新訳 そして伝説へ・・・   作:久慈川 京

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アッサラームの町③

 

 

 

 メルエが自分の記憶の中に良い物が何一つない町の門の前に辿り着いたのは、陽が傾き始め、その町の本領を発揮する事の出来る時刻が近づき出した頃だった。

 

「カミュ様、もし、それ程お時間がかからないお話であれば、私はメルエと門の外で待っていますが……」

 

「いや、今晩一晩はここで宿を取る。メルエ」

 

 メルエを気遣うサラの言葉に視線を向けたカミュは、少し表情を曇らせたが、マントを広げてメルエを呼び込む。若干怯えを見せるメルエは、眉を下げた表情のまま、カミュのマントの中に滑り込んで行った。

 メルエは、カミュのマントの中に隠れ、宿屋へと向かって歩き出す。

 町は人で溢れ始め、いたる所に派手な明かりが灯り始めた。

 これから、この町は一日で一番の活気に満ちて行く。

 宿屋に着く頃には、太陽も西に沈み始め、活気を見せ始める町の人々を紅く照らし出していた。

 太陽が完全に沈み、この町を人工的な光が覆い始める時刻まで、もうあと僅かである。

 

「カミュ、私はここでメルエと共に待とう」

 

 宿屋のカウンターで、部屋を取り終わったカミュにリーシャが声をかける。それは、サラも予想出来たものだった。

 この町に入ってから、メルエは全く口を開かない。それどころか、カミュのマントの中に隠れ、顔を出しもしない。それが何を意味するのかは、リーシャにもサラにも解っていた事だ。

 だからこそ、その後で口を開いたカミュの言動に驚いた。

 

「いや、荷物を置いた後は、全員で町に出る」

 

「な、何故だ!」

 

「そ、そうです。カミュ様もメルエの気持ちを理解しているのではないのですか!?」

 

 カミュの言葉は、今、カミュのマントの中で震えるメルエをも町に連れ出すという物だった。

 その言葉に、反射的にリーシャはカミュへと詰め寄り、サラもまた疑問の声を上げた。

 

「……メルエを護る為だ……」

 

「な、なにっ!? お前は、私の護衛では不安だとでも言うのか!?」

 

 驚く二人に振り向いたカミュは、言葉少なに答えを返す。しかし、その答えはリーシャには心外なものだった。

 メルエを護るために連れて行くという事は、メルエを護るリーシャを信頼していないという事になる。それがリーシャには許せなかった。

 リーシャは、剣の腕はこのパーティーの中でも一番であると自負している。その自分の護衛が信頼出来ないという事は、自分自身の存在価値をも否定されたと感じたのだ。

 

「……アンタの腕を疑っている訳ではない。アンタは気付いていないのだろうな……」

 

「何をだ!?」

 

 溜息を吐き、リーシャに向かって話し出すカミュの言葉に、リーシャは気勢を削がれ、首を傾げた。それはサラも同様で、カミュの話す意図が掴めない。

 

「……アンタと<イシス>で情報収集をしていた時に、立ち寄った闘技場での事を覚えているか?」

 

「ん?……どういう事だ?」

 

「???」

 

 カミュが繋げた言葉に、サラとメルエが仲良く首を傾げる。イシスの町を歩いていない彼女達は、カミュの言っている事が理解出来る訳もないが、共に歩いた筈のリーシャまでもが理解していない事に、カミュは眉を顰めた。

 疑問を返しておきながら、カミュの表情の変化に気が付いたリーシャは、自分が発した言葉がカミュの表情を生んでいる事に気が付き、言葉を詰まらせる。

 

「……アンタには諦めざるを得ないな……」

 

「くっ……もう良いだろう! さっさと内容を話せ!」

 

 明らかに呆れた表情に変わったカミュを見て、リーシャは我慢する事を止めた。

 そんなやり取りの内に一行はカミュの部屋の前まで到着していたが、鍵を解除し、ドアの中に入るカミュの後ろから、他の三人がぞろぞろと入って行く。

 カミュは、そんな一行に一瞬怪訝な表情を浮かべるが、何も言わずに部屋の中に荷物を下ろした。

 

「……あの闘技場で、兵士を見た筈だ……」

 

「ん?……ああ! あの兵士の事か?」

 

 カミュの部屋に入ったと同時に、マントの中からベッドへとメルエが移動する。ベッドの上に靴を脱いで乗り、寝転がってしまったメルエを見ても、カミュは何も言わない。どちらかと言えば、優しげな表情を浮かべていた。

 

「……あれをイシスの兵士だと思うのか?」

 

「なに!?」

 

 怪訝な表情を浮かべるリーシャ。

 サラは、まだ二人の会話について行く事が出来ない。

 

「イシスは、基本的に女性国家だ。まぁ、末端の兵士が男である可能性もあるが、あの闘技場にいた物は、その服装や立ち振る舞いから見ても、まず間違いなくイシス兵士ではないだろう」

 

「どういう事ですか?」

 

 カミュの話に、ようやくサラが口を開いた。

 イシスという国家に、イシス兵士以外の兵が入っている訳はない。

 もしそれが事実であれば、国家の問題となって来る筈だ。

 

「俺も、初めは闘技場に出る魔物対策の為に配備された兵士だと思った。アンタ達は気付いていないかもしれないが、あの兵士は、外へ出てからも俺達の後ろを歩いていた」

 

「なに!?」

 

 カミュが言うこと。

 それはつまり、自分達一行が尾行されていたという事である。

 しかも、兵士の姿をした者達に。

 ならば何故?

 

「ピラミッドに入る時にはいなかった。だが、町へ戻り、翌日登城するまでの道程ではやはり付いて来ていた」

 

「何故だ?……そいつは何者だ?」

 

 カミュの言葉に疑問を投げかけるリーシャの声は慎重なものだった。

 サラは言葉を発せずとも、視線だけはしっかりとカミュへと向けている。この場で、カミュの話に関心を示していないのはメルエだけである。

 彼女は気持ち良さそうにベッドに横たわり、目を瞑っていた。

 

「これは俺の想像にしか過ぎないが、ロマリアの兵ではないかと思う」

 

「ロマリア!?」」

 

 カミュの話す内容は、リーシャとサラの考えの斜め上を行っていた。

 何故、その国名が出て来るのかが理解できない。

 その国との関わりは、すでに終わっている筈だ。

 

「……忘れたのか? 俺達はロマリアにとっての汚点を見て来ている」

 

「なに?」

 

「あっ!?」

 

 溜息と共に吐き出されたカミュの言葉に、リーシャは答えへの道が全く見えていないが、サラは異なっていた。カミュが導き出す答えへの道を歩き始めたのだ。

 元々、鈍い部類に入る人間ではあるが、その頭の回転能力は、群を抜いている。何れは、この女性こそが、このパーティーを牽引する存在になるかもしれない程なのだ。

 

「サ、サラは解ったのか!?」

 

「えっ、は、はい。何となくですけれども……」

 

 サラの声に振り返ったリーシャは、驚愕の表情を浮かべる。カミュと共に歩いていたリーシャが全く糸口すら掴めていないのに、宿屋で待っていた筈のサラが理解するという事にリーシャは愕然としたのだ。

