新訳 そして伝説へ・・・   作:久慈川 京

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第十八章
アレフガルド大陸①


 

 

 

 ラーミアが飛び込んだ巨大な闇の穴は、世界の歪み。浮遊感を感じるような崖ではなく、旅の扉に入った時のような奇妙な感覚に一行は陥った。

 まるで自分の視界全てが歪んでしまうような感覚にサラはメルエを抱き締め、カミュとリーシャはラーミアの背で足を踏ん張る。三半規管の全てが狂ってしまったかのような感覚の中、カミュ達を落とす事無く飛行を続けるラーミアは、やはり神代からの霊鳥なのだろう。

 とてつもなく長い時間のようで、瞬く間のような短い時間が終わり、不意に戻った感覚に瞳を開けたカミュは、未だに広がる闇の世界を見て気を引き締める。しかし、それは世界の歪みのような漆黒の闇ではなく、太陽が大地へと落ちた後に訪れる自然の闇である事に気付き、周囲を確認するように視線を彷徨わせた。

 

「ここがルビス様のお創りになられた世界……」

 

 闇が広がるその場所には、海があり森もある。大地があり風もある。只一つ、陽の光がないという事を除いて見れば、サラ達が生まれた世界と何ら変わらない景色であった。

 上空を見上げると、太陽の光がないばかりか、星の輝きも、月の輝きもない。何一つない空の一部に、歪んだ闇が広がっている。おそらく、その闇がカミュ達が育った世界へと繋がっているのだろう。

 あのギアガの大穴がこの世界へ繋がる理由は解らない。それが精霊ルビスの力の限界なのか、それとも大魔王ゾーマの力の影響なのかも解らない。言える事は、この世界がサラ達が知る世界ではないという事と、この世界が大魔王ゾーマによって闇に覆われようとしているという事であった。

 

『私がお送り出来るのはここまででしょう。あの世界には今や守護者がおりません。精霊神ルビスも竜の女王も、そして貴方もいない今、ゾーマの触手が伸びて来た場合を考え、私はあちらへ戻る事にします』

 

「……頼む」

 

 海に浮かぶ一つの小島へと着陸したラーミアは、その背から一行を下ろし、カミュ達の脳へ向かって声を発する。直接響いて来るその言葉の内容に、カミュは一つ頷きを返すが、先程まで笑顔であったメルエの顔は瞬時に歪んで行った。

 ラーミアの言葉通り、カミュ達が生まれた世界には守護者がいない。信仰として伝えられている精霊神ルビスは、この闇に覆われかけた世界にいると云われているし、本来の守護者である竜の女王は、新たな守護者へ全てを託して命を終えている。新たな守護者となるべき者は未だに卵から孵らず、守護者としての役割を全う出来る訳はない。そして、リーシャとサラが最も驚いたのは、ラーミアという神鳥が、守護者という枠の中に一人の青年を含めた事であった。

 確かにカミュという青年は、『勇者』として旅を続け、世界の脅威である魔王バラモスを討ち果たしている。だが、彼が一個の人間である事に変わりはなく、精霊神ルビスや竜の女王のような力を有している訳ではない。それでも、この神代の生物である神鳥は、唯一人の人間を世界の守護者として認めていたのだ。

 

「…………ラーミア………いない……だめ…………」

 

『再び出会う日はそう遠くはありません。貴女と再び会える日を楽しみにしています』

 

 瞳に涙を溜めた少女が、大きな翼に近付いて来るのを感じたラーミアは、そのまま翼を広げ少女を内へと誘い込む。暖かな羽毛に包まれたメルエは静かに涙を流し、自分とようやく会話をしてくれるようになった神鳥との別れを惜しんでいた。

 いくら駄々を捏ねようと、その別れを拒否しようと叫んでも、この別れがどうにも出来ない物である事を理解した彼女は、押し殺すような嗚咽を漏らしながら、その羽毛に顔を埋める。神鳥と呼ばれ、崇拝の対象にさえ成り得る存在に対して、このような姿を見せる人間は珍しいのかもしれない。それだけこの少女は無垢であり、この少女の傍にいる者達も異質なのだろう。

 勇者として生きる青年は、共に歩む戦友のようにラーミアを認め、女性戦士はラーミアを神代の霊鳥として崇めてはいるものの、少女が慕う動物としての見方の方が強いようにも思える。唯一、精霊神ルビスを崇めている賢者だけは、この神鳥を精霊ルビスの従者として尊い存在として見てはいたものの、己の目指す遥かなる道へと向ける瞳の方が強かった。

 

「さぁ、メルエ。ラーミア様にお礼を」

 

「…………ぐずっ……ありが……とう…………」

 

 既にサラの中でも、この神鳥が精霊ルビスの下に就いていたという認識はないのかもしれない。むしろ精霊神ルビスと呼ばれる精霊の頂点に立つ存在と同等の神気を持つ者であると言っても過言ではないのだろう。この世界を生み出した創造神から何らかの使命を受けた存在のようにも見えるし、竜の女王と同格の守護者のようにも見える。異世界との狭間を何の問題もなく渡る事が出来るこの神鳥は、それだけの力を有していた。

