞳だけがカミュの背中を追って行く。

 

「……お兄ちゃんも……頑張って魔王を倒してね……」

 

 食堂を出ていくカミュの背中に少年は声をかける。その声に、カミュは一度立ち止まるが、応える事も振り向く事もせず、そのまま食堂を出て行った。

 カミュが出ていった食堂は、先程と同じような静寂が支配していたが、それは重苦しい物ではなく、どちらかと言えば戸惑いに近い空気であった。

 誰もが胸に何かを宿し、その想いは決して不快な物ではない。

 

「…………」

 

 カミュと会話をしていた少年の目は、先程まで悲嘆に暮れていた物ではなかった。

 未だに、カミュの話していた内容の八割以上を理解できてはいなかったが、それでも塞ぎ込んでいた心の扉の鍵は開いている。

 後は、その扉を押し開く能力を、少年が持つだけなのであろう。

 

 再度食事を始める少年の様子を、宿屋夫婦は涙で滲んだ視界で捉え、更に涙する。

 リーシャは、ようやく新たな親子としてのスタート地点に立った三人を、優しい瞳で見つめながらも、この空間を作り出した一人の青年に思いを馳せた。

 彼を、英雄オルテガの息子とは認められなかった。

 彼の考え、行動を見ていて、どうしても許せない物も数多くあった。

 しかし何度か、周りへの気遣いや優しさを感じさせる事があったのも事実なのである。 

 

 今も、一人の少年を導いて行った。

 『人』一人の悲しみや苦しみを理解し、そしてその道を示す事など、誰でも出来る事ではない。

 もし、リーシャが同じ事を少年に話したとしても、それを素直に受け止めてくれたかどうかは、正直分からない。それは、『魔王討伐』に向かう『勇者』への憧れが、少年の胸の内にあったという理由もあるかもしれないが、それでも、あれ程心に浸透させる事は他の人間には無理であろう。

 それが、英雄と云われる人間達が持つ、不思議な魅力なのかもしれない。リーシャはそう考え始めていた。

 

 

 

「リーシャさん……カミュ様は、どのような人なのでしょうか……?」

 

 部屋に戻り、寝巻きに着替えながら、サラがリーシャに呟き出す。あれから、食事が終わり、この部屋に入って来る今まで、サラは一言も言葉を発する事はなく、何かを思いつめているような様子であった。

 

「……私にも解らない……ただ……一つ言えるとすれば、アイツは、私達が考えているような幼年時代は送っていないのだろうな……」

 

 リーシャとしてもそう答えるしかなかった。

 カミュから、以前に聞いた話はある。だが、リーシャはその話を、自分の口からサラに言う事はしなかった。

 それは、カミュが語る事だと思っていたのだ。

 サラとカミュの確執は深い。根底にある考え方が真逆に近い。それは、いくら話しても平行線を辿るだけで、もしかすると、『魔王バラモス』を倒したとしても、交わる事はないのかもしれない。

 

「……そうですね……私は正直、カミュ様という『人』が解りません。カミュ様がどんな想いを持ってこの旅に出ているのかも……」

 

「……ああ……」

 

 リーシャには、相槌を打つ以外出来なかった。

 『僧侶』としての教育を施されて来たサラにとって、カミュの考え方や行動が理解できる訳がない事を、リーシャも理解している。しかし、リーシャの胸の中には、先程の食堂での出来事が引っ掛かっていたのだ。

 

「カミュ様は、ルビス様を蔑にされるような方です。私におっしゃっていた事は、今でも私は理解出来ませんし、納得も出来ません……」

 

「……」

 

 サラは、上半身が裸のまま、寝巻きの上着を手に持ち、うわ言のように呟く。年齢の割に膨らみ切れてはいない胸が露わになっている事にも気が付いていないようだ。

 最も、見ているのは、同性のリーシャだけなのだから、気にする事はないのだが。

 

「……私は……ルビス様を蔑にし、魔物を擁護しようとするカミュ様のお考えを許す事は出来ません。魔物は私達の生活を脅かす罪悪です。その考えは、今も変わりません。ですから、私は『魔王討伐』の旅に同道させて頂いています。私が本来進む事の出来た幸せを奪った魔物達に復讐する為に……」

 

「……そうか……」

 