 そして、いつの間にか寝転んでいたメルエが起き上がり、ポシェットを探っているのを横目で確認し、顔を上げたメルエを厳しい目で睨みつけた。

 

「ど、どういうことなんだ? 説明してくれ」

 

「あっ、は、はい。これは、カミュ様と同じように想像の域を出ませんが……」

 

「それでも良い」

 

 リーシャはカミュの話を聞くよりも、サラの方へ説明を求めた。

 回りくどいカミュの話を嫌ったのか。それとも、小馬鹿にしたように話すカミュの話を聞いている事が出来なかったのかは解らない。ただ、説明を求められたサラは、一つ断りを入れると、ゆっくりと話し出した。

 

「カミュ様の言うとおり、ロマリアで私達は、ロマリア王国の恥部を見て来ました。カンダタ一味によって王家の冠が盗まれるというもの。カザーブの村の惨状。エルフとの争いを恐れ、ノアニールを見殺しにしている国家の状況などです」

 

「……そうだな……」

 

 サラが話し始めた内容に、リーシャは静かに頷いた。

 確かに、今、サラが語った物は、広大な大地を領地としている国家にとって『汚点』や『恥部』と言っても過言ではない物である。

 

「しかも、王家の冠に関しても、そしてノアニールの村に関しても、解決したのはカミュ様です」

 

「そうだな……それがどう繋がるんだ?」

 

 ここまでサラが話しても、納得しない。サラが話す内容は理解出来るが、それが先程カミュの話したようなものに結びつかないのだ。

 ただし、それはリーシャの頭の中だけの話ではあるが。そして、そんなリーシャの問いかけに、横で黙っていたカミュは盛大な溜息を吐いた。

 

「くっ! 解らない物は、解らないんだ!」

 

「……本当に『かしこさの種』でも食べたらどうだ?」

 

 カミュに鋭い視線を向け、叫ぶリーシャに、カミュは一つの提案を出す。

 そのカミュの言葉に、再びメルエが起き上がった。

 そんなメルエに厳しい視線を向けたリーシャは、サラに続きを促した。

 

「あっ、は、はい。国家の汚点とも言える問題を解決したのは、例え『勇者様』といえども、他国のアリアハンが送り出した者であるカミュ様です。それは、ロマリア王国の威信に関わる問題になります」

 

「何故だ?」

 

「……本当に……アンタは……」

 

 続くサラの話。

 それでも理解出来ないリーシャに、呆れた視線を向けるカミュ。

 そして、そんなカミュに怒りの瞳を向けるリーシャ。

 アッサラームにある宿屋の一室は、異様な空気が満ちていた。

 

「国家で解決出来なかった問題を、『勇者』とされている人間とはいえども、他国の年若い人間が、たった四人で解決したのです。『ロマリアは何をやっていたんだ?』と周辺の国家に見下されても可笑しくないという事です」

 

「……なるほど……だが、それと、先程の兵士と何が関係するんだ?」

 

 ここまでの話は理解した。それを口に出したリーシャに、少しほっとした表情をしたサラではあったが、その後に続いたリーシャの疑問に驚きの表情を浮かべる。

 

「えっ?……あ……えっ!?」

 

「~~~~!! なんだ!? サラまで私を馬鹿にするのか!?」

 

 驚きと共に、声を上げてしまったサラの表情を見て、リーシャの顔に怒りが浮かぶ。まさか、サラにまでそんな態度をされるとは思っていなかったのであろう。

 そんな二人を見て、カミュは呆れの中にも、少し優しさを混ぜた表情をしていた。

 正直言えば、カミュはリーシャの物分かりの悪さに辟易していた。しかし、それ以上に感心もしていたのだ。

 通常、『戦士』などの職業であれば、その旅の目的さえ知っていれば、後は道中で武器を振るうだけしか能のない人間が多い中、この女性戦士はその姿勢が全く違う。

 『自分が理解したい』という想いがないとは言わない。ただ、それ以上にリーシャの真剣な様子の中には、他者を思いやる部分が見え隠れしている。

 『自分が何も解らない』という状況では、いざという時に行動に迷いが出る。そうなれば、自分以外の人間を護る事に支障をきたすと言いたいのだろう。

 それはカミュの憶測の話である。実際は違うのかもしれない。だが、カミュはリーシャの怒りに燃えた瞳を眺めながら、自分の考えに確信を持っていた。

 

「……つまりだ。もし、アリアハンにとって、アンタ達宮廷騎士が何度も解決に向かい行動しても解決しなかった問題が、『ぽっ』と出て来た他国の旅人によって解決されたとすれば、何を恐れる?」

 

「……それは……」

 

 サラを問い詰めるリーシャに、苦笑を浮かべたような表情で溜息を吐き、リーシャが理解しやすいように、彼女の仕える祖国であるアリアハンを例え話に出し、カミュは話し始める。

 

「……その旅人が、アリアハンの恥部を……!!!!」

 

「……ようやく理解出来たようだな?……ロマリア王国は、俺達がイシスにて、その国情を吹聴しないように監視していたのだろう。それは、俺達の事を全世界に報告した事からも解る筈だ」

 

 カミュの問いに答えようとしたリーシャが、自分が導き出した答えを最後まで口にする前にカミュやサラの話す答えへの道に辿り着いた。

 驚愕の表情を浮かべるリーシャに、一つ溜息を吐いたカミュは、そのまま現状において推測できるものを話し続ける。

 

「俺達の行動は、常にロマリアの監視下にあったという事だ。全世界に通告したのも、先手を打って、俺達の口を封じる目的もあるだろう」

 

「……それでか……だ、だが、こう言っては何だが、私はロマリアの兵士の一人や二人に遅れを取るつもりはないぞ!」

 

 ようやくカミュが、何故メルエを宿屋に置いて行かないという選択に至ったのかが理解出来たリーシャであるが、リーシャとて、ここまで数多くの魔物と対峙して来ただけに、一般兵士相手でカミュに心配される事が心外なのには変わりない。

 

「……アンタの力量を疑っている訳ではない。ロマリア兵も強硬に出て来る事はないだろう。ただ……」

 

「??」

 

 リーシャが追求する言葉に、カミュは呆れたように呟くが、最後は言葉を発せずに黙ってしまう。その様子に首を傾げるサラ。サラは、てっきり、リーシャが考えているように、兵士が押し込んで来た時の心配をカミュがしているのだと思ったのだ。

 しかし、謎解きや国家の思惑を考える事は不得意としているが、『人』の心の機微には驚く程に鋭い一人の女性は違った。

 

「……そうか……解った。ならば共に行こう。メルエ、カミュのマントの中でも、私の傍でも良いから、絶対に私達から離れるな」

 

「…………ん…………」

 

 カミュの尻すぼみな言葉に、何かを悟ったリーシャ。リーシャは、先程とは違うとても優しげな表情を浮かべ、ベッドに座るメルエに向かって注意を促す。その言葉を聞いたメルエは、眉を下げたままではあるが、しっかりと頷いた。

 

「??」

 

 理解出来ないのは、今度はサラの役目となった。不思議そうにリーシャとカミュを見て首を傾げるが、メルエが頷いたのを見ると、『自分に出来る範囲でメルエを護ろう』と心に誓う。

 