 鼻を啜り、涙を溢しながらも頭を下げてお礼を述べるメルエを見つめる青い瞳は優しい光を湛えている。顔を上げたメルエを抱き上げたリーシャは、ラーミアが飛び立つ為に距離を取った。全員が距離を取り終えた事を確認したラーミアがその大きな翼を広げ、大地を蹴る。太陽の光さえも届かぬ空へ眩い光となって飛び立ち、暫しの旋回の後、空に見える巨大な歪みの中へと消えて行った。

 

「泣くな、メルエ。ラーミアと約束したのだろう? 必ずまた出会える日が来る。その時を楽しみに待とう」

 

「…………ん…………」

 

 抱き上げられたメルエは、リーシャの首筋に顔を埋め、未だにすすり泣く。誰に対しても、何に対しても偏見を抱かず、好意を好意で返そうとする少女の優しい涙に笑みを溢したリーシャは、その背を静かに撫でながら、再び神鳥と会える日を思った。

 その日は遥か遠い未来かもしれないし、すぐ傍にある未来かもしれない。だが、語り継がれる程の神鳥がそれを口にしたのだ。必ずその日が来る事だけは確かであろう。今は只、その日が来るまで、彼等の前にある道を歩み続ければ良い。

 

「カミュ様、建物が見えます」

 

 リーシャがメルエを慰めている横で、サラは夜の闇に閉ざされた孤島を観察していた。立地的にも山などなく、平地が支配する小さな島は、一日、二日で歩き終える事が出来る程度の大きさしかない。そして、サラの指差す先の海岸付近に小さな小屋が建てられていた。

 小さな小屋からは海へと続く桟橋が掛けられており、その桟橋には小さな小舟が繋がれている。人間数人が乗る事の出来る程度の小舟であるが、対岸の陸地が見える海域であれば十分に渡る事が出来る筈である。おそらく、この小屋の持ち主が使用しているのだろう。

 

「あれ? また上の世界から来た人?」

 

「……上の世界?」

 

 小屋へと近付くと、桟橋にある小舟の近くに十二、三歳程度の年齢と思われる少年が手入れをしていた。この小屋で暮らす者の息子なのか、舟の手入れの仕方も堂に入っている。真面目な少年の手入れも行き届いており、小舟の状態も良く、不備などは全く見られなかった。

 そんな少年が近付いて来るカミュ達に気付き、自分の身体よりも大きなブラシを止めて首を傾げる。少年が発した言葉は、カミュ達には理解し難い内容ではあったが、全く理解出来ない物でもない。つまりは、上空にある歪みから落ちて来た者達も居たという事なのだろう。

 ラーミアという神鳥に乗ってこの世界に来たカミュ達は、空に浮かぶ歪みの闇から出ている。だが、あの歪みがこの世界の入り口だとすれば、空でも飛べなければこの場所以外の海などに落下し、命を落としているだろう。それでも、この世界にいる少年が異世界を渡る者達を見て来たと言うならば、他の者は別の形でこの場所へと現れたのかもしれない。

 

「お父さんが中にいるから、会えば?」

 

 何よりも、この少年にはカミュ達への興味がない。それは、彼の言う『上の世界から来た人』という存在が、それ程珍しい物でない事を意味していた。流石に毎日という訳ではないだろうが、一年に数回の回数でそのような人物の来訪があるのかもしれない。

 カミュ達への興味を失った少年は、再びブラシを握り、小舟の清掃を始める。水を撒き、ブラシで擦るという行動を繰り返しながらも、その表情に苦痛はない。何処か、メルエが洗濯を行う時のような楽しささえも滲ませるその表情に、リーシャは自然と笑みを作ってしまった。

 小屋の中に入ると、その小屋は見た目通りの部屋数も少なく、親子二人で暮らす事が可能である程度の広さしかない。中央にある暖炉には火が点されており、太陽の温かみがない夜の寒さを補うように暖を取っていた。

 中央にある椅子に座っていた男性が、入って来たカミュ達の方へと顔を向ける。おそらく、この男性が表に居た少年の父親なのだろう。ポルトガに居た海の男達程ではないが、屈強な体躯をしているその男性は、カミュ達の来訪にそれ程興味を示さず、持っていたカップの飲み物を口に運んだ。

 

「また上の世界から来た人間か? ここは、闇に閉ざされてしまったアレフガルドだ」

 

「アレフガルド国王様にお会いするには何処へ向かえば宜しいでしょうか?」

 

 男性はカップから口を離し、自分の言葉に反応して問いかけたカミュをまじまじと見つめる。もしかすると、彼の言う『上の世界から来た人間』がこの場所に来て初めて口にする言葉は『ここは何処だ!?』という物なのかもしれない。何度もその問いかけを受けて来た彼は、定例文のようにこの場所の説明をしただけなのだろう。だが、予想に反して、カミュの口から出たのはその国家の王への謁見に関する物であった。

