新訳 そして伝説へ・・・   作:久慈川 京

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第十三章
旅人の祠


 

 

 

 船上を吹き抜ける風は、徐々に冷たい物へと変わって行き、船員達は上着を羽織り、手袋を着けて行く。カミュ達一行も同様であったが、例の如く、メルエだけは何故か上着を着る事を嫌がっていた。

 幼い『魔法使い』との対話によって、再び前を向いて歩み始めた『賢者』は、冷たい風が吹き抜ける中で海を眺めているメルエの世話を焼いている。上着を嫌がり、『むぅ』と頬を膨らませるメルエの手に何とか手袋を着けたサラは、寒さに凍えないように、その小さな身体を後ろから抱き締めた。

 

「そろそろ、この大陸の最北の場所へ着く筈だ」

 

 トルドの居る開拓地を出てから、二週間近くの時間が経過した頃、ようやく船は目的地へと近付いて行った。

 <グリンラッド>と呼ばれる永久凍土の島の南にある小さな島がカミュ達の目的地であり、その場所はスーの村や開拓地のある大陸の最北端に位置する。

 この世界の不可思議な成り立ちの全てを理解した訳ではないが、カミュ達もこの船の船員達も、『そういう物』として飲み込んでいたのだ。それは、数多くの神秘を見て来た者達だからこその考えなのかもしれない。自分達の理解の範疇を大きく超える現象が、この世の中に数多くある事を、彼等は知っていた。

 いや、正確に言えば、そう考えなければ、精神に負荷が掛かり過ぎるのかもしれない。

 

「あの島に上陸出来るか?」

 

「上陸は無理そうだな……いつも通り、何処かの浅瀬に止めてから小舟で上陸して貰った方が良いだろうな」

 

 大陸の最北端を過ぎた船の前方に陸地が見えて来た事で、カミュは頭目へ言葉を掛ける。だが、望遠鏡と呼ばれる物を覗き込んだ頭目は、カミュの提案に首を横へ振った。

 期待はしていなかったのだろう。頭目の答えに落胆した様子もなく、カミュは船の装備されている小舟の手配を始めた。

 

 グリンラッドに居た老人の話では、あの永久凍土の南に位置する場所にある祠近くに『旅の扉』があると言う物だった。

 スーの村付近で、そのような祠の話を聞いた事がない以上、最北端の先にある島にあると考えるのが妥当であろう。それは、メルエとの対話によって復活を果たしたサラとカミュが話し合った事で結論に達していた。

 二人が難しい顔をして地図を睨んでいる姿を不思議そうに見つめていたメルエが、何かと邪魔をしていて、リーシャに怒られた事は、また別の話である。

 

 

 

 小舟を使って島へ上陸したカミュ達は、その島の気温の低さに驚きを示した。

 グリンラッドと呼ばれる永久凍土程ではないが、吹き抜ける北風は冷たく、身体を縮ませる威力を誇り、カミュ達は、吹きつける風を避けるように一つに固まって歩き始める。唯一人、メルエだけは、皆が傍に寄って来る事に頬を緩め、皆の顔を笑顔で見上げていた。

 

「一度、森を抜ける」

 

 カミュ達が小舟を着けた場所は、森の入り口付近であり、周囲は木々に覆われていて視界がとても狭い。地図を手にしながら、カミュは森を抜ける為に、西の方角へと歩を進めた。

 森の中は木々の香りに満ちており、先程まで吹き付けていた風は、木々に遮られて周囲の気温も落ち着きを見せている。先を進むカミュを追うように歩き出したサラの手を握り、もう片方の手に持った<雷の杖>で草を搔き分けるようにメルエも歩いて行った。

 

「カミュ様、あれは……」

 

 陽が西の大地へと陰り始め、火の中に居るかのように森の中を赤く照らし始めた頃になって、ようやくカミュ達は森を出る事となる。欝蒼としていた木々が無くなり、急に開けた視界の中、カミュの後ろを歩いていたサラの瞳に、予想だにしなかった物が映り込んだ。

 それは、この小さな島に相応しくない建物。

 以前に見た事のある神殿のような、しっかりとした造りの建物の姿が、遥か前方に見えて来ていた。

 石造りであろうその建物は、西日の明かりを受けて、燃え上がるように赤く輝き、まるで新たな道を指し示すように、カミュ達の瞳に映り込む。建物の場所まではまだ距離があり、陽が沈むまでには到着する事は無理だとは思われるが、それでもその光景は、カミュ達の心に幾許かの想いを運んで来た。

 

「カミュ、どうする?」

 

「陽が沈むまでには少し時間がある」

 

 西の大地へ沈む太陽に視線を動かしたリーシャは、この後の行動をカミュへ尋ねる。だが、未だに陽の光によって地図が見え、前方には目的地であろう場所が見えている以上、この青年が立ち止まる事はない。

 そんなカミュの答えを予想していただのだろう。然して不満を見せる事もなく頷いたリーシャは、サラとメルエを先に歩かせ、最後尾を歩き始めた。

 

 

 

 結局、陽が沈み切るまで歩いた一行であったが、建物との距離はそれ程縮まる事もなく、近場の森の入口で野営を行い、太陽が昇るのを待って、再び歩き始めた。

 その姿を認識した頃から、建物の大きさは全く変わらない。それが、その建物の巨大さを如実に表している。遠近感覚の作用によって、通常であれば、遠くにある物は小さく見える筈なのだが、見つけてから半日近くも歩いているにも拘らず、その建物の見た目は、変わる事はなかった。

 

「今日中には辿り着けないかもしれませんね」

 

 日の出と共に歩き始めた一行であったが、太陽が真上に昇った頃になっても建物との距離が縮まった感覚が無い事で、サラは一つ溜息を吐き出す。そんなサラの手を握っていたメルエは、サラの溜息に首を傾げた。

 基本的に、一番幼い筈のメルエは、旅を続ける上で一番苦痛となる筈の徒歩を嫌がる事が無い。『眠い』という言葉を伝える事はあるが、『疲れた』という不満や、『歩けない』という我儘を言う事はないのだ。

 それは、カミュ達に『置いて行かれる』という恐怖からではないだろう。彼女にとって、見る物全てが輝き、聞く物全てが楽しいのかもしれない。平原の傍に湧く泉に反射する太陽の輝きに目を細め、その泉で生きる生命を見つけては目を輝かせる。それは、この広い世界を知ったばかりの少女にとっては、何よりも楽しい事なのだろう。そして、そんな自分を見守ってくれている三人と共に歩む事が、この少女にとって何よりの喜びとなっているのだ。

 

「そうだな。だが、行ける所まで行ってみよう」

 

 既に今回の目的地をカミュ達は船の頭目へと話しており、その頭目もまた、その目的地への移動手段を知っていた。

 実は、船を降りる際にカミュは頭目へ船の行く末に対して話をしている。サマンオサという場への移動手段が『旅の扉』しかない以上、この場所のすぐ近くにサマンオサが存在しない事は明白であり、その場所を訪れたカミュ達が長い時間戻って来ない可能性も考えられた。

