新訳 そして伝説へ・・・   作:久慈川 京

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トルドバーグ③

 

 

 

 新たに始まった『人』の集落は、その創始者である一人の商人の頭脳と時の偶然によって急速的な発展を遂げる。その速度は尋常ではない程の物であり、如何に時代が混迷を極めていたかを如実に示していた。

 突如切り開かれた場所に造られた集落は、来る者を拒む事はなく、去る者を追う事もない。集落の基本に対して忠実に、『人』が集まる事で出来上がって行くのだが、その速度はこの商人の頭脳によって導き出された設備などが整って行く度に加速して行く事になる。

 元からの住人である老人しかいなかった場所に店を立てたのは商人である。偶然立ち寄った商団との取引を始め、その正当な取引が人々の口から噂となって広がり、その噂に半信半疑であった者達が取引を成功させた事によって、更に加速的に取引が広がって行った。

 大きな取引が決まって行く度、この集落での仕事は増え、その仕事に就く為に移住する者達も増して行く。集落の施設や設備が整って行けば、家族を持った者達の移住も増え、女性や子供が増えて行けば、必要な施設も充実を見せて行った。

 元々、開拓資金は多く持っていた為、資金難に陥る事はなく、大きな取引が行われていた為に、更に集落は潤う事となる。そして、ある者達の間接的な助力を得て、この集落へ来る商船や移住船などの護衛を行う集団が生まれた事によって、発展の基盤は完全な物となったのだ。

 

「この場所は、アンタに譲ろう」

 

「私に!? ありがとうございます、トルドさん」

 

 この集落の創始者は一人。

 自身の造り出した店舗や劇場、その他の施設を一人で切り盛りする事は不可能である。故に、創始者は自分が認めた商人や、頑張り著しい若者等にその権利を譲る事が多くなった。

 譲られた者は、新天地での生まれ変わりを胸に夢を描いていた者達ばかりである。自分の店を持つ為に奮闘して来た者であれば、その基盤が与えられれば、瞬く間に成果を上げて行く。そして、成果が上がれば上がる程、その感謝の念は強くなって行くのだ。

 創始者から基盤を与えられた者達は、その感謝の想いをゴールドとして支払う事で合意する事になる。固辞する創始者に対し、『自分達の感謝の念を理解して欲しい』と無理強いをし、自分が得た利益の何割かを上納する事としたのだ。

 定期的に運ばれる上納金は町が発展する程に額も大きくなり、創始者が質素な暮らしをしている限り、基盤を与えられた者達も贅沢が出来ないという理由で、創始者の屋敷が有志の手によって建てられる事となった。

 

「今日からここでお暮しください」

 

「いや、このような場所で暮らす訳には……この場所を町へと発展させたのは、アンタ達の努力の賜物なのだから」

 

 建てられた屋敷は、まるで一国の重臣が持つ館のように立派な物で、町を象徴するかの如く、一際巨大な物となる。内装はかなり凝っている物となり、職人が施した装飾や、この集落へ貿易に来た商団から買い取った絵画などが所狭しと飾られていた。

 分不相応と考えた創始者は、その屋敷を与えられた事に困惑する。皆の気持ちを理解し、それを嬉しく思う事はあれど、その屋敷に関しては過剰に映ったのだろう。『自分一人の力ではない』という想いが強い創始者だからこそ、このような扱いは迷惑にさえ感じてしまったのだ。

 だが、そんな創始者の想いは集落の者達には届かず、徐々に高みへと押し上げられ、現場に絡む事が必然的に少なくなって行く。自分で縄張りを作り、建物を建てる事をして来た創始者は、徐々に出来上がって行く町としての形態を何よりも楽しみにしていただけに、自分の思惑とは異なる方角へ歩み始めた集落に寂しさに似たような感覚を覚えていた。

 そして、彼の地位は、集落の名が町の有志達の意思によって決定された事によって、不動の物となってしまう。

 

「この場所は、皆が作り上げた町だ。その大事な場所に俺のような者の名を付けるなんて、何を考えているんだ!」

 

「ここの創始者はトルド様です。トルド様がいなければこの場所は荒れ地のままでした。そして、それは私達の暮らす場所もなかったという事。その感謝の念を込めて、住民全員の総意なんです」

 

 何度言っても、町の名を再考する事を拒む住民達に、流石の創始者も怒りを露わにしたが、それでも折れない彼等を見て、溜息を吐き出す事しか出来なかった。

 結局、町の名はその創始者の名から取り、『トルドバーグ』と名付けられる。町章とされた、創始者の友の持ち物であった杖の横に掛けられた看板を見て、住民達は皆笑みを浮かべていた。この町の創始者が築いて来た物が永久に続く事を期待する数多くの瞳は、眩しい程に照り付ける太陽のように輝いていたのだ。

 

 

 

 町としての出発は順風満帆な物であった。

 だが、その町の構造は、徐々に崩れ始める。それは、この町の創始者である一人の商人が気に掛けていた物であり、その理由も、その兆候も、彼が考えていた物と何一つ変わりがなかったのだ。

 町は急速的な発展を遂げ、商人達の来訪も日に日に増して行く。それに伴って移住して来る者達も増え、仕事の需要も増えて行った。仕事を得る為には、この町での人脈を作らなくてはならない。既に以前とは異なり、空いている仕事などは少なく、自分が起業するという事が難しくなっていたのだ。

 人脈を造る為には資金が必要となる。賄賂が出現し、不明な資金の流れが増えて行く。そんな兆候が見え始めた時、この町の創始者であるトルドは動き出した。

 

「この町は皆の町だ。皆がそれぞれ考え、皆で大きくして来たのだろう!? 貧富の差が出るのは仕方がない。だが、弱い者から大事な商いの資金を巻き上げるなど以ての外だ!」

 

 集落の立ち上げ時期からこの場所へ移住して来た商人達は、皆大きな店舗を構える程に成長を果たしていた。だが、その半数以上は、創始者であるトルドから基盤を譲り受けた者達である。その為、この創始者の力を知っている上、彼の町での影響力も熟知していたのだ。

 賄賂を手にした上、それでも弱者を虐げていた商人達は、故にこそ彼の怒りを恐れた。

 成り上がりと言っても過言ではない彼等だけに、この町の最高権力者である創始者の怒りを買った時に全てを奪われ、再び路頭に迷う可能性を否定出来なかったのである。

 彼等は即座に賄賂を受け取る事を止め、今まで以上の上納金を創始者へ送るという結論に達した。

 

「何故……何故、解ってくれないんだ」

 

 毎日のように屋敷に送り届けられるゴールドや芸術品を見たトルドは、深い溜息を吐き出す事になる。怯えた商人達は、先を争うようにトルドの屋敷に上納金を送り込み、自分の地位を維持しようと躍起になって行ったのだ。それは、最早賄賂と称しても過言ではないだろう。

 そして、それは悪い方向へと突き進んで行く。今まで大型商人に商いの資金を渡し、自分の商いの基盤を作ろうとしていた新入りの住民達は、この町の最高権力者が誰かという事を感じ取り、この町での商い権を手に入れる為、トルドへ資金を送って来るようになってしまったのだ。

 それは、町という理想を追い求めて来た一人の商人が考える輝かしい未来とは、真逆の方向へ進み出してしまった事を意味していた。

 