 カミュ達四人は、アレフガルドという地名は聞いた事はない。だが、上の世界という未知の異世界から来た人間だと考えているのであれば、地方名などを口にはしないだろう。つまり、この男性は国家名を口にしたのだと彼等は認識したのだ。

 

「ん? いや、アレフガルドとは、この大陸の名だ。アレフガルドを治めている国家はラダトーム王国となる。ラダトームの王都と城は、この島から海を渡って真っ直ぐ東に向かえば一日、二日で辿り着くだろう」

 

「……失礼致しました」

 

 だが、それはカミュ達の勘違いであった。この世界にどれ程の大陸があるのか解らないが、今カミュ達の居る場所の呼称がアレフガルド大陸であり、その大きな大陸全てを統べる国家がラダトーム王国であると言う。国家名を誤るなど、不敬以外の何物でもない。その国に忠誠を誓っている者からすれば、激怒しても可笑しくはない筈なのだ。だが、この男性は少し驚いた顔をした後、気にした様子もなく、その間違いを訂正した。

 

「外に居る息子に舟を出して貰うと良い。気が向いたら駄賃でも上げてくれ」

 

「ありがとうございます」

 

 ラダトーム王国が統治しているアレフガルドという大陸はかなりの大きさなのかもしれない。それこそ、アリアハン大陸など比較にならないだろう。流石に上の世界全てに比べれば小さな物だろうが、一国家として考えるのであれば、上の世界の六カ国よりも大きい可能性があった。

 会話を終えた男性は、漁師が使うような道具の手入れを始め、カミュ達を振り返る事もない。最早珍しくもない異世界の人間への興味など、その程度の物なのだろう。頭を下げたカミュ達は、小屋から退出し、先程の少年の許へと戻って行った。

 

「……ラダトームのお城へ行くの? じゃあ、乗って行きなよ」

 

 男性との会話の内容をカミュが話すと、屈託のない笑みを浮かべた少年が舟の掃除を止めて、オールのような物を手に取る。少年にお礼を言って乗り込む一行の中で、何やらメルエだけは不機嫌そうに頬を膨らませていた。

 カミュやリーシャが少年を見る目はとても優しい物である。このような辺鄙な孤島で父親と二人で暮らしている子供としては、この少年の瞳は優しく澄んでいた事が原因であろう。だが、自分の保護者である二人が、自分以外の子供に優しい瞳を向ける事を、この幼い少女は許さない。独占欲と我儘を覚えたこの少女は、まるで敵のように少年を見つめるのだった。

 

「この人数だと、僕一人じゃ舟を動かせないから……」

 

「わかった」

 

「わ、私もなのか?」

 

 四人が乗り込んだ後、困ったように首を傾げた少年は、一度小屋に戻ってオールのような物を二つ持って戻って来た。

 確かにそれ程大きな舟ではないとはいえ、ある程度の重量がある大人三人を乗せるのであれば、少年だけで海を渡るのは難しいのだろう。素直にそれを受け取ったカミュとは異なり、手渡されたオールに戸惑ったのはリーシャであった。

 この一行の中で唯一の男手であるカミュが漕ぐ事は当然であろう。だが、屈強な戦士といえども、リーシャは女性である。何故か当然のように少年からオールを手渡された事に釈然としない想いがあったのだ。

 

「…………メルエも……やる…………」

 

 リーシャが呆然と手に持つオールを眺めていると、先程までむくれていたメルエがオールへと手を伸ばす。十二、三歳の少年が持っているオールよりも大きな大人用の物である為、身体つきが少年よりも幼いメルエが持てる訳がない。手を伸ばしてオールの柄を掴んでも、リーシャが手を離せば舟の上で引っ繰り返り、そのまま海に落ちてしまう事は明白であった。

 舟の前方にサラが座り、中央にカミュとリーシャが並んで座る。船尾には少年がオールを持って立ち、メルエはリーシャの膝の上に乗ってオールを握った。小さな舟ではあるが、四人が乗り込んでも余裕はあり、重みで船が沈むという事もないだろう。

 一つ合図を出した少年は、桟橋に括っていた縄を解いて、足で蹴る事によって出航させる。海を渡るとはいえども、この孤島から対岸の陸地は見えていた。故に、長い時間が掛かる訳ではない。この世界にも海の魔物が居たといても、遭遇する可能性も低いだろうと考えていたのだ。

 だが、そんな考えは、己の力量と重要性を把握し切れていないという落ち度があった。

 

「え? こ、こんな……」

 

「カミュ!」

 

 陸地から離れ、対岸との中央まで舟を進めた頃、後方で舟を誘導していた少年が海面が泡立っている事に気付く。そして、一気に波立ち、舟が揺れ動いた。立っていた少年が己の身体を支え切れない程に大きな揺れであり、オールを手放して舟に腰を打ってしまう。

