牙狼 異世界黄金騎士伝   作:コレクトマン

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光と影~Light and Shadow~

 ――その朝、ハイラル城の王座の間は、いつになく張り詰めた空気に包まれていた。

 

 高窓から差す光の中、若き姫ゼルダは、父の玉座の前にひざまずいていた。

 

「お父さま、お願いです。あの男に……お会いしたいのです」

 

 ゼルダの声は震えていた。

 

「夢の中に現れました。金色の鎧に身を包んだ騎士が、光を背に立ち、そして――ハイラルが闇に覆われる映像を見せられたのです」

 

 老いた国王は額に手を当て、ため息をつく。

 

「また夢の話か、ゼルダ……」

 

「けれど! あの夢はただの幻想ではありません。あの方の出現こそ、王国に訪れる変化の兆しなのです!」

 

「くだらぬ!」

 

 国王の声が広間に響いた。

 

「今は和睦の時代だ。多少の魔物がいるが、他の種族との戦もない。娘よ、夢などに惑わされるな」

 

 ゼルダは唇を噛みしめ、深く頭を垂れた。父の言葉が正しいと分かっていながら、胸の奥で消えない不安がうずまいていた。

 

 ――あの騎士は確かに存在する。そして、彼と共に立つ少年が……。

 

 ゼルダはそっと胸元に手を当てる。夢の中で見た少年の瞳――あれは確かに現実の光を宿していた。

 

 

 

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 その頃、城の外。

 

 朝日を背に、石壁の影に二つの影がひっそりと身を寄せていた。

 

「なあ、ソーガ……ここ、本当に入れるのか?」

 

 リンクは囁きながら、城の高い塔を見上げる。金髪の少年の額にはうっすらと汗が浮かんでいた。

 

「衛兵が巡回を始めた。……静かに」

 

 白衣をまとう男――蒼牙は低く言い、周囲の気配を読むように目を閉じた。風の流れ、鎧の擦れる音、そして人の心のざわめきまで。そのすべてを感じ取るかのように、彼は動かなかった。

 

 やがて、静寂を破って小さな声がした。

 

「ねえリンク、今だよっ!」

 

 ナビィの声にリンクが反応し、壁際の蔦に手をかけた。

 

「……よ、よいしょっ!」

 

 小柄な体がするりと石壁に這う蔓を掴んで登る。蒼牙はその様子を見上げると、無言のまま後を追った。

 

 壁の上から覗いた先には、警備の騎士が二人。リンクは息を潜め、タイミングを見計らって飛び降りた。音を立てぬよう、草むらに身を滑り込ませる。

 

「ふぅ……ばれなかったかな」

 

「油断するな」

 

 蒼牙が短く答える。その声は低く、鋼のように冷たい。

 

 その時、リンクの足元で風が流れ、草が揺れた。そこには小さな鉄格子――排水口が隠れていた。

 

「ここだ……入れそうだぞ!」

 

「先に行け。後は俺が続く」

 

 リンクは体を丸め、狭い通路に身を滑り込ませた。湿った石壁が冷たい。闇の中でナビィの光だけが頼りだった。

 

 蒼牙も続く。重い白衣が泥に汚れることを気にせず、静かに進む。闇の奥に微かな風の音――地上へと繋がる空間がある。

 

「出口だ!」

 

 リンクが顔を上げた瞬間、地上から淡い光が差し込んだ。二人が這い出たそこは、城の中庭。噴水の音が静かに響いている。

 

 緑に囲まれたその場所で、ひとりの少女が待っていた。

 

 金色の髪に白いヴェールを被り、優しい微笑みを浮かべている。だがその瞳の奥には、年齢に似つかわしくない深い知恵と覚悟が宿っていた。

 

「あ、あの……」

 

「リンク。まだ、私の名を教えていませんでしたね。私は――ハイラルの王女、ゼルダです」

 

「……き、君が……!?」

 

 思わず声を上げたリンクに、少女は静かに微笑む。

 

 その名を聞いた瞬間、ナビィが小さく光を揺らした。

 

 ゼルダは続けて、庭の奥に控えていた蒼牙へと視線を移す。白の重衣をまとい、胸元には黄金の三角紋を左右対称に刻む魔戒騎士。

 

「そして、そちらの方が……」

 

