新訳 そして伝説へ・・・   作:久慈川 京

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ダーマ神殿②

 

 

 

 カミュの唱えた<ルーラ>によって、彼らが<ダーマ神殿>に辿り着いた頃には、陽も傾き始め、山頂に位置するその場所は、静かな闇と冷たい空気の支配が始まっていた。

 

「今日は、宿屋で一泊だな」

 

「……ああ……」

 

 メルエの手を引きながら、カミュへと問いかけるリーシャに一つ頷いたカミュは、自分達の後方で何かを思いつめ始めている一人の僧侶に視線を向ける。そこに立つサラは、暗闇の支配が及ぶ大きな神殿を見上げ、胸には言葉通りに『命を懸けて』手に入れた書物を抱えていた。

 力が籠っている証拠に、書物を握る手は微かに震え、眉は自信なさ気に下へと下がっている。それが、サラが何を考え、何に怯えているのかを如実に表していた。

 

「サラ。今夜はゆっくりと休め」

 

「えっ!? は、はい」

 

 リーシャの呼びかけに答えたサラは、まるでリーシャの言葉を理解していないような虚ろな表情で一つ頷くだけ。そのサラの様子に一度溜息を吐いたリーシャは、メルエをカミュの方へと移動させ、カミュへと目配せをする。リーシャの視線に軽く頷いたカミュは、メルエをマントの中に収め、神殿の門へと歩いて行った。

 

「サラ。少し話をしようか」

 

「えっ!?」

 

 何も考えず、ただ神殿へと歩くカミュの背中を茫然と眺めていたサラの肩にリーシャの手がかかり、その呼びかけに、サラは驚いたようにリーシャへと振り向いた。

 リーシャに向かってゆっくりと頷いたサラを促し、神殿へと足を踏み入れると、既にカミュ達の姿はなく、宿屋へと向かった後だった。

 リーシャは、再び俯き足が止まったサラを促し、宿屋の方角ではなく、本来のサラの居場所の一つである場所へと向かう。

 

 

 

「サラ。座ろう」

 

「……はい……」

 

 夜の闇によって、ステンドグラスの輝きは失われたその場所は、周囲に灯された明りによって柔らかな光に包まれていた。

 そこは、サラが信仰する精霊の像が祀られている場所。リーシャに導かれながら、その場所へと足を踏み入れたサラは、正面で優しい笑顔を浮かべて微笑む精霊の像を一目見ると、そこから足が一歩も動かなくなってしまった。

 

「……何に怯えている?」

 

「!!」

 

 傍にある長椅子に腰をかけてからも、俯いたまま両手を震わせるサラから視線を外してリーシャが呟いた言葉に、サラは弾かれたように顔を上げ、唇を細かく震わせながら目に涙を溜める。

 

「サラは、何に恐怖を抱いているんだ? 『僧侶』としての資格を失った事か?」

 

「……あ…あ……」

 

 リーシャの言葉に、サラは返す言葉を持ち合わせてはいなかった。

 <ガルナの塔>や<ムオル>を歩いていた時には、正直に言えば、サラに悩む余裕はなかったのだ。しかし、この神殿を見上げた時に、再びサラの心を襲った『恐怖』。

 

 『自分はここに足を踏み入れる資格はあるのか?』

 『自分はこの書物を持つ資格はあるのか?』

 

 それは、サラの心を急速に蝕み、壊して行く。この聖地に入る事への恐怖に変わり、自己の存在への恐怖へと変わって行った。その事をリーシャは突き出したのだ。

 リーシャは、サラに視線を合わせない。自分達の前で柔らかな微笑みを浮かべる『精霊ルビス』の像を真っ直ぐ見つめ、口を開いた。

 

「サラ。もし、サラが思うように、『僧侶』の資格を失っていたとしよう。それは、私やカミュが決める事ではない。サラが感じ、サラが自覚する事だ」

 

「……」

 

 リーシャの核心を突く言葉に、サラは息を飲む。

 既に、リーシャの中では決定事項なのではないかと。

 

「だが、それがどうした? サラがそんな自分を許せないのは、全てではないが理解は出来る。だが、何にそこまで怯えている?」

 

「……わ、わたしは……」

 

 リーシャの問いかけ。

 それにサラは答えられない。

 それが何故なのか。

 そして、自分の心は何に怯えいるのかがサラにも解らないのだ。

 

「その事によって、周囲の人間の視線が変わるからか?」

 

「!!」

 

 サラの心が、姉のように信頼する人間とは言え、他人によって暴かれる。

 それは、サラの頭に鈍器で殴られたような衝撃をもたらした。

 

「『ルビス様を崇め、その教えを護る『僧侶』にも拘わらず、罪人を救い、そればかりか魔物の命まで救った』と蔑まれ、疎まれ、排除される事への恐れからなのか?」

 

「ちっ、ちが……」

 

 反射的に反論しようとするサラに、リーシャはようやく視線を動かし、真っ直ぐサラへと視線を移す。その瞳は温かい優しさを湛えつつも、その奥には厳しさを備えている物であった。

 

「違うのか?」

 

「……あ……」

 

 リーシャの真剣な瞳を見て、サラの言葉は詰まってしまう。

 それが、サラの心を明確に表わしていた。

 

「ならば、私達を馬鹿にしているのか?」

 

「えっ!?」

 

 続くリーシャの予想外の言葉にサラは驚愕の声を上げる。余りにも突拍子のないその言葉は、サラの心を知っていながら出た、確認のようなものだった。

 

「私達が、サラを『僧侶』の資格もない者と見下すとでも言うのか?」

 

「い、いえ! そのような事はありません!」

 

 全力で否定の言葉を発するサラに向けられたリーシャの瞳はまだ和らがない。

 それが、まだ続きがある事を語っていた。

 

「ならば、サラ……」

 

「??」

 

 少し間を置くように、リーシャは一つ息を吐いた。

 重要な事を告げるように。

 それを言う事を躊躇うように。

 

「本当にサラには『僧侶』としての資格はないのかもしれないな」

 

「!! な、なぜですか!?」

 

 サラの目を見て、瞬きもせずに告げられた宣告は、サラの心を大きく抉って行く。

 容赦なく心を鷲掴みにされ、引き擦り出される。そんな感覚にサラは襲われていた。

 

「サラは、ルビス様を信じてはいないのだろう?」

 

「そ、そのような事はありません!」

 

 満を持して告げられたリーシャの言葉にサラは即座に反応を返した。

 それはとても許容出来る物ではない。

 『教え』に疑問を持った事はある。しかし、『精霊ルビス』という高貴な存在を疑った事など、サラは一度もなかったのだ。

 

「ならば何を悩む! ルビス様は、サラが悩み苦しむ事を見ても、何もお感じにはなられないとでも言うのか!? 罪人であろうと、魔物であろうと、その命を救う事に悩み、それでも一つの命を救う為に懸命に動いたサラを見捨てる程に、ルビス様のお心は狭いのか?」

 