「新たに店を出す事になりました。今後ともご贔屓にお願い致します」

 

「俺には何も出来ない。自身の力で頑張ってくれ」

 

 時間の経過と共に、町は大きく変化を始める。

 元来、成り上がる為、夢を掴む為にこの町へ移住して来た者が多いのだ。その者達の中には野心に燃える者も数多くいる。自分の店を手に入れる者、貿易に精を出す者、新たな商売を始める者など様々であった。

 そのような数多くの者達の中で、保身に走った商人ほど力の弱い存在はいない。商いの基本は強気な姿勢である。前へ前へ踏み出そうとする者が、失敗を乗り越えて成功を果たすのだ。

 トルドという権力者に怯え、自身の縄張りを護ろうと躍起になればなる程、新たに台頭して来た若い力に縄張りを侵食されて行った。弱者と蔑んで来た者達に後れを取った商人達は、自身が手にした店をも奪われて行くのだ。

 弱肉強食の世界と言えば仕方のない事ではあるが、成り代わった者達もまた、それがトルドの力の影響だとでも言うように、上納金を送って来る。その繰り返しが、トルドの心を沈ませる。

 トルドは、送られて来る上納金や宝飾品に一切手を付ける事無く、誰から届いた物であるのか、いつ届いた物であるのかを明記し、それを屋敷の一室に保管していた。だが、それは妬みと蔑みの視線を生む事になる。

 

『トルドは、下の者に働かせて私腹を肥やしている』

『上納金は使わず、毎晩ゴールドに埋もれるように眠っている』

 

 良い評価はなかなか広まらないが、悪い噂は風のように舞い、凄まじい速度で蔓延するのだ。

 徐々に広まる悪い噂は、最早事実の欠片もない物へと摩り替って行った。トルドが一言も要求した事の無い上納金は、先を争うように納めていた者達によって吊り上って行き、何時の間にかそれはトルドが要求したという噂となって広まって行く。

 その噂の拡散が進んで行くと、この町の住民の心に他人への責任転嫁が始まった。

 

『こんなに苦労するのは、トルドが自分達を働かせ過ぎるからだ』

『何故、トルドへ上納するゴールドを稼ぐ為に働かねばならないんだ』

 

 元々、自由を求め、自分達の夢を求めて移住して来た者達が、その誇りを失って行く。それは病原菌のような速度で、確実に町を侵食して行った。

 自分が働く意義を、自分の生きる意味を、そして何より自身の誇りを他人に投げてしまった彼等の瞳は曇り、心には暗い影が差し込み始める。不満は不安となり、現状への不安は怒りへと摩り替る。

 そんな緊迫した町の空気は、突如として広がり始めた一つの噂によって弾けた。

 

『貿易で訪れた商人が持って来た何の変哲もない黄色い珠を、トルドが大金で買い取ったらしい』

 

 

 

 

「メルエ、急ぎましょう!」

 

「…………ん…………」

 

 度重なるメルエの揺さぶりによってようやく目を覚ましたサラは、鬼気迫るメルエの表情に驚きながらも、ゆっくりとした足取りで窓へと向かった。しかし、窓から階下を見下ろしたサラは、先程まで開き切っていなかった双眸を大きく見開き、寝ぼけていた頭は即座に覚醒を果たす。

 覚醒を果たしたサラの行動は早かった。即座に足元で不安そうに眉を下げているメルエの手を引き、そのまま外へと飛び出して行ったのだ。

 だが、この時のサラは覚醒を果たしてはいても、それは『賢者』としてのサラではなく、只の人間としてサラであった。

 

「こ、これは……」

 

 宿屋の外へと飛び出したサラは、暗闇の中に広がる光景に絶句してしまう。

 既に空で輝いていた月は、黒く大きな雲によってその姿を隠していた。雲に覆われた月からは優しい光は届かず、町の中に充満している暗い闇を更に大きくさせて行く。月明かりは、人々の心に優しい想いをも降り注ぐが、その優しく暖かな光は閉ざされてしまっていたのだ。

 町の人々の多くが、深夜にも拘らず外へと出ており、その全ての者の瞳は、町の北西にある一際大きな屋敷へと向けられている。その瞳に優しい光は欠片もなく、強く鋭い感情のみが宿っていた。

 それは『怒り』と『不満』。

 その全てが一つの屋敷へと向けられ、一瞬の内に爆発してしまいそうな程に緊迫した空気を醸し出している。人々の手に武器こそ所持してはいないが、人数は町の住民の大半を占め、町全体の目的が一つになっている事を示していた。

 

「…………サラ…………」

 

「はっ!? メ、メルエ、行きましょう!」

 

 手を握るメルエの声に我に返ったサラは、溢れ返る人の群れの中に飛び込み、全員の視線が集まる一点を目指して突き進む。多くの大人達によって押し潰されそうになり、苦悶の声を漏らしながらも、メルエも必死になってサラの後を追った。

 集まった住民達は、雄叫びを上げる事もなく、奇声を上げる事もない。ただ静かに一点を目指して歩みを進めていた。狂喜に彩られた瞳をしている者など誰一人としておらず、彼等が皆正気である事を示している。それだけ、彼等の不満が静かに限界を迎えていた事を示しているのだろう。

 

「な、なんの用だ? ここはトルド様のお屋敷だぞ?」

 

「邪魔をするな。トルドによる支配はもう終わるんだ」

 

 押し寄せる人波に腰が引けた門番が辛うじて言葉を口にするが、即座に返された住民の声を聞き、その役目を放棄する事となる。逃げるようにその場を後にした門番を気に留める事もなく、住民達は町一番の大きな屋敷へと続く扉に手を掛けた。

 静寂に支配された夜の町に、木の扉が開かれる軋む音が響き渡る。雪崩れ込むような勢いで動き出す住民達の前に、二つの小さな影が滑り込んだのは、先頭の男が一歩前に踏み出したその時であった。

 

「お待ちください! 何をなさるおつもりですか!?」

 

「…………だめ…………」

 

 先頭の男の前に立ち塞がった影は、闇の中でも輝く濃い蒼色をした石の嵌め込まれたサークレットを頭に嵌めた女性である。大きく広げた両手で、誰も中へと通さないという意思を表し、闇の中で光る二つの瞳は、強い意気込みを示していた。

 同じように両手を広げた幼い少女は、言葉少なに住民達の行動を諌め、膨らませた頬が住民達への不満を表している。

 だが、年若い二人の女性に止める事が出来る程の勢いではない。それ程の物であれば、このような人数が集まる訳はなく、ましてや大挙して押し寄せる事など有り得はしないのだ。前へと出て来た女性二人に、誰もが視線を動かす事無く、開けられた扉の中へと入って行く。

 

「えっ!? ま、待って下さい! あっ、メルエ!」

 

「…………!!…………」

 

 サラの身体を押し退けて先頭の男が屋敷内に入ると同時に、その後方から人間の川が流れ込んで行く。堰き止められていた水が流れ込むように、怒涛の勢いで押し寄せて来る人波にサラは押し出され、その前にいたメルエは弾き出された事によって地面に倒れ込んだ。