「蒼牙と申します。あなたの国を脅かす“闇”を討ちに来た者です」

 

 ゼルダの瞳がわずかに揺れた。その言葉の意味を完全に理解できぬまま、しかし彼女の胸に一抹の確信が生まれていた。

 

 ――この男もまた、運命に導かれてここに来たのだと。

 

「リンク、姫に精霊石とオカリナを」

 

「あ、そうだ」

 

 蒼牙に言われ、リンクは懐から森の精霊石を取り出して見せ、時のオカリナをゼルダに返すのだった。

 

「これ、昨日あそこに落ちてたのって、ひょっとして……」

 

「ええ、あの時はありがとう、リンク……」

 

「びっくりしたなあもう……そうならそうと……」

 

 そのときゼルダは誰かが来ることを察してすぐに時のオカリナをしまった。すると深い足音が響く。

 

「おお、ゼルダ姫。今、お父上にお会いしてきたところです」

 

 低く響く声。

 

 黒と赤を基調とした鎧に身を包み、堂々たる体躯を持つ男――ゲルド族の王、ガノンドロフが現れた。

 

「ガノンドロフ殿、黙ってこの中庭に入ってくるのは無礼でしょう!」

 

「恐れ入ります。ハイラルの傘下に入ることを許され光栄です。これほど美しい国はない……。姫もその一つでいらっしゃる」

 

 蒼牙とゼルダにとってガノンドロフの世辞は薄っぺらい紙のように軽い言葉だった。信用させるために巧みの言葉で相手を騙そうとする言葉に感じた。

 

「世辞などもうよい。お下がりなさい!」

 

「これは失礼した。では……」

 

 そう言ってガノンドロフは立ち去ろうとする間際にゼルダにあることを聞き出した。

 

「ところで……、ハイラル王家に伝わる”時のオカリナ”とかいう秘宝を、姫がお持ちでいらっしゃるとか……。今度、私に見せていただけませんかな?」

 

「そのような宝物の話は知りません。昨日も荒っぽい人たちに同じことを聞かれましたが……。お知り合いではなくて?」

 

 

 昨日のゲルド族の襲撃者にゼルダは、ガノンドロフの手の者ではないのかと疑心を問い掛けるが「さあ?どうでしょうか……」ととぼける形で返すのだった。そして去り際に彼の視線がゼルダ、そしてリンクへと流れ……そして、蒼牙の姿に止まる。

 

 その瞬間、男の口元に不敵な笑みが浮かんだ。

 

 まるで、長い年月を経てようやく宿敵を見つけたかのような――挑発にも似た笑みだった。

 

「……ほう、見慣れぬ鎧だ。だが、その匂い……懐かしいな」

 

 蒼牙は眉をひとつ動かす。

 

 ガノンドロフの瞳には、ただの好奇ではない、確かな“憎悪”の記憶が宿っていた。

 

 蒼牙はガノンドロフが何を考えているのか分からなかった。ガノンドロフの魂の奥底に、まるで獣のような“喰う闇”を宿しているような感じだった。それを確かめるために一歩、前へ進み出る。

 

「……一応聞くが、お前は何者だ?」

 

「名を名乗るのは野暮というものだが、あえて名乗ろう。……ゲルドの王、ガノンドロフ。お前と私は、どうやら“同じ闇”の淵を覗いた者のようだ。()()()()()()()()()()()()よ。」

 

 その言葉を聞くや否や、蒼牙はより警戒を高めて魔戒剣をいつでも抜刀できるような体勢をとる。

二人の間に電流のような緊張が走る。空気が重く、冷たく、庭園の花弁すら震えるように揺れた。

 

「やめなさい!」

 

 ゼルダの声がその緊迫を裂いた。

 

「ここで争うことは許しません!」

 

 ガノンドロフはゆっくりと一礼し、背を向ける。

 

 その背には、嗤うような殺気が一瞬だけ見えた。

 

「いずれまた、姫。そして……黄金の鎧を纏う異邦の騎士よ。再び相まみえる日を楽しみにしている」

 

 そう言い残し、城の回廊の向こうへと姿を消した。

 

 風が止む。静寂の中、蒼牙はなぜガノンドロフが牙狼の存在を知っているのか疑問が尽きなかった。

 

「何故……奴が牙狼のことを……?」

 

