新訳 そして伝説へ・・・   作:久慈川 京

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ルビスの塔④

 

 

 カミュの唱えたルーラは、一行を正確にルビスが封じられた塔の入り口へと運んで行った。明確にカミュがルビスの塔を想い描いたかと云われれば、それは否であろう。この暗闇に包まれたアレフガルドでは、如何に装飾が特殊な塔であっても、その塔の細部までを想い描く事など出来はしない。そこに、精霊ルビスの関与があったと云われれば、誰一人として否定する事は出来ない程の奇跡に近かった。

 闇に包まれているとはいえ、上空に雨雲は無く、降り注ぐ雨粒もない。吹き抜ける風は、瘴気を帯びた物ではなく、まるで主であるルビスの解放を確信した精霊や妖精達が通り抜けているように清々しい物であった。

 

「二階層より上は何があるか解らないぞ。気を抜くなよ」

 

「解っているさ。もう遅れを取る事はない」

 

 塔の入り口となる扉に手を掛けたカミュに向かって、後方から声が掛かる。一度その声の主に振り返ったカミュは、表情を引き締めたまま大きく頷きを返した。

 妖精達の囁きのように優しい風が吹く中、一行は次々と塔の内部へと入って行く。最後に入ったリーシャが扉を閉めようと取っ手に手を掛けると、優しかった風が勢い良く塔内部へと入り込んで来た。前を歩くメルエの小さな身体が浮かび上がる程に強力な風は、塔を巡るように上階へと向かって抜けて行き、すぐに闇と静寂が戻る。

 もう一本の『たいまつ』に火を点し、カミュ、リーシャ、サラの三人で持つ事で死角を無くした一行は、そのまま塔の奥へと歩み始めた。

 

「サラ、メルエと共に魔法力は温存してくれ。階層も多いだろうし、何があるか解らない」

 

「はい」

 

 前回の探索時と同じように、入り口から真っ直ぐ伸びた廊下を歩く一行は、廊下に残された燭台に火を点して行く。枯れ草などが残されている燭台のみにしか点火は出来ないが、それでも『たいまつ』だけの明かりよりは周囲の視界は大きく開けて行った。

 供物の祭壇がある部屋へ入る事なく、十字路を左へと進んだ一行は、すぐにもう一度左へと折れる。前回の探索時に歩いた場所である為、あの竜種が居た空間までの道程は迷う事なく進む事が出来た。

 奥に見えて来た上の階層へ続く階段を上り、前回竜の咆哮を聞いた回廊へ差し掛かった頃、一行の歩みが止まる。先頭を歩くカミュが歩みを止め、背中から雷神の剣を抜き放った為であった。それが意味する事を理解出来ない者は誰もいない。全員が自分の武器を手にし、戦闘準備に入る。

 

「また竜種か?」

 

「……咆哮が聞こえない」

 

 小さな声で問いかけるリーシャに対し、カミュは静かに首を横へと振る。竜種が必ずしも咆哮を上げるという訳ではないだろうが、あの他者を威圧し、竦み上がらせる存在感を今は感じない。ドラゴンと呼ばれる上位の竜種との再戦ではない事だけは確かであろう。

 しかし、この塔は、大魔王ゾーマと渡り合う事も出来る精霊神を封じている塔であり、そこを護るように生息する魔物達が脆弱な訳はない。ドラゴンだけではなく、それ以外の魔物も、アレフガルド大陸に生息する魔物の中でも最上位に位置する者達ばかりである事が推測される。どの魔物との戦いであっても油断など微塵も出来ない戦いとなる事は確かであった。

 

「あの魔物達は見た事があるな」

 

「気取られる前に数を減らす」

 

 曲がり角から除き見た光景に若干顔を顰めたカミュの後方から顔を出したリーシャは、そこに陣取る二種類の魔物の姿に見覚えがあった。一つは、メルキド周辺で遭遇した熊の最上位種であるダースリカント。もう一つは、前回の塔探索時に遭遇した獅子の魔物であるラゴンヌである。何故か周囲にチロチロと炎の欠片が揺らぐ中、巨大な骨の傍で身体を休める二種の獣が道を塞いでいた。

 この場所が、前回ドラゴンと遭遇した空間である事を考えると、ダースリカントやラゴンヌの傍にある巨大な骨は、ドラゴラムを唱えたメルエによって葬り去られたドラゴン達の物であろう。氷竜となったメルエが吐き出した凄まじい冷気によって氷像と化したドラゴンは、氷が解けた時には命を落としており、この塔に生息する魔物達の食料となってしまったに違いない。

 あれ程の巨体の肉を食う魔物となれば、それだけの存在であろうし、ドラゴンと思われる骨以外の小さな欠片も転がっている事を考えると、ドラゴンの肉を巡って魔物達の争いもあった事が解る。空間に残る炎の名残が、それが事実である事を物語っていた。

 

「うりゃぁぁ」

 

 カミュの言葉に頷きを返したリーシャは一気に駆け抜け、最も手前で腰を降ろしていたダースリカントの首へ魔神の斧を振るう。ドラゴンの肉を得る為に魔物と戦い、更にはドラゴンの肉を食して身体を休めていたダースリカントはリーシャ達の気配に気付きはしていなかった。

 首筋に入った魔神の斧が、ダースリカントの首と胴を分かつ。跳ね上げられるように空中に飛んだ首から遅れるように、体液が塔の天井に向けて噴き上げた。力を失った巨大な体躯が後ろへと倒れる事を見たラゴンヌは、折っていた前足を伸ばして敵と認識した者へ向かおうとしたところで意識を暗転させる。ラゴンヌの脳天から突き入れられた大剣が、アレフガルドでも上位に入る魔物の命を刈り取った。

 

「メルエ!」

 

「…………ん………ベギラゴン…………」

 

 カミュとリーシャの登場を認識した魔物達が大挙を持って押し寄せる。ドラゴンの肉を目当てに集まって来た魔物が、この空間には溢れんばかりに存在していたのだ。前回の探索から二ヶ月近くの時間が経っている。裏を返せば、氷竜となったメルエが放った冷気によって氷漬けにされたドラゴンの氷が溶けるのに、それだけの時間が掛かったという事であろう。それも、火炎魔法などを行使出来る魔物達がいても尚である。それが、実際にどれだけ恐ろしい力なのかという事を理解している者は少ない。

 ドラゴンの肉を満足行く程に食せなかった魔物達が、新たな肉を求めてカミュ達へ襲い掛かるが、後方から放たれた最大級の灼熱呪文によってその道は遮られる。真っ赤に燃え上がった炎の壁がカミュ達と大量の魔物達を隔てたのだ。

 

「カミュ、来るぞ」

 

 しかし、このアレフガルドでも上位に入る魔物達は、全てを飲み込む程の火炎の中で悶え苦しむ同胞を乗り越えて突き破って来た。体毛が燃え上がりながらも迫って来るラゴンヌやダースリカントの瞳は血走っており、通常の人間であれば、それだけでも恐怖で動けなくなる程の光景であるが、そこに待ち構えているのは、この塔に封じられた精霊神を解き放とうとしている者達である。飛び掛って来るラゴンヌを斬り伏せ、腕を振るうダースリカントを掻い潜って胴を斬り払うカミュとリーシャは、最早人間という域を軽く飛び越えてしまっていた。