 サラの上着を持つ手に力が籠る。もはやあの上着は、皺で酷い事になっている事だろう。

 だが、サラが初めて自分から『復讐』という単語を口にした事に、リーシャは何故か気持ちが沈んでしまった。

 

「……でも……あの子は、私が魔物を倒す約束をした時も、あのような顔をしてくれませんでした……カミュ様は、あの子の魔物に対する憎悪や、両親を失った悲しみや苦しみを否定する事はありませんでした……それでも、あの子は……魔物への想いは消えなくとも……復讐を考える事はないのかもしれません……」

 

「……」

 

 リーシャは何も語らず、只サラの話す言葉を聞き続ける。

 暫しの沈黙が流れた。

 無理に先を促そうとはせず、サラの胸の中に残る物が自然と吐き出されるのを待つように、リーシャは彼女の瞳を見つめ続ける。

 

「……私は…私は……カミュ様が……あの子に話した言葉を…否定する事が出来ません……」

 

 最後には、持っている上着にサラは顔を埋めてしまった。

 そこで、リーシャはサラが何を話したがっているのかが、ようやく理解できた。

 サラは恐れているのだ。

 自分の考えが変わって行ってしまう事を。

 そして、自分の誓った想いが揺らいでしまう事を。

 

 サラの中で、両親を殺した魔物達への憎悪が消える訳ではない。ただ、自分がその想いによって歩んで来た事が間違いとまでは言わないが、他の道があったのではないかという考えが浮かんで来ているのであろう。

 あの少年が、前を向いて歩き出そうとしているのは、カミュという存在が大きい事は間違いがない。

 それに比べ、『自分は後ろ向きに進んでいるのではないか?』。

 カミュの言っていた、両親の代わりに育ててくれた人間に当たる『アリアハン教会の神父を蔑にしてしまっているのではないか?』と。

 

「……今はそれで良いのではないか?……何も、サラの目的が変わる訳ではないだろ?」

 

 リーシャの言葉に顔を上げないまま、サラは頷き返す。上着に埋めたサラの顔は小刻みに震え、自身の不安を吐き出している事が窺えた。

 彼女は今、自身の中に生まれ始めた、理解不能な『想い』の中、恐怖に震えているのだ。

 

『自分を含め、まだまだ視野が狭い』

 

 それが、リーシャがここ数日で感じた事実だった。

 サラは勿論、カミュに至ってもこのアリアハンから出た事はない。

 故に、自分達の世界は、この小さなアリアハン大陸だけなのだ。

 色々な出来事に対し、良い事なのか悪い事なのかの判断が、その狭い視野の中でしか出来てはいない。

 今は『自分の価値観について考える』という事だけで十分ではないだろうかと、サラの話を聞きながらリーシャは考えていた。

 

「さぁ、もう寝よう。明日は、アリアハンから出る為の準備だ。いつまでも裸のままでは、風邪を引いてしまい、ここまでの苦労が無駄になってしまうぞ」

 

「??……あっ!」

 

 リーシャの言葉を聞き、自分がまだ着替え途中で、しかも上半身が完全に裸のままであるという事にサラは気づき、慌てて寝巻きに着替える。

 その姿は、握りしめ過ぎた上着のせいで、皺だらけのみすぼらしい物になっていた。

 

「…ふっ…ふっ……あはははは! サラ、その寝巻き、皺だらけだぞ! いくらなんでも握りしめ過ぎだ! あはははは!」

 

「……うぅぅ……」

 

 今までの重苦しい雰囲気をぶち壊しにしたリーシャの笑いと、自分の間の抜けた姿を恨めしそうに見詰めた後、サラは無言でベッドの中に入って行った。

 サラがベッドに入るのを確認し、笑いを徐々に納めていったリーシャもまた、ベッドへ入り込む。

 部屋を照らしていたランプの明かりも消え、部屋全体を静寂と闇が支配した。

 

「……サラ……誰しも同じだ。朝からの様々な出来事や話が全て正しいのかは、正直私にも解らない。だが、この世の中には私達の知らない事が山程あるんだ。ならば、知っていけば良い。これから進む道は長く、サラは若い。色々な事を知り、考え、そして答えを出せば良い。焦る必要はないさ」

 

 暗い部屋に響く、リーシャの独り言のような呟きは、隣のベッドに入っているサラの耳にもしっかりと届いていた。

 