 リーシャが悟ったもの。

 それは、カミュの心配が向かっている先だ。

 リーシャが考えるには、それはメルエ。

 カミュが言うように、リーシャの腕を疑っている訳ではない。

 ただ、それでもメルエが心配なのだ。

 もしかすると、あの義母が訪ねてくるかもしれない。

 それこそ、リーシャが少し席を外した隙に、メルエが攫われるかもしれない。

 メルエの魔法という強みを差し引いても心配なのだ。

 それこそ、父や兄が抱く感情の様に。

 それが、リーシャには何故か嬉しく感じた。

 

「ほら、メルエ、行くぞ。カミュ、町へ出るのは、食事が終ってからで良いのか?」

 

「……ああ……余り遅くならない程度であれば、それで良い」

 

 ベッドから降り、リーシャの手を握ったメルエに笑顔を浮かべ、そのままの表情でカミュへと問いかけるリーシャを見て、カミュは視線を逸らしながら答えた。

 『わかった』と返した後に、リーシャはサラを伴ってカミュの部屋を出て行く。一人残されたカミュは、深い溜息を一度吐き、ベッドに腰かけた。

 

 

 

 食事を取り終え、一行は宿屋を出た。

 数多くの人々の往来と、それに伴う喧騒が混じるアッサラームの町。それは通常の人間であれば、何かしら心躍る部分があるものだろう。だが、一向にそのような浮ついた物はなかった。

 神妙な表情で歩き出すカミュ。

 そして、そのマントの中に身を隠すメルエ。

 その後ろを歩くサラ。

 そして最後尾を、周囲を警戒しながらリーシャが歩いた。

 

「カミュ、どこへ行くんだ?」

 

「……アンタ方が湯浴みをしている間に、宿屋の親父に聞いたが、イシスから来た人間が町の北の外れに居を構えているらしい」

 

「もしかして、以前に訪れた、あのぼったくりのお店の近くですか?」

 

 後方からかかるリーシャの言葉に、振り返りもせずにカミュは答えた。

 カミュの答えを聞き、自分が把握している町の状況を頭に浮かべたサラは、以前リーシャの<鋼鉄の剣>を売却した武器屋を思い出す。予想を口にするサラに、一つ頷いたカミュは町の北外れにある武器屋の方角へと歩を進めた。

 行き交う人々を描き分けて進む中、マントの中で前を見る事もせずについて来るメルエを気遣い、ゆっくりと歩を進めながら歩くカミュを見て、リーシャやサラもメルエを気遣い歩調を緩めて行く。

 

「……ここですか?」

 

 サラが見上げた場所は、すでに店仕舞いを終え、看板を下げ終えている武器屋の隣。二階建てになっている建物だった。

 その辺りには、もはや人影も疎らで、街の喧騒もどこか遠く聞こえる。

 

「カミュ、この扉には鍵がかかっているぞ?」

 

 その場所は、表札も何もない建物であり、本当に人が住んでいるのかも分からないような場所。そして、一階のフロアの横に、リーシャが言うように一つの扉がある。それにはしっかりと鍵がかけられており、まるで、侵入者を拒むかのように立ち塞がっていた。

 

「……カギを使うしかないな……」

 

「えっ!?……そ、それは……」

 

 その扉についた金具で何度かドアをノックするが、何の反応も示さない為、溜息と共にカミュは持っていた袋から<盗賊のカギ>を取り出した。

 それを見ていたサラが、抵抗感を示す。

 世界を救う旅を続ける『勇者』ともあろう人物が、盗賊のような真似をする事に抵抗を感じたのだ。それは、リーシャも同様のようで、少し顔をしかめている。

 

「……これでは無理か……」

 

 そんな二人を余所に、カギを鍵穴に差し込んだカミュではあったが、その鍵が一向に回らない。カギが合わない事を確認したカミュは、数日前に手に入れたばかりのカギを代わりに取り出した。

 

「……」

 

 もはや、リーシャとサラも何も言わない。

 『明日の朝に出直せばいいのでは?』という疑問が浮かんだ事は確かではあるが、実質そこまで時間がある訳でもない。そして、以前、隣にある武器屋を訪ねた際にも、サラの記憶の中では、この扉はしっかりと閉まっていた。

 故に、明朝に足を運べば、鍵が空いているという確証はない。中にいる人間が起床していて、開けてくれる可能性はあるのだが。

 

 乾いた音を立て、カミュの持つ<魔法のカギ>が鍵穴で回転する。

 解錠を終えた扉を押し開き、カミュは中へと足を踏み入れて行った。

 中は、火は灯されているが、その数は少なく、薄暗い明りを灯している。奥に見える階段に近づき、上の状況を確認したカミュは、一度振り返った後、その階段を上り始めた。

 気は進まないが、リーシャとサラもその後に続く以外にない為、恐る恐る階段を上り始める。建物内に入った事から、メルエもカミュのマントの中から顔を出し、リーシャの下へと移動していた。

 

「……」

 

 階段を上った先に見える光景は、一行が考えていた物と様相が異なるものだった。

 月夜が差し込むテラス。

 そして、その横に扉がある部屋。

 それは、宿屋の部屋の様に鍵の掛るドアで塞がれていた。

 集合住宅のような建物にも拘わらず、ある部屋は一つ。

 何とも変わった建物である。

 

 テラスに差し込む月明かりがとても幻想的に映る中、その灯りに照らし出されたテラスに咲く花を見つめるメルエの肩にそっと手を置くリーシャ。

 そんな二人を横目にカミュは戸口に掛る金具を叩いた。

 暫しの時間が流れた後、ゆっくりと扉が開き、中年の男が一人顔を出す。それがカミュの言っていたイシスに仕えている者の兄なのだろうか。

 

「ん?……なんじゃ、お主たちは? 外のドアにはカギをかけていた筈じゃが」

 

 出て来た中年の男は、不思議そうにカミュ達を見渡した後、少し怪訝な表情に変わった。 鍵をかけた筈のドアからの侵入者を快く迎えるはず等ない。そんな男の問いかけに、リーシャとサラは苦い顔を浮かべた。

 

「……いえ……申し訳ありません。下の扉には鍵がかかっていませんでしたので……」

 

「なに?……そうか。かけたと思っておったが、失念しておったか……」

 

 即座に返されたカミュの嘘。

 その明らかな嘘に、自分の過失である事を納得してしまう男。

 リーシャとサラは、驚愕の表情に変わった。

 特にサラ等は、世界を救う『勇者』という者に、ある意味『幻想』に近い物を持っている。それが、アリアハンを出た時に出会った青年がカミュであった事もあり、微妙な変化を生んではいるが、サラの中の根本は未だ大きく変わってはいない。

 『勇者たる者が、平気で嘘を吐く』

 その事がサラにはどうしても許容出来なかった。

 

「それで、こんな夜更けに何用じゃ?」

 

「……はい。私達は先日まで、イシスに滞在しておりました。その際に貴殿の弟君にお会いし、貴殿が世界を回る為に旅に出た旨をお聞きしました」

 

 納得はしたが、夜更けに訪れる旅人への警戒感を緩めない中年の男は、自分の問いかけに答えるカミュの言葉に、遂に警戒感を解いて行った。

 