 舟が転覆しなかったのは、少し離れた場所から海面にそれが出て来たからであろう。だが、大きな揺れによって舟の中に大量の海水が流れ込み、舟体が大きく沈み込む。入り込んだ海水をサラとメルエで海へと戻す中、海面に現れたそれを見上げた少年は恐怖で声を失っていた。

 カミュとリーシャは己の武器を抜くが、海上での戦いを行える程に舟が大きい訳ではない。何より、海面に顔を出したそれは、舟に上げて戦う事が出来るような物ではなかった。

 

「グオォォォォ」

 

「……なに、これ? こんな魔物、見た事ないよ」

 

 カミュ達の数倍以上の真っ赤に染め上がった身体を持ち、その魔物は大きな雄叫びを上げる。カミュ達の身体よりも太い十本の触手を高らかに掲げ、その先には毒々しい青色の光沢を放つ吸盤を持っていた。その内の一本の触手の一振りだけで、カミュ達の乗る小舟などは木っ端微塵に砕け散るだろう。それだけの力を有している事が一目で解る程に、その存在感は大きかった。

 腰を抜かした少年は、巨大な赤い化け物を見上げて言葉を漏らす。その内容に、小舟の中の海水を出し終えたサラは弾かれたように顔を上げた。

 この少年は、何度もこの舟で海を渡っている筈である。僅かな短い距離である事に加え、それ程強力な魔物との遭遇もないからこそ、あの父親である男性も少年に任せていたのだろう。つまり、この巨大な魔物が現れたの事は近年ではなかったという事だ。

 

<クラーゴン>

巨大イカ属の最上位に位置する魔物である。大魔王ゾーマの持つ世界の海に存在していたと云われる魔物であり、海域最強の魔物でもあった。海を棲み処とする魔物達の中の頂点に立つに相応しい力を持ち、その数の多い触手を同時に繰り出す事で、相手が行動を起こす隙を奪う。その巨体通り、体力や生命力も高く、通常の攻撃や攻撃呪文などでは傷一つ与えられない程であった。

 

「グオォォォォ」

 

「舐めるな!」

 

 雄叫びを上げたクラーゴンは、一つの触手を舟に向けて振り下ろす。しかし、それを見切っていたリーシャの一閃が、太い幹のような触手を斬り飛ばした。振り下ろした勢いをそのままに、後方の海へと落ちて行く触手が巨大な波を作り出し、小さな小舟が再び大きく揺れ動く。

 体制が崩れたカミュに向かって振り下ろされた触手は、立て直しながらに振り抜かれた稲妻の剣によって斬り飛ばされるが、同時に繰り出されたもう一本の触手が後方で腰を抜かしていた少年へと襲い掛かった。

 

「サラ!」

 

「…………むぅ………メラゾーマ…………」

 

 間一髪で少年を抱えたサラがその一撃を受け、そのまま海の中へと落とされてしまう。サラの身体ごと海へと弾き飛ばす怪力を見せたクラーゴンであるが、それに怒りを表した小さな魔法使いの生み出した大火球を受ける事となった。

 触手数本を犠牲にし、己の身を護ろうとしたクラーゴンの判断は正しかった。最も太い触手を含めた三本が、メルエの放った火球を受けて消滅する。それは限界まで圧縮された高温によって瞬時に溶けてしまった事を意味している。触手であった残骸が海へと落ちるが、根元から消え失せた触手はクラーゴンに命の危機を感じさせた。

 

「……リーシャさん、この子を」

 

「サラ、自分に回復呪文を掛けろ!」

 

 メルエが杖を握り締めてクラーゴンと対峙する中、サラが気を失った少年を舟へと上げる。強かに打ち付けられた触手によって、サラ自身も大きな怪我を負っているのだろう。口端からは血液が流れ、庇った際の右腕は大きく晴れ上がっていた。右腕の骨が折れ、内部で肉に突き刺さっているのかもしれない。

 痛みに耐えるように表情を歪めながらも腕を正常な形へ戻したサラは、最上位の回復呪文を己の身体へと唱える。強い緑色の光がサラの身体を包み込み、身体内部の傷を癒して行った。

 死への恐怖と怒りによって半狂乱になったクラーゴンが小舟に向かって触手を振るうが、メルエの放つ魔法と、カミュの迅速の剣捌きによって、何とか被害を抑えている。そんな中、ようやく舟に上がったサラが、海水で濡れた服をそのままに、クラーゴンの前へと歩み出て行った。

 

「ザキ」

 

 それは、カミュやメルエ、そしてリーシャにも聞き取る事の出来ない言霊。その行使者が、対象者にのみ放つ呪いの言葉であり、それはそれ以外の者達の耳に入る事はない。カミュやメルエには、サラが何かを呟くように口を開いたようにしか見えなかった。

 手を前方に向けて放たれた呪いの言葉は、正確にクラーゴンを打ち抜き、巨大なイカが苦しむように身を捩る。触手の半数以上を失い、それでも怒りの任せて攻撃を繰り出していた大イカが海の中で暴れる事で、再び大きな波が立つ。