「……はい……」

 

 サラの返答を最後に二人の会話は途切れ、暫くすると、リーシャの静かな寝息が聞こえて来る。その寝息を聞きながら、サラはベッドの中で、自分が眠りに落ちるまでの間、自身の胸の中に生まれた『想い』について考え続けていた。

 

 

 

 翌朝、宿屋一家に見送られて宿屋を出た三人は、泉の畔にある家に向かって歩き出した。

 宿屋夫婦に手を引かれ、見送りに出て来てくれた少年を見るサラの表情は、どこか優れない物であったが、自分達の素性を知り、深々と頭を下げている夫婦に、余計な気を遣わせない様に笑顔を作っている。

 つい二日前に訪れた家の戸の前に立つ頃には、サラは勿論、リーシャの表情までもが沈痛な物に変わっていた。

 塔での話を思い出しているのであろう。

 

『例えそれが事実だとしても、どう伝えれば良いのであろう』

『この家に住む老人は、事の全てを知っているのだろうか?』

 

 様々な考えが、浮かんでは消え、二人を悩ましているのだった。

 そんな二人の想いを余所に、カミュは再びその重い扉をノックする。その重苦しい音は、二人の身体を緊張という感情で包み込んで行った。

 暫くして、遠慮がちに空いた扉の隙間から、先日と同じように覗く瞳が見えた。

 その瞳が宿す感情を理解してしまったリーシャ達は、暗がりに光る瞳に怯み、声を出す事が出来ない。カミュという壁が、彼女達の前にあるが故に立っている事は出来たが、もし、前面に立つ事になっていたとしたら、その場に座り込んでいたかもしれなかった。

 

「……また、アンタ達か……話す事など何もないと言ったはずだ!」

 

 これまた先日と同じように、こちらの話を聞く気もないとばかりに扉を閉め、鍵まで掛けられてしまう。三人は大きな溜息を同時に吐くが、その溜息が示すものは、カミュと他の二人では違った物であった。 

 

「……仕方ない……出来る事ならば、使いたくはなかったが……」

 

 カミュは腰につけた革袋から、塔の老人に託された鍵を取り出し、そのまま扉の鍵穴に差し込んだ。

 サラは、差し込む瞬間に何かを呻いたが、鍵を手にしたカミュの手は止まる事はなく、差し込まれた鍵はゆっくりと回される。

 『カチャリ』という乾いた音を立て、まるでその扉の鍵を差し込んだ時と同じように鍵は開けられた。鍵を革袋の中に戻し、ドアノブに手をかけたカミュは扉を押し開く。開かれた扉の先には、広い広間が広がっていた。

 

「……いくぞ……」

 

 カミュの言葉を聞いても、乗り気になってはいない二人は、ゆっくりとカミュの後ろに続いて行く。勝手に鍵を開けて他人の家に入っていく罪悪感が、リーシャとサラの胸に湧き上がっていた。

 入った広間はかなりの広さを持ち、中央にはこれまた大きな囲炉裏のような物があった。

 囲炉裏には大きな壺とも鍋とも言えない物が火に掛けられており、何かを煮詰めているのか、湯気が立っている。

 鍛冶をしていた人間がいなくなって幾年か経った為なのか、鍛冶に使用する道具らしき物はあるが、埃をかぶり錆だらけの状態でころがっていた。

 

「……上か?……カミュ、どうするんだ?」

 

 広間に先程の老人が見当たらない事から、階段を目に留めたリーシャがカミュへと尋ねる。

 カミュはそれに返答はせず、無言で階段に向かって行った。

 必然的に、リーシャとサラもそれに続く事となる。

 

「ワン! ワン! ウゥゥゥゥゥ……」

 

 二階に上がってすぐに、カミュ達は犬の襲来を受ける事となる。

 突然走り寄り吠え出した声に、サラは危うく階段を踏み外しそうになり、リーシャに腕を掴まれた。

 

「なんじゃ、お前達! どうやって入ってきた! わしは鍵をかけた筈じゃ!」

 

 吠え出した犬の鳴き声に、カミュ達の存在に気がついた老人は、今まで手にしていた紙を机に置き、犬の下に歩いて来る。カミュも、それ以上中へ入る事はなく、姿勢を正し、老人が歩み寄って来るのを待った。

