一行が洞窟の外へと出た時には、既に陽も傾き、西の空へと沈みきる寸前であった。地平線に微かに顔を出している太陽が、周囲を一日の最後を告げる真っ赤な光で照らし出し、カミュ達が進む森の中をも燃えるような赤に染め上げている。
リーシャの手を握りながら歩くメルエは、反対の手で何度も目を擦りながら眠気を必死に我慢していた。その様子に柔らかに微笑むリーシャ。そして、迷いが晴れたような、晴れやかな顔で見つめるサラ。
そんな和やかで優しい空気が流れる中、先頭を歩くカミュの表情だけは、いつも通り厳しい物だった。
それは、何も周囲を警戒しているというだけの物ではないのだろう。彼ら四人に待ち受けている物の厳しさ、そして辛さは、この寡黙な青年にしかわからない。
十数年、その視線に耐え、そしてそれでも前を向いて歩いて来たこの青年にしか……
「あの二人は、無事にバハラタに辿り着けたでしょうか……」
「うん?……この辺りで姿を見ないんだ。陽が落ちる前に町へと辿り着けたのではないか?」
森の中を歩き続けながら、ふと思いついたように口を開いたサラの言葉に、リーシャが周囲を見回しながら答えた。それは、酷く冷たいように感じる答えであったが、実際、当の本人達が『自力で帰る』といった以上、リーシャ達に今更どうする事が出来る訳でもない。
「……他人の心配をしている暇はないようだ……」
「!!」
サラとリーシャの会話に割り込んできたカミュの呟きに、サラとリーシャは身構えた。例の如く、カミュが背中の剣に手を掛けた。戦闘の合図である。
どれ程に悩んでいようと、何かを考えていようと、戦闘となれば、彼女達の目は勇者に同道する者へと変わって行くのだ。
「サラ! メルエを頼む!」
「は、はい!」
眠そうに目を擦っているメルエの手をサラに委ねたリーシャも、背中に縛りつけてある<鉄の斧>の紐を解く。カミュが背中の剣を完全に抜き放った時、その魔物は現れた。
その姿は見覚えのある物。
特にリーシャにとっては、苦い思い出も付加された姿だった。
「ま、また<きのこ>か!?」
「……まだあれを食すつもりなのか?」
出て来た魔物の姿に、リーシャは身構えていた身体の緊張を緩め、呆然とした声を上げるが、カミュの呆れた溜息交じりの言葉に、鋭く吊り上った瞳を向けた。
リーシャの瞳は吊り目がちな瞳。
それが更に細められれば、大抵の者は身を固くするのだが、このアリアハンの勇者には通用はしなかった。
<マージマタンゴ>
ノアニール西の洞窟で遭遇した<マタンゴ>の上位種であり、おばけきのこの最上位種に当たる魔物である。同じ様な<甘い息>という特性も持ちながら、それ以外の固有の技も使う魔物であり、この周辺では要注意の魔物として伝えられている。
その<マージマタンゴ>が二体。
そして、<おおありくい>のような姿をした<アントベア>が一体。
魔物の群れとしてはそれ程多い訳ではないが、初めて遭遇する魔物に対し、緊迫した空気が流れた。
「はぁ!」
先行したのはリーシャ。
<鉄の斧>を構え、魔物に突進して行く中、何か突発的な事があっても良いように、左手にはしっかりと<鉄の盾>を構えていた。
「#%3“*」
リーシャが自分に向かって来た事を確認した<マージマタンゴ>は人語ではない何かを発する。それは、奇声にも近い叫びであった。
しかし、リーシャとて、ここまでの旅で数え切れない程の魔物と対峙し、淘汰して来た。故に、その奇声が何を示すのかを感じ取り、咄嗟に足を止めて盾を掲げる。
「くっ!」
「あ、あれは……」
サラは、リーシャの掲げる<鉄の盾>を襲う現象に驚く。
それは、メルエが得意とし、最も使用頻度が高い魔法。
対象を強い冷気が襲い、凍らせてしまう魔法<ヒャド>だったのだ。
冷気を受けた<鉄の盾>は、完全に凍結する事はなかったが、周辺の気温を一気に下げ、所々霜を下ろしたように白くなった盾を構えるリーシャの息をも白く変化させる。
「下がれ!」
「#%3“*」
カミュの叫びと、残るもう一体の<マージマタンゴ>の奇声が同時に響いた。
手に持つのも厳しい程に冷たく冷え切った盾を下げた所にもう一度の詠唱。
リーシャの吐く息が凍り付き始める。
「メルエ!」
「…………ん…………メラミ…………」
その時、後方に控えるサラの声が聞こえ、それに応えた幼い少女の杖が光る。サラという守役の許可を得たメルエの詠唱と共に、その杖から大岩程の火球が飛び出し、リーシャに向かって奇声を上げた<マージマタンゴ>を襲った。
「くっ!」
凍りつく戦士の横を通り過ぎる火球の熱によって、盾を包む霜は溶け、リーシャの周りの空気も熱を戻し始める。