 

「グオォォォォ」

 

 しかし、このクラーゴンという魔物が、海の支配者である証が示された。

 巨大な雄叫びを上げたクラーゴンの瞳までが真っ赤に染め上がり、頂点に達した怒りが夜の闇を切り裂いて行く。それは、サラの放った死へ誘う呪いの言葉を弾き返した事を意味していた。

 以前のカミュのように、クラーゴンが命の石を持っていたとは思えない。となれば、その時のリーシャや試練の洞窟の時のカミュのように、独力で死への誘いを打ち払ったという事になる。それは、本能が優先されると考えられている魔物としては異例であった。だが、本能が優先されているからこそ、生への渇望が強かったとも考えられるのかもしれない。

 

「ちっ!」

 

「……そうですね、死にたくはありませんね。ですが……ごめんなさい。私達もまだ、死ぬ訳には行かないのです」

 

 怒りに燃えた瞳をサラへと向け、その渾身の一撃を加えようと残った触手を振り被ったクラーゴンを見たカミュは舌打ちを鳴らし、それとは対照的にサラは哀しそうに眉を下げて小さな呟きを溢す。

 しかし、再び上げられた顔は、先程までの憂いなど欠片も見えない。そこにあるのは他者を死に至らしめる事を理解し、飲み込み、覚悟した者しか出来ない瞳をした『賢者』そのものであった。

 触手を振り下ろそうとしているクラーゴンに向けて掲げられた掌に力を込め、彼女は再びその力を解き放つ。強制的に生者を死へと誘い、その魂までも無に還す力。それは、『人』が持つには余りにも大きく、余りにも危険な力であった。

 

「ザキ」

 

 呟くように静かながらも、先程よりも更に力が篭ったその言霊は、カミュやリーシャの脳にも微かに聞こえる程の力を有する。生への執念さえも断ち切らせるその言霊は、怒りに燃えたクラーゴンの瞳から光を奪って行った。

 振り上げた触手を振り下ろす事さえも出来ず、全ての時を止め、全ての活動を放棄したクラーゴンは海へと沈んで行く。夜の闇に支配された海の上でもはっきりと確認出来る真っ赤な巨体が、完全に海の中へと消えて行く頃、サラの瞳から緊張の力は抜け、大きな溜息を吐き出した。

 

「…………サラ…………」

 

「……大丈夫ですよ。この力は震える程に怖い……出来る事ならば使いたくはないのですが、それでも私には目指す先があります。そこに辿り着くまでは、死ぬ訳にはいきませんから」

 

 心配そうにサラの手を握ったメルエの眉は下がっている。あちらの世界でサマンオサ国に入る前にサラが陥った状況を思い出したのだろう。

 あの時のサラは、己が行使した呪文の凶悪さと、その呪文の持つ力の強大さ、そして何よりも倫理観から己を苦しめ続けた。神にも近い他者の命を強制的に奪い取るという『死の呪文』は、サラという賢者の思考をも止めてしまう物であったのだ。

 だが、今のサラはそれを乗り越え終えている。決してその呪文を軽く考えている訳でもなく、ましてや他者の命を軽く考えている訳でもない。それでも自分が進む先にある未来を実現する為、自身の命を優先するという結論に達しているのかもしれない。

 

「カミュ、あの魔物はゾーマの完全なる復活と共に現れたのか? だとすれば、この状況で少年だけであの家へ戻すのは危険ではないか?」

 

「……ああ」

 

 既に対岸は目と鼻の先である。浅瀬に入った事で、リーシャとカミュは舟を降り、海水に腰まで浸かりながら舟を押し始めていた。その中で、あの魔物を見たリーシャは、感じた疑問を口にする。

 確かに、この少年が今まで見た事もない魔物が突如現れたのだとすれば、今まではあの魔物がこの海域に生息していなかったという事になる。ならば、考えられる事とすれば、大魔王ゾーマの復活と共に、このアレフガルドに生息する魔物の質や凶暴性に変化があったという可能性であった。

 そして、今後もこのような短い航路の途中でもあれ程の魔物と遭遇するならば、舟を使って暮らしを営んでいる親子は死活問題になって来るだろう。まず第一に、あの場所に少年を一人で戻す事の危険性は明らかであった。

 

「メルエ、目的地が見えていたら、ルーラで戻って来れますか?」

 

「…………ん………メルエ……できる…………」

 

 そんな二人の会話を聞いていたサラは、未だに心配そうに眉を下げたまま自分の手を握るメルエに向かって問い掛ける。自分の誇りでもある魔法に関しての問いかけを受けた少女は、少し考えた後、下げていた眉を上げ、しっかりと頷きを返した。

 ルーラという呪文は特殊な呪文でもある。本来は、行使者の頭に残るイメージを利用して、魔法力の開放によって目的地へ向かう者であった。だが、それは『魔道書』という書物に記載された呪文の説明であり、魔法力の開放という点で言えば、幾らでも応用は可能な呪文でもあるのだ。