 リーシャは、この心優しき女性を見捨てる事はできなかった。

 常にその優しさと現実の狭間で想い悩み、そして全てを自分の責任として被ってしまう女性を。

 アリアハンを出た当初は違っていた。いや、<シャンパーニの塔>を登るまでのサラは、その辺りの教会にいる『僧侶』と何一つ変わりはなく、広まっている『教え』を盲信的に信じ込み、それに反する者を罪人のように見ていた節がある。

 しかし、ここまでの旅は、そんなサラの心を大きく変化させていった。

 自分の頭では追いつけない程の現実を知り、その現実を許容外として弾き出す事もなく、全てを受け止める。だが、それは常識として『教え』を刷り込まれて来たサラにとっては、苦痛すら伴う程の物だった。

 何度も悩み、何度も苦しみ、そして何度も涙した。そんなサラはリーシャの誇りであり、そんな誇りを自ら傷つけるサラをリーシャは許せなかった。

 

「何度でも言おう。私はサラを心から尊敬し、誇りに思っている」

 

「リ、リーシャさん……」

 

 そう告げたリーシャの顔が下へと下がる。

 そして、再び上げられたリーシャの瞳には強い決意が宿っていた。

 

「……もし……もし万が一、ルビス様がサラをお許しにならないと言うのならば、私はルビス様にこの斧を向けよう。ルビス様がサラを裁くというのならば、私はルビス様であろうと許しはしない」

 

「……そんな……」

 

 サラは、決意と共に語られたリーシャの言葉に絶句した。

 カミュが言うのならば、納得も行く。彼は、元々『精霊ルビス』という存在を信じてはいないのだから。

 しかし、リーシャは違う。サラのような『僧侶』程ではないが、ルビス教を信仰している人間なのだ。『今日ある糧は、ルビス様のご加護の賜物』。そう信じて生きて来た人間の一人である。

 それが、畏れ多くも、神に等しいその存在に向かって武器を構えると宣言し、その神の行為を『許さない』という傲慢な態度を取ったのだ。

 

「私もカミュと同じだ」

 

「えっ!?」

 

「私も、サラ以外に『僧侶』という存在は知らない。『僧侶』とはサラの為にある言葉だと思っている」

 

 サラは茫然とリーシャを見上げていた。彼女は、<バハラタ>でカミュから言われた事も、<ガルナの塔>でカミュから言われた事も、全て違う意味に取っていた。

 しかし、今のリーシャの言葉をそのままに受け取ると、リーシャもカミュも、サラだけを『僧侶』と認めているという事になる。

 

「……ですが……ですが、わたしは……」

 

「それに、私達だけではなく、このサラのような僧侶達の聖地も、サラを『僧侶』として認めているのだろう? 私やカミュやメルエが、この場所に入る事が出来るのは、サラが共にいるからだ。その手の中にある『悟りの書』を手にする資格のあるサラが共にいるからだ」

 

「……えぐっ……うぅぅ……」

 

 誰に認めてもらいたかった訳ではない。

 『僧侶』であり続ける事は、サラが決める事。それが揺らいでいた。

 告げられたリーシャの言葉は、そんな揺らぐサラの心をしっかりと掴まえる物。

 

「サラ。私は『悩み、迷い、そして苦しみながらも答えを出して前に進むのがサラだ』と言ったな? だが、今のサラは苦しんでいるだけだ。もうそろそろ前へ進んでも良いんじゃないか?」

 

「……うぅぅ……ぐずっ……」

 

 サラの瞳から溢れ出した涙は、もはや止める事など出来よう筈がない。自分の心に土足で踏み込んで来るリーシャの言葉は不快感を覚えるどころか、サラの心に暖かな風を運んで来ている。

 それが、サラの心を覆っていた闇を払って行った。

 

「私はな……この旅に出た当初、正直に言うと、『魔王バラモス』を倒すという偉業を達成する事は無理だと考えていた」

 

「!!」

 

 涙を流すサラを見ながら、ゆっくりと口を開いたリーシャが洩らした衝撃の事実は、サラの嗚咽を一気に止めてしまう程の物だった。

 

「驚くだろうな……だがな、サラ。私は本当にそう感じていた。『人』に対して、冷たい瞳を向けるカミュ。魔物に対して憎しみを向け、『教え』に忠実なサラ。そして武器を振るうだけで、考える事が苦手な私だ。突き進めば、どこかで仲間割れを起こし、下手をすれば全滅だったろう」

 

「……えぐっ……」

 

 リーシャの言葉はとても重い。その話の通り、アリアハンを出た当初の三人は、纏まっているとは言えないものであったし、実際サラとカミュは何度も衝突を繰り返して来た。

 

「それでも、私達はここまで来た。今はメルエも加わり四人。可笑しなパーティーだ。歪んだ捻くれ者の『勇者』に、力だけが取り柄の『戦士』。いつも悩んでばかりで、教会に属するくせに『教え』からはみ出し始めた『僧侶』。そして、幼く、世界に出たばかりの雛鳥のようでありながら、並外れた魔法力を有する『魔法使い』」

 

「……はい……」

 

 少し自嘲気味な笑みを浮かべながら話すリーシャに、ようやくサラの顔に笑顔を見え始める。そんなサラの顔を優しく見つめながら、リーシャは再び口を開いた。

 

「私は……今は、この四人なら『魔王討伐』という目標を成し遂げる事が出来るのではないかとさえ思っている」

 

「……リーシャさん……」

 

 リーシャの言葉はとても優しい空気を纏っている。おそらく、今、彼女の頭の中には、ここにはいない残りの二人の顔が浮かんでいるのだろう。言葉と共にリーシャの表情もとても優しい物に変わっていた。

 

「いや、違うな……この四人でなければ、無理ではないだろうかとさえ考え始めているのかもしれない」

 

「……はい……」

 

 リーシャは言った。自分達以外の人間では『魔王討伐』は不可能だと。

 不思議とサラには、その言葉が『驕り』には聞こえなかった。彼女達は、ここまでの一年以上の期間で、様々な出来事にぶつかり、その都度それらを乗り越えて来ている。

 それは新たな悩みや迷いを生み出しもしたが、それ以上の自信も彼女達に刻み付けて来ていたのだ。

 

「話が逸れてしまったな……要は、サラ次第だ」

 

「……はい……」

 

 何が『要は』なのかがサラには理解できない。

 それでも、サラは心からの笑顔を浮かべた。

 

「それに、サラはこれから『賢者』となるのだろう? ならば、もう悩んでいる暇等ないぞ?」

 

「……そ、それは……」

 

 しかし、リーシャの言葉を聞いた途端に、サラの顔から再び笑顔が消えてしまった。

 そんなサラにリーシャは疑問を持つ。そして、疑問と共にサラの考えが良からぬ方向へ行っているのではないかという不安を覚えたのだ。

 

「サラ。また何か可笑しな事を考えているのか?」

 

「……いえ……もし、この書物が本当に『悟りの書』であるとしたら……」

 

 そこで、サラは再び顔を俯かせる。サラが何を考えているのか、リーシャには全く理解できなかった。

 魔法に対して憧れを持っているリーシャではあったが、この『悟りの書』の価値は正直なところ理解できていないのだ。

 世の『僧侶』達がどれ程この書物を求め、その希少性を敬っているのかを正確には把握できてはいない。それでも、この書物が『僧侶』という『精霊ルビス』に仕えし職業の者にとって、手に入れて喜ぶべき物である事だけは解っていた。