しかし、それは『魔物』でなくとも脅威な程の熱量。自分の頬を掠めるほどの熱気に、リーシャはたまらず横へと転がった。
「ウキャ―――――――――――!!」
耳障りな奇声を発し、<マージマタンゴ>は火球に飲み込まれ、瞬時にその身を焼かれて行く。残ったのは、地面に焼き付けられた<マージマタンゴ>であったであろう影。
太陽が差さない夜にも拘らず、メルエの杖から飛び出した巨大な火球が発する光によって作られた影は高熱によって地面へと焼き付けられたのだ。
「――――――――――」
余りの光景に呆然と立ち尽くす魔物達は、その光景を作り出した少女が手に持つ杖を自分達へ向けている事に気が付くと、我を忘れて逃げ出した。
「…………ん…………メ……」
「メルエ! もう大丈夫です。これ以上は魔法を唱える必要はありません」
もう一度詠唱を始めたメルエを、その司令官であるサラが止めた。
逃げ出す魔物と、自分の杖を手で下ろそうとするサラを見比べたメルエは、一度小首を傾げた後、静かに頷きを返す。
魔物を故意的に逃がす事。それは、昔のサラでは考えられない事だった。
「……」
魔物の姿が見えなくなるまで、見送ったサラの表情は厳しい。
頭では解っているつもりだ。
しかし、心がまだ付いては行っていない。
『命』は『命』
だが、もし、サラの目の前で『人』を食す魔物がいたら、彼女はそれも『生きるための食事』と割り切る事が出来るのか。
答えは『否』。
おそらくサラがこの世に生き続ける限り、そのような割り切りは出来ないだろう。
『全ての人を護りたい』
しかし、その願いを強く思えば思う程、『人』以外の種族へと目が向いてしまう。
何も、生きているのが『人』だけではない事を、この旅でサラは嫌というほど知る事となった。故に、『ただ<人>だけが良ければ良いのか?』という疑問がサラの頭の中から離れないのだ。
「…………ん…………」
「あ、は、はい! 凄いですね、メルエは」
考えに落ちていたサラを、帽子を取って頭を突き出して来るメルエが現実へと戻す。
気持ち良さそうにサラの手を受けるこの幼い少女は、物の善悪にまだ疎い。おそらく、カミュ達が敵として認識したからこそ呪文を唱え、信頼しているサラが止めるから杖を下げたに過ぎないのだ。
この小さな少女に物の善悪を教える時、どのように教えれば良いのかが今のサラには分からない。
アリアハンを出た当初であれば、迷いなく妄信的に信じていた事を教えただろう。だが、今は自分ですら迷っている事柄を教える事に抵抗感があるのだ。
「メルエ、良くやった……だが……サラ! どういうつもりだ!」
そんな悩みを抱えながらメルエの頭を撫でていたサラの方向へ、前線に向かっていた二人が戻って来る。しかも、その内の一人は、見るからな怒気を隠しもせずにサラへと向けていた。
「えっ!?」
「『えっ!?』ではない! 私を殺すつもりか!?」
メルエの<メラミ>という魔法の行使するタイミングをサラに委ねたのはリーシャ。しかし、今の戦いにおいては、そのタイミングが極めて微妙であった事は明白だった。
自分の頬を掠めて行った<メラミ>に心底肝を冷やしたリーシャは、その焦りを怒りへと変えてサラへとぶつけていたのだった。
「えっ!? あ、いえ。そんなつもりは……ただ……」
「ただ……なんだ!?」
口籠るサラに掴みかからんばかりに近寄って来るリーシャに若干怯え、後ろへと後ずさりながらサラは口を開く。
リーシャの後ろでカミュの表情も厳しい物であった事から、緊迫した場面である事が理解出来るにも拘らず、サラの口から出た言葉は一同を唖然とさせた。
「い、いえ……メルエの放つ<メラミ>の威力なら、凍り付いたリーシャさんの盾や身体も溶かしてくれるかなと……」
サラがその言葉を発したときのカミュの表情は見物だった。
『本気で言っているのか?』とでも言う様な唖然とした表情。
「……その前に……消えて無くなってしまうだろ!」
「はぅっ!」
一瞬サラの言っている意味が理解出来なかったリーシャは、暫し呆然としていたが、ゆっくりと頭の中が明瞭になって行くと共に、小さく肩を震わし、そして叫んだ。
リーシャの心からの叫びは、夜の森に木霊し、びくりと身体を震わせたメルエは、カミュの下へと大急ぎで逃げ出した。
そして、静寂の戻った森に、リーシャの制裁を受けるサラの叫びが再び木霊する。
一行が<バハラタ>の町に辿り着いた時には、もう周辺には月の光しかない夜中であった町の灯りも消え失せ、宿屋が灯す光だけが残っている。町へと入った一行は、そのまま宿屋へと向かった。
「ああ、いらっしゃい。昨日と同じ部屋で良いかい?」