 人波の飲み込まれそうになる身体を懸命に踏ん張らせたサラは、大人の足によって踏み潰されそうなメルエに覆い被さり、その流れが収まるまで懸命に耐える事となる。数多くの人間の足が襲い掛かり、身体を丸めたサラの背や腹を蹴られ、踏まれ、サラは何度も呻き声を上げた。

 

「…………サラ…………」

 

「……だい…じょうぶ……です。もう少しの……辛抱ですよ」

 

 自身の身体を護るように覆い被さるサラの顔を見ているメルエの眉は下がり切っている。不安に押し潰されそうになる心は、苦痛に歪みながらも懸命に笑みを浮かべようとするサラを見て、涙となって溢れて行った。

 絶対に自分を守ってくれるだろうという信頼と共に、自分が迷惑を掛けてしまっているという自責の念がメルエを襲い、それは次第に怒りとなって彼女の身体を覆い始める。それは彼女の身体の中に満ちている魔法力であり、人類最高位に立つ程の『魔法使い』としての才能であった。

 

「怒って……は…駄目です。あの人達が……悪い訳ではないのですよ」

 

「…………うぅぅ…………」

 

 しかし、今にも溢れ出しそうな少女の怒りは、珠のような汗を額に浮かべながらも笑みを崩さない姉によって阻まれる。自分の身体の下にいる少女を覆う力に気付いたサラは、それがこの場所に居る全ての人間を消し去る事の出来る物である事を諭し、それを制したのだ。

 辛そうに顔を歪めまいと懸命に踏ん張るサラの顔を見て、メルエは悔しそうに涙を流す。大事な者を護りたいと想う気持ちは、この幼い少女も同じなのだ。サラがメルエを護ろうとするように、メルエもまた、自分を護ろうとするサラを護りたいと願っている。それが出来ない悔しさは、身を切り裂かれる程の物なのかもしれない。

 

「メルエ、呪文を行使しては駄目ですよ。これは私との約束です。絶対に呪文を行使してはいけません。約束出来ますか?」

 

「…………むぅ…………」

 

 濁流となって屋敷に押し入って行った人間の波は引いた。

 痛む身体を懸命に奮い立たせて何とか立ち上がったサラは、小さなその手を取ってメルエを立ち上がらせる。少女のマントや服に付いた土を払いながら口にした言葉は、少女が安易に納得出来る物ではなかった。メルエの膨らませた頬には、涙の跡がくっきりと残っている。

 不満を露わにするメルエに対し、サラは優しい微笑みを浮かべた。その微笑みは、幼い少女の心に灯った怒りの炎を鎮め、心に安らぎを運んで来る。未だに眉を下げながらも、静かに頷きを返したメルエを見て、サラはその小さな頭に手を置いた。

 

「このままではトルドさんが危険です。メルエ、行きましょう」

 

「…………ん…………」

 

 トルドという名が出た事により、下がり切っていたメルエの眉が再び上がる。彼女が守りたいと思っている大事な者は、何もサラやリーシャ、そしてカミュだけではない。ここまでの旅で出会い、自分に対して笑顔をくれた者達全てが、この幼い少女の護りたい者達である。そこに人間や動物などの垣根はない。エルフであろうが、それこそ魔物であろうが、メルエに対して好意を示した者は全て、彼女が護る対象と成り得るのだ。

 手を取り合った二人は、そのまま屋敷の中へと入って行く。多くの者達が通り過ぎた屋敷の牢かは、飾られていた宝飾品や絵画が落ち、粉々に砕けている物もあった。それらに顔を顰めながらも、奥の大広間へと続く廊下を駆けるサラの心は焦燥感に駆られている。いつも以上に懸命に走るメルエの姿が、その心を更に煽り立てていた。

 

「……思っていたよりも早かったな」

 

 大広間へと続く扉は既に開け放たれており、中に入り切らない人間達が最後に辿り着いたサラ達の視界を遮っている。中では既に住民達とトルドが対峙しているのだろう。トルドらしき声の呟きが小さくサラの耳にも入って来た。

 一刻を争うような、一触即発の状況である事を察したサラは、溢れ返る人間の間に身体を割り込ませ、メルエの手を引いたまま、奥へ奥へと身体を潜り込ませる。不満を漏らさずにサラの後を続いたメルエは、その小さな身体の利点を生かし、大人達の足の間を潜り抜け、何時の間にかサラを先導する立場へと代っていた。

 

「もう我慢出来ない。アンタのやり方は酷過ぎる!」

 

「賄賂で私腹を肥やす人間が上に立つ事など許される訳がない!」

 

「ましてや、くだらない物を買い取る為に、搾り取った我々の努力の結晶を大量に使うなんて!」

 

 ようやくトルドの顔が見えるような場所に出たサラは、飛び交う罵詈雑言に思わず耳を塞いでしまいたくなる。耳を劈く程の声量である事は確かであるが、それ以上に自分が信頼する者を罵倒する言葉に耐えられなかったのだ。

 逆にメルエの瞳は徐々に吊り上り、それと共に彼女の身体を取り巻く空気が変化して行く。それは先程と同様の怒りに彩られた魔法力の渦であり、周囲の緊迫した空気さえも歪ませる程の膨大な暴力であった。

 

「メ、メルエ、約束したでしょう!?」

 

 焦ったのはサラである。先程はしっかりと頷きを返した筈のメルエは、その約束など憶えてもいないかのように、怒りを全身に纏わせ、今にも全てを無にしてしまう力を行使してしまう瞳を人々へ向けている。

 サラの胸に焦りよりも濃い恐怖が込み上げて来た。この幼い少女が怒りに任せて呪文を行使した場合、その被害は想像する事さえも難しい。口々にトルドを罵倒する住民達は、間違いなくこの世から消滅するだろう。そして、この場に居るトルドやサラでさえ、身の安全が保証されているかと問われれば、その答えは否であった。

 背中から雷の杖を外したメルエは、そのままその魔法力を開放する準備に入る。杖の先はトルドを口々に罵倒していた多くの住民達。今、最も命の危機に瀕している者達である。

 魔法力を有しない者や、有していてもそれを放出する才の無い者には、メルエの纏う巨大な魔法力を感じる事は出来ない。だが、中には少なからず魔法力を有している者もいるのだ。商人や職人となる者の中には、それしか才の無い者だけではなく、『魔法使い』としての才や『僧侶』としての才を持つ者もいるだろう。そのような者達から見れば、禍々しいオブジェの付いた杖を自分達に向けて瞳を釣り上げている少女は、恐怖の対象として映ってしまう。

 

「メルエちゃん、止めなさい! 大丈夫……大丈夫だから」

 

 しかし、立場が完全に逆転してしまった一触即発の空気は、たった一人の男性の声によって霧散する。まるで父親が娘を叱りつけるように張られた声は、大広間中に鳴り響き、その場にいる全ての者の時間を止めてしまった。

 個人の顔も判別出来ない程に押し寄せた群衆によって罵倒されていたその男性は、その少女にとっての魔法の言葉を静かに告げる。トルドは、『大丈夫』という言葉がメルエにとってどれ程大きな意味を持つ言葉なのかという事を知らないだろう。だが、少女の行動を止めた声とは正反対の静かな言葉は、柔らかい笑みと共に少女の心に届いて行った。

 

「…………うぅぅ…………」

 

「……メルエ」

 