 故に、サラの表情の真意が掴めない。

 

「あるとしたら……どうなのだ?」

 

「……はい……『賢者』になるのは……私ではなく、メルエが相応しいと思うのです」

 

「な、なに!?」

 

 返って来た答えに、リーシャは絶句する。

 『賢者』になる資格をメルエに譲ると言うのだ。

 ムオルの村で、カミュはサラに『それはアンタの物だ』と言った。

 カミュと同様、リーシャもそう思っている。

 あの塔で、『悟りの書』という貴重な物を見つけたのはサラである。いや、見つけたというよりも、有する資格のある者として認められたと言った方が正しいのかもしれない。

 故に、『賢者』と呼ばれるに相応しいのはサラだと考えていた。

 

「ちょ、ちょっと待て、サラ。何がどうしてそうなった!?」

 

「リーシャさんには見えなかった『悟りの書』の文字を、メルエも見えると言っていました。であるならば、メルエも『賢者』となる素質を備えている事になります」

 

 俯けていた顔を上げ、サラは口を開いた。

 そこに見えたのは、しっかりとした意思。

 既に心は決まっているのだろう。

 

「魔法力の多さ。そして、魔法に関する素質。全てにおいてメルエは私よりも上です。これからの旅では、攻撃呪文の使い手が増えるよりも、怪我等を癒す回復呪文の使える人間が増えた方が利点は多いでしょう」

 

「そ、それはそうかもしれないが……」

 

 サラの根拠のある理論に、リーシャは口篭ってしまう。

 確かに、メルエはこの四人の中でおそらく最も魔法力が多いだろう。幼く小さな身体の何処に、それ程の魔法力を備えているのかと疑問に思う程に。

 そして、それはもはや『人外』と言っても過言ではない。

 

「この先の旅を考えるなら、私よりもメルエが『賢者』となり、神魔両方の呪文を使用出来るようになった方が良いと思うのです」

 

「……サラ……」

 

 もはや、リーシャにサラの言葉に反論できる考えは残っていなかった。しかし、彼女達は忘れている。『賢者』という者は、何も『経典』と『魔道書』の魔法を使う事の出来る者だけを指すのではないという事を。

 

 二人の会話が終わり、ルビス像の優しい笑顔だけが残る静かな教会に、小さな物音が響く。この教会に続く門がゆっくりと、本当にゆっくりと動いていた。

 

「…………んん………うぅぅん…………」

 

 声を洩らしながら全身の力を使い、扉を押し開けて顔を覗かせたのは、先程まで会話の中に登場していた幼い魔法使いであった。

 色々な所を探したのであろう。額にうっすらと汗を浮かべ、リーシャとサラの姿を見つけると、下げていた眉を上げて笑顔を浮かべていた。

 

「メルエ? どうした?」

 

「…………ごはん…………」

 

 傍に駆け寄って来たメルエに視線を向けたリーシャの問いに、顔を見上げながら呟くメルエの言葉を聞き、サラの顔にも再び笑顔が戻る。

 おそらく宿の食事が出来上がったのだろう。食事になっても戻らない二人を呼びに、広い神殿の中を探し回ってくれたのかもしれない。

 

「そうか。結構な時間が経ってしまったんだな。ありがとう、メルエ」

 

「…………ん…………」

 

 頭に乗るリーシャの手を気持ち良さそうに受けるメルエを見て、サラの心は決まった。

 彼女こそ、このパーティーにいなければならない存在。魔法力も、その存在感も別格なのだ。

 

 『ならば、魔法に関してはメルエに任せよう』

 

 魔法の知識、世界の常識等は、これからサラが少しずつ教えていけば良い。

 呪文の行使はメルエに任せ、援護に回れば良いとサラは考えていた。

 

「ごめんなさい、メルエ。お腹が空きましたよね? さあ、行きましょう」

 

「…………ん…………」

 

 笑顔でメルエの手を取り、サラは教会の門へと歩いて行く。そんなサラの後姿を見ながら、リーシャはサラの考えを飲まざるを得ないのだと理解した。

 『悟りの書』を手にしたのはサラである。ならば、『その使用方法を決めるのもサラで良いのではないか?』と考えたのだ。

 

 その夜、食事を取り、眠りに就くまで、その話題に誰も触れる事はなかった。

 

 

 

「昨夜は、ゆっくりとお休みになれましたか?」

 

「……」

 

 翌朝、宿屋を出た一行が階段を下りると、そこには一人の男性が立っていた。

 その男性を確認すると、カミュは訝しげに視線を動かし、リーシャはメルエの手を引きながら軽く頭を下げる。唯一人、サラだけが硬直したように立ち尽くしていた。

 それは、魂だけの存在となった者への怯えなのか、それとも、自分の内にある全てを見透かされる事への怯えのためなのか。

 

「やはり、貴方でしたか……」

 

 男性は、カミュ達を一瞥した後、怯えたように縮こまっているサラに視線を止めた。

 眩しそうにサラを見つめ、にこやかな笑みを浮かべるその顔は、とても一度『生』を手放した者とは思えない程の温かみを有している。

 

「教皇様がお待ちです。こちらへ」

 

 初代教皇が、現教皇に敬称をつける事に違和感を覚えるが、その事を指摘する事なく、カミュ達は促されるまま、広間への門を潜って行った。

 リーシャの手を握りながらメルエは不思議そうに男性を見上げ、その顔に柔和な笑顔が浮かぶと、嬉しそうに頬を緩める。

 

「では、これで」

 

 門の中へとカミュ達を誘導し終わった初代教皇は、サラへと深々と頭を下げる。それは正に臣下の人間が君主に対して見せる物のような恭しい物であり、そしてその態度はカミュ一行に対してではなく、最後尾にいるサラだけに向けられた物だった。

 

「えっ!? あ、あの……」

 

 自分だけに向けられるその態度に、サラは戸惑い、何かを口にしようとするが、それは言葉にならず、顔を上げた初代教皇であった者は苦笑を浮かべながら、静かに消えて行った。

 

「えぇぇぇ!? あ、あれ?……えっ? えぇぇぇ!」

 

「…………あわ………あわ…………」

 

 目の前で消え去ってしまった者に、サラの戸惑いは増し、その現実を認識するに従い、身体が小刻みに震え出す。

 そんなサラの様子を見ながら、小さな笑みを溢したメルエがからかうような一言を発し、リーシャから叱責を受けていた。

 

「……いくぞ……」

 

 後方にいる三人に軽い溜息を吐いたカミュは、そのまま門を抜け、朝日によって輝くステンドグラスが張り巡らされた広間を進んで行く。

 張詰めていた空気はいつの間にか弛み、リーシャやメルエの顔にはいつの間にか軽い笑顔が浮かんでいた。

 

 広間に出ると、そこは以前に訪れた時と寸分も変わらない景色のまま、一行を迎え入れるように色とりどりの色彩が輝いていた。

 自分の顔を照らす様々な色合いの光を受け、メルエは柔らかな笑顔を浮かべ天井を見上げる。

 赤や黄色のステンドグラスによって空の色は確認できないが、今日は快晴である事だけはメルエにも理解できた。

 

