夢の中で、リンクは城が燃える光景を見ていた。
それはハイラル城ではない、見知らぬ城。しかし、なぜか懐かしかった。
炎の中を、赤子を抱いた女性が馬で駆け抜けていく。その瞬間、どこからか声が響いた。
”──リンク”
聞き覚えのある声。それはデクの樹の声だった。
「っ! デクの樹サマ!」
夢の中のデクの樹の幻聴を聞き、目を覚ました。
そこは野営地。夜明け前の冷たい風が頬をなでた。リンク達は外で野宿していたのだ。
「……夢か」
「大丈夫か? 少し魘されていたようだが」
「ううん、大丈夫。問題ないよ」
焚き火の残り火を見つめながら、リンクは小さく息を吐いた。
ホラーとの戦い、旅路の疲れ、そして蒼牙と共に過ごした時間――。
少しずつ、少年の顔が戦士のものに変わりつつあった。
リンクは改めて精霊石を見た。
「コキリのヒスイ、ゴロンのルビー、──残るはあと一つだ!」
「その一つは水の精霊石だったな」
「そうなんだよな。でも、その水の精霊石がどこにあるのか全然わかんない……。デクの樹サマなら知ってたかな?」
リンクの呟きを聞き、蒼牙は静かに目を閉じる。蒼牙もこの世界に転生してから設定や場所が少しづつうろ覚えになってきていて正確な場所を忘れてしまっていた。
蒼牙はこの世界に転生する前に神界にて牙狼の鎧を継承するための修行を100年行ってきたのだ。記憶が摩耗していてもおかしくはなかった。
そのとき、ザルバが声を上げた。
『蒼牙。ホラーの気配を感じる。北東の方角だ』
「北東……ゾーラの里の方角か」
ゾーラの里がある方角にホラーの気配。嫌な予感がした。ゾーラの地に、ホラーが現れている。
「リンク、ここからは別行動だ」
「別行動? ……もしかして、ホラー?」
「ああ。リンクはあそこにある牧場で待機してくれ」
指さされた先には、穏やかな草原にたたずむ牧場があった。
リンクは不安げに頷く。けれど、心の奥で確信していた。――蒼牙なら大丈夫、と。
蒼牙はマスターバイク牙狼型を召喚し、黒金の機体を跨ぐ。
翠の焔が車体を包み、風を裂いて走り去った。
その背を見送りながら、リンクは牧場へと向かった。
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牧場へ着いたリンクは、どこからか歌声を聞いた。
「……歌?」
「この時間に? 誰もいないはずよ」ナビィが警戒の声を上げる。
ナビィの言う通り、今の牧場は誰もいない。家の中で眠っているからだ。
「オバケかもよ……。ね、早く行こうよ!」
「妖精のくせにオバケが怖いの? ホラー相手にしてるくせに」
軽口を叩いたその時、柵の向こうから何かが飛び越えた。
「うわっと!?」
「でたよ—っ! いやーっ! キラーイ! ……あれっ?」
柵から飛び越えたものの正体は、体が茶色で白金の鬣をもつ一匹の仔馬だった。
「馬……? なんで牧場の外に」
そこへ、少女の声が響く。
「誰かいるの?」
オレンジ色の髪を二つに結んだ少女――マロンが現れた。
無邪気な笑顔で、リンクの手を引く。
「わあっ、久しぶりのお客さまね。ようこそ、”ロンロン牧場”へ! 君、見たところ森の妖精の子なんだ。案内してあげる──こっちよ!」
「いや、オレたち観光じゃ……って、ちょ、ちょっと!」
ナビィが溜息をつく中、リンクはそのまま牧場内を引っ張り回された。
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一方その頃。
蒼牙はゾーラの里へと続くゾーラ川に辿り着いていた。
澄んだ水面を渡る風の奥、確かに“闇”の匂いがした。
川辺で釣り糸を垂らす旅人の姿があった。穏やかそうな男――だが、何かが違う。
『蒼牙、奴だ。ホラーの匂いが濃い』
「……いきなりのアタリか」
ザルバがその旅人がホラーであることを示した。すると旅人がこちらに気づいたのか、手に持っていた釣竿をしまう。
蒼牙は魔導ライターを旅人の前に翳し、翠に燃える魔導火を見せる。すると瞳に魔戒文字が浮かび上がる。
「魔戒騎士かよ……せっかく獲物を待ってたのに、間が悪いな。エサが食いつくまで待ってんだ。一人くらいいいだろう?」
『蒼牙。こいつはどうやらゾーラの里のゾーラ族を主食にしてやがるぜ』
このホラーがゾーラ族を主な餌として、ホラーの持つ能力で餌が食らいつくの待っているのだろう。
猶更目の前のホラーを逃がす訳にはいかない。
「ちっ……さすがに魔戒騎士に言っても融通が効かねえ。──どうやら、てめえを始末しなけりゃ美味い餌にありつけないようだな!」
そう言って自身から熱が発して体が崩れだし、ホラー本来の姿を現した。その姿は蠟燭のような姿で黒いコートを彷彿とさせる体の一部が特徴のホラーだった。
『こいつは”キャンドリア”だ! 炎を操る能力に気をつけろ!』
ザルバの助言でより警戒する蒼牙は魔戒剣を引き抜き、切りかかろうとする。キャンドリアは腕を鰭のような刃を展開し魔戒剣を捌き切る。
そこからは蒼牙の魔戒剣とキャンドリアの鰭の刃の剣戟だった。しかし、何十回も刃と刃の打ち合いでキャンドリアの鰭の刃が先に折れた。
腕の鰭が折れた際に、蒼牙から距離を取るように狭い通路に逃げ込んだ。蒼牙は逃がさず追撃し、後を追った。
