牙狼 異世界黄金騎士伝   作:コレクトマン

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医術~CURE~

 ──数日前。リンクと蒼牙がまだハイラル城へ向かっていた頃のこと。

 

 平和なはずのカカリコ村に、突如として“伝染病”が広がっていた。

 村の医師や薬師たちが次々と倒れ、村は不安と恐怖に包まれていた。

 

 その中には、旅の途中で病を癒やし続けてきた一人の医者もいた。

 彼もまた、病を治すために尽力しながら感染し、自らも倒れようとしていた。

 

「ハァ……ハァ……この際、悪魔でも何でもいい……せめて私の代わりに……まだ見ぬ病に苦しむ多くの人たちを……救って……くれ……!」

 

 その叫びに呼応するように、彼の持っていた“医術書”がひとりでに開いた。

 そこから立ち昇る黒い瘴気が、異形の影──ホラーを呼び出したのだ。

 

 ホラーは旅医者の身体を見下ろし、薄く笑う。

 

「……貴様の願いは、私が叶えてやろう。もっとも──大の虫を生かすために、小の虫を喰らうがね」

 

 その瞬間、医者の身体に黒い炎が走り、ホラーが憑依する。

 やがて、その医者は再び立ち上がった。

 だが、その目にはもはや人の光はなかった。

 

 

 

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 カカリコ村に到着した蒼牙たち。村の入口に立った蒼牙が、瞳で辺りを見渡す。

 人の姿はほとんど見えず、戸口は固く閉ざされていた。

 

「……ホラー以前に、伝染病が猛威を振るっているようだな」

 

『お前さんの身体はある程度の免疫を得られてはいるが、感染するかは運しだいだな』

 

 そうザルバに告げられたところでリンクはデスマウンテンに向かう前にホラー討伐を行うことになった蒼牙にどうするのと聞き出した。

 

「どうすんの、ソーガ?」

 

「まずは情報を集める。……それに、この村には“薬師”がいるらしい」

 

 蒼牙は村で情報収集しつつも村を見て回るのだった。

 

 村を回って見てみると、ある広場に十数人くらいは入れそうなテントが建てられていた。テントの隣に建てられている看板には“薬師”とハイラル語で書かれていた。

 

 そこから患者が出てきて深々と頭を下げた。中には、カラスの嘴を模したマスク──ペスト医師の姿が見える。

 

「おや、新しい患者ですか?」

 

「いや、旅医者がいると聞いて来た。あなたが?」

 

「そうでしたか……、私は”ファルム”。各地を転々とし、病を治療しつつ医学を広めるしがない医者です」

 

 ファルムと名乗る医者は、どうやら世界を回りながら病に苦しむ者たちを助けているようだ。それも無償でだ。医者してはそれで大丈夫かと思うが、それとは別に資金を確保しているので大丈夫とのことだった。

 

 柔和な声で答えるファルム。彼は報酬を受け取ることもなく、治療を続けているという。

 その善意に満ちた姿は、誰が見ても“聖人”に見えただろう。

 

 ──だが、蒼牙の中では小さな違和感が燻っていた。

 

 話している間に診察者が来ていることに気づいた蒼牙たちは、診察の邪魔にならない内にテントから出るのだった。

 

 

 

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 蒼牙たちはカカリコ村の宿屋で一泊している中、ファルムがいるテントで男性がファルムの治療によって伝染病が完全に治って、ファルムにお礼を言った。

 

「先生のおかげですっかり良くなったよ。ありがとう先生!」

 

「いえ……もともと人は、体内に病を治す物質を生成し、自ら治癒する。医者はその手伝いをしているだけなんです」

 

「は、はぁ……」

 

 何やら専門学の用語を言い出したファルムに男性は少し困惑した。そんなことはお構いなしにファルムは言葉を進める。

 

「そしてその体内で生成される物質……それはまた、美味!」

 

 するとファルムは人間とは思えぬ速さと男性の頭を掴み、逃がさぬよう固定した。

 

「せ、先生!? な……何を!?」

 

「そう……ちょうど今の貴方の様な治りたての頃合い……この瞬間の味は格別なんですよ!」

 

 男性は悲鳴すら上げる暇もなく、ファルムによって喰われるのだった。

 

 

 

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 その翌日、リンクは体にある違和感を覚えた。左腕に赤い点々ができていたのだ。痒みなどはなく何時ついたのか不思議だった。