「そうか……イシスに。あ奴は元気にしておったか?」

 

「はい。貴殿の身を案じていらっしゃいましたが」

 

「……あ奴には心配ばかりかけてしまうの……」

 

 カミュの言葉に何かを懐かしむように遠い目をした男が、気付いたように、カミュ一行を部屋の中に通す。サラはどこか罪悪感にも似た感情を持ちながら中に入った。

 

「お主達は、旅をしておるのか?」

 

「……はい……」

 

 ここは、カミュと男の交渉の場。そこに口を挟む人間はいなかった。

 リーシャですらも、もはや交渉の場に口を挟もうとはしない。耳はカミュ達の会話に向いてはいるが、視線は部屋の中を興味深げにきょろきょろと見ているメルエに向けられていた。

 

「そうか……私も、いつか東へ行ってみたいと思っておった」

 

「……東へ?……海に出るのではなく?」

 

 男が呟いた言葉に、カミュが疑問を呈す。カミュが考えていた方角とは違ったのだ。

 男が言う事には、このアッサラームの東へと向かうという意味がある。アッサラームの東側にそびえる険しい山脈を越えて行くということ。

 それは、不可能に近い。

 

「ふむ。船を使って海に出るのも良いが、東の国には面白い物が多いと聞く。半ば伝説に近い<ダーマの神殿>等がその一つじゃな」

 

「……<ダーマの神殿>?」

 

 男の言葉に反応したのはサラ。サラはその名に聞き覚えがあった。

 僧侶を目指す人間にとっての『聖地』。

 そこでは、その人間が持つ生まれながらの性質さえも変えてしまう程の能力を持つ神官がいると云われている。

 

「うむ。しかし、東の国に行くには、ホビットだけが知っているという抜け道を通るしか手段がない」

 

「……ホビット……」

 

<ホビット>

以前カミュ達が出会った<エルフ>族に属する種族。その姿は『人』よりも小さいが、その俊敏さや器用さは『人』を遥かに凌ぐ者。普段は、平和と食事を何よりも愛する大人しい種族であるが、いざとなれば、驚くべく芯の強さを見せる。

 

「この町より、少し北に向かった山肌にホビットが作った洞穴があるのだが、そこに住んでいる『ノルド』というホビットは、とぼけているのか、抜け道を教えてはくれぬのだ」

 

「……他に東へと向かう方法はないのですか……?」

 

 ホビットという種族を見たことのないサラは、若干の恐怖を感じるが、男の話しぶりでは凶暴な生き物ではないようだ。

 メルエは、その初めて聞く名前に興味を持ったのか、リーシャの手を握り、何かを聞きたそうな表情を浮かべるが、そんなメルエの視線に応える事の出来ないリーシャは、視線を逸らした。

 

「ない。ここより東に向かう為には、その抜け道を通るか、それこそお主の言うように、船でも調達せねば向かう事は出来ないだろう。やはり、『ノルド』が友と呼ぶポルトガ国王にお話し申し上げるしか方法はないかもしれんな」

 

「……ポルトガ国王……」

 

 ここに来て再び登場した国名。

 それは、船旅をする為に寄る事が必須と言われた国。

 カミュやサラの頭の中で何かが繋がり始めた。

 

「お主達に東に向かう気持ちがあるのなら、一度ポルトガには足を踏み入れるべきじゃろう」

 

 これ以上は、この男性から聞くべき内容はないだろう。

 そう感じたカミュは、男に向かって軽く頭を下げた。

 

「……はい……貴重なお話をありがとうございました」

 

「うむ。旅の目的は何なのかは知らぬが、魔物が日に日に増えている。気を付けて旅を続けられよ」

 

 礼を告げるカミュに、人の良い笑顔を向けた男に、一行は一度深く頭を下げ、部屋を後にした。リーシャの手を取っていたメルエも、移動と同時にカミュのマントの中へと入って行く。

 外に出ると、月が少し雲に隠れたのか、テラスを照らす光が薄くなっている。本当に淡い光だけが差し込むテラスは、暗い闇が広がり、先程まで幻想的に映し出されていた花々までもが、どこか萎れてしまったように禍々しく映っていた。

 

「…………なにか…………いる…………」

 

 そんなテラスを一瞥し、階段を降りようと動き出すカミュのマントの中から顔を出したメルエが何かを呟いた。

 その言葉に勢いよく振り返るリーシャとサラ。しかし、そこには闇が広がっているだけだった。

 

「いないではないか」

 

「…………いる…………」

 

 メルエに向かって否定を口にするリーシャに、メルエは頬を膨らませて反論した。

 メルエがここまで強情になるという事は、間違いなくこのテラスにカミュ達以外の何者かがいるという事。それは、カミュだけではなく、リーシャもサラも理解した。

 

「……テラスへ出てみる……」

 

「えっ!?……で、でも……」

 

 腰にしがみ付くメルエを少し剥がし、テラスへと足を向けるカミュに、サラは抗議を向ける。

 サラはかなり恐怖していた。

 サラが恐怖するという物は、ただ一つしかあり得ない。

 暗闇が支配する夜に出現するものであり、カザーブの村にて、サラが見た怪奇。

 

「ふふふ。サラ、怖いのか? 手を繋いでやろうか?」

 

「なっ!? こ、怖くなどありません!」

 

 そんなサラの様子にからかいを向けるリーシャ。

 ここ最近、サラをからかう事が少なかったリーシャは、ここぞとばかりにサラに言葉を向け、挙句の果てには子供扱いをして手を伸ばす。

 そんなリーシャの姿に憤慨したサラは、顔を背け、ずんずんと歩き出した。そして、カミュの前に出て、先頭を歩き出す。

 その様子に、若干呆れ顔をしたカミュと不思議そうに見るメルエ。そして、笑いを堪えながら笑顔を作るリーシャ。

 なんとも、闇の中に似つかわしくない雰囲気が流れる。

 しかし、それは唐突に終焉を迎えた。

 

「なっ!?」

 

「カミュ! あ、あれは……」

 

 先頭を歩いていたサラが絶句する声が響く。その後ろを歩いていたリーシャが、サラが驚いた原因を視界に入れ、驚きと共にカミュへと振り返ったのだ。

 

「……どう見ても……魔物だな……」

 

 カミュが答えた通り、テラスの縁付近に、ちょこちょこと動き回る一つの影が見える。しかも、その影のシルエットは、決して『人』の物ではない。

 背丈こそ小さいが、頭の先から伸びる角。そして、手元には、巨大なフォークのような形状の矛。

 月明かりが少ないとはいえ、その姿は『魔物』である事に間違いはないだろう。

 しかし、何故、町の中に魔物が入り込んでいるのか。

 町には、基本的に国からの守備兵が備えられており、どこの国にも属さない自治都市であるアッサラームにも自警団が備わっている。このような魔物が町に入れば、かなり大きな騒ぎになるのは確実な筈なのだ。

 それが、誰も気がつかない状況で魔物が侵入している。

 町や城の安全対策を根底から揺るがすものであった。

 

「カミュ、どうする?」

 

「……放っておいても良いが……そういう訳にはいかないだろう……」

 

