──風を切る音が耳を裂く。
広大なハイラル草原を、一頭の獣が駆け抜けていた。
狼のような姿をした銀灰色のバイク──マスターバイク牙狼型。
その背に、黒衣の青年・蒼牙が跨り、後ろには森の少年リンクが必死にしがみついていた。
「うわああああっ!? 速ぇぇぇぇっ!!」
「しっかり掴まってろ。一応時速40キロ以内に止めながらハイラル城に向かってるからな」
「それはそうなんだけど、いくら何でも早すぎるよーっ! 妖精の私ですら追いつくのもやっとなのに!?」
フードの中から、青白い光を放つ妖精ナビィが叫ぶ。
蒼牙の口元には、わずかに笑みが浮かんでいた。
草原を渡る風が、彼らの過去と未来を繋いでいるかのようだった。
──そして、遠くにそびえる白亜の城壁が視界に入る。ハイラル城下町だ。
蒼牙はバイクを門が見えない位置に停め、エンジンを切る。次の瞬間、牙狼型バイクは光の粒子となって空へと溶けていった。
「な、なんだ今の……!? 消えた……?」
「安心しろ。俺の意思で呼び出せる。魔導機械みたいなもんだ」
そう言って蒼牙は軽く笑い、リンクの肩を叩いた。
「さぁ、行くぞ。ハイラルの心臓部へ──」
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リンクにとって初めての町に驚きと興奮を隠せないでいた。初めて見る人混み、立ち並ぶ店、香ばしいパンの匂い、笑い声──
リンクはすっかり目を輝かせていた。
「すげぇ……! 森の外って、こんなに賑やかなんだ!」
そんな少年の無邪気さを見て、蒼牙は小さく息を吐いた。
「リンク。この世界の通貨を用意してくる。それまでじっとしてろ」
「えっ……通貨? 何それ?」
「金だ。この世界にも通貨がある。“ルピー”って言うんだ」
「ルピー? それって食べ物?」
「……違う、食べ物じゃない」
初めて聞く単語に悩むリンクに呆れたように言い残すと蒼牙はこの世界の通貨である”ルピー”を確保するためにリンクと会う前に禁断の森で採取したハイラル原産の作物を買い取ってくれる様々な店を訪れるのだった。
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それぞれの店でとってきた作物を売却し、99ルピーまで入手することに成功した蒼牙は、待っているはずのリンクを探すが何処にもいないことに気づく。
「……やっぱりな」
蒼牙は眉をひそめ、気配を探る。リンクや蒼牙にとってこの城下町に来たのは初めてでまだ土地勘が慣れていなかった。やがて、噴水広場の方から少年の声が聞こえてきた。
駆け寄ると、リンクは年の近い少女と楽しそうに話していた。少女は上品な服を着ており、どこか気品を感じさせる。
「探したぞリンク。じっとしてろって言ったのにここで迷子になったらシャレにならんぞ」
「あっ……ソーガ」
リンクが振り向いた。少女は少し驚き、だがすぐ微笑んだ。
「あなたは……この子の友達?」
「まぁ、そんなところだ。助かった。ありがとう」
少女の名は名乗られなかったが、蒼牙はすぐに察していた。
──この少女が、ゼルダ姫だと。
少女にお礼を言った後にどうやってハイラル城に入るかリンクとナビィと相談していると、少女からある提案をした。
「ねぇ、今日一日──私と一緒に遊ばない? そしたらゼルダ姫のところへ連れてってあげる!」
唐突な提案に、リンクの目が輝いた。
「ほんとか!?」
「もちろん! 私、彼女とは大の親友なんだから」
蒼牙は腕を組み、口元で小さく笑った。
(まったく……、正体に気づいてないのはリンクくらいだな)