宿屋のカウンターで、うつらうつらと舟を漕いでいた主人から部屋のカギをもらい、適当に湯浴みなどをした後、サラとメルエは食事を取る事もなく眠りに付いた。
二人にとって、この日は忘れられない物になるだろう。
サラは当然としても、メルエもまた、『人』が死んで逝くのを目の当たりにしたのだ。
自分の義母であるアンジェの死を目の前で見てはいるが、自分が慕う人間が犯した事項がその死とは違い、決して許されない事である事は既に学んでいる。幼く、色々な事を学んでいる途中のメルエにとっても、その心の中では色々な葛藤があるのだろう。
二人の寝顔を見ながら、リーシャは考え続けた。
窓からは綺麗な月明かりが入って来ている。
月明かりに照らし出されたリーシャの表情はとても暗い。
『自分達の進んでいる道は正しい道なのか?』
そんな疑問がリーシャの頭に浮かんでは消えて行く。
『魔王討伐』というまだ見果てぬ道程。そこへと向かって、ひたすらに歩んでいる筈が、自分達はかなりの回り道をしているようにも思える。
盗賊に国王の証を盗まれた王の依頼によって盗賊と戦い、『エルフ』という異なった種族の手によって眠りに付いた村を救う為に、洞窟も彷徨った。
世界の英雄である『オルテガ』という人物の軌跡を追うために砂漠の王国に入り、その国宝であるカギを取る為に歴史的建造物を探索し、その王国の過去のしがらみをも取り除いた。
そして、盗賊の被害に苦しむ町一つを救う為に、再び盗賊と対峙もした。
「……これも、アイツが『勇者』であるが故か……」
そんな独り言を呟きながら、リーシャは外へと出て行った。
騒ぐ胸の中の焦燥感を取り払う為に。
「また月を見上げているのか?」
そして、リーシャは再び出会うのだ。
自分達が、『冷酷』で『無関心』だと考えていた人物の『悩み』と『苦しみ』に。
「……また、アンタか……」
「またとは何だ!? 失礼な奴だな」
世界を救う『勇者』として、人間の希望として歩み出した青年は、一人月を見上げていた。
星達が輝く中、大地を明るく照らす月を見上げるカミュを見た時、リーシャは何故か涙が溢れ出そうになってしまう。
それが何故だかはわからない。
ただ、カミュのその姿がとても哀しく、そして儚かったのだ。
「……後悔しているのか?」
カミュの横へと立ち、同じ様に月を見上げたリーシャがぼそりと呟く。
その言葉が示すのは、あの洞窟内での事。
「……いや……」
「!!」
視線をカミュへと戻したリーシャは確かに見た。
暫し返事に窮したカミュが、視線を落とし、自分の右手を眺めている姿を。
その時、この心優しき女性戦士は全てを悟ったのだ。
カミュの言葉を信じるのであれば、彼は今まで人を殺した事はない。
<シャンパーニの塔>で、彼が殺したといって良い程の事はして来た。
だが、それでも彼等はまだ生きていたのだ。
そして、今回のケースと全く違う部分。
それは、カミュの感情であろう。
<シャンパーニ>の時のカミュにあったのは、明確な『怒り』。
しかし、今回は覚悟の上の『殺意』だった。
人を殺す事を自覚した上での物。
「なっ!」
「胸に何でも抱え込むな……この旅を歩むのは、何もお前だけではない」
この年若い『勇者』の苦悩を悟った時、リーシャの身体は意識せずに動いていた。
自分よりも年下のこの青年は、何もかもを抱え込む。
まるで、それが自分の存在意義だというように。
まるで、自分がその為だけに生かされているとでも言うように。
故に、リーシャは青年を抱きしめた。
「既に、お前が歩む道は、私が歩む道だ。それはこの先も変わらない。お前が背負う物を共に背負おう」
「……」
リーシャの頬を涙が伝う。
この青年の背に圧し掛かっている大きな責任に。
そして、それを誰にも背負わせまいとする、その大きな心に。
『何故、自分は気付けなかったのだ』
『何故、アリアハンは彼一人に背負わせたのだ』と。
二人を照らしていた月が、流れてきた雲によって隠れた。
暫しの間、お互いの姿さえ見えない暗闇が辺りを満たして行く。
「……そろそろ離して欲しいのだが……」
「はっ!? す、すまない……」
雲が流れ、再び月が顔を出した頃、ようやくカミュが口を開いた。
カミュの言葉に、今自分が強く抱いている存在に気が付き、改めて自分が何をしたのかを認識したリーシャは、慌てたようにカミュから腕を離し、目を泳がせる。そんなリーシャに対し、小さな微笑みを浮かべたカミュを見た時、リーシャの胸にある想いが浮かんだ。
『この青年こそ<月>なのだ』
人々が寝静まり、誰も見る事のない場所で輝く月のように、彼もまた人知れぬ場所で輝く者。