 炎の壁から飛び出して来た数体の魔物を葬り去った頃、メルエの放った最上位灼熱呪文の火炎が下火になって行く。炎の海の向こうには夥しい数の魔物の死体があるが、その後方にはまだ数体の魔物達の姿が見えていた。

 

「数が多いな」

 

「竜種の肉というのは、魔物を呼び寄せる力でもあったのか?」

 

 斧を構え直したリーシャは、残った魔物の多さに顔を歪めるが、その横で剣を振ったカミュは、転がる竜種の骨へ視線を移して小さな疑問を口にする。竜種という存在は、魔物や魔族とは一線を画した物であり、その遺骸を目にする事はかなり少ない。スカイドラゴンやスノードラゴンのような龍種は、生息地域の頂点に立つ存在であり、寿命以外でこの世を去る事は少なく、アレフガルドで遭遇したサラマンダーの力もこのアレフガルド大陸の中でも上位に入る物であった。そのような竜種の肉というのは、魔物達の中でもかなり希少な物なのだろう。故に、これだけの魔物が集まって来ているのだと理解出来た。

 突進して来る魔物達の群れの中に踏み込んだカミュとリーシャは縦横無尽にその手にある武器を振るう。流石に無傷とはいかないが、迫る牙を盾で防ぎ、振るわれる爪を躱して、魔物達の命を駆り取って行く姿は、後方から見ているサラとメルエの目にも異常な物であった。

 

「ふぅ……」

 

 自分達に襲い掛かって来る魔物達を斬り伏せ終えたリーシャは、一つ息を吐き出した後、斧の石突で床を打つ。予想以上に大きく響き渡ったその音は、この場所に集まっていた魔物を怯えさせるのに十分な威力を持っていた。

 屍が積み重なったその場所を呆然と見ていた魔物達は、我先にとその空間から逃げ出して行く。残っていた魔物の数は少なく、この後で遭遇しても脅威とは成り得ない程度の物達であった為、一行はその後を追う事は無く、各々の武器を納めた。

 

「カミュ、今の動きは無駄が多かった」

 

「ちっ」

 

 魔物の群れからの脅威が去り、斧に付着した体液を払い飛ばしたリーシャは、傍で回復呪文を自分に唱えているカミュに苦言を呈す。討ち果たした魔物の数はカミュもリーシャも大差はない。それでも、カミュは何度か魔物の爪や牙で細かな傷を受けているのに対し、リーシャは完全に無傷であった。それが、未だにカミュが超える事の出来ない差なのかもしれない。

 確かに技量や力はリーシャに追い付き、追い越す目前となっているカミュではあるが、その完成度は未だに及ばない。それを指摘するリーシャの顔が得意気になっている物ではなく、冷静に分析をした結果の指摘である事が解るだけに、カミュは尚更悔しさを滲ませるのであった。

 今の戦闘で後方支援組であるサラとメルエの出番はほとんどなかった。それだけ前衛の二人の力量が上がっている事の証明である。襲って来たラゴンヌが氷結系の最上位呪文を使用する暇も無く討ち取られた事を考えても、それは明白であった。

 

「あれ、メルエ?」

 

 魔物が逃げ去った空間は、未だにメルエの放ったベギラゴンの炎の余韻によって明るく照らされている。脅威が去った事で、自由に動き回り始めたメルエが、何かを見つけたのか近場の床に屈み込んでいた。

 この空間は、前回のドラゴンとの戦闘での火炎や、ドラゴラムを唱えたメルエの放った冷気などでかなり荒れている。供物として運ばれていた宝箱などは、その戦闘の際に全て燃やし尽くされたように見えていた。

 そんな中でも何かを見つけたメルエの傍に近寄ったサラは、少女が見ている物を見て、一緒に首を傾げてしまう。それは、メルエどころかサラでさえも見た事の無い形状をした物であったのだ。

 

「これは何でしょうかね?」

 

「…………なに…………?」

 

 触れようと手を伸ばすのも躊躇うような奇妙な形をしたそれを見たサラは不思議そうに首を傾げ、そんなサラへ視線を移したメルエも、可愛らしく小首を傾げて問いかける。

 後方支援組二人が屈み込んで首を傾げている事を不思議に思ったカミュ達が覗き込むと、メルエの足元に奇妙な形に曲がった剣のような物が落ちていた。くの字に近い曲がり方をしているそれは、カミュも見た事がなく、期待と共に見上げて来るメルエに答える事が出来ない。それを不満に思ったメルエが頬を膨らませる中、最後に近づいて来たリーシャがそれを懐かしそうに見つめた。

 

「もしかすると、ブーメランか?」

 

「ブーメラン?」

 

「…………ぶー…………?」

 

 メルエの横に屈み込んだリーシャが拾い上げたそれは、くの字に近い形の曲線を描き、絶妙な具合で炎の揺らめきのような装飾が施されている。装飾と同様に炎を模したように赤く染められたそれは、それ自体が炎を放つように熱を持っていた。

 ブーメランという道具を知らないカミュ達三人が一斉に自分へ視線を向けて来る事に苦笑を漏らしたリーシャは、それを右手に持って左手でメルエを立ち上がらせる。不思議そうに見上げるメルエの頭を撫でた彼女は、ブーメランの具合を見るように持ち手の部分から先までに視線を這わせた。

 

「ブーメランは、子供の遊び道具だ。上手く投げれば、回転して自分の許へと戻って来るのだが……私も幼い頃に嗜んだ程度だからな、上手く行くかは解らないが……よっ」

 

「…………あっ…………」

 

 最後の言葉を言い終わるか終わらないかというタイミングで身を屈めたリーシャは、そのまま横投げでブーメランを放り投げる。せっかく見つけた物を投げ捨てたと思ったメルエは、失望の声を上げるが、それはすぐに驚きの声へと変わった行った。

 リーシャが放り投げたブーメランは、回転を繰り返しながら飛んで行き、カーブを描くように軌道を変えて行く。そしてブーメランの軌道が旋回を見せる時になって、投げた本人であるリーシャも驚愕の表情を見せた。

 

「……燃えているのか?」

 

「燃えてますね」

 

 旋回を始めたブーメランは、その装飾の揺らめきのような炎を実際に吹き出し始めたのだ。燃え上がるような炎は回転と共に周囲へ炎を撒き散らし、周囲の空気を一閃すると炎を納めながら旋回を終える。そのまま回転速度を落とす事なくリーシャの許へと戻って来たブーメランは、驚愕の表情を浮かべたままの彼女の手に納まった。

 起った出来事について行けないリーシャは、手許に戻ったブーメランを呆然と眺めるが、そんな間を許してくれない少女が、輝くような瞳で彼女を見上げて来る。せがむように背伸びして手を伸ばすメルエに苦笑を浮かべたリーシャは、自分の手許にあるブーメランの熱を確かめるように触ってから何度か振った。

 

「熱くはないのですか?」

 

「ああ、あの炎は何だったのだろうな?」

 

「…………メルエも…………」

 