 また、『旅の扉』という言葉から、行き来が出来る事は想像できるが、それが確実な物であると断言できる程、カミュ達は『旅の扉』を使ってはいなかったのだ。アリアハンからロマリアへの移動は、片道通行しか使用した事はなかったし、ガルナの塔にあった『旅の扉』は同じ塔内を移動する短い距離だけであった。

 故に、船はカミュ達をその場で待つのではなく、近くにあるスーの村へ滞在するか、天候の良い時を見計らって、ポルトガまで戻る事に決定していたのだ。

 何故か、海の強い魔物は、天候が崩れ、海が荒れた時に現れる事が多く、それ以外の<マーマン>は元カンダタ一味を中心に駆逐する事は可能であったし、<満月草>という道具を大量に船に積んでいるため、<しびれくらげ>の毒を恐れる心配はない。何より、<ルーラ>を行使出来るカミュ達であれば、サマンオサという国が、地図上の何処にあったとしても、スーの村やポルトガへ戻る事が可能であった。

 

「あれだけ巨大な神殿であれば、もしかすると、サマンオサへの『旅の扉』以外があるのかもしれないな」

 

「そうですね……この場所が、昔は移動拠点だったのかもしれませんね」

 

 歩きながら呟いたカミュの一言に、サラが感じた事を口にする。

 カミュ達であっても、一国へ向かう『旅の扉』という物が、森の中に剥き出しで存在するとは考えていなかった。だが、ここまで大がかりな建造物の中にそれがあるとすれば、魔王出現以前は、この場所も移動する商人や、そんな商人に向けて商売をする集落などが近くにあったと考えるのが妥当であろう。

 もしかすると、この島に上陸する為の船着き場の名残も、島の何処かに存在していたのかもしれない。そう言う事を考えられる程、目の前に見える建造物の佇まいは、多くの資金と労力が掛けられている事を想像させる物だった。

 

 建造物が更に大きく見えて来た頃に、再び太陽は西の大地へと隠れ、カミュ達はもう一晩の野営を余儀なくされる。近場にある森の中で果実や獣を採り、食事を終えたカミュ達は、太陽が昇るのを静かに待つ事となった。

 

 

 

 日の出と同時に再び歩き出した一行は、目の前に根元まで見えて来た建造物へと向かって歩き出す。ここまでの道のりの中でも、何度か魔物との戦闘を重ねては来ているが、カミュ達を苦戦させる程の魔物との遭遇はなかった。

 既に彼等四人の力量は、『人』としての枠を大きく超えてしまっている。それは、彼ら自身が一番理解しているのかもしれない。

 世界中に散らばる魔物達は、彼等が『魔王バラモス』へ近付く程に、その強さを増している。それは、正に彼等が『魔王バラモス』との距離を縮めている事を証明するかのように。

 魔王との距離は、その魔物の魔力に大きな影響を及ぼすのだろう。それは、物理的な距離だけではなく、精神的な距離も考慮に入れるべきなのかもしれない。

 

「…………おおきい…………」

 

「本当に大きいですね……」

 

「おそらく、この場所は、サラの言う通り、移動拠点にもなっていたんだろうな」

 

 ようやく辿り着いた建造物は、遠目に感じていた通りの巨大な物であった。

 建物を見上げたメルエの首が真上に上がってしまう程の物であり、その大きさに、サラでさえも溜息を吐き出す程であった。

 サラと同様に建造物を見ていたリーシャは、この場所の役割について想いを巡らす。国家に仕える騎士としての役職を持っていた彼女は、少なからず知識は持ち合わせていたのだ。

 『旅の扉』という移動手段を用いらなければ行く事の出来ない国へ入る以上、それには順番という物も存在した筈であり、何十人もの人間が一斉に飛び込む事の出来る物ではない為、それこそ数日の時間を待つ事もあっただろう。

 行く者もいれば、帰って来る物もいる。

 交互に『旅の扉』を使うのであれば、尚更である。

 

「行くぞ」

 

 大きな建造物を感慨深く見上げる三人を置いて、先頭に立っていた青年が重い扉を押し開いた。

 何年も、何十年も開く事のなかった扉が、今、再びその口を開く。かなりの力を込めなければ開かないのか、全身を使って、カミュがその扉を押し開いた。

 重苦しい音と共にカビ臭い臭いが中から溢れ出し、一行の鼻を衝く。カミュの後ろから覗き込んでいたメルエが、その臭いに対して不快に顔を歪め、不満そうにサラを見上げる。

 

「さあ、メルエ、行きましょう?」

 

「…………むぅ…………」

 

 中に進んでしまったカミュを追う為、サラが伸ばす手を握ったメルエは、中に入ると同時に漂う埃とカビの匂いに、尚一層表情を歪めた。

 少なからず緊迫した空気の漂う建造物の中で、そんなメルエの姿を見たリーシャとサラは、場の雰囲気とは異なる笑みを浮かべる。自分の事を笑われていると感じたのだろう。メルエは悔しそうにサラの腰に顔を埋めてしまった。

 

「どっちだ?」

 

 メルエを中心とする和やかな空気は、先頭を歩いていたカミュが立ち止まった事によって霧散する。

 背中の剣に手を掛けていない事から、魔物と遭遇した訳ではない事は解る為、三人は緩やかな足取りでカミュの許まで歩き、その動向を確認した。

 振り向いたカミュの目線は、一人の女性に固定されており、その言葉を聞けば、それが誰であるかなどは、即座に理解出来るだろう。現に、サラなどは、その質問の意図を理解し、無言で女性戦士へと視線を移している。先程までサラの腰に顔を埋めていたメルエもまた、その女性を見上げ、不思議そうに首を傾げていた。

 意図が掴めないのは、当の本人だけである。

 

「ん?……何がだ?」

 

「三方向に分かれていますね……」

 

 自分へカミュが何を問いかけているのかが、瞬時に理解出来ないリーシャは、メルエと共に首を傾げ、自分へ視線を向ける青年を見つめ返した。

 困ったように眉を寄せ、溜息を吐き出したカミュに代わって、リーシャの隣に立っていたサラが、カミュの問いかけたい内容を再度伝える。その言葉に、ようやくリーシャは合点が行ったのか、何かを考えるように拳を顎に当てた。

 サラの言葉通り、目の前は三叉路になっており、その先に『旅の扉』があるであろう事が解る。おそらく、この場所はリーシャの言う通り、移動拠点となっていたのだろう。サマンオサへの移動手段だけではなく、他の地方への扉ともなっていたのだ。

 行き先によって、この三叉路で別れ、各々の進みたい場所へ繋がる『旅の扉』へ飛び込んでいたと考えられる。だが、その道標が今はない。誰も利用する事の無くなったこの場所は、移動拠点としての名残は残されているものの、細かな配慮を残す事はなかったのだ。

 

「しかし、三方向に分かれているしな……私が道を示した所で、それを無視するのだろう?」

 

「そ、そんな事はありませんよ」

 

 暫しの間、顎に手を当てて考えていたリーシャであったが、不意に思いついたように顔を上げ、カミュを恨めしそうに睨みつける。その瞳を向けられていないにも拘わらず、驚いたのはサラであった。