「よくぞ戻った!」

 

「はっ」

 

 ステンドグラスによって彩られた通路を歩き、祭壇の前に辿り着いた一行を、既に祭壇に上がっていた現教皇が労いの言葉を発し迎える。その表情には若干の驚きと羨望、そしてそれ以上の喜びに満ち満ちていた。

 

「ふむ。先日お主達がここを訪れたのが、遠い昔の事のようじゃな」

 

「??」

 

 一行の姿を見渡し、しみじみと呟いた教皇の言葉に、サラは思わず顔を上げてしまった。なぜなら、教皇が感じているその感傷は、サラには理解できない物だったからだ。

 だが、サラとは違い、未だに顔を上げないカミュとリーシャは、教皇の語るその真意を理解していた。

 

「ふぉふぉふぉ。それ程、お主達の成長速度が著しいという事じゃ」

 

 驚きの表情を見せるサラに、教皇は笑みを浮かべる。

 その言葉は、誰に向けられたものなのか。

 カミュ達全員に向けられたものか。

 それとも……

 

「それで? 『資格』とやらは見つかったかの?」

 

「あ、い、いえ……」

 

「……『悟りの書』と呼ばれているであろう物はここに……」

 

 教皇の言葉に詰まってしまったサラの代わりに、カミュが教皇へと言葉を返した。

 その一行の様子に気を悪くした素振りもなく、一つ頷いた教皇は、片手をカミュ達に向け、重々しく口を開く。

 

「そうか。ならば、『悟りの書』に選ばれし者よ、こちらへ」

 

「サラ?」

 

 教皇の言葉に、当然前に進み出るだろうとカミュが思っていたサラは俯いたまま動かない。そんなサラの様子に眉尻を下げ、リーシャは哀しげにサラの名を口にした。

 

「ふむ。如何した?」

 

「……おい……」

 

 一向に動かないサラに疑問を投げかける教皇。

 振り向き、サラへと視線を向けるカミュ。

 不思議そうにサラを見上げるメルエ。

 そして、何もかもを理解し、哀しみを表すリーシャ。

 それぞれの視線がサラへと集中する。

 

「……私ではございません……」

 

「なんと!?」

 

 ようやく絞り出すように答えたサラの言葉は、教皇でさせ驚かせる物であった。

 『<悟りの書>に選ばれし者は自分ではない』。

 そう呟くサラは気付いてはいない。その言葉は、自分が信仰するルビス教に於いて頂点に立つ者であり、『人』を観る事に最も長けている『転職を司る者』の眼力を否定しているという事実を。

 

「この書物の中身は、私には最初の一ページしか読む事が出来ませんでした。そして、私以外にもこの書物を読む事の出来る人間がおります」

 

「ほう……」

 

 顔を上げ、話し始めたサラの瞳を真っ直ぐと見詰める教皇の表情は厳しい物へと変化して行く。その瞳を受けて尚、サラは語り続けた。

 『自分よりも相応しい者がいる』、『自分よりも資格のある者がいる』と。

 だが、サラは気付かない。この場所で、それに心から賛同している者は誰一人としていないのだという事を。

 

「メルエ? メルエもあの書物が読めるのですよね?」

 

「…………ん…………」

 

「それは誠か!?」

 

 一人走り始めたサラの問いかけに、メルエは自信を顔に浮かべて頷きを返す。唯一人、ここにサラの意見に賛同する者がいた。

 その者は、年齢にそぐわぬ程の魔法力を持ち、魔法力の流れをも認識せずに強大な呪文を操っていた才能の塊。

 自身の存在価値が魔法であると思い込み、何度仲間がその者の重要性を説いても、理解できない頑固者。

 サラが神魔両魔法を行使できるようになると知り、自分もその書物を読める事を告げた、小さく、幼い少女だった。

 

「そうか……お主はやはり……」

 

 サラの言葉と、メルエの頷きを見て、教皇の目は見開かれた。暫し、驚愕の表情でメルエを見つめた後、どこか納得の行った物へと表情を変化させる。それが何を意味するのかは、カミュ達には理解できない。しかし、今まで厳しく向けられていた教皇の瞳が和らいだ事だけは、この場にいる全員が感じ取っていた。

 

「では、メルエとやら、こちらへ」

 

 一度目を閉じた教皇が、再び片手を差し出し、メルエを祭壇の上へと誘う。教皇の行動を見て、首を傾げたメルエの背中をサラが軽く押し、前へと進めた。

 サラの瞳を一度見たメルエは、一つ頷くと祭壇の方へと歩いて行く。

 

「ふむ」

 

「…………???…………」

 

 祭壇を登りきったメルエの頭の帽子は既にこの広間に入った時から取られている。その頭の上に手を翳し、教皇は目を瞑った。

 再び首を傾げたメルエの頭に小さな光が灯る。

 

「偉大なる神よ。我らが守護者『精霊ルビス』よ。この者に新たな命を注ぎ込み、新たな道を指し示し給え!」

 

 メルエの頭から手を離し、天に向かって両手を掲げた教皇は、本来の仕事を全うする。カミュ達一行の視線も、自然と教皇が広げる両手の先にある天へと向けられた。

 

「…………???…………」

 

「……」

 

 しかし、暫し二人の姿を眺めていたカミュ達には何の変化も感じる事は出来なかった。

 そして、それは何もカミュ達が感じ得ない神秘の成せる事という訳ではない事は、未だに首を傾げるメルエと、唖然とした表情でメルエを見つめる教皇の表情が物語っていたのだ。

 

「……お主……」

 

「……メルエ……」

 

 教皇とカミュの口が同時に開かれる。

 どこか呆れたような、それでいて哀しみを帯びたような呟き。

 暫しメルエを見つめた教皇は、大きな溜息を吐き出した。

 

「……お主……『悟りの書』を読めてはおらぬな?」

 

「…………!!…………」

 

 教皇の吐き出した言葉に、メルエの身体が硬直する。しかし、教皇の瞳はメルエを責めるような物ではなかった。

 『人』の全てを見通すと云われている自身の能力の衰えを感じている訳でもない。涙を溜めているメルエの瞳を真っ直ぐ見つめ、優しく微笑んだ教皇は、再び表情を引き締めた。

 

「出直して来るが良い!」

 

「…………!!…………」

 

 教皇の強い言葉に、メルエの瞳から涙が噴き出した。

 そして、メルエは瞬時に踵を返し、祭壇を駆け下りる。

 

「メ、メルエ! おい!」

 

 メルエの身体は祭壇を降りると、先頭に跪くカミュの横を抜け、その後方にいるサラの横も抜け、最後尾に居たリーシャの横もすり抜けて行く。突然の行動にリーシャはメルエを止める事も出来ず、横をすり抜けるメルエの名を叫ぶ事しか出来なかった。

 大きな扉をなんとか開いたメルエは、そのまま外へと飛び出して行く。茫然とその姿を見つめていた三人がようやく我に返った。

 

「カミュ! 私はメルエを追う。お前はサラに付き添ってやってくれ」

 