 リーシャの問いに、カミュの視線はある人物へと移った。

 そこにいるのは、人を導き、悪を駆逐する事を生業としている者。

 今のその瞳は、目の前をちょこちょこと動き回る魔物を見据えている。

 

「当たり前です。『人』の営みの地である町までもが魔物に侵されるなど、私は許しません」

 

 瞳は魔物に向けたまま、サラの口調は真剣なものに変わっていた。

 その言葉に、視線を戻したカミュの瞳を見て、リーシャは薄く笑う。

 『皆、変わり始めている』と。

 以前のカミュであれば、この場を何の躊躇いもなく去っただろう。サラの意見を聞く事などあり得なかった。

 以前のサラであれば、カミュの言葉に憤りを感じていただろう。魔物を発見し、『放っておいても良い』等、『勇者』が発する言葉ではない。

 しかし、サラはその言葉を容認して尚、自分の意見を発したのだ。

 

「ふふふっ。メルエ、魔法の準備はいいか? このテラスは広いがあまり無茶な魔法は使うなよ」

 

「…………ん…………」

 

 笑みを浮かべ、足元にいるメルエに注意を促すと、杖を構えたメルエが表情を引き締めて頷いた。

 準備は出来た。後は、魔物と対峙するだけである。

 

「にゃ~ん」

 

「??」

 

 その時、近づくカミュ達の存在にようやく気が付いたその魔物が奇妙な鳴き声を発し、カミュ達はその突然の奇行に揃って首を傾げる。

 意味が解らない。

 何故、猫の姿など何処にも見受けられない魔物が、猫の鳴き声を上げるのか。

 そんな一行の姿を見て、小さな魔物も首を傾げる。

 何とも緊張感に欠ける空気。

 

「ギッ!? クソッ……バケソコネタカ……」

 

「!!」

 

 そんな空気を破ったのは、魔物の方だった。

 そして、カミュ達一行全員が、息をのむ程に驚く。

 魔物が『人』の言葉を使ったのだ。それも、何の違和感も覚えさせない程に完璧に。それは、知能が高い証拠。

 魔物の姿は人型である。それも、メルエと同じ頃の子供の様な姿。それが、人語を理解し、使いこなす程の知能を持つ事に驚いた。

 

<ベビーサタン>

その名の通り、子供の様な容姿を持つ魔族。その内に秘めた能力は未知数で。数多くの魔法を所持していると言われている。ただ、容姿同様に、中身も幼いのか、それら全てを使いこなしている姿を見た者はいない。手に持つ武器は、子供が使うフォークをそのまま巨大にしたような矛であり、その先端は鋭く研がれ、人間の肉を容易く貫く。

 

「マァ……ドチラデモオナジダ」

 

 そんな言葉を発し、構えを取った<ベビーサタン>に、一行が我に返った。虚をつかれた形となり、突き出すフォーク型に光る<ベビーサタン>の矛を、カミュは咄嗟に<うろこの盾>で受け止める。金属が壁に当たる様な鈍い音を立てて弾かれ、防いだカミュも数歩後ろへと後ずさった。

 見た目はメルエと同じぐらいの子供の姿ではあるが、魔族の名に恥じぬ力。

 カミュが後ろへ下がったのを見て、リーシャは気を引き締め直し、両手で<鉄の斧>を握って魔物に向かって行った。

 しかし、リーシャの一閃は、小さな<ベビーサタン>の頭の上を通過する。リーシャの動きを見て、咄嗟に屈み込んだのだ。

 

「メルエ!」

 

「…………ん…………ヒャド…………」

 

 態勢を整えながら、後方で杖を構えるメルエへとリーシャは指示を出す。

 リーシャの言葉に一つ頷いたメルエは、<魔道師の杖>を魔物へ向け、詠唱を行った。

 メルエの杖の先から迸る冷気。

 それは、真っ直ぐ<ベビーサタン>へと向かって行った。

 

「ギッ!」

 

 だが、その冷気は魔物の身体に届く事はなかった。冷気に向かって、その左手に持った矛を振り抜いたのだ。

 振り抜かれたフォーク型の矛が生み出した風圧により、<ヒャド>の冷気が霧散される。それでも消しきれない冷気が矛の先を凍らせるが、それも僅かな部分。

 並みの魔法使いではないメルエの<ヒャド>だからこその威力ではあるが、それでもメルエの魔法が完全に防がれたのだ。

 

「……バ……!!!」

 

 そして、そんなメルエの横から、今度は、サラが呪文の詠唱に入るが、詠唱途中で<ベビーサタン>の動きを見て絶句した。

 それは、サラが見た事のない詠唱の形。何の魔法なのか、どれ程の威力があるものなのかも分からない。

 ただ、軽視してはいけないという事だけは理解できた。

 

「み、みなさん! 身構え……」

 

「イオナズン!!!!」

 

 サラの皆への警告は、<ベビーサタン>の詠唱に掻き消された。

 その詠唱は、間違いなく人語。

 人語での詠唱の為、『イオナズン』という魔法の名前だけがしっかりとサラの頭の中に残った。

 

「??」

 

 どれ程の魔法なのかが分からない一行は、掻き消されたサラの声を耳にし、それぞれ身構えたが、いくら待っても<ベビーサタン>が振り下ろしたフォーク型の矛の先から、魔法が発動する事はなかった。

 メルエ等は、明らかに敵の前ですべきではない筈の、小首を傾げるという行動を取る。幼い彼女から見れば、以前の自分の様に、自らの魔力を矛に流し込む行為が出来ないのだと映ったのかもしれない。

 

「ギッ!!」

 

「あっ! ま、待て!!」

 

 そんな一行の隙をつき、<ベビーサタン>は、テラスから外へと飛び出して行った。

 真っ先に我に返ったリーシャが、飛び出した<ベビーサタン>の後を追うが、もはや飛び降りた後であり、横薙ぎに振った<鉄の斧>は再び空を斬った。

 

「カ、カミュ様、町には大勢の人達が!」

 

「……追うぞ……」

 

 魔物が逃げ出した事に呆然としていたサラだが、魔物の逃亡というものが齎す最悪の結果に思考が辿り着くと、勢いよく振り返り、カミュへ行動を促した。

 カミュとて、一つの町が自分達の取り逃がした魔物によって『阿鼻叫喚』の地獄絵図になる事を望んでいる訳ではない。故に、踵を返し、部屋を横切った先にある階段に向かって駆け出した。

 その後ろをリーシャとサラが続く。

 

 そして、メルエだけが取り残された。

 

 

 

 表に出ると既にそこは『地獄絵図』と化していた。

 広間に出た先の中央には<ベビーサタン>。

 そして、その左手に持つフォーク型の矛の先は天ではなく地に向かっている。

 そして、倒れ伏す男。

 男の背中には、深々とフォーク型の矛が突き刺さり、その命の源である血液が湧き水のように地面へと流れ出ている。

 その光景を、円を囲むように眺める人々。

 その野次馬達の表情には、驚愕と恐怖、そして絶望に彩られていた。

 カミュ達が中央へと足を踏み入れた時、止まっていた時が再び動き出した。

 

「きゃああああああああああ!!!」

 

「ま、まものだぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 一人の女性が上げた悲鳴を皮切りに、次々と逃げ出す町人達。

