牙狼 異世界黄金騎士伝   作:コレクトマン

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旅立ち~Departure~

 突如、デクの樹内部に轟音が響いた。

 壁を突き破って現れたマスターバイク牙狼型が、暴れ狂うゴーマに体当たりし、リンクとミドナを寸前で救い出す。

 

 土煙の中から姿を現したのは──白を基調とした重厚な衣に身を包む少年、蒼牙。

 両肩と胸元には、黄金騎士に連なる証である正三角形の紋が左右対称に刻まれており、その存在は光そのものの象徴だった。

 

 リンクとミドナが息を呑む中、蒼牙の魔導輪ザルバが声を上げた。

 

『こいつは……この世界の魔獣であるゴーマをベースにして、新たなホラーが生まれたようだな。名付けるとするなら“甲殻寄生魔獣ゴーマ・シャドウ”か。両腕の爪には注意しろ!』

 

「「しゃ……喋ったぁ!?」」

 

 リンクとミドナは同時に絶叫した。喋る指輪という存在に、ただ驚くしかなかった。

 

 蒼牙は魔戒剣を引き抜き、真っ直ぐゴーマ・シャドウへ走り出す。

 鋭い斬撃が放たれるが──刃は甲殻に弾かれ、火花を散らすだけだった。

 

「……硬いな。普通の攻撃じゃ通らないか」

 

「ちょっとそこの貴方! 目よ! 前の時みたいに目を狙えば!」とナビィが叫ぶ。

 

 しかし、ザルバが低く否定する。

 

『無駄だ。今の奴は邪気で強化されている。前と同じ戦法が通じるとは限らん』

 

「じ、じゃあ……どうすんだよ!? このままじゃ、全滅だ!」とミドナが焦燥を隠せずに叫ぶ。

 

 しかし蒼牙は短く答えた。

 

「なら──力押しで押し切る!」

 

 蒼牙は魔戒剣を掲げ、虚空に大きな円を描く。その軌跡から黄金のゲートが展開し、眩い光が溢れ出す。

 

 光に包まれた瞬間、白き衣は黄金に変貌し、全身を覆う鎧──黄金騎士・牙狼が顕現した。

 

 リンクとミドナはその荘厳な姿に目を見張る。

 

「な、なに……あれ……!」

 

「黄金の……鎧……?」

 

「この光は……ただ者じゃないわ……!」

 

 蒼牙は牙狼剣を握りしめ、力を籠める。するとその剣は姿を変えるように刀身が伸び、斬馬刀のごとき巨大な刃──牙狼斬馬剣へと姿を変えた。

 

「はあああッ!」

 

 振り下ろされた一撃が、ゴーマ・シャドウの防御を嘲笑うかのように叩きつけられる。

 ──ズシンッ!!

 強化された甲殻ごと、その腕を切り裂き落としたのだ。

 

 ゴーマ・シャドウは苦痛と驚愕の咆哮を上げる。

 決して破られるはずのない装甲を打ち砕かれた衝撃に、体が大きく仰け反る。

 

 蒼牙は好機を見逃さなかった。牙狼斬馬剣を再び大剣の姿に戻し、左腕に刃を乗せる独特の構えを取る。

 そのまま一直線にゴーマ・シャドウの巨大な目へ──突き刺す。

 

「貫けぇッ!」

 

 蒼牙の牙狼剣が眼球を突き破った瞬間、甲殻寄生魔獣ゴーマ・シャドウの全身に亀裂が走った。

 

 体内から漏れ出す黄金の光が邪気を焼き払い、次の瞬間、巨体は轟音と共に黒い霧となって四散する。

 

 残されたのは、憑依前の小さな寄生虫──しかし、それも長くはなかった。

 

 黒い瘴気が虫の体を蝕み、やがてその小さな命もまた霧となって散っていく。

 

 リンクとミドナは呆然とその光景を見つめた。

 

「……あんなに暴れてたのに……元は、こんな小さな虫だったのが」

 

「嘘だろ……あんな化け物をこうも簡単に……。それにしてもあの黒いもやは、一体……なんだ?」

 

 ナビィも羽音を震わせながら、小さく声を漏らす。

 

「普通の魔物じゃない……。私、こんなの見たことない……」

 

 黄金の鎧を纏った蒼牙は、ゆっくりと剣を下ろし、黄金の輝きと共に鎧を解いた。

 

 鎧は粒子となって消え、再び白き衣の少年の姿へ戻る。両肩に輝く正三角形の紋が、ただならぬ存在感を示していた。

 

『……片付いたな。だが油断するな、小僧。この森の奥には、まだ厄介な気配が残っている』

 

 ザルバの低い声が響く。

 