 自分が叱られてしまったと感じたのか、メルエは哀しそうに眉を下げ、そのままサラの腰元に顔を埋めてしまう。先程までの迫力は露と消え、今は大人に怯える子供の姿を見せる少女に、押し寄せていた住民達は困惑を表情に表していた。

 一瞬の空白の時間が出来上がり、人々の心に僅かな隙を作り出す。そして、そんな隙間に入り込んだ声は、この大広間にいる全ての者達の心へと染み込んで行くのであった。

 

「さぁ、逃げも隠れもしない。アンタ方の想うようにすれば良い」

 

 しっかりとした足で立つこの町の創始者の姿に、先程まで鬼気迫る勢いで乱入して来ていた者達の方が逆に怯んでしまう。『抵抗すれば、命を奪う事も辞さない』と言う程に狂気じみた空気を醸し出していたが、真っ直ぐに向けられたトルドの瞳が、彼等の勢いを削いだのだ。

 大広間に押し寄せて来た者達は誰も動く事が出来ない。トルドの表情は実に穏やかであり、害を成すような尖った物を出してはいないにも拘らず、彼等はその空気に完全に飲まれてしまっていた。

 そして、数多くの人間の行動を決定する声が、最後に大広間へ響き渡る。

 

「トルドさんを害するのであれば、私達は許しません。どのような事があったのかは理解出来ませんが、トルドさんを信じて下さい!」

 

 それは、ここに集結した住民達からすれば、酷く勝手な言い分であろう。この賢しい小娘に、彼等が味わって来た屈辱を理解出来る訳がない。どれ程に悩み、どれ程に苦しみ、この暴挙に至る事になったかを彼女は知らない。この数多い住民達にとって、トルドの何を信じれば良いのかも分からないし、信じる価値があるかも疑わしいのだ。

 故に、サラという人間のこの言葉は、この場に押し寄せる住民の心を逆立てる要因しかなく、怒りを煽り立てるような物である筈なのだが、何故か住民達は、この年若い女性の放つ威圧感に飲み込まれてしまう。住民達はサラがどのような力を持っているかを理解していないだろう。だが、それでも彼女の放つ言葉の必死さだけは理解出来たのかもしれない。

 

「我々にトルドさんを害する考えはない。要望は、この町の代表から降りて貰う事……ただ、それだけでは納得しない者達もいる為、ここで暮らす者達の心を惑わし、乱した罪により、貴方が造った牢に入ってもらいたい」

 

「そ、そんな!」

 

 静まり返る群衆の中、一歩前へと出て来た一人の男が、トルドに向かって彼等の総意を伝えた。

 それは、一方的な申し出であると同時に、彼等の譲歩でもあるのだろう。本来であれば、これ程多くの人間の感情を動かしてしまったのならば、見せしめとして処刑という選択肢もあった筈である。それにも拘らず、町の代表としての座を退く事のみを要求し、牢へ入れるとは発言しているが、その待遇は酷な物とはならない可能性を残していた。

 しかし、この男性の言葉は、何もサラの発言に臆した物ではないのだろう。その証拠に、彼等は自分達を睨み付けるように見る年若い女性の方へ視線を送る事もなく、彼女の存在自体を気にも留めていなかった。故に、その処遇に愕然とするサラの声に応える者は無く、その呟きは大広間の中へと消えて行く。

 

「……わかった……ありがとう」

 

 誰もが唯一人の人間の言葉を待ち、緊迫した面持ちで見守る中、笑みを浮かべながら頷いたトルドは、そのまま深々とその場にいる人間達全員に頭を下げた。予想もしていなかったトルドの行動に、全員が息を飲み、サラやメルエでさえ、その姿に瞳を奪われる。

 顔を上げたトルドが、一歩前に足を踏み出した事により、大広間の時が再び動き出した。

 メルエと視線を合わせるように屈み込んだトルドは、いつも被っている帽子を被る事も忘れて駆け付けてくれた幼い少女に、柔らかな笑みを浮かべる。その後、サラへ視線を向け、静かに口を開いた。

 

「二人とも、来てくれてありがとう。他の二人に、夜が明けたら牢屋へ足を運んでくれるように言ってくれるかな?」

 

「…………むぅ…………」

 

「……トルドさん」

 

 まずは、危険を顧みずに自分の心配をしてくれた二人にお礼を口にし、ここには来ていない二人と共に、再度自分に会いに来てくれるように頼む。しかし、そのトルドの言葉に、サラもメルエもはっきりとした返答をする事が出来なかった。

 メルエには、何故トルドが責められているのかが理解出来ない。皆が寄って集ってトルドを虐めているようにしか見えなかったのだろう。彼女にとって大事な者であるトルドを虐める存在は、総じて「敵」となる。それは、魔物であろうと、エルフであろうと、人間であろうと変わりはないのだ。

 そんな自分が恐れていた状況の中にも拘らず、サラもまた思考が定まらずに、相手の名前を溢す事しか出来ない。それは、この場に居るサラが、『賢者』としてではなく、一人の人間として存在している事を明確に示していた。

 

「俺は大丈夫さ。頼むよ、必ず会いに来てくれ」

 

 実際、トルドが牢屋に入り、その牢屋の鍵が如何に堅固な物であったとしても、カミュ達の手の中には、どんな鍵も解除してしまうと伝えられる『最後のカギ』がある。瞬く間に牢屋の鍵を開け、トルドを自由の身にする事が、カミュ達には可能なのだ。

 だが、トルドはその鍵の存在を知らない。そればかりか、『最後のカギ』よりも劣る『魔法のカギ』の存在さえも知らないだろう。そして、その『最後のカギ』も彼が微笑みかける幼い少女のポシェットの中にある。故に、トルドの願いが、そのような事ではない事が理解出来た。

 

「今後は、有力者だけではなく、町の人間での合議制を持って運営を行って行きます」

 

「……そうか。それが良い……自治都市を謳うのであれば、魔物からの防衛も、貿易に対しての警護も、町の人間達が考えて行かなければならないだろう。町の防衛を担当する部署や、港を警護する部署、公正な商いと公正な運営が行われているかを管理する部署なども作って行かなければならない筈だ……まぁ、俺が言う資格のある事ではないのかもしれないがな」

 

 トルドの身を引き受けた男が今後の方向性を告げると、少し考える素振りを見せたトルドは、その方針に対する様々な施策を口にする。その内容に関しては、この場に居た者達が考えもしなかった物であり、知識や教養を持つ者は一様に驚愕の表情を浮かべるが、その他の者達はトルドの発言に反感を覚えていた。

 そういう者達は、トルドが語り終える前に野次を飛ばし、怒りの感情をあらわにする。そんな多くの者達の言葉にトルドは自嘲気味な笑みを浮かべ、その表情を見たメルエの瞳が再び吊り上った。

 

「メルエちゃん、俺は大丈夫だから。さぁ、行こう」

 

 再び不穏な空気を醸し出すメルエに苦笑を浮かべたトルドは、幼い少女の行動を諌め、そのまま多くの人間に囲まれるように外へと出て行く。トルドが群衆の中へと消えて行くと共に、歓声が屋敷内に響き渡った。