そして、人が見ようとはしない場所で、苦しみ、悩み、それでも前へ進もうとする者の道を静かに照らし出す者。
その光は、目を向ける事の出来ない程の眩しさではない。それでも、温かく、そしてとても静かに輝く光。
それがカミュという『勇者』なのだろう。
リーシャの憧れていたオルテガという人間は、『太陽』のような存在であった。
眩いばかりに輝き、全ての人々にその熱を伝える程の光を放つ者。それは正に『英雄』の定義。
『英雄』と『勇者』の違いが、リーシャには明確には解らない。それでも対極的な存在にも拘わらず、その存在の強さに変わりはない。
太陽が必要であるのと同じように、月もまた必要なのだ。
「……」
自分と同じ存在のような『月』を再び見上げるカミュの横顔をリーシャは見つめる。
そして、心に誓うのだ。
『私は太陽となろう』
カミュは、オルテガでは照らし出す事の出来なかった者達の道を、静かな光で照らして行く。
ならば、自分は、その『月』の帰り道を明るく照らし出してやろう。
彼が背負う物によって凍えそうな時には、その心を溶かす光を降り注いでやろう。
メルエという小さな太陽と共に、この青年に光と熱を届けようと。
「明日はどこへ向かうんだ?」
「……宿屋で話を聞いていた筈だが?」
降り注ぐ月光ののように静かな時間が流れる中、淡い光を受けたカミュの横顔を見ながらリーシャは口を開いた。
月から視線を外したカミュは、小さな溜息を吐き出しながらリーシャの問いかけに答える。
「ならば、<ダーマ>へ向かうのか?」
実は、宿屋で部屋に向かう一行は、一人の旅人とすれ違った。その時の旅人の話の中にあったある名前を聞いた瞬間、疲れ切っていたサラの顔が上がったのだ。
それは、彼女のような『僧侶』にとって、神聖な場所。
<ダーマの神殿>
『精霊ルビス』に最も近い場所として、ルビス教の聖地とされている神殿。長い年月の修行を終えた僧侶が最後に辿り着くと伝えられている場所。そこにいる『教皇』と呼ばれる人間が、ルビス教徒の頂点に位置する者と云われていた。別名『転職を司る者』と謳われるその人物は、人間の中に眠っている才能を掘り起こし、その人間に別の道をも示す事が出来る程の力を持っていると云われている。ただ、長い歴史の中で、<ダーマの神殿>の存在は知っていても、実際に辿り着ける者はおらず、半ば伝説となっていた。
旅人の話によれば、このバハラタの遥か北にある山を登りきったその先に神殿があると言うのだ。
実際、その旅人が辿り着いた訳ではない為、その信憑性は限りなく低い。それでも、その話を耳にしたサラの瞳は輝かんばかりに見開かれ、何かを期待するような眼差しでカミュを射抜いていた。
それをリーシャは思い出したのだ。
「……実際に存在するかどうかは怪しい。だが、行かないと言う選択肢があるとは思えないが……」
「ふふふ。そうだな。あれだけサラが期待しているんだ。その真偽だけでも確かめなければな」
カミュが行き先を決めるという事に対し、サラの意見を尊重した事が、リーシャには可笑しかった。それは、嫌な物ではなく、何処か微笑ましい物ではあったのだ。
故に、リーシャは微笑む。いつの間にか『仲間』として起動し始めているこの一行の歩む道の先に希望を見出して。
「ならば、もう寝ろ。明日も早くから出立するのだろ?」
「……ああ……」
リーシャの問いかけに、頷いたカミュの返事の歯切れが悪い。
その事に、リーシャは少し嫌な空気を感じた。
「何かあるのか?」
「……いや……」
歯切れ悪く否定するカミュを一睨みすると、溜息を一つ吐いたカミュが、重い口を開いた。
それはとても厳しく、そしてとても優しい物。
カミュの瞳を見たリーシャは、その表情を再び引き締め、次に続く言葉を待った。
「明日、アンタ方は、今まで受けた事のない物を目の当たりにするだろう……」
「……カミュ……」
今、カミュの口から漏れたもの。それは、おそらくあの洞窟内で、カミュがサラへと警告したあの視線。
『憎しみ』に近い『嫌悪』。
それは、もはや『憎悪』と呼んでも差し支えない程の物。
そして、この年若い『勇者』が十数年間受け続けて来た物である。
「心配するな。私も『負』の感情を受けて育って来たのだ」
「……」
カミュの心を理解したリーシャが、重苦しい雰囲気を払うように、胸を張って答えるが、カミュは視線をリーシャに向けたまま何も語らない。
その瞳にあるのは、『哀しみ』と『憐れみ』。
その辛さとその厳しさの本当の意味を知らない者への視線であった。
「……わかっている……お前が受けて来た物に比べれば、私が感じて来た物など児戯に等しいだろう……」
「……」