「……ああ。行こう」

 

 蒼牙は短く答え、魔戒剣を収めた後にリンク達に視線を向けた。

 

「先ほどの魔獣を討滅したことで森も安定する筈だ。急いで戻るぞ」

 

「……あっそうだ、デクの樹サマ!」

 

 そうして色々なごたつきがあったものの、マスターバイク牙狼型を回収しつつリンク達と互いに距離を保ちながら、外へと走り抜ける。

 

 

 

 ___________________________________________

 

 

 

 ゴーマ・シャドウが消え去ったことで枯れていた草木が青葉へと戻り、森に静寂が戻る。

 

 リンクはゴーマを倒したことをデクの樹に報告した。これでデクの樹は助かると確信をもって。

 

「よくやった……リンク、そしてミド。それにリンク達の危機にはせ参じて来た者よ。3人のお陰で見事呪いを解いたな。だが……、ワシの命はもとに戻らぬようだ」

 

 デクの樹から己の命が尽きることを告げられたことにリンクは驚きを隠せなかった。蒼牙に至ってはこの世界のデクの樹の結末を知っているために何も語らなかった。

 

「なんで? そんな! 死なないで、デクの樹サマ! オレ、一生懸命に戦ったのに……。そんなのやだ!!」

 

 デクの樹の確実な死を受け入れられないリンクに空気そのものが震えるように、デクの樹が言葉を紡ぐ。

 

「……リンク、よく聞け。お前たちが対峙したのは、ただの魔物ではない。……あれは“ホラー”と呼ばれる異界の存在に取り憑かれたものだ」

 

「ホラー……?」

 

 リンクが眉をひそめると、ナビィが不安げに続ける。

 

「そんなの、今まで聞いたこともないよ……」

 

 デクの樹の枝葉がざわめき、まるでため息のように風が流れた。

 

「数日前、我は夢のような幻の中で声を聞いた。──“ホラーは闇より生まれ、欲望と恐怖を糧にして、人の身も魔の身も蝕む”と。そして、その存在に抗えるのはただ一つ。“魔戒騎士”と呼ばれる者たちであると」

 

 リンクは思わず隣の蒼牙を見る。

 

「……じゃあ、あんたが……」

 

 デクの樹は重々しく頷くように幹を震わせる。

 

「うむ。あの者はその騎士の中でも最強と伝えられる“黄金騎士”……。我は初めて姿を見たが、確かに声の告げた通りだった」

 

「お、黄金の……!?」

 

 蒼牙は静かに目を閉じ、言葉を挟まずただ立っていた。

 

 デクの樹の声は、さらに低く、森全体を包み込むように響く。

 

「……だが、ホラーがこの森に訪れる前のことだ。憑依される前のゴーマに食われながら、奴の思念通じてわかった。奴もまた呪いをかけられていたのだ。この恐ろしい邪悪な力を操るのは……“黒き砂漠の民の王”。かの者はハイラルを支配し、女神の遺した聖なる力──“トライフォース”を我が物とせんと動いておる」

 

「トライフォース……?」

 

 トライフォースという言葉を聞き、ナビィが慌ててリンクの隣で叫ぶ。

 

「トライフォースって、ハイラルを創った女神たちが残した力のことだよね!? 心正しき者が触れれば善き世界に、心悪しき者が触れれば、世界は悪に支配されるっていう……」

 

「そうだ……。ハイラルに恐ろしい危機が迫っている……。あの悪しき者をトライフォースに触れさせてはならぬ……!! だがおまえのその勇気があれば、必ずやつの野望を打ち砕けるだろう……」

 

 そうデクの樹は告げるが、リンクは怖かった。その強大な邪悪の力を操る者と戦うことを……

 

「……なんでオレなの? できないよ、オレそんなこわいやつと、戦うなんて……」

 

「おまえならできる! 外の世界を知って大きくなれ……リンク。それに、おまえは一人ではない」

 

 デクの樹に一人でないことを告げられたリンクは偶然蒼牙と目が合い、蒼牙はそうであると示すように頷く。そしてデクの樹から行き場所を示した。

 

「よいか、ハイラル城を目指せ。そこに神に選ばれし姫がおいでになるはずじゃ……。姫にこの石を渡すのだ。あの男がわしに呪いをかけてまで欲した”森の精霊石(コキリのヒスイ)”を……!!」

 

 するとデクの樹から一つの石がゆっくりとリンクの下に振ってきた。リンクが手にしたのは森の精霊石だった。デクの樹はリンクに森の精霊石を渡した後、蒼牙に声をかける。

 

「黄金騎士よ……リンクを頼む……。リンクは外の世界に関してはまだ疎い。彼を支えてやってくれ」

 