 明らかに不審な動きをし、言葉も怪しく口籠る。誰が見ても怪しい態度を示すサラを、カミュとリーシャは冷ややかな瞳で見つめていた。

 そんなやり取りの中、一人だけ笑顔を浮かべていた少女が、三方向の道へ視線を移し、何度か首を往復させた後、諦めたように首を傾げる。そんなメルエの様子を見ていたカミュは、再び溜息を吐き出した後、ゆっくりと口を開いた。

 

「ならば、アンタが『この道だけは違う』と感じた方向を教えてくれ」

 

「違う道?……そうか、その道だけを外して、二択で考えると言うのだな?」

 

 カミュが提示した別案は、リーシャにとってはとても魅力的な物であった。

 リーシャが『違う』と感じた道だけを外し、それ以外の二方向への道からカミュが選ぶのであれば、全責任をリーシャが負う必要はない。一度『旅の扉』へ入れば、同じ場所に入って戻って来る事の出来る保証が無い以上、この選択はかなり責任を問われる物だとリーシャは感じていたのだ。

 常に、自分が最善と感じた道を示して来たリーシャではあったが、ここまでの結果が示す事を、彼女なりに実感してはいたのだった。

 

「そうだな……右だな……右への道だけは違うような気がするな!」

 

「そうか……右だな?」

 

 暫しの間、目の前にある三叉路を見つめていたリーシャであったが、何かが閃いたかのように首を上げ、その指で右へと続く道を指し示す。

 相当な自信があるのだろう。その指は、真っ直ぐ道を指し示し、声は高らかに張り上げられている。そのリーシャの姿に目を輝かせたメルエが、リーシャの姿を真似しながら微笑みを溢していた。

 しかし、そんな自信に満ちたリーシャの言葉に静かに頷いた筈の青年は、彼女が『絶対に違う』と感じた右への道へ、迷いなく進んで行ったのだ。

 

「お、おい! 右は違うと言ったぞ!」

 

 しっかりと頷きを返した筈のカミュが、そのまま右への道を進んで行くのを見たリーシャは、いつもの通り、その行動を咎めるように言葉を発した。

 いくらリーシャと言えども、経験は積んでいる。

 自分が正しいと指し示した道が誤りであったという経験を何度もして来たのだ。故に、その道が無視されたとしても、悔しさに唇を噛み締める事はあっても、喚く事はなかっただろう。だが、間違っていると思っている道を示したにも拘わらず、その道を進まれては、流石のリーシャも声を上げるしかなかった。

 

「……俺は、アンタを信じている……」

 

「ふぇっ!? あ……わ、私もです!」

 

「…………メルエも…………」

 

 しかし、そんなリーシャの抗議は、振り返ったカミュの一言によって、止まった時と共に消え失せる。

 真っ直ぐ向けられたカミュの瞳に嘘は見えない。

 その瞳に込められた物は、真実の信頼。

 それを感じ取ったリーシャの身体は硬直したように固まり、それを見たサラも慌てて同意を示し、今まで笑顔で成り行きを見守っていたメルエも、真剣な表情を作って名乗りを上げた。

 『信じる』という言葉は、今のメルエにとっては、とても重い言葉でもある。サラを信じ、カミュを信じ、そしてリーシャを信じているからこそ、今のメルエは笑う事が出来るのだ。

 それを、この幼い少女は、誰よりも理解していた。

 

「そ、そうか……何と言うか……ありがとう」

 

 この場で戸惑いを見せるのは、三人の視線を受けたリーシャ唯一人。

 先程まで感じていた憤りも消え失せ、何とも気恥ずかしい喜びが湧き上がって来るのを抑え切れず、照れたように顔を伏せ、皆に頭を下げる。

 リーシャの礼に答えるかのように、しっかりと頷きを返したメルエがその手を握り、笑みを浮かべた事によって、リーシャの顔にも輝かしい程の笑みが浮かび上がった。

 無言のまま、再び前を向いたカミュが右の道へと進んで行き、その後ろを笑顔の三人が続いて行く。

 

「メルエは、私と一緒に入りましょうね」

 

「…………ん…………」

 

 右の通路は、何の障害もなく真っ直ぐ進み、祈りを捧げるように微笑むルビス像が立つ行き止まりに辿り着いた。

 佇むルビス像の足下には、渦巻く泉が湧き、綺麗に整えられた石堤によって泉は堰き止められ、それにも拘らず、その水は透き通るように澄んでいる。まるで、この先の場所さえも見通す事の出来るかのように澄んだ泉は、絶えぬ渦を作り、この先の道を歩む者達を誘う。

 

「先に行く」

 

「わかった。次にサラとメルエを続かせる。向こうでの安全の確保を頼んだ」

 

 泉の姿に見とれている間に、カミュは石堤の上に立ち、泉の中へ飛び込む準備を進めていた。

 カミュへ視線を送ったリーシャは、先に行くカミュに、到着地での対応を任せる。

 カミュの次にメルエの手を握ったサラが飛び込めば、『旅の扉』を潜る際の安定を崩すだろう。

 人一人でさえ、その浮遊感に目を回す事もあるのだ。幼い子供の手を握り、その安全を確認しながらであれば、身体への影響も一人の時とは異なる事になるだろう。ましてや、今回はサラの役目となっている為、リーシャの時とは異なった不測の事態が起きないとも限らなかった。

 

「メルエ、準備は良いですか?」

 

「…………ん…………」

 

 リーシャに一つ頷いたカミュが泉に飛び込み、泉に渦に飲み込まれるように消えて行った後、波打つ水が落ち着きを取り戻すのを見計らって、サラがメルエに声を掛ける。

 手を握っていたメルエが大きく頷くのを確認したサラは、メルエに優しい笑みを向けた後、泉の中へと飛び込んで行った。

 最後に残ったリーシャが、周囲を一通り見回した後、一気に泉へと飛び込む。

 大きな音を立てて波打った泉の水は、異物を飲み込むように渦を巻き、次第にその波紋を納めて行った。

 

 

 

 

 

 サラが意識を取り戻した時、その手はしっかりと幼い手を握り締めており、その幼い手の持ち主は、未だにサラの胸の上で意識を失っていた。

 既に、『勇者』と名乗る青年と、アリアハンが誇る『戦士』の女性は、意識を取り戻していたのだろう。既にカミュの姿はここにはなく、リーシャだけが周囲を確認するように、辺りを見回していた。

 改めて見回してみると、飛び込んだ場所と同じ様な泉が、石堤によって湛えられており、その傍には一体のルビス像が安置されていた。

 ただ、不思議な事に、ルビス像を真ん中に二つの泉が湛えられており、その二つの泉は、同じように渦を巻く様に動きを持っている。それは、その二つの泉が『旅の扉』と呼ばれる物である事を示していた。

 

「サラ、気が付いたか?」

 

 サラが周囲を確認している最中に、彼女が意識を取り戻した事を察したリーシャが傍に寄って来る。既にサラとメルエの身体の安否は確かめ終えているのだろう。リーシャは、身体の具合を確かめる素振りもなく、身体を起こそうとするサラから、メルエを離した。

 しかし、メルエの手は、しっかりとサラの手を握っており、その手を離そうとはしない。苦笑を浮かべたリーシャは、メルエの意識が戻るまで、サラの膝の上でメルエを寝かせる事にする。

 

「ここは、何処ですか?」

 