蒼牙はホラーを追い込んでも油断せず魔戒剣を構える。するとキャンドリアは自身の能力で片手の戦鎚を生み出して戦鎚に炎のエネルギーと貯め、それを蒼牙に向けて突っ込むように放った。
この技を見た蒼牙は直に受けてはだめだと判断し、横に躱す。蒼牙がいた場所を見てみると、そこは壁によって行き止まりであり、壁には大きなクレーターが出来ていた。
『ヤバかったぜ! アレをもろに食らったらいくらお前でもおしまいだ!』
蒼牙もキャンドリアの攻撃を重々警戒していたとはいえ、あそこほどの攻撃力を目の当たりしてより一層警戒しつつも魔導ライターを取り出し、魔戒剣の刃に翠の魔導火が走る。炎が風を裂き、夜を照らす。
炎を纏った魔戒剣を蒼牙の背後の通路に線を引くように魔界の炎の壁を作った。ホラーを逃がさないためだ。そして蒼牙は魔戒剣を天に掲げ、円を描いてゲートを開いて鎧を召喚する。
キャンドリアが戦鎚を振り下ろす。しかし、牙狼剣がそれを弾き返し、逆に貫く。
「終わりだ――」
一閃。
黒き炎が霧散し、ホラーは断末魔とともに消えた。
鎧を解除した蒼牙は静かに息を吐く。
そのとき、空から声が響いた。
「わああぁぁ──っ!?」
「……リンク?」
何故かリンクの声が聞こえて上の方を向けると、そこにはリンクが空から降ってくる光景だった。しかもリンクが落ちた場所がゾーラの里がある場所だった。
「ザルバ、まさかと思うがリンクが落ちた場所は……」
『ああ。あの小僧が落ちた場所はゾーラの里の泉のところに落ちやがった』
蒼牙は呆れつつも笑みを漏らし、マスターバイクを呼び出す。
「まったく、騒がしい奴だ……。だが、運命というのは得てしてそういうものか」
翠の焔が再び走り、蒼牙はゾーラの里へと向かっていった。
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蒼牙がホラーと戦っているその頃。
リンクはマロンと共に牧場を回り、歌を聞き、笑い合っていた。
夜風が穏やかに吹き、月が静かに照らす。
「はーっ、毎日仕事、仕事で疲れちゃった」
「マロン、お母さんは?」
そうリンクが尋ねると、マロンが母は自分が小さい時に亡くなったと聞かされたが、意外と平気そうな感じだった。
「こうして夜、歌ってるととても気持ちいいの」
「ふーん。オレはこのオカリナかな」
マロンは夜空を見上げ、月を見ながらリンクに語った。
「あの月のむこうから私だけの王子様が舞い降りてきて──なんて、考えると素敵じゃない? 妖精クンは夢ってないの?」
「夢……かあ。そうだな」
リンクは空を見上げる。
――デクの樹サマの言葉が、ふと脳裏をよぎった。
“世界を知って、大きくなれ”
「オレの夢は……ソーガと一緒に、いろんな世界を見てみたいんだ」
「ソーガ? ソーガって……誰?」
「え、あー……その……」
慌てるリンクにマロンがくすりと笑う。
その時、月から大きなフクロウが翼を羽ばたかせてやって来た。
「ホッホゥ! だいぶたくましくなったようじゃの、リンク」
「うわっ!? なんだお前!?」
「お前とはぞんざいな。ワシの名は”ケポラ・ゲポラ”。お前のことは赤ん坊の時から知っておるゾ。デクの樹とも古ーい知り合いじゃよ」
「デクの樹サマと!?」
ケポラがデクの樹の古い知り合いであることに驚く中、ケポラはリンクに重要なことを告げる。
「リンク、水の精霊石はゾーラの里にある。……お前の仲間も、そこへ向かっておるぞ」
その言葉にリンクの瞳が輝く。蒼牙がそこにいる――なら、行かねば。
「ホホッ。ワシの言葉に耳を貸すならこの足につかまれ。運んで行ってやろう」
「わかった、連れてってくれ!」
リンクの決断は早く、ケポラの足にしがみつく。
見上げたマロンが叫ぶ。
「妖精クン、もう行っちゃうの!?」
「また遊びに来るよ、マロン!」
「ぜったいよ、ぜったいまた来てねー!」
夜空に月が浮かび、二人の声が風に乗る。
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天空まで飛び、ゾーラの里まで運んでもらっているリンク。ケポラは軽口をはさむ。
「ぜったいまた来てね~~、か。ホッホー、お主モテるのう。美少女ばかり4人目」
「るせーな、もうっ!」
ケポラにからかわれて少し赤面するが、リンクは地面の方を見てみるとハイラルの大地が広く見えていた。
「どうじゃな、”世界”は」
「すげーでかい! 地上のもんがみんなムシみたいだ。オレたちって小さいなあ」
改めて世界の広さを実感したリンク。するとケポラからあること告げられる。
「その小さいお前が”世界”を変える力を持っているのだぞ。リンク、お前は自分で望んで森に出たと思っとるだろうが……、実はずっと前から運命づけられていたのじゃ。あの黄金騎士と共に……」
「え!? ソーガと? それって……」
それを聞き出そうとした時に目的の場所についたのか、途中でリンクを手放した。その結果──
「わああぁぁ──っ!?」
そのままゾーラの里の泉に落ちていった。ケポラは静かにその様子を見届ける。
「じき、その真の意味を知るじゃろう……。そして――黄金の騎士よ。この世界に入り込んだ悪魔を、斬り払え」
月光の下、梟の翼が音もなく夜空へ消えた。
その光景を、遠くの崖上から翡翠色の炎が静かに見つめていた。
──続く。