 蒼牙の瞳が鋭く光を放つ。いくつもの疑問を抱えながら……

 

 

 

 ___________________________________________

 

 

 

 庭園の空気がようやく落ち着いたころ、ゼルダは静かに腰を下ろし、リンクの隣に座らせた。ナビィはそっとリンクの肩先で光を揺らし、二人の間に不思議な静けさが漂う。

 

「私、夢を見たのです」

 

 ゼルダはゆっくりと語り始めた。声は震えないが、言葉の一つ一つに重みがあった。

 

「ハイラルが、真っ黒な雲に覆われてゆく恐ろしい夢……。あの雲は、国を覆い、人々の心を暗くし、やがては大地そのものを腐らせてしまうような――そんな景色でした」

 

 リンクは目をそらさず、じっと耳を傾ける。ゼルダの言葉に、彼女が見たものの恐ろしさが滲む。

 

「でも、そのとき──ひと筋の光が現れて、厚い雲を切り裂いたのです。雲が裂けると、緑色に光る石を首にかけ、妖精を連れた人の姿が現れました。――その人のまなざしは、世界を守る強さに満ちていました」

 

 リンクはその描写に息をのみ、声を上げた。

 

「トライフォース!?」

 

 だがゼルダは首を振る。ナビィが小さく囁くように動いた。

 

「最初見た時から、あなたがその夢の中に出てきた人だと、私はわかっていました」

 

 ゼルダは静かにリンクの顔を見据える。

 

「あなたの瞳に、夢の中の少年と同じ光があったから」

 

 リンクの胸に戸惑いと誇りが混ざった熱さが走る。だがゼルダは続ける。

 

「私が見たのは、ただの幻ではありません。あの黒い雲を呼んだのは、恐ろしい“悪意”です。あの男──あの者の思いは、ハイラルを滅ぼさんとしている……そんな気がして……。でも……、お父様は私の話を信じてはくださらない……」

 

 彼女の言葉に、蒼牙の顔が引き締まる。ゼルダは小さく目を伏せた。

 

 ――その言葉は、リンクの胸を鋭く刺した。

 

「オレ、信じるよ。あいつの邪悪な力でデクの樹サマは死んだんだ。」

 

「あの男にトライフォースを渡してはなりません」

 

 リンクは目を見開く。

 

「そのトライフォースって、どこにあるのさ?聖地ってどこ!?」

 

「その聖地の入口は“時の神殿”の中にあります」

 

 ゼルダは少し口ごもり、慎重に続けた。

 

「ですが、その扉は硬い石の壁で固く閉ざされています。開くためには“三つの精霊石を集めて神殿に納めよ”……と、伝えられているのです。そしてもう一つ必要なのが……、王家の秘宝――この“時のオカリナ”なのです」

 

 ナビィがはっと小さく舞い、リンクの手の中の精霊石を照らした。リンクはオカリナと石を見比べ、戸惑いながらも決意を固める。

 

「あと二つ精霊石が……。オレ、そいつを探してくる!!」

 

少年の目はまっすぐで、純粋な決意が溢れていた。

 

「リンク!?」

 

「ゼルダ姫はそのオカリナを持ってて。オレとソーガが必ずあと二つの石を探してここに帰ってくる!」

 

 リンクの決意に蒼牙は口を緩ませるように微笑んだ。ゼルダもまた、リンクの決意に同意するのだった。

 

「え、ええ……リンク。ガノンドロフからトライフォースを守らなくては!」

 

 その時、庭園の遠くに――先ほど去ったはずの影が再び現れるような気配があった。風に乗って、冷たい気配が垂れ込める。

 

 蒼牙の顔色が変わり、視線を向ける。そこで、一瞬だけ、巨大な男の顔が脳裏によぎる。黒い影のように大きく、歪んだ笑みを浮かべる――ガノンドロフの横顔だ。

 

 蒼牙は静かに剣の柄に手をかける。ザルバからは小声で『奴が動いている。気を引き締めろ』と忠告する。

 

 黄昏が近づき、影が長く伸びる。三人の運命が、それぞれの手に託された思いと共に、静かに回り始めた。

 

 ――そして、暗闇の向こうに一つの不穏な笑みだけが、夜を包むように漂っていた。

 

 ──続く。

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