カミュの視線を受け、一度顔を伏せたリーシャは、再び視線をカミュと合わせるために顔を上げた。
その瞳にある物は『決意』の炎。
哀しみを宿すカミュの瞳を真っ向から受け止めて尚、前へと進む者の瞳。
「だがな……だが、お前が歩む道を私も歩む。お前が悩み、苦しむ時は、私も共に悩もう。そして、お前が辿り着くその先を私は見届ける。それが私の『使命』だ」
「……」
再び顔を上げたリーシャが発した言葉に、カミュは一瞬目を見開いた。
ここまでの十数年間、ここまで真っ直ぐにカミュという存在を見た者はいなかった。
誰一人、カミュをカミュとして見た者もおらず、ましてやカミュの心に踏み入ろうとした者もいない。
「……くっくっ……」
「な、なんだ?」
呆気に取られたような表情を浮かべていたカミュが、突如として笑い出す。何かを押し殺すような笑いに、リーシャは戸惑った。
そして、それは次のカミュの言葉で焦りへと変わって行く。
「……くくっ……まるで、婚姻の誓いのようだな……」
「なっ!? な、なに!? ち、違うぞ!」
今まで見た事のないような、心から楽しそうに笑うカミュに驚くよりも、先程自分の口から出た言葉を思い出した事による焦りが勝ってしまったリーシャは、夜中にも拘らず大声を上げて否定を繰り返す。
暫し、笑い続けるカミュに、苛立って来たリーシャが掴みかかろうとした時、ようやくカミュは笑いを納め、踵を返し宿屋へと歩き出した。
やり場のない怒りの矛先を失ったリーシャは、憮然とした表情を浮かべ、カミュの背に向かって声をかける。
「私は良い。サラも大丈夫だ。ただ、メルエだけは、お前が護るんだ」
「……わかっている……」
リーシャの言葉に振り返ったカミュの表情は、いつものような無表情に戻っている。しっかりとリーシャの瞳を見つめ、大きく頷いたカミュは、振り返る事なく宿屋へと向かって行った。
リーシャも、もう一度だけ、この世界の夜を照らす月を見上げてから宿屋へと戻って行く。
優しく静かな月の光は、宿屋へと続く道を照らし、二人が宿屋に入った後に雲に隠れた。
サラは上機嫌で身支度を整えていた。
今朝、目を覚ましたサラに、リーシャが継げた言葉。
『次の目的地は<ダーマ>だ』
このバハラタで『黒胡椒』という物を手に入れる事が出来たのならば、もはやポルトガへ戻り、船を手に入れるべきである事は明白である。それでも、自分の願いを聞き入れ、<ダーマの神殿>へと進路を取ってくれた事に感謝すると共に、まだ見ぬ聖地への期待が胸に膨らんで来ていたのだ。
未だに眠そうに目を擦っているメルエが顔を洗うのを手伝ってやり、服を着せてやる。
『一刻も早く、<ダーマ>へ向かいたい』
そんな気持ちが滲み出ているように動くサラを見て、メルエは頻りに小首を傾げていた。
「……あ……ありがとうございました……」
しかし、そんなサラの弾んだ胸は、宿屋の主人の挨拶を見た瞬間に萎んで行った。
身支度を整えたサラとメルエを見て、リーシャはそのまま宿屋を出る事をサラに告げる。
今まで、朝食を取ってから出立するのが通常であったが、今朝は朝陽が昇る前という訳ではない。それでも、直ぐに宿屋を離れようとするカミュとリーシャに、サラは違和感を覚えたのだ。
それも、宿屋の一階に下りた瞬間に分かった。
サラの景色が一変していたのだ。
「……」
宿屋に宿泊していた者達の視線。
宿屋の主人の怯えたような作り笑い。
全てが、サラの知らない景色。
「……メルエ……」
「…………ん…………」
余りにも様変わりした町の風景に呆然としていたサラの耳に、メルエを呼ぶカミュの声が入って来る。慌てて視線を移すと、カミュがマントを広げてメルエを中へと誘っていた。
それは、まるで何かからメルエという大切な者を護るような姿。
サラの身体に嫌な空気が纏まり付き始めた。カミュが何からメルエを護っているのか。それが解らないサラではない。
宿屋のラウンジの四方八方から突き刺さる視線を受けながら、サラは宿屋の外へと駆け出した。
そこは『別世界』だった……
「……これが、アンタの選んだ道だ……」
「はっ!? カ、カミュ様」
町に出たサラが見たもの。
それは賑わいとは掛け離れた町の風景。
まるで珍獣でも見るように寄り添いながら宿屋の出口を見ている女達。
『怒り』とそれ以上の『恐怖』を瞳に宿らせながら、宿屋を囲むように散らばっている男達。その腰には、それぞれ種類は違うが、皆武器を携帯していた。
おそらく、グプタとタニアがこの町に辿り着いた時に、一部始終を町の人間に話したのだろう。カミュが盗賊とはいえ、『人』を容赦なく切り刻み、死に至らしめた事。
そして、その死体が流し続ける血液の中を平然と立ち、次の殺人を犯して行った事。