「……いや、俺が……」

 

「私では、この先の話を理解する事はできない! お前がサラと共に話を聞き、私に教えてくれ!」

 

 自分がメルエを追う事を言い出そうとするカミュの言葉を遮り、リーシャはそのままメルエを追って行く。残されたカミュは、暫し呆けたような顔でリーシャの背中を見送った後、表情を引き締め、教皇の方へと向き直った。

 

「良いのか?」

 

「……ええ……」

 

「……カミュ様……」

 

 サラは、メルエに関する事をリーシャに託したカミュを不思議そうに見上げた。

 カミュとリーシャは、メルエの事となると我を失う恐れすらある。しかし、カミュは傷心のメルエをリーシャに託したのだ。

 

 『やはり、この二人の心は繋がっているのではないか?』

 

 そんな思いをサラが持ったのは、アリアハンから共に旅して来た者としては当然の物なのかもしれない。あとは、実際にそれを口にしてしまうかどうかなのだが、おそらく彼女は、それを尋ねてしまうのだろう。

 

「では、再び問おう。『悟りの書』に選ばれし者よ、新たな道を受け入れる覚悟はあるか?」

 

「あっ? え……」

 

 再び真剣な表情に戻った教皇の問いかけに、サラの身体もまた硬直状態へと戻って行く。そんなサラの態度に大きな溜息を吐いたカミュは、暫しの間は黙っていたが、一向に好転しない状況にようやく口を開いた。

 

「アンタ以外の人間は、その書物を手に入れる事も出来ず、未だにあの塔を彷徨っている。アンタのその悩みは、あの塔で必死になっている者達を嘲笑う行為だと気付かないのか?」

 

「そ、そんな……」

 

 カミュの発した内容は極論である。

 カミュ自身、今サラに語ったような事を考えた事もない。他人の事などに関心すら持った事もない。むしろ、嘲笑っているのはカミュなのかもしれないのだ。それでも、カミュはサラに向かって口を開いた。

 『必死に<悟りの書>を探している人間に申し訳ないと思わないのか?』と。

 そう言わなければ、サラが前に進めない事を、カミュも理解し始めていた。

 

「それ程、考え込む事でもあるまい。『悟りの書』がお主を導いた。それが何よりの証だ。<ガルナの塔>に『悟りの書』が置かれてから数十年間、誰一人その所在を知る事が出来なかった物が、今お主の手の中にある。ただそれだけの事……」

 

 カミュの言葉を引き継ぐように、祭壇の上にいる教皇が言葉を紡ぐ。その言葉をサラは黙って聞いていた。

 何かがサラの心を騒がせる。

 『自分で良いのか?』、『自分に何ができるというのか?』と。

 そんな考えが何度も頭の中を駆け巡っていた。

 

「……それに……アンタはメルエを傷つけた」

 

「!!」

 

 カミュの瞳は、怒りを宿している訳ではない。

 淡々と話す言葉であることが、逆にサラの心へと直接響いて行く。

 そして、それはサラの心で罪悪感へと変化して行った。

 

「アンタが逃げるのは勝手だ。だが、何も解らないメルエを犠牲にするな」

 

 『悟りの書』を見えると言ったのはメルエだ。カミュの言っている事は、何も知らない人間から見れば、唯の八つ当たりに過ぎないだろう。それでも、サラの心に現れた罪悪感は膨れ上がって行く。

 

「……わかりました……」

 

 どのくらいの時間が経っただろう。俯き、何かに耐えるように両手で自らの身体を抱き締めて立っていたサラの顔が上がった。

 その瞳に、もはや迷いはない。リーシャが常々口にしている『迷い、悩み、苦しんだ末、答えを見付け前へと進む』というサラの顔であった。

 

「心は決まったようだな。ならば、祭壇を上って来るが良い」

 

「はい」

 

 教皇が差し出す手に導かれ、サラは祭壇へと昇って行く。

 アリアハン教会に属する一介の『僧侶』に過ぎなかった一人の少女は、今、大空へと飛び立とうとしている。

 この一年、様々な物を見、様々な物を聞き、そして悩み苦しんで来た。

 信じて来た『教え』の前に立ちはだかったのは、彼女が『世界を救う者』として信じ続けて来た『勇者』であり、救われる立場にある筈の『人』そのものだった。

 それでも、前へ進もうと足掻く彼女を支えたのもまた、彼女と共に歩んで来た『勇者』と仲間達であり、旅路で出会った『人』である。

 

 常に悩み、考え、苦しんで来た一人の少女は、もはや籠の中で暮らす鳥ではない。

 小さく頼りなかったその羽は、『知識』と『覚悟』と『想い』によって、大きく変化して行った。

 そして、それを誰よりも知っている者は、彼女自身ではなく、一年という年月を共に歩んで来たリーシャであり、カミュである。故に、彼女が祭壇を上がって行く背中をカミュは眩しそうに見上げていた。

 

「うむ。よく参られた」

 

「ありがとうございます」

 

 サラは教皇の前で跪く。跪き、顔を伏せるサラに向かって口を開いた教皇の言葉が変化している事に気付いたのは、カミュだけであった。

 緊張で硬くなるサラは、教皇に返答するだけで精一杯だったのだ。

 

「心は、お決まりですな?」

 

「……はい……」

 

 再度の確認の言葉に、サラはゆっくりと頷いた。

 教皇は柔らかな笑みを浮かべた後、サラの頭の上に手を翳し、目を閉じる。

 

「偉大なる神よ。我らが守護者『精霊ルビス』よ。この者に新たな命を注ぎ込み、新たな道を指し示し給え!」

 

「!!」

 

 メルエの時と同じ文言を口にする教皇の姿を遠目に見ていたカミュは、その光景に驚愕の表情を浮かべる。

 教皇が文言を発し、両手を天へと広げた瞬間、祭壇を照らす陽の光とは違う、神々しい光がサラに向かって舞い降りて来たのだ。

 その光は跪くサラを包み込み、まるで光の衣を纏うようにサラの身体を覆って行く。その光景はとても神々しく、カミュは思わず見惚れてしまった。

 眩いばかりの光の衣を纏い、サラは『僧侶』という殻を脱ぎ捨てる。

 

 サラは自分の身体の中で巻き起こっている事に驚愕し、思わず立ち上がってしまう。教皇の言葉と共に、自分に降り注がれた光が、自分を覆うように輝きだした直後、サラの身体に変化が起こったのだ。

 それは、身体的な物ではない。むしろ、その奥に在るもの。その変化はサラの有する魔法力だった。

 サラの中にある魔法力は、基本的に『経典』に存在する呪文を行使するための魔法力である。つまり、サラが現在『魔道書』に記載されている呪文を行使できないのは、その魔法力の在り方にあったのだ。

 

 解りやすく言えば、『人』が生まれた時に有する魔法力は『無色透明』。

 しかし、その中で『僧侶』や『魔法使い』を目指す者が出てくる。そして、『人』が初めて使用した呪文の色へと、その者の魔法力は変化して行くのだ。

 故に、初めに『ホイミ』を契約した人間は『僧侶』へ、『メラ』を契約した人間は『魔法使い』へと成長して行く。

 