 興味深げに見つめるサラの問いかけに、リーシャは一つ頷きを返す。先程、このブーメランから発せられた炎は間違いなく本物であった筈。その証拠に、陽炎のような大気の揺らめきと、それに付随する熱気が離れていたリーシャ達にも感じる事が出来ていた。

 それにも拘らず、手許に戻ったブーメランには、あの激しい炎を放出した熱の余韻がない。それに驚いたリーシャは、問いかけに対して逆に問いかけてしまった。

 だが、そんな二人の疑問などお構い無しに、先程から背伸びして手を伸ばしている少女の機嫌が急降下して行く。一向に構ってくれない事に頬を膨らませ、手の届かない事に苛立ちを露にする少女が、遂に不満を漏らしたのだ。

 

「どんな物かも解らないのだから危険だな。それに、メルエには出来ないかもしれない」

 

「…………むぅ………メルエも…………」

 

 諭すように口を開いたリーシャであったが、この少女がそのような言葉を聞き入れる筈が無い。興味を持ってしまったら最後、それが悪い事でない限りは、叱られるまで行うというのが、この少女の中にある決まりなのかもしれない。頬を膨らまして更に手を伸ばす姿に溜息を吐き出したリーシャは、自分の握っていた部分をメルエの小さな手に握らせた。

 自分の手許にブーメランが来た事で花咲くような笑みを浮かべた少女は、先程リーシャが行ったように、横投げに腕を振るう。力加減が解らないと云う事もあり、少女は腕を思い切り横に薙いだ。

 

「ぷっ」

 

「…………むぅ…………」

 

 そんなメルエの動作が懸命であった事もあり、それに対する結果にサラは噴き出してしまう。当の本人は恨めしそうにサラへ視線を送り、頬を目一杯に膨らませた。

 彼女が投げたブーメランは、回転する事も無く、床にそのまま落ちたのだ。『ぽてっ』という効果音でも聞こえてきそうな程の力ない軌道を描いて床に落ちたブーメランは、当然の如くメルエの手許には戻って来ない。先程メルエが見つけた時と同じ格好で床に転がり、沈黙してしまった。

 しかし、一度や二度の失敗で心を折らないのが、この少女の凄い所である。暫し頬を膨らませていたが、『とてとて』とブーメランの傍に走り寄ると、もう一度それを拾い上げて再度横投げに腕を振るった。

 

「ふふふ」

 

「…………むぅ…………」

 

 しかし結果は変わらない。再びそのまま地面へと落ちたブーメランは、回転して滑る事も無く、そのまま沈黙してしまう。ブーメランを投げるメルエが懸命であればある程、その結果が滑稽に見えて来て、再びサラは笑みを溢してしまった。

 対するメルエは先程以上に恨めしそうにサラを睨み、そのまま地面に落ちたブーメランをも睨みつける。少女の睨みを受けてもブーメランが応える訳は無く、悔しそうに再びそれを取りに行くメルエの姿が、更なる微笑ましさを誘った。

 メルエが数度投げても炎を吹き出す事がなく、危険性がないと思われる事でカミュの興味は完全に失せ、奥に見える通路へと視線を送っている。再度拾い上げたブーメランを横投げに投げたメルエであったが、相も変わらず『ぽてっ』と床へと落ちて行くそれに癇癪を爆発させた。

 床に落ちたブーメランに駆け寄り、沈黙を護るそれを上から何度か叩くように腕を振るう。幼い子供の、思い通りに行かない事への憤りの表現にリーシャとサラは苦笑を浮かべるのであった。

 

「それは、メルエの腰に吊るしておこうな。ブーメランという遊び道具は、練習をしなければ上手くはならないぞ」

 

「ふふふ。頑張って下さいね、メルエ」

 

「…………むぅ………サラ……きらい…………」

 

 メルエの肩に手を置いたリーシャは、床からブーメランを拾い上げて、メルエの腰紐に結びつけるようにして吊るす。それ程大きくはないブーメランであり、重さもない為、それによって少女の戦闘の邪魔になる事はないだろう。ただ、特殊な物である事から、自分の手許に戻って来るように投げるには練習が必要である事を告げるリーシャに、メルエは眉を下げていた。

 微笑みながらサラが応援の言葉を告げると、メルエは『ぷいっ』と顔を背けてしまい、懐かしい言葉を口にする。先日、『ずっと好きだ』と宣言したにも拘らず、それを覆すような発言をした少女にリーシャは微笑み、それを受けたサラは『何故ですか!?』と声を荒げた。

 

「行くぞ」

 

 精霊神ルビスの解放と、ドラゴンという強敵との再戦に緊迫していた空気は、いつの間にか霧散している。だが、それでも、勇者の一声が掛かると、再び三人の表情が厳しさを取り戻した。

 前回の探索時よりも、彼等の心に余裕がある事の表れであろう。気を抜く時は抜き、引き締める場面になれば、全神経を集中させる。先程まで幼さを爆発させていたメルエに至っても、表情を改めて雷の杖を握っている事からも、彼等が目的を忘れていない事を物語っていた。

 歩き始めたカミュを追うように三人が直線になって歩き出す。魔物の死体を踏まぬように避け、竜骨に足を取られないように進む。メルエの放ったベギラゴンの炎の余韻が少なくなって来た事もあり、『たいまつ』の炎のみでの行動となった。

 

 

 

 ドラゴンの棲み処となっていた空間から出た一行は、小さな空間に出る。右手には真っ直ぐ伸びる通路が見え、左手奥には上の階層へ続く階段が見えていた。一瞬、後方にいる女性戦士を窺うように視線を動かしたカミュであったが、何も言わずに階段の方へと向かって歩き出す。いつものように進むべき方向をリーシャへ尋ねると思っていたサラは、不思議そうにカミュの背中を見つめていた。

 階段を上り終えると、再び闇に閉ざされた空間へと出る。前回の探索時には足を踏み入れていない場所であり、壁に掛けられた燭台に残っている枯れ草へと炎を移した。ぼんやりとした明かりが周囲を照らす中、注意深く周囲の気配を探りながらもカミュが一歩ずつ前へと進んで行く。余計な会話も無く、真っ直ぐに伸びた通路を一行は進んで行った。

 

「……また階段ですね」

 

「カミュ、どうする? 右手に伸びる通路もあるようだ?」

 

「……上に行く」

 

 魔物と遭遇する事なく真っ直ぐ伸びた通路を渡り切った一行の前に階段が現れる。しかし、その階段の向こうに右へ向かう通路の入り口が見えており、闇に包まれた塔の探索としては難しい局面に置かれていた。

 いつもならば、問いかけるリーシャに対して、逆に問い返すというスタイルを貫くカミュではあったが、今回は間髪入れずに階段を登るという選択肢を取る。再度訪れた違和感にサラは少し首を傾げるが、カミュを追って階段を登り始めるメルエを追うように歩き出した。

 階段を登ると、前に進む通路と左へ向かう通路の入り口となる空間に出る。『たいまつ』を掲げながら周囲の壁の装飾を見ていたカミュは、そのまま前へ進む通路の入り口へと足を動かした。