そして三人は、城下町を歩き回った。
屋台の菓子を食べ、お面屋で様々なお面を買ったり、子どもたちと輪になって遊んだ。
その間、蒼牙は周囲を観察していた。何度か感じる、不穏な視線。
敵意か、それとも……。
(嫌な気配だ。何かが、この国の“運命”を動かそうとしている)
気づけば夜が降りていた。
噴水の水面に、月光がゆらゆらと揺れる。
「……もう夜?」
「早いな」
リンクが言うと、少女──ゼルダは静かに空を見上げた。
「1日……、終わっちゃったね。今日はありがとう……。私、一度でいいから自分でお金を払って買い物したり、遊んだりしてみたかったの。普通の女の子と同じように……」
その言葉に、リンクは照れくさそうに笑った。
「なぁ、名前……名前教えてくれよ。オレ、リンク。また一緒に遊ぼうぜ」
「……私の名前は──」
その瞬間、闇が弾けた。
『蒼牙! 敵襲だ!!』
蒼牙の相棒であるザルバが低く唸る。
屋根の上、路地の影──そこから黒装束の集団が姿を現した。
褐色の肌、鋭い眼差し。双剣を構えた女戦士たち。
「ゲルド族……!」
蒼牙は即座に魔戒剣を引き抜いた。
彼女たちの狙いは明白だった。
「な、なんだおまえら!?」
「娘……、おまえの正体は分かっている。我々に時のオカリナを渡せ!!」
ゲルド族の襲撃者は蒼牙たちのことは眼中になくゼルダの持つ時のオカリナだけを狙っていた。ゼルダは時のオカリナを奪われる訳にもいかず、この場から逃走する。
「逃がすか!!」
「させるかっ!!」
リンクが盾を構えて飛び出し、刃を受け止めた。火花が散る。
蒼牙も剣を振るい、鞘を逆手に構えて双剣の軌跡を弾き返す。その動きは鋭く、しなやかに──まるで闇を裂く閃光のようだった。
「何者だ……貴様ッ!」
「ただの通りすがりだ」
低く答えた蒼牙の瞳に、金の光が宿る。
だが、突如響いた兵士たちの声に、ゲルドたちは退く決断を下した。
「シッ、誰かが来る! 退け!」
彼女たちは影に紛れ、闇の中へと消えた。襲撃者たちはあまり目立つ行動を避けるためにこの場から退散した。
「あっ、待て!!」
リンクが襲撃者たちが逃げたと分かるや否や、後を追いかけた。蒼牙に静止の声をかける前に。
「あの馬鹿……! 一人で行くな!」
そう言って蒼牙もリンクの後を追いかけた。残されたゼルダは後を追いかけようとするも、ゼルダの乳母であるシーカー族の”インパ”がゼルダの背後にいた。どうやらゼルダのことを迎えに来たようだ。
「ご無事でよかった……、城へ帰りましょう」
「はい……」
そうしてゼルダはインパに連れられて元居る城へと戻るのだった。しばらくして戻った二人の前に、ゼルダの姿はもうなかった。
「あれ!? あの子がいない……」
「帰っちゃったのよ、きっと。女の子って気まぐれなんだから」
ナビィがそう言ってる時にリンクがトライフォースの装飾が描かれたオカリナを見つける。この時に蒼牙は時のオカリナであることに気づいた。それを回収し、蒼牙に確認を取った。
「ソーガ。このオカリナ、さっきあの子が持ってたオカリナなんだけど」
「それは時のオカリナだな。森に出る前にサリアからもらったオカリナとは少し違うだろう?」
確かにとリンクが頷く中でナビィは急ぎ城へと向かいたい気持ちだった。
「道草食っちゃった。お城に行こう、二人とも」
「いや、今日はもう遅い。今ので体力も集中力も切れてる。今日は宿で休む。明日、改めて城へ行くぞ」
蒼牙は急かすナビィに反対の意見を入れ、今日1日城下町を回ったため多少の疲れがあった。それとゲルド族の襲撃も含めて疲労が蓄積されていた。回復のために一旦宿で休むことになるのだった。
──続く。