 革命というよりもクーデターと呼ぶに相応しい騒動の決着は、大凡立ち上がった者達の思惑通りに着ける事が出来たのだ。それに対しての喜びと、彼等の未来に対する希望の雄叫びは、雲が晴れた月夜に響き続ける。

 呆然とその光景を見つめ続けていたサラは、ようやく我に返ったように、メルエの手を取って外へと飛び出す。鳴り止まない歓声は、町全体を包み込むように轟き続け、月明かりが降り注ぐ町を包み込んで行った。

 既に多くの住民達は遠く離れた場所へと移動している。勝利を祝すように高々と上げられた数多くの腕は、サラの目には鋭い刃を持つ剣山のようにも見えていた。

 

「…………カミュ…………」

 

「リ、リーシャさん!」

 

 多くの人間達が消えて行くのを黙って見続ける事しか出来なかったサラは、手を繋いでいたメルエがその手を離して駆け出した事で、ようやく自分達以外の人間が大きな屋敷の前にいる事に気が付く。駆け出したメルエは、そのままその一人である青年の腰にしがみ付き、呻き声のような嗚咽を始めた。そしてサラは、青年の横に立っている女性の名前を涙交じりの声で叫ぶ。

 雲が晴れ、優しい光を注ぐ月の下で、彼女達二人が最も頼りとする者達は待っていた。

 何も言わず、助ける為に屋敷にも入っては来なかったが、彼等はサラとメルエを後方から護っていてくれていたのだろう。屋敷の中へ入らず、彼女達のすぐ傍まで来なかったのは、彼等がサラとメルエを信じ、トルドという商人の人間性を信じていたからに他ならない。

 サラはその信頼が痛かった。

 『賢者』という存在にも拘らず、後先考えずに行動し、自分と行動を共にしたメルエという少女の立ち位置を危うくしたばかりか、救う対象であったトルドの身さえも危険に晒してしまっていたのだ。トルドという人間が、彼女達の信頼に足る者であったからこそ、この場は穏やかな結末を迎える事が出来た事をサラは否定する事が出来なかった。

 

「カミュ、お前の言葉を信じるぞ」

 

「ああ。この町の人間はそこまで馬鹿ではない。それに、トルド側に立つ人間が誰もいないという訳ではないだろう」

 

 自分達の身体に縋りつくように泣く二人の身体を優しく撫でたリーシャは、少し厳しい瞳をカミュへと向け、彼に釘を刺すような言葉を紡ぐ。それに対し、一つ頷きを返したカミュは、住民達が消えて行った、この町唯一の牢屋がある建物へと視線を移した。

 実際、この二人は、夜中に近くの部屋の扉が開いた音によって目を覚ましていたのだ。外へと出た二人は、それぞれの身支度を整え、宿屋の表へと出る。そして、多くの住民達とそれを追うサラとメルエの姿を確認し、後を追った。

 その際、危機感を感じていたリーシャとは異なり、何処か落ち着き払った態度を示すカミュがサラとメルエに続いて屋敷内へ入ろうとする彼女を止めている。緊迫した事態にも拘らず、それを救う為の行動さえも抑止する青年に怒りを吐き出した女性戦士であったが、彼女は既にこの青年の心が冷え切った物ではない事を知っていたのだ。

 『自分には関係ない』という一言で、自分の信頼する者を切り捨てる事が出来る人間ではない事を知っているし、彼が必要と感じたのならば、命を賭して救い出すという確信さえあった。

 

『心配するな、トルドは無事に出て来る。後は、あの二人に任せておけ』

 

 故に、リーシャはカミュの言葉を信じた。

 サラとメルエが中に入った以上、トルドは無事であると言い切った言葉はとても重い。それは、トルドという人間を信頼していると共に、彼と共に歩み続けて来た『賢者』と『魔法使い』を心から信じている事を示していたからだ。

 住民達の全てが屋敷の中へと入り、月の隠れた町に静寂が戻った時、リーシャは大きな息を吐き出した後、胸の前で腕を組み、再びその扉の奥から人間が出て来るのを待つ事にする。何か変事があれば、即座に飛び込む事が出来る準備を怠る事の無いその姿に、カミュは小さな笑みを溢していた。

 

「…………だいじょうぶ…………?」

 

「ああ、大丈夫だ」

 

 涙で目を赤く染め、鼻水を啜るように顔を上げたメルエは、自分が最も信頼する青年に問いかける。その問いかけは、この幼い少女にとって、何よりも重い問いかけであった。

 彼女は『大丈夫』という言葉の重さを誰よりも知っている。その言葉の持つ強さと厳しさを誰よりも信じている。それは、彼女が姉のように慕う女性から教えられた物であり、彼女を何度も立ち直らせて来た魔法の言葉であった。

 そして、その言葉は、彼女が最も信頼する青年の口から即座に返される。その声には自信と信頼が滲み出しており、不安そうに眉を下げる幼い少女の心を包み込むように浸透して行った。

 

「ほ、本当に大丈夫でしょうか?」

 

「処刑する為の拘束ではないだろう。それに、町の住民の全てが参加している訳ではない」

 

 ようやく微笑みを浮かべたメルエの心に水を差すかのように口を開いたサラに対しては、カミュは魔法の言葉を口にはしなかった。それは、彼の中で自信が有る無しではなく、サラという女性を『賢者』へと引き戻す為の物であったのかもしれない。

 カミュの発した内容によって、サラの頭脳は再び起動を始める。

 月夜の灯りが雲に隠れ、漆黒の闇に包まれたと感じた町には、幾らかの灯りが灯っていた。それはその家屋に人間がいる事を示しており、この騒動の中で眠る事をせずに起きていた者達の存在を示している。中には、家屋の灯りを灯したままで外へ出て来た者達もいるだろうが、灯りとなる炎は、家屋が無人であった際には火事を起こす危険性を孕んでいる為、通常では炎を消してから外出する事が多いのだ。

 つまり、今家屋にいる者達は、このクーデターに乗り気ではない者達や、日和見の者達という事になる。日和見の者達であれば、クーデター後の発言権は大きく後退するだろうが、声高に反対を唱える者達も皆無ではなかったのだろう。

 トルドの政策によって恩恵を受けて来た者達や、商いの基盤を作って貰った恩を感じている者達など、その数はかなりの数に上る筈だ。

 

「……はい。私もカミュ様の言葉を信じます」

 

「…………メルエも…………」

 

 起動を果たしたサラの頭脳は、先程までの錆びついた動きではなく、凄まじいまでの速度で回転し、彼女の歩む道を確定させた。

 しっかりと見据えられた瞳は、強く激しい炎を点している。それは彼女が『賢者』という存在に立ち返った事を示しており、再び前を向いて足を踏み出した事を示している。そんなサラの覚悟を感じたのか、その言葉に同調するように幼い少女は片手を上げた。

 メルエの頭を優しく撫でたカミュは、そのまま宿屋の方角へと足を向ける。

 暗く長い夜がようやく終演を迎え、希望に満ちた太陽が東の空から顔を出し始めていた。

 

 

 

 翌朝、サラからトルドの言葉を聞いたカミュ達は、町の罪人を入れる為に作られた牢屋へと足を運ぶ。町の南の外れに造られたその建物には、既に門番のような者が配置されており、厳しい表情でカミュ達を迎えた。

