カカリコ村でのホラー討伐から数日後。
蒼牙たちは本来の目的地──ゴロン族の住まう火山都市・ゴロンシティを目指して、デスマウンテンを登っていた。
頭上からは時折、地鳴りと共に落石が転がり落ちてくる。硫黄の匂いと熱気に包まれた道は、まるで生きた大地の喉奥を進むかのようだ。
「……殆どが岩だらけな分、進みづらいな」
蒼牙が険しい崖を見上げながら言う。
「ほんとにこんな所に人が住んでんのかなあ? こんな岩だらけじゃ、息苦しくて仕方ないよ……」
リンクが額の汗をぬぐいながらぼやくと、蒼牙が口元をわずかに緩めた。
「それでも、こういう場所で暮らす連中は、岩より硬い意志を持ってるもんさ」
その直後、上方から「ゴロゴロ……ッ!」と鈍い音を響かせ、巨大な岩が転がり落ちてきた。
「っ、来るぞッ!」
蒼牙はリンクの肩を引き、横の岩壁へ飛び込む。間一髪で岩を避けたその瞬間──転がっていた岩が止まり、まるで身体を伸ばすように腕と足を突き出した。
「……ん? これ、生きてる?」
「大丈夫ゴロか? 怪我人は出てないゴロか?」
「うおっ!? しゃ、しゃべった!?」
その岩の正体は、まさしくゴロン族だった。
「あれ、珍しいゴロ。お客さんゴロか? ここはオラたちゴロン族の住処だゴロ。子供連れが来ちゃ危ないゴロよ」
「俺たちはある理由で族長のダルニアに会いに来たんだ。案内できるか?」
「それは構わないゴロよ? こっちゴロ!」
案内役のゴロンに導かれ、蒼牙たちは火山の内部へと足を進めた。
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やがて、岩壁の奥に開けた巨大な空間が姿を現す。
ゴロン族たちが岩の上を転がりながら行き交い、火の灯る鍛冶場からは金属を打つ音が響いていた。
案内のゴロンが胸を張って言う。
「ここがオラたちの誇り、ゴロンシティだゴロ!」
蒼牙とリンクは感嘆の声を漏らしながら、族長のもとへと向かった。
岩の玉座に座るのは、体格の大きなゴロン族──族長ダルニア。
炎のような瞳をギラリと光らせ、二人を見据えた。
「なにぃ、炎の精霊石だあ? けえんな! あれはオレたちの魂が宿った石だ! ガキどもに簡単に渡せるか!」
その怒声にリンクが食い下がる。ダルニアの意見ももっともだ。急によそ者が来て精霊石を渡せと言われたら、そう簡単に渡せないのだ。
「そんな……ガノンドロフにハイラルが支配されてもいいのかよ!?」
「よせ、リンク」
蒼牙が制止する。声は冷静だが、熱を帯びていた。
「ダルニアには、族長として守るべきものがある。俺たちが他人に大事なものを渡せと言われたら、同じように拒むだろう」
ダルニアは少しの沈黙ののち、にやりと笑った。
「……お前、話がわかるヤツだな。だがな、ガノンドロフとかいう奴が来やがってな、“配下に加えてやるから精霊石を寄越せ”とぬかしたんだ。断ったら……ドドンコの洞窟の古代竜を凶暴にしやがった。お陰で鉱石の岩も採れねぇ!」
怒りをぶつけるように壁を殴りつけ、岩の塊を剥ぎ取ってガリッと食べる。ゴロン族の主食は岩であり、高品質な岩であればかなりの美味だが、ありふれた岩ならばいまいちの味らしい。
「かーっ、不味いぜっ! これじゃ気が晴れねぇ!」
リンクが思わず苦笑いするが、蒼牙はその荒々しさの裏に宿る責任感を感じ取っていた。
「見ての通り、今は手一杯だゴロ。……だがな、どうしても精霊石が欲しいなら──ドドンコの洞窟で暴れてる古代竜キングドドンコを倒して、オトコを見せてみろ!」
その一言に、リンクの瞳が燃え上がる。
「上等だ! 見てろよ、絶対倒してやる!」
「無茶はするなよ、リンク」
蒼牙が肩を叩きながら言った。
「だが……男を見せる時、か。いい言葉だな」