「……解らない……カミュが火を点したのだが、傍にもう一つ『旅の扉』があるだけで、この場所には他に何も無かった。今、カミュが少し先の方を確認しに行っている」

 

 リーシャだけではなく、カミュもこの場所が何処であるのかが一目では解らなかったのだろう。火を点し、壁に掛かる燭台へ移した後、周囲を見回しても判断出来ず、サラ達の意識が戻るまでの間、周辺を探索していたのだ。

 予想以上の時間、自分が気を失っていた事に気が付いたサラは、恥ずかしそうに顔を赤らめ、申し訳なさそうに顔を俯かせる。その姿に苦笑を洩らしたリーシャは、サラの頭を軽く二、三度叩き、カミュが向かった通路の先へと視線を戻した。

 

 その後、カミュが戻って来る頃にはメルエも意識を取り戻し、戻って来たカミュのマントの中へと潜り込んで行く。<たいまつ>の火が、メルエに危害を及ぼさぬように上へと上げるカミュの困惑顔を見たサラとリーシャが笑みを溢した。

 

「カミュ、ここが何処だか解ったか?」

 

「いや、正確には解らない。だが、サマンオサ国の周辺であろうとは思う」

 

 メルエをマントに入れたカミュは、リーシャとサラへ合図を送り、先程戻って来た道を再び進み始めた。

 カミュの後ろをついて歩き出したリーシャが、この場所が特定出来たのかを尋ねるが、その答えは酷く曖昧な物であり、二人は首を傾げる事となる。

 だが、二人は、この先にある行き止まりで、彼が発した言葉が嘘偽りない物である事を知るのだった。

 

「これは、見た事のない紋章ですね」

 

「おそらくは、サマンオサの国章だと思うが……」

 

 辿り着いた行き止まりは、大きな門であった。

 人工的に作られたその門は、金属で出来た巨大な門であり、その門の鍵穴らしき場所には、紋章が刻まれている。その紋章は、サラだけではなく、カミュも見た事のない物であり、鍵穴を覆うように刻まれた紋章の形は、今までの何処の国でも見た事のない物であったのだ。

 その紋章を見たサラは、自身の頭の中にある知識の引き出しから探るが、答えは見つからず、カミュは想像を口にはするが、確証までは至らない。故に、二人の瞳は、自ずと国家に関わっていた女性へと移るのだった。

 

「確かにサマンオサの国章だと思われる。私がアリアハン宮廷で見た各国の紋章に、この国章は存在した。この世界に残された国家で、未だに訪れていないのは、サマンオサだけだからな」

 

 この世界の『人』が造り出した国という物は、この数十年の間で数を減らしている。魔王台頭以前に、人間同士の争いによって滅びた国も多いが、魔王台頭後に滅びた国もあった。

 オルテガという青年が『魔王討伐』という旅に出る頃には、今と同じ世界状況になってはいたが、それ以前では、魔物によって滅ぼされた国も存在していた。

 実は、その魔物による侵攻の速度が急に衰えたのは、オルテガがその志半ばで無念の死を迎えた頃でもある。それまでは、魔物によって滅ばされる事はなくとも、国家が危機に脅かされる事はあったのだ。

 テドンの村が魔物に襲われた時期には、魔物の凶暴性は増しており、人々の危機は変わらずとも、国家がこの世から消えさる危険性は薄れていた。

 それが、現在の不安定な世界の均衡を保っている要因の一つであった。

 

「やはり、そうですか……では、この鍵はサマンオサ国が施錠した物なのでしょうね。外側からだけで開けられる物なのでしょうか?」

 

「メルエ」

 

「…………ん…………」

 

 リーシャの言葉は、カミュとサラにとっても既に答えとして出ていた物なのであろう。それに疑問を挟む事はせず、その扉についての会話を始める。サマンオサ国が自ら施錠した物であれば、それは国家の鍵である事になり、その国家特有の術式を編み込んである可能性があった。

 それは、簡単な術式ではない可能性もあり、この『旅の扉』という物が如何に国家にとって重要な物であるかを示している。国家に属す、宮廷魔道士のような者達が編み込んだ物であれば、<盗賊のカギ>等では、まず開錠は不可能であるだろうし、<魔法のカギ>と呼ばれる神秘の鍵でも不可能かもしれない。

 故に、カミュの言葉に応じたメルエは、ポシェットの中から、<最後のカギ>を取り出した。

 この幼い少女は、その幼さの残る心によって、我儘も言うし、拗ねもする。だが、その頭脳は決して愚鈍ではなく、むしろ、このパーティーの中でも、『賢者』と呼ばれる女性と並び立つ程の『かしこさ』を備えているのかもしれない。

 

「開いたな」

 

 カミュが<最後のカギ>を鍵穴に差し込むと、乾いた音を立てて扉が開錠された。

 それと同時に、扉の向こう側でも大きく乾いた音が響き、外側と内側の鍵が同時に開いた事を示す。

 カミュが鍵をメルエに渡し、その鍵がポシャットへと納まるのを見届けたリーシャは、解り切った事を呟きながら、見るからに重量感のある扉を押し開ける為に、一歩前へと踏み出した。

 カミュとリーシャという前衛部隊が、共同で扉に向かって力を込め、ゆっくりと鉄の扉が押し開かれる。重量感のある音を響かせながら開いて行く扉を見ているメルエの瞳が輝き、まだ見ぬ未知なる世界に想いを馳せていた。

 

「あれ?」

 

 しかし、押し開かれた鉄扉の先に見える景色は、サラやメルエの想像とは異なった物だったのだろう。拍子の抜けた声をサラが上げ、メルエに至っては、何とも不思議な表情で首を横に傾げていた。

 扉の先に見えたのは、只の壁。

 正確に言えば、左に折れる道へと繋がる行き止まりであった。

 

「行くぞ」

 

 不思議そうに目の前の光景を見つめる三人を余所に、カミュが先頭を歩き出し、扉の先に見える通路を左へと折れて行く。扉を開けた通路の壁には、既に灯された燭台が続き、明るく室内を照らし出していた。

 慌ててカミュの後を追うメルエに続く様に、サラとリーシャも歩き出し、一行は不思議な空間へと足を踏み入れて行く。

 

「えっ!? あ、あれ?」

 

 それはどちらの声だっただろうか。

 カミュの後ろを歩いていたサラは、その先に広がる景色を見て、不思議な声を上げるが、サラの目の前に見える場所に居た男性もまた、同じようにカミュ達を見て目を丸くし、不思議な声を上げていた。

 その男性は、サラが以前に着ていた法衣のような物を纏い、その男性の後ろには、静かに佇むルビス像が見える。郊外に佇む教会であるのか、その神父は、一人祭壇近くでカミュ達を見つめ続けていた。

 

「そちらから来られたと言う事は、『旅の扉』を使って来られたのですか?」

 

「はい」

 

 暫しの間、カミュ達を呆然と眺めていた神父であったが、我を取り戻し、先程感じた疑問をカミュに向けて口を開く。その言葉に、カミュは即座に返答し、神父とカミュとの間に緊迫した空気が流れた。

 ここに教会のような物が存在すると言う事実は、国家が所有する『旅の扉』という物を管理する役目を担っている可能性もある。国と教会は別の組織ではあるが、その関係は切っても切り離せない物である事も、また事実であるのだ。