 しかし、この町に入ってからのカミュは仮面を脱ぎ捨てている。威圧的に対応しようとする門番に対して鋭い視線を向けたカミュは、それ以上の行動を起こす隙さえも与えない。その場を通り、奥へと入る考えを告げた彼を止められる人間など、この世には既に存在しないと言っても過言ではないだろう。自分の横を抜けて行く一行に何も言えず立ち竦むだけの門番ではあったが、入り口は一つしかない為、中の人間が逃げ出す訳もなく、見てみない振りをする事とした。

 

「やぁ、よく来てくれたね」

 

「……大丈夫ですか?」

 

 町の罪人を入れる牢屋と言っても、一国の王城にあるような大きな牢屋ではない。精々二つか三つ程の牢屋がある程度であった。だが、トルドが作成した物である故に、その牢屋には罪人に対してもある程度の温情が施されている。サマンオサの地下牢や、祠の牢獄のように、藁の上で眠るような物ではなかった。ベッドとまでは行かなくとも、それ相応の生活水準は保たれていると言っても良いだろう。

 そんな牢屋の中から、カミュ達一行の姿を確認したトルドは、鉄格子越しに口を開いた。

 その身を案じていたサラは、トルドの身体に傷一つなく服装も乱れていない事に安堵の溜息を吐き出しながらも声を掛け、サラの腰元から心配そうに眉を下げるメルエは鉄格子へと手を掛ける。

 

「ああ、大丈夫さ。大人しく牢へ入ったから、下手な乱暴をする人もいなかった」

 

 笑みを浮かべながら話すトルドの言葉に、ようやくメルエも小さな笑みを浮かべ、その内容にサラも息を吐き出した。

 トルドを害するという事は、この町にとって決して良い事だけではない。この町は、多くの人間の想いで発展を続けて来ている。想いが一つであったからこそ、この場所の急速な発展があったのだ。故にこそ、トルドを害する事によって離反する者達もいる可能性がある以上、その命を奪う事は愚行と言わざるを得ないのだ。

 

「……それで、俺達をここへ呼んだ理由は?」

 

「いや、待て! カミュ、私は今のこの状況をまだ納得していないぞ!」

 

 優しい微笑みを浮かべるトルドへ向けて発せられたカミュの言葉は、最後尾にいたリーシャによって遮られる。昨夜はカミュを信じる事にした彼女ではあったが、この町の騒動の根本が何かという事を理解している訳ではなかったのだ。

 実際、この町の状況を正確に把握している者など、この場には誰もいないのかもしれない。カミュはある程度理解しているのかもしれないが、それでも全てを把握している訳ではない。そして当事者であるトルドもまた、推測でしか答える事は出来なかった。

 しかし、現在のリーシャの表情を見る限り、『解らない』では済まされない筈であり、溜息を吐き出すカミュとは正反対に、トルドは優しい笑みを浮かべて小さく頷きを返す。彼の中で、ここ数年の動きはそれなりに把握していたのだろう。『情報こそ商人にとって必要な物』と考える彼だからこそ、自身の造る町の情報は常に新しい物を入れていたのかもしれない。

 

「町という物は、人間が一人で生み出せる程簡単な物ではないんだ」

 

「……どういう事だ?」

 

 トルドの語り出しは、リーシャの質問に対しての真っ直ぐな答えではなかった。故に、その言葉を聞いたリーシャは何の事か理解出来ず、何故かトルドではなくカミュの方へと問いかけてしまう。いつも通りの行動を見たサラにも余裕が生まれ、カミュは盛大な溜息を吐き出した。

 そんな一行に軽い笑い声を発したトルドは、そのままこの町で起き始めていた騒動の発端を語り出す。その内容を聞いて行く内に、リーシャとサラの表情は険しい物へと変化を始め、終盤には怒りさえも表面へと出してしまっていた。

 

「お前は何一つ悪くないではないか!?」

 

「そうです! 何故トルドさんがこのような仕打ちを受けなければならないのですか!?」

 

 だからこそ、この何事にも真っ直ぐな二人の女性は、憤りを声に出して叫んでしまう。トルドの瞳から見た町の動きであるから仕方のない事なのかもしれないが、そんな二人を見たトルドは明らかに失態を犯したというように顔を顰めてしまった。

 彼女達の性分を理解していると考えていたトルドであったが、まさかここまで自分に対して好意を持っていてくれていたとは思わなかったのだろう。特に海賊と渡りをつけたサラという『賢者』を高く買い過ぎていたのかもしれない。

 助けを求めるように自分へと視線を移すトルドを見たカミュは、苦笑を浮かべながら静かに首を横へ振る。それは、トルドが全てを語る必要性がある事を示唆しており、それを察したトルドは深い溜息を吐き出す事となった。

 

「俺はカザーブで学んだ筈だった。だが、同じ過ちをここでも繰り返してしまったのかもしれない。何か一つの事に頼り過ぎてしまえば、それが壊れた時、支えを失った物は瞬く間に倒壊する。考える事を放棄したこの町は、俺がいる限り何時か滅びゆく事になったと思う」

 

「ならば、後任の方にお任せすれば良かったのではないですか?」

 

 今のサラは、再び『賢者』ではなくなってしまっていた。これが彼女の長所であると共に、欠点でもあるのだろう。感情という『人』の持ち得る才能を如何なく発揮するこの女性は、カミュが言うように『象徴』としての道を歩む事は出来ないのかもしれない。

 思考するよりも早くに感情が表に出てしまう。それは彼女の性分ではあるが、彼女が目指す未来を見るのであれば、この欠点が何時か邪魔をする事になるだろう。

 

「結局は俺が指名した者になる。それでは依存の対象が異なるだけで、行き着く先は変わらない。この町の者達が自ら考え、この町の者達の手によって変わらなければならなかった。……それに、ここはアンタ方から託された町だ。俺が勝手に逃げ出す訳にはいかないだろう?」

 

「それでも……それでも、トルドさんが全てを被る必要は無かったのではないですか?」

 

「……サラ」

 

 実は、トルドが優しい笑みで語るその内容に、サラは既に察しが付いていたのだ。だが、如何に町のためとはいえ、無実の罪を全て被り、罪人として裁かれようとするトルドを認めたくはなかったのかもしれない。諦めきれないように問いかけるサラの姿を見たリーシャは、そんなサラの胸の内を察する。

 サラは幽霊船でリーシャから忠告された言葉を思い出していた。この世は、正と誤、善と悪というような単純な二つで分かれている訳ではない。一方から見れば悪であっても、方角を変えてみればそれが善となる。正しいと思う道を歩んでいても、異なる道を歩む者から見れば、その道は誤りでもあるのだ。

 町という、数多くの人間が集う場所を運営する方法は、それこそ幾通りも存在するだろう。トルドの方法が必ずしも正しい訳ではないが、彼にとってそれが最善であった事も事実。それは、この町に直接関わっていない者が後世で論じる物であり、今のサラにその資格はなかった。

 

「いや……彼等は俺を罰する資格がある。この町に広まる噂の中に、たった一つだけ真実があってね……」

 

「……真実?」

 

 今にも涙を溢しそうになっているサラに優しい笑みを向けたトルドは、自分の頬を掻きながら、小さな懺悔を口にし始める。それは、リーシャやサラだけではなく、カミュにとっても予想外の物であり、牢屋の前に並んだ一行は、総じてトルドの言葉の続きを待った。