もしかすると、グプタとタニアは、洞窟から出て森を歩いている途中で、洞窟から出て来る盗賊らしき人間を見たのかもしれない。
自分達を苦しめた盗賊達は殺したい程に憎い。故に、それを見逃した人間達に強い疑念と怒りが湧いて来たのだろう。
だが、自分達で抗い、その盗賊達を殺す事は出来ない。それは、自分達の心の中に、色々な抵抗感があるから故に。
『人を殺しても良いのか?』
『自分達を苦しめた盗賊であるが、この盗賊達にも家族がいるのでは?』
『人が流す血液、死に至る傷口から溢れ出す様々な物を見たくはない』
そんな人々の中に存在する迷いや恐怖。
それは『人』であれば、当然の物。故に、その上で『人』を殺すという行為をする者を必然的に恐れる。
そして、理解出来ない物として同じ様に括るのだ。
今のカミュ達は、カンダタ一味のような盗賊と同類。
『人』を殺す事を厭わず、ましてやその様な外道に情けを掛けた者。
それが今、町の人間達の持つ、勇者一行の評価なのだ。
「……そ、そんな……」
覚悟はしていた。
カミュがあの洞窟で言っていた事を理解もしていた。
だが、それはやはり現実感のない物だったのだ。
今、自分に向けられている視線。
それは、とても『人』が『人』に向けるような物ではない。
孤児として、汚い物を見るような視線を受けた事は何度もある。
それこそ、そのような視線の中で育ったと言っても過言ではない。
だが、これは別格だった。
「サラ! これがサラの決意の先にある光景だ。だが、これが『人』の全てではない事をサラは知っている筈だ。サラの信じる『人の強さ』とは、それ程に脆い物なのか?」
「はっ!?」
俯きそうになる顔を、強引に持ち上げられたようだった。
サラの横に立ち、周囲の男共に警戒の瞳を向けるリーシャは、サラに厳しい言葉を投げかける。
『人の弱さ』と『人の強さ』は別なのだと。
「い、いえ!」
サラはこの旅で、数多くの『人の弱さ』を見て来た。しかし、それと同時に、数は少ないかもしれないが『人の強さ』も見て来たのだ。
国敵・神敵となろうとも、誰も恨まず、世の行く末を案じた老人。
死して尚、霊魂となっても自分の友を護る少女。
そんな心優しい少女を失いながらも、真実を受け止め、前を向いて歩く男。
例え、町で一人になろうとも、町を救う為に残った老人。
祖母によって実の母を殺されたにも拘らず、最後には国の為に立ち上がり、王となった女性。
そして、その罪を悔い、全てを受け入れた老婆。
受けていた使命があるにも拘らず、他領である町の住民を救う為に立ち向かい勇敢に戦った兵士。
そして、養女として引き取った娘を虐待し続けた事を悔い、苦しみ抜いた末、最後には身を挺して少女の命を救った女性。
その全ては、サラの中に確かな柱となっている。
「さあ、前を向け! サラの決意した道が間違った物であるとは、ここにいる誰もが思っていはいない」
「…………」
リーシャの言葉によって、再び顔を上げたサラの目に、カミュのマントの中から少し顔を出したメルエの笑顔が映る。
『大丈夫』とでも言うように、優しい笑顔を向けるメルエの表情を見て、サラの瞳が涙で潤んだ。
「は、はい」
「よし。さあ、カミュ、行こう」
涙で滲んだ瞳のまま、大きく頷いたサラを見て、リーシャがカミュへと出発の合図を送る。その言葉に一つ頷いたカミュは、周囲を警戒しながらも、この町で唯一つの『胡椒屋』へと足を進めた。
小さなメルエを護るように歩くカミュ。その後をサラが続き、そして、サラを護るようにリーシャが歩く。それは、魔物への警戒と同じ程の慎重さであった。
リーシャに向かって力強く頷いたサラではあったが、内心は複雑だった。
『人』と『魔物』が同等の存在である事を認め始めている自分に対しての想い。それを頭では理解し始めている。心でも納得し始めてしまっている。
だが、心の奥底に未だに棲み付いている、幼いサラの心がそれを拒んでもいるのだ。
「…………サラ…………?」
「はっ!? だ、大丈夫ですよ。さあ、行きましょう。」
一人考え込むサラを心配そうに見つめるメルエの視線に気づき、サラは自分の気を奮い立たせるように、メルエへの決まり文句を口にする。
サラは、メルエに対して『大丈夫』と口にすれば、『大丈夫』にしなければならない責任を負う。
逆に、それを利用しなければ、再びサラは迷走し始める危険性もあったのだ。
「あ、貴方達は……」
黒胡椒を販売している店の中に入ると、一行が救った男がカウンターに立っていた。
グプタは、先頭で店に入って来たカミュの顔を見るや否や、引き攣った表情へと変わり、言葉を詰まらせる。それは、恐怖なのか、それとも何かに対する負い目なのか。