 『旅の扉』という移動手段は、国家に余所者が流れ込むという事とは別に、国民が外へ流出してしまうという恐れもあった。

 国民の流出という物は、国家にとって税という収入が減る事と同義であり、故に、それを国家が管理する事は当然。そして、国と一体となる教会が、その役目を担っていたとしても、何ら不思議ではなかった。

 

「そうですか……この『旅の扉』が封鎖されてから、もう長い年月が過ぎました。その長い年月が経過する中、噂では、サマンオサ国の国王様が『人変わり』をなされてしまったらしい……もはや、この場所も不要なのかもしれませんね」

 

「サマンオサ国王が『人変わり』をされたと言うのは?」

 

 カミュと睨み合いを続けていた神父は、不意に視線を外し、大きな溜息を吐き出した。その様子を見る限り、カミュ達の予想は大きく外れていた訳ではなく、やはり、この場所は国の監視下に置かれていたと推測出来る。

 しかし、そんな他愛のない会話の中に含まれていた一言が、カミュとサラの何かに触れてしまった。

 『人』という種族の心の成長という部分は、カミュもサラも、この旅で実感している。カミュは、『賢者』となったサラを見ているし、今やパーティーの要と考えているリーシャの変化も目の当たりにしていた。

 対して、サラの方は、三年になる旅の中で、自身が本当の意味で『勇者』と信じる事が出来る存在へと変化して行くカミュという青年を見て来ている。その全員が、アリアハンという国を出て頃から考えると、別人と言っても過言ではない変化をしているのだ。

 だが、そんなカミュ達の変化は、『成長』であって、『人変わり』とは言わない。カミュ達を昔から知っている人間が彼等を見ても、『別人のように成長した』と評価する事はあっても、『人が変わってしまったようだ』とは言わないだろう。

 『人変わり』という言葉は、良い意味で使われる事は無いのだ。

 

「ふむ……それは……」

 

 一国の王が『人変わり』をしてしまったという事実は、只の噂ではあるが、教会の神父が興味本位で語ってはいけない物である事を思い出したのだろう。自分の失言を悔やむように表情を歪めた神父は、カミュの問いかけに口籠ってしまった。

 追及出来ない状況になってしまった事を察したカミュとサラが、それ以上に神父を追求する事を諦め、別の話題を振ろうと口を開きかけた時、傍で話を聞いていた女性戦士が、遂に口を開く。そして、その一言が彼等の今後の行動を決定する物になってしまったかもしれない。

 

「サイモン殿はご健勝か? この世界の『二大英雄』と謳われたサイモン殿にお会い出来るのが楽しみなのだ」

 

「!!」

 

 リーシャの言葉は、この場に居るメルエ以外の人間にとって予想外の物だった。メルエ自体、既に一連の会話に興味はなく、ルビス像を見上げている為、リーシャの言葉自体を聞いていない。

 だが、『英雄サイモン』という存在の会話は、この場所では禁忌だったのかもしれない。何故なら、その名を聞いた神父の顔が、死人のように青白く変化しており、口元も微かに震えていたのだ。

 

「……サイモン殿は、確かにこの地方の英雄でした。サマンオサ国民の誇りであり、希望でありました。しかし……そんなサイモン様も、十年程前にサマンオサを追放されました」

 

「追放だと!?」

 

「ど、どういう事ですか?」

 

 輝く瞳を向けるリーシャに対し、心苦しそうに俯いた神父は、絞り出すようにその事実を口にする。それは、リーシャやサラにとっては、予期せぬ物であり、想像すらもしていなかった物であった。

 アリアハンの英雄『オルテガ』と並び立つ程の者と称された一国の英雄が、十年程前に、その祖国を追放されていたと言うのだ。

 追放とは、ただ単に国から出される訳ではない。そこには、その国に著しい不利益を与えたという不名誉が与えられ、汚されたその名は、その国の中では汚物と等しい程に価値を失う。それだけではなく、追放という事実は、その者の命にも直結するのだ。

 国の外に出て、無事に解放される事など有り得ない。そればかりか、自由の身のままで国外に出る事が出来る訳がないのだ。追放された者が自由を手にする時は、その者が死を迎えた時だけと相場は決まっている。

 

「サイモン殿は、何処へ行ったのだ……」

 

「勇者サイモンが、向こうの『旅の扉』より追放されたのもまた、サマンオサ国王の命令と聞きます」

 

 呆然とする中、リーシャが無意識に言葉を洩らす。

 英雄という存在に強い憧れを持っていたこの女性が、この四人の中で一番衝撃を受けた事だろう。だからこそ、彼女は、その英雄の命がまだあるのではないかという希望に縋るのだ。

 だが、そんなリーシャの願いは、続く神父の言葉で絶たれてしまう。

 国王の命となれば、サイモンの命はないだろう。

 国外で処刑されているか、運が良くとも、国外の何処かに幽閉され、数年の間に命を落としているに違いない。

 リーシャは、下級といえども、貴族である。その事実が推測できない程、愚鈍な貴族ではないのだ。

 

「サマンオサへ向かうのならば、お気を付けなさい。国王のお人柄は、変わったままだと聞きます。この祠の西、山沿いをぐるりと西へ進まれるが良いでしょう」

 

 神父は、サマンオサへの道を告げた後、そのまま別室へ入ってしまう。

 彼は、この場所で暮らしているのだろう。サマンオサから監視役として置かれたのが何時の事なのかは解らないが、『旅の扉』閉鎖時の監視役でない事は、その勤務意識を見ても凡そ想像できる。

 神父が消えた後、暫しの時間が流れ、ようやく己の意識を取り戻したリーシャとサラがカミュへ視線を向け、行くべき道を問うように訴えかけた。

 

「カミュ様……」

 

「カミュ……」

 

 二人の瞳の奥に見える微かな光が解らない程、カミュとこの二人の付き合いが短い訳ではない。深い溜息を吐き出したカミュは、未だにルビス像を見上げているメルエを呼び、先程神父が示した、別の場所にある旅の扉へと歩き出した。

 リーシャとサラは、そんなカミュの背中を見つめ、頷き合った後、その後ろをついて歩き出す。

その方角にあるのは、サマンオサの英雄であるサイモンという男が追放される為に潜った『旅の扉』。

 何処へ繋がっているかも解らない物ではあるが、リーシャとサラの想いを受けたカミュがその道を選択したのだった。

 

「メルエ」

 

「…………ん…………」

 

 神父の居た祭壇から見て左側の通路を進むと、先程カミュ達が通って来たのと同様な鉄扉が控えていた。

 鉄扉の取っ手には、何重にも鎖が巻かれており、その鎖に大きな別鍵が付けられている。その状況が、この場所の重要性と、禁忌性を如実に表していた。

 再びメルエへと出されたカミュの手に<最後のカギ>が乗せられ、鎖に付けられた鍵に差し込まれて行く。乾いた音と共に別鍵は外れ、巻かれている鎖は、カミュとリーシャによって解かれて行った。

 

「先に言っておくが、その英雄様は、生きてはいないぞ?」

 

「ああ……解っている」

 