 

「何だ? この赤い点々……?」

 

 このことを蒼牙を伝え、左腕を見せる。蒼牙は医学に関しては疎いためにすぐにファルムのもとに訪れ、リンクを診断させた。

 

「これは……伝染病の”赤点病(せきてんびょう)”ですね。今カカリコ村が蔓延している病です。初期症状として体のどこかに赤い斑点ができるのです。放っておけば斑点が全身を蝕み、高熱と頭痛、寒気と体全身に痛みが発する病気です。最悪の場合死に至る可能性のある病気です」

 

 そう診断されたリンクは青ざめた。コキリの森で育って以来、病などは一度もかかったことは為にショックが大きかった。そんな病にかかるなんて思いもしなかった。蒼牙は赤点病が記憶の片隅にあった天然痘と一部似ていると思った。ナビィは伝染病に感染したリンクが助かるにはどうすればいいのかファルムから聞き出した。

 

「大丈夫です、赤点病に対しての特効薬があります。これを初期症状のうちに服薬すれば治ります。ですが感染防止のため、一日はこのテント内で過ごしてもらいます」

 

「二次感染を防ぐためか……」

 

 ファルムの診断により、リンクは赤点病が治るまでテントに入院することになった。この時にナビィもリンクを見守るためにテントに残った。蒼牙はファルムに礼をいったあとテントから離れ、ザルバにある確認を取った。

 

「ザルバ、奴をどう見る?」

 

『ああ、奴は間違いなくホラーだろうな。それも変わった喰い方を好んでやがるとみた。“治療”を口実に喰らう異端の類いだ』

 

 やはりと思った蒼牙。なぜ魔導ライターを使用しなかったのはテント内の化学薬品に引火する可能性と、昼間に騒ぎを起こしたくないからだ。ザルバの言う変わった喰い方について聞きだした。

 

『奴は診察に来た患者が治りたての者しか喰わんのだろう。行方不明者の大半がファルムの治療によって治った者が忽然と姿を消している。それも、一日に一人ずつだ。その辺りはガルムの情報通りだな』

 

 こうしてファルムが憑依されたホラーであることが確定し、夜のうちに仕掛けることにした。

 

 

 

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 夜更け、ファルムは医術書を開き様々な病に関する情報を記載し、のちの後世へと病に対する医術書として残すために記載していた。記載が終わった頃にリンクの状態を確認しに訪れるとナビィはまだ起きていたのかファルムにお礼を言った。

 

「先生、ありがとう! リンクの病気を治してもらって!」

 

「いえいえ、私としても医者として当然のことを。ましてや……ゴロンシティに向かうあなた達なら猶更……」

 

 ──その一言に、ナビィの表情が凍りつく。何故ナビィたちの目的地をファルムが知っているのか。

 

「……どうして、それを──」

 

 問い詰めようとした時にファルムは籠でナビィを捕まえ、地面を蓋代わりにしてナビィを閉じ込めた。

 

「ちょっと!? 何をするの!?」

 

「すみませんね。私の食事の邪魔をされては困ると思いまして、しばらくそこに居てもらいますよ」

 

「食事って……まさか!? リンク、起きてっ! 目を覚ましてっ!!」

 

 ナビィはファルムが医者でありながらとんでもない奴と思ったのか大声でリンクを起こそうとするが、リンクは眠ったままだ。ファルムはゆっくりとリンクに近づく。ペストマスクの嘴の部分が口のように開き、その奥からファルムの顔が出てくる。

 

「フフフ……おおむね予定通り回復している。今宵はじっくりといただくとしよう……。この最高のディナーを……!」

 

「リンク! 起きて、起きてよ!? ソーガ、ソーガッ!!」

 

 ナビィの叫ぶが、そんなこともお構いなしにファルムはそのままリンクを捕食しようとしたその時、ファルムの肩を掴む者がいた。

 

「悪いが、貴様にリンクを食わせる訳にはいかない」

 

「……ッ! ソーガ!」

 

 そして蒼牙はファルムをリンクから引きはがすように奥へと放り投げた。その衝撃で書物や医療器具などが散らばった。ファルムは受け身を取っており、すぐ起き上がり蒼牙の方を見た。

 

「魔戒騎士か……」

 

