蒼牙たちの今後の方針が決まり、ゼルダからハイラル王家から代々伝わる聖地の秘密を話した。
──遠い遠い昔……、あらゆる生命はもちろん、大地も海さえもまだなかったころ、混沌の地ハイラルに黄金の三大神が降臨した。
力の女神ディン──そのたくましき炎の腕をもって地を耕し、赤き大地を創った。
知恵の女神ネール──その英知を大地に注ぎて世界に法を与えた。
そして勇気の女神フロル──その豊かなる心により、法を守りすべての生命を産んだ。
三大神は使命を終え、天へと帰る時、黄金の聖三角《トライフォース》を残し、そこは聖地となった。
手にした者の願いをかなえるというトライフォースを心悪しき者から守るため、古の賢者たちは神殿を造り、入り口を《時の扉》で固く閉ざした。
「──三つの精霊石を集めし者、ここに立ち、時のオカリナをもって時の歌を奏でよ。さすれば、扉は開かれるだろう……これが、ハイラル王家に代々伝わる聖地の秘密です」
リンクは恐らくハイラル王家にとって大事な話を余所者である自分たちに話してよかったのか少し疑問だった。
「そうなんだ……。けど、そんな大事な話をオレたちに喋っていいの? ゼルダ」
「あなたは、私の“夢”の話を信じてくれたわ。
お父様ですら信じてくださらなかったのに。だから……私も、あなたたちを信じます」
ゼルダの言葉にリンクは”ドキンッ”と一瞬だけ心臓を高鳴らせた。
「イヤ……、オレそんな……」
リンクが照れている中、ゼルダはもう一つ夢に出てきた黄金の騎士のことを蒼牙に話した。
「ソーガ、実は貴方に伝えねばならぬことがあります。私の夢の中で、黄金の騎士がこう言ったのです。
”ハイラルの姫よ……時が来たら、勇者と黄金騎士を導け。彼らと共に、運命を超えよ──”」
「黄金の……騎士? それって……」
リンクが目を丸くし、蒼牙は静かに眉を寄せた。
「ゼルダ姫、その黄金の騎士の特徴は?」
「紅い瞳の狼を彷彿させる兜をかぶった、黄金の騎士でした」
(紅い瞳の黄金騎士……。おそらく、ゼルダが夢で見たのは──かつて“牙狼”の称号を得た英霊……)
ゼルダは蒼牙をまっすぐ見つめた。
「……その姿が、あなたに似ていました」
蒼牙はわずかに警戒の色を見せる。
牙狼の鎧を見た者はいないはずなのに──。
「何故、俺だとわかる?」
ゼルダは小さく首を振った。
「理由は分かりません。ただ……夢の中で“誰か”が囁いたのです。
──“その者、黄金の意志を継ぐ者”と」
蒼牙はしばし黙し、やがて微笑に似た表情を浮かべた。
「……そういうことか」
その時、背後の茂みが微かに揺れた。
「どうやら納得していただけたようだな。黄金の騎士」
「えっ? ……わぁっ!?」
後ろから声がして振り向くと女性がいてリンクが思わず飛び退く。
そこに立っていたのは、黒衣の女性――鋭い紫の瞳に銀灰の髪。
王家に仕えるシーカー族、インパだった。
「……びっくりしたぁっ!?」
ナビィが飛び回る。ゼルダがインパのことを紹介した。
「彼女はシーカー族のインパ。私の乳母です。ねえ、インパ、この人たちが夢で見た“森からの使者”なのよ」
インパは三人を見渡し、冷静に言葉を紡ぐ。
「私はゼルダ様をお守りする者……。おまえたちのことは昨日の城下町でずっと見させてもらった。特にソーガ殿――闇より現れた“怪物”を斬り伏せた、その黄金の光を」
「……見ていたのか」
「えっ?」
「それってホラーっていう化け物のこと!?」
リンクとナビィは自分たちが寝ている間に蒼牙は夜中にホラーを討伐していたなんて気づかなかった。蒼牙は昨日の戦いをインパに見られていたことに内心驚いていた。
インパはわずかに頷いた。
「鎧を纏っていない時の剣技も見事。あれほどの技、ただ者ではない。
姫を守るあなたの剣筋――迷いがなかった」
インパの瞳がわずかに柔らかくなる。
「ならば、私はあなた方を信じましょう。姫の夢が虚ではないと」
ゼルダが息を呑み、静かに頷く。
「ありがとう、インパ……ソーガ、それにリンク」
リンクは照れくさそうに頭を掻いた。
「へへっ、夢を信じてみるのも、悪くないかもな」
――そして、二人と一羽の妖精は聖地の鍵となる精霊石を探す旅へと出る決意を固めた。
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蒼牙たちは残りの精霊石を探すためにこの場を後にしようとした時にインパから炎の精霊石はゴロン族の長“ダルニア”が所有していると告げる。
彼はデスマウンテンの中腹、ゴロンシティにいるという。
リンクは場所を聞いた後は向かう気満々だった。
「よしっ! オレが全部探し出してくる!」
「待てリンクっ、先ずは身支度が先だろうに……」
ゼルダはその様子を見て、まるで兄弟のような二人だと感じ、くすりと笑った。
そして、そっとリンクに顔を近づける。
「その勇気があれば、きっと精霊たちも力を貸してくれるわ。気をつけてね」
そして、ためらいがちに──
彼女はリンクの頬に軽くキスをした。
「っ!? えっ……い、今の……!?」
「あなたの無事を祈るおまじないです」
リンクの顔が真っ赤に染まった。
「おまじ……な、ない⁉」
そしてリンクはまるで風船のように気が抜けた瞬間、その場で猛ダッシュで走り出した。
「ひゃっほぉぉぉ! オレ、世界一幸せだぁぁぁぁ!!」
城内にリンクの叫びが響く。
「ちょ、待てリンク!」
蒼牙が慌てて追いかけ――
ガラガラガシャーンッ!