「あぁ、任せてくれ。リンクは俺がちゃんと守る」

 

「……うん。わかった。デクの樹サマ」

 

 リンクがそういうと、デクの樹の身体に異変が生じる。少しずつ木の身体に亀裂が入り、葉が茶へと枯れ始めたのだ。とうとうデクの樹がこの世を去ろうとする瞬間だった。それでもデクの樹は最後の力を振り絞ってリンクとナビィに告げる。

 

「わしの……亡骸で盾を作るが……よい。あらゆる邪悪からお前を守るだろう……」

 

「デクの樹サマ……」

 

「ナビィ……。リンクや黄金騎士を助けるのだ……。頼んだぞ……。……みな……さらばじゃ……」

 

「「「デクの樹サマ!!」」」

 

 デクの樹はリンクと蒼牙に希望を託した後に一気に枯れ始め、やがてデクの樹だった樹はただの物言わぬ枯木となりこの世を去った。デクの樹にとって子供でもあるコキリ族に見送られながら…………

 

 

 

 ___________________________________________

 

 

 

デクの樹が亡くなってからリンクの行動は早かった。

 

「ミド、その剣貸してくれ」

 

「お、おう……」

 

ミドから借りたコキリの剣。ゴーマと戦う際にミドは怖気づいて剣をまともに振るう機会がなかったが、リンクがコキリの剣を使ってデクの樹の亡骸となった木の破片を加工し、盾を作り出した。デクの樹の教えを守り、旅立つ為の装備を用意したのだ。

 

「うん、よしっ。よろしくな、ナビィ」

 

「行こう!リンク」

 

「それと……えっと……?」

 

「そういえば名乗ってなかったな。黄金騎士じゃあ呼びづらいだろう?蒼牙だ。堂島蒼牙……おっと、この場合はソーガ・ドージマか。ソーガと呼んでくれ」

 

「じゃあ改めて、よろしくソーガ」

 

互いに自己紹介をしたときにミドナが心配だった。お世辞にもリンクとは仲は良くなかったが、それでもコキリの森で過ごした仲間に違いはなかった。

 

「行くってお前、どこへ行くんだよ……。第一、オレ達コキリ族は森の外に出たら生きてけねーんだぞっ」

 

「オレ……外の世界を見てみたいんだ、ミド。どのくらい広いのか、何があるのか、自分の目で。精霊石を届けたら帰ってくる」

 

そう言ってリンクはコキリの剣をミドに返そうとする。しかし……

 

「そんな剣……くれてやらあ!!」

 

ミドナはそれを拒否した。今にも泣きそうな顔をしていた。

 

「おまえなんかもう帰ってくんな!」

 

その言葉は自分に素直になれないミドナの精一杯の言葉だった。本当は引き止めたい。しかし素直になれずこのような言葉しか出なかった。しかしリンクはミドナの気持ちを理解していた。だからこそリンクは何も言い返さず、そのまま外の世界へと通ずる森へと走り出す。蒼牙もまたリンクの後を追うようにマスターバイク牙狼型を走らせてコキリの森を後にする。後ろからはミドナが「帰ってくんな、バカーっ!!」と声が響く。それでも立ち止まらずに外の世界に通ずるであろう森の出口まで向かうのだった。

 

そして外の世界へとつながる気の吊り橋を渡っていると、一人のコキリ族の少女がいた。

 

「……行っちゃうんだね」

 

「サ……サリア……」

 

その少女の名は”サリア”。幼いころからのリンクの友達だ。

 

「オレ……みんなとは違うなってずっと思ってた。ひょっとしたらオレは……」

 

「えっ?」

 

「でも……、この森がオレの家だ!」

 

「うん」

 

リンクは内心ほかのコキリ族の子供たちとは違うことを薄々感づいていた。生まれた時から自分のパートナーの妖精がデクの樹の異変が起きるまでは現れることはなかったのだ。だが、リンクにとってはコキリの森は自分の家にあることには変わりなかった。サリアは懐からオカリナを取り出してリンクに差し上げた。

 

「このオカリナあげる……。ときどき吹いて森のこと思い出して……ね?」

 

「ああっ、わかった」

 

そうしてリンクはサリアからオカリナを受け取った。その時に蒼牙が吊り橋では走行すると危険であると分かってるためマスターバイク牙狼型から降りて手押しでやってきた。

 

「別れを告げたか?なら行くぞ」

 

「えっ?ちょ……ちょっと待ってよソーガ!」

 

蒼牙に置いて行かれないよう後を追うリンク。サリアはそのリンクの後ろ姿を見送るのだった。

 

 ──続く。

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