 既に四階部分となるこの場所は、通常であれば高位の神官などでも踏み入る事の出来ない場所なのだろう。壁に施された装飾は、この塔を造った技師達の全てが結集されたかのように凝っており、石を削って描かれた精霊達が、今にも飛び出して来そうな程に生き生きとしていた。

 

「カミュ様はどうされたのですか?」

 

 先頭を歩くカミュの様子がいつもと違う事を不安に思ったサラは、最後尾を歩くリーシャに対して問いかけを行う。何かに導かれるように迷い無く歩くカミュの姿は、通常の平原や森などではよく見るが、塔や洞窟といった場所では見た事がなかったのだ。

 『行き止まり探知機』と名高いリーシャの手助けが無ければ、ここまでの旅は歩めておらず、洞窟内などで彷徨い続けていた可能性も高い。それを誰よりも知るのは先頭を歩く青年であり、誰よりもそれを信頼しているのも彼である筈であった。それにも拘わらず、一切迷い無く歩き続けるカミュの姿にサラは恐怖を覚えたのだ。

 

「サラが言ったのだろう? ルビス様がお呼び下さると」

 

「……それは、そうですが」

 

 しかし、そんなサラの恐怖や不安は、見事に一蹴されてしまう。確かに、この塔を目指す為の方法としてカミュの唱えるルーラを提唱したのはサラである。その理由も明確に語り、それに対してリーシャも納得した。だが、それでも塔内部の話となれば別である。塔内部に封印されている精霊神にそこまでの力が残されている可能性は低く、尚且つ強力な魔物達が犇く中、その魔物に惑わされている可能性も否定出来なかった。

 道を迷わすような能力を持つ魔物がいるかどうかは解らないが、このアレフガルドに生息する魔物達の能力が未知数である事もサラの不安を煽る要因である。それでも最後尾を歩いている姉のような女性は、『たいまつ』の炎に照らされた顔に笑みを浮かべ、優しくサラの肩に手を置いた。

 

「心配するな。カミュが迷い無く歩くのはいつもの事だ。もしかすると、カミュを呼ぶ別の物がこの近くにあるのかもしれない」

 

「……『その身は精霊の御許に』ですか?」

 

 笑みと共に視線をカミュの背中へ向けたリーシャが口にした言葉は、サラの脳裏に残されていたある伝承を思い出させる。それは、このアレフガルドへ着たばかりの頃に訪れたラダトーム王城での事。このアレフガルドを治めるラダトーム王家の次期国王から聞かされた、古の勇者が装備していた武器や防具に纏わる伝承の一部であった。

 伝承とは抽象的な文言が使われる。いや、正確に言えば、伝わって行く過程の中で抽象的な物へと変わって行くのだろう。この『その身』という言葉は、他の伝承から考えても身に纏う鎧を差している可能性が高い。そして、それが『精霊の御許に』となれば、このアレフガルドで精霊の神とも崇められている精霊ルビスの許にあると考える事が出来た。

 実際に天上にいると云われる創造神の御許にあるのであれば、二度と地上に姿を現す事はないだろう。だが、精霊ルビスの御許であれば、アレフガルドに下向する際に迎える為として造られた塔内部に納められていたとしても可笑しくは無かった。

 

「サラ、やはり伝承は間違っていないようだ。気を抜くな」

 

「え? あ、はい!」

 

 会話は突然打ち切られる。背中から魔神の斧を取り出して前へ出て行くリーシャの背中越しに、カミュの持つ『たいまつ』の炎に照らし出された異形が見えて来ていた。カミュに促されて後方へ下がって来るメルエが雷の杖を構える。それを見て、サラも完全に戦闘態勢へと入って行った。

 前衛二人が武器を構える先には、異形を持つ五体の魔物。ドムドーラ地方で遭遇した複合種であり、この世の中で人工的に生み出された存在である。青色に輝く鱗を持ち、大きな翼で宙を舞いながらカミュ達を警戒しているキメラが三体おり、その後方に同じような体躯をしながらも、真っ赤に燃え上がるような鱗を持つ物が二体待ち構えていたのだ。

 

「数が多い」

 

「吐き出す炎に注意しろ」

 

 前衛二人は、周囲の燭台に注意深く炎を移しながらもキメラから目を外さずに武器を構える。燭台に点った炎によって、真っ直ぐに伸びた通路が明るく照らし出された。通路を塞ぐように宙を飛ぶ五体のキメラの左手には、左に向かう通路が見えている。奥に続く通路も見える事からこの場所が分かれ道を繋ぐ空間である事が解った。

 前回の戦闘時にキメラの攻撃手段の一つとして吐き出される炎は見ている。それをリーシャに忠告したカミュは、右足で地面を強く蹴り、一気にキメラとの間合いを詰める。嘴を開いたキメラが炎を吐き出すよりも前に振り下ろされた雷神の剣が、キメラの胴体部分を斜めに斬り裂いた。

 吹き出す体液によって奪われた生命力は戻らない。そのまま床へと落ちて行くキメラへ視線を向ける事なく、カミュはもう一体のキメラから吐き出された炎を勇者の盾で防ぎ、横薙ぎに剣を振るう。

 

「カミュ!」

 

 横薙ぎに振るわれた剣によって胴を傷つけられたキメラとは別に、カミュの横合いから襲い掛かって来たもう一体のキメラをリーシャが斧によって斬り飛ばす。吹き飛ばされるように壁に衝突したキメラが床へと落ち、生命の余韻を思わせるような痙攣を繰り返した。

 瞬く間に三体のキメラを打ち倒したカミュ達を見ていたサラとメルエは、戦闘の終了を感じる。残るキメラは二体であり、数で云えばカミュ達と同数。同数が相手であれば、如何に合成獣が相手とはいえどもカミュ達が遅れを取る事はないと彼女達は確信していたのだ。

 そんな経験による信頼は、いつの間にか過信となっていた。彼等は今、一度は全く歯の立たなかった竜種が護る塔に居るのだ。精霊神ルビスという、大魔王ゾーマの唯一の脅威と成り得る力を封じている塔で、その封印を護る為に配置された魔物達と遭遇しているという自覚が薄れていた。

 

「グギャァァァ」

 

 目の前に残る二体のキメラに向かって駆け出そうとした瞬間、カミュ達の後方で大きな緑色の光が輝く。それは神や精霊の祝福と言っても過言ではない神聖さを持ち、カミュやサラ以外の人類が行使出来ない呪文が持つ輝きであった。

 その輝きが収まりを見せる頃、一気にカミュ達の周囲の温度が上がり、真っ赤な炎が彼等の後方から襲い掛かる。振り向いて即座に盾を掲げる二人であったが、敵に背を向けた状態になっている事に変わりはない。未だに消えない炎を防ぐ為に盾を掲げている為に赤い鱗を持つキメラへ向かえない状況の中、二人は焦り出していた。

 

「54‘’#0」

 

 そして、斬り倒した筈の三体のキメラ全てが復活を果たす中、後方から不吉な文言が飛んで来る。それは遥か昔に聞いた事のある物であり、カミュにとってもリーシャにとっても嫌な思い出しか残っていない物であった。

 戦線に復帰したもう一体のキメラが吐き出す炎を盾で受け止めながらも、嫌な予感を感じずにはいられないカミュは、静かに横に立つリーシャへと視線を向ける。そして、その姿を見て目を見開いた。