 その反面、一度その専用の物へと変化した魔法力は、生涯その形態を変化させる事はなくなってしまうのだ。故に、『賢者』と呼ばれる人間が貴重な存在となる。

 その内なる魔法力の色を唱える呪文によって変化させる事の出来る人間。魔法力に特化した者の中でも異質な者である。

 

「……あ……」

 

 そして、サラの体内の魔法力が弾けた。

 今まで体内に有していた魔法力とは異質な物。色が混じり合ったにも拘わらず、濁った感覚がする訳でもない。ただ、サラは自分が異質な者へと変化した事だけは理解できた。

 

 余談になるが、カミュのような『勇者』や『英雄』と呼ばれる人間の中には、神魔両方の呪文を行使できる者がいる。

 それは、そう呼ばれる人間の体内にある魔法力が元々異質な者であり、『ホイミ』や『メラ』の契約を済ませた後も、その色を変化させないからなのだが、それが理解できるのは、この世の中でも、今自分の変化を実感したサラだけなのかもしれない。

 

「よくぞ、我らの許へお越し下された。『賢者』様……」

 

「えっ!?」

 

 サラの周囲を取り巻いていた神々しい光が収束し、まるでサラの体内に吸い込まれるように消えたのを見届けた教皇が、サラの前に跪いた。

 ルビス教の頂点に立つ者が一介『僧侶』に向かって跪く異様な光景にサラは言葉を失う。そんな二人の立場の逆転を当然の事として受け入れていないのは、サラだけだったのだ。

 カミュは平然と眺め、疑問を口にはしない。教皇は何の躊躇いもなく自分の四分の一程しか生きていない女性に跪き、その傍に控える時期教皇を目される男性も、何の疑問もなくサラに向かって跪いていた。

 

「お、お顔をお上げください! 教皇様ともあろう方が、そのようなお姿を……」

 

「アンタこそ、いい加減に自分の立場を理解しろ!」

 

 跪き、顔を上げようとはしない教皇に、慌ててしゃがみ込むサラの後方から厳しい声が飛んで来る。それは、教会という枠をはみ出してしまったサラが唯一属しているパーティーのリーダーであり、この世界を包む闇を払う為に旅を続けている『勇者』と呼ばれる青年の声。

 

「『賢者』様。あの青年の言う通りです。今、神とルビス様から祝福を受け、『賢者』とお成りになった貴女様は、この地に暮らす『人』とルビス様の懸け橋となられるお方なのです」

 

「え?」

 

 カミュの怒声に振りかえったサラに、跪いたままの教皇が口を開いた。その内容は、再びサラの言葉を飲み込ませてしまう。

 ルビス教の頂点に立つ教皇でさえも跪くという事は、『賢者』という存在の価値はその上を行くという事と同義であるのだ。

 そして、その存在価値は、サラの予想の遙か斜めを行っていた。

 

「『ルビス様に最も近しい者』。それが我々教皇となる者に伝えられている『賢者』という存在です。『精霊ルビス』様のご尊顔を拝し、そのお言葉を直に賜る事の出来る者。それが貴女様なのです」

 

「……わたしが……?」

 

 『精霊ルビス』

 その存在は、教会に属する者だけではなく、この世界に生きる人間であれば知らぬ者は誰一人いない。

 しかし、知る者はいても、見た者はいない。信仰の対象として、その姿を木像や銅像で作成されてはいるが、その姿も古から残る物を見て作っているに過ぎないのだ。

 

「ルビス様のお言葉を賜り、我らの歩む道を指し示すお方。それが『賢者』様です」

 

「……わたしが……ルビス様に……?」

 

 突然の展開にサラの思考が付いていかない。

 一介の『僧侶』に過ぎず、『精霊ルビス』という存在が雲の上どころか、空の彼方であったサラにとって、自分がその尊い存在を目にする可能性のある人物だと告げられても、実感等湧く筈がなかった。

 

「先代の『賢者』様もそうでした。ルビス様のご尊顔を拝し、そして我らにそのお言葉をお聞かせ下さいました」

 

「……先代……?」

 

 いつの間にか、祭壇の下に移動してきたカミュが教皇の口から出た一人の存在に意識を向けた。まるで、その人物と出会い、親交があったかの様に話す教皇に疑問を覚えたのだ。

 

「そう……もう六十年以上前の話です。私がこの神殿で先代教皇から教皇の座を譲り受けた頃、あの方は姿を現しました」

 

 懐かしい者でも見るように、虚空に視線を漂わせ、教皇は口調を改めたまま、過去を語り始めた。

 

 

 

 

 

 その頃、メルエを探し、リーシャは神殿内を駆けずり回っていた。広間を出て行ったメルエは、リーシャの予想を超える程の動きを見せていたのだ。

 宿屋の方へ戻ったと考えていたリーシャは、真っ先に昨晩宿を取った場所へと向かうが、主人の返答は『否』であった。続いて昨晩メルエが迎えに来た教会へと足を向けるが、そこも違う。

 聖地と呼ばれたこの神殿の広さは、リーシャの想像を超える物であり、メルエの痕跡を辿るだけでも一苦労だった。

 

「……ふぅ……ようやく見つけたぞ、メルエ」

 

「…………!!…………」

 

 そして、リーシャが最後に向かった場所は、再三駆けずり回った神殿ではなく、外であった。神殿の大きな門は開け放たれており、その向こうに見える小さな泉の畔に、メルエは一人膝を抱くようにして座っていたのだ。

 リーシャの声に対し、何かに怯えるような瞳を向け、メルエは再び泉の方へと視線を戻す。その心は正確には理解できないが、『怯え』の感情である事だけは確か。

 ただ、『リーシャに怒られるのでは?』という物ではない事も理解できた。

 

「メルエ、勝手に出て行っては駄目だろ?」

 

「…………」

 

 それは、リーシャの苦言に対しても無言で泉を見つめるメルエの態度が証明していた。しかし、リーシャにはメルエの心の中に渦巻く『怯え』について思い当たる事がなかったのだ。

 

「メルエ! 私の話を聞いているのか!?」

 

「…………!!…………」

 

 故に、リーシャの語尾が必然的に強くなってしまう。だが、リーシャは自分が発した言葉に驚いたように顔を向けたメルエの瞳を見て、いつかのように後悔の念を抱く事になった。

 メルエの瞳は涙によって潤んでいたのだ。もはや、それは『怯え』という物ではなく、『哀しみ』と言っても過言ではない物を宿した瞳。

 それを見た時、リーシャの顔は瞬時に歪んで行った。

 

「メルエ……何故、『悟りの書』を読めるというような嘘をついたのだ?」

 

「…………」

 

 メルエの瞳を見ながら、優しく問いかけるリーシャの言葉。それは、過ちを犯した子供を叱るのではなく、冷静にその行為の理由を問いかける物だった。

 しかし、当のメルエは、リーシャの発したある一語を耳にした瞬間、瞳に今までとは違う感情を宿す。

 

「メルエ? 黙っていては解らないぞ」

 

「…………うそ………じゃない…………」

 

「なに?」

 