城の廊下に壺の割れる音が響き、警備兵たちが一斉に振り返る。
「な、なんだ!?」
走り抜ける金髪の少年、その後ろに黒衣の騎士。
「そこの者、止まれぇぇっ!」
「くせものだっ! 捕まえろ!!」
「ちょっと、あたしを忘れないでよ~っ!」
ナビィがリンクを追いかけながら飛び回る。
ゼルダは手を口元に当て、少し困ったように微笑んだ。
「刺激が強すぎたかしら……?」
背後でインパが腕を組み、蒼牙の苦労を知るのだった。
「まったく……ソーガ殿の苦労が絶えぬな……」
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まだ走り続けるリンクをようやく捕まえた蒼牙はようやく肩で息をしていた。戦い以外で疲れるのは二度目の生で初めてであった。
「……はぁ、まったく。いくら何でもはしゃぎすぎだ。気持ちはわからなくもないが、時と場所を考えろ」
「うう、ごめん……でも、なんか胸がドキドキして……!」
『蒼牙、もっと面倒なことになりそうだぞ。主に小僧関係でな……』
ザルバのぼやきどおり、警備兵が蒼牙を包囲する。
「追い詰めたぞ、くせものっ!」
「逃げ場はない、観念しろ!」
一難去ってまた一難と蒼牙は思っていると、そこにインパが現れ、蒼牙の肩を掴んだ。
「なっ、インパ様!?」
「かまうな、この者たちは私が外へ連れていく。お前たちは持ち場に戻れ」
インパの命令で警護兵たちは本来の持ち場へと戻り、再びの警護を全うするのだった。
「黄金騎士、こちらへ……」
「ああ……。壺の弁償は、こちらでしておこう」
蒼牙がリンクが城内を走り回ったことで家宝の壺を割ってしまったことを詫びつつインパの案内で外へ向かうのだった。
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城下町の正門前。
インパはリンク達を連れ出した後に地図を渡し、山頂の方角に指を向けた。インパが指さした方向こそデスマウンテンの山頂だった。
「あれがゴロン族の住む山、デスマウンテンだ。デスマウンテンに向かうには、先ずカカリコ村に向かえ。そこから登る道がある」
「感謝する、インパ殿」
「ソーガ殿、あの“ホラー”という魔獣からハイラルを守ってくれ。そしてリンク……といったな。この国の平和はお前の勇気にかかっている。頼むぞ」
リンクが拳を突き上げる。
「任しといてよ、オバサン!――って、あっ!」
リンクが何かに気づいて城の方を見ると、ゼルダが王城のテラスから小さく手を振るのが見えた。
ゼルダの期待に応えようとより一層気合が入るのだった。
「よーしっ、行こうソーガ! ナビィ!」
「全く……ちゃんと準備してからだぞ、リンク」
「そうよ、準備は大事なんだからっ!」
そのやり取りを見て、インパはふっと微笑み、三人の背を見送る。
「……頼んだぞ」
そう呟いた瞬間、彼女の姿は霞のように消える。
リンクが驚いて振り返る。
「えっ!? い、今消えた!?」
「……シーカー族の秘伝の技、というやつだな」
蒼牙が淡々と答えた。
青空の下、二人と一匹が並んで歩き出す。
遠く、黒々とそびえる山──デスマウンテン。
デスマウンテンに向かう準備として城下町で道具やらを買いに行こうとすると、ザルバから
『蒼牙……どうやら
「番犬所……だと?」
番犬所とは魔戒騎士を束ねる協会のような存在で、一般人には行けない異空間にある。この世界にも番犬所が存在していたことには驚かされたが、重要なのはこの世界の住人でもあり、歴史のターニングポイントの重要人物でもあるリンクを番犬所に連れてくるような指令は初めてだった。
リンクを招き入れる本当の意味はいったい何なのか、今の蒼牙には知る由もなかった……
──続く。