 力の盾を前面に向けている女性戦士は、右手に持つ魔神の斧を立て、その石突で自らの足の甲を打っていたのだ。何かに耐えるように唇を嚙み、細かく震える肩は何かに抗っているようにも見える。そして、その姿がカミュ達の背にいるキメラのような魔物が唱えた呪文を明らかにしていた。

 

「ぐっ……」

 

「頼む、跳ね返してくれ。今のアンタがその呪文に惑わされれば、全滅する」

 

 炎は絶え間なくカミュ達を襲う。三体のキメラが交互に吐き出す炎を防ぐだけで精一杯であり、現状では彼等の背にいる二体の魔物にさえ対応出来ないのだ。それにも拘らず、ここで人類最強の戦士が混乱に陥れば、カミュの言葉通りの結果になる可能性は高い。

 メダパニという呪文は、魔法力に対する抵抗力がない者にとっては天敵の呪文となる。力量が明らかに上であっても、リーシャのように魔法力に対する才が乏しい人物にとっては、抗う事が難しいのだ。ルカニのような呪文とは異なり、怒りなどで感情が高ぶっている時などは惑わされる事が少ないが、その呪文を意識し過ぎれば危険が高まるのだ。

 今のリーシャの力は人類も枠を大きく超えている。特にカミュから見れば、混乱という状態に入って力の制限を外してしまったリーシャを抑える事など出来る訳がないという認識なのだろう。キメラが吐き出す炎の影響ではなく流れる、彼の頬を伝う汗がそれが事実である事を物語っていた。

 

「メルエ、あの炎がカミュ様達への壁になってくれます。メルエの力を見せてあげましょう」

 

「…………ん………マヒャド…………」

 

 しかし、カミュ達二人を挟み撃ちにした事で驕ったキメラ達は、この一行の誰が欠けてもこの高みまで来る事が出来なかったという事実に気付かない。無視するように後方に置き去りにした二人の女性が、人類最高位に立つ呪文使いである事を知らないのだ。

 故にこそ、呪文を詠唱する余裕と時間を与えてしまう。そこから生み出される冷気が、魔物や魔族でさえも生み出す事の出来ない程の強力な物であるという事実に気付く事も無く、凍結して行く。吹き抜ける冷気は燃え盛る炎を消し飛ばし、それを吐き出していたキメラの内部までをも凍りつかせて行った。

 追い討ちを掛けるように唱えられたサラの氷結系最上位呪文が、その凍結速度を上げ、三体のキメラは瞬時に氷像と化す。元々宙を飛んでいたキメラ達は、そのまま石で出来た床へと落ち、粉々に砕け散った。創造神や精霊の祝福を受けて生を受けた訳ではないキメラ達の身体は、霧散して行くように消え、風と共に流されて行く。

 

「よく耐えた!」

 

「ぐっ……カミュ?」

 

 目の前の炎が消え失せた事によって、カミュはリーシャの頬を平手で張る。乾いた音が塔内部に響き渡り、リーシャの抗うような震えが止まった。ようやく焦点の合った瞳でカミュを見るリーシャの足の甲へベホマを唱えたカミュは、そのまま剣を握って前方の二体のキメラへ備える。二、三度頭を振ったリーシャもまた魔神の斧を構えて怒りの表情を浮かべた。

 自分がどのような状態だったかの認識が無いのだろう。斧の石突で足の甲を打ち、呪文に抗っていたのは、無意識の行動なのだ。彼女なりに、その呪文の危険性と自身の抗魔力の弱さは自覚があったに違いない。故にこそ、仲間達が無事である事に安堵しながらも、その呪文を行使した魔物に並々ならぬ怒りを覚えたのだろう。

 一度斬り倒したキメラが復活したのは、この色の異なる鱗を持つキメラがベホマのような回復呪文を行使した為であり、尚且つリーシャが惑わされそうになっていたメダパニも行使出来るという事になる。それは、かなりの強敵である事を物語っていた。

 

【メイジキメラ】

合成獣であるキメラの上位種。大魔王の魔法力によって生み出されたキメラという合成獣の変異だとも、キメラの合成の際に魔法力を多く注入した為だとも云われる、謎の多い魔物である。

基本的な性能はキメラと変わらないが、その魔法力の多さから行使出来る呪文を複数持つ。行使出来る呪文を特定出来る者はおらず、誰もそれを見た者はいない。

 

「…………マヒャド…………」

 

 カミュ達が左右に分かれ、メイジキメラへの道が開いた事を確認したメルエが、自分の背丈よりも高い杖を振るう。杖の先のオブジェの嘴から凄まじい冷気が吹き荒れた。

 一気に通路を抜け、周囲を凍りつかせながら襲いかかる冷気がメイジキメラに迫るが、一体のメイジキメラがそれを見て嘴を広げる。先程のキメラのように火炎を吐き出すつもりだと考えたサラは、キメラの吐き出す炎程度ではメルエのマヒャドを抑える事が出来ないと感じながらも、追い討ちのマヒャドを唱える準備を始めた。

 しかし、その唱える呪文は、急遽として変更される事となる。

 

「M@H0K@」

 

 メイジキメラが奇声のような文言を発した直後、その周囲に光の壁が展開される。眩く輝く光の壁が、メルエが放った最上位の氷結呪文を弾き返した。

 反射される凄まじい冷気は、前衛に立つカミュ達二人の装備を凍り付かせて行く。氷竜という最上位の竜種の因子を受け継ぐ少女の放った氷結系最上位呪文である故に、その威力は勇者や戦士であっても抗う事が出来なかった。

 全身を刺すような痛みが襲い、盾を持つ指の感覚さえも失われて行く中、二人の後方から新たな援護が届く。状況を見たサラが最上位灼熱呪文を放ち、カミュ達の凍結を防いだのだ。この咄嗟の判断が、一行を救う英断となる。

 跳ね返って来た氷結呪文はその勢いを失っており、サラの放ったベギラゴンでも十分に相殺出来る物となっていた。凍りつきそうになっていたカミュ達の身体を暖め、動きが可能となった瞬間、後方から迫る大きな火炎を避けるように二人は前方へと駆け込んで行く。

 

「おりゃぁぁ!」

 

 カミュに遅れるようにメイジキメラの前に辿り着いたリーシャは、魔神の斧を横薙ぎに振るう。影から現れた斧の速度に付いて行く事の出来なかったメイジキメラは、赤い鱗を突き抜けて入って来る神代の武器によって命を落とした。

 真っ二つに斬り裂かれたメイジキメラは、体液を撒き散らせながら床へと落ち、そのまま砂塵のように風と共に消えて行く。その翼さえも残らずに消えて行く姿は、いつ見ても慣れる物ではないが、残るもう一体に剣を振るうカミュへと視線を向けたリーシャは、この戦闘の終了を悟った。

 

「ふん!」

 

 キメラの上位種であるメイジキメラではあるが、所有する呪文の種類が多いというだけで、それ程の力量の差はない。むしろ、魔法力に特化した分、その耐久力や防御力、そして生命力はキメラよりも下なのかもしれなかった。