 行使者のイメージがしっかりしていれば、その場所へ飛ぶ事は可能であるし、そのイメージは視界に入っているのであれば容易に構築が可能であろう。しかし、それもまた、高位の呪文使いでなければ不可能なのだ。

 この四人の中でルーラを行使出来ないのはリーシャだけであるが、呪文を行使するための魔法力の制御という点で言えば、カミュもまたサラやメルエの足元にも及ばない。ルーラという初期の呪文を最も早く行使出来たのは彼であるが、それを応用する程の技量は持っていないのだ。

 そして、応用するという事は、それなりの魔法量を持っていなければならない。最小限の魔法力で行使出来る距離であっても、ルーラという契約の外にある行使方法であれば、対価の魔法力が増えてしまっても可笑しくはなかった。

 故に、サラはその行使者としてメルエを選んだ。

 

「カミュ様はもう一度メルエと共に舟で戻って下さい。あの巨大なイカは流石に出て来ないでしょうが、他の魔物が出て来た際、カミュ様も居れば十分でしょう。メルエは向こう岸に着いたら、こちらまでルーラで戻るのですよ? 目印は……あの大きな木は、あちらからでも見えていましたね」

 

「メルエ、大丈夫か?」

 

「…………ん………だいじょうぶ…………」

 

 サラが細かい説明を加えて行く中、心配そうにメルエへと声を掛けたリーシャは、その瞳に宿る光と、口にされた魔法の言葉に笑みを浮かべる。この少女は、その魔法の言葉に宿る力を知っていると共に、その言葉が意味する大きな責任をも理解しているのだ。ならば、保護者であるリーシャは、この少女を信じて託すのみである。

 一度帽子を取り、その明るい茶色の髪を梳きながら撫でて行くと、気持ち良さそうに目を細めたメルエが花咲くような笑みを浮かべる。二人のいつもと変わらないその行為が、これから行う難しい呪文の行使をも容易なものであると錯覚させた。

 厳密に言えば、メルエは一度同じような行使方法を成功させている。それは、彼女達がカミュと逸れてしまった時、魔物のバシルーラへ対抗する為に魔法力を使い切ったサラに代わって、メルエは下で航海する船に向かい行使した魔法であった。

 あの時は無我夢中という域を出ない物ではあったが、今のメルエは本当の意味で世界最高の魔法使いにまで成長している。魔王バラモスでさえも恐れる程の魔法使いなど、同じ魔族であっても多くはないだろう。それ程の存在に不可能など有り得なかった。

 

「う……」

 

「目が覚めたか? 今、お前の家まで戻っている。これからは、この短い海域でも魔物と遭遇する可能性が高い。父親にもこの事を告げてくれ」

 

 もう一度舟に乗り込み、オールをカミュが漕ぐ事で小舟を動かす。再び中間地点辺りまで進んだ頃、ようやく少年は意識を取り戻した。ゆっくりと起き上がる少年の背を支えたカミュは、静かに現状を少年へと伝える。その内容は、少年には余りにも重い内容であろう。しかも、意識を取り戻したばかりとなれば尚更であった。

 周囲を見渡すように首を動かした少年は、ようやく先程遭遇した巨大イカとの戦闘を思い出して顔を青くする。この海域であのような魔物と遭遇した事は今までにはないのだ。それが今後も遭遇する可能性を指摘されたとなれば、それは彼とその父親にとっては死活問題となるだろう。

 

「…………カミュ…………」

 

 青くなる少年に顔を歪めたカミュではあったが、後方に居るメルエの呟きによって瞬時に戦闘状態へと入って行く。鋭く目を細めたメルエがその身に膨大な魔法力を纏っている。それはその視線の先に現れる者が強力な魔物である事を示していた。

 稲妻の剣を抜き放ち、少年を護るように立ったカミュもまた、泡立つ海に視線を向ける。もし、再び先程遭遇した巨大イカのような魔物が現れた場合、サラのような強制的な呪文が行使出来ないカミュとメルエでは力と力のぶつかり合いとなる戦闘を行うしかない。それはこのような小舟で対応出来る物ではない以上、完全に人選ミスのように思われた。

 

「サラ、魔物のようだ」

 

「はい。しかし、あのイカではないようです。ここからでは見えませんが、あの程度の魔物ならば、カミュ様とメルエが苦戦する事もないでしょう」

 

 だが、対岸で見守っている二人の会話を聞く限り、そのような事に気付かない賢者ではないのだろう。陸と陸の間で戦闘を始めた小舟に視線を向けていたリーシャが魔物の到来を口にするが、それを見据えた考えを持っていたサラは動じない。彼女の言葉通り、対岸に居る二人からでは、小舟に襲い掛かる魔物ははっきりとは見えない。だが、見えないという事は、先程遭遇したクラーゴンではないという事になる。