 前にいる人間を押し退け、倒れ伏した者を踏みつけ、我先にと逃げ惑う人々。

 それは、『人』としてではなく、『生物』として当然な本能。

 しかし、その姿がサラにはとても醜く見えていた。

 子供を抱えて逃げる母親を押し倒し、その上を走る男。

 自分より前を走る人間の髪を掴み、引き倒してでも前に出ようとする者。

 その光景は、もはや知性や理性を持った『人』ではなく、本能に突き動かされている『獣』と同じ。

 <ベビーサタン>から目を離す事なく構えを取るカミュやリーシャとは違い、サラはそんな『人』であった者達を眺めていた。

 

 

 

 メルエはその小さな足を全力で回転させ、階段を下りて行った。

 『置いて行かれる』

 その恐怖がメルエを突き動かしていた。

 前を行くサラの姿が、メルエが階段を下りきる前に見えなくなった。

 メルエの目に涙が浮かぶ。

 

 メルエが外に出た時、そこは人で充ち溢れていた。

 昔見た町でもここまで人々が一点に集中していた事は一度もない。

 

「…………カミュ…………リーシャ…………」

 

 自分に向かって押し寄せて来る人の群衆。メルエは必死に前に進もうと足を動かすが、自分の倍近くの身長がある大人達が半狂乱になって押し寄せて来る中を掻き分けて前に進む事は、メルエには不可能だった。

 狂ったように腕を振るう男の肘を頭に受けてよろけ、押しのけて前に出て来る女に弾き飛ばされ、最後に、身体が曲がった所に足を受けて倒れた。

 倒れたメルエを蹴り飛ばすように迫って来る足に、メルエは、自分の腕で頭を庇い、蹲る事しか出来なかった。

 いつも自分を何からも護ってくれる三人は近くにいない。

 メルエの胸を襲う孤独と哀しみ。

 溢れ出て来る涙を抑える事は出来ず、地面には次々と雫が零れ落ちる。

 背中を襲う衝撃、足を襲う痛み。

 その全てが、メルエの恐怖を増長させた。

 

「…………サラ…………」

 

 『メルエを護る』と宣言してくれた、優しく慈愛に満ちた笑顔を浮かべた僧侶の顔が浮かぶ。いつも自分を包み込んでくれる女戦士。そして、自分が最も安全な場所と思っている、周囲から『勇者』と呼ばれる青年。

 彼等三人にとって、メルエとの時間は短い期間なのかもしれない。

 だが、この幼い少女にとって、それが全てだった。

 自分が生まれて初めて感じた、『生』という時間。

 それを与えてくれたのは、彼等三人。

 

「…………うぅぅ…………」

 

 哀しみに涙を流すメルエの背中に再度衝撃が襲う。

 それでも、メルエは、ゆっくりと立ち上がった。

 自分が大好きな、自分の居場所に帰る為に。

 

 転がった杖を拾い上げ、背中や肩に衝撃を受けてよろけながらも、前を向こうと必死に立ち上がるその間も自分の顔や頭に痛みが走っていた。

 そして、痛みを堪えながら、立ち上がったメルエの視界が開けた。周囲の人間達が逃げ終わったのだ。

 メルエの前に見えるのは、アッサラームの中央広場。

 そして、突如現れた魔物…………

 

「メルエ!!」

 

 普段叫び声など上げない無口な青年の声が広場に響く。メルエと魔物の距離は、メルエが頼りにする三人と魔物の距離より明らかに近い。自分の状況に気が付いて、メルエが杖を構えるのは遅すぎた。

 <ベビーサタン>が逃げるために一点突破を目論んだ場所はメルエ。フォーク型の矛を構え、<ベビーサタン>が突進して来る。

 

 その時、一つの影が動いた。

  

 

 

 カミュは後悔した。

 これ程に自分の行動を後悔し、自分を許せないと感じたのは、何時以来であろう。

 

 『メルエがいない』

 

 それに気が付いたのは、魔物を追い詰めるために、<ベビーサタン>を囲んだ時であった。

 いつもなら、戦闘の時は同道する僧侶の後ろで杖を構えているメルエの姿が見えない。その僧侶は、カミュやリーシャと同じように<鉄の槍>を構え、魔物を見据えている。

 『メルエが心配』という理由で、自分は、宿屋に残る筈だったメルエを強引に連れ出したのだ。

 それなのに、今初めて、メルエの存在がない事に気が付いた。それにカミュは愕然とする。

 

「メルエは!?」

 

 隣の女戦士に問いかけると、その女戦士の表情も急変する。自分もこの戦士も、そしてあの僧侶も、魔物に気を取られ過ぎた。

 『自分らしくない』

 カミュは、そう唇を噛んだ。

 普段なら、町の人間が魔物に襲われようが、特段気にする事等ない。例え、アッサラームの人間が何人魔物に殺されようと、自分には関係がない。

 そう考えていた。

 だが、イシスで女王に言われたように、自分の中で何かが変わり始めている。それにカミュは気が付いていた。

 そして、それに戸惑い、必死に否定しようとしていたのだ。

 

「カミュ!」

 

 自分の思考に陥っていたカミュを呼び戻したのは、顔面蒼白になっている女戦士だった。

 顔を上げたカミュは、彼女の視線の先を見た時、表情を失くした。そこにいたのは、埃と泥にまみれた服を払う事もせず、顔や腕に痣を作った少女が佇んでいたのだ。

 それこそ、カミュの後悔の原因となっている少女。カミュが生まれて初めて護りたいと考えた他人。

 

「メルエ!!」

 

 カミュ達が囲んでいた<ベビーサタン>メルエに向かって矛を向ける。距離を考えれば、どうあっても間に合わない。この旅で、カミュがそう思った事は何度かあるが、それはカミュが間に合わないという状況だった。

 しかし、今は、メルエを護るべき人間三人全てが、間に合わない。以前にサラを救った事のある『勇者』特有の魔法も間に合わない。

 <アストロン>と呼ばれる呪文を詠唱する時間もなく、その魔法の存在を思い出せる程の余裕も今のカミュには残っていなかったのだ。

 

 その時、カミュの視界の片隅に、一つの影が横切った。

 野次馬のように集まっていた人間は、全て広場から散って行った筈だ。

 残されたのは、カミュ一行と魔物。

 そして、最初に殺された男だけの筈だった。

 

「ゴフッ!」

 

 カミュがその影を視界に入れると同時に、肉に鋭い刃先が突き刺さる音と、配管が詰まったような音が広場に響く。

 目を瞑ってしまっていたサラが、再び目を開けた時に目にした光景。

 それは、一人の女性がメルエにしがみつくように抱きつき、その背中に深々と矛が突き刺さっているもの。そして、その女性をカミュの様な冷たい視線で見下ろしているメルエの姿だった。

 

 

 

「……ごほっ……ふふっ……今更さね……」

 

 メルエの目の前で、大量の汗を掻きながら微笑む妙齢の女性。

 それは、かつてメルエと共に暮らし、そしてメルエを奴隷として売り飛ばした女性。

 魔物が襲って来る瞬間、杖を振る時間もなく迫り来る矛を見ていたメルエに、突如衝撃が走った。

 抱きつかれるような人間の温かみと、アルコールの臭い。

 それは、以前のメルエが毎日傍で感じていたものだった。

 