 カミュの言う通り、サイモンという名の英雄は、既にこの世にはいないだろう。この先にある『旅の扉』が何処へ繋がっているのかは解らないが、何処へ繋がっていようと、追放された英雄が生き延びている理由にはならないだろう。

 その事を、リーシャは良く理解していた。

 サラも、何処か釈然としない表情を浮かべてはいたが、何も反論を述べないところを見ると、理解はしているのだろう。

 

 鎖が解かれた鉄扉の鍵穴に再度<最後のカギ>を差し込み、開錠された事を確認した後、前衛の二人がその扉を力任せに開いた。

 重量感のある音を立てて開かれた扉の先は、十年もの間、開かれる事がなかったにも拘らず、何処か神聖な空気に満ちている。燭台へと火を移し、周囲の状況を見ると、そこにもルビス像が建てられ、その足下に渦巻く泉が湛えられていた。

 

「先に行く」

 

「わかった。また、サラとメルエを先に行かせる」

 

 振り向いたカミュと頷き合い、泉の中へと飛び込んだカミュを見送ったリーシャは、続いてサラとメルエを泉に飛び込ませる。再び、あの感触を味わう事に、少し眉を下げていたメルエであったが、サラに導かれるまま、渦巻く泉の中へと消えて行った。

 残されたリーシャは、一つ息を吐き出す。

 その溜息は何の為の物なのかは解らない。

 だが、溜息を吐き出した後、再び顔を上げた彼女の瞳は、強い光が灯っていた。

 

 

 

 『旅の扉』へ飛び込んだ先というのは、当然『旅の扉』となる。

 先程とは全く異なる景色に、リーシャは少しの間、思考が止まってしまった。

 薄暗くはあっても、若干光があった先程とは異なり、この場所には一切の明かりがなかったのだ。周囲を見渡す事など出来ず、右を見ても左を見ても、闇しか広がっていない。瞳自体が潰れてしまったのではないかと感じる程の闇に、通常の人間ならば恐怖を感じてしまう事だろう。

 だが、そこは歴戦の猛者達である。

 

「カミュ、<たいまつ>を点けてくれ」

 

 リーシャの言葉と同時に、彼女の横で小さな炎が灯り、その炎が木の先に付けられた油布に移される。<メラ>という最下級の呪文を唱えたカミュの顔がうっすらと浮かび上がり、徐々に周囲の景色も見えて来た。

 今回は、気を張っていた為か、サラもメルエもすぐに意識を取り戻し、<たいまつ>を持ったカミュの許へと集まって行く。

 三人が自分の許へと集まって来た事を確認したカミュは、<たいまつ>を動かして、周囲の様子を確認し始めた。

 そして、その灯りは、一点で停止する。

 

「ひ、酷い……」

 

 その光景を見た、『賢者』を名乗る女性が声を失う。だが、それは<たいまつ>を持っていた青年も、その横に立っていた女性戦士も同様であった。

 泉の傍には、砕け散った破片が散らばっており、それが何であったか等、容易に想像できた。砕け散った破片は、全てが粉々に粉砕されている訳ではない。陶器のような物で出来たそれは、彼等四人が飛び込んだ『旅の扉』の傍に建てられていた物と同様の物であろう。

 破片と共に転がる人の手のような部分や、半分に割れ、それでも笑みを浮かべる女性の顔が、それが像の破片である事を物語っている。そして、泉の傍に立つ像など、この世界の守護者であり、『人』の信仰の対象である『精霊ルビス』を模った像以外に有り得ないのだ。

 

「これは、自然に朽ちた物ではないな……」

 

「誰がこのような事を……信仰をしていない者であっても、ルビス様の像を破壊するなど考えられはしない」

 

 散らばった破片を手に取ったカミュは、その壊れ方を見て、それが人為的に壊された物であると理解する。何かで叩き割ったかのように砕け散った破片は、決して自然に倒れて砕けた物ではない。執拗に叩き壊された像は、原型を留めている物は微かしか残ってはいなかった。

 この世界では、ジパングという特例以外の国では、『精霊ルビス』が共通の信仰対象となっている。全ての国の人間が、その存在を認め、今この時を生きる事が出来るのは、その加護による物と考えられていた。

 そして、その信仰の布教に努めるのが、『僧侶』と呼ばれる職業の者達である。サラという女性の前職は教会に属する『僧侶』であり、両親を失った後、神父に育てられた彼女は、誰よりも『精霊ルビス』の加護を信じていた。

 故に、カミュの呟きに怒りを露にするリーシャとは異なり、その横で言葉を失い、青褪めた顔を向ける事しか出来ないのだ。

 

「カミュでさえ、ここまではしないぞ! 誰だ、こんな事をする奴は!?」

 

 リーシャの頭にも、相当な量の血が上っているのだろう。彼女は『僧侶』ではないが、この世界で生を受け、この世界に生きる者達に育てられて来ている。幼い頃から、『精霊ルビス』という存在を教え込まれ、今日ある糧は、その加護による物だと信じて来た筈だ。

 そんな彼女が初めて出会った、ルビス教を信仰していない人間というのが、彼女の横に立つ、世界の希望と謳われる青年だった。だが、信仰の対象である存在を呼び捨てにし、その加護の存在に疑問を投げかけ、『人』が広める教えを否定して来たその青年は、決して他人の考えを変えようとまで踏み入る事はない。

 自分が信じていないと言う事を伝え、その理由を口にする事はあっても、それを信じる者の考えを覆そうと言う動きを見せる事はなかった。つまり、その信仰の対象である物を模った像を破壊したり、信仰を広める教会と対立したりという行動を起こす訳はないのだ。

 

「サマンオサ国王が『人変わり』をしたと言うのは、案外、本当の意味での『人変わり』なのかもしれないな……」

 

「なに!? どういう意味だ!?」

 

 自分を引き合いに出されたカミュは、苦い顔を浮かべるが、その言葉を聞き流す事にして、破壊されたルビス像を見て考えていた事を口にする。しかし、その内容はリーシャには理解出来ない物であった。

 それとは異なり、今まで呆然と砕け散った破片を眺めていたサラは、弾かれたように顔を上げる。まるで、この世の終わりかのように顔を青褪めさせ、縋るような視線をカミュへと向けるサラの表情は、悲壮感に包まれていた。

 

「そ、それは……まさか……」

 

「今、この段階では判断できない」

 

 ようやく絞り出したサラの言葉は、答えを求めた相手によって止められる事となる。この段階では、カミュの口にした事も単純な可能性にしか過ぎない。例え、彼等が解決して来た様々な出来事を省みても、この場所で断言し、確定する事など出来る訳はないのだ。

 特に、彼等がここまでの旅で解決して来た物は、全てその場で目にするまで判断の難しい物ばかりであった。

 

 ロマリアという国で盗まれた王家の宝は、カンダタ一味という盗賊によって盗まれ、その盗賊が行って来た様々な罪を、一味の棟梁は把握していなかった。

 ノアニールという、人が集う村に眠りの呪いを掛けた者は、人の敵と看做されている『エルフ』族ではあったが、その呪いの元は人の業であっただけではなく、その呪いを解いたのも、人の敵と考えていた『エルフ』の誇りと優しさであった。