 クラーゴンは人間の何倍も大きな巨体を持つ巨大イカであり、その身体が海から現れれば、対岸からでもはっきりと視認出来るだろう。対象が見えれば、呪文行使が可能となる。特にサラの行使したザキという死の呪文であれば、対象への到達時間なども考慮に入れる必要はないのだ。

 

「キェェェェェ!」

 

 カミュ達の前に現れた魔物は三体。海面に顔を出したその魔物は、器用に尾ひれを動かしながら小舟に照準を合わせている。剣を握った青年は居ても、その後方には幼子が二人居るだけであり、魔物達にとっては格好の獲物なのだろう。

 鋭い三白眼は怪しく光り、顔の端まで裂けた口からは更に鋭い牙を生やしている。顔の上部と側部には魚であった頃の名残のようにヒレが残っており、その体躯は誰もが忌避するような紫色の鱗に覆われていた。

 隙を見てカミュ達を海に引き摺り込もうと考えているのか、注意深く舟の周囲を泳ぎながら機を窺っている。そのまま小舟を転覆させる事が出来ないのは、カミュが発する威圧感によって、小舟に手を掛ける事が出来ないからであろう。

 

<キングマーマン>

上の世界で生息していたマーマン属の頂点に立つ存在。海の魔物の王であるクラーゴンに力では及ばないが、他者を統率して行く能力は巨大イカよりも上である。大魔王ゾーマの居た世界の海では、下位のマーマン達や他の魔物達を統べ、一個小隊を形成する事もあった。他者を食い破る鋭い牙を持ち、振るわれる腕の爪は他者を容易に斬り裂く。太い下半身が生み出す力によって素早く海中を泳ぐ事で他者を翻弄する魔物である。

 

「キエェェェェ」

 

 注意深く剣を構えるカミュによって、隙を見出せないキングマーマンが焦れて来る。彼らにとって人間などは底辺の存在であり、只の食料以外の何物でもないのだろう。そんな食料が自分達に牙を向き、抵抗の意志を見せているのだ。それが、己達の力量を自負し、その力量で同族最高位の地位を築いて来た彼らには許せない。

 しかし、そのような魔物の誇りは、今まで出会った事もない一人の人間に打ち壊される事となる。

 

「ふん!」

 

 奇声を上げて海から飛び出した一匹のキングマーマンが、青年の一振りでこの世との別れを告げる。冷静に振り抜かれた剣は、キングマーマンの肩口に入り、飛び出した勢いに逆らう事無く、その身体を真っ二つに斬り裂いた。

 後方の海へと消えて行く二つに分かれた死骸は、夜の闇によって黒く映る海を緑色の体液で染めて行く。一瞬の出来事に呆然とする二体のキングマーマンであったが、その内の一体は怒りに表情を歪ませ、海水をカミュ目掛けて噴出した後、先程のキングマーマン同様に小舟へと飛び込んで行った。

 しかし、圧倒的強者の前で、その行為は愚行以外の何物でもない。既に鱗の剥げてしまったドラゴンシールドで海水を防いだカミュは、座り込んでいる少年に向かって飛び込んで来たキングマーマンに回し蹴りを繰り出す。目眩ましなど勇者には効果がないのだ。

 回転の威力を上乗せされた回し蹴りは、キングマーマンの腹部に突き刺さり、そのまま海へと身体を差し戻される。激しく打ち付けられた海面に大きな水飛沫が上がり、一体のキングマーマンの身体は海中へと沈んで行った。

 

「キシャァァァァ!」

 

 海中に沈んだキングマーマンは死んではいないだろう。それでも、即座の戦線復帰は難しい。残る一匹となったキングマーマンは海中から半身を出し、その醜悪な口を大きく開いて先程とは異なった奇声を上げた。

 それは、魔物特有の呪文詠唱。一気に下がった周囲の気温は圧倒的な冷気を呼び込み、小舟に霜を落として行く。吹き荒れる冷気は、鱗の剥がれたドラゴンシールドを氷の盾に変えて行き、呆然と戦闘を見ていた少年の吐く息を凍らせ、その身体を凍結させて行った。

 カミュ達にとって、ヒャダルコ程度の冷気であれば、最早死に至る物ではない。だが、一般の人間であり、尚且つ年端も行かぬ少年にとってそれは死に直結する程の脅威であった。

 それに気付いたカミュは、少年を庇うように盾を掲げ、自分の纏っていたマントで少年を包み込む。更に上空に向けてベギラマの詠唱を行い、火炎を生み出す事で冷気からの防御を図った。既に歯が噛み合わない程の寒さを通り越し、瞼を落とそうとしていた少年は、戻って来る体温に活動を再開させ、自分を護る青年の背中を眩しそうに見つめる。

 そんな二人のやり取りを不満そうに頬を膨らませて見ていた少女が一歩前へと進み出る。吹き荒れる冷気など物ともせずに杖を掲げた少女は、海の中で余裕の笑みを浮かべるキングマーマンに向かってそれを振り抜いた。