 それ故に、メイジキメラの悪足掻きのような行動を勇者の盾で弾いたカミュの一撃は、何の抵抗もなくその鱗を突き破り、翼諸共斬り裂いて行く。体液の染みを残して消えて行くメイジキメラを見下ろしたカミュは、雷神の剣を一振りして体液を飛ばし、そのまま背中へと納めた。

 あれ程の激戦を繰り広げたのにも拘らず、死体一つ、体液一滴残っていない状況は異様である。合成獣として祝福を得て生まれて来た種族ではないとはいえ、何とも言えない寂しさと哀れさを感じて、サラは一度胸の前で手を合わせた。

 

「カミュ、あの光は……」

 

「解らないが、行ってみる価値はあるだろう」

 

 サラとメルエが胸の前で手を合わせている間に、カミュとリーシャは左手に向かう通路へと視線を向ける。その先は大きく開けた空間が広がっており、塔の中央に造られた吹き抜けの部分である事が解った。

 吹き抜けは上の階層と下の階層に繋がるようにぽっかりと空いた空間があり、それにも拘らず、その中央を通る通路が設けられている。そして、その通路の先に、何かで覆い隠したような光が見え、真っ暗な塔の闇の中で眩いばかりの光を放っていた。

 何かによって遮られているような曇った光なのにも拘わらず、その光は眩しい程に瞳の中へと入り込んで来る。耐えられぬ程の眩しさではないが、何処か安心出来るような優しい光。まるで月の輝きのように闇を照らすそれは、主を待つように優しい光を放っていた。

 

「……古の勇者様の鎧でしょうか?」

 

 後方から光を見たサラは、先程まで話に出ていた古の勇者の装備品の一つである可能性を示唆する。それに対して誰も答えは返さなかったが、その胸にある想いは全員が一致していただろう。このルビスの塔にある輝きであれば、それは精霊神ルビスの物か、古の勇者が纏っていた装備品以外は有り得ないのだ。

 一歩進むカミュの横からリーシャが前へと出る。塔の中心に伸びる通路は狭くはないが、危険性は低くない。故にカミュとリーシャで前を歩く事にしたのだ。サラとメルエは、魔物の襲来を警戒しながらも二人の後ろから後を続いた。

 

「うわっ!」

 

 しかし、そんな警戒も全てが無になるような大声が響く。塔の階層に響き渡る程の大声量に驚いたメルエが身体を跳ねさせ、後ろを警戒していたサラが弾かれたように首を前方へと動かした。そこで見た物は、先程までの緊迫感を打ち壊すような程の光景。それにサラ慌てて駆け出し、遅れてメルエも前方へと走り出した。

 サラ達が見た物は、先程まで通路の中央を歩いていた筈のリーシャが通路の端まで移動し、今にも通路から下層へと落ちてしまいそうな状況。それを必死に留めるように手を伸ばしたカミュが、全体重を後ろへ向けて支えていたのだ。

 

「一度こっち側へ戻って来い!」

 

 引き寄せるようにリーシャの身体を釣り上げたカミュは、尻餅を付くように通路に倒れ込む。じっとりとした冷や汗を掻いたリーシャは荒い息を吐き、何度か深呼吸をするように心を落ち着かせていた。

 リーシャが踏み込んだ床は、既に通路の端から裏側に移動している。つまりこの床が動いたのだ。向かって左手へ移動した床は、床に敷かれた石一枚分が左手に移って停止した。それは、僅かな移動でありながらも、予測出来ない動きであり、初見の者にとっては驚愕の出来事である。それに素早く対処したカミュを褒めるべきであり、危うく下層に落ちそうになったリーシャを責めるべき内容ではないのかもしれない。

 

「カミュ、これでは進めない」

 

「ああ」

 

 通路の向こうにある淡い輝きへ辿り着く為には、この床を踏み締めて歩くしか方法はない。龍や鳥のように宙を飛べるのであれば問題はないだろうが、人間であるカミュ達にその方法は取れない以上、この通路を歩む以外にないのだ。

 床が動くという事は、その場所に足を踏み入れただけで意図しない方向へ行ってしまうという事になる。この床の仕組みが理解出来ない事には、この先には進めないという事と同じであった。

 それは実際に体感したリーシャや、それを傍で見ていたカミュには確固たる事実に映る。だが、少し離れた後方から見ていた者からすれば、それ程に大げさな物ではなかったのかもしれない。それを証明するように、少し首を傾げたサラが何かを考えるように床を見ながら呟きを漏らした。

 

「床一枚分が動いたように見えました。必ずしも左方向へ動く物ではないのかもしれません」

 

「なに?」

 

 カミュやリーシャの反応に対して答える事もせずに、サラはそのまま考え込む。しかし、リーシャ達からすれば、彼女のそんな呟きは、更なる絶望へと落とす物であった。左へ勝手に動く床だけでも難解なのにも拘らず、それが四方に向かって不規則に動くのであれば、何があってもこの通路を渡る事は出来ないからだ。

 故に、何やら暗い顔をするリーシャや、厳しい瞳で床を睨むカミュは、このような状況でも自分らしさを失わない人物を失念してしまう。考え込むサラの横を抜け出した小さな影は、そのままカミュの横を抜けて動く床へと足を踏み出した。

 

「メ、メルエ!」

 

 リーシャが驚きの声を上げた事、その瞬間に床ごと身体が動いた事、その全てが『楽しそうである』と感じたこの少女は、その小さな身体で力一杯床を踏み締める。その瞬間、重みを感じた床は、一枚分左へと動く。リーシャとは違い、ほぼ真ん中から踏み込んだメルエは下層に落ちる事なく、床一枚分左へと移動した。

 何かを訴えるように満面の笑みを浮かべてこちらへ視線を送る少女に、カミュとリーシャは揃って大きな溜息を吐き出す。この状況でも我を貫き通す少女に呆れると同時に、危険の高い行動を平然として行う事に対する怒りが徐々に湧きあがって行った。

 

「……注意してこっちへ戻って来い、メルエ」

 

 誰がどう聞いても、戻った瞬間に怒りの鉄拳が振り下ろされる事は理解出来るが、それを回避する術をこの幼い少女は知らない。『びくっ』と身体を跳ねさせた後、機嫌を伺うように上目遣いで母のような女性へと視線を送るが、その先にあった表情を見て全てを諦めた。

 楽しい事を味わった瞬間に訪れた絶望の時間は、可能な限り後の方が良い。それでも戻らない訳には行かない以上、メルエはリーシャ達の待つ元居た場所へと足を踏み出した。

 

「…………!!…………」

 

「なに!?」

 

 しかし、踏み出した少女の短い足は、動かない床を踏む事はなかった。そのまま身体ごと右へ床一枚分スライドしたメルエは、予想もしていない動きに尻餅を突く。床一枚分右に動いた事により、先程メルエが踏み込んだ場所へと戻っていた。

 驚きを隠せないメルエは目を大きく見開き、現状を把握出来ずに呆然としていたが、我に返ったリーシャによって、首根っこを掴まれ、釣り上げられる。猫のように持ち上げられた少女は、目の前に見える母のような女性戦士の表情を見て逃げようともがき始めるが、それが許される程、この世の中は甘くはない。ゆっくりと降ろされた彼女は、逃げる間もなく帽子を取られ、その脳天に鉄拳の制裁を受ける事となった。