 

「……申し訳ありません……『ナジミの塔』にいらっしゃったご兄弟から、手紙とこの鍵をお預かりしました。お渡ししようとお伺いしたのですが、話をする前に扉を閉められてしまいましたので、失礼とは存じながら、この鍵を使用させて頂きました」

 

 かなりの剣幕で詰め寄ってくる老人に、動じた様子もなくカミュは淡々と言葉を繋ぐ。犬に引き続き、凄まじい剣幕で怒鳴る老人に、サラはリーシャの後ろに隠れてしまっていた。

 

「……兄弟だと!?……それに、それは……あの子の鍵……」

 

 <盗賊の鍵>を目にした老人は、纏う怒気を鎮め、カミュが取り出した手紙を受け取った。

 そのまま、未だにカミュ達に敵意を向けている犬の頭を撫で、先ほど座っていた椅子へと腰を下ろす。そんな主人の様子に、犬も唸るのを止め、老人の足元に丸まるように腰を落ち着けた。

 

「……掛けなされ……」

 

 手紙の封を切りながら、老人は自分の前の席に座るようにカミュ達を促す。促されるまま、三人は老人と対峙するように座った。

 サラは犬に対し、多少警戒しながら座ったが、もはやこちらに犬が関心を示す事は、老人に敵対心を持たぬ限りあり得ない事であろう。

 老人が手紙を読む間、三人は言葉を発する事なく、ただ静かに読み終わるのを待った。

 老人はゆっくりとまるで噛み締めるように一文一文を読んで行く。読んでいた手紙を机に置き、老人が溜息を吐いたのは、結構な時間が経ってからであった。

 

「……済まなかったの……お主達にそれほどの使命があったとは知らなんだ。大陸を出るには、他大陸とを結ぶ『旅の扉』へと続く道を塞いでいる壁を取り払わなければならぬ。これを持って行け」

 

 老人は一度立ち上がり、カミュ達に軽く頭を下げた後、机の引き出しから何かを取り出し、カミュへと手渡した。

 差し出された物を受け取ったカミュは、その不思議な物体を疑問に思う。

 

「……これは……?」

 

「それは、『魔法の玉』じゃ。わしが作った物じゃが……それを壁に取り付けて、その紐の部分に火をつければ壁を壊せるじゃろう……うむ……火を付けたのならば、壁から距離を取る事を忘れるな。近づけば、怪我をする」

 

 老人が机の中から取り出し、カミュが手渡された物は、丸い毬程の大きさの球だった。

 毬よりも重量感があり、更にその球体のある個所から一本紐のような物が飛び出ている。老人が言う点火する部分がここなのであろう。

 

「ありがとうございます」

 

 球を受け取ったカミュは、老人へと頭を下げる。それに倣うように、リーシャとサラも軽く頭を下げた。

 『ナジミの塔』に居た老人が、どのような手紙を記したのかは解らないが、それは決してカミュ達を悪く言う物ではなかったのだろう。

 

「……良いのじゃ……それで、兄は……?」

 

「……」

 

 兄の安否を気に掛ける老人に対し、三人は言葉に詰まった。

 手紙の中には書いていなかったのだろう。カミュ達が去る時の状況を考えれば、あの老人の余命も幾許もなかった筈だ。

 それは、目の前にいる弟との永遠の別れを意味していた。

 

「……」

 

 そんな老人の目をしっかりと見据えてカミュが二、三度首を横に振る。その様子を落胆した様子もなく老人は見ていた。

 手紙には書いてはいなくとも、おそらく覚悟はしていたのだろう。

 

「……そうか……これで、わしは完全に天涯孤独となってしまったのう……お主達は兄の事を知っておったのか……?」

 

 老人の問いかけに、リーシャもサラも返答に窮した。

 『ナジミの塔』に居た老人の境遇は、リーシャの属するアリアハン国家の恥であり、暗部である。それを知っていて尚、この場を訪れるという行為を糾弾されたとしたら、リーシャもサラも返す言葉がないのだ。

 

「……はい……塔の中で色々とお聞きしました」

 

「……そうか……兄も報われぬ人生であったが……わしも兄も、最後にお主らのような若い希望の力になれた。もうそれで良かろう……」

 