そうして二人はゴロン族の案内でドドンコの洞窟に向かい、キングドドンコを討伐に打って出るのだった。
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岩肌に覆われた洞窟の中。リンクは松明を手に灯りをともしながら進み、蒼牙は周囲の警戒しつつ先頭に立ち、リンクと共に洞窟内を探索していた。
すると地面に奇妙な青くて丸い実に花が咲いた不思議な植物があった。リンクは不思議そうにその植物を見た。
「……これ、何だろう? ソーガ、これって何なのかわかる?」
「それは“バクダン花”だ。引き抜けば数秒で爆発する。衝撃を与えるな」
「ひ、引き抜いたら爆発!? 物騒な植物だなあ……」
蒼牙からバクダン花についての特徴と取り扱いを聞いて少し青ざめた。誰もバクダンで自爆というマヌケなやられ方はしたくないからだ。
軽口を交わしつつも、二人は最深部へと進む。周囲を捜索していると”ズズンッ……ズズンッ……”と地鳴りと共に、洞窟全体が震えた。そして奥の広場から現れたのは、岩と炎の融合体。口から熱風を漏らす、巨大な古代竜。
「で、でけぇ……っ!」
「猛炎古代竜キングドドンコよ! 強力なブレスと距離を取っていると丸まって転がってくるわ!」
「想像以上にデカいな……! どれだけ喰らえこんな巨体になる……」
リンクがキングドドンコの巨体差に驚き、ナビィはキングドドンコの特徴と攻撃パターンをリンクと蒼牙に伝え、蒼牙はキングドドンコの生態を冷静に分析しながらも魔戒剣を構える。するとキングドドンコが大きく息を吸い込む動作を行った。
「……っ! マズイ、ブレスが来るぞ!」
蒼牙の声でリンクはキングドドンコから距離をとった。そしてキングドドンコが大きく息を吸い込み、灼熱のブレスを吐き出す。地面が溶けるような火炎の奔流を、蒼牙は滑るように背後へ回り込み、受け流す。
「うひゃああっ!? なんて火力だ!?」
「惚けてる暇はないぞリンク! 次は転がってくるぞ!」
その言葉どおり、キングドドンコは獲物が遠くにいるリンクに絞り、体を丸めて、岩玉のように転がってきた。その巨体が地面を削り、火花を散らす。
「速っ!? 逃げ切れない!」
「リンクっ!」
蒼牙はキングドドンコよりも速く駆け抜け、魔戒剣を素早く円を描き、鎧を召喚した。そして牙狼剣を牙狼斬馬剣に変え、キングドドンコ叩きつけるように縦一文字に振り下ろす。刃が竜の装甲を裂けずとも、その巨体の勢いを止めた。蒼牙はキングドドンコを抑えながらもリンクにあることを告げる。
「リンクっ! その近くにバクダン花があった筈だ! そいつを奴の口にっ!」
「バクダン花? ……っ! そうか!」
リンクは蒼牙の意図に気づき、急ぎバクダン花を探す。案の定、近くにバクダン花が咲いている密集地を見つける。そこからバクダン花を一つ引っこ抜き、キングドドンコの方に持っていく。そして蒼牙はキングドドンコの転がりが完全に止まったことを確認し、その場から離れた。キングドドンコは再び大きく息を吸ってブレスを吐こうとするが……
「てめえはこれでも食ってろォッ!」
リンクはつかさず爆発寸前のバクダン花をキングドドンコの口内に投げ込んだ。キングドドンコの息の吸い込みは、リンクの投げたバクダン花を丸呑みした。
次の瞬間、体内で炸裂。爆風が腹を突き破り、咆哮と共に竜は崩れ落ちた。
「やった! 倒したぞ!」
「……ああ、よくやったな」
蒼牙が鎧を解き、安堵の息をつく。
ザルバが少し呆れたように言う。
『やれやれ、ホラーでもない相手に鎧を使うとはな……』
「ザルバ、流石にアレは状況判断によるものだから勘弁してくれ……」
ザルバにお小言を告げられ、苦笑しつつも蒼牙たちはゴロンシティに戻るのだった。