「……ゴボッ……」

 

 突き刺さっていた矛が抜かれた為であろう。

 苦痛に満ちた表情を浮かべ、僅かに血を吐いた。

 

「ギッ!」

 

 抜いた矛を再び向けた<ベビーサタン>は、背筋どころか、全身が凍りつく程の圧力を後方から感じた。

 この小さな魔物の周りに存在していたどの魔族よりも鋭く強い力。それは、このアッサラームにいる筈のない程の魔物をも怯えさせる。

 

「……誰に矛を向けている……」

 

 静かな、とても静かな声が響く。それは、何の感情も見いだせない程の冷たい声。

 <ベビーサタン>は恐怖と共に振り向こうと身体を捩るが、ついにその声の主の姿を見る事は叶わなかった。

 

 

 

 <ベビーサタン>の首が地面へと落ちる。

 しかし、それはこの場では些細な事だった。

 

「……メルエ……マントを汚し……ちまった……ね……」

 

「…………」

 

 自分が吐いた血が掛かり、マントについた血痕を震える指で拭おうとするアンジェをメルエは無言で見下ろしていた。それはとても冷たく、そして何の感情も見い出せない表情で。

 そのメルエの瞳にリーシャは恐怖した。

 以前、この町でカミュが話していた事。

 『親を他人として見る』という事が、メルエを見て真実だと知ったのだ。

 

 サラは、葛藤していた。

 この町で許せないと思い、例え魔物に襲われても救う気なども起きないと考えていた女性が起こした行為に。

 自分が何かに偏った視点で見ていたのではないかと。

 

「……ふふっ……そうさね……あたしは……ゴホッ……そんな…目で見られる……ことを……」

 

「…………」

 

 カミュ達三人は、遠巻きで見ている事しか出来ない。

 この女性の傷は、どう見ても致命傷。

 例え、カミュを瀕死の状態から救い出したサラの<ベホイミ>でも、回復させる事は出来ない。もっと高位の回復呪文であれば、救う事が出来たのかもしれないが、サラにはその呪文を唱えるだけの力量はなかった。

 それでも、自分のやるべき事をと考え、サラは女性に近づき、<ベホイミ>の詠唱を繰り返し行うが、傷は塞がらない。

 消えかけた命の灯が再び燃え上がる事はなかった。

 

「……メルエ……あたしが……あ…たしが……言える事……ではないけれど……しあ……わせ…に……幸せ……に…おなり……」

 

「…………」

 

 アンジェの絞り出すような最後の言葉も、メルエには届いているのかどうか解らない。ただ冷たく、ただ空虚な瞳を、メルエはアンジェに向けていた。

 

「……これ…を……」

 

 最後の力を振り絞って、アンジェは自分の髪に刺さっていた髪飾りをメルエの髪に差した。

 それは、若かりし日のアンジェが、憧れていた先輩踊り子から譲り受けた髪飾り。

 最後まで幸せを運んで来なかったと思い込んでいた髪飾りであったが、アンジェは常に身に着けていた。

 そして、アンジェの前にカミュ達が現れた時、アンジェは知ったのだ。

 確かにこの髪飾りは、自分に幸せを運んで来てくれていたのだと。

 ただ、自分がその幸せを手放し、放棄したという事を。

 

「……メルエ……」

 

 最後に、本当に愛おしそうにメルエの名を呼び、その茶色の髪を撫で、笑顔を向けたアンジェの瞳が閉じられた。

 ズルズルと崩れるようにメルエの身体から離れて行くアンジェの姿を、何の感情も見出せないメルエが見下ろす。

 

「……」

 

 最後の最後で、母としての行動を起こした女性を、サラは責める事が出来なかった。

 いつの間にか、サラの頬には大粒の水滴が流れ落ちている。それは、<ベホイミ>をかけている最中だったか、それともメルエとアンジェの会話の間だったか、もうそれも解らない。

 そして、その涙の理由もサラには解らなかった。

 

「…………」

 

 そんなサラの涙を余所に、自分の身体から離れたアンジェを見下ろしていたメルエが、おもむろに自分の髪に手をやり、髪飾りを取り外した。

 そして、そのままその手を高々と掲げる。

 

「メルエ!!」

 

 しかし、その行為は、メルエが姉のように慕う女性に止められた。

 『ビクッ』と震えるようにメルエの身体が固まる。

 

「それを投げ捨てる事は、私が許さんぞ!」

 

「…………うぅぅ…………」

 

 メルエに向けられるリーシャの厳しい視線。

 その瞳を見上げ、悔しそうに唸るメルエ。

 しかし、メルエは、再びその手を動かした。

 

「メルエ! それを投げ捨てたら、その時点で私とメルエの旅も終わりだ!」

 

「!!!…………うぅぅ………ぐずっ…………」

 

 投げ捨てようと振り上げた腕は真上で止まり、だらりと下げられた。

 リーシャの言葉は、メルエにとっては最後通告。

 これ以上ない程にメルエを絶望の淵へと落とす言葉だった。

 

「メルエ……気持ちはわかります……でも、それはここに仕舞っておきましょう?」

 

 手と共に頭まで下げてしまったメルエの視界にサラの顔が入って来る。

 息を引き取ったアンジェの遺体を横たわらせ、手を胸の前で合わせた後、リーシャの叫びに委縮してしまったメルエの肩を抱き、話し始めたのだ。

 サラは、メルエの握りしめた手を開き、その中にあるアンジェの髪飾りを取り出した後、メルエが肩から下げるポシェットを指差し、優しく微笑んだ。

 そのサラの笑みを受けても、メルエの首は縦に振られる事はない。

 

「……メルエ……」

 

 思い詰めたように俯くメルエにサラはもはやかける言葉はなかった。

 『気持ちは解る』とは言ったが、真にメルエの気持ちがサラに解る訳はない。

 幼い頃、魔物によって親を失った孤児とはいえ、それまで受けて来た両親の『愛』は今でもサラの心の支えとなっている。物心ついた頃から『愛』を知らないメルエの気持ちを理解する事は出来ないのだ。

 

「……何にしても、メルエとの約束を破った俺達に何も言う資格などない」

 

「…………カミュ…………」

 

 押し黙るメルエに、どうしたら良いのか解らなくなったサラの後ろから、サラとは違う歪んだ『愛』を受けて育った青年が歩み寄った。

 その声の主を見上げるように、ようやく上げられたメルエの瞳には涙が滲んでいる。

 

「……メルエ……すまなかった……」

 

「……カミュ……」

 

「……カミュ様……」

 

 メルエの前に屈みこんだカミュは、一度メルエと視線を合わせた後、深々と頭を下げた。その突然の行為に、リーシャもサラも言葉を失う。

 何故カミュが頭を下げるのか。

 それが二人には思いつかない。

 しかし、頭を下げられた幼い少女は、カミュが頭を下げる理由が分かったのか、大粒の涙を流し始めた。

 

「…………こわ………かった…………」

 

「……本当に、すまなかった……」

 

 一言。

 本当にたった一言呟いたメルエは、カミュの胸へと飛び込んで行く。もう一度謝罪するカミュの言葉は、メルエの大きな鳴き声に掻き消された。

 カミュの胸で泣くメルエの姿を見て、ようやくリーシャとサラの胸にも答えが浮かぶ。

 