 集まる視線に言い難そうな表情を浮かべたトルドであったが、懐に手を入れ、そこから小さな鍵を取り出す。その鍵は、カミュ達が持っているような特別な鍵ではなく、何処にでもあるような簡素な物であった。

 

「まずは、これを……」

 

 牢屋の鉄格子の隙間から伸ばされた手の上に乗った小さな鍵を受け取ったサラは、それが何を示す物なのかが解らず、尚も問いかけるような視線をトルドへと向ける。サラの手に乗った物に興味を示したメルエは、覗き込むように背伸びをするが、それが只の鍵であった為に興味を失ってしまった。

 

「以前から俺が探していた物を手に入れたと、ある商人がこの町を訪ねて来てね。結構な値で吹っ掛けて来た。足元を見ている事は解ってはいたが、機を逃しては二度と手に入らないと感じた俺は、町の住民が俺に送って来たゴールドに手を付けてしまった」

 

「なに!?」

 

 町の人間達がトルドに送って来たゴールドという事は、先程話に出て来ていた賄賂という事になる。それに手を付けてしまったとなれば、住民達の不満を真っ向から否定する事が出来なくなってしまうのだ。その額が僅かだとしても、賄賂に手を出した事は覆らない。それはトルドの言うように『罪』となる物であろう。

 予想していなかった展開にサラは息を飲み、リーシャは驚きの声を上げる。カミュに至っても、トルドの思惑は理解していても、その罪までは見通せてはいなかった。

 

「そのゴールドは、個人的な商いによってすぐに戻したが、一度手を付けてしまった事には変わりない。だから、俺がこの牢屋に入る事は当然の事なんだ」

 

 ここで『戻したのならば良いだろう』と言えればどれ程楽であっただろう。だが、本人が罪と認め、深く悔いている事が痛い程に理解出来る為、リーシャやサラは何も言葉を発する事が出来なかった。

 このトルドという商人が、他者の物と考える資金に手を出してまでも入手したかった物など想像する事も出来ないが、その品物が、この真っ直ぐな商人の心を罪悪感に蝕み、そしてこのような境遇に陥れてしまった事だけは確かであった。

 

「まぁ、そんな訳で俺は暫くここで過ごすよ。もし、この町の住民に許される事があれば、もう一度カザーブへ戻ろうと思っている」

 

 一度牢に入れられた者が許される事など、この時代では皆無に等しい。国家であれば尚更であり、一度罪人として牢に入れた者を外へ出すという事は、その者を捕まえた国家の威信に係わる事柄となるからだ。

 だが、ここは自治都市である。この町の法も、そこで暮らす者達が決め、そして判断する事の出来る場所。トルド程の功績があるのならば、それ程の時間を要する事なく、放免される可能性もあるだろう。

 

「…………メルエ………あける…………」

 

 カミュ達三人が押し黙ってしまう中、一人の少女が満を持して動き出した。

 彼女にとって、今までの会話の内容は理解出来る物ではないのだろう。半分も理解出来ない内容に痺れを切らした彼女は、肩から下がるポシェットから輝く鍵を取り出した。それは、勇者一行が持つ、神代から伝わる鍵であり、どんな鍵でも解除すると伝えられる『最後のカギ』である。

 その鍵であれば、この牢屋の鍵でさえも容易く開けてしまうだろう。トルドという大事な者を救い出す事に理由などいらないメルエは、そのまま鍵を牢屋の鍵穴に差し込もうと手を伸ばした。

 

「メルエちゃん、それは駄目だ。俺はここで罪を償うよ。そして、ここで何が悪かったのかをじっくりと考えてみようと思う。時間ならば、腐る程にあるだろうからな……」

 

「…………むぅ…………」

 

 だが、そんな少女の無邪気な手は、救う対象である者によって阻まれる。

 昨日から自分の行動を悉く遮るトルドに対して頬を膨らませたメルエであったが、強い光を宿すその瞳を見て、力なく肩を眉を落とすのであった。

 鉄格子の奥から伸ばした手をそんな少女の頭の上へと置いたトルドは、その小さな頭を優しく撫でる。まるで最愛の娘の頭を撫でるように優しく、そして暖かい手は、メルエの心に安らぎではなく、哀しみを運んで来た。

 いつもならば、目を細める程に気持ち良い手が、何故か切ない程に哀しく感じる事に困惑し、メルエの双眸から大粒の滴が地面へと零れ落ちて行く。

 

「俺の寝室の椅子の下に小さな引き出しがある。それはそこの鍵だよ。アンタ方の旅の役に立つ物であれば、持って行ってくれ」

 

「……トルドさん」

 

 名残惜しそうにメルエの頭から手を離したトルドは、カミュ達へ視線を戻し、最後の言葉を早口で言い切った。そして、それ以上には何も語る事がないとでも言うように、そのまま牢屋の奥へと戻って行く。広くはない牢屋の奥へと歩くトルドの背中を見ながら、サラは何とも言えない想いを胸に抱く事となった。

 しかし、ここでその背中に語りかける言葉は見つからない。何かを言おうとしても口を開く事が出来ない。それは、腰にしがみ付いて来たメルエをマントの中へと導いたカミュが牢屋から出て行くまで続いた。

 

 牢屋のある建物から出た一行は、そのままトルドの元屋敷へ向かって歩き出す。途中の道では、誰一人として口を開く者はおらず、ただ黙々と屋敷までの道を歩き続けた。

 屋敷の門の前に着くと、昨日までいた門番のような男の姿は見えず、代わりにその大きな屋敷を見上げるように立つ男性が見える。その男性の姿は、カミュやリーシャよりも背丈が低いが、髪色はカミュと同じように漆黒に輝いていた。

 

「……鍛冶屋の方ですか?」

 

「ん? お前さん達は……ああ、トルド殿が言うておった御仁か」

 

 漆黒に輝く髪色は、この世界ではある地方で生まれた者にしか持つ事が出来ない者。カミュの祖母もまた、その地方の出身であり、その血を受け継いだカミュの髪色は、その地方の者と同様に漆黒に輝く物であった。

 この町でその地方であるジパングの者と言えば、昨晩にトルドの話にあった鍛冶屋しか存在しない事は明白である。故に、カミュはその男性の背中に向かって声を掛けたのだった。

 振り向いた男性は一瞬顔を顰めるが、カミュ達四人の姿を確認した後、歳相応の皺が刻まれた顔を緩め、優しい笑みを溢す。年の頃は四十から五十と言ったところだろう。もしかするともっと若いのかもしれないが、彼の半生の苦労がしっかりとその身体に刻まれていた。

 

「この屋敷も今朝からトルド殿の物ではなくなった。今後は町の会議所として使われるようだ」

 

「……そうですか」

 

 カミュ達から視線を外した鍛冶屋は、主の居なくなった大きな屋敷を見上げる。その言葉には、憐みとは異なる哀しみが滲んでいた。この鍛冶屋は、カミュ達が考えていた以上に、トルドとの間に信頼関係を築いていたのかもしれない。サラは鍛冶屋の男性の横顔を見つめながら、昨夜カミュが語っていた、『トルドの味方』であれば良いと考えていた。