 老人の独白に、サラはもう老人の目を見ていられなくなってしまった。

 彼らが悪い事など何一つなかったのかもしれない。国や教会の罪人として括られてはいるが、それが全て正しい事ではないという事実を、理解しなければならないのだろう。そして、サラはまた悩むのであった。

 

「……嫁や孫も帰ってこぬ……兄がそのような状況であれば、二人も既に生きてはなかろう」

 

「!!!」

 

 老人が発した一言にリーシャとカミュは目を見開き、サラは弾かれたように顔を上げる。まさか、バコタの家族の安否を知らなかったとは思わなかったのだ。

 その衝撃の事実に、サラは思わず口を開いてしまう。

 

「……知らなかったのですか?」

 

「……うむ……この子がな……あの子の手紙を持って来てくれたのじゃよ。傷だらけになりながらもな……手紙には『妻子の身柄の保護を頼む』と書いてあったのじゃが……帰って来たのはこの子だけじゃった」

 

 老人が知らなかったとは思っていなかったサラは反射的に問いかけて、返って来た返答にまた気持ちが沈んで行く。バコタは自分自身が投獄された後の事を、この父親に託していたのだ。

 だが、その望みは、アリアハン国家に属する兵士達によって潰されてしまった。

 

「……お主達は……知っておるのか?」

 

「……いえ……その……」

 

 サラには答える事は出来ない。

 あの塔の老人の言う事が全て事実だとすれば、これ程に酷な事はない。

 今は優しげな瞳をした老人の胸に、再び憎悪の炎を灯してしまう事になる可能性をサラは恐れた。

 リーシャも老人の真っ直ぐな問いかけに、言葉を窮している。

 

「奥様とお子様は、『ナジミの塔』から<レーベ>へ抜ける洞窟で、魔物に襲われ命を落としていました。その犬に手紙を託したのでしょう」

 

「ワン! ワン!」

 

 カミュが答えた言葉は、リーシャとサラの予想する言葉ではなかった。

 『嘘』

 それは、アリアハンが犯した罪を覆い隠す嘘。

 『何故?』

 リーシャとサラの胸に、カミュに対する疑問が浮かび上がる。今まで、老人の足元で静かに眠っていた犬でさえ、まるで嘘を言うなとばかりにカミュに吠えかかった。

 

「……そうじゃったか……あの子達には、少しも良い思いをさせてやれなかった……」

 

「ワン! ワン!」

 

 未だにカミュに吠えかかる犬を見つめながら、リーシャは遣り切れない気持ちに苛まれた。

 『アリアハン国に仕える者として、何を言えば良いのか?』

 『謝罪をするべきなのか』と。

 

「あ……」

 

 リーシャが老人に声をかけようとした時、その眼前にカミュの手が挙がった。

 まるで『言うな』とでも言うように。リーシャにも解っていたのだ。

 『今、自分が謝罪の言葉を述べて何になるのか』、『老人の気持ちを軽くするどころか、傷を更に抉ることになるのではないか』。

 そんな考えが回った結果、リーシャは口を噤み、押し黙ってしまう。

 

「……おぉ……すまんの。引き止めてしまったようじゃ……お主達の旅は長い……これから色々な困難にもぶつかるじゃろう……時間はいくらあっても足りない程じゃ。こんな老人の話に付き合わせる訳にはいかん。ほれ、もう行くが良い」

 

「……」

 

 未だに吠え続ける犬の頭を撫でつけながら口にした老人の言葉に、リーシャとサラの二人は、更に押し黙ってしまう。

 サラは、この兄弟の心の強さに言葉を失っていた。

 苦境に立たされ、数十年もの間辛い生活を送って来た者達にも拘わらず、カミュ達を思い遣る事の出来る『強さ』は、サラの心の中に新たな風を送り込んでいた。

 

「……ありがとうございます……では、この<魔法の玉>を頂いて行きます」

 

「……うむ……」

 

 最初に扉の前で出会った時とは違い、老人は優しげな微笑みで、カミュ達を送り出そうとする。

 その笑顔が、サラに再び口を開かせた。

 それは、『ナジミの塔』で口にした言葉であった。

 

「……あの、一緒に……」

 

「サラ!!」

 