 『怖かった』

 

 メルエのその言葉が何を意味するのかを。魔物の存在に気を取られ、メルエの身を案じる事を疎かにしていた。

 全員が飛び出すスピードにメルエが付いて来る事が出来ない事は、<ピラミッド>からの脱出の際に解っていた事だ。

 一人取り残されるメルエの胸には、どれ程の『哀しみ』と『恐怖』が襲いかかって来た事だろう。幼い頃の『恐怖の対象』であった女性と相対する時に、メルエの心を何が支配したのだろう。

 あのメルエの無表情は、決して『他人』を見る物ではなかったのだ。

 『恐怖』

 ただ、それだけがメルエの身体を固めていたのかもしれない。

 

「……メルエ……すまなかった……」

 

「……メルエ……ごめんなさい……」

 

 未だにカミュの胸で鳴き声を洩らすメルエに、近寄ったリーシャが頭を下げる。同時に、サラもまた深々と頭を下げた。『メルエを護る』と本人の前で誓ったのだ。

 それも、イシスからこのアッサラームに来る事を怯える今日の朝に。

 それを破ってしまった。

 

 メルエは無事である。

 だが、それは今まで旅を共にして来た三人が護ったのではない。

 メルエが怖れたアンジェという義母がその命を賭して護ったのである。

 メルエのすすり泣く声が、人々が消えうせた広間に静かに響き続けた。

 

 

 

 

 雲一つない青空、太陽がようやく大地を照らし始めた。

 昨日の騒動の跡は、もはや町のどこにも見られない。

 この町の良い所でもあり、冷たいと感じる部分。自分に被害さえなければ、昨日起きた事象に気を取られている暇など、この町の住民にはないのだ。

 今日もまた朝の清掃が始まり、陽が落ちれば、再び自分の夢を掴む為の道が人工的な灯りによって照らされる。

 

 そんな自分の夢に貪欲な人々が眠りに付く早朝。

 一人の少女が、一つの墓標の前に立っていた。

 

 その瞳は、昨晩この墓の下に眠る女性に対して見せた冷たいものではなく、何かを思いつめたような、そんな哀しい瞳の色を彩っていた。

 この幼い少女が、何を思い、何を見ているのは、本人にしか解らない。

 

「…………」

 

 メルエは、暫くその墓標を眺めた後、無言で墓標に何かを掛けた。

 それは、一つの花冠。

 メルエが被る<とんがり帽子>に掛けられた物のように美しい出来栄えではないが、何種類もの花を輪にし作られた物。

 メルエは、あの不思議な世界で、アンの作る花冠を完成までずっと眺めていた。

 アンの様に作り方を教えてくれた師はいない。見よう見真似なために、出来栄えもお世辞にも綺麗とは言えない。それでも、メルエは今朝早く起き、これを作る為に野花を集めた。

 

「……メルエ……やはりここにいたのか?」

 

「!!…………カミュ…………」

 

 後ろから掛った声に、驚いたようにメルエは振り返った。

 そこに立っていたのは、一人の青年。

 メルエを絶望の淵から救い出し、この世に希望と夢を与えてくれた青年。

 

「……用は済んだか?」

 

「…………ん…………」

 

 カミュは、数刻前に例の如くリーシャに叩き起こされた。

 『メルエがいない』と。

心配はいらないだろうと返すカミュに、烈火の如く怒り出したリーシャを抑える為に、同じ様に叩き起こされたサラを含めた三人で町を探し始めたのだ。

 リーシャの必死な姿の理由が解るだけに、カミュは不満を洩らさなかった。

 昨日の件が彼女を苦しめているのだろう。『メルエとの約束』を破った上に、メルエの行動を止める為とはいえ、そのメルエを置いて行くという脅しを使ったのだ。

 何事も真っ直ぐに感情を出すリーシャだからこそ、あの場で口を吐いてしまったのだろうが、その事を悔やんでいる。

 起きた時に隣のベッドが空になっていたのを見た時、リーシャは血の気が引いたのであろう。その証拠に、カミュの部屋へと突入して来た時のリーシャの顔は、この世の終わりのように真っ青な顔をしていた。

 

「……メルエ……少し待っていてくれ……」

 

「…………ん…………」

 

 そう言ったカミュは、メルエを待たせ、墓標の前に屈みこんだ。

 暫し目を瞑ったまま、カミュは黙り込む。

 

 

 

 昨晩、カミュの胸の中で泣くメルエを囲むように集まった三人の下に、一人の神父が近づいて来た。いつの間にか町の住民達の何人かは広間に戻り始めていたのだ。

 『アンジェと最初に殺された男は、教会の墓地で安置する』と言う神父の提案をカミュ達は有難く受ける事にする。

 アンジェも、もはや身寄りは誰もない。誰もアンジェの故郷を知らない為、教会が引き取る形となった。

 

 その時、最初に殺された男をこの時、三人は初めてまともに見る事になる。

 それは、カミュとリーシャには見覚えのある顔。

 それは、イシスの闘技場で見た兵士だった。カミュ達の監視のためにこのアッサラームに戻ったのだろう。

 どのように戻ったのかは解らない。<ルーラ>が使用できたのか、それとも<キメラの翼>を使ったのか。

 何れにしても、この町に入った兵士は、町の広間で起こった騒ぎに遭遇したのだろう。その時、『人』の営みがある町の中に入り込んだ魔物を見た。そして、立ち向かったのだ。

 彼は、本当の意味での『兵士』だった。ロマリア国から監視という役目を受けていた。

 そして、このアッサラームという町は、ロマリア国領でもない独立した自治都市。それでも、彼は力無き町の人間を護る為、単身で魔物に立ち向かった。

 このアッサラームやイシスの周辺に住み着く魔物であれば、彼にでもどうにかなったのかもしれないが、昨日出て来た魔物は、見た事のない<ベビーサタン>。

 力及ばずに彼は息絶えたが、彼が命と引き換えに作ったその時間が、アッサラームに住む全住民の命を護る事となった。

 

 『どんな命を受けていようと、彼もまた誇り高き騎士だったのだな』

 

 運ばれて行く兵士の遺体に呟いたリーシャの言葉に、サラは再び涙を浮かべ頷いた。

 <ノアニール>を出る時にサラは『人』の業を見、大いに悩んだ。そんなサラに掛けたリーシャの『人の一部』という言葉。

 醜い心も『人』であれば、この尊い心も『人』なのだ。

 サラは、それが嬉しく、そして哀しかった。

 

 

 

 

「……行くぞ……」

 

「…………ん…………」

 

 アンジェの墓標と、名も知らぬロマリアの兵士の墓標の前で目を閉じ終えたカミュは、立ち上がり、優しい表情をメルエに向ける。

 一つ頷いたメルエは、もう一度アンジェの墓標に目を向けた後、カミュの手を握り、青い顔で半狂乱になっているであろうリーシャが待つ宿屋へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 




読んで頂き、ありがとうございました。

これにて第四章は終了です。
次回は、勇者一行装備品一覧と、ここまでのサブキャラクターの紹介を入れます。

ご意見、ご感想を心よりお待ちしています。

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