 目を覆いたくなるような音が塔内に響き、余りの痛みに少女が屈み込む。脳天を両手で押さえた彼女の瞳には溢れんばかりの涙が溜まり始めていた。

 

「何故、拳骨をもらう事になったかは解るな? その痛みを忘れては駄目だ。もし、あのままメルエが下層に落ちてしまえば、それ以上の痛みを味わい、最悪の場合は死んでいたのだぞ。そうすれば、メルエだけではなく、私達も心に想像を絶する痛みを味わう事になる」

 

「…………ぐずっ…………」

 

 涙が溢れる瞳で見上げて来る少女に向かって、リーシャは厳しい瞳を緩める事もなく言葉を告げる。それは少女の身を心から案じている内容であり、想いでもあった。胸が痛くなる程にそれが伝わったメルエは、大粒の涙を床へと溢しながらもしっかりと頷きを返す。それを見てようやく表情を和らげたリーシャを見たメルエは、その腰にしがみ付くように嗚咽を溢し始めた。

 相手が真剣に怒っていれば、子供は『何故怒られているのか』を考える。その理由が解らない時は恐怖しか感じないが、その理由が納得出来れば怒った相手に畏怖を覚える。何が駄目であったのか、どうして叩かれたのかという理由が解れば、その痛みと共に理性を学び、常識を覚えるのだ。

 メルエという少女は、ロマリア大陸で出会った頃から一段上に成長し、今もう一段上への階段を上がっている最中なのだろう。『楽しい』と感じる事を無闇矢鱈に制される事はないが、全てが許される事ではないという事を理解し始めていた。

 

「……なるほど。この模様はそういう意味なのかもしれませんね」

 

 しかし、そんな母娘のようなやり取りの横で、暫く考え込んでいたサラが急に口を開く。メルエのように屈みこみ、床に向けて『たいまつ』を翳して、そこに記された模様を手でなぞりながら頻りに頷きを繰り返していた。

 『賢者』の顔になったサラが何かを読み解くように床の模様を眺め、一つ一つの床の模様を確認して行く。それは奇妙な光景でありながらも、この一行にとっては恒例となり始めた物でもあった。

 

「何か解ったのか?」

 

「え? あ、はい。おそらくですが、この模様の向きが影響しているのだと思います。先程、メルエが前へ進もうとした際には左へ床が動き、後ろへ戻ろうとすれば右へ動きました。床を踏む者の体重の移動を察知して反応するのかもしれませんし、他の要因があるのかもしれませんが、この模様のある床は全て同じ構造だという事を前提に考えると、右に向かおうとすれば前へ進めると思います」

 

「ん? ん? 何か、複雑過ぎて解らないな……」

 

 考えが纏まったように見えたのか、カミュがサラへと問いかける。それに対してのサラの答えは、傍でメルエを抱きながら聞いていたリーシャには全く理解出来ない物であり、大きく首を傾げた。サラからすれば、メルエという少女の軽率な行動によって答えが導き出された物ではあるが、それを言葉にする事は余り良くない事であるという認識の下で説明をしているのであるが、その為に随分と回りくどい言い方になってしまっている事実は否めない。

 カミュだけが興味深そうに床の模様に視線を向けているが、リーシャには全く理解出来ない。その腰にしがみ付く少女は、まだ先程のお叱りから立ち直る事が出来ずに嗚咽を繰り返しており、全く興味を示していなかった。

 

「つまり、この床を踏み締めた瞬間から、次に足を踏み入れる場所の前後左右がずれてしまうという事か?」

 

「はい、おそらくは。ただ、これと同じ模様がある床に限っての話になりますが」

 

 サラの考えを理解したカミュが立ち上がる。この一行の暗黙のルールとして、考えて答えを見つけるのはサラであっても、それを実行するか否かを決めるのはカミュという青年であるという物がある。故に、極論を言えば、リーシャやメルエが理解していようとしていなかろうと、そこに問題はないのだ。

 通路の真ん中付近にある床にカミュが足を下ろす。その瞬間に左方向に向けて移動した床が止まったのを確認し、カミュは右方向へ向かうように足を上げた。どのような仕組みになっているか解らないが、前へと動き始めた床を確認したカミュは足をその場に下ろす。止まった事を確認したカミュは、もう一度同じような行動を起こし、リーシャ達よりも奥へと向かって行った。

 

「リーシャさん、今のカミュ様と同じようにして進んで下さい。メルエはそのまま抱き上げて一緒に向かった方が良いでしょう」

 

「……良く解らないが、わかった」

 

 未だに理解していないリーシャではあったが、カミュが行った方法で結果が出た以上、それが正しい行動なのだと理解する。彼女自身も自分が理解出来ないだけで、カミュとサラは何らかの確信がある行動なのだという事を解っているのだ。故に、カミュと同じ経路を辿って、一歩先へと歩き出した。

 最後に同じ方法でサラが床三枚分程の距離を進んだ頃、動かない床の上でカミュとリーシャが彼女を待っていた。カミュの一歩先には、先程とは異なった模様が刻まれており、ここまで進んだ方法では進めない事が解る。ただ、その模様は似通った物であり、注意深く見なければ違いに気付かない程度の物であった。

 

「先程とは逆の形になっていますね。普通に考えれば、逆ですから……前へ進もうとすれば右に行き、戻ろうとすれば左に行くのかもしれません」

 

「……ならば、やはり真ん中の床から入ったほうが良いな」

 

 屈み込んで床の模様に『たいまつ』を掲げたサラは、その模様が先程の物と左右対称になっている物である事に気付く。それが向かう方角を示しているのだとすれば、先程とは逆の方向へ床が動くと結論付けたのだ。

 真ん中へ足を下ろしたカミュが踏み込んだ床は、サラの予想通り右へと動き始める。ならば、この次は左へ向けて足を踏み出せば良い。その考え通り前へと動き出した床に乗って、カミュは通路の最奥へと辿り着いた。

 その頃には泣き止んでいたメルエは、リーシャを伺いを立てるように見つめ、頷くのを確認すると嬉しそうに床へと足を踏み入れる。動く床に笑みを溢し、カミュが行ったようにそっと足を踏み出す。その足が床に着くか着かないかの時点で再び動き出した床に乗って、カミュの待っている場所に辿り着いたメルエは、名残惜しそうに床を見つめていた。

 

「……これは」

 

「す、すごい」

 

 最後のサラが到着した事で、吹き抜け部分に真っ直ぐ伸びた通路の果てを見上げた一行は、この塔を根底から支える大黒柱に驚愕する。おそらく一階部分から伸びたその柱は、四人の身長を合わせたよりも長い円周を持った物であった。

 そして、その柱の中央に縛り付けられるように固定された物が、四人の瞳を奪って離さない。先程まで淡く放たれていた輝きは、自分の居場所を訴えるように激しい光を放っていた。

 青く輝く金属は、カミュの左腕に嵌められた勇者の盾と同じ物であると推測出来る。青い輝きはまるで大空を思わせる程に澄んでおり、神々しいまでの光を放っていた。

 