「このカカリコ村の住民や他のところでも患者をかたっぱし……いや、一日に一人ずつ喰っていたとはな」

 

「ええ、その通り。私は喰らう人間は一日に一人と決めている。暴飲暴食は体に悪いですからね!」

 

 ファルムの言葉の後に医療器具が浮かび、そのまま蒼牙の方へと飛んで行った。蒼牙は魔戒剣を引き抜き、剣と鞘で飛んでくる医療器具を叩き落とした。

 

「私が喰らう人間の数よりも、私が病や怪我から助ける人間の数の方が遥かに多い。それでも私を……?」

 

 理由と同機はどうであれ、ファルムは患者を救う数は喰らう数より遥かに多かった。そこの言葉は事実だろう。しかし、この世界にとって異物であるホラーである以上討滅しなければならないのもまた事実だった。蒼牙の答えは既に決まっていた。

 

「貴様の助けがなくとも、人は自ら困難を克服する。それを信じ、守り続ける。それが魔戒騎士というものだ」

 

「そうですか……その頑固な頭は治療できそうにないですねっ!!」

 

 ファルムの身体が本来のホラーとしての身体へ姿を変え、そのまま蒼牙に襲い掛かる。蒼牙もファルムの攻撃をいなし、外に出る。ファルムも同様に蒼牙を倒さないとリンクを捕食できないと判断し、蒼牙の後を追った。

 

 

 

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 リンクは外から響く金属音で目が覚めた。テント内は何者かが襲撃されたかのように荒らされていた。リンクは周りをよく見てみると、映ったのは──小さな籠の中に閉じ込められたナビィの姿だった。

 

「ナビィ!? 大丈夫か!」

 

「リンクっ! 早く出して!」

 

 リンクは慌てて籠を上げてナビィを解放した。事情を尋ねると、ナビィは息を荒くして答える。

 

「あのファルムって男、ホラーだったのよ!」

 

「ホラーだって……? まさか……人間に憑依してるのか……!」

 

 リンクの知るホラーは、以前ゴーマに憑依していた個体だけだった。まさか人間にまで取り憑く存在がいるとは──。

 彼は剣と盾を手に取り、蒼牙の元へ急いだ。

 

 その頃、蒼牙は牙狼の鎧を纏い、ホラーと対峙していた。

 ザルバによれば、その名は──メディクルス。

 胸部に薬棚を備え、骨格が露出した異様な姿。ファルムが被っていたペストマスクを思わせる、医師のようなホラーだった。

 

 蒼牙はホラー・メディクルスに攻撃するも、メディクルスがその傷に何かを塗ると傷口から緑色の光が発光し、傷が治っていったのだ。

 

「何っ!?」

 

『こいつ……傷が治っていきやがる!』

 

「これぞ、私の持てる知識と技術を結集して作り上げた秘薬! 天才だっ! 私は天才医師だ!」

 

 その秘薬を塗った効力が効き、メディクルスの傷の直りが早かった。するとメディクルスの身体の薬棚から先ほどの塗り薬をしまい、黄色い液体が入った注射器を取り出し、自らの身体に注入した。瞬間、筋肉が隆起し、痩せ細った身体がみるみるうちに膨れ上がっていく。

 

「おお、みなぎる……みなぎるぞおお!!」

 

 するとメディクルスのスピードが格段と上がり、一気に蒼牙の間合いに入り拳で打ち上げる。

 

「がはぁっ!?」

 

 拳が蒼牙の腹部を突き上げ、そのまま上空へ吹き飛ばす。

 追撃。メディクルスは空中で蒼牙を待ち構え、再び拳を叩き込んだ。

 

「ぐっ……ああぁっ!」

 

「「ソーガ!!」」

 

 激しい衝撃で地面が抉れ、鎧が強制解除される。

 血を流し、地に伏す蒼牙の姿が現れた。

 

「ぐっ……まだ生きてるよ」

 

『マズいぞ蒼牙! 今のお前の怪我じゃ、勝ち目は無いぞ!』

 

「分かってる……! だが、それでも……」

 

 蒼牙の口から血が吹き出した。どうやら内部にまでダメージが入った様だ。するとメディクルスが蒼牙の状態を確認するかのように近寄った。

 

「頭部……及び左腕前腕と右腕上腕部に裂傷、右脚橙部不全骨折。内臓もやられている……」

 