 町の大半が、反トルドの立場として動いてはいるが、決して町全体という訳ではない。この町の中にも、トルドという人間が排除された事を悲しむ者もおり、その人柄を知っているが故に惜しむ者もいる筈である。そんな人間が一人でもいる限り、この場所が絶対王政でない以上、トルドが釈放される事は夢物語ではないのだ。

 

「今は町の者も熱くなっていて何を言っても聞かないだろう。だが、何時かその声が皆に届く時が来る」

 

 鍛冶屋の男性は、サラの心の内を見透かしたような言葉を残し、町の雑踏の中へと消えて行く。その言葉の意味を問いかける事も出来ず、サラはその背中を呆然と見送るしか出来なかった。

 だが、先程の言葉で、あの鍛冶屋の男性が『トルドの味方』である事だけは確定したと言って良いだろう。彼がこの先で何をしようとしているのかまでは解らないが、それでも彼がトルドの為に動こうという意思がある事はカミュ達全員が理解出来たのだ。

 

「……行くぞ」

 

 消えて行く鍛冶屋の背中を見つめていたリーシャとサラは、先に屋敷へと入って行ったカミュの後を続いて歩き出す。

屋敷の中へ入ると、そこは外の世界とは一線を画した物となっていた。外の喧騒は屋敷内には届かず、以前まで廊下などにあった宝飾品などの高価な物は全て片づけられている。閑散とした廊下は、この屋敷の主の衰退を思わせるに十分な物となっていた。

 奥へと進み、大広間に出ると、そこもまた以前とは異なった様相をしている。大きな机が円卓のように置かれ、幾つもの椅子が設置されていた。おそらく、多くの町民達による合議制を用いる為、会議所としての設備を整えているのだろう。

 誰もいない大広間を抜けた一行は、そのままトルドの寝室があった場所へと入って行く。そこもまた、町民によって綺麗に片づけられていたが、トルドが使っていたであろう机と椅子はそのままになっていた。

 

「この椅子の事でしょうか?」

 

「椅子の下に引き出しはあるぞ」

 

 トルドの話を思い出しながら椅子へと近付いたサラとリーシャは、その椅子を丹念に調べ、その四本の足の間に小さな引き出しがある事を確認する。通常の粗末な椅子とは異なり、木で作られた椅子は羊毛の入った布で覆われており、椅子の足を隠すように垂らされた布に隠れるような形でその引き出しは存在していた。

 トルドから受け取った鍵を鍵穴に差し込むと、何の抵抗もなく鍵は回り、乾いた金属音を響かせて引き出しは開錠される。

 

「!!」

 

 そして、その小さな引き出しを引き、中身を目にした三人は、息を飲む事となった。

 誰一人として声を出す事など出来ない。その引き出しの中に唯一つだけ残されていた物を目にした時、リーシャとサラは胸に湧き上がる感情を抑える事など不可能であった。

 サラは既に視界が歪み始め、引き出しの中にある物を正視する事が出来ない。リーシャもまた、その物から逃げるように顔を背け、何かを我慢するように天井を見上げた。いつもは冷静さを失わないカミュでさえも、眉間に皺を寄せて口元を厳しく引き締める。

 そんな三者三様の行動を起こす中、先程までカミュのマントの裾を握っていたメルエは、引き出しの中にあった物と同じような輝く瞳を向け、小さな笑みを溢す。

 

「……こ、これの為に……私達の為に、ト、トルドさんは……」

 

「……あの馬鹿が」

 

 最早溢れ出る水滴を拭う事も出来ず、嗚咽を抑えるように口元へ手を持って行ったサラは、その物がこの場所にある意味を正確に捉えていた。それはリーシャも同様であり、ここにはいないお人好しの商人に向かって悪態を吐く。その声は涙が混じるように擦れ、天井を見つめていた瞳はきつく閉ざされていた。

 カミュの横から顔を出したメルエが、それを手に取り、柔らかな笑みを浮かべる。幼い少女の笑顔を映すそれは、鮮やかな黄色に輝きを放っていた。

 

 トルドという、この世界でも上位に入る程の商人が、他者のゴールドに手を付けてまでも欲した物とは、カミュ達が探し求める『精霊ルビスの従者』を蘇らせると伝えられている小さな珠であったのだ。

 ランシールにあった神殿で聞いたように、この黄色く輝く珠は『人から人へと世界中を巡る物』と云われる物。<山彦の笛>でさえも発見する事は難しく、一度見失ってしまえば、一度の生涯では再び見出す事は出来ないとさえ考えられている物でもあった。

 その名は『イエローオーブ』。

 オーブに関する会話を何度かトルドとしてはいたが、彼が実際にオーブという物を見たのは一度きりの筈である。それでも彼は、そのオーブという物を記憶に留め、この町を訪れる商人達からそれに関する情報を集めていたのだろう。

 

「カミュ……私達は返し切れない程の恩を受けた。この恩を忘れる事は許されない」

 

「……わかっているさ」

 

 メルエの手に乗るイエローオーブを見つめていたカミュは、後方から掛ったリーシャの言葉に深く頷きを返した。

 以前の彼であれば、この出来事を『恩』とは感じなかったかもしれない。だが、今の彼はその表情を歪める程に、その事実を重く考えていた。それが理解出来たリーシャは、ようやく笑みを浮かべる。目の端に光る水滴を見せるその笑顔は、朝露に輝く花のような輝きを放つ物であった。

 ポシェットにオーブを仕舞い込んだメルエを連れてカミュが屋敷を出て行き、部屋に残ったリーシャは、未だに涙を流し続けるサラの肩を抱く。身体を一瞬強張らせたサラではあったが、感情を押し殺す事は出来ず、リーシャの胸にしがみ付いた。

 

「サラ、泣くな。私達の旅は、多くの者達によって支えられて来たんだ。それは、昔も今も、そしてこの先も変わらない。ならば、私達がするべき事は一つだろう?」

 

「……はい……はい」

 

 自分の胸の中で泣き続けるサラの背中を優しく撫で、リーシャは優しい笑みを浮かべる。その胸の内に宿る偉大な炎が再び燃え上がるように、ゆっくりと撫でる手の暖かさを感じながら、サラは何度も頷きを返した。

 

 トルドの意思が固い以上、今のサラ達に出来る事など限られている。彼女達の想いのまま、あの牢の鍵を開けたとしても、彼は外へ出る事はないだろう。ならば、彼がその身を犠牲にしてまで守った町と、そこで暮らす人々の為に彼女達がするべき事は一つである。

 彼が罪を犯してまで手に入れたオーブを全て集め、『精霊ルビスの従者』を蘇らせる事。そして、その先にある未来を手にする事しか有り得ないのだ。

 その道中には、この世界で生きる者達全ての恐怖の対象である『魔王バラモス』が待ち受けているだろう。

 だが、それでも勇者一行が歩みを止める事は許されない。

 いや、彼等自身がそれを許さないのだ。

 それこそ、彼等が『勇者一行』と呼ばれる所以なのかもしれない。

 

 

 

 




読んで頂き、ありがとうございました。

これにて第十四章は終了となります。
この後に、勇者一行装備品一覧を更新し、その後は第十五章へと突入します。

ご意見、ご感想を心よりお待ちしております。

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