「……『黒胡椒』が欲しいのだが……」
「……」
カミュの発言にも、口を開いたまま動かないグプタに、彼の中に残る大きな衝撃をサラは改めて思い知った。
その瞳に浮かぶのは怯え。
それはとても、自分達を救ってくれた『勇者』へ向けるものではない。
「ひっ!」
そんなグプタの姿を茫然と見つめていたサラの耳に、陶器の割れる音と、女性の短い悲鳴が飛び込んで来る。そちらに目を向けると、予想通りの人物がカミュ達を見て立ち尽くしていた。
サラ達が自分たちの立場を犠牲にしてまでも救った女性、タニアである。
「……」
二人の姿を見て、カミュが吐いた溜息に、再び二人は身体をびくりと震わした。
それが、もはや二人に話をしても無駄だという事を示していた。
「……悪いが、店主を呼んでくれないか?」
「て、店主は私です」
カミュの言葉に、若干腹を立てたかのように、グプタは口籠りながら反論を返した。その態度に、サラは、グプタが決して自分達に良い感情を持っていない事を知る。
サラの胸に広がる何とも言えない『哀しみ』。
「わ、私達は、お爺ちゃんからこの店を譲り受けたんです」
「……では、町長はどこだ?」
「ひっ!」
グプタとタニアが向ける感情は、カミュにとって十数年間受け続けた物。リーシャやサラのように心に衝撃を受ける程の物ではない。
しかし、カミュは何故か怒りを覚えた。それが何故なのかは、おそらく理解してはいないのだろう。ただ、感情を吐き出すように低い声で尋ねるカミュの迫力に、グプタとタニアは再び短い悲鳴を上げた。
「お、お爺ちゃんなら……せ、聖なる川の……方です……」
カミュの冷たい瞳に呑まれてしまったように、操り人形の如く話すタニアの言葉を聞き、カミュは踵を返す。カミュが店外へと出て行く事で、若干空気を和らげた二人であったが、やはりその根本は変わってはいない。それはつまり、リーシャやサラに対しても程度は違うとしても、同様の感情を持っている事を示していた。
「行こう、サラ」
「は、はい」
リーシャの促しに、釈然としない想いを持ったまま、サラは店を後にする。それが、自分が選んだ道であったとしても、やはり二人の瞳に映る物が受け入れ難かったのだ。
カミュを追って、<聖なる川>と呼ばれる、この村の第二の象徴とも言える川へとリーシャ達が辿り着いた時、既にカミュはそこに立つ一人の老人と相対していた。
「すまない……本当にすまない……」
リーシャとサラが近付いた時に聞こえて来たのは、繰り返される老人の謝罪。
言葉と共に、深々とカミュへと頭を下げ、何度も何度も謝罪を繰り返す老人を見て、サラの頭は混乱し始める。
「……当然の事でしょう……」
「それでも……それでも……」
冷たい瞳で老人を見下ろすカミュ。それでも、この町の長たるこの老人は、何かを言おうとして、涙に言葉を詰まらせる。
リーシャは、そのやり取りで、老人の心中を察した。
「……『黒胡椒』は、この革袋一杯に入れております。お代はいりません。孫娘を救ってくれた礼と、せめてもの罪滅ぼしに……」
顔を上げた老人の瞳は涙で滲んでいた。
しかし、その瞳にある光はとても強い。
それは、このバハラタという巨大都市の長としての瞳。
「……」
「……どうぞ……」
『勇者』と『自治都市の王』の瞳が交差する。
一瞬の間の出来事ではあるが、その短い時間で、彼等の会話は終了した。
「……わかりました。有り難く頂き、早々に町を出ましょう……」
「……申し訳ない……」
口を開いたカミュの言葉に、サラは言葉を失った。
それは、カミュの言葉だけではなく、その言葉を否定せずに謝罪する老人に対しても驚きを隠せなかったのだ。
彼は、タニアという娘の祖父である前に、この巨大商業都市<バハラタ>の長でもある。実際には、彼だけはカミュ達が行った事の本当の意味を理解しているのだろう。
盗賊の根絶やしがこの町を救う唯一つの方法であったという事を。
故に、グプタとタニアの話を聞いても、その行為を咎める事はなく、『殺人』という大罪まで犯しながらも町を救おうとした人間が、敢えて盗賊の棟梁を逃がした事の意味も理解したのだ。
だが、彼のような経験豊富な人間は少ない。それをこの老人は知っていた。
この<バハラタ>という町は、盗賊という脅威を無くし、再び動き出そうとしている。やっと落ち着きを取り戻そうとする町民の心を再び掻き乱す事が得策ではない事を考え、小を切り捨てる決意をしたに過ぎないのだ。
「……ただ、申し訳ないが、その『黒胡椒』は預かっていて欲しい……」
「は?」