 再度問いかけるリーシャの言葉に、メルエは小さな呟きを洩らし、リーシャの瞳を見つめ返すが、すぐに顔を伏せてしまう。そんなメルエの姿に、リーシャは軽い溜息を吐いた。

 

「まだ、そんな嘘をつくのか?」

 

「…………」

 

 子供らしいと言えばそれまで。ここに来て、リーシャは『何故、メルエが嘘をついたのか』という疑問の答えを見つけた。

 それは、もう何度もリーシャやカミュがメルエへ伝えてある事に対しての怯え。

 魔法のみが自己の存在意義と考え続ける幼い少女の想い。

 

「メルエ……まだ、私達が信じられないのか? 流石に哀しいな……」

 

「…………!!…………ちがう…………」

 

 リーシャは、未だにメルエがある不安を抱えているのだと感じたのだ。

 『魔法』というメルエが特出した物を失くしてしまえば、リーシャ達がメルエを置いて行くのではないかという不安。

 『賢者』となり、サラが神魔両方の魔法を使用する事が可能となれば、攻撃呪文に特化しているメルエが不要になるのではという不安。

 それをメルエは抱えているのだと考えたのだ。

 

「メルエは、私の妹だ。危険な旅ではあるが、私はメルエと共に旅を続けたい。だが、そんな私の気持ちは、メルエには伝わっていないのだな」

 

「…………ちが……う…………」

 

 哀しそうに俯くリーシャに、慌てたように言葉を返すメルエ。

 基本的に、メルエは相手に自分の感情を伝える事が、まだ上手くできない。言葉という『人』が使用する伝達方法をカミュ達と出会うまで、メルエは使う機会がなかった。自分の感情を表に出し、そしてその気持ちを伝える必要もなければ、それを許されもしなかった。

 故に、メルエは自分の心を相手に上手く伝える方法を知らないのだ。

 

「ならば何故、あのような嘘をつくんだ?」

 

「…………『メルエ』………あった…………」

 

「なに?」

 

 もう一度、『何故』と問いかけるリーシャに返って来たのは、彼女がした質問の回答ではなかった。

 メルエが搾り出すようにして出した答えを、リーシャは理解する事が出来ず、メルエの瞳を見て、首を傾けてしまう。そのリーシャの姿に、メルエは再び顔を俯け、膝を抱え込んでしまった。

 

「どういうことだ?」

 

 それでもリーシャは諦めない。メルエの心が理解できるまで、何度も問い掛け、彼女の不安を取り除いてやりたいとリーシャは考えているのだ。

 故に、考える事が何より苦手にも拘らず、必死にメルエの言葉の意味を考えようと問いかける。

 

「…………本………『メルエ』………あった…………」

 

「ん?」

 

 リーシャの問い掛けに、メルエはもう一度だけ言葉を返す。

 しかし、それきり何も言うことはなく、哀しそうに泉を見つめるだけ。

 

「……メルエ、まだそんな嘘をつくのか?」

 

「…………うぅぅ…………」

 

 メルエの言葉を理解したリーシャは大きな溜息を吐き出した。

 リーシャはメルエが『悟りの書』を読めたという事を、まだ言い張っているのだと理解したのだ。故に、メルエを窘める。

 『そんな嘘をつく必要は何処にもないのだ』と。

 それはリーシャの優しさなのだろう。しかし、リーシャの言葉を聞いたメルエは嗚咽を洩らし泣き出してしまった。

 

「例え、メルエが『悟りの書』を読めなくとも、『賢者』になれなくとも、私達はずっと一緒だと言っただろう? それが何故信じられない?」

 

「…………うぅぅ………リーシャ………きらい…………」

 

「な、なに!? 何故だ!?」

 

 メルエを慰めようと言葉を選びながら口を開いたリーシャは、それに対して返って来たメルエの拒絶に驚愕する。

 『メルエが大事だ』と伝えようとしている自分が何故嫌われるのだと。

 

「……それは、アンタが脳筋だからだろ……」

 

「なんだと!?」

 

 その答えは、後方から返って来る。あまりの言葉に、怒りの感情を剥き出して振り返ったリーシャが見たのは、溜息を吐きながら歩いてくるカミュと、その後ろから歩いてくる見た事のない女性だった。

 カミュの後ろを歩く女性を見た瞬間、リーシャの頭から怒りが消えて行く。

 

「……サラ……なのか?」

 

「えっ!? あっ、は、はい!」

 

 よくよく見れば、その女性はリーシャの良く知る人物。

 黒味掛った青く癖のない髪の毛はこの一年で随分と伸び、今は腰に掛かりそうになっている。髪と同じ青色をした瞳は、自分を見て驚くリーシャに真っ直ぐ向けられていた。

 今はアリアハンを出た時から片時も離さなかった法衣を思わす前掛けは取り去られ、頭に被っていた僧侶帽は、以前にカミュがつけていたようなサークレットへと変わっている。

 カミュの物と同じ様に、中央には青く光る石が嵌め込まれているが、その石の色はカミュの物とは違い、濃い青色をしていた。

 

「その姿は……サラ、『賢者』となったのだな?」

 

「はい!」

 

 リーシャの問い掛けに答えたサラの青い瞳の中には、強い信念が宿っている。少なくとも、リーシャにはそう感じた。

 神殿内で何が起きたのかは解らない。だが、あれ程『賢者』となる事に抵抗を感じていたサラが、この瞳をしている。それだけでリーシャは満足だった。

 

「…………うぅぅ…………」

 

 そんな何かを振り切ったサラの姿を恨めしそうに見つめる小さな瞳。先程、リーシャによって窘められ、それに対して初めてと言って良い反抗を示したメルエだった。

 既に、カミュの足元へ移動したメルエは、カミュのマントの裾を握りながらサラを見つめていた。

 

「そうか……良かったな。それよりも、カミュ! メルエの発言の意味を言え! それが納得いかない物であったら、覚悟しておけよ!」

 

「……」

 

 眩しそうにサラを見つめていたリーシャの瞳が細められる。先程、自分を馬鹿にしたような発言をしたカミュへ視線を移し、怒鳴るように発した声にカミュは盛大な溜息を吐いた。

 そして、メルエの帽子をとり、メルエの頭を優しく撫でながら、カミュはようやく口を開く。

 

「……あの教皇は、『読めてはいない』と言っただけだ……」

 

「それが何だと言うんだ!?」

 

 いつものように回りくどいカミュの説明に、リーシャは牙を剥く。

 この場で、カミュの言葉の意味を理解できないのは、リーシャとメルエ。

 サラは、先程よりも強く優しい瞳でメルエを見ていた。

 

「……誰も、『見えない』とは言っていない……」

 

「なに!?」

 

 カミュの言葉をまだ理解できないリーシャの顔が怒りの表情から困惑へと変化して行く。理解はしていないが、自分の怒りが見当違いである可能性を否定できなくなったのだ。

 

「…………『メルエ』………あった…………」

 

 そんな二人のやり取りを暫し眺めていたメルエが、カミュのマントの裾を引き、カミュの顔を見上げながら口を開く。先程、リーシャによって退けられたからであろうか、その瞳は自信なさ気に潤み、眉は下に下がっていた。

 

「……そうか……」

 