 そのサラの提案を予測していたのであろう。リーシャがサラの言葉を途中で遮った。

 リーシャは、この老人の胸中にある想いを理解していたのだ。

 その想いの重さと厳しさを理解しているからこそ、それを『覚悟』として受け止める事が出来る。

 それは『諦め』なのかもしれない。

 それでも、それを受け入れる以外に他はない事を、リーシャは知っていた。

 

「……ありがとう、お嬢さん……じゃが、兄があの塔を出ずに最期を迎えたように、わしも生まれ育ったこの村で死を迎えたいのじゃ……」

 

「……あ…あ……」

 

「サラ、行こう」

 

 兄弟そろって申し出を断られ、その決意を理解しながらも、『何故?』という想いをサラは捨て切れなかった。

 それが、今のサラの限界なのだろう。

 この大人に成り掛けている女性には、圧倒的に経験が少な過ぎるのだ。

 リーシャのように、『人』の覚悟を受け入れる事は出来ない。しかし、俯くサラの肩を抱きながら、『それが、サラの良さなのかもしれない』とリーシャは考えていた。

 

「……では、失礼します……」

 

「……うむ……わしが言うのも可笑しいが、世の中には色々な『想い』が渦巻いている。それに飲み込まれぬよう、しっかり自分の道を歩みなされ」

 

 老人に向かい一つ頷いた後、頭を下げたカミュも階段の方へ向かって行く。既に、リーシャはサラを伴って階段付近まで移動していた。

 しかし、そんな一行の進路を阻む者が現れる事となる。

 

「ワン! ワン! ワン!」

 

 カミュ達が階段に辿り着くと、噛みつかんばかりの勢いで、先程の犬が飛びかかって来た。

 サラはリーシャの後ろに隠れるが、犬の目的はカミュのようであり、その足下に移動して来た犬は、カミュの顔を見上げながら、力の限り吠え続ける。その犬の様子に驚いていたのは、この家の主である老人だけであった。

 

「どうしたのじゃ?……いつもはこのような事はないのにの……」

 

 老人は、飼い犬の予想外の行動を不思議に見つめるが、三人にはその犬の行動の理由が理解出来ていた。

 吠える事を中断した犬は、カミュのマントの裾を口で掴み、椅子の方へ引っ張って行こうとする。

 まるで、『もう一度座り、話をしろ!』とでも言うように。

 カミュはその様子を、無表情に見つめていたが、やがて座り込み、優しく犬の頭を撫で始めた。

 

「……すまない……許してくれ……」

 

 カミュは犬の頭を優しく撫でながら、犬と目線を合わせ語りかける。

 この家に一人暮らす老人に真実を伝えられない事への謝罪を。

 そして、この犬の無念を晴らす事の出来ない事への謝罪を。

 

 カミュの後ろ姿を見たサラは、視線を落とす。

 リーシャは、サラが泣き出してしまう前にその場を立つ事にし、『先に行く』と告げた後、サラを伴い階段を降りて行った。

 

「クゥン……」

 

 暫くはカミュの目を見つめていた犬であったが、諦めにも似た鳴き声を漏らし、首を下げて老人の下へ戻って行った。

 その泣き声に、どれ程の罵声が織り交ざっている事だろう。

 もし、彼が飼い主の惨殺される現場を見ていたのならば、その事を伝える事が出来ない不甲斐無さをどれ程悔やんでいるのだろう。

 そして、それを伝える事の出来る筈の人間が真実を話さない事にどれ程の憤りを感じているのだろう。

 カミュは無表情のまま、離れていく犬の後ろ姿を見つめていた。

 

「ふぉふぉ。どうやら、久しぶりに若い人達に会い、寂しくなったようじゃな」

 

「……では……」

 

 犬の心情を図る術を知らない老人に言葉を返す事なく、カミュはもう一度頭を下げると、老人の送り出す言葉を背に階段を下りて行った。

 

 

 

「……カミュ様……どうして……」

 

 老人の家を出て、しばらく歩いたところで、サラが口を開く。

 『何故嘘をついたのか?』

 それをカミュに問いかけているのだろう。自分の口からはとても真実を話す事は出来なかったのに、嘘を告げたカミュに対し疑問を投げかける。

 事情を知っている人間からすれば、随分と勝手な言い草である。

 

「何もかも事実を知るという事が、何時も幸せに結び付くという訳ではない筈だ」

 