 イシスの国を変えてしまった物は、権力を欲した者の強欲と考えられてはいたが、実際に私腹を肥やす事はなく、その全ては国民の為に使われ、真の国臣としての使命を全うしていた。

 バハラタの町を恐怖に陥れた盗賊の幹部は、自分達の罪を知っていて尚、それ以外に生きる道はなく、許されない行為へと手を染めていた。

 

 全てが全て、カミュ達一行が知る事柄ではないが、彼等は、一側面だけを見て物事を決定する恐ろしさを、この旅で学んでいるのだ。悔しさを滲ませるだろう、憤りも感じるであろう、哀しみも感じるかもしれない、それでも彼等は、自分の瞳で物事を見つめ、自分の頭で考えなければ物事を決定する事はしない。

 それこそ、彼等が『勇者一行』と呼ばれる所以なのかもしれない。

 

「メ、メルエ! 何をやっている!」

 

「…………むぅ…………」

 

 顔を俯かせてしまったサラの姿を見ていたリーシャは、その内容が並々ならぬ物である事を察して口を噤んでいたが、傍から聞こえ始めた奇妙な音に視線を移し、そこで繰り広げられている光景に絶句した。

 そこには、砕け散ったルビス像の破片を握り、それを壁に向かって投げている幼い少女の姿があったのだ。

 少し大きめの破片を掴み、壁に向かって投げ、再び砕ける時に発する乾いた音に頬を緩めたメルエは、何度も破片を拾っては壁に投げつけていたのだった。

 

「メルエ、これはルビス様のお姿を模った物だ。そのような事をしては、駄目だ!」

 

「…………むぅ…………」

 

 破片を持った手を強く握られ、叱りつけるように声を発するリーシャを見上げたメルエは、不満そうに頬を膨らませ、破片から手を離す。幼い彼女にとって、『精霊ルビス』という存在は、知識の中にも存在しない物なのだ。

 幼い頃から教育を受ける事はなく、自身の周りにある物に対しても興味を持つ事はなかった。故に、彼女にとって、食事の前の祈りも、大好きなリーシャやサラが行うから真似をするだけの事であり、そこに信仰心など欠片もない。ルビスの像に向かって祈るサラの姿を不思議そうに見つめ、面白そうだから真似をして跪くだけであり、そこに感謝の念など皆無なのだ。

 サラは、ルビスの教えという物をメルエに強要する事はなかった。この旅の中で、彼女自身、その教えに対して懐疑的になっており、『精霊ルビス』という存在自体は以前と変わらずに信仰しているものの、『人』が曲げてしまった教えに関しては、他者に強要する事はなくなっている。

 それが、ルビス像としての形を保っているのだとすれば、いつも見ているメルエも、それを破壊しようとは考えないだろう。だが、砕け散って破片となってしまえば、例え元は『精霊ルビス』を模った物であろうと、幼い彼女にとっては玩具に変わり果ててしまうのだ。

 

「メルエが大事にしていた<魔道士の杖>に嵌め込まれていた宝玉の欠片を、誰かが壁に投げつけていたら、メルエは怒らないのか?」

 

「…………だめ…………」

 

 自分の中の常識と、メルエの中にある物が完全に異なっている事を改めて感じたリーシャは、むくれる少女と目線を合わせ、言葉の内容を変化させる。そして、その考えは的を射ていたのか、メルエは先程まで膨らませていた頬を萎め、眉を下げて首を横へと振った。

 幼い少女が最初に買い与えられた武器は、今の彼女にとっても誇りであり、宝である。その想いを知っているリーシャだからこその言葉なのだろう。首を振った少女は、小さな声で謝罪の言葉を口にした。

 

「この問題は後だ……外に出てみる」

 

「わかった」

 

 母子のような会話が終了したのを見計らって、カミュが先頭を歩き出す。<たいまつ>を向けた先は、一寸先しか見えない程の闇が広がっており、カミュとの距離を置かずに、固まるように一行は前方へと歩を進めて行った。

 それ程の距離を歩く事無く、彼等は再び鉄で出来た扉の前に辿り着く。辺境の教会にあったのと同様に、しっかりとした造りの鉄扉は、そこに入る者も出る者も拒むように、悠然と構えられていた。

 メルエから鍵を受け取り、扉を開錠した一行は、重い扉を押し開け、外へと出て行く。ここも先程と同様に、『旅の扉』があった場所とは異なる明るさを保っており、壁の燭台には赤々と炎が灯っていた。

 

「あれ? 貴方達は何処から来たんですか?」

 

 出た先は、何処の城下町にも、どこの村にも存在する宿屋であった。

 カウンターで帳簿を付けていた店主が、不意に自分の目の前に現れた人間に驚き、入って来た場所を確かめる。カウンターの向かいには、しっかりと室内に入る扉があり、その扉には小さな鈴が付けられていた。

 客が店内に入って来れば鳴るようになっているのだろう。だが、その音を発する事無く店内に入って来たカミュ達に驚いたのだ。

 もしかすると、この店主は、『旅の扉』へと続く扉の存在を知らないのかもしれない。知ってはいても、鍵の掛けられた開かずの扉が開いたのを見た事はないのだろう。

 

「う~ん……あの鈴は壊れてしまったのかな……霊の類ではなさそうですし……」

 

 首を捻る店主は、失礼な言葉をカミュ達へ投げかけるが、この状況であれば、それも致し方ない事なのかもしれない。

 音も立てずに忍び寄る存在となれば、それは今も昔も死後の世界を生きる者達以外に有り得ないのだ。

 魔物の中にも、そのような存在がいる事はいるが、家屋に住み付く物は、魔物となる霊ではない可能性が高い。

 

「驚かせてしまって、申し訳ありません。道に迷ってしまい、この辺りが地図上でどの場所なのかも解らなくなり、見えたこの場所へ入ってしまいました。どのような場所なのかが解りませんでしたので、音を立てないように気を付けていたのが、いけなかったようです」

 

「そ、そうでしたか……これは失礼しました。では、改めまして……旅の宿屋へようこそ。ここは、バハラタの町の北方に位置する場所にある旅の宿屋です」

 

「えっ!? バハラタですか!?」

 

 『旅の扉』という存在を口にする危険性を感じたカミュは、店主の問いかけに、尤もらしい嘘を吐く。『勇者一行』と名乗る者達が嘘を吐く事に、未だに抵抗のあるサラは眉を顰めるが、その後に続いた店主の言葉に驚きを表す。

 店主が口にした場所は、かなり以前に一行が訪れた事のある場所。

 彼等が船という移動手段を手に入れる前に、ホビットの英雄が造りし抜け道を通って渡った場所であり、サラという『僧侶』の根底を覆してしまった場所である。

 

「すまない。少し外へ出て来る」

 

「あ、はい……またのお来しをお待ちしております」

 

 移動先の予想は大きく外れていたのだろう。

 カミュもまた、若干の驚きを露にし、店主に断りを入れて、外へ繋がる扉へと歩いて行った。

 メルエの手を引く余裕もなく、サラもその後を追い、眉を下げた幼い少女の手は、先程母のように叱った女性戦士が握る事となる。

 