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キングドドンコを討伐してから数時間……。ゴロンシティはドドンコの洞窟から採掘される高品質な岩をありつけて大満足な様子だった。ダルニアもたった二人でキングドドンコを倒したことを賞賛した。
「やるじゃねえか! あのキングドドンコを倒しちまうなんてな!」
「やるべきこと果たしただけだ。それに……俺より活躍したのはリンクだ」
「そ……そうかな? えへへ……」
蒼牙に褒められてちょっと照れるリンク。ダルニアは続けて話す。
「前にも言ったが、ガノンドロフが来て精霊石を渡すのを断ったらあの古代竜を凶暴化させてオレたちを苦しめやがった。それに引きかえ、お前たちはオレたちのために……。お前たちこそオトコの中のオトコだ!」
そう言ってダルニアは片手の掌で赤い光を収束させ、赤い球を生成した。その赤い球の光が消えるとそこには炎の精霊石”ゴロンのルビー”があった。
「さあ受け取んな。これは俺からの感謝と……。友情の印だゴロ!」
そうしてリンク達に炎の精霊石を受け取り、ダルニアからキングドドンコを討伐祝いを兼ねて宴会を開くことになった。
「今日からお前たちはオレたちのキョ―ダイだ! おいみんな、今夜は宴会だ! 踊るぞ~っ!」
ゴロン族たちは歓声を上げ、ドンドンと地響きを立てながら踊り始めた。すると一人のゴロン族がリンク達にこっそりと話した。
「実はダルニアのアニキ、ああ見えてもダンスが趣味なんだゴロ」
「へぇー」
「そうか……」
二人それぞれの反応を見せつつも、宴会が始まり、今日は楽しい夜となった。
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深夜の夜、今日はゴロンシティで寝泊まりすることになり、ゴロンシティの宿屋で休んでいた蒼牙たち。宿の一室。宴の喧騒も遠く、静けさが満ちる。
「ソーガ、大事な話って何っ?」
「ああ……ナビィもいるか?」
つ
「いるわよ。どうしたの、急に?」
蒼牙は真剣な面持ちで二人を見つめ、静かに口を開いた。
「明日の朝は出発しない。……もう一泊する」
「えっ? なんで?」
蒼牙は二人に明日の朝は出発せず、もう一泊することを告げた。リンク達は何故もう一泊するのか不思議に思った。その答えを蒼牙が告げた。
「明日は“新月”だ。新月の夜、黄金騎士はその姿を隠す。──正確には、一日だけ仮死状態になる」
「仮死状態……? なんで……」
リンクの瞳が揺れる。
「ザルバに、俺の命を吸わせるためだ」
そのように告げられたことにリンクは驚いていた。
「な……何でっ!? どうしてそのことを言わなかったんだ!?」
「それにザルバって、その指輪のことでしょっ!? ザルバと一体何の関係があるのっ!?」
「落ち着け、言っていなかった俺も悪いがこれには理由がある。一つはリンク達に余計な心配を避けるためだ。今なら大丈夫だと判断してこうして話している。そしてもう一つは、ザルバは俺たちが狩るホラーであるが、味方するホラーだ」
ザルバの正体を明かされたことにリンクたちは余計に混乱した。
『まあ、混乱するのも無理はない。俺と蒼牙は契約のもと、新月の日に蒼牙の一日分の命をもらう形で命を吸っている。互いに相棒である為の対価だと思えばいい』
蒼牙とザルバに衝撃な事実を聞かされ、リンク達はどうすればいいのか分からなかった。
「そんなの、そんなのって……!」
「心配するな。いつも通りに接してくれ。それが一番だ」
蒼牙は、いつも通り接すればいいと残して眠りについた。リンクも眠りにつこうとするも、つい先のことを考えていた。いくら一日分の命を吸われるだけとはいえ、自分より先に死んでしまうのかと不安がいっぱいであまり寝付けなかった。
いくつもの不安を抱えたまま、次の朝がやって来た。
──続く。