「……」

 

 カミュから返って来た答えに、サラもリーシャも返す言葉がなかった。

 正に今、サラは真実を知ったばかりに思い悩む事となっている。その先にある物が幸せに結びつくか否かは、今のサラには分からないのだ。

 

「……ですが、バコタさんが帰って来た時には、真実を知る事になりますね……」

 

「……いや、それはない……」

 

 今、自分達が伝えなかったとしても、何れ真実は老人の耳に入るとサラは考えていたのだ。

 しかし、そのサラの言葉を否定したのは、カミュではなくリーシャだった。

 サラの後方を歩いていたリーシャは、振り向いたサラの目を真っ直ぐ見つめ、口を引き締めたまま立っている。

 

「……どうしてですか……?」

 

「……それは……」

 

 サラの言葉を反射的に否定はしたが、その理由については言い難そうに口籠るリーシャに、サラは嫌な予感を禁じえなかった。

 そして、その嫌な予感を現実にしたのは、やはりカミュであった。

 

「現状のアリアハンでは、バコタが帰ってくる事はあり得ない」

 

「……どういう事ですか……」

 

 後方に振り向いていた首を戻したサラは、再び疑問を口にする。

 その瞳は不安によって揺れ動き、カミュの瞳を正視する事が出来てはいない。彼が何を口にするのかは解らないが、それが良い物ではないという事に気付いてはいるのだ。

 

「今のアリアハン国では、民達の不満の捌け口が無いからだ」

 

「……え!?」

 

 サラはカミュが話している内容が理解できない。

 『何故、バコタの帰還にアリアハン国民の感情が関係してくるのか?』

 そんな疑問が浮かんでは消え、サラの頭は混乱を強くして行った。

 

「アンタのように、親や子供を魔物に殺された人間の怒りの捌け口は、何処へ向かう?……魔物か?」

 

「……当然です……」

 

 サラは即座に返答する。

 サラ自身が、『憎しみ』という感情を、この世界に生きる魔物全てに向け、『復讐』を胸に抱いているのだ。

 世界中には、サラと同様に、魔物によって親族を亡くしている者達は数多い。その者達の『怒り』や『憎しみ』の矛先は、当然自分と同様に、魔物であるとサラは考えていた。

 

「それは、アンタが魔物に対抗する能力があるからだ。では、能力を持ち合わせていない人間はどうする?……魔物を憎んでも、自分では魔物に向かって行く事の出来ない人間は?」

 

「……それは……」

 

 魔物に家族を襲われ、途方に暮れた人間は数多くいる。その中には、魔物への復讐の念を募らせ、自ら討伐に出る人間もいるが、大多数は泣き寝入りとなってしまうのだ。

 そして、大黒柱である男を失った家族は、生活する事もままならず、路頭に迷う事となる。

 

「その不満の行き着く先は、国家やそれに準ずる施設だ。それ以外にも、国の要人達への不満なども多く上がっているだろう。その為にも、捌け口を国が作る必要がある」

 

「……」

 

 カミュの言葉の意味が、未だにサラには理解できない。そんなサラの様子に、カミュは深い溜息を吐き出した。

 後方で立ち止まっていたリーシャは、そんなサラに近づき、傍に控えている。リーシャには、カミュの話している内容が理解できているのだろう。

 

「まだ解らないか?……自分達よりも境遇が悪い人間がいれば、それに対する優越感が生まれ、一時的にでも不満は発散される。ならば、国がそれに相当する人間を作ってしまえば良い」

 

「……何を…するの…ですか……?」

 

 『聞いてはいけない』

 サラの中で、そんな警告が鳴ってはいたが、サラはカミュに先を促してしまう。それは、茨の道の門を叩く愚かな行為であった事を悔やむ事となるのだが、この常に考え、悩む『僧侶』は、自らその道の門を潜ろうと足を踏み出した。

 

「……公開処刑だ……」

 

 しかし、促した答えを口にしたのは、サラの後ろを歩くリーシャだった。

 サラはリーシャの発した言語の意味を、頭の中で理解するまでに数秒の時間を要する。

 それ程に、衝撃の強い問題であり、教会という閉ざされた空間で生きて来たサラの頭の許容範囲を大きく逸脱してしまう問題だったのだ。

 