「……古の勇者の鎧か?」

 

「まるで、全ての光が集まって出来ているようです」

 

 輝きは暗い塔の階層全てを照らすように明るいながらも、目を開けられないような眩しさはない。この闇に包まれた大地に残る全ての光が集約して造り上げられた鎧は、身体部分だけではなく、兜も一体となった物であった。

 希望という光を一身に受けた者だけがその身に纏う事を許され、明日という輝きを与える事の出来る存在のみを見出す鎧。それは正に『光の鎧』という名に相応しい神々しさを持っていた。

 息をする事も忘れる程に呆然と鎧を見上げていたリーシャやサラとは異なり、何かに導かれるようにそれへと手を伸ばしたカミュは、柱に埋め込まれているように固定されていた鎧を何の抵抗もなく手に納める。

 まるでその時を待っていたかのように全てを覆い尽くす程の輝きを放った光の鎧は、放った輝きを全て取り込むように落ち着きを見せた。青く煌びやかな輝きは鎧の中に全て納まり、内から滲み出るような光が塔内を照らす。

 

「…………ラーミア…………」

 

「ん? 本当だな……その盾と同じ装飾が施されているな。古の勇者は、ラーミアと何らかの関係があるのか?」

 

「わかりません。ですが、この鎧が神代から続く鎧だとすれば、ラーミア様と繋がりがあっても不思議ではありませんね」

 

 鎧を手にしたカミュの横から覗き込んだメルエは、その鎧の胸の部分と兜の前方に大きく描かれた装飾を見て頬を緩める。それは、勇者の洞窟で入手した盾にも描かれていた物と酷似しており、まるで鳥が羽ばたくような姿に見える抽象的な模様であった。

 メルエという少女が最も好意を持つ鳥となれば、上の世界で出会った神鳥である。不死鳥とも、霊鳥とも云われる巨鳥。精霊ルビスの従者として伝えられながらも、竜の女王や精霊神ルビスと同格を思わせる程の威厳と品格を備えた鳥であった。

 アレフガルドという大陸に伝わる古の勇者が装備していた物全てに、上の世界に伝わる神鳥の姿が描かれている。それは、上の世界とアレフガルドの繋がりを示すと同時に、古の勇者と不死鳥ラーミアとの繋がりをも示唆していた。

 

「……言葉が出ないな」

 

 カミュが身に纏っていた刃の鎧を脱ぎ、光の鎧を身に着ける。オルテガの兜を置き、光の鎧と共にあった兜を被った時、その姿を見ていたリーシャは言葉を失っていた。その横で見ているサラは呆けたようにカミュを見つめ、盾、鎧、兜に描かれたラーミアの姿に頬を緩めていたメルエは嬉しそうにカミュを見上げている。三者三様の想いを受けたカミュは、何事もなかったように刃の鎧を柱の傍へと置いた。

 精霊神ルビスの解放という目的がある以上、不要になった鎧を持って行動する事は出来ない。ならば、一般の人間であれば訪れる事のないこの場所に安置した方が良いのだろう。自ら攻撃するという特殊な能力を持ったこの鎧であれば、魔族などに利用される事もなく、この神聖な塔を護り続けてくれる筈であった。

 そんなカミュの姿を感慨深げに、そして何処か寂しそうに見つめていたリーシャは、その後に起こした彼の行動に即座に動き出す。瞬時にカミュの隣へと動いた彼女は、彼の腕を握り、行動を制した。

 

「カミュ、悪いがそれをこの場に置いて行く事は許可出来ない。お前が持っているのが嫌ならば、私が持とう」

 

「ちっ」

 

 カミュの腕を掴んだリーシャは、彼の手に残っていた物を静かに受け取る。この世に一つしかなく、鋼鉄などとは異なる特殊な金属で出来ているそれは、三年以上も前からカミュが装備し続けて来た兜であった。

 彼の父が被り続け、自分の命を救ってくれた謝礼としてある村で暮らす少年へと譲り渡した兜。名称などない、彼だけの為にある兜。故にその名は『オルテガの兜』。

 そう名付けられた兜は、その元の主の願いを引き継いだかのように、その血を受け継いだ息子を護り続けて来た。古の勇者が装備していた神代の兜にその役目を譲ったとはいえ、この兜がカミュにとって父の形見である事に変わりはない。例え彼がその事を認めず、それを必要としなくとも、リーシャは親の形見という物の存在の大きさを誰よりも知っていたのだ。

 大きな舌打ちをしたカミュではあったが、『自分が持つ』という彼女の提案を拒絶する事は出来ない。渋々ながらもマントを靡かせて元来た道を戻ろうと歩き始めた。

 

「あっ、メルエ、今度は逆ですよ!」

 

「メルエ!」

 

 カミュが纏う鎧を嬉しそうに見上げていたメルエは、必然的に歩き出すカミュの前から見ている形となる。そして、当然、彼よりも先に動く床へと足を踏み入れてしまった。

 こちらに来る際は、前へ進もうと思えば右に向かって動く床であった場所は、帰る時には前へ進もうとすれば左へ向かう事になる。それを失念していたメルエは、通路の左側にある床から踏み入れてしまったのだ。

 当然動き出した床の向こうは下層へ続く吹き抜けとなる。ぽっかりと空いた闇の底へと踏み出してしまったメルエの身体が宙に浮き、それに気付いたリーシャが真っ先に手を伸ばすが、その勢いを殺す事は出来ずに共に闇へと落ち始めた。

 

「くそっ! 落ちた方が早い。アストロンを唱える!」

 

「はい!」

 

 必死にリーシャの腕を掴んだカミュではあったが、強い勢いを止める為に掴む物がない。前のめりになると同時に、彼は素早く決断を下した。

 このままメルエとリーシャを引き上げるよりも、下へ落ちた方が危険は少ないと判断したのだ。目的の一つである鎧は入手している。これ以上、この場所にいる理由もなく、律儀に動く床を渡る必要もない。アストロンという絶対的な防御呪文を有する彼ならではの判断であろう。

 カミュの意図を読み取ったサラはカミュの腕を掴み、それを確認した彼が詠唱を終えると同時に、鉄の塊となった彼等四人の身体は、速度を上げて下層へと落下して行った。

 

 古の勇者がその身に纏い、その身を護ると同時に癒すと謳われた鎧は、当代の勇者の手に渡った。幾千もの敵と戦いながらも傷一つ付かず、傷を負った勇者の身体を癒して行く能力さえも有した神代の鎧。その青白く、神々しい輝きを放つ鎧は、己の主の心に宿る輝きをも強くして行く。

 優しく照らし、その輝きを受けた者達の心さえも癒すと謳われた鎧の名は、『光の鎧』。見る者を魅了する程の美しい輝きを放ち、それを纏う者を更なる高みへと飛翔させる。その胸に描かれた神鳥は、古の勇者と共にある霊鳥としても語り継がれていた。

 

 

 




読んで頂き、ありがとうございました。
今回は少し長くなってしまいました。
読み辛くなってしまっていたとしたら、申し訳ありません。
何処かで区切る事も検討した方が良いのかもしれません。

ご意見、ご感想を心からお待ちしております。

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