 

「…………メラゾーマ…………」

 

 杖先のオブジェの瞳が輝き、その嘴の先から巨大な火球が飛び出す。極限まで圧縮された大火球は真っ直ぐキングマーマン目掛けて飛んで行った。カミュ達が生まれ育った世界では、魔王バラモスのみが行使可能な呪文。全てを飲み込み、全てを消滅させる程の熱量は、海中に居る魔物を飲み込んで行く。

 海水が蒸発する音と、大量の水蒸気を上げながら突き進む巨大火球を避ける術はない。キングマーマンが海中に戻ろうと動き始めた頃には、その火球は魔物のすぐ傍まで接近していた。直接触れなくとも、その対象を焼き焦がす火球の熱に焼き溶かされたキングマーマンは、瞬時にその生命を失う。

 海中へと沈んで行く巨大な火球の後には、上半身の全てを消滅させたキングマーマンの尾ひれだけが残り、指令系統を失った下半身は静かに海中深く沈んで行った。

 

「大丈夫か?」

 

「え? あ、うん」

 

「…………むぅ…………」

 

 強力な敵を呪文一つで薙ぎ払ったにも拘わらず、それに対して労いの言葉も掛けてくれない事にむくれるメルエを余所に、カミュは座り込んでいる少年の身体を気遣う。それが余計に少女の神経を逆撫でし、頬を膨らせて彼の目の前に頭を突き出すのであった。

 メルエの嫉妬心に気付いたカミュではあったが、軽くその頭を撫でた後、オールを手にして小舟を動かし始める。この場所を一刻も早く移動し、少年が住む小屋のある場所まで戻らなければ、キングマーマンの体液の香りに誘われた魔物がいつ登場しても可笑しくはないからだ。

 今目の前で繰り広げられて来た戦闘の余韻に呆然とする少年は、未だに大きなマントに包まれている。それがまた幼い少女の心を掻き乱し、鋭い視線を少年へと向けるのだった。

 

「暫くは、一人で海には出るな。父親にもしっかりと伝えてくれ」

 

「わかったよ」

 

 小屋に連結された桟橋に辿り着いたカミュは、即座に舟を繋ぎ、メルエを抱き抱える事で舟から降ろす。同時に降りた少年にしっかりと伝えると、カミュは少年の手に数十ゴールドを手渡した。手間賃と、小舟を少し損傷させた事への賠償金である。少し小首を傾げた少年であったが、その理由を聞くと、素直に礼を述べてポケットへと仕舞い込んだ。

 少年から返却されたマントを身に着けたカミュは、未だに膨れっ面をしながらその裾を握るメルエに苦笑を浮かべ、静かに頭を撫でてやる。

 

「メルエ、詠唱の全てを任せても良いな?」

 

「…………ん…………」

 

 顔を覗き込むように屈み込んだカミュは、リーシャとサラが待っているであろう方角へ視線を移す。その問い掛けに大きく頷きを返したメルエが、目印となる大木を真っ直ぐに見つめ、詠唱の準備に入って行った。

 溢れ出す魔法力は、力の限り放出していた頃のメルエの物とは根本的に異なっている。賢者であるサラにはまだ及ばないまでも、均一に調整された魔法力がカミュとメルエを包み込んで行った。

 基本的なルーラの行使としては異例な方法。だが、これは双方の場所に知っている人間が居るから可能であると言える。メルエの中でサラの魔法力は探知出来ているのだろう。その理由は解らないが、幼い彼女の魔法に関する才能は、カミュやサラの魔法力を探知する事も可能なのだ。

 カミュと逸れ、一人で森を彷徨う事になったあの時も、誰も感じ得なかったカミュの帰還を誰よりも早く感じ、その場所へと駆けている。目印となる目標があり、尚且つ自分の知る魔法力がそこにある事というのが、メルエがルーラの応用を行使出来る最低条件であった。

 

「…………ルーラ…………」

 

 詠唱と共に魔法力に包まれた一筋の光が、再び勇者一行として集う為に飛び上がる。その輝きが向かう場所には、行使者である少女が母のように慕う女性と、姉のように慕う女性が待っているのだ。

 新たな世界に辿り着いた第一歩は、彼等の予想を超える程の力を有した魔物達の洗礼を受ける事となった。それは、彼等の歩む道の先にこれまで以上の困難が待ち受けている事を物語るものでもある。大魔王ゾーマの力によって凶暴化したものなのか、それとも元々強力な力を持つ魔物や魔族なのかは解らないが、彼等の行く道は果てしなく険しい事だけは確かであった。

 

精霊神ルビスが産みし大陸の名はアレフガルド。

 その地を闇で覆い尽くそうとする者の名は大魔王ゾーマ。

 そして、それを阻み、討ち果たそうとする者の名は勇者カミュ。

 

 

 

 




お読み頂き、ありがとうございました。
ようやく新章です。
アレフガルド編、頑張って描いて行きます。

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