「……罪を犯した罪人を、国民皆の前で処刑する……『この人間は、他の人間にとって厄災となった人物であり、魔物と同じだ』とな。それも、バコタ程の大物であれば、処刑までの日取りも早まるだろう」

 

 リーシャを見つめていたサラの後ろから、カミュが先を話し出す。頭の中の混乱に拍車をかけるように、前から後ろから答えが出て来る事に、サラは目眩がしてきた。

 サラの身体を支えるように腕を掴んだリーシャの瞳を、虚ろに見上げたサラの瞳は、大きく揺らいでいる。

 

「……そんな…そんな…こと……」

 

「それは、国を統べる者が考える、国民感情の操作として当たり前の行いだ。簡単に批難出来る物ではない」

 

 縋るようにリーシャを見つめるサラに向かって、カミュが止めの一言を発する。サラのような一介の『僧侶』が疑問を呈して良い問題ではないのだ。

 国家を維持する為、その国に生きる国民の心を護る為、その行事は『必要悪』だとカミュは言っていた。

 

「で……ですが!」

 

「……サラ……それが事実だ。殺人などの罪を犯した人間の処刑は、そのような形で行われる。それはサラも知っていた筈だ。その人間がどういった人間なのか、どういう生い立ちなのかは、国民には関係がない事なんだ」

 

 リーシャも宮廷にいる際に、何度かこの処刑に立ち会った事がある。ただ、その頃は、罪人達の内情など考えもしなかった。

 罪を犯した人間が裁かれる事は、当然とさえ思っていた。

 それはサラも同様である。教えに背く者、国家の罪人となった者、そういう人間が裁かれるのは、自業自得とさえ考えていたのだ。

 

「俺が聞いていた話では、バコタは盗賊であっても、殺しという罪を犯した事は一度たりともない。だが、最近スラムでも事件が起こっていない筈だ。故に、アリアハン大陸一の盗人である『バコタ』という人物を、国を挙げて捕縛したのだろう」

 

「……」

 

「……おそらく、あの老人もそれは解っていたんだろうな……」

 

 カミュはそう言うと、止めていた足を再び動かし、先を歩いて行く。

 余りにも大きな衝撃を受け、サラは呆然としていた。そんなサラの背中に優しくリーシャの手が触れる。

 先程まで対していた老人は、そんな国の掲げる『必要悪』とされた者の一人。

 故に、自分の息子の行く末にも察しは付いていたのだ。

 

『これで、わしは完全に天涯孤独となってしまったのう』

 

 自身の兄の最後を聞いた時に老人が溢した言葉をサラは思い出した。

 本来であれば、投獄されてはいても、『バコタ』が生きている以上、あの老人の肉親はいる筈なのだ。

 サラのように考えていれば、何れ戻って来るであろう息子を想い、あの言葉が出て来る事はない。しかし、あの老人は、自身を『天涯孤独』と語った。

 それは、息子を勘当した事を考慮に入れていた訳ではなかった事が、リーシャの言葉で明白となる。

 

「……サラ……冷たいようだが、バコタの事は、私達の旅とは関係のない事柄だ。殺しはしていなくとも、罪は罪。それは、あの老人も、そしてバコタも覚悟の上だろう」

 

「!!」

 

 サラはリーシャの言葉に驚き、落胆した。

 リーシャは、カミュとは違い、自分と同じように考えてくれていると思っていた。

 『裏切られた』という思いを持ったサラは、横に立つリーシャに鋭い視線を向けて、後悔する。

 リーシャの顔は、今にも泣き出しそうな程、歪んでいたのだ。

 リーシャとて、全てを飲み込む事等できる訳ではない。カミュのように、全ての事柄に諦めという感情を持ち、自分には関係ない事だと割り切る事等できる筈はないのだ。

 それでも、このパーティーの中で最年長の自分が取り乱す訳にはいかない。その想いが言わせた言葉だった。

 

「……行こう……サラ」

 

「……はい……」

 

 二人は重い足を引きずるように、前を歩くカミュを追って行く。太陽は既に昇り切り、サラ達の心と裏腹に、雲一つない抜けるような青空が広がっていた。

 それぞれの消化しきれぬ想いを溜め込んだままに一行は歩き出した。

 

 

 

 

 


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