最善の道を模索し、それを受け入れられたことに胸を撫で下ろしていた老人は、カミュの申し出に引き攣った顔を上げた。
カミュの申し出が、自分の思惑から大きく離れていく物だったのだ。
「……我々は、このままある場所に行き、そして戻って来ます。その時にそれを受け取らせて欲しい……」
「で、では、再びこの町に訪れるという事ですか?」
老人の表情に焦りが浮かぶ。出来る事ならば、カミュ達には、二度とこの町に足を踏み入れて欲しくはない。
それが、この町の長たる老人の願いなのだろう。
「……カミュ……」
「……」
その老人の気持ちは、後ろに控える二人にも確かに伝わっていた。
リーシャは、昨日カミュが月を見上げながら呟いた事の本当の意味を知り、サラは自分が選んだ道の本当の険しさを知った。
確かに『人』は救われた。
だが、それは受け入れられない。
それが、サラが選び、三人が認めた道。
「……承知しました……ただ、これは店ではなく、私の家で預からせてもらいます。できますれば……」
「わかっています。再び訪れる際は、月が昇る頃にお伺い致します」
カミュの変わらぬ視線を受け、老人は静かに頷く。そして、続けようとした言葉に、カミュが被せたものを聞き、安堵の溜息を吐いた。
もう一度深々と頭を下げた老人は、革袋を持ち、町へと戻って行く。その後姿を見ながら、サラの気持ちは再び落ち込んで行った。
『自分の選択は本当に正しかったのか』と。
「……カミュ様……」
そして、彼女は問いかける。
自分が信じ始めている『勇者』という存在に。
「……あれは、俺の行為に対する物だ。アンタが気にする物ではない……」
だが、返って来たのは、たった一言。
今の老人の対応は、『殺人』という罪を犯した自分が受ける物だと。
それは、自分の役目だという一言。
しかし、サラは気付いている。
それだけではないという事を。
「……アンタは『覚悟』を決めた筈だ。この先の旅で、その『覚悟』が変わらない限り、この視線から逃れる事は出来ない。それでも……いや、いい」
「……カミュ……」
何かを言いかけ、そしてカミュは言葉を飲み込んだ。
そんなカミュを、リーシャは哀し気に見つめる。
「わたしは……」
そして、カミュの問いかけの意味を理解したサラは、再び口籠もる。あれだけ心を決め、そしてカミュへと啖呵を切った筈なのに、いざその悪意と言っても過言ではない物を受けた途端に、その『決意』が萎んで行く。
そんな自分の心が、醜く、情けないものに感じ、サラは何も言えなくなってしまった。
「……カミュ……」
「……俺が知っている『僧侶』という存在は、自分の枠内だけで考えるような人間ばかりだった」
「え?」
再び俯いてしまったサラを見て、リーシャはカミュへと視線を送る。その視線を受けたカミュが、一つ溜息を吐いた後に語り始めた内容は、サラの理解が追いつけないものであった。
「……アンタの考えは甘い……」
「うっ……」
カミュが何を言おうとしているのか解らないサラは、追い討ちのようなその言葉に、言葉を詰まらせ、再び俯いてしまう。しかし、カミュの言葉は、サラを糾弾する為の物ではなかった。
リーシャには何故かそれが理解出来た。
彼が口にしようとしている物は、サラを再び動かす程の言葉。
そう感じていたのだ。
「だが、甘いからこそ救われた者も、俺達の手の中にいるはずだ」
「…………ん…………」
カミュが言葉と共に開いたマントの中から、顔を出したのはメルエ。
救い出したのはカミュであるが、実質救おうとしたのはサラ。
サラの想いがなければ、そのまま奴隷として命を落としたであろう少女。
「アンタは感謝をされる為に、メルエを救ったのか?」
「い、いえ!」
カミュの突然の言葉に、サラは反射的に首を振った。
メルエを救う時は無我夢中だった。それが、後に自分を苦しめる事になったが、あの時カミュに言った言葉は、サラの本心からの言葉。
「アンタの想いを誰一人理解しなくとも、そこの戦士とメルエが知っている」
「……カミュ様……」
その言葉を最後に、カミュは歩き出した。
その背中を呆然と見つめるサラの背中を、リーシャが優しく叩く。
リーシャの顔を見上げ、一つ頷いたサラも歩き出した。
彼等の歩く道は、険しく、そして果てしない。
誰一人見定める事は叶わず、そして、誰一人理解する事の出来ない道。
この『遥かなる旅路』の先にある物を誰も知る事は出来ない。
読んで頂き、ありがとうございました。
これにて第五章は終了です。
この後、いつもの「勇者一行装備品一覧」と、ここまで出て来たサブキャラの注釈を入れようと思っています。
さぁ、ダーマです!
ご意見、ご感想を心よりお待ちしております。