 蒼牙の状態をそう告げるメディクルス。その時、まるで禁断症状に陥ったように苦しみだした。

 

「うぅ、おお……があぁぁあっ!? 治したい〜っ!?」

 

「「「……はっ?」」」

 

 まさかの治したいという発言に蒼牙たちは唖然とした。この時にザルバはメディクルスの状態を見てある考察が浮かび上がった。

 

『おいおいっ……こいつ、まさかと思うが……』

 

「だめだ……どうしても我慢できない……!」

 

 ザルバの考察通り、メディクルスは医者の本能に逆らえずにいた。そして蒼牙の了承を取らずに勝手に蒼牙の治療を始めた。

 

「お、おいっ!? な……何をするんだっ!? 痛っ……!」

 

「大人しくしていろ……今、楽にしてやる……!」

 

「な……なあナビィ? ホラーってこういう奴みたいな存在がいるの?」

 

「知らないわよっ!? そんなこと、私に振らないで!?」

 

 リンクとナビィが確認しあっている中、メディクルスの手際の良い治療で応急処置を終えるのだった。

 

「フム……強力すぎて人には使えないが、魔戒騎士ならば……」

 

 するとメディクルスの薬棚から一本の注射器を取り出し、それを蒼牙に突き刺して注入した。

 

「ぐっ! ……ああっ!?」

 

「……っは! ソーガ!」

 

 唖然としていたリンクはすぐに我に返り、剣でメディクルスを切りつけるが、一切の傷がつかなかった。

 

「そんな……攻撃が効かないなんて!?」

 

「リンク……そいつらホラーは魔戒剣、或いは退魔の剣でないと倒すことはできない!」

 

 蒼牙は立ち上がりながらリンクに告げる。リンクは大怪我している蒼牙を見て驚いていた。今の蒼牙は傷のきの字すらない状態だったのだ。

 

「ソーガ!? 怪我は大丈夫なのか!?」

 

「ああ……奴に打ち込まれた薬の影響か、怪我が完全に治った。骨折している部分も含めてだ。しかも、何かしらの身体強化の類の薬が混じっていたのか力がみなぎっているんだ」

 

 蒼牙の言うように頭から流れていた血が消え、まるで傷がなかったような状態になっていたのだ。

 

「これこそ、私が知識と技術を結集した秘薬の一つ! 青の薬をベースに身体強化の成分を含んだ薬と調合して出来た”紫の薬”! 欠点はその薬の効力が強力すぎて人には使えないことでしょう。しかし、魔戒騎士の様な身体能力が高い人ならば効果は絶大! もう少しこの薬の研究が進めば普通の人が服薬しても大丈夫なレベルまで至るでしょう!」

 

 旅医者の知識を最大限に活用したことを誇らしげに語るメディクルス。もうどう言葉を掛けるべきかリンクとナビィは唖然とした。

 

「だからか……どおりで力がみなぎる訳だ」

 

「そう、私に治せぬものはない。さぁ、仕切り直しです!」

 

「……後悔するな」

 

 そう言いながら蒼牙は魔戒剣で円を描き、ゲートを生成して鎧を召喚する。そして今もまだ薬の効力が残っている内に攻撃を仕掛けた。

 

「……ハァァアアアッ!!」

 

 その攻撃したところはメディクルスの薬棚だった。薬棚を破壊したことでメディクルスの回復手段が絶たれるのだった。

 

「グハッ!? グゥゥウウッ……何ということを!!」

 

 薬棚を破壊されて怒り狂うメディクルスは指先から医療器具を出し、それを蒼牙に向けて弾丸の様に放った。蒼牙は牙狼剣で医療器具を弾きながらメディクルスの首めがけて振るい、その首を断った。

 

「ハァッ!!」

 

「グギャァァァアアアッ!!?」

 

 斬首されたメディクルスの首が転がり、やがて黒い霧となって四散し、残った体も同様に黒い霧となって四散する。蒼牙は鎧を解除して、今回の戦いを振り返った。

 

「……くそっ。まさかホラーに治療されるとは思いもしなかった」

 

『あれは例外の類だ。あまり気にするな、蒼牙』

 

 蒼牙は小さく息を吐き、夜空を見上げた。

 こうして、カカリコ村に潜んでいたホラーは討滅されたのだった。

 

 ──続く。

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