「…………ん…………」

 

 しかし、優しく頭を撫でながら軽い笑みを浮かべたカミュを見て、自分の伝えたい事が伝わったと感じたメルエの顔にも笑顔が浮かぶ。

 そんなメルエの笑顔を見てから、再びカミュはリーシャへと視線を移した。

 

「……文字が読めない者を『賢者』とは呼ばないだろう?」

 

「なに? で、では、メルエは本当にあの書の文字が見えたというのか?」

 

 メルエはリーシャにもカミュにも、『悟りの書』の中に自分の名前が記されていたのだと言いたかったのだろう。

 メルエはこの旅に参加してから、サラの許で多くを学び始めている。しかし、それの多くは一般的な常識がほとんど。

 食事の挨拶から、眠る時の挨拶。起きた後の挨拶から、感謝や謝罪の伝え方。そんな生きて行く上で自然と学べる筈の事を学んで来なかったメルエの為に、サラは一つずつ丁寧に教えていた。

 故に、メルエは文字を読めない。ただ、自分の名前だけはと、サラはメルエに名前の文字の読み方と書き方を教えた。

 メルエと出会って、一年弱の間で、ようやくメルエは己の名前の読み書きが出来るようになったばかりだったのだ。

 

「…………『メルエ』………あった…………」

 

「……そうか、私はまた早とちりをしてしまったのだな……」

 

 カミュという味方を得た事によって、自信を取り戻したメルエが、リーシャに向かって再度同じ言葉を告げる。そのメルエを見て、リーシャは苦笑を浮かべながら先程メルエに向けて告げた言葉を後悔していた。

 

「気になさる必要はありませんよ。メルエも解っています。それに、私もメルエが広間を出て行った時は、リーシャさんと同じ様に考えていましたから」

 

「……サラ……」

 

「…………むぅ…………」

 

 サラの言葉に頬を膨らましてむくれるメルエの頭を撫でながら、カミュも苦笑を浮かべる。『賢者』となり、神魔両方の魔法が行使できるようになったといえども、サラの魔法力は圧倒的にメルエに劣る事に変わりはないとカミュは感じていた。

 故に、メルエが如何に心配しようとも攻撃魔法ではメルエが頼りである事に変わりはないのだ。

 

 実際、『賢者』となったサラが見た『悟りの書』の文字にも、カミュが微かに見た文字の中にも、『メルエ』という単語は記されていなかった。故に、メルエの言っている事が真実なのかどうかはカミュにもサラにも解らない。

 ただ、あのメルエが、声を荒げたリーシャに対しても一歩も引かない程に我を通したのだ。もし、メルエが嘘を吐いていたとすれば、リーシャの叱責を受けたと同時に、俯いて黙り込んでしまうだろう。

 しかし、メルエは言い張った。

 『あの書物の中に自分の名前があった』と。

 

 それが、何を意味するのかは解らない。ただ、カミュは知っていた。

 あのムオルの村の宿屋で、『悟りの書』を開いていたメルエの視線が止まっていた場所は、サラが見ていたページでも、カミュが見たページでもなく、書を開いてすぐの場所。

 所謂『表紙裏』と呼ばれる場所であった事を。

 

「メルエ、すまなかった。許してくれ」

 

「…………むぅ…………」

 

 考えに耽るカミュを余所に、リーシャがメルエの傍に駆け寄り、小さな魔法使いに向かって必死に頭を下げていた。

 リーシャの謝罪に、小さく頬を膨らまして睨んだメルエの顔は『ぷいっ』と横を向いてしまう。その様子を見ていたサラは思わず噴き出してしまうが、その音を聞いたメルエの厳しい視線を受けて、慌てて頭を下げた。

 

「わ、わたしは、メルエを信じていましたよ!」

 

「お、おい! サラも私と同じ様に考えていたと言っていただろ!?」

 

 今の形勢の強者は、間違いなくメルエだ。故にサラはメルエ側に付く事にするが、その行為はリーシャによって阻まれる。

 例の如く、少し前に自分が発言した言葉を覆す『賢者』となった筈の妹のような存在を、リーシャは必死に自分側へと引き戻した。

 

「……」

 

「…………ふふふ…………」

 

 そんな二人のやり取りに、カミュは盛大な溜息を吐き、メルエの頬は緩んで行く。最後には、メルエの口から笑みが零れ、それを見たリーシャの顔にも優しく暖かな微笑が浮かんだ。

 

「本当にすまなかった。だが、メルエ。これだけは信じてくれ。私はメルエが大事だ。例えメルエが私を嫌っても、私はメルエが大好きだ」

 

「…………ん…………」

 

 カミュの足元からメルエを抱き上げ、メルエを瞳を真っ直ぐ見つめながら話すリーシャの言葉に、メルエは嬉しそうに頷いた。

 未だに、自分の感情を『好き』と『嫌い』という言葉でしか表現できないメルエであるが、本当にリーシャやサラを嫌う事などあり得ない。母を慕うように、姉を慕うように、彼女達を慕うメルエにとって、この三人は初めて出来た家族なのだ。

 

「ふふふ。メルエ。私に今度『魔道書』の魔法を教えて下さいね?」

 

「…………いや…………」

 

「えぇぇぇぇ!?」

 

 和やかな空気を作り出すリーシャとメルエに近寄ったサラの問い掛けに、メルエは眉間に皺を寄せ、『ぷいっ』と顔を背けてしまう。

 まさか拒絶されるとは思っていなかったサラが、驚愕の声を上げるが、メルエを抱き抱えるリーシャは優しい笑顔を浮かべたままだった。

 

「こら。そんな意地悪を言うな。『魔道書』の魔法に関しては、メルエのほうが先生なんだ。いつも色々と教えてくれるサラにしっかり教えてやれ」

 

「…………むぅ…………」

 

 リーシャの窘めに、頬を膨らましむくれるメルエであったが、リーシャの笑顔と、哀しそうにこちらを見るサラの表情を見て、不承不承といった様子で頷いた。

 

「……いくぞ……」

 

 メルエの頷きに、嬉しそうに感謝の言葉を述べるサラを一瞥し、カミュが出発の号令をかける。その言葉と同時に、一同はカミュの纏っている物に手を掛けた。

 行き先は決まっている。

 バハラタに寄って、『黒胡椒』を受け取ってから、ポルトガ城へと戻るのだ。

 

「さぁ、メルエ。次は『船』だ」

 

「…………うみ………いや…………」

 

 『船』という単語に潮風を連想したメルエが顔を顰める様子に、リーシャとサラは笑顔を浮かべる。リーシャの肩に顔を埋めてしまったメルエを一瞥し、カミュは詠唱の準備に入った。

 

「ルーラ」

 

 瞬時に一行を包み込んだ光が、上空へと浮き上がる。

 上空で方向を定めるように滞空していた光は、南西の方角へと飛んで行った。

 

 

 

 

 




読んで頂いてありがとうございました。

本当ならば、これが今年最後の更新と考えていたのですが、この六章も残すところあと一話。
故に、あと一話と、勇者装備品一覧を更新し、本年を終えたいと思います。

ご意見、ご感想を心よりお待ちしております。

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