 扉を開けたその先は、見渡す限りの平原が広がり、その先には大きな森が見える場所だった。

 少し歩いた先でカミュが地図を開く頃には、太陽は西へ沈み始めており、眩いばかりの西日を照らしつける。二度の『旅の扉』での移動は、それなりの時間を消費させていたようで、また一日が暮れようとしていた。

 

「地図で見る限り、この辺りか……」

 

「そうですね、あちらの海の方角がおそらく北でしょうから、ここは<バーンの抜け道>の出口があった森の北でしょうね」

 

 地図を広げたカミュは、横に並んだサラにも見えるように地図を下げ、その一点を指すように指を当てる。その場所は、ノルドという名のホビットが護っていた抜け道の出口があった森を北へ抜けた場所であった。

 更に北へ進めば、大きな海が広がり、その海岸からそう離れていない場所に、先程の宿屋が建てられていたのだ。

 

「サイモン殿は、この場所から更に何処かへ連行されたのか……それとも……」

 

 二人の会話を聞いていたリーシャは、サマンオサという大国で英雄とまで謳われた者の末路を考え、悲痛な表情を浮かべる。

 この場所がバハラタという自治都市の北方だとすれば、考えられる限り、この大陸に幽閉する場所など有り得ない。

 そうであるとすれば、北側に見える海の近辺で処刑された可能性も出て来てしまう。それは、英雄に憧れを持っているリーシャにとっては、耐えられない物だった。

 幼い少女の手を握ったまま、呆然と北方にある海を眺めるリーシャの横を、一人の男性が通り抜けて行く。旅をする為の身支度を整え、簡易な武器を持った男性は、無言で宿屋の方角へ歩いて行った。

 

「ここで、こうしていても仕方がありませんね……サイモン様の行方は、サマンオサで確認した方が良いでしょう」

 

「……ああ……」

 

 陽が刻々と沈み行く場所に佇んでいても、何の解決にもならない。

 その事を真っ先に告げたのは、先程までルビス像の破壊という所業に対しての衝撃が抜け切れていなかったサラ。

 既に太陽の半分は、西の大地へ隠れてしまっている。このままここに居ても、夜の帳が落ち、闇に包まれるのを待つだけになってしまうだろう。

 すぐ傍に宿屋があるにも拘わらず、その辺りで野宿をする必要はなく、一行は元来た道を戻り、宿屋の扉を再び開け放った。

 

「ようこそ、旅の宿屋へ。男性と女性でお部屋を分けますと、全部で40ゴールドになりますが、よろしいですか?」

 

「構わない」

 

 宿屋に戻り、カウンターに居る店主に声を掛けると、営業的な笑みを張りつけた店主が一行の部屋割を決め、値段を告げて来る。その価格は、辺鄙な場所にある宿屋としては、法外に近い程に高い価格ではあるが、それは辺鄙な場所にある宿屋だからこそかもしれない。

 基本的に需要が高いところほど、その値段も高くなる物ではあるが、ここまで需要が低ければ、一客当たりの価格を上げなければ、成り立たないのだろう。現に、カウンター傍にあるロビーのような場所には、先程リーシャの横を抜けて行った男性のみが腰を下していた。

 

「ここの宿屋に泊るなど、物好きもいたもんだな」

 

 カミュが店主に前金となる宿泊代を支払っている間、ロビーに置かれている椅子に腰かけたメルエが足をぶらぶらと振っている横で、不意に男性が口を開く。

 驚いたメルエが、椅子から飛び降り、リーシャの後ろに隠れてしまうのを見て、男性は苦笑を浮かべ、一つ溜息を吐き出した。

 男性の物言いに引っ掛かりを覚えたサラは、リーシャの横から顔を出し、男性に話の続きを促す。サラの瞳を見た男性は、その意味を察して、小さな息を吐き出した後、口をゆっくりと開いた。

 

「噂に過ぎないが……この場所に北にある湖の真ん中に、祠の牢獄があるらしい。そこに囚われていた者達の魂が、今でも彷徨っているという話だ」

 

「……牢獄……?」

 

「あれは、湖なのか!?」

 

 男が語り始める頃に、支払いを終えて戻って来たカミュが疑問を口にするが、同じように話を聞いていたリーシャは、彼とは異なる言葉に疑問を持つ。

 確かに、この宿屋の北に位置する場所に広がる場所を、リーシャもサラも海だと感じていた。カミュもメルエも同様であろう。だが、この男性は、あれは巨大な湖であると言う。それは、確かに衝撃的な事実ではあった。

 だが、カミュとサラは、リーシャとは異なり、その湖の真ん中にあるという『牢獄』という単語に引っ掛かりを覚える。湖の真ん中に牢獄があるのだとすれば、ここまでに感じていた疑問の多くが晴れて行くのだ。

 

 サマンオサの英雄である者が、何故ここに連行されたのか。

 何故、その英雄の消息が外の国に漏れていないのか。

 何故、この宿屋の店主が、突如現れたカミュ達に恐れを抱いたのか。

 

 その多くの疑問が一気に解消されて行く。この男性は、噂という形で話を進めてはいるが、何も無い場所に噂が出来上がる訳はなく、そこには元となる事実がある筈なのだ。

 牢獄で死んだ者達の魂が彷徨っているという物は、確かに噂の域から出る物ではないが、その場所に『祠の牢獄』と呼ばれる場所があるという事は、その元となる事実であると考えられもする。

 

「まぁ、あくまでも噂だがな」

 

 最後にその言葉を残した男性は、そのまま自分の部屋へと入って行った。

 残された一行は、それぞれに何らかの想いを持ち、男性の言葉について思考を巡らせる。唯一人、会話に興味さえも示さなかった幼い少女だけは、不思議そうに皆を見上げ、頻りに首を傾げていた。

 

「ここに牢獄があったとしても、今の俺達には行く術がない。まずは、サマンオサへ向かう」

 

「……そうですね。サイモン様の行方は気になりますが、まずは『何故、サイモン様が追放されたのか』という疑問を解かない事には、前へ進む事は出来ません」

 

 黙り込んでしまった一行に不満顔を浮かべ始めたメルエが、最も頼りとする青年のマントの裾を引いた事によって、再び時は動き出す。

 カミュの言葉に賛同したサラが、傍で頬を膨らませているメルエの手を引き、一行の一日の活動は終了を迎えた。

 四人が、割り振られたそれぞれの部屋へ入った後のロビーは、小さな灯りと、静けさだけが広がって行く。遠く奥の方で、店主が湯を沸かす音が、物悲しく響いていた。

 

 

 

 彼等の旅は、細い糸を手繰る旅。

 情報は、少しずつ見えて来るが、その情報が繋がる日が何時かは解らない。

 少ない選択肢を手繰り、今ある情報を繋いで行く旅は、今が初めてではない。

 目的地は、『人変わり』をしてしまった王の治める国。

 この世界の英雄の一人を生み出し、育んだ国。

 その場所で、彼等が何を見て、何を聞き、何を成すのか。

 それは、この世界の守護者にも解らないのかもしれない。

 

 

 




読んで頂き、ありがとうございました。

大変遅くなってしまい、申し訳ございませんでした。
予想以上に長くなってしましました。
次話から、ようやくサマンオサ編の突入となります。

ご意見、ご感